「殺し、た……の?」
「実力に拮抗が見えるのならば、隙を見せるのは愚策です」
「あっ、く──!?」
余所見をした銀バングルの眼前に、冷静メイドの姿があった。
強化を用いた踏み込み。からの、【白亜】より抜き出した腕を銀バングルの顔に巻き付けて、その【侵食】を解く。
元の【白亜】に戻った腕は、そうであるが故に【白亜】化できない。銀バングルの弱点はソレだ。自らが【白亜】で浸した物質で拘束されると、それ以上の干渉ができなくなる。そんな状況は滅多にないはずだが、まァ、相性が悪かったな。
そのまま銀バングルの身体を【白亜】から抜き出した髪の毛で拘束していく冷静メイド。
そっちから視線を外し、俺ァ──俺の腕にもたれかかる、物言わぬ肉体を見る。
「……魔力検知不可。ですが、心臓及び各器官は動いています。生命活動に支障は来していません。ですが、梓・ライラック様。今のは……」
「ん-」
ふむ。
今の、ってな。なンだ?
昂揚感が抜けちまってる。なンだなンだ。えーと。俺今何した。つかなんかすげー笑ってた気がする。すっげェ楽しかった気がする。
光眼鏡の攻撃を、その【排析】ごと殺して──更なる【即死】を用いた。
だが、何に? 俺ァ何を殺した?
現にこうして、光眼鏡は生きてる。その精神とやらがどォなってンのかは知らないが、意識の無ェ様子で俺の腕の中にいる。
なら、命を奪ったってわけじゃァねェ。だが確実に【即死】は発動したはずだ。
「ライラック様。残府様も拘束いたしますので、その身体をいただけますか?」
「あァよ。……お前は、大丈夫か?」
「問題ありません。戦闘中においてはライラック様の方に異常性が見られましたが、ライラック様はご無事でしょうか?」
「異常性、ね。……あァ、なんぞ昂ってただけだ。今は落ち着いてる。魔力も……ンな減ってねェし」
「あれほど【即死】を連発しておいて、となると、とても効率的な魔力消費であった、という事ですね。訓練の成果なるものが出ているのだと判じます」
「……私もそォ思っとくよ。努力の成果だってな」
光眼鏡を冷静メイドに引き渡し、目の前でまた雁字搦めにされる光眼鏡。
ちょいと怖いのは、光眼鏡の【排析】ってな見えようが見えなかろうが関係なく使えるってトコだ。周囲の空間を押しやる【排析】なら、この拘束も解けちまう可能性がある。
……いや、
「シエナ、冷静メイド。問題ねェんなら、先を急ごう。ここに虹色ロングがいなかったのがちょいと気になる」
「はい。問題ありません」
「私は戦闘に参加していませんので、異常ありません」
よし。
まァ、何が起きたのかはよくわかんねェけど。
多分大丈夫だろう、って確信がある。だから、大丈夫なんだろう。少なくともアレは死んだのだから。
下階へ繋がる階段を行く。
結構下ってきたが、どこまで下がるのかね。
警戒を最大限にしたままその部屋に入って、初めにでた言葉は「は?」なんていう間の抜けたものだった。
「あれ、来たんだ。遅いよー」
「──虹色ロング。お前、一人か?」
「うん。だってオーレイア隊は私以外、みんな倒されちゃったんでしょ? 酷いよねー、五人で一つの隊なのに、二つと二つと一つに分けちゃったら、そりゃ実力も発揮できないでしょ」
「……じゃあよ、それァ、なんだ」
「これ?」
俺が、指を差す。
虹色ロングが、肩を撫でる。
そこに、いた。
四人。一糸纏わぬ姿の、四人。
オーレイア隊の、今しがた倒してきた四人が、そこにいた。
「人形だよ。みんなのお人形さん。欲しいっていったら、作ってくれたんだー」
「そォかい。だが人形遊びにしちゃ、ちょいと悪趣味だな。服くらい着せてやったらどォだ」
