遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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残酷な描写あり


2.藍飼育因尾自防頬伏.

 魔法少女は捨て駒である。

 近接は突っ込んで死ぬまで戦い、遠隔は守りなく死ぬまで戦う。背後に守るべき市民がいるから、大事な人達がいるから──何より死んでも問題ないから。

 魔法少女は死兵である。

 怪我も欠損も気にせず突っ込んできて、己が有する【魔法】によって化け物の討滅を成す。それはあるいは、他の魔法少女を巻き込むモノであっても──敵を滅するためならば忌避せずに行使する。

 魔法少女は、けれど少女である。

 その精神はまだ、いたいけな少女なのだ。

 

 

えはか彼

 

 

 梓・ライラックとして生を受けたのは13年前。まぁ今13歳なので当然なのだけど、当時はびつくりぎゃうてんしたものだ。だって前世の俺は43歳のおじさん。中年も過ぎ行かんとしていた頃合いに、ちょいと色々あって気が付いたらばぶーばぶー。

 自身を取り囲う大きな人間達──まァ俺が小さくなってたって話なんだが、その巨大さに当時は恐怖したものだ。ガリバー旅行記もびっくりな縮尺だったからな。

 んでもまぁ俺も現代っ子。と言えるほど流行に乗れてるわけじゃあなかったが、異世界転生系っちゅー概念があるのは知っていたもんで、割合すんなり受け入れる事が出来た。割合すんなり受け入れて、割合すんなり幼稚園と小学校に通った。

 いやさ、ベンキョーで無双してやろう、とかは一瞬考えたけど、数学はともかく他の科目はてんで違うでやんの。歴史は勿論だけど、この国の言葉、あと魔法があるせいで物理法則も違うし、だから理科も違う。

 あ、コレは真面目に勉強しなきゃダメだな、と気付けたのが小学一年生の頃で本当に良かったと思う。ラクショーラクショーとか思ってたら真面目にやばかった。特に薬学……ポーション関係の調合知識は、エデンでは知っていて当たり前の知識であるため、すみません知りませんじゃ話にならない。

 

 とはいえ、おじさんが子供に戻ったのである。

 いやさラッキーというか、遊ぶ時間の多いこと多い事。前世と違う媒体のゲーム機やソフト、アニメーションも楽しめて、効率よく仕事、じゃねぇや、お勉強して、適度に友達付き合いをして。

 これが20代前半くらいまで続くんだろ? サイコーじゃん、とか考えていたのも束の間。

 

 中等部に上がってすぐに、「君には魔法の才能があるよ」と来ての──コレ。

 捨て駒にして死兵。エリート職というか、国防の要であるからお給金はたんまり貰えるものの、お仕事は常に死と隣り合わせ。いやまァ俺が魔法少女になったことで家族の家格も上がって色々恩返しできたっつーのはすげー嬉しいんだけどさ、なんでまた中等部から仕事三昧になんなきゃいけねーのかって話。

 だから割とサボる。魔法少女は解雇とかされないので、どんだけサボっても内申点が落ちるくらいで問題ない。D~SSSの等級の中で、一応殺傷能力がピカイチってんで最低から一個上のC級を頂いて、国家防衛機構・浮遊母艦EDENで優雅な暮らしを――。

 

「あー! いました! 梓さん発見ですの!! 皆さん! いましたのよー!!」

「ホントだ、あんなとこにいる」

「どうやって昇ったんだ……? アイツ、飛行魔法は使えないはずだが」

 

 ……きゃいのきゃいのと煩い声が下方から。

 

 ここはエデン。魔法少女育成学園エデン。あァそうそう転生は転生でもTS転生で、俺ぁ今女の子で、魔法少女しかいねー学園だから当然女子校で。

 パラダイスって程パラダイスな職場じゃないが、腹ァ探んなくていい純朴な子ばっかでおじさん楽しいよ。お節介な子とか純粋過ぎて扱いづらい子とか除けばみんな優しくて良い子だしな。

 

