「なァよ、マッドチビ先生」
「何?」
「湧きポってあンだろ? 化け物が出てくる場所」
「ああ。湧き地点、形成地点。なんでもいいけど、あるわね。それが?」
「アレってな、なんなんだ? ルルゥ・ガルが人工的な湧きポも作ってたが……」
「それに答えるためには、まずそもそも魔物とは何か、についてを話さなければいけないわね」
「あァ、構わねェよ。化け物ってな、アイツラァなんなんだ」
今日は雨。
島々の側面は切り立った崖になっちゃいるが、その上……木々生い茂る頂上ってな、なんと熱帯雨林みてェな蒸し暑さを保ってる。めちゃくちゃ開放的なのに蒸し暑いっつー意味わからん……のか? まァ植物学者じゃねェんでありえねーっつーのは言い切れねェが、どォにもオカシナ気候でオカシナ環境って感じがする。
拠点にした洞窟然り、それぞれの島にあるいくつかの洞窟にァ鉱石だのなんだのが多く含まれ、けれど明らかな安全地帯だってのに奥まで行ってもコウモリだのネズミだのは一匹足りとていない。虫さえいねェと来た。
不自然極まりない。
「……でも」
「どォした?」
「私が知っていることが全てであるとは思わないで。今から話すのは、あくまで私の知っている事だから」
「ん。あァよ、それはそうする」
この島のおかしさってなさることながら、化け物も魔法少女もEDENも変なトコだらけだ。ルルゥ・ガルの目的も、あっちのマッドチビの動向も。
全知じゃねェたァいえ、俺の知らねェ情報ってな俺が考えるための基盤になンだ。知れるモンは、教えられるモンは全部貰わねェと。
「魔物とは、世界の淀み……世界を巡る魔力が、けれどなんらかの理由で淀んだり、引っかかったり、溜まってしまった場所に生まれる物よ」
「魔力が、なのか。にしちゃ、高位の化け物しか魔力を扱えねェよォだが」
「別に魔力から生まれるわけではなく、そういう場所に生まれるもの、というだけ。それらは俗に自然形成の魔物、と呼ばれるわ」
「あァ、ランダム湧きか。あ、もう一個聞きたい事できた……が、まずこっちを聞くとするわ」
「そうね。話が混ざってしまうと面倒だから。ええと、そう。自然形成の魔物は、そういう場所に生まれる。さっきなんらかの理由と言ったけれど、そういう場所には大抵魔力を淀ませるに足るものがある」
「……そいつァ、たとえばなんだ?」
「沢山の血液の流れた戦場。大きな動物の死骸。燃えた山。枯れた古い樹木。干上がった湖。──魔法少女の、死んだ場所」
「それァ」
フリューリ草の生える場所、じゃなかったか?
いや、それ以上に……なンだ、そのラインナップ。余りに死に近すぎる。死を好むのか、化け物ってな。いや、魔力が好んでいる、のか?
「魔力が淀めば、環境ができるわ。要するに自然の蘇生槽よね。不安定極まりないけど、命を生むに足る環境が整う。そこに住みついた生物は、住んでいる内に自然の蘇生槽との経路が出来る。その生物が死ぬことで、ようやく魔物になり得るの。死んで、けれど不安定な蘇生槽で蘇生した生物は、魔なる物として世界に認められる」
「待て。ちょっと待てよ。そういう言い方をしたら、まるで」
「魔物と魔法少女が同じみたい、って? そうね、大部分はその解釈であっている。ただ、ちゃんと違う部分がある。もう少し黙って聞きなさい」
「あァすまねェ」
ちょいと先走ったな。
だが、蘇生槽ってなモンの作り方も微妙にわかった、ような?