「ディミトラは彫金師であって裁縫師じゃないから、作れないってさー。でも、このままでも十分でしょ。──だってみんな、キレイだし」
「本物の肉体は上階で捕まってるぜ。いいのか、助けに行かなくて」
「あれ? もしかしてわかってないの? 上のみんなは偽物だよ。確かにカラダはみんなのだけど、中身は全く別。魔物とイチャイチャなんてしても楽しくないでしょ」
「何?」
まるで。
そんな、まるで。
自分は違ェ、みてェな言い方を。
「──私は裏切っただけだよ、梓」
「ひ、ぁ!?」
「あはは! やっぱいい声で啼くよね、梓って!」
魔法少女の衣装の隙間から手を入れられて、胸を揉まれた。
いつの間に近づいた。いや、んなこたわかってる。
「ちょっと油断しすぎだよ……? はむ」
「や、離れ」
「こっちこっち~!」
耳に息を吹きかけられて、耳を食まれて、それを振りほどこうと腕を振るえば、軸足の太腿に舌を這わせられる。
悪寒が凄い。今までの敵にンなことしてくる奴ァいなかった。勿論味方にも。
つか、冷静メイドとシエナは何やってんだ。助けてくれたって。
「はい、捕まえたー」
「ひぃっ」
「ね、どう? 腕にも足にも身体にも、全然力が入らないでしょ。魔力回すのは無駄になっちゃうからやめた方が良いよ。そんなことしても逃れられないから」
「やめ、さわるな、ぁっ!?」
無様に捕まる。羽交い絞めのまま持ち上げられて、膝の上に乗せられて。その言葉の通り全身に力が入らなくなって、けれど感覚はそのままで──だから、腕を勝手に持ち上げられたり、胸を揉まれたり、腹を弄られたり首筋を舐められたり足をふにふにされたり。
もう、完璧に成すがままだ。【即死】は、ダメ。殺してしまう。
やばい。どうしよう。
助けてくれたっていいだろ、ふたりとも。
「無理無理。今二人はみんなと戦ってるからさ。ね、梓。ローグンさんとメイドさんがやられていくとこ、特等席で見ていようか」
「ん、ぅ……」
「ふふふ……赤ちゃんみたいでかわいい」
ようやく視界に、二人を捉えることができた。
ああ、本当だ。さっきのオーレイア隊の人形たちに寄って集られて、ふたりが苦戦している。何をしているんだろう。あれはただの人形なんだから、壊してもいいんだから、いつも通りの、本気で戦えばいいのに。
「ね、梓。今って捕まっちゃって、どうしようもない状況なんだよね。……だから、変身解いていいよ。実は変身するだけで、魔法少女の衣装を維持するだけで、少しずつ魔力って減っていくんだよ。EDENは
「そう、なのか。……わかった」
言われた通り、変身を解く。
EDENの魔法少女は普段から変身しているけれど、冷静メイドみたいに好きな服装でいる……つまり、変身を解除して、普通に着飾っている子も多い。
俺はあんまりそういうの気にしないし、しなくていいと思ってたから、変身を解いた時に着ているものは。
「わ! 制服じゃん! これ、梓の中学校の指定制服ってことだよね。へー、今の子こんな可愛いの着てるんだー」
そうだ。
一番フォーマルな服装を考えた時、学生なら学生らしい姿でいけばいいだろ、って。
EDENに上がる時、制服で行ったんだ。そっからそのまま、同じ。
魔法少女に変身している間、元の服は亜空間に行く、とか、そういう説明を受けたきがする。だから本当にあの日のままの制服だ。
俺が魔法少女になる前の。そのままの。
「くんくん。あ──あぁ、っは。これ。これこれ! 女子中学生の匂いがする……懐かしい~!」
「かぐなよ、へんたい……」
「おりょ? 随分と従順になったなって思ってたけど、まだそういう生意気言う余裕あるんだ~?」
「んん……」