 さて、エデンは構造として浮遊する逆三角錐にでっけぇ城が乗っかってる、みたいな形をしている。中央に一番高い塔──学園長なるヒトがいる塔と、それを囲う五つの監視塔。監視塔はちょいと外縁部に突き出してて、下にある国に近づく敵がいないか見張ってる。

 おじさんはその監視塔の上にあるちまっこいスペースにパラソルとデッキチェアを置いて、優雅なバカンスと洒落込んでいたワケですねぇ。見つかったが。何故分かったこんな僻地。

 

「よ、っと」

「うぉ!?」

 

 どうしようかなー、降りようかなー、無視しようかなー、とか考えていたら、このちまっこいスペースに降り立つ存在が一人。よ、っと。なんてかんるい感じで来てくれちゃいましたけど、俺がここまでパラソルとデッキチェア運ぶのにどんだけ苦労したと思ってんだ。俺ァお前達みたいな亜空間ポケット使えないんだぞ。

 なァんて文句を言う暇もなく、パラソルをしまわれる。金髪ロールお嬢様もそうだけど、どうしてこう他人のモンを勝手に奪いますかね。毎度毎度買ってんだぞ自腹で。まぁ毎回買っても特に問題ないお給金は貰ってんだけどさ。

 

「……これだから近接は」

「お前も一応近接の括りだろう、梓」

「私の得物知りません事ォ? 銃ですよ銃。拳銃とスナイパー。どーみても遠隔でしょォ」

「魔法は嘘を吐かん。何なら今この場で手合わせするか? お前が近接である理由は一目瞭然になるが」

「手合わせしたら死ぬじゃん何言ってんの」

「別に、一人が死んだ所で問題ないだろう。今日は遠征に行っている奴もいないしな」

 

 青い籠手を腰に括りつけ、結構深いスリットの入った緑と白の衣服を纏うながーいポニテの少女。

 なんでもないことかのように言う"問題ないこと"に、少しばかり顔を顰めた。

 

「ああ……すまない。梓は苦手だったか。人死にが」

「好きな奴がいるかいね。で、何用さ。今の時間、授業は無いはずだけど?」

「授業は無いが実技演習がある。毎日の予定表を全て把握しているお前が知らぬはずがない。私達の班はお前を入れて一つだ。故に全員でお前を捜索し、連れ戻しに来た」

「私ァ今休んでんのよ。いいじゃん、いなくてもどうにかなるでしょ」

「演習項目は全員の連携力の向上及び市民奪還時の動き方について、だ。簡潔に言うとお前が来なければ私達の演習は始められない。故に私達は演習項目が達成できず、それぞれの成績に傷跡を残す。それでもお前が休みたいと言うのなら仕方がない。潔く諦めよう」

「連れてって~」

「ああ。姫抱きでいいな」

「なんでなンッ!?」

 

 人質って奴だ。いやさ確かに、俺のせいでみんなの成績に傷をつけるのは良く無いね。失敗だった。

 でもさぁ、マジで真面目に俺いらんのよ。連携力の向上と市民奪還時の動き方について、にさ。どうして【即死】が役に立つっていうんだ。そもそも五人の班で俺以外が全員A級以上。動きについて行けも何も、早くて見てらんねーちゃん。

 

 あとお姫様抱っこは本当に止めて欲しい。

 近接だから身体能力高いのはわかんだけど、知ってる? お姫様抱っこって上からの支えないからピョンピョン跳ねての移動だと結構浮遊感あって怖いんだよ? 

 ちなみにお姫様抱っこ自体はおじさんもう慣れちゃった。エデンに来てからみんなしてくるんだもんな。みんな俺より身長高いんだもんな。別に妬ましかねェけどさ、でけぇのにヒョイと持ち上げられるのは割と怖いんだぜ。

 

「あっ! あっあっ、ミサキさん! 変わってください! 梓さんを抱っこするのは私の役目ですの!」

「拒否する。さ、とっとと行くぞ」

「あ~!!」

 

 これまた下の方でお嬢様が叫んでいるが、こっちァそれどころじゃない。

 戦場をヒョイヒョイ跳ねまわる近接魔法少女はやっぱちげーというか、エデンのクソ高い屋根やら外壁やらを、俺を抱いたままに飛び回るのだ。姿勢を崩すことなく、明らかに垂直な壁に止まったりしながら……いやこえーのよ。安定感あるから逆にこえーのよ。

 

「そんなに震えるな、梓。今回は演習だ。死人は出ない」

「嫌なフラグを立てるねェ」

「フラグ?」

 

 いんやさ、そんなこと言ったら起こりそうじゃん。

 演習中に異例の何かが、とか。突然化け物が湧いて出て、とか。

 そんで演習がガチの実戦になる奴。俺ァ知ってんだぞ。流行には疎いつったって限度があるからな!

