「泣き止んだかしら?」
「うるせェ」
「ふふん、ああもちゃんと泣かれると、その生意気な口ぶりも可愛く聞こえてくるわね」
「うるせェなオリジナルドラゴンセンス無さすぎクソマッドチビ」
「もう一回、今度はとっても硬い鉱石で固めてあげてもいいのよ。死ぬ事のできない身体で銅像になったまま街中に設置してあげる」
「バーカバーカチービチービ」
「……いつか必ずディミトラ様って呼ばせてやるんだから」
はァ。
ったく、ガラにも無ェことをした。
泣くて。8歳児に抱きしめられて泣くて。
まァおっさんの頃から涙脆かった方ではあンだけどさ。映画とかで結構ボロボロ泣くタイプだったし。
「で、どォすんだよ。私をEDENに連れてくんだろ。アテはあンのか?」
「ないわ!」
「だろォな」
あったらとっくに行ってるだろォし、クルメーナも位置くらい計算できそォだ。
「けど、ここにはこんなにも鉱石があるのよ」
「……そりゃそォだな。それがどうした?」
「アンタ、私のドラゴンと戦った時の事忘れたの?」
「あァ、薄味過ぎて記憶に無ェな」
「おかしいわね。魔法少女は記憶力の衰えなんて起きないはずなのだけど。魔法少女になる前からそうだった、としか思えないわ」
「そもそもドラゴンなんざいなかっただろォよ。ここの恐竜のがまだドラゴンだわ」
「それよ」
「あン?」
マッドチビは、その手に水晶のプテラノドンとティラノサウルスを作り上げる。
やっぱ模造はマジに上手いな。虹色ロングと戦った時のオーレイア隊の面々も本人そっくりだったし、そういう才能ァピカイチってか。
「ここには、ちゃんと飛べる身体を持った魔物が沢山いる。ちゃんと走れて、ちゃんと攻撃できて、ちゃんと……生きるに特化した魔物がね。そしてこれだけの鉱石があれば」
「──今度こそホントのドラゴンを作れる、ってか? だが、精神体はどォすんだ。魔法少女のを使う、ってンなら私ァ反対だぞ。力づくで止める」
「そんなこと言わないわよ。というか、魔法少女の調達なんてルルゥ・ガルが来なければ夢のまた夢だったし。……そんな目で見ないでよ。こればっかりは私の研究者気質のものだもの。そう簡単には変えられないし、変える気もないわ」
「あァ、そォかい」
まだ夜だ。
別に暖を取る必要もねェから、ただただ夜明を待つ。睡眠もいらねェからな。俺ァ寝てェが、マッドチビは、そォでもねェみたいだし。
「魔物を使うならいいんでしょ?」
「快かァねェが、別に化け物に同情ァしねェよ」
「その線引きがどうなっているのかも気になる所だけど、精神体はここの魔物のものを使うわ。肉体的に強靭な魔物がああも島の外周を闊歩しているって事は、島の中心部には高位な魔物がいる可能性も高い」
「島の中心たァ言うが、この辺ァ島々の集まりだろ。どこが中心だってなわからねェよ」
「何言ってるのよ。ひときわ大きな力を感じる場所あるでしょ? そこが中心よ」
「……?」
「え、ホントにわからないの?」
こればっかりは煽りじゃなく。
本当に驚いた、みてェに。
「……アレか、地脈点、って奴か?」
「なんだ、やっぱりわかってるんじゃない。そうよ、丁度地脈点になってる島が一つだけある。あそこには強大にして高位な魔物がいるはず」
「知識で知ってるだけだよ。感じ取れるワケじゃァねェ。……そォいや、この洞窟を見つけた時もそォだが、なんかわかんのか? 【鉱水】だから鉱石の場所がわかる、的なのが」
「……エデンでは魔力の流れとか、感じ方とかも教えないのね。呆れたわ。知識の独占をして、魔法少女が何の疑念も持たずに戦うように仕向けている、とか。そんな辺りかしらね」
「魔力の、流れ」
そォいや、地脈点ってな、世界を巡る魔力が世界に還る吸入地点のこと、だったか。
そもそもなンだ、世界を巡る魔力ってなは。
「ふむ。じゃ、ちょっと感じてみる? 世界の魔力の流れ。荒業になるから、抵抗しない事を約束してほしいんだけど」
「……わかった。信じる」
「いいの? ここまで色々言って、アンタを助けるだのなんだの言っといて、だけど、私は敵よ?」
「いいよ、もう。そういうの。私ァそこまで頭硬くねェのさ。いいから、やってみてくれ」
「わかったわ」
言って──マッドチビが、膝を突いた姿勢でこっちに来る。
荒業っつーんだ、ちょいと痛ェとかなのかな、とか覚悟していたそこに。
俺の、顔に。
ちゅ、と。……キスが来た。
「いってらっしゃい」
余りに突然のことで混乱の極致にある俺に手を振るマッドチビ。
ディープなキスよろしく俺とマッドチビの間に出来る唾液の端は、けれど色が唾液のソレじゃァねェ。