「ねぇ、前に言ったよね。生意気なコト言ったらさ──今度こそ本気で、躾けてやる、って。あれ、言ったっけ? 心の中で思っただけかも」
どんどん閉じて行く視界の隅で、二人が何かを叫んでいる様子が見える。
でも、聞こえない。甘ったるい……虹色ロングの声が、耳元で響いているから、何も聞こえない。あぁ、また胸を揉まれている。制服に手を突っ込んで。
でも、悪寒、も。もう覚えなくなってきた。
別にどうでもいい。何されても……別に。
うまく考えが纏まらないし。
なんだかすごく眠たいし。
身体がだるくて、虹色ロングの身体が、手足が──温かくて。
もういいや。
なにしにきたんだっけ、おれ。
「良い子、良い子。そうだよ。そうやって、もう何も抵抗しないでいてくれたら、痛い事は何にもしないから。気持ちいでしょ? 頭を弱くさせられるの。強化なんて無理矢理な手段で酷使されるより、ずっとずっと──気持ちいいでしょ」
「んにゅ……」
「うわ可愛い。今素で可愛いと思っちゃったよ口に出ちゃったよ。いいよ、眠って。いいこいいこ。梓は13歳だもんね。思春期は迎えたかもしれないけど、まだまだ育ち盛りだし、こんなに運動したら眠いよね」
「……ん」
「いいよ。お姉ちゃんがいいこいいこしてあげるから。私の温もりで、ゆっくり眠って。次起きた時には──全部終わってるからさ」
だめだ。だめな、はずだ。
わかんない。よくわかんない。なんでだめなんだっけ。
からだをおこせって、だれかがいっている。へんしんして、まりょくできょうかしろ、って。
なんで?
「大丈夫。大丈夫。梓のことは、私が守ってあげるから。偉かったね。良い子だったね。ここまでよく頑張ったね」
ああ。偉かったのか。
良い子だったのか。俺は。頑張ったのか。
じゃあ。
「みんなは、もう」
「うん?」
「しなない?」
「──」
だって。
俺が頑張って、俺が何も悪い事をしていないのなら。
俺が俺を──そう、認め。もう何もかもを放り出すとするのなら。
もうみんなが死なない、って。そういう時の、はずだ。
「うん。勿論。みんな死なない。誰も死なない。怪我もしない。苦痛も負わない。誰も──梓の傍から、離れて行かない」
「そっか。よかった。じゃあ」
その言葉が聞けたなら、安心だ。
安心して──。
「──死ね」
「ッ!?」
誰も死なねェなら。
殺しても、問題ねェってことだよな。
「あー。……ああ。あー。……か、かっかっか。はー。はははいやキモすぎるだろさっきの私」
不快感を露に言う。
なんださっきの幼児退行。おいおい、お前43のおっさんだって忘れてねェか? あァよ、確かに前世で風俗に行くことはあったさ。付き合いだのなんだので誘われることも別に珍しかなかった。だがそォいうプレイァお断りでな。俺ァノーマルなんだよ。35過ぎた辺りから行くのもやめたしな。
はー。
はは。キッモ。キッショ。
若者言葉で罵るぞ。俺きめェよさっきのは流石に。なんだよ「んにゅ」って。おじさんが出していい声じゃねェって。
「あ、あぶなー。わかってるの? 私は別に魔物の精神体の入った肉体でも、私の精神体の入ったガーゴイルってわけでもないから……普通に死ぬよ?」
「あァよわかってる。ごめんな虹色ロング。悪ィことしたわ。みっともねェトコ見せたな。ちょいと己の頭カチ割りてェとこだが、んなこた言ってらんねェや。それと、煙草吸わせてもらうぜ。色々嫌なコト思い出しちまってイライラしてんだよ。魔煙草にイライラ鎮静する効果なんざねェけどさ」
魔煙草を起動し、吸う。
あー。これこれ。この不味さ。
そのまま、変身。いんやさ、この一瞬裸になるのどォにかなんねェのかね。まァさっきまでされてた事に比べりゃどォってこたないが。