「基本的に自然に形成された蘇生槽というのは一回きり。魔物を産み落とした瞬間に崩壊し、世界を巡る流れに還っていく。これが自然形成の魔物の発生原理」
「じゃ、湧きポってな、それが崩壊しなかった場所、か?」
「そうね。余りにも良い自然環境が整ったか、余程強い死が宿存しているか。一度だけの奇跡で魔物を産み落とすに飽き足らず、そこに根を下ろして花を開くにまで至ったもの。それを形成地点と呼ぶわ」
「花……」
また、フリューリ草を彷彿とさせる言葉。
……ん、だが待てよ。
「そこに住みついた生物が死んだら、って話だったよな。化け物が形成されンのは。じゃ、湧きポになった後に生まれてくる……一匹目以外の化け物ってな、なんなんだ」
「
「そいつァ、どういう」
「だから、同じなのよ。最初に登録された生物を元に発生した魔物と、寸分たがわず、毛先の一片から細胞の一つに至るまで、同一。形成地点から生まれ出でる魔物は全てが同一であり、そしてその全てが一部に共通の意識を持っている。同じ魔物は考える事も好きなものも逃げ出す判断も完全に同じ。複製、に近いわね。個体差なんて無いのよ、少なくとも生まれた直後は」
「……そりゃ」
恐ろしい話だ、と。
そう思った。
最後の注釈は、それでも化け物に個体差がある理由だろう。生まれた後にどう生きたか──考える事も好きな事も逃げ出すタイミングも同じだとしても、餌には限りがあり、あらゆる物事には運が付随する。そうして差がついていく。
同じものが違うものになっていくんだ。
「だからこそ、魔物はそれぞれの死の間際、一部分に残された共通の意識を用いて同個体に情報を伝えるわ。何が危険である。何には勝てない。何がいる。何がある。言語にはならない部分で、あるいは私達の知らない言語で死の気配を伝える。そうすることで、種は堆積していく」
「堆積。迷宮でも似た話を聞いたよ」
「迷宮? あぁ、終の因に入ったの? ……あそこ、普通にSS級くらいの難度だと思うんだけど、良く死ななかったわね」
「この腕ァそこで失くしたからな」
「そう。……ということは、ソテイラにも会ったのね」
「誰だァそりゃ」
「あの迷宮の主よ」
「あァ。アイツそんな名前なのか」
名前あったのか。
化け物のくせに。
「話を戻すけれど、そうすることで魔物は知識を付けて行く。人間よりも早い頻度で何度も何度も進化が起きる。そうなってくるともう最初の生物から生まれた魔物、なんてのは影も形もなくなるわ。それが魔物の進化であり、多様化であり、本能。単なる獣によく似たナニカから、既存の獣とは比較のしようがない程にかけ離れた生物になる」
あの時迷宮の主……ソテイラに言われた言葉。
──"あの子達が積み上げてきた経験とか、感情とか、そういう記憶の一切を無に帰す魔法でしょー?"
──"強きとして生まれた種としての堆積も、本能に取り残された使命も、絶対を誓う約束も、全部全部なかった事にして、無理矢理"終われ"っていう魔法じゃん"
──"否定だよ、それは"
「……なるほどな」
「理解が早いわね。吸収の良い教え子は楽でいいわ。アンタ以外教え子なんか持ったことないけど」
「ん? あァ、私ァこれでも一応学生でよ。習う準備ってなできてんのさ」
「それを言ったらエデンの子は結構な割合が学生だと思うんだけど」
「まー。そりゃそォだな」
別の事を考えてた、なんて口が裂けても。
で、それが湧きポとは何か、化け物とは何か、って話と。
「それで、さっきの話。自然の蘇生槽と魔法少女の蘇生槽、及び魔物と魔法少女の違いについて、だけど」
