遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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22.泥土有脳邸須糸?

 どこか、酔っているような。

 昂揚感に包まれている、気がする。

 けれど、その問いに。冷静メイドの問いに──俺の本心は、ようやく決まった。

 

()()

「──」

「あァ、あァ。そうさ。そうだな。私のコレによって、更なる死が訪れる可能性は十二分にある。私が殺すってだけでも嫌なのに、私のせいで死ぬってな、最悪だ。なんなら虹色ロングだって私のせいで捕まったようなもんだ。アイツ、自分は逃げれただろうに、私ぶん投げて手ェ振ってよ、私を逃がしたんだ。あー。あァ、そうさ。そうだな。そうだったわ。そうだよ」

 

 違うんだって。

 違ェんだって。

 

「ああ──耐えられねェに決まってんだろ、馬鹿が。だから、そォなんねェようにすんだよ。アホか。死を嫌ってんだよ。死ぬのが嫌なんだ。今ここで嫌った結果、大勢が死ぬのは嫌だ。けど今アイツらが死ぬのも嫌だ。お前が死ぬのも嫌だ。お前が死ななかったせいで、私が死を止めたせいで、EDENの奴らが死ぬのは嫌だ。国が、国民が、いやさそこにいる家族が死ぬのも嫌だよ。全部嫌だ」

「……では、どうしますか」

「決まってンだろ、んなこた」

 

 決まってる。最初から、ンなこた決まってらァよ。

 

「救うんだよ。アイツら救って、国もEDENも救うんだよ。死なんか手段にすんじゃねェ、馬鹿が。クソ野郎共が。死んだから救われるモンなんざクソ食らえだ。失う事で得られるモンなんざハナから求めてんじゃねェよ」

「……悲観的になりすぎるな、とは言いました。ですが、理想だけでは現実は変えられません」

「何言ってんだてめェ。あのな、暴走繭が傷付いたのは、お前が効率を取ったからじゃねェぞ」

「それは」

「お前が傷付いたからだよ。お前も、お前の姉も、その隊の面々も。暴走繭の前で苦痛を背負ったから、傷付いたから、アイツはあんなにも戦場を怖がってんだ。死んだから、アイツはあんなにも苦しんでんだ。お前が効率を取る、って選択を取ったから、じゃねェんだよ」

「同じことです。私が効率を取った結果、私は苦痛を負い、死にました。故にエミリー様は」

「違う。もういいや、お前達の信条とか理念とか知らねェから今ここで理解しろ。お前にどんな意思があったのか、お前にどんな思惑があったのか、なんざ関係無ェんだよ。残された奴が何を思うか、だ。死を前に、苦痛を前に、それを選んだ奴の気持ちなんざどーだっていい。何の決意があったのかとか、どんな理想を追い求めてたのかと、心の底からどうでもいい」

 

 どうでもいいんだよ。

 俺が。俺が。お・れ・が!

 

 俺が嫌だって言ってんだよ。

 俺が嫌だって言ってんだよ。

 

「暴走繭は、お前らが傷付くのが、死ぬのが嫌だったから、あんだけ傷付いたんだ。結果的に更なる死を生む、だァ? うるせェな、嫌に決まってんだろそんなコト。クソどうでもいい事言わせやがって、頭来た。じゃあ聞くがよ、お前は暴走繭がああなるって知ってたら、どんな作戦を取ったんだよ。暴走繭たちと話し合って決めた作戦に同意して、効率を取ったお前は、暴走繭の心が傷付くって知ってたら何をした」

「……出来得る限り、誰も傷付かない方法を取りました。それが──非効率だとしても」

「なんでだ。事態は緊急を要してただろォし、魔法少女なんだ、死ぬのも仕方ないンだろ」

「エミリー様に傷付いてほしく無いからです。……そして、私も。この途方もない罪の意識を、背負いたくはない」

「そこに緊急性ってのは介在すンのか。暴走繭の心を傷つけたくないって思いによ、罪悪感を背負いたくないって逃避によ、事態の緊急性ってのァ、その非効率な手段を取る事で、EDENが危険に晒されるかもしれねェってなっても、今さ、今。今その場にいたら、どォいう行動を取るよ。全部が終わった今、もしやり直せるとして。お前は何をするよ。何を優先するよ」