 

 んでまぁ、ぴょいぴょいしてって、辿り着いたのはエデンの外。つか下。

 市民のいる街を囲う外壁の外。廃墟。なんだ、化け物の湧きポイントが近いせいで人の住めなくなった土地、って感じ。

 そうそう、化け物には突然湧いて出る奴と湧きポイントが決まってる奴がいる。先日の午後の森とかは後者で、その前の触手の化け物とかは前者。基本的に前者の方が強い。強いというか対処しづらい。研究されて無いからな。

 で、今回の演習はその湧きポ固定の化け物相手に連携しての攻撃をするのと、市民に見立てた人形を放り込んで無傷で奪還しろ、っちゅー奴なワケね。

 

「……A班。ギリギリだったな」

「はい」

「……縁に感謝しろ、ライラック。今回はお咎め無しだ」

「んじゃありがたく」

「それは感謝とは言わん」

 

 ちなみにこの担任といいあの指揮官といい、エデンには大人の魔法少女がいる。

 というのも、"魔法少女"が発現する年齢は人に寄ってまちまちで、エデンの学園長のように老婆の時点で成る者もいれば、5歳とかの時点で発現する者もいるのだと。

 んで、魔法少女になると肉体の成長が止まる。歳を取らなくなるワケで、だから見た目の年齢と魔法少女歴はイコールで結ばれないし、それこそが俺の掲げる陰謀論……魔法少女実は蘇ってるんじゃなくてクローン説を押している要素の一つなワケである。掲げるっつって言葉に出したことは無いんだけどさ。

 

「よし、ではA班。点呼を取る。ミサキ・縁」

「はい」

「シェーリース」

「はい」

「ユノン」

「此処に」

「梓・ライラック」

「うい」

「そして班長、フェリカ・アールレイデ」

「はい!」

 

 以上五名がA班と呼ばれるグループ。上からA、S、A、C、SSの等級となる。

 わかるかね。この場違い感。キャリーオブキャリー。Cて。A以上の班にCて。

 

「この廃墟群東の家に、あらゆるものを溶かすスライムが群生している。それを、どんな手を使っても良い。消してこい。ただし、建物を破壊するような行為は禁止だ」

「わかりましたの」

「それが終了したら、私の所へ戻ってこい」

「了解ですの!」

「よろしい。では行け!」

 

 担任の言葉と共に、散ッ! って感じで一斉に走り出すみんな。

 ちなみに俺はまだ降ろされていない。俺の足で走ってもみんなに追いつけない、なんてのは担任もわかっているので何も言われない。

 

 しかしさぁ、いる場所がわかってて、対策法も知られているとはいえ、あらゆるものを溶かすスライム、なんてのを演習に取り入れんなよ。あぶねーだろ。都合よく服だけ溶かすスライムじゃないんだぞ。マジであらゆるもの──魔法で強化された人肌だろうと骨だろうとグズグズに溶かすスライムなんだぞ。

 ポニテスリットは演習だから死人は出ない、とか言ったけどさ。出るよ多分普通に。近接連中が突っ込んでいって溶かされながら悲痛な悲鳴上げて死ぬよ。やだよオジサン女の子が溶けるの見るの。

 

「安心しろ、梓」

「何が」

「私達は強い。この学園に来た時よりもさらに強くなっている。お前が死を忌避するというのなら、死にはしない。お前を悲しませるくらいなら、死なない方法を取る。それでいいだろう?」

「……怪我も無しで」

「ははっ、それは確約出来ないな!」

 

