遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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34.鈍斗灰瀬戸塔業.

「ウォムルガ戦士団、ってな、EDENと同盟組んでる組合なのか?」

「いえ、そのような名は聞いたことがありませんね。少なくとも大陸に登録された組合、集落ではないかと」

「……」

 

 無事にクソデカトンボを墜落させた後、追い付いてきたマッドチビ先生とガーゴイル軍団による絨毯爆撃……もとい鉄槍ガトリングでクソデカクモとクソデカムカデを攻撃。ムカデもクモも仕留めるにァ至らず逃がす結果になってしまったものの、やばそォだった2人を助ける事ァできました、と。

 んで、その2人が「村に案内する」ってなこと言って連れて来られたのがこの集落。

 

 ウォムルガ族の村。あるいはウォムルガの戦士団。

 冷静メイドも聞いたことのないその村の入り口で、「説明してくる」ってな事を言った2人を待ってる最中ってワケだ。

 

「なァよ、冷静メイド。あいつらってな」

「はい。魔力を持っていました。服装が統一されていたことから変身はしていないようですが、恐らくは魔法少女です」

「だよなァ。だが魔法らしい魔法使ってなかったよな。精々が身体強化くらいでよ」

「……」

 

 マッドチビ先生ァ何か気になる事でもあンのか、さっきからずゥっと土いじりをしている。

 地質調査、って奴なんだろォが、マジに土触ってわかるもんなのかね。【鉱水】じゃ砂や土は操れねェらしィんだが。砂鉄とか砂金ともなれば別、とも言ってたけど。

 

「しっかし、EDEN以外の魔法少女の集落、ねェ。なンだ、一応マッドチビ先生のクルメーナもそォではあるが、こういうガチな集落ってのを見ると、マジにあるンだなって実感するってなトコはあるよな」

「そう、ですね。……魔法少女の集落であるかどうか、はまだわかりませんが」

「ン? そりゃどォいう」

 

 なんて雑談をしていたら、先の2人が戻ってきた。

 

「族長も、説明をした。……無理だ。余所者を受け入れる程、村に余裕はない」

「ン? あァいいよ、私達は別に飲まず食わずで生きてられるし、そもそも村に身を寄せるって気ァ無ェのさ」

「そうなのか? まるでアインハージャだ。それなら、どうしてこの島に来た?」

「あァよ。ちょいと道に迷っててな。でけェ陸を探してンのさ。それで彷徨ってたら、ここを見つけたってだけだ」

「大きな丘であれば、北にある。だが、そこには数多の魔獣が出る。此度の襲撃よりも強い魔獣が」

 

 さてはて。

 色々気になるワードが出てきているが、どっから攻めたモンかね。

 なんぞか、あの恐竜島から楽しいんだよな。ワクワクしてる、っつか。今もEDENじゃお嬢達が危険な目に遭ってるかもしれねェっつーのにさ、なんぞか──懐かしい、に近いかね?

 冒険にワクワクするってな男子のサガなのやもしれねェが、それだけじゃァない気もする。拳銃のない俺じゃパワーダウンも良いとこだが、マッドチビ先生作の剣を携えてンのもプラスしてるんじゃねェかな。だって憧れァするだろ、剣ってなよ。

 

「失礼。魔獣、とは何でしょうか」

「先程貴女たちが倒した、体躯の大きな獣や虫のことだ。彼の者の使徒。雷の使徒。ベルウェークの使徒」

「なるほど。貴女方は、あれらと戦っていたようですが、それは何故でしょうか?」

「魔獣は村を襲う。私達はアインハージャだから、村を守る使命がある」

「アインハージャ、とは?」

「村を守る者だ。食べることも水を飲むことも必要なく、死したとしても次の日には蘇る至高の戦士。私達はずっと生きている。死んでは蘇り、蘇っては戦い、死ぬ」

 

 ……聞いてる限りァ、魔法少女と同じだな。

 だが、魔法少女の集落ってワケじゃねェ、魔法少女がいる人間の集落、か。

 