 

 んなことは、聞くまでも無い。

 

「エミリー様を優先いたします。……いえ、それ以前に、作戦から見直すでしょう。あれなる魔物をどう近づけないか。我々に被害を齎さぬ方法で、且つ迅速に。あの作戦は、犠牲を前提にしすぎていた。効率などとは言いましたが、もっとあったはずです。もっと──もっと、作戦と呼ぶべきものが。呼べるようなものが」

「そォさ。犠牲前提の作戦なんざクソ食らえだ。死が前提の作戦なんざ化け物共に食わせておけ。アイツらを殺して解放する、だァ? 三日待つ、だァ? ──なんでだよ、オイ」

 

 俺ァ何のためにA級にさせられて、この任務に就かされたんだっけ? あ?

 俺のために身を挺す護衛を死なせねェため、だっけ。はン、お笑い種だな。なんだよ死なせねェためって。んなネガティブな話があるかよ。

 

 そもそも死なんてモンを近付けねェのがベストだろ。

 なんで無策に無謀に敵陣に突っ込ませたんだ。アホか。アホだろ。

 

「シエナ」

「はい」

「アンタ、私達を連れてクルメーナまで行けるか? 近くの海に放り出すでもいい。私ァ片腕でも泳げるからな」

「……可能か不可能かで言えば、可能です。ですが……」

「危険です、って? はン、何言ってやがる。腕つけて行く頃にァ敵の準備も終わっちまってるかもしれねェだろ。まさか思わねェよ、逃げた直後に戻ってくるなんざ。あァ腕は完成したら持ってきてくれってマッドチビに言っといてくれ。運びたくねェってんなら、冷静メイドに頼む。いけるか?」

「行けます」

「へェ、小娘の口の悪ィ要領を得ねェ説得に頷いてくれるたァ思わなかったよ」

「此度の私の任務は、遠征調査ではなく、ライラック様を敵に奪われぬよう守る事です。私がここで死した場合、貴女は単身敵地へ突貫する事が考えられます。それでは任務失敗です。故に私は死にません。貴女が敵地へ向かうと言うのならそれについていき、貴女の盾となり矛となります。何か問題はありますか?」

「問題は無ェよ」

 

 あァさ。

 なンだ? どんどん楽しくなってきやがる。迷宮で感じた昂揚感だ。

 どんな条件でこォなってんのか知らねェが、いいね、調子がいい。

 

「……わかりました。貴女方二人をクルメーナまで運びます。加え、戦闘にも参加させていただきます」

「ン、いいのかよ。マッドチビの命令無視にならねェか?」

「主ディミトラを救いに行くのでしょう? 何故、私が手伝わないと思われるのでしょうか」

 

 はン?

 いいね、いいじゃねェか。

 なんぞか、覚悟の決まった目ェしてやがる。

 

「んじゃ行くか。挨拶は要らねェな。多分、今から敵地突っ込むっつったら"貴女を殺すわ"とか言ってきそうだし」

「言わないわよそんなこと。はいこれ。とりあえずの簡易義手。あっちの義手の改良は続けておくけれど、隻腕じゃバランスも取りづらいでしょ。あと、中に入っていた薬草やら水筒やらも出しておいたから」

「……おォ、マッドチビ。いつからそこにいたんだ」

「なにそれ。変なあだ名つけるのね、貴女。まぁいいけど。いつからそこにいたとか、気にする時間ないんでしょ? いいから行きなさいよ。私、馬鹿って大好きなのよ。私もとんだ彫金馬鹿だから」

 

 すんげェ、悪ィ笑み浮かべたマッドチビが。

 俺達の──そして、シエナの背中を押す。

 