「あァよ」
「まず、自然の蘇生槽というのはさっき言った通り極度に不安定で、基本的には一度使ったら崩壊してしまうような代物。加えて一種類の生物にしか経路が通らないから、形成地点になり得たとしても同一の魔物しか生まれてこない。ここまではいいわね?」
「おゥさ」
「で、魔法少女の蘇生槽は特別な材質で作るし、特別な場所に設置しなければならないもの。一回の使用で壊れたりはしないし、魔力を持つ肉体の生成もできる。特別な場所というのは地脈点よ。魔力の流れ込む場所。そこ以外に設置しても、たとえ材質を同じにしたとて蘇生槽足り得ないわ。また、地脈点であったとしても入り込む魔力の少ない場所であったらダメ」
「うんさか」
「そういう色んな条件を整えた上で作られた魔法少女の蘇生槽には、数多の魔法少女との経路を繋ぐことができる。魔法少女にも蘇生槽と共通意識を持つ器官があって、だから魔法少女は死んだとしても記憶を引き継いで蘇生できる」
「えんどりゃ」
「……どれだけ適当な相槌を打って怒られないか、を探っている……なんて事は無いわよね?」
「まさか。真面目に聞いてるよ」
はは。
まさかまさか。
「まぁいいわ。で、ここで気付くと思うのだけど、形成地点と魔法少女の蘇生槽では明確に役割が違うのよ。それが何か、じゃあ言ってみて」
「元の生物を化け物として作り変えるのが自然の蘇生槽や形成地点。魔法少女を同一の魔法少女として生まれ直させるのが魔法少女の蘇生槽、って話じゃねェのか?」
「惜しいわね。及第点はあげる。いい? 魔物の形成地点というのは、魔物が進化するためにあるの。同一の意識と共通の意識を持つ魔物達が、形成地点を通して進化していく。前に進んでいく。生物として生まれ出でることのできなかった自分達を、世界に認めさせていく。そのための場所。でも、魔法少女の蘇生槽は──進化のためでなく、停滞のためにある」
「停、滞?」
「魔物は死ぬとき、もう死なないために知識を与えるのよ。もう死なないために、もう苦戦しないために、より強くなるために形成地点へ意識を残す。それを得て生まれてきた己が同じ失敗をしないように。新しく生まれる己が死なないように。でも、魔法少女はそれをしない」
「……いんやさ、私にとっちゃあんま好ましい話じゃねェが、遠征組なんかは調査内容を死んで持ち帰って周囲にフィードバックするだろ」
「でもそれは、ただの知識よ。技術、と言っても良いわ。魔法少女が死んで情報を持ち帰るのは、ただの裏技。役割でも役目でもない。いい? 魔法少女の蘇生槽は、その魔法少女が生き返るためだけにあるの。進化のため、じゃなく、ただこの世に留まりたいがためだけにあるもの」
それが、停滞だと。
マッドチビ先生は言う。
魔法少女は、まるで──生物としてやるべきことをやっていない、みたいな。
「さっき言ったちゃんと違う部分ってな」
「
「……」
「ま、その点で言えばアンタはかなり生物らしいけれどね。死にたくない。ええ、生物ならば当たり前でしょう。たとえ新しい自分が蘇生槽から生まれ出でるのだとしても、記憶が地続きだとしても、今ここにいる自分は今ここで終わってしまうのだから、死にたくない」
「あァさ、一応、礼は言っておくよ」
なんか……あァでも、確かにこんな話はエデンじゃ教えないのかもしれない。
いや、俺が習ってねェだけで、知ってンのかな。みんな。
「だからアンタの殺す殺さないの判断基準もよくわからないんだけどね。魔物も魔法少女も似たようなものなのに、魔物を殺すのには躊躇なくて、魔法少女を殺すのは敵でも無理、なんて」