 はン。俺ァっとにどうしちまったのかね。

 ンな腕の広い奴じゃねェこた自覚してたはずなのによ。なんだって俺ァ、こいつらにまで死んでほしくねェとか思ってンだ? 筋違いにも程があらァよ。

 こいつらァ──戦いを望んで、死さえも望んで。それを栄誉だって思ってる。

 そいつらに死んでほしくない、なんざ言えるはずもねェやな。そもそも初対面に等しいんだ。名前も知らねェ。

 

 だってのに、なんで。

 

「使徒、つったか。ってこた、その大きな丘に本元がいンのか? ベルウェークって奴が」

「丘にはいない。空にいる」

「空ァ?」

 

 空。

 北の空。

 ……あァ、なんぞ暗雲ゴロゴロしてやがんな。雷の使徒。ってこた、本体は雷の化け物か?

 高位の化け物で、雷扱う奴が他の化け物使役して……村を襲わせている? なんだってそんな七面倒なことしてンだ。自分から出張ってこいよ。

 

「そいつ倒すのァよ、禁忌か?」

「不可能だ。ベルウェークには剣も槍も通じない。過去、数多のアインハージャが彼の者に挑んだが、倒す事のできた者はいない」

「ン、なんだ。お前ら以外にもアインハージャってなはいンのか」

「いる。だが、今はいない。今は私達がアインハージャだ」

「……あーっと?」

 

 どォいう意味だ、そりゃ。

 おじさんに理解できるよう説明してくれ。

 

「ウィジ。説明が下手」

「ならばお前がしろ、リジ」

 

 さっきから黙ってた方……2人の魔法少女の内の一人が、前に出た。

 口下手な感じがしたから説明だのなんだのはこっちの子に任せる、って感じかと思ったら、普通に喋るンだな。

 

「一つの時代において、アインハージャは2人までしか存在できない。今代の私達はあと7回蘇ることができるけど、それを終えたのならば私達は世界に還る。そして、次代のアインハージャが生まれる」

「なるほどね」

 

 とりあえず相槌を打ちァしたが、どォいう事だろォな。

 俺達魔法少女とおんなじだって考えりゃ、蘇生の回数制限なんてモンはねェし、魔法少女がいなくなったら次の魔法少女が覚醒する、なんて仕組みでもねェ。まァいなくなる、なんてことがまずないんだが。

 村を守るために魔法少女に覚醒する仕組み、みてェなのがあると仮定したとしても、んじゃ誰がそれを仕組んだのかってトコと、魔法少女への覚醒を完璧にコントロールしてるっつーちょいとヤバめな問題点が浮かび上がる。

 

「マッドチビ先生、蘇生槽ってな、そォいう仕組みにできんのか?」

「不可能よ。蘇生槽はそういう仕組みじゃないし、そもそもこの村には蘇生槽がない。ね、アンタ達。アインハージャが蘇るっていうのは、どうやって蘇るの?」

「命を散らした場所で、傷や欠損を癒した状態で復活する。アインハージャは不滅だ」

「ほらね」

 

 マッドチビ先生がどォやってここに蘇生槽が無いと見抜いたのか、ってながちょいと気になるが、なるほど、蘇生槽での蘇生たァ根本から違いそォだな。

 つか、確かに……無いんだよな。

 俺でも感じ取れるよォになった、地脈点って奴が。この島にァない。

 

 あるのは。

 

「お二人とも、ありがとうございました。私達は大きな丘の方へ行きます」

「だな」

「危険だ。アインハージャでもないのならば──待ち受けるのは、死だけだぞ」

「ウィジ。この3人は、ヴァルメージャかもしれない」

「何?」

 

 世界を流れる魔力。

 それが集中しているのァ、確実に北だ。丘っつーのァまだ見えねェが、そこに化け物が集まっててベルウェークとやらがいるってンなら、あのドラゴンよろしくなんかが坐してンのァ間違いねェだろ。んで、アインハージャのわけのわからん蘇生や覚醒の仕組みの大本もそこにありそォだ。

 原理を理解せずとも、力の根本叩いちまえばなんとかなるだろ、ってな。

 

「お前達は、ヴァルメージャなのか?」

「いいえ。私達はヴァルメージャではありません。アインハージャでもありません。ですが──魔獣程度には負けないと、先ほどお見せいたしました。危険は重々承知でございますが、私達には向かわなければならない場所があります。ベルウェーク程度、障害にはなり得ません」