 笑いごとじゃないんですよ。

 死なない方法を取る、って言ってくれるのはめっちゃ助かる。ちょっとキュンと来たくらいには助かる。でも怪我をするな、って言葉に笑いを返すあたり、本質的な理解をしてくれてないのもわかる。怪我をする。苦痛を負う。欠損を背負う。死ぬ。それらは等価に嫌だ。俺自身もだし、みんながそうなるのも嫌だ。

 蘇るから死んでもいい。蘇るからケガしても良い。

 なんだそれ。倫理舐めてんのかコノヤロー。

 

 や、でもホントにちょっとキュンと来たよ。おじさんだけど。

 やめてほしい。本来なら俺が前に出て守ってやるべき年齢だろうに。いや魔法少女歴しらねーけどさ。

 

 ……強く、ねぇ。

 

「ミサキさん、梓さん! あの建物ですの! ──先行しますわ!」

「あ、ちょっと」

 

 あのお嬢様、担任の話聞いてたんだろうか。

 連携力を高める演習だってのに、一人で片づける気だぞアレ。

 

「続く」

「参ります!」

 

 神速のお嬢様に続くのは、背中メッシュ(シェーリース)太腿忍者(ユノン)。建物の中では不利としか言えない魔法を持つ背中メッシュ。建物の破壊禁止命令が出てるので閉所じゃ上手く戦えないだろう太腿忍者。どう考えてもどうにかこうにか屋外に引きずり出して戦え、って話だろうに、なーんで突っ込むのか。

 しかもあの二人近接じゃねェのにさぁ。

 

「私達も行くぞ、梓!」

「いやちょい待ちちょい待ち、一旦外に引きずり出してから──」

 

 作戦とすら呼べない一般論をぶつけようとした──その時。

 

「あ゛あ゛あ゛ぁッ!?」

「い──ぐ、ぁ……!」

 

 ……後から入った二人の、それはもう苦痛を知らせる悲鳴が轟いたのであった。

 

えはか彼

 

 

 ポニテスリットに湧きポから向かいの廃墟に降ろしてもらい、彼女は突撃。まァポニテスリットは近接だからわからんでもないんだが、背中メッシュと太腿忍者はどうしたもんか。

 愛用の2-4倍スコープで廃墟内を覗く。

 覗いて、後悔した。

 

「……だから言ったのによォ」

 

 背中メッシュは肘から先を、太腿忍者は、その片方の太腿を――溶かされている。当然そこからの流血は止まらず、苦痛も苦痛だろうに、額に脂汗を浮かべながら自身の魔法を放とうとする姿は……なんつーか、もうちょっと自分を労われよ、っていう。

 死んでも問題ないから、痛いのも一時の我慢、という考えが根付きすぎている。あんなん慣れるはずがないのに、それを忌避する魔法少女があまりにも少ない。いるにはいるんだけどな。ちゃんと痛みを恐れる奴も。

 

 SRを使う距離でもない。だから拳銃を取り出して、狙いを定める。

 あらゆるものを溶かすスライム──アシッドスライム。色は黄色と緑。本来の討伐法は全身をぶっ潰したり消し飛ばしたりするか、どっかにあるコアを破壊する……なんだけど、部屋中に群生したアシッドスライムはどこがどれなのか、どのスライムがどこに繋がっているのかが分かりづらい。恐らく背中メッシュはその魔法【神鳴】で大規模殲滅を、太腿忍者は【光線】で貫通討滅を図ったのだろうけど、どちらも遠隔故にチャージが必要で、その隙を突かれて纏わりつかれてぐじゅるじゅる、ってカンジだろうなぁ。

 【神鳴】なんざそもそも使えたのか怪しい。この廃墟普通に天井あるし。

 今は太腿忍者が本来の戦い方……魔法少女に目覚める前から忍者だったという忍者スキル、手裏剣投げと苦無投げを駆使して迎撃を行っているけれど、そこはあらゆるものを溶かすスライム君、全部飲み込んで溶かしてしまっている。ジリ貧って奴。

 そんな太腿忍者は片足を失っているので、肘から先を失った背中メッシュが肩を貸し、どうにか建物外へ逃げようとしている……みたいな状況。

 