口に付いたソレを拭う、なんて暇はない。
身体が、沈む。沈んでいく。あり得ない感覚に、けれど何もできない。
あァ、マッドチビが地面に手を当てている。
洞窟の岩が波を打つ。手を中心に、波紋を描いて広がっていく。
やべェ、と思った時には遅かった。
俺の身体は──ポチャン、と。
岩の水の中に、沈んでいったのである。
光が流れている。
遠くの空から流れ込んだそれが、前から後方へと流れて行く。凄まじい勢いだ。凄まじい奔流だ。
何かに捕まっていなければ吹き飛ばされちまうんじゃねェかって奔流が、流れ続けている。
「糸伊豆耗空古.」
「泥土有化夢?」
「発布意,場途藍鈍斗羽生葉綯.」
「絵鰤湾化夢!」
「阿茶位琉度羅武道倍葉筈新夜土.」
「阿歩止琉後内途.」
「葉阿歩止琉.」
「鳥有為預阿歩止琉!」
言葉が流れて行く。
力が流れて行く。何かが近寄ってきて、何かが笑いかけてくる。何かが話しかけてくる。
「上亜伊豆陽亜?」
「泥椅子伊豆地線他負不地悪土.」
「泥椅子伊豆地伏零須上亜地須利琉々図三糸.」
「藍宇恩斗有塔寝具.」
「藍宇恩斗有塔寝具初図阿美優邸符応簿井栖.」
「伏理伊豆伏零.」
「亜伏霊矢不応地内途.」
心地が良い。
懐かしい。暖かい。ずっとここにいたい。
そんな感覚に襲われる。
「……場途座頭伊豆能登虞度.」
「保歪?」
「藍栖尾羽生寒寝具塔同.」
これが──魔力、か?
そうだと言うのなら。
じゃあ、俺の使うこれは。
「藍琉化夢亜外韻.藍宇恩斗塔椎葉根楠斗態務.」
「往来! 上意天狗!」
急速に上に引っ張られる感じがする。
温かい何かが口を行き来している。なんだろう、これは。これは。
──息?
「っぷはァ!?」
「よ、良かった……起きたわね」
「っは、っは、っは、っはァ、はァ……は、ァ」
呼吸をする。
そうだ。そォだ。呼吸ってのをしないといけないんだ。しないと死んじまう。
いやさなんだその気付き。当たり前だろ。さっきまで当たり前じゃなかっただけで、当たり前だろ。
「は──はァ、あァ……」
「大丈夫……? あの、その」
「……荒業、ね」
「あ! いや、そんなつもりはなくって! ちゃんと呼吸用の穴も用意したのにアンタが口を離しちゃうから焦っただけで、ホントにそんなつもりはなかったのよ!」
どォやら……溺れていた、らしい。
岩の水。【鉱水】の中で。
荒業が過ぎる。死にかけたって考えるとゾっとする。
「本当よ……?」
「あァ──いんやさ、信じるって言ったのァ私だしな。けほっ、あァさ、その意思があンならとっくに殺してるだろ。……面白い体験だったよ。人工呼吸までしてくれたンだろ? ありがとな。つか、よくやり方知ってたな。魔法少女相手にやることなんかねェだろォに」
「や、やり方はわからなかったけど、息してないってわかった時点で不味いって思って、あなたの体内から全部の鉱石抜いて、どうにかこうにか呼吸させないと、って……そ、その」
偶然ってことか。
やばすぎるな。神さんに感謝だ。善行積んでる気ァしねェが、ありがてェ限りってな。
「ご、ごめんなさい!」
「ん? なンだ、お前真っ当に謝れたのか。つか、いいって。やってくれっていったの私だしな。それに──」
目を瞑る。
あァ。
わかる。わかった。
これか。
「魔力の流れ……ってな、わかったぜ。感じ取れた」
「本当……? 本来はもうちょっと……あ、いえ、なんでもないわ。こ、コホン! それじゃお詫びに、もう一つの方も教えてあげる」
「いんやさ、流石にまた荒業ってな勘弁なンだが。つか、もう一つの方ってな何だ?」
こんな、抵抗もできねェ状態で死ぬなンてのァ勘弁だ。
死地には何度か行ったが、自意識無ェってな怖すぎる。
「私がどうしてこの洞窟を見つけられたのか、って方よ」
「あァ。なンだ、そりゃ魔力の流れとァ関係ねェのか」
「ええ。あなた……アンタの言う通り、これは私の魔法が【鉱水】だから感じ取れること。魔法には遠隔と近接と特殊っていう括りがあるけれど、系統別にするともっと細分化される、というのはわかるわよね?」
「んー、まァ、多少は。全部を知ってるってワケじゃねェが、所謂銀バングルと冷静メイドの世界を変質させる魔法、とか、【神速】や【槍玄】みてェに自分を速くして世界を遅くする魔法、みてェな括りってこったろ?」
「そう。で、私の【鉱水】は世界に既にあるモノを変化させる魔法よ。つまり、新しいものを創り出すとか、自己と世界を切り離すとかじゃなくて、世界そのものに働きかける魔法なの」
「ふむ?」
同じ意味に聞こえるが。
何が言いてェんだ?