「いってらっしゃい。無理して小難しい事考えてるだろうアッチの私と、敵。全部ぶっ飛ばしてきて。殺す殺さないは任せるわ。勝手にして。ただ、一応助言になるのかしらね。私の技術で作り上げたガーゴイルを【即死】させても、精神体が死ぬ、というわけではないわ。ちゃんと肉人形の方も殺さないと死なない。精神体っていうのは結構特殊でね。自身に最も適合する肉人形が無くなって初めて死に至り得るのよ。つまり」

「ガーゴイルは殺しまくって、どォにかアイツらの肉体確保すりゃ問題ねェってことだな?」

「そういうこと」

 

 おいおい、なんでそんな希望隠してたんだよお前。

 いんやさ、いいね。いいね。風が吹いてきた。

 

 この昂揚感含めて──向いてる、って感じがする。

 

「行ってきます、主ディミトラ」

「ええ。頑張りなさい、シエナ」

 

 シエナが、俺と冷静メイドの胴体を抱く。

 ──耐G覚悟!

 

「発進します!」

 

 ──……覚悟で、どうにかなる、もんじゃ。

 

えはか彼

 

 高速飛行の寒さでちったァ冷めた頭で、少しばかり考える。

 今の俺ァ、確実にオカシイ。昂揚感も口数も性格も、一段階も二段階もアッパーになっている。それこそパッパラパーになっている気はする。迷宮でもあったことだけど、どうにもこう……打倒せんとするものが難しければ難しいほど、気分が上がる……とかか?

 ……そんな熱血漢じゃないが。

 

 さっきの冷静メイドとの話し合いでもちょいちょい出てたが、感情論に寄りすぎている気がする。

 暴論が過ぎる、というか。押しが強すぎる、というか。

 俺ァもとから感情で押し切るのが多いタイプだけど、それにしたってどォにも……なんだ、幼児退行している、とでも言えばいいか。幼い暴論と幼い感情論で押し切るのが多い、気がする。

 

「冷静メイド」

「なんでしょう」

「次に私が、明らかにおかしくなっても、止めないでくれ。多分、大丈夫だから」

「……? はい、わかりました」

 

 クルメーナで俺含め全員が無策過ぎた、ってのもオカシイ事の一つ。多分、そういう魔法が使われているだろォってな納得している。

 けどこれは……今の俺のおかしさってな、悪いモンじゃねェ気がすンだよな。

 

 どこか、暖かい、というか。

 何かに──見守られているような。

 

「もうすぐ、戦闘用ガーゴイルによる空域警戒網に突入します。梓・ライラック様、ご命令を。いかがいたしましょうか?」

「決まってらァよ。強硬突破だ。だがシエナ。アンタが壊れる事は許さねェ。気合で避けろ、全部」

「了解いたしました」

 

 拳銃を握る。

 この高速移動の中だ、狙いを付けられるかどォかは怪しいが、あんだけいるんだ、適当でもいいだろう。

 

 早速尖り前髪に言われた事破っちまうな。

 明らかな強敵だが──はン、攻撃させてもらう。

 

「接敵します!」

 

 来た。

 わんさか、だ。それはもう、めいっぱいの、これでもかってくらいの──ガーゴイル。

 そいつらに向かって拳銃を乱射する。

 威力上げてもらったンでな、石くらいなら貫かずともめり込ませられる。破壊力じゃなく、硬い外皮を貫通し、内部に入り込む事を目的とした弾丸も、この状況にァもってこいだ。

 一応迷宮のゴーレム種の耐久性基準にしてンだぜ、ちったァ堪えてくれると助かるンだが──。

 

「ハ──効くなァ! ありがてェ、安藤さん! 流石の腕だ!」

 

 適当に乱射したそれの一発が、ガーゴイルの一体に当たった。

 その瞬間──ガーゴイルが、ぼろぼろと崩れ落ちる。単なる銃弾なら一発で砕ける威力じゃねェのは明白だ。実際当たった瞬間はほっとんど破壊は起きて無かった。

 けど、崩壊する。カタチを保てなくなって──崩れ落ちる。

 

 死んだんだ。

 ガーゴイルが死んで、中の精神体が抜けた。人形は鉱石に戻った。

 