 二人を逃がすために殿を務めるはポニテスリット。彼女の魔法は【波動】。全身から振動を発する事の出来る近接魔法少女で、拳や蹴りから対象に触れる事無く打撃を与えられる。まさに今回みたいな触れちゃいけない系の相手に有効な魔法の持ち主であり、連携としてはまず彼女が行って、スライム達を大通りに吐き出してから、全員で叩く、が理想形。だと思うんだよなぁ。

 ちなみにさっきからチラチラと視界に入る金色の線。そして忽然といなくなるアシッドスライムの一部。

 それらはお嬢様の仕業だ。その得物とて溶かされないわけではないのだろうに、恐らく最小限の被害で留めながら殲滅を行っている。

 

 ……これなら確かに、出来はするのだろう。

 目標の達成。連携力もクソもへったくれもあったもんじゃないが、SS級の殺傷能力とA級の殲滅力によって、課題はクリア、になるのだろう。

 

 果たしてそう上手く行くもんかなぁ、というのが今のおじさんの懸念。

 SS級一人いればどうにかなる、なんて状況を演習に使うとは思えないのだ。今はヘマした二人のためにポニテスリットも出ているが、お嬢様一人でもなんとかなっただろうこの演習。さてはて、隠し玉は何か。

 

「……梓、お願い」

「ふぅっ、ふっ……お願い、します」

「──もしかしないでもさ、殺せ、って言ってんの?」

 

 なんとか。

 なんとか、こうにか、どうにか。

 俺の所へ辿り着いた二人が──俺に懇願する。

 だくだくと流血し、顔は蒼白、目には涙と、もう見るだけで痛々しい二人が言うのだ。

 俺に。

 銃を持った俺に。

 

「お願い、します」

「痛くて──たまらないから、どうか」

 

 殺してください、と。

 

「……馬鹿が。ヤだよ。つか多分、まだ終わってない。痛むだろうが止血する。それで保って数分だろうけど、まだお前達には役目がある」

「……わかり、ました」

「ふぅ、ふぅ──ッ!」

 

 止血用のポーションというものがある。ほら、欠損部位を焼いて止血する、みたいなのあるだろ、ドラマとかで。あれのポーション版。振りかける事で周囲の皮を集め、傷口を塞ぐ。皮膚が引っ張られる事による苦痛が発生するし、欠損が酷すぎれば皮が足りずに終わる、なんてことも少なくはない。ただこの分なら大丈夫だ。

 

「ゥ──ァアアアア!!」

「ヅ、ぐ……!」

 

 どちらの方が痛いのか。

 全身を溶かされて死ぬ痛みと、全身の皮を引っ張られる痛み。

 ……知らんな。知りたくもない。

 とにかく、俺に殺人を強請ってきた二人は痛みにのたうち回るも、一命は取り留めたらしい。といっても出血量が出血量だ、そう長くはない。輸血云々じゃなく、失った部位が大きすぎる。だからこの二人は、この演習がどうなろうとも死ぬ。それは確定。

 はぁ。やだね。やだやだ。

 なんでそんな危険な演習にさァ。しかも──殺してくれ、なんてさ。

 

「おぉいお嬢様! ポニテスリット! 一旦戻ってこい!」

「はい戻りましたわ梓さん!」

「……その仇名、やめてくれと何度言ったらわかるんだ?」

 

 流石は近接、呼びかけたら一瞬で戻ってくる。お嬢様の方は一瞬どころじゃあないが。

 

 そして、俺の後ろで苦痛に喘ぐ二人を見た。

 

「やはり、殺してはやらないのか」

「ヤだってば。つかダメなんだよ。多分殺しちゃだめだ。お嬢様一人でアレを殲滅するのもNG。多分っつか絶対、遠隔魔法少女の力が必要になる場面が来る」

「ほう」

 

 だからちょいと離れて観察を――と言おうとしたところで、それは起きた。

 もうタイミング良過ぎるだろってツッコミたくなるタイミングだ。タイミングオブタイミングだ。タイミングインタイミングかもしれない。

 一匹のアシッドスライムが、湧きポの外に出る。

 即座に半分ほどにまで溶かされた剣を構えるお嬢様を制し、観察を続ける。

 二匹目。三匹目。四匹五匹……そのままどんどん、増えて行く。

 