不味いなァ。不味すぎて思考がクリアになる。はは、いやマジでさっきまでの俺キッショ。
「……ねー。さっきの可愛い梓に戻ってよ。そのちょっとカッコいい感じもいいけどさ、やっぱり見た目のまんまの可愛い方がお姉ちゃん好きだなー」
「あァさソイツァ悪いな。私ァ乳幼児の頃からこんなんだ、かわい子ぶりっ子の仕方なんざ知らねェのさ」
「また生意気な口利いて……こうしてやる!」
虹色ロングが近づいてくる。
歩くよりは早い速度だが、何の強化も乗ってねェ小走りで。
だから、それをひょいと躱した。
「あれ?」
「はっはっは。お前、何やってんだ? そんな遅ェ攻撃あたるワケねェだろ。いやさ、今の攻撃だったのか?」
「……【弱化】」
「なんだよ。いきなり魔法名なんざ言って、どォした?」
「え、なんで? なんで魔法が発動しないの? ……もしかして、反魔鉱石か何か持ってる?」
「持ってたら変身できねェだろアホか」
その後も何度も「【弱化】」「【弱化】!」と魔法名を言う虹色ロング。
けど、その魔法が発動する事は無い。あんまりにも滑稽な姿にさしもの俺も同情するってモンだ。
たとえ相手が、化け物でもよ。
「呑まれちまったな、お前。忘れちまったんだろ。自分が化け物だった頃の記憶。虹色ロングの思考っつか思想か? わかんねェけど、その記憶が強すぎて、毒々しすぎて、自分が化け物として生きてきた頃の記憶全部塗りつぶされちまってんだろ。ははは、その上で虹色ロングの事を知らな過ぎたな、お前」
「な、何言ってるの? 私は本物だよ。本物の結・グランセ!」
再度──今度は攻撃としてだろう、掴みかかってくる虹色ロング。
その攻撃を、強化するまでもなく見て避ける。
あァ。いやはや、まだ馴染んでねェってな事ァ委員長に言ったが、その通りなんだろう。馴染んでねェのさ。今の今まで──ソイツらは、魔力なんて使ってこなかったのだから。
「馬鹿が。D級魔法少女がそんな何度も何度もポンポン魔法連発できるワケねーだろ。魔力量増やしてからモノ言えや」
「──う!?」
身体を強化して、虹色ロングに馬乗りになる。
じたばたと抵抗する虹色ロング。こちらを睨んでは【弱化】を使おうとしているが、発動しない。
「おい、冷静メイド! シエナ! それァマジの人形だ! 中身もアイツらじゃねェ──ぶっ壊していいぞ!」
「承知」
「了解いたしました!」
魔煙草を吸う。
なんで壊さなかったか、って? ンなの簡単だ。確証持てなかったからだろ。俺がアイツらに怪我してほしくないだの殺したくないだの言ってたから、万が一を考えて防戦一方だったんだ。助けてくれたっていい? 馬鹿言え、自分が防戦一方で相手を傷つけられねェってのに、明らかに【弱化】かけられてる俺を人質に取られた状態で突っ込んでこられるワケねェだろ。
敵は俺の事を殺さねェ。だが、殺さねェだけだ。手足の一本や二本はヤってた可能性も十分にある。そんな愚策を二人は取らねェよ。あとはまァ、冷静メイドは経験で、シエナは魔力感知で気付いていただろォからな。虹色ロングの魔力量について、なんざ。
「破壊します」
「両腕解放。格納鋼管杭射出。打込確認。圧力上昇──粉砕します!」
部屋の奥、四つの銅像が砕け散る。
二つは全身を骨やら腕やらに変えられ形を保てなくなり、もう二つは内部からの巨大な圧力によって粉砕した。
……やっぱり、シエナの武装は攻撃力高すぎの類ね。理解理解。
「続けてで悪ィが、コイツの拘束もたのまァ」
「問題ありません」
抑えつけたままの虹色ロング。はン、こうやってみると、マジに少女だな。