「別に私ァ殺しに酔ってるワケじゃねェからな。化け物共が襲ってこねェんなら無暗に殺したりしねェよ。どっちも殺したいと思っちゃいねェが、化け物は襲ってくるから殺してるだけだ」
「私やルルゥ・ガルは?」
「……ルルゥ・ガルに関しちゃ、次会ったら部位の殺しはするつもりだったよ。マッドチビ先生も、こうも色々言葉を交わす前は……ちゃんと、もう動けなくなるくらいまでには殺すつもりはあった」
「でも撃たなかったじゃない、アンタ」
「気付いてたのかよ」
「一人だけあんな離れた場所に行って銃構えてる奴に注目しないわけないじゃない」
「仰る通りで」
そうさ。
撃てなかった。
獣は殺せる。化け物は殺せる。だが、魔法少女は。あるいはヒトは。
「ま、安心なさい。今ちょっと考えてみたけど、多分そっちが真っ当よ。私の目にはもう、魔物も魔法少女も特に変わらないものにしか映らなくなっているけれど、姿形が自分に似ているものを殺したくない、という倫理観はあって然るべきだわ。ごめんなさい、多分これに関しては、私が間違っている」
「……あァ」
果たしてそう、なのだろうか。
俺は……あの、明らかにヒトみてェな姿をしているソテイラを化け物だって思ってる。心から。もし牙を剥くなら──殺せる、と思う。
何が違うのか。
俺ァ、何を判断基準にしているのか。
「それで? 最初に言ってたもう一つの聞きたい事、っていうのは、何なの?」
「ん? ……あァ、なんだっけ。いや、そう。そうそう。魔力だ」
「魔力? ……魔力とは何か?」
「それもだが、世界を巡る魔力ってな何だって話。ちげェな、なんで巡ってンだ、ってのを聞きてェんだ」
「わかった。じゃ、とりあえずあのデッカイのガーゴイルに変えてから、その話をしましょう。流石にアレをそのままには飲み込めないから、いい感じに脚を殺してくれると助かるわ」
「りょーかい」
雨が降っている。
その中でも──見える、巨大な影。
勉強会はいったん中止だ。ま、魔法少女は風邪なんざ引かねェんで、普通に作業しながらの勉強会だったンだが。
巨大だ。
巨体だ。
大きく伸びた首は──切り立った崖の上、つまり島の上のほうにまで届くほど長く、それを支える胴体は大岩如きでは済まされない。コイツ一匹でも島に見間違うような、でけェ恐竜。
ブラキオサウルス、って奴さな。
「──色々話聞いた後ですまねェが、やっぱり私ァお前を化け物にしか思えねェや。否定だろうと、なんだろうと──死んでくれ」
その巨大さから、俺達にも気付いてねェ、つまり襲ってきてすらいねェ奴だが。
……矛盾なんざ、わかってる。気付いてる。ダブスタ嫌ってる癖に、結局そォなってンだろう。
だがそれを、言葉に紡いでも、口にしても──心の底から、すまねェとは思わねェ自分がいンだ。
「【即死】」
だってお前達は、いちゃなんねェだろ?
島の化け物のガーゴイル化は着々と進んでいる。
島の中心部にァ一応行ってきた。が、色々と問題点があったために拠点へと帰還。島中にいる恐竜を全部模造して、精神体入れて、恐竜ガーゴイル軍団ってなが出来上がりつつある。
見た目恐ろしい限りだが、一度ブラキオサウルスの背に乗って歩いてもらって……その、年甲斐もなくはしゃいじちまった自分がいる。コイツの製法がどんだけ恐ろしいモンで、どんだけ倫理を侵しているモンかってなわかってるし、決して遊びの道具じゃねェのはわかってんだけど……なんだろォなァ、男の子の部分、というか。
恐竜の背に乗って移動、とかさ。
……ちょいとさ。な?