 スライム達は。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、そこから出てくる。

 

「ポニテスリット、飛来する酸を弾くのも出来ると見て良いよな?」

「ああ、可能だ」

「お嬢様も防御で頼む。後ろの二人のチャージが終わるまでの」

「わかりましたの」

 

 まだ荒い息を吐く二人に振り返って──少しばかり強い口調で言う。

 この班のリーダー俺じゃねェけど、ま頼むわぁ。

 

「お前らは、今できる最大火力の充填を開始してくれ。目標は廃墟の上方。出来るか?」

「……了解、です」

「最大火力……チャージ開始……」

 

 遠隔魔法少女の弱点はこれだ。

 自分を守る術がないのと、魔法を撃つのにチャージ時間を必要とする。戦場のように前衛がバンバン戦ってくれりゃ問題ないんだが、単身では自身の安全を完全に確保してからでないとヤバイっつー。近接は有る程度自分を魔力でコーティングできるし、そもそもが拳に炎纏わせて爆発させる、とか、クソでかい剣を創り出して斬る、とかだから問題ない場合が多い。その代わり捕まったらジ・エンドなんだけど。

 

 さて。

 

「アシッドスライムが、どんどん融合して行きますのね」

「ああ……これは、スライムが天敵や強敵を前にした時に行う防衛法の一つだな。融合し、巨大になり、威嚇兼リーチを伸ばす、あとは食われづらくする、か」

「私達を天敵認定した、というワケではなさそうですわね」

 

 大きくなっていく。大きくなっていく。

 アシッドスライムが、あらゆるものを溶かすスライムが──大通りにて、大きくなる。既に湧きポには一匹もいないのだろう。あるいは新しく湧いた者も融合したか。

 その大きさは、俺達のいる廃ビルを超える程。黄色と緑の円柱──それが、竜巻のように立ち昇る。

 ぶるりと震えるだけで、酸が飛び散る。此方へ来るものはポニテスリットが【波動】で弾き、他の建物へ向かうものはお嬢様が叩き切る。建物の破壊は禁止だからな。

 

「チャージ、そろそろ……」

「あれに、撃てば……」

「いや、違う。もうちょい待ってくれ」

「ッ……!」

 

 つらいだろう。痛いのだろう。

 すまないとは思う。お前等が悪いんだぞとも思う。だからやめてくれ、その悲痛な顔を見せるのは。心が痛くて仕方がない。

 この世界に【治癒】や【回復】といった魔法を持つ魔法少女は存在しない。

 故にこその、俺、なのだろうが。

 

 知った事か。

 

「──来るぞ!」

 

 それは金切り声に近かった。女性の悲鳴を彷彿とさせる、キィィイイという声。

 遠方。上方。高空。

 スライムに目があるのか知らんが、巨大になった円柱スライムもそちらを向いている。

 

 そこに、いた。

 そこに、来た。

 

「天鷲!? S級の魔物ですのよ!?」

「なるほど──アシッドスライムは、餌か!」

 

 超、超、超巨大な──鷲。

 赤黒い羽毛はいっそうに化け物感を出していて、昏く妖しく光る眼が、ソレを完全に捉えている。

 即ちアシッドスライム。研究者らによると、強靭な喉や胃袋を持つ天鷲等の鳥系化け物はスライムを美味しくいただくらしい。炭酸ジュース的な感覚で。クソどうでもいい考察ありがとう教本に載ってた研究者。

 

「今だ、ぶちかませ!」

「──!」

 

 天鷲がアシッドスライムに食いついた──その瞬間に、チャージを終えた二人の魔法が飛ぶ。

 太腿忍者の【光線】は一条、真っ直ぐに。スライムと天鷲の咥内を頭蓋に至るまで貫き通し、背中メッシュの【神鳴】はその巨体へ轟雷を落とす。片やA級、片やS級の魔法だ。効くだろう。つか死ぬだろう。

 

 ぐらり、と倒れてくる酸性の円柱。

 