女の子に馬乗りになるだの力でどうこうするだのってな嫌いだが、何もできねェでちィと涙目にすらなってるのを見ると、今の今までされてた分の仕返しみてェな嗜虐心が湧いて……来たりはしねェや。やっぱダメだな。女性、までいかねェと、少女にゃそそらねェや。
「拘束します」
「あァさ」
退く。
直後早業で雁字搦めにされる虹色ロング。
よし。
「これで、とりあえず肉体は全員押さえたな」
「はい。魔力は大丈夫ですか?」
「あァよ、問題ねェ。お前らは……大丈夫、か?」
「私は問題ありませんが、シエナさんの装甲が一部陥没してしまっているように見受けられます」
「作戦続行に支障をきたすほどのものではありません。進みましょう」
「……やばくなったら、言えよ。マッドチビや、あるいはお前の考え方にもし、"壊れても直せるから"、なんてのがあンなら即座に捨てろ。今のお前はお前しかいねェよ。いいな?」
「ありがとうございます」
はン、そこで礼を言えるってな、ロボットだのアンドロイドじゃなく、一端の人間だわな。
あァ。
……いや、今思い返してもきめェなァ、さっきの俺。魔煙草君さ、もっと脳クリアにして都合よく忘れさせてくれないか?
「ライラック様。進む前に、申しあげておきたい事があります」
「ん? どォした、冷静メイド。んな改まって」
神妙な顔で。
「──先ほどのライラック様はとても可愛らしかったので、会話や仕草の逐一をキリバチ様に報告させていただきます。ご了承ください」
「了承するワケねェだろボケ」
からかってきてんじゃねェよ。まだ敵地だぞ、オイ。
……やめろよ?
進む。進む。
階段を下っていく。
「……この辺、確か浅い海だったよな。水平方向の距離を加味しても……」
「はい。海底よりは既に下です。位置も、クルメーナからはかなり離れています」
「となると、ちょいとおかしいな。過激無口は上と下、つってた。強敵らしいモンがいンのはそこだ、って。だが、この階段の先がそォでないなら、クルメーナの下にいたっつゥやべー敵ってな、なんだ?」
「少なくとも主ディミトラの蘇生槽のある場所へ続く階段はここで間違いありません。故に、島の下、となると、何か、別のものであると推測できます」
「確かクルメーナってな人工島なンだよな? 元はここに何があったのか、とか知らねェのか?」
「……申し訳ありません。主ディミトラに教えられた知識の中に、その答えは無いようです」
「謝らなくてもいいけどよ。冷静メイドはなんか知らねェか?」
「ふむ。事実を知っている、というわけではありませんが、推測は可能です。聞きますか?」
「あァよ、頼む」
階段は先が長い。奥が見えねェくらい長い。
壁についた燭台がなんとか視界を保っちゃいるが、その明かりも揺らめくせいでどこかおどろおどろしい。魔法少女だから問題はねェが、人間ならちょいと寒いくらいの温度にもなってきてる。
なんか。
冥界にでも、向かっている、みたいな。
「そも、ライラック様は、EDENにおける魔法少女がどうして変身し続けていられるのか。そしてあの浮遊島が、何故浮き続けていられるのかをご存知でしょうか」
「なンかさっき聞いたな。EDENは供給源だから、って」
「その通りです。魔力とは己が内にあり、己が内より出でて、己にのみ扱い得るもの。ですが、魔法少女は死と蘇生を通し、その身体をEDENに巡らせます。つまり、魔力を含んだ肉体をEDENの蘇生槽で作っているのです。己が内にあり、己が内より出でて、己の身に扱い得るものであるはずの魔力を、EDENは作り得る。それが何故か、わかりますか」
「……なるほど。それが供給源って奴か。あそこは……なんぞか、魔力の放出する地点か何かなのかね」