「シエナ、オーレイア隊の面々が入れられるとしたら、どんなガーゴイルだと思うよ」

「確証はありませんが、魔法少女の精神体はああいった尖兵に入れられる事は少ないかと思われます。必ず敵に、あるいは偽の主ディミトラに。それらの役に立つような場所に配置されるかと」

「ン? 精神体側は魔法使えねェんじゃねェのか?」

「使う事ができないのは魔法少女の固有魔法です。【鉱水】、【侵食】、【即死】といったもの。ですが、魔力そのものを操ることはできます。故に魔力を扱うガーゴイルは、高度な知性を有している魔物か、魔法少女の精神体が封入されていると考えてよろしいかと思われます」

「成程。んで、逆に──肉体の方は、化け物共が使ってると。魔法はソッチに使われる、ンだよな?」

「主ディミトラの場合はそのようでした。主ディミトラの肉体を操る何者かは、意のままに【鉱水】を操ります。私が探る事が出来たのはここまでです。私の存在自体は主ディミトラの過去作だと思われていたようなのですが、制御権がないことや私の調査行動から不信感を持たれ、それ以上の調査ができていませんでした」

 

 撃つ。撃つ。撃つ。

 脅威とは認定してくれたのか、無策に突貫してくる個体はいなくなった。遠距離攻撃持ってねェみたいだからな、近付けば死だって思って、それを怖がってくれるなら──そんなにいい事は無い。

 制御権だのなんだので統率されてる尖兵じゃなく、そいつァ単なる生物だ。それなら、俺だってやりようがある。

 

「ライラック様。右舷後方に突撃個体です。三叉槍を持ったガーゴイル──対処いただけますでしょうか」

「あァよ!」

 

 殺意。それを感じなかったンで一切気付けなかったけど、冷静メイドがよく見ていてくれた。

 ……待て、殺意がない? 一応クルメーナにいるマッドチビを守るために外敵を迎撃する部隊、ってな感じじゃねェのか。

 迎撃に殺意が乗らねェ、なんてことあるか?

 

「的中。お見事です」

「まァ横だの縦だのに動かれなきゃな。まっすぐ向かってきてんならちったァ狙いも定めやすい」

 

 あの迷宮で、殺意──それも、俺が即死するレベルの攻撃になら、俺の直感みてェなのは必ず発動した。尖り前髪の【飛斬】でもそォだ。お嬢や太腿忍者との訓練で俺のコレが発揮されなかったのァ、アイツらに俺を本気で殺すって意思がないからだ。多分。その攻撃自体は即死級だったとしても、本気でヤる気が無いんなら俺は気付けない。

 それと、同じ。

 

 つまるところ──アイツらも嫌々付き合わされてンな?

 中の化け物の精神体。魂ってやつァ、制御権とやらに無理矢理従わされてるだけで、化け物達はもう解放されたがってるンじゃねェか?

 それは、敵の魔法少女に使われ始めた時から、だけじゃなく──マッドチビに魂引っこ抜かれて扱き使われた時から、なンだろう。

 

 ……化け物に同情するほど俺にァ余裕無ェけどさ。なんか、な。

 

「見えました! クルメーナです!」

「外から入り込むンじゃ化け物に囲まれちまう。門番だのなんだのもいるだろうしな。だから、屋根に取り付いて直接あの部屋にまで行きたい。シエナ、偽ディミトラや敵の魔法少女ってなあの部屋にいると思うか?」

「いえ、私の調査中、件の敵の魔法少女、というのに出会うことはありませんでした。島内にいるとすれば新しく作られた隠し部屋、あるいは主ディミトラの蘇生槽にいるものと思われます。主ディミトラの蘇生槽はクルメーナの最下層にあります」

「過激無口が言ってた上と下の危険な気配の一つだろォな」

 

 問題は、どう入り込むか、だ。

 流石にシエナに突っ込めってなキツい。壊れちまう可能性が高い。

 あの人工島は見るからに耐久性能高そォだからな。魔法でぶち抜くにもキツそォだ。

 

