「あ、ローグンさん。ちょっと聞きたい事があるんですけど……」
「はい。ああ、魔力の展性について、ですか。確かにここで躓く方は多いですね」
「ローグンさーん。ごめんなさい、今更聞くのはホントはおかしいんですけど、飛行魔法の高度の上げ方って、45度で合ってましたっけ!」
「はい。間違いないですよ。ただ水平飛行中であれば、に限りますが」
「コーネリアスさん! 好きです!」
「申し訳ありません。私は主人に仕える身。特定の方と恋仲にはなることができませんので」
「私もローグン様、って呼んでいいですか?」
「構いませんよ」
「シエナちゃん貰って良いですか?」
「構いませんよ」
「ちょ、ローグン様!? わわ、持ち上げないでください! というか私結構重いのですが、どうやって……!」
いや、はや。
学園生活というのは、こうも忙しいものでしたでしょうか。
近くに昇級試験が迫っている、というのはあるのでしょうが、それにしても私の周りに来る少女の多い事多い事。
ちらっと梓様を見れば、A班の皆さんと何やら楽しそうに話しております。……あそこに助けを求めるのは愚策ですね。困ってもいませんし、一つずつ対応していくべきでしょう。
昇級試験。
初めに振り分けられる等級区分から等級を上げるために受ける試験。年に一度訪れるこれは、実技と座学の双方を越えなければなりません。
梓様の昇級は推薦状あってのもの。普通はこれを経て等級を上げて行くものであり、SSS級を最終目標と置く学園生の皆様は大忙し。軍部の方でも少しばかりそわそわとした雰囲気が蔓延している辺り、魔法少女においてはどの時代にあっても一大行事、なのでしょうね。
B級の私にはあまり関係ありませんが。
「何を澄ました顔をしている、ローグン」
「私を求めてくださる生徒の皆々様をわざわざ掻き分けて何用でしょうかえるるー」
「ふん。お前がB級にまで落ちた経緯は知っている。だが、キリバチ殿及びエミリーからのお達しだ。もう罰はいいから、もう一度S級にまで上がってこい、とな」
「エミリー様を呼び捨てにする事を許した覚えはありませんが」
「お前が知らないだけで、私とエミリーは友人なのでな」
「──!?」
「そこまで驚くか」
知りませんでした。
えるるーの事など眼中に無かったためでしょう。失態です。
「委細承知いたしました。ので、お帰り頂きたいのですが。私を頼ってくださる皆々様方が怖がっていますよ」
「お前達も、安易に答えを求めるのはやめろ。少しは自分で考えると良い。そのための学園であり、そのための試験だ」
「えー」
「けちー!」
「ひとりみー!」
「そんなに罰を受けたいのかお前達」
随分と懐かれているようですね。
……姉と共に優等生として扱われていた私と、いつまで経ってもD級から抜け出し得なかったえるるー。落ちこぼれ、などと呼ばれ、別に良いなどと鼻を鳴らしていたあの跳ね返りがよく……。
まあ、元より落ちこぼれてなどいなかったのですが。
たとえば。
手にあるペンを一本、最大限の強化を込めてえるるーに投擲。その顔を刺し貫く威力で射出されたそれは──しかし、寸前で回避される。
衰えてはいないようですね。そして、あの頃より強くなった私の投擲ですら、当てる事はできませんか。少しばかり傷付きました。
「──今のは挑戦状と受け取ったが、どうだ、ローグン」
「いえ、実力に陰りがないか探っただけです。しっかりと修練しているようで何よりです。昇級試験、受けてはいかがでしょうか?」
「私の魔法を知っていて、それを試しておいて……いや、いい。お前は昔からそういう奴だった。姉の方がまだ可愛げのある……」
少しいじめ過ぎましたか。
後で菓子折りでも持っていきましょう。えるるーは紅茶を好んでいましたからね。適当な茶葉と甘いお菓子さえあれば簡単に機嫌を取る事ができます。
「なァ、冷静メイド」
「なんでしょうか、梓様」
「先公の魔法っつーのァなンなんだ? 今一瞬、物凄い速さのペンが飛んでいったように見えたンだが」
「おや、見えたのですか? 知覚強化をしているようには見えませんでしたが」
「一瞬な。でも避けられたよな。完全に後ろ向いてたのに」
「はい。えるるーの魔法はですね」
投げ返されたペンを掴む。
その程度の速さでは私に魔法を使わせることすら──む。
「やられたな」
「そのようです」
全く、どこで用意したのか、絵筆とは。
掴んだせいで絵具が顔にかかりました。これはいじめでは? 教師がいじめをしているのでは?