「逆ですが、考えは間違っていません。EDEN及び我が国は、世界にある僅かな魔力吸入点に存在しています。EDENはその吸入点の中でももっとも大きなもの。あるいは、過去において
その言葉も、あの迷宮の主から聞いた。
終の因。あの迷宮の名前。字面だけで見りゃ、確かに終わりの集まりそォな場所だ。
「それが、ここにもあると?」
「はい。ディミトラ様がここに人工島を作り上げた理由。蘇生槽の稼働のために必要であったから、小さな地脈点を見つけ、そこに島を作り上げた。蘇生槽そのものの製法を私は知りませんが、ここを島にした理由はそれであると思われます」
「ふむ」
吸入点と、供給源。
意味合いとしちゃ真逆だが、EDENやこの島に魔力の吸入を阻害し、受け止める、みてェな力があンなら話は別だ。要は充電池か。バカでけェ充電池が常に充電されてて、俺達魔法少女の変身維持や蘇生にソイツが使われている、と。
……そォなると、偽マッドチビの言ってた叛逆って言葉もちっとばかし意味が出てくるな。
なンでアイツが言ったのかってなともかくとして、例えば化け物が世界の意思だの云々で、勝手に使われてる、あるいは阻害されてるからEDENを壊してェ、みてェな。
いや、だとしても叛逆なんて言葉は使わないか。……ん-。
「あ? 待て、じゃあなンだ。ちょいとおかしいだろ。私達が向かう先ァ、人工島の真下じゃねェんだよ。過激無口が言った上と下の下にそれがあって、そこになんかやべーのがいるとして、じゃァなんでマッドチビは一切関係ないとこに蘇生槽作ったんだ。蘇生にァその地脈点っつーのが必要なンだろ?」
「加え、ディミトラ様は別の島でも蘇生を可能としています。それらを考えるに」
「あのマッドチビ、まだ何か隠してやがんな?」
そもそも化け物の精神体化なんつーやべェ技術を作り上げたマッドチビなんだ。たかだか500年でこんな高性能なアンドロイドを作っちまうマッドチビだ。地脈点とやらのことを知らねェはずもねェし、観測する手段も持ってるはず。
「シエナ。あっちの島ってな、どれくらい昔に使われてたモンなんだ。マッドチビの試作品が置いてあったっていうくらいだ、ちったァ使ってた場所なんだろ」
「申し訳ありません。私が作られたのはごく最近であるため、あまり多くの知識はございません。その上、主ディミトラについてを窺う、という機会はほぼなかったので……」
「あー、そォか。わざわざ聞かねェか、自分の親のことなんて。それに、すぐ調査に出されたんだもンな。いや、いや。謝る必要は無ェよ。大丈夫だ」
そォだったそォだった。シエナは最近作られたんだ。マッドチビの、【鉱水】を用いない技術の結晶。だからそこまで多くを知らなくても無理はない。なンだ、コンピューターだのデータベースだのを使ってカタカタカタカタ知識を入力した、ってワケでも無さそうだからな。
おじさん機械工学だのITだのには疎いからあんま詳しい事言えねェけど、あの部屋にァそォいった電子機器は無かったように思う。電力自体があんま発展してねェんだけどさ、この世界。通話端末とかはあるものの。
「この通路が蘇生槽への道ってな、間違い無ェんだよな?」
「主ディミトラより齎された情報を信じるのであれば、です」
「いや、いいよ。つれェだろ、創造主を疑うってなよ。信じるさ。あァ、もう余計なことは言わねェ。どの道引き返したって意味はねェしな。一本道だ。とりあえず進むしかねェさ」
「ありがとうございます」
話しながら歩いている間に。
よォやく、見えてきたしな。
扉。
恐らくは──偽マッドチビのいる、部屋。
海底より深い、寒々しい地下のこの場所に。
果たして何が待ち受けているのやら、ってな。