「ライラック様。ここは私が」

「なンかできンのか」

「あの屋敷の壁材がなんであれ──【侵食】し、人体に置き換えます。そこを私が貫き、穴を開けますので、突入してください」

「……人体ってェのは」

「ご安心ください、ライラック様。生きたものは作りません。では、お先に失礼いたします」

 

 シエナの手から離れた冷静メイドが、飛行魔法を用いてクルメーナに突撃する。一応援護として近づくガーゴイルを撃ちつつ、その様子を見る。シエナと俺は少しばかり速度を落とし、穴が空くまで待機。つってもガーゴイルは避けるし殺すんだが。

 

 クルメーナに建てられた、マッドチビの屋敷。

 鉱石の意匠が美しい屋敷の屋根の一角に──肌色ができる。人二人が入れるくらいの面積のそれ。皮、だろうか。冷静メイドの手を当てるそこに、肌色の区画が出来て、恐らくはソレが内部にまで浸透していっている。

 世界に己を【侵食】させ、自己に変質させる魔法。

 

 こえーな、ホント。

 

「っ……あれァ、骨、か?」

「はい。形状的に、女性の大腿骨です」

 

 手を離した冷静メイドが、同じく屋根から引き抜いたのは、真っ白い剣。否、骨だ。

 長く太く、白く──文字通り武骨な骨を持ち、魔力を高める冷静メイド。

 

 そして、それを。

 ──突き入れた。

 

「貫通を確認。突撃します!」

「頼む!」

 

 轟音鳴り響く屋敷に向かい、再度全速力で以て向かうシエナ。その際、冷静メイドとすれ違った。後から来る、という意のアイコンタクトなんだろォけど、この速度の中目ェ合わせてくんのはこえーって。

 後屋敷の穴にべったりくっついた、元の材質に戻っていく際中の──皮。

 こえーよ。こえーってこの魔法。アイツもだけど、怖すぎるだろ。

 

「反魔鉱石の壁も無いようです! 梓・ライラック様!」

「あァよ──もう油断はしねェからよ、突っ込んでくれ!」

 

 その懸念は一応俺もしてたんだが、無いらしい。

 ま、反魔鉱石ってなそこまで量が取れるモンでも無いらしいからな。【鉱水】での攻撃手段としちゃ有用も有用だが、耐久性高めるために壁材に、ってなな使い方はしねェってこったろ。

 ……となると、アイツらの肉体ってなそこには無い、もう化け物の魂が入れられたってことにァなんだろォけど。

 

「着地の衝撃に備えてください!」

 

 グン、と凄まじい衝撃が身体にかかる。

 言うのちょっと遅いよ。

 

 なンて泣き言も言ってらンねェんで──あァ、そこに降り立った。

 久方ぶり、って感じはしねェ。さっきぶりだ。ハハ。

 

「周囲に熱源反応2。──警戒を」

「大丈夫だ、気付いてる」

 

 あン時、偽マッドチビの座っていた椅子。

 そこに二人──いた。

 前屈姿勢でしゃがみ込んでいる、二人。

 

 委員長と過激無口だ。

 

「──ぅ?」

「ぁ──」

 

 こちらに気付いたのだろう。

 振り返って、立ち上がって──犬みてェに、四つ足で。

 

「ぅ──ぁぁああっ!」

 

 突然、とびかかってきた。

 

 

 

「ッ、シエナ、殺すなよ!」

「了解いたしました!」

 

 流石にンなわかりやすい攻撃は避けられる。

 身体強化も使ってねェとびかかりだ。そのまま、地面に着地しても四つ足のまま……舌をだらんとだして、涎がダラダラ垂れて。

 血走った目は、餌を見るソレで。

 

「化け物の精神体って奴か」

「そのようですね」

「ン、冷静メイド。来たか」

 

 俺の後ろに降り立った冷静メイド。魔力量含め、消耗はほとんど無さそォだ。外のガーゴイルに攻撃されねェか心配してたんだが、コイツも近接魔法少女の一人だからな。俺が心配するまでもねェっちゃねェんだろゥ。俺なんかより、遥かにつえーだろォし。