「そう言えば、この前の、なんだっけ。ブラキオサウルス? が案外強くてアンタが魔力不足でバテちゃったせいで終わった話だけど」
「あァ事細かな説明どーも。魔力の話だろ? 頼むよ、聞きたくて夜も眠れなかったんだ」
「夜明けまで魔力回復でぐっすりだったくせに何言ってるんだか」
「仕方ねェだろ。フリューリ草の補充ができねェんだ、睡眠でどうにかなる部分は節約していかねェと」
「はいはい」
俺のやることってなもっぱら戦闘だ。【即死】ァクリエイティブな事にゃとことん向かねェし、そもそもマッドチビ先生が手伝いを嫌うからな。アイデア出しはたまに求められるし結構聞いてくれるンだが、造形に関しちゃ500年の拘りがあンだと。
まァ俺自身芸術だのなんだのってなとんと疎いからいいんだがよ、たまにこうして手持ち無沙汰な時間ができる。
……マッドチビ先生は俺が魔力回復で寝てる時間も作業してたってンだから、ちょいと罪悪感もな。
「まず魔力とは何か、について説明するけど、その前にアンタがエデンで習った事を教えてくれるかしら」
「ん。教本通りでいいなら、魔力ってな、自己より出でるモノ。己の内側にある、外に働きかける力だ。私達ァ意思を用いることでこれを形にする。肉体を強化したり、知覚を強化したり。出力が大きくなりゃ飛んだり跳ねたりもできるし、亜空間に物を収納することもできる」
「……なにそれ。もっと細かい説明は無いわけ? アンタ、それ聞いてて"ナニソレ"ってならなかったの?」
「なったよ。最初はマジで意味わからんかった。だがお嬢達……あァクラスメイトが色々教えてくれてよ。先公も結構根気よく教えてくれたし、私もあんまし苦労かけたくなかったンで、理解を急いだ。具体的にァ他人が魔法使ってるとこ見てな」
「成程。教本は正直言ってゴミだけど、教師陣はそれなりにしっかりしているのね」
「ゴミなのか」
「ゴミね。そんなことを教えている教本、焚火にでもした方がまだ役に立つわ」
まァそれァ俺も思ってた。
これ当たり前の事しか書いてねェな、って。でも一般人からいきなり魔法少女になった奴に渡す教本って考えりゃ妥当だろ、とも思ってた。俺ァ前世の記憶で魔法ってなが大体どんなものかってのァ知ってるからよ、それで他よりも習熟速度は速かった方なんだ。同期ァいねェが、俺よりちょっと前に魔法少女になった、っつー子が上手く魔法使えねェって嘆いてたこともあったしな。
だから、教本に書くのは基礎中の基礎で、応用は学園生活と共に教えて行くンだと思った。魔力や魔法への理解とかも、そこで。だから全部読破したンだ。これは魔法少女として本当に最低限覚えるべきこと、だと思ったから。
「いい? 魔力っていうのは、世界を流れる血液のようなものよ。世界を巡る魔力がそのままこれと同じ意味ね。魔力は世界にとっての血液。だから淀んでいてはいけないし、それが滑らかに流れている場所は、それこそこの場所のように木々が生い茂り、鉱石に恵まれる。逆に淀んでいる場所には魔物が溢れる他、自然環境も少しずつ悪くなっていく」
「血液……ってことァ、なンか運んでンのか?」
「へぇ、そういう知識はあるのね。そうよ、魔力は世界を循環することで、精神体を運んでいる。精神体というのは入れ物がないと漂うことしかできないのよ。そこに大きな流れが来たら、押されて流される。そして世界に還る。まぁ蘇生槽や形成地点に経路が繋がっていればその限りじゃないんだけど」
「じゃァ、精神体ってな、世界の栄養か何かか?」
「正解。世界に欠かせないもの。世界が世界としてあるために、世界が生き続けるためになくてはならないもの。それが精神体」
「……じゃァよ、マッドチビ先生がやってることって」
「まあ、普通に病巣よね。必要な栄養掠め取って石に閉じ込めてるとか、世界に意思があったりしたらすっごく怒られそうなこと。やめる気ないけど」
倫理としてもアレだが、世界に対してもアレな行為だった、と。
やっぱこのマッドチビ先生尊敬しない方がいいんじゃねェか?
「話を続けるけれど、じゃあ魔力というものが世界を流れる血液だった場合、私達……つまり魔力を宿し、操る魔法少女というのは、何だと思う?」
「んー。……あー。魔力が血液だってのァ変わらねェ。んで、魔法ってなは世界のそれぞれを一身に担うもの、だか言ってたな。司る云々。って考えりゃ、内臓、じゃねェか?」
「正解。魔法少女は世界の内臓よ。魔法少女に覚醒することは、なんでもなかった細胞が突然一つの内臓になること、と考えて良いわ」
「そりゃまた物騒なたとえだな」
「どうしてそう思うの?」
「役割がぶつかり合うだろ。世界を運営すンのにどんだけの役割が必要なのかは知らねェが、魔法少女は死なねェんだ、増えりゃ増える程役割が被って行って、いらねェもんが出てくンじゃねェのか」
人間に二つ目の胃を移植したら倍もの食える、ってワケじゃねェのと一緒だ。スペースだって取るし、それらを稼働させるにゃ相応のモンが必要で、当然栄養も取られちまう。一つだからこそバランスの良いソレが、二つ三つ四つになっちまったら──そもそも人間じゃァなくなるかもしれねェ。
機能的にも、見た目的にも。
「そう思えるのなら、話が早いわ。じゃあ世界の内臓である魔法少女は、彼女らの持つ固有の魔法というのは、何だと思う?」
「何って……世界を改変したり、変質させたりする……ン?」
なんでだ?