「……ならば、私達もついていく。ベルウェークを倒し得るのならば、このウォムルガ族の村には安寧が訪れることだろう」

「同意する。次の襲撃は明日。日の落ちる前に倒し得るのであれば、過去のアインハージャも浮かばれる。ただし、日が落ちたのなら私達は帰らなければならない。村を守る事こそが使命」

「いんやさ、別についてこなくてもムガ」

「ええ、じゃあ道案内頼める? 私達は強いけれど、唯一弱点があってね。頻繁に迷うのよ。その大きい丘とやらを発見できていない以上、夜の海を彷徨ってこの島にもう一度辿り着くかもしれないわ」

「わかった。だが、案内だけでなく、私達も戦う。私達はアインハージャ故」

「それは勝手にして頂戴」

 

 いやさ、固有魔法を使えねェんだから、ついてきたら危ねェだろ、って言葉はマッドチビ先生の手で塞がれちまった。まァ使えても危ねェのがここにいるんだが。

 けど、どォいう了見だ。冷静メイドが知ったかぶりして一旦離れよォとしてる、ってな伝わったから、俺もサポートについてくんな、って言おうとしたらのコレ。マッドチビ先生にァ冷静メイドのノリァ伝わらなかったのか?

 

 まァ確かにマッドチビ先生と冷静メイドァまだ互いを信用しきれてねェだろォからなァ。

 俺が仲を取り持たねェと、いずれ喧嘩が起きそォだ。

 

「何俯いてんの。行くわよ」

「ん、あァよ。……な、マッドチビ先生」

「何よ」

「冷静メイドとァ仲良くしてくれな。悪い奴じゃねェからさ」

「……何の話?」

 

 嫌だぜ、おじさん。

 もう仲間だと思ってンだよ。その二人がさ、喧嘩するとことか。見たくァない。するなたァ言わねェよ。人間だ、価値観のすれ違いもあるだろう。だがよ、今俺達3人ってな唯一EDENを知ってる……なンだ、孤立無援、天涯孤独たァちょいと違うが、そォいう信頼関係あっての……。

 

「梓様。何やらしんみりしている所申し訳ないのですが、急ぎますので」

「あァさ」

 

 今の冷静メイド、ちょいと怒り気味だったよォな。

 ……もしかして俺、なんぞ空気読めてねェか?

 

えはか彼

 

「改めて。ウィジだ。ウォムルガ戦士団にて、今代のアインハージャを担う」

「リジ。ウォムルガ族がアインハージャ」

「コーネリアス・ローグンと申します。私達はアインハージャでもヴァルメージャでもありませんが、魔獣の一匹や二匹に後れを取る程弱くはありませんので、お見知りおきを」

「ディミトラよ。この移動要塞・偽竜母艦LOGOSを含め、周囲に飛んでるガーゴイルの全てを作った天才彫金師。だから、あんまり逆らわない方が良いわ。私の気分一つで外に排出するから」

「なンで脅してんだよマッドチビ先生。あァ私ァ梓。梓・ライラックだ。よろしくな、青バンダナ、赤スカーフ」

「……?」

「名乗ったはずだが、聞こえなかったのか?」

 

 あァさ、久しぶり……でもねェか。

 あだ名つけてピキられるってな、なんぞや懐かしくなるな。んな時間経ってねェのによ。

 

「梓様は他人を名前で呼ぶと傷を負う呪いにかかっています。お許しを」

「なんと。それは失礼した。しかし、呪いか。やはり以前にも魔獣との交戦経験があるようだな」

「はい。貴女方がはじめに敵だと認識したこの艦も、元は魔獣でした。しかしながらこちらに在らせられるディミトラ様の御業により征服、こうして私達の居住空間と成り果てた次第です」

「それは……やはり貴女はヴァルメージャなのではないか? ヴァルメージャはアインハージャには扱うことのできない秘技を用いて魔獣と戦うと聞く。ディミトラ……いや、ディミトラ殿。貴女は」

「私の正体を、何故アインハージャの貴女達に話さなければならないの?」

「──失礼いたしました。ご無礼をお許しください、ヴァルメージャ」

 

 ンー?