「その中でも私の司るものは鉱石。たとえば私の知っている魔法少女に【樹意】って魔法を使う子がいるけれど、その子の司るものは樹木。【雲演】なら雲や水蒸気、といった具合に」
「司る、ってな、なンだ」
「そのままの意味よ。魔法は世界のそれぞれを一身に担うもの。下位互換や上位互換はあるけれど、それぞれの魔法少女が自らの魔法に纏ろう万物の一端を担っている。だから私は鉱石のある位置がわかるし、【樹意】なら林や森のある位置が、【雲演】なら雲のある位置がわかる」
「……なる、ほど?」
何か。
それは──魔法っつーモンに対する、最奥の答えの一つ、な気がする。
魔法は世界のそれぞれを一身に担うもの。魔法少女は自らの魔法に纏ろう万物の一端を担うもの。
じゃあ、魔法少女ってな、なンだ。
「だから、あなたにもわかるはず。【即死】は死に纏ろう最上位の魔法でしょうから、死の気配とか、殺意とか、そういうのがわかるんじゃない?」
「……あァ、わかる。殺意。そンで、自分が即死する可能性のある攻撃。そォいうのはわかる」
「あなたのそれが、私のこれ」
だがよ、そいつァおかしいぜ。
尖り前髪は俺のこの殺意を感じるソレを、能力だと称した。
なんなら今まで出会って来た魔法少女の誰一人としてそれを知らなかったし、教えてくれなかった。
なンでだ。
「EDENは、お上ァ、何を隠してる?」
「……そうね。私もちょっとどころじゃなく気になってきたわ。昔のEDENは、もっといい場所だったはずよ。少なくとも私が同盟を組んでいいと思うくらいには。"魔法少女のための楽園を作る"と言っていた彼女達は、本気でそれを目指していたはず。知識の独占とか、魔法少女の奴隷扱いとか、そういうことをする人達じゃなかった」
「なァ、そいつらってどこにいるんだ? 今EDENにいンのァよ、私が知ってる限りじゃ学園長って呼ばれる奴だけだ。創設者はどっかいっちまったらしい」
「どこかへ行ってしまった? どうして?」
「知らねェって」
なるほど、EDENの内部事情に関しちゃとんと疎いな、マッドチビァ。
全てを知ってるってワケじゃねェ。だが、EDENの隠してる事情だの世界だのを知るにァ持って来いな相手だ。
……先生と呼べば、だの。言ってたっけ。
「マッドチビ先生、でいいか?」
「何がどう"良い"と思ったのか教えてくれるかしら」
「いやよ、お前は多分、私よりずっと多くを知ってる。だから先生だ。けど、ちょいと性格や言動が子供っぽすぎる。だからチビだ。で、研究者思考過ぎて倫理観がねェ。だからマッドだ。逆から呼んでマッドチビ先生だ」
「そんなこと言われなくてもわかるわよ!!」
言われなくてもわかってンなら言わせンじゃねェよ。
「教えを乞いたい。世界のこと、化け物のこと。魔法のこと。EDENへ向かう間だけでいい。そのドラゴンってなを作る片手間でいい。私に世界を教えてくれ」
「う……い、嫌に真摯ね。やけに、というか……。それに、呼び方はヘンだけど、尊敬の念が伝わってくる……」
「あァさ。今んとこ下に見る要素が言動と行き当たりばったりなトコしかねェからな。尊敬してる」
「今貶したわね!? ねえ!?」
きゃいのきゃいのとうるせェ奴だな。
丸々全部尊敬できる奴なんかいるワケねェだろ。欠点あってこその人間だ。魔法少女だが。
その点、マッドチビ先生は尊敬できる部分の比率が下に見る部分の倍はある。
だから尊敬してンだよ。
「な、なんか納得いかないけど……む。これ以上つっかかるのも、貞淑なる淑女としてアレよね」
「あァ、ありがとな」
「……ま、いいわ。少なくともアンタが一人で生きられるくらいにはしてあげる。EDENを抜けても、死なないようにね」
「抜けるつもりァまだないんだが、ありがてェ。これからよろしく頼むよ、マッドチビ先生」
「……やっぱり馬鹿にされているような」