生徒の皆様方に見せないよう【侵食】し、何事も無かったことにする。
私の魔法がグロテスクである、ということはわかっていますからね。
「えるるーの魔法は、【回避】といいます。面制圧である攻撃でなければ意識外であろうと【回避】する……ある意味で梓様の天敵かもしれませんね」
「へェ……そりゃ、良い魔法だな」
「そうでしょうか? 攻撃に転じる事も出来なければ、殲滅力も殺傷能力もない魔法ですが」
「いんやさ、コッチの話だ」
グランセ様もそうですが、本人がどれほど努力しようとも昇級できない魔法、というのはあります。D級に区分される魔法少女の方々は皆そうですね。たまに使い方次第で昇級する……それこそあるるらら様のような方がいらっしゃいますが、基本は無理です。
それをわかっていての先の言葉でしたので、いじめ過ぎたな、と。
旧知である分揶揄いに歯止めが利かなくなるのは悪い癖かもしれません。
「残念ですが、そろそろ授業の始まる時間のようです。皆さま、ご質問は後程」
「はーい」
聞き分けの良い子ばかりでよろしいですね。
それにしても、良い魔法、ですか。
一応、覚えておきましょう。
「こんにちは」
「はいよーこんにちは、お客さんとは珍しいね……って、アンタかい」
「はい。アンタです」
安藤武器工具店。
梓様の懇意にしている銃などを取り扱う店舗であり、S級魔法少女安藤アニマ様の経営するお店でもあります。
そして。
「なんだい、もしや挨拶かい? ──ライラック隊の入隊祝い、とか」
「いえ。普通に梓様の拳銃の整備を頼みに来ました。また、彼女の扱う長距離銃の製作進捗も窺いに来ました次第です」
「素直に祝いくらい寄越しなよ先輩だろアンタ」
「では整備代を祝いとさせていただきます」
「そりゃ祝いって言わないよ」
そう。
特例組遊撃班ライラック隊に入る、残り二人の内の一人が、安藤様です。
理由としては、遠方の地にあっても梓様の銃の手入れができること、及び単純火力の高さから、ですね。安藤様は【業焔】という炎系統においても最上位に数えられる魔法の使い手です。無論【青陽】のエルバハ様には敵いませんが。
故に遠隔魔法少女の火力担当として申し分ない、と。
「まさかアンタと肩を並べる日が来るとはねぇ」
「それについては同意いたします。安藤様におかれましては、私や姉の魔法を"卑怯だ"などと言って頂いた縁でもありますから」
「おいおい、そんな昔の事まだ覚えてんのかい」
「魔法少女に記憶の衰えはありませんから」
「……一応言っとくけどね、今はもうそんなこと思ってないよ。あの頃はアタシも若かった……ことも無いけど、魔法少女のいろはって奴を知らなかったからね。周りが【飛斬】だの【氷壊】だの【自爆】だのと鮮烈な奴らばっかだったからさ、アンタ達の【侵食】と【劇毒】は……まぁ、卑怯に見えたんだろうねぇ、当時のアタシには」
「申し訳ありません。からかっただけです」
「いつもそうだねアンタは」
安藤アニマ様。
一応、後輩、になるのでしょう。私が学園を卒園する頃に入園してきた方であり、そのまま数ヶ月の間だけではありますが、色々と教え、且ついがみ合った仲です。
彼女の言う通り、私達姉妹の魔法やネイビー・ブルー様の魔法というのはどちらかと言えば異端で、その見た目や効果も魔物を彷彿とさせるものでしたから、当時は苦手に思っていた方々も多かったのではないでしょうか。
梓様が怖い恐いという理由もわからなくはない、という事です。
私からしてみれば、【即死】の方が余程怖い魔法だとは思いますが。
「……あぁそうだ。ディミトラは元気だったかい?」
「色々ありましたが、壮健でしたよ。娘さんも私達に預けてくださって」
「む、娘!? アイツ結婚……いや産んだ、というか魔法少女って産めるのかい!?」
「新作のガーゴイルだそうです。ちなみにライラック隊に組み込まれましたよ」