 

「殺さずの拘束をご所望ですか、ライラック様」

「あァよ。まさか、ここまできて事態の緊急性だのなんだの説かねェよな」

「貴女とは議論にならないと判断できましたので、問題ありません。【侵食】を用い、拘束します」

「……人体の【侵食】ってなァ、元に戻ンのか?」

「元には戻りますが、細胞に甚大な断裂を与えてしまいます。ので、他の手段で拘束いたします」

 

 冷静メイドが近くにあった銅像に触れる。

 それが──ざァ、と。流れるように崩れた。

 

「……髪か」

「はい。これによる拘束後、【侵食】を解くことで、鉱石の強度を持った紐が出来上がります」

「いいね。つか、案外汎用性のある魔法だな、それァ」

「ありがとうございます。ですが──彼女らの、主にケトゥアン様の【槍玄】を使用された場合、破られてしまう事が推測されます。また、フェニキア様の【引力】にも十二分の注意を。あれなる者達が彼女らの魔法を十全に扱い熟せるかは未知数ですが、警戒に越したことはありません」

 

 言いながら、そのサラッサラの髪を渡してくる冷静メイド。

 ……女性の髪を持って戦うとか、俺ァ色々と思うとこあるよ。感触は完全に髪の毛だ。そォいう魔法だから当然なンだが、いやさ、怖い怖い。

 

「【侵食】によって変質している間は単なる毛髪です。耐久性能はお察しを。私の手にある内は強化も可能ですが」

「私のコレァただの髪の毛だから、拘束すンならちゃんと弱らせてから、ってこったろ」

「はい」

 

 新しく現れた獲物。あるいは敵に、様子見をする素振りを見せていた二人。……いんやさ、二匹。

 けれど、それも終わったのだろう。

 

 うう、ああと──ゾンビみてェな唸り声をあげて。

 

 再度、来た。

 

「まずは──食らえよ」

 

 発砲する。

 獣みてェに向かってくる委員長に向かって、拳銃を撃つ。

 

 それを避ける委員長。よし、屍兵ってなモンじゃァねェな。怪我も気にせず、とかなら色々とあったが、コイツも生物だ。犬か狼か、はたまた別のモンかは知らねェが、化け物の入れられた、化け物の思考で行動する委員長の肉体ってこった。

 

 視覚神経と脳を強化。

 

 左手の振り下ろし。キチンと揃えられた爪にァ大した殺傷能力は無さそォだが、捕まれるって可能性もある。四足の獣にそォいう択があンのかは知らねェが、避けるに越したことはない。

 知覚強化を下げて行きながら、半歩下がり、上体を後ろに反らす。身体強化はするほどじゃない。大丈夫、避けられる。

 

 避けられた。

 

「ぁあ──ぅぅッ!」

「はン、なんだ、お前まだその身体に慣れてねェな? リーチが足りてねェし、獣の頃より俊敏性も無ェんだ、そんなんだから──私程度に負けちま、」

 

 隙。確実な隙だ。

 腕を振り下ろした後の、身体がどォにもならねェ確実な隙。そこにパンチなりなんなりを入れたらいい。【即死】を使わねェで、身体強化だけの掌底か、マッドチビに貰った簡易義手での拳を。

 

 ──"故にお前はどんな強敵と当たろうとも、攻撃を考えてはならない。回避と防御を徹底しろ。たとえその腕で殴り得る機会が訪れたとしても、たとえその他の手段で……拳銃などで攻撃できたとしても"

 

「ッ、だが別に強敵ってワケじゃ──ッ!?」

 

 思いっきりバックステップ。

 一瞬脳裏を反芻した尖り前髪の言葉を否定しかけて、けれど直感の方が警鐘を鳴らしてくれた。

 今まさに攻撃をしようとしていた──隙だらけの身体に殴りを入れようとしていた身体を引き戻す。

 

「……チ」

「お前ら気を付けろ! こいつら──ちゃんと知性があるぞ!」

「そのよう、ですね!」

「……!」

 