マッドチビ先生の【鉱水】もそォだが、班長の【凍融】とか、冷静メイドの【侵食】とか……下手すりゃ世界を壊しかねねェ魔法ってなは、なンである?
身体強化や飛行魔法は別に世界をどうこうする魔法じゃねェ。例えるならせいぜいが胃の調子をよくするとか筋肉量を増やすとかその辺りだろう。
だが、固有魔法ってな、なンだ。
あァさ、上に列挙したモンだけじゃねェ、全部の魔法がそォだ。世界を改変し、変質させ、新たな認識を植え付ける。魔法ってなそういうモンだ。なンだ、そりゃ。
んなもん、内臓が持っていていい機能じゃねェだろ。
「気付いたかしら。魔法少女というもののおかしさに」
「……多分。魔法少女というもの、っつーか、魔法のおかしさだ。存在理由が今んとこわからん。なンだってこんなもんが存在する? 魔法は……世界にとって、不要じゃねェか?」
「いいわね。そこまで行けるのなら、教え甲斐もあるわ」
マッドチビ先生が不敵に笑う。
不敵? ニヒル? ──嘲り?
「増えるだけ増えて、減って行かない魔法少女。当然役割の被る……下位互換、上位互換の魔法を使う子も現れる。世界を司るとされた魔法は、けれど内臓が持つにしては余りに強大。内臓の範疇……つまり、水を水のまま操る、だとか、空気を空気のまま押し出す、だとかじゃなく、意のままに操り、意のままに変えるモノ。世界を世界でなくさせる、世界を別のモノに作り変えるモノ。なぜそんなものがいるのか。なぜそんなものがあるのか」
答えは簡単よ、と。
そう、続ける。
「初めは、魔法少女なんていなかったの。最初にあったのは
「……そォいう顔で言うってこた、それァ悪い事なのか」
「当然でしょ。生きていなかったものを、生きるものにしたのよ。なれば当然──その先には、その果てには」
「死が、訪れる」
内臓になることで、世界に死を齎した、不要で死なない害ある器官。
それが私達魔法少女よ、と。
魔法少女ディミトラは、笑いながら言った。
「なァよ、マッドチビ先生」
「何よ。また質問? いいけど、もうちょっと待ってくれる? 今選別中なのよ」
「魔力が何かはわかった。化け物が何かもちったァわかった。魔法少女が害なのも理解した。んじゃ、創設者達が作り上げたEDENってな、なんだ。そいつらも理解してたんじゃねェのか? 自分達が害である、ってこと」
「……それについては、私からはなんとも。私だってこれらを理解したのは魔法少女になってから……300年くらい経ってからだし」
「どォやって理解したンだよ」
「……アンタがS級かSS級になったら自ずとわかるわ」
「なンじゃそりゃ」
作業は進んでいる。
さっきから何の作業をしてンのか、って。
そのマジのドラゴンとやらの鉱石集めである。
単なる岩は勿論、純度やら硬度やら成分やらで色々とできる事が変わるらしく、そのために島々を巡って【鉱水】でゴリっと持ってくる作業。既にいくつかの島は消えている。自然保護? 聞こえねェなァ。
「高位の魔物もだけど、強い魔力を持つようになるとね、色々と、わかるのよ。世界に対する自己の役割とか、本能に取り残された使命とか……。ま、多分世界側からの抵抗なのでしょうね。内臓を名乗るくらいなら、少しくらい仕事しろ、っていう」
「ってこた、EDENの魔法少女達も、S級SS級の奴らァ知ってる可能性が高ェのか?」
「言語や知識として理解しているかどうかは怪しいけどね。オーレイアは理解してなかったし。ただ、自分が何を求められているのか、くらいはわかるんじゃない? 私は意図的に無視してるけど」