してねェって。
三割くらいだって。
んで。
「んで、だ。夜は明けたが、これからどうするよ。地脈点に向かうか?」
「そうね。とりあえずあそこにいるだろう高位の魔物が何なのかの確認をしないと。でも、倒しちゃダメよ。仮に倒せたとしてもね」
「……精神体を抜き取るから、か」
「そう。まぁ抜き取る時に倒しはするんだけど、今倒しても入れ物がないから」
なら、また日の暮れちまわねェ内に出発しねェとなァ。
色々思う所はあるが、俺ァ化け物に同情する程余裕は持ってないンでな。
ってな感じで出発したワケなんだが。
「……なンだ、マッドチビ先生。もしかして泳げねェとか言わねェよな」
「は!? べ、別に!? 飛べばいいじゃない飛べば!」
「私が思うにだがよ、マッドチビ先生の弱点ってな空中なンじゃねェのか? 鉱石の補充ができねェ空中じゃ、どーしたってジリ貧だ」
「そそ、そんなの水中だってあんまり変わらないわよ!」
「いーからいーから。黙って担がれろって。……【鉱水】なンて水っぽい魔法使うクセに、泳げないたァなァ」
「そういうアンタはなんで泳げるのよ! EDENにも国にも海なんてないでしょ?」
「いやプールの授業は普通にあるが。市民プールもあるし」
「……!」
あと前世でもスキューバとかやってたし。
……懐かしいなァ。船の上から飛び降りる奴。懐かしいけど、この世界でやったら一瞬で化け物の餌だろォなァ。
「だ……大丈夫? 沈まない?」
「マッドチビ先生ァ軽いから大丈夫さ。ただ、鉱石のストックァできりゃ浮遊状態にしといてくれると助かる」
「わ、わかったわ」
流石にそォいうの含めると重いからな。【鉱水】で液体みてェにして浮かしといてくれりゃ問題は無い。
あーあ。もちっと背が高けりゃなァ。担いでいく、ってのもできたンだろォが。
さて、背泳ぎで行くかねー。
「……泳ぎながら話すけどよ」
「う、うん。あ、じゃなくて、何?」
「クルメーナ周辺に放ってた魚みてェなガーゴイル。あれもお前のだよな?」
「ああ、それはそうよ。監視と簡易な攻撃のできる小型ガーゴイル」
「そいつァ、今は作れねェのか?」
「作ろうと思えば作れるけど……なんにせよ精神体は必要ね。別に海の魔物の精神体である必要はないんだけど」
「ん、そォなのか」
「ええ。精神体というのは、肉体の動力源に過ぎないわ。多少の記憶は有しているけれど、肉体から受ける影響には負ける。それがゴーレムやガーゴイルともなれば、尚更にね」
「あー。そォか、肉体のある奴に精神体を入れると記憶ごっちゃになったりなんだのをするが、ガーゴイルやらゴーレムやらに記憶を保存する場所なんざないもんな」
「そういうこと。外側を造形してあるだけの像に宿った精神体は、単なる動力源としてその魔力を使うわ。ちなみに魔法少女の精神体は単なる動力源でありながら余剰魔力を操れるっていう素晴らしい……痛い!?」
「私の前でその話ァやめてくれ。イラっとくる」
「ちょ、ちゃんと泳いで!? わかったから、私の脚抓ってないで泳いで!」
「これくらいで沈みァしねェって」
怖がりすぎだろ。
俺ァマッドチビ先生のが怖いんだがね。
「……だが、ちょいと上空注意だ。さっきのがいる」
「ん……私達の事、餌だと思っているのね。分からせてあげましょうか、自分の立場」
「ついでにアレの精神体引っこ抜いちまえばよくねェか? で、適当な……いや、アレっぽい見た目のガーゴイル作ってくれよ。空から監視できる奴いた方が色々と楽そォだ」
「ふむ。良い考えね、それ」
マッドチビ先生の周囲で鋭利な槍になりかけてた鉱石群が、その身をしなやかなものに変化させる。……蛇、だろうか。
それが──今まさにこちらへ急降下せんとしていたプテラノドンに殺到する。
「わァお」
「ちょうどいいから、精神体の抜き方も見せてあげるわ」