 ゾンビみてェだと思った。身体を十全に扱いきれていない、言葉も持たねェ化け物の魂が入れられているだけだと思った。

 

 違う。

 ちゃんと──ある。

 

「どうして気付いたのか、教えてもらってもいいですか?」

「……演技。完璧。……問題はなかった」

 

 それも。

 それも。

 

 あァ、クソ。なんだって。

 

「梓さん。後学のために、違和感のあるところは直しておかなければいけないんです」

「……勝負」

 

 なんだって──元の人格と同じような言動すンだよ。

 

えはか彼

 

 考えろ。

 その攻撃を避けながらでいい。考えろ。

 

「難しいですね。中々当たりません」

「そりゃ私が避けてっからな。だがよ、教えを乞うってンならこっちからもだ。お前さん、誰だ。私になんて呼ばれてたか覚えてるか?」

「はい? 私はフェニキア・各務ですよ。委員長というあだ名をつけてもらったフェニキアです」

「そォかい。しかし、なんだってそんな攻撃すンだよ。──まるで、獣みてェなさ」

 

 そう。

 まだ、攻撃は単調なままだ。

 四足の獣みてェな攻撃。どう頑張ってみても、委員長の動きだとは思えない。

 

「少し前まで獣の肉体にありましたからね、私は。でも、こうして主に魔法少女の肉体を用意していただきました。この身体は便利ですよ? たとえばこうやって──」

「ッ、っとォ!」

「あ、避けないでください。この魔法の素晴らしさを説明しようと思ったんですから」

 

 見えない。触れない。

 だが、何かが近づいてくる感覚はあった。出した瞬間に魔力を感じられたのもでけェ。

 

 あれァ【引力】だな。

 

「お前に使いこなせんのか、そいつァよ」

「使いこなすも何も、私のものなんですから──こういう事もできます」

 

 ──知覚強化。轟音。金属と金属の擦れ合う音。位置は委員長の背後。何かに引っかかって跳ねる音。高速で巨大な物体が移動する音。脚部強化へ魔力を移動。さらに背後に後退を選択。知覚強化を切り、予測される()()()()から距離を取れ!

 

「──!」

「あれ、これも避けますか。思っていたより動けますね。魔法に頼り切りの魔法少女だとばかり思っていましたが」

「はン、残念だがその辺の弱点はしっかり教育されててな。回避や防御に関しちゃ、私ァちゃんとできんだよ」

 

 落ちてきたのは、銅像だ。

 でけェ作りかけのガーゴイル。それに、多分予め【引力】の紐をつけてたんだろォが、引っ張ってきてコッチにぶつけてくるってな、多分委員長の戦い方だな。戦闘ができねェわけじゃねェと言っていた。

 ……いやさ、ちょいとまだ考えてる最中だ。

 言動にちょいちょいおかしな点がある。だが、それにコイツは気付いてねェ。だから多分、記憶を混ぜられてるとか洗脳されてるとか催眠されてるとか、その辺なんだろォこたわかる。

 

 コイツがなんらかの獣の化け物であることは間違いない。だが、その化け物の精神ァ自身を委員長だって思い込んでる。戦い方に獣であった頃との変化はないものの、単純に魔法……【引力】は使えるようになってるし、その使い方もわかる、って感じか?

 ならなんだって人間の戦い方しねェんだ、ってのァ思ったが、別にヒトガタで戦う事の方が優れてるかどォかって判断は俺にァつかねェ。二足で戦うより四足で戦った方が戦いやすいってンならそっちを使うだろう。言うなりゃハイブリットか。どっちが優れてるか、じゃねェよな。

 

「委員長」

「何ですか?」

「銀バングルのことはどう思ってるよ」

「どう、とは?」

「好きか嫌いかさ」

 

 ちょいとカマをかけてみる。

 さて──。

 

「勿論、愛していますよ。EDENへの侵攻も二人で行くことを約束していますから」

「……あァよ、藪つついたら蛇も鬼も出てきたな」

 

 EDENへの侵攻ってな、なんですかィ?

 

えはか彼

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