「ポニテスリット、頼む!」

「ああ──」

 

 それを弾くは、【波動】の魔法。俺達の周囲に張られた振動の壁は、半固体であるスライムを通さない。

 

「っ、もいっかい……!」

「おい、そんな無理しなくても」

「どうせ死ぬなら──最後まで!!」

 

 これで終わりだと思った。神速のお嬢様でも無理な量の酸が落ちてきてしまうため、多少の損壊は仕方がないだろうな、なんて思いながら守られていたら──背中メッシュが、再チャージを始めたではないか。

 ……その傍らに横たわるは、血の気の無い顔の太腿忍者。その胸はもう、上下していない。

 

 なんでだよ。

 友達がさ、仲間が死んで、そんなに怒るならさぁ。

 最初から死なない方法を取れよ。ヤだろ、身体が痛いのも、心が痛いのも。

 

「【神鳴】──!!」

 

 落ちる。落ちる。

 神なりし怒槌が落ちる。それはアシッドスライムの円柱を的確に貫き、蒸発させる。ポニテスリットの【波動】ギリギリのラインを攻めたその一撃は、S級らしくアシッドスライムを完全に消滅させた。

 完全に、だ。

 こちらの被害はない。

 

「……任務、完了」

「まだですの!」

 

 呼気と共に、言葉と共に。

 神速お嬢様の姿が掻き消える。次の瞬間、彼女は天鷲の上にいた。

 

 そう、口腔から頭蓋を貫かれて尚──再び羽ばたかんとしていたコレを、地へと叩き落さんがために。

 

「あず、さ」

「──」

「がんばった、から──ころし、て。もう……つらい」

 

 言う。背中メッシュが言う。

 両腕の肘から先を失くした彼女が、涙を浮かべて。

 死ねないと。痛いのに死ねないからと。

 

 死にたいと。殺してくれと。

 

「やってやれ、梓。このまま、というのは……可哀想だ」

 

 神速お嬢様への援護、なんてのは必要ない。

 今まさに背景が如く視界の端っこで天鷲を細切れにしている最中だ。あちらは問題ない。

 

「梓。頼む」

「ッ……!」

「あずさ……ごめん、ね」

 

 ポニテスリットが、背中メッシュが、言うのだ。

 俺に彼女を殺せと。最後の最後まで頑張った彼女を殺せと。自分をどうか。

 

 どうか──救ってくれ、と。

 

「……馬鹿が。痛いのが嫌なら、初めから無理すんじゃねぇよ」

「うん……ごめんね」

 

 彼女に。

 触れる。

 

 ただのそれだけで──彼女は倒れた。背中メッシュ。その仇名の通り、背中を大きく露出させた少女が倒れる。俺の元に、ぱたりと。

 

 事切れた。

 

「終わりましたの」

「ああ。すまないな、手伝えばよかったのだが」

「いいえ、問題ありませんわ。それより……大丈夫ですの、()()()

 

 天鷲を殺し終えて戻ってきたお嬢様が気遣うのは、俺。

 あぁ──本当に、ヤだ。嫌な世界だ。

 

 救いになるんだ。

 俺の【即死】は、回復も治癒の魔法も無いこの世界で──苦痛に喘ぐ少女らを、苦痛なく殺す手段として。

 全魔法少女にとっての、救いなのだ。俺の【即死】こそが──唯一の。

 

「大丈夫だ。背中メッシュと太腿忍者と合流してから、担任の元へ行こう」

「……いや前から思っていたのだが、あだ名安直すぎないか?」

「変身中の魔法少女は衣装が変わらないんだ。安直で良いだろ」

「私だけ服装で呼ばれてないのは疎外感を覚えますわ……」

 

 そんな、雑談を。

 ……ごめんな、二人とも。気を遣わせてしまって。殺してしまって。救えなくて。

 

 強く……ねぇ。

 

えはか彼

 




登場人物
A班
名前【魔法】等級
フェリカ・アールレイデ【神速】SS
シェーリース【神鳴】S
ユノン【光線】A
ミサキ・縁【波動】A
梓・ライラック【即死】C
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