「……アンタ、その性格そろそろ改善しな。アタシは今魔法を撃ち込んでやろうかと思ったよ」
「おお、それは怖い恐い怖ろしい恐ろしい」
「だぁ! 昔から変わらずムカつく奴だね、ホント!」
「貴女も昔から変わらず純情なようで何よりです」
全く、魔法少女は純朴な方が多くて困……りはしませんが、楽しいですね。真面目な顔して嘘を言えば、簡単に信じるので。梓様然り、クラスの方々然り。
「で? 今日来た本当の理由はなんだい。さっさと話しちまいな。ああ、拳銃の整備は終わってるよ。狙撃銃はもうちょい時間がかかるね」
「では、お代はここに。そして、はて、本当の理由とはなんでしょうか」
「結界が必要かい?」
「出来得るのであれば」
安藤様が、いつの間にか手に持っていた小さく透明な玉を潰す。
それだけで──周囲が、外界から切り離された。
安藤武器工具店。かつての名は──安藤疑似魔具店。たったひと月だけ【鉱水】のディミトラ様に弟子入りをし、彼女の技術の中から疑似魔法というものを盗み出してきた、天才。そんな彼女によって経営されていた世界唯一の魔道具の販売店になります。
いつしかそれらを売る事はやめて、このような普通の武器ばかりを扱うようになってしまいましたが……その腕は衰えていないようで。
「で、なんだい。ディミトラ関係だろうが、手早く済ませてくれよ? コイツを使うと学園長が煩いんだ」
「では。──安藤アニマ様。貴女は魔物ですか?」
「──」
偽ディミトラ様の見せた、精神体を別の肉体に入れるという技術。
此度の遠征において、その技術を用いられたオーレイア隊の方々はまだ馴染んでいない様子でしたが、
私は。
私達が今まで会ってきたのがどちらのディミトラ様であるのか、という点を、知りませんので。
全てを疑わさせていただきます。
「成程ね。【業焔】には、疑似魔法を扱い得る許容量が無い。それくらいアンタにはわかるか」
「はい。ですので貴女は、【業焔】を扱う安藤アニマ様の肉体を手に入れた、魔法少女の魔法を劣化再現し得る高位魔物の精神体、なのではないかと。いかがでしょうか?」
「如何も何も」
安藤様は。
にやり、と笑う。
「──アンタもそこまで見当違いな事言うことがあるんだねぇ、安心したよ」
「そうですか。失礼いたしました」
「だけど、着眼点は悪くない。アタシは魔物じゃないが──EDENの味方でもない。それだけは覚えておきな」
「……わかりました。しかし、では、誰の味方なのでしょうか?」
「いや、それを聞く奴があるかい?」
「考えてもわかりませんので」
「いつも通りだね、つくづく……。ま、警戒するに越した事はないよ。それも事実さ。しっかし、ディミトラは、その技術を完成させていたんだね。アタシが弟子入りした時は机上の空論に等しかったんだが……」
「はい。此度は五人、それをされていました」
「へぇ」
この反応は、空振りではないけれど、何か別に隠している事がある、といった具合でしょうか。
一応、頭の片隅に置いておきましょう。
「それでは」
「ああ、ちょいと待ちな」
「なんでしょうか」
結界が解けていく。
疑似魔法。魔道具。武器にも転用できるそうですが、自身の【業焔】を込めた剣を製作したところ、危険すぎて一切売れなかったとかなんとか。
梓様の扱う【即死】の籠った銃弾も魔道具と言えば魔道具ですからね。
色々と未知数です。
「これ、やるよ。あぁアンタにじゃない。ディミトラの娘にやんな」
「これは?」
「ある意味で、その子の姉、かねぇ」
「姉? ……などと詳細を聞くより、お二人ともライラック隊に組み込まれたのですから、その時に渡せばよろしいのでは?」
「アタシはディミトラの弟子だってのをあんまり知られたくないのさ」
「はあ」
ふむ。
つまり、魔法少女は幾つになっても少女、ということですね。
「それでは、失礼いたします」
「ああ。梓にもよろしくねぇ」
「はい」
姉。この紋章が。
……姉?