プテラノドンは突如襲ってきた銀やら黒やらの蛇に困惑の叫びを上げ、空中でじたばたと翼を揺らす。当然そんなことをすればバランスを保てなくなり、そのまま俺達の程近い場所へ落下。【鉱水】の蛇たちは更にプテラノドンの身体を締め上げ、磔にするが如く持ち上げたあと──。
「うわ」
一匹が、その口に入り込む。
外から見てわかる程に膨らむ喉。プテラノドンは目を剥いて、「カ、カ」みてェな音を出しながら、段々力を無くしていく。
そォして程なくしたあと、ぐてんと力の無くなったその身体から、口ン中に入った蛇が出てきた。
「わかる?」
「……あァ。あの蛇、
「そう。で、これに」
プテラノドンから出てきた蛇に、数多の蛇が集まり始める。
様々な鉱石で出来た【鉱水】の蛇。それが混じり合い、食い合い、重なり合い、融け合い──。
大きな一つの球体となった。
「で、一から造形するのは今時間足りないから……」
その球体は、けれど波打っていて。
精神体が宿っている、ということもわかって。
それが、それが。
ピクリともしなくなって海底に沈んでいく際中だったプテラノドンを、にゅーんと取り込んでいく。
翼から、胴体。頭。脚。逆の翼。
つるつるした鉱石の球体が、プテラノドンを食べて行くみてェに。
「ふむ。へぇ。こういう作りなのね。……興味深いわ」
「そろそろ向こう岸に着くぞ」
「ホント? ……ほんとだ。凄いのね、私を乗せて泳いでいるのに、こんなに早く泳げるなんて」
「私ァ今起きてる事のが凄いっつか怖く見えて仕方ねェが」
「別に殺しはしてないんだから、そこまで怖くないわよ」
そして、ぺェっと。
プテラノドンが吐き出される。再度水ン中に沈んでいくその身体。
それとは反対に、水面からちょいと高い場所で……その球体が、造形されていく。
翼は鋭く、広く、コウモリみてェに。
嘴は長く。頭骨も長く。
胴体は楕円球。鳥みてェな脚。
──あァ、まんま同じの、プテラノドン。
色だけァ違うが……まさにさっきのアイツだ。
それが、大きな鳴き声を上げる。
「……喉や内臓まで再現する必要はなかったわね」
「着いた。……が」
「何? あぁ、アレ? あれは仕方なくない? そりゃ精神体がいないんだから、水没しても抵抗できないのは当たり前よ。それで死ぬのは運が悪かっただけ。私が殺したわけじゃないわ」
「……別に、化け物に同情してるわけじゃねェよ。こえーなって思っただけだ」
「アンタの【即死】の方がよっぽど怖いとおもうけど」
そりゃ、まァ確かに、なンだが。
……それァそォだな。ホントに。
「あー。聞きたかねェけど、一応聞く。魔法少女から精神体取り出すときも」
「同じやり方よ。違いは魔力量が多ければ多い程多量の鉱石が必要になる、くらいかしらね」
「……虹色ロングに作ってやったオーレイア隊の面々の人形もか?」
「そうね。鉱石で身体を包んで全体を把握して、そっくりの人形を作る。自分での造形じゃないからあんまり好ましくない手段だけど、急いで作らないと、って時には最適よね」
「あァよ、聞いた俺が悪かった」
「何が?」
別に。
想像しちまった、ってだけだ。
それをされる、アイツらの顔や、心を。
「ま、これで空の目が出来たってことで。……つかよ、今思ったンだが、【鉱水】で適当な橋でもつくりゃよかったんじゃねェか?」
「あ」
……ま、諸島探索は始まったばかりである。
探索になるか生活になるかはわからねェが、始まったばかりってな事実で。
俺もマッドチビ先生も、どっか抜けてるってトコ以外は、割合安全そォな──なンだ。束の間の休息、になンのかねェ。
「後でティラノやらラプトルやらのガーゴイルも作るか?」
「そうね。……ラプトルって?」
「さっきやり過ごした小型の奴だよ」
「ああ」
そんな会話をしながら。
俺達は──進む。