「無視してンのか。つかできンのか」
「最初の頃は従いかけたけど、私のやりたいことと違ったから。なんで私が迷宮なんか作らなきゃいけないのよ。意味わかんないでしょ?」
「迷宮作れ、って言われてンのか」
「作れって言われてるというか、作りたくなるというか? あぁ、ソテイラがあの迷宮を作り上げたのも同じ理由じゃない? 作れって言われたから作ったのに、魔法少女に攻略されて、元の場所から持ち上げられて、その上に学園やら何やらまで作られて。一応同情はしているわ」
……いや、それはどうなんだろォな、って。
数十、あるいは百に届くガーゴイルの群れ。荘厳な装飾の島。地下へと続く階段と、区切りごとに設置された階層。
最後に待ち受けるは巨大なガーゴイルと鉱石を司る魔法少女。
人工島クルメーナってな、紛う方なき迷宮じゃねェか、って。
いや、あるいはEDENさえも──?
「だから、案外EDENの創設者たちも、世界のどこかに迷宮を作り上げている可能性はあるわねー。私みたいな天才じゃないと拒絶できないだろうし」
「世界はなンだって迷宮なんざ作らせてンだよ」
「知らないわよそんなこと。……よし、選別作業終わり。じゃ、そろそろ行きましょうか。島の中心」
「ん。……前、行けなかったモンな」
「一応いることはわかったんだし、行かなくて正解だったでしょ。前準備も無しに近づいたら二人とも死んでいたわ」
「そいつァそォだがよ」
どうやら勉強会はここまでらしい。
とうとう、島の中心へ行く時が来た。
つい最近っつーかちょいと前っつーか、とりあえず地脈点を見に近くまで近づいた時ァ──マジの奴がいたんだ。
マジの奴。
いやさ、プテラノドンだのティラノサウルスだのブラキオサウルスだのと、割合俺でも知ってるよォな連中ばっかりでさ、油断してたってのはある。いたとしてもティタノサウルス……マクロナリア系の何かであって、いやさドラゴンなんざいるワケ、なんて。
まさかまさか、火の玉吐いてくるなんて、って。
俺もマッドチビ先生も、油断しきって近づいたら──わァ大変。
でけェ翼にでけェ胴体。なげェ尾。鋭い爪。こえー顔。燃え盛る口元。
マージなドラゴンが、そこにいた。
「どォすんだ? 素直に近づいても無理だと思うんだが」
「大丈夫よ。この辺にあった黒曜石ありったけ【鉱水】で持ってきたし、新生ガーゴイル軍団もいるし。最悪ぶっ倒れても必ず助けてあげるから、アンタの【即死】でなんとかなさい」
「エ? 【即死】させたらダメなンだろ? 部位だのなんだのはともかく、命奪ったら精神体奪えねェじゃねェか」
「……そうね。失念していたわ。絶対に殺さないで」
「おいおい、決戦間近にアホ晒すのァやめてくれマッドチビ先生」
「はぁ。その呼び名、慣れちゃった自分が嫌だわ……この口悪ちび」
「おォさ!」
「なんでちょっと嬉しそうなのよ」
あんま名前でもあだ名でも呼んでくれねェからな、マッドチビ先生は。
俺とおんなじ理由かと思いきや、単純に「アンタで通じるからいいでしょ」とのこと。さいで。
「じゃあ──行くわよ! ドラゴン退治! 加えて最強のガーゴイル作りのために!」
「おォさ。ここから出て、EDENに帰って──聞きてェ事聞くのと、ルルゥ・ガルの野望と、あっちのマッドチビの策略を砕くために」
おー!
なんて。
……まるで、長年を共にした仲間みてェな事やって。
俺達は、出陣した。