「……世の中には、私の知らない事も沢山あるようですね」
「ところで、梓様。一つ聞いてもよろしいでしょうか」
「ン? なンだよ」
「アールレイデ様とは、どこまでお進みになられたのでしょうか」
「どこまでっつーのァ、……なンだ。恋人らしいこと、って意味か?」
「おお、まさかお分かりになられるとは。いえ、今の状況……私がライラック様に膝枕をし、耳の掃除をさせていただいている、という現状を鑑みるに、私の方が恋人らしいのではないかな、と思った次第でして」
「んー。ああ、そこ、凄く良い……。じゃなくて。まァお嬢様も冷静メイドも別に私の恋人ってわけじゃァねェんだから、気にしなくていいんじゃねェか?」
身の回りのお世話をさせていただくようになってから、もう5日は過ぎましたか。
梓様の抵抗も段々となくなり、今ではこうして膝枕に耳かきという、魔法少女の恋仲同士がやるような事まで行っております。
余程心地良いのか、グランセ様と相対した時の幼児退行梓様を彷彿とさせる「んん……」や「んにゅ……」などという可愛らしい鳴き声をあげていて、これはもう。
……いけません。私にはキリバチ様とエミリー様がいますので。
「ちなみに耳を食むのはアリですか?」
「ん-。……ん? いや無し無し。それァ恋仲になってからだよ」
「恋仲であれば耳を食むのはアリ、と」
「まァそりゃ、恋仲になりゃ何したってされたっていいだろォよ」
「ほう」
これは貴重、ですね。
梓様の恋愛観。恋仲になれば何をしてもいい……などと、なんと過激な。
少しばかり梓様の寝巻き*1の切れ目から手を入れてみる。お腹や胸に触れる。まさぐる。
「……なんのつもりか知らねェけど、やめとけよー。あんまり調子に乗ると、キラキラツインテ呼ぶぞ」
「ほうほう。では、呼んでくださって結構ですよ。出来得るものなら、ですが」
「ちょ、おい、くすぐったいって……やりすぎだって!」
「申し訳ありません。楽しくなってきてしまいました。興奮を自覚しています」
「何冷静に言ってんだ、うひゃァ!?」
興奮している。
私が? ……頭の片隅に置いておきましょう。私の異常行動は今に始まった事でもないように思いますが。
「暴れないでください。耳かきが貫通しますよ」
「いや暴れさせてンのお前だし発想がこえーよ」
「……なんだか、眠くなってきましたね。耳穴に耳かきを刺したまま寝てみるというのはいかがでしょうか?」
「だからこえーって。けど、眠いのは私も一緒なンでな。耳かきやめていーから、一緒に寝ようぜ」
「おお、とうとう自らお誘いを……」
「言っておくけど、そォいう意味じゃねェからな?」
「はて、そういう意味とは?」
なんのことやら。
……それにしても、眠くなる、ですか。
これも、頭の片隅に記録します。
耳かきをしっかりと取り出してから、梓様をベッドに運ぶ。
彼女を寝かせ、布団をかけようとすると、無理矢理に引き込まれた。強化は使っていない様子でしたが。頭の片隅に記載。されるがまま、同衾する。
「んん……」
「おや、まるで赤子ですね」
梓様はもうほとんど眠りかけの状態で、私の胸元に顔を埋めてきます。
キリバチ様の仰っていた女性慣れをさせる、との話。もう必要ないように思いますね。
もっとも、私とて赤子や幼子を可愛らしいと思う心は持ち合わせております。なので、しっかりと抱いて眠りましょう。
──眠るフリ、ですが。
夜。
誰もが寝静まった──とは言い難いですが、昼や朝よりかは静かになったEDEN。
その通路をひたひたと歩く者が一人。
「──何をしているのかな」
「──!?」
「……大丈夫。
無言の抗議をします。
今のは流石に驚きました。
「驚かせてしまったのは申し訳ないと思うけれど、流石に気になってしまうよ。こんな場所で、少女を尾行するメイドさん、なんて」
「……あるるらら様は、何故ここに?」
「私はいつでもEDEN中を漂っているからね」
「成程」
傍迷惑な趣味ですね。
などとは口にいたしません。確かにたまにですが、あるるらら様を見かける事があるような気がします。まぁ、禁止された区画以外、どこにいようと魔法少女の自由ですからね。
「それで、あの子は何をしているのかな」
「それを突き止めるため、尾行をしております」
「なるほど。ああ、隔離塔に入っていったね」
「……」
隔離塔。
エミリー様など、なんらかの理由で戦う事の出来なくなった魔法少女が入る塔です。所謂精神病院の類。
また、最下層には反魔鉱石による封印措置を受けた魔法少女の石像が保管されている塔でもあり──紛う方なき、禁止区域、です。
そこに入っていく──。
「梓は、隔離塔に何の用があるんだろうね?」
「あるるらら様。一つお聞かせ願いたいのですが、よろしいでしょうか」
「何かな」
「──先日、大浴場にて梓様に【透過】した時の事です。あの時──」
のことを、詳しくお聞かせ願えませんか、と。
そう問おうとして、けれどあるるらら様が口元に指をやったのを見て、押し黙る。
可愛らしい。
「ン? 何やってんだお前ら」
その声は──背後、軍事塔の方から聞こえた。
「梓様」
「やあ。先日ぶりだね」
「あァ、そりゃそォだがよ。なンだ、風呂での合体を通して仲良くなったのかよ」
「エミリー様の事で、少し話をしていました」
「あー、暴走繭の。なンだ、キラキラツインテも面識あったのか」
「私には攻撃が当たらないからね。遠隔魔法や特殊魔法の的としては優秀なんだよ」
「……いんやさ、不当な扱われ方って感じたら、怒っていいんだぞ?」
普通の梓様、ではある。
ならば、隔離塔に入っていったのは──。
「梓様の方こそ、どうされたのですか?」
「ん-。まァ言っていいかわかんねェんだがよ」
「はい、どうぞ。私達はほぼすべての情報開示を許される階位を得ていますので、問題ないかと」
「なんでもよ──」
その時、梓様が微かに笑ったのを私は見逃しませんでした。
頭の片隅に記録します。
「私の偽物が、出る、らしィんだわ。この辺によ」
そして、そんなことを仰られたのです。
「ホートン種、ですの?」
「あァよ。冷静メイドとキラキラツインテも目撃したってーんで、間違いねェよ。私含め、結構な人数が見てるらしいからな」
「ふむ。自分とそっくりなホートン種がEDENをうろついている、か……」
翌朝の教室は、その話でもちきりになっていました。
あまり首を突っ込む気は無いのですが、昇級試験が近づいているというのにそんな都市伝説で騒いでいると、来ますよ、なんて。
注意をする前に、来ました。
「──ほう。お前達、随分と余裕そうじゃないか。これは、全員が一等級以上昇級すると、そう見ていいんだな?」
「で、出たぁ!」
「誰がホートン種だ誰が!」
ホートン種。
精神体の一種であり、敵対者の姿を真似て現れる魔物がいます。
精神体ゆえに攻撃が通り難いという防御力を持つ反面、そもそも滅多に現れず、攻撃してきたとしても魔法を扱えない本人の域をでない、ということもあってか、B級に区分される魔物。
私達が見たものがそれであったのか、という所は疑問ではありますが、実際にホートン種がEDEN内部に入り込んでいること自体は事実のようですね。
「まったく……。おい、ローグン。お前もお前だ。お前は大人なのだから、騒いでいる奴らを嗜めるくらいはしたらどうだ」
「今は生徒ですので」
「……ふん」
「おや、仲間が欲しかった──という表情にも見えますね」
「うるさい!」
本当に表情の分かりやすい子です。
昔も……いえ、あまり懐古に浸るのはやめておきましょう。
少しばかり、気になる事が多すぎますので。
「とにかく、昇級試験はもうすぐだ! 実技は期待しているが──座学で落ちる、などというものが出ないよう頼むぞ?」
「はーい」
「よろしい」
昇級試験。
……本当に受けるのでしょうか、私。
上がってこい、などとは言われましたが……。
「──す、すみません! 遅れました!!」
「問題ない。まだ遅刻とは言えない時間だ。席に着くといい、シエナ」
「は、はい! ありがとうございます、えるるー様!」
「様呼びは……まぁいい。では授業を始めるぞー」
もし、本当にホートン種が出るのであれば──EDEN防衛班の落ち度、なのですがね。
その辺りは、どうなっているのやら。
「なァよ、マッドチビ先生」
「何よ」
「西方どころか大陸の一つも見つかってねェってな、ヤバくはねェのか」
「馬鹿ね。──死ぬほど不味いわ。これ、方角あってるのかしら」
「おいおい」
「そろそろ着くはずなのだけど……あの島が、EDENと正反対の場所、とかでなければ」
「だとしたらどーやって私達ァ流れ着いたんだよ」
「だとしなくてもどーやって流れ着いたのかわかんないでしょ」
「……そォだな」
「そうよ」
二人の休息は、まだまだ続く──。