 なンだなンだ。マッドチビ先生も冷静メイドも、単なる知ったかぶり、ってワケじゃねェのか?

 なんぞか拾えるワード全部拾ってちゃんと推測して、それが全部的中してる……ってな、そうそうあり得る事じゃねェと思うンだが。

 

 しかし、そのヴァルメージャとやらはアインハージャより上の存在なのな。

 アインハージャが魔法少女だとして、じゃあヴァルメージャってなンだ? 俺達でいう学園長とか上官とかそォいう類か?

 

「あァよ、お二人さん。こっちの二人ァちィとばかし上の奴らなンだがよ、私ァ違う。下っ端も下っ端さ。で、この調子でよ。なんも教えてくんねーんだ。だから、ヴァルメージャだのベルウェークだのってのをもう少し詳しく教えてくれねェか?」

「そうなのか。わかった。では、騒がしくしないよう、他の部屋で話すとしよう。ヴァルメージャの論場にアインハージャがいることは許されん」

「ならコッチだ。あァよ、マッドチビ先生。空き部屋使うぜ」

「許可するわ」

 

 これでいいっぽいな。

 

 何、このLOGOSってなマッドチビ先生の体内に等しい。

 なんぞやべェことされそォになったら、止めてくれるだろ。ちゃんと音も拾ってくれるだろォし。

 

 しかし、でけェ化け物に慣れてると、LOGOS見ても驚かねェんだなって。冷静メイドはあれでいて、初めて外に出た時ァその大きさや造形に驚いてたモンだが。

 

 それとも、いんのかね。

 こんくらいでけェドラゴンが、他にも。

 

 

 

「ヴァルメージャとは、数多のアインハージャの祈りに応えて現れる、誰よりも強きアインハージャのことを指す。ヴァルメージャはアインハージャが束になっても敵わず、更には天を割り、地を裂くような秘技を使うという」

「成程。そいつァ確かにマッドチビ先生に似てンな」

「やはりか」

 

 背中メッシュの【神鳴】とか、迷宮探索ン時に入り口で挨拶したマルハーバンってな魔法少女の【断裂】に近い魔法を扱う魔法少女がいるンだろォな。

 んで、一応そのヴァルメージャってのがアインハージャの一員でァあるってな知られてると。

 つまるところ、やっぱり全部魔法少女だ。同時に蘇生槽じゃねェ手段で蘇生してる魔法少女でもある。俺ァ蘇生槽だけが唯一の蘇生手段だって思い込んじゃいたが、確かにそれだけしかねェってのァ()()()だよな。

 

 魔法少女ってなが、人工的に作られたものでも無い限り、だが。

 

「ベルウェークってな、どんな見た目してンだ?」

「空に座す巨躯の魔獣だ。牛の頭、戦士の胴体を持ち、4対8本の手足と大きな翼が特徴的だろうか。雷雲と共に動き、雷雲を意のままに操る」

「……ン?」

 

 なんぞか、聞いたことのあるよォな。

 

「だが、ベルウェークに辿り着く以前に、大きな丘にいる数多の魔獣を倒す必要がある。この、ロゴス、と言ったか。これで近づいたとしても、撃ち落される可能性は高い。過去、空を飛び得るアインハージャが直接ベルウェークに攻撃をしかけた事があったが、リコザという魔獣によって撃墜された」

「撃墜するってな、手法ァどォいうのだ。なんか飛ばしてくンのか?」

「糸だ。リコザは8の脚を持ち、口から糸を発する他、毒も扱う」

 

 毒グモで、糸吐いて、しかもその精度ァ飛んでる人間大のモンに直撃させられるくらい、ね。

 とんだ化け物だ。精神体でもねェのに遠隔使うたァ面倒くせェ。流石に糸ァ殺せなそォだな。プテラゴイルが盾にァなってくれそォだが、受け止め切れるかどォかは微妙か。威力による。

 しかし、空を飛べるアインハージャね。飛行魔法を使える奴もいた、と。

 

「お前らアインハージャってな、普通の人間にゃできねェ事ができンだろ? たとえばこう、腕の力を一時的に強くするとか、早く動けるよォになる、とかよ」

「よく知っているな。そうだ。我々アインハージャは、戦いの詩によって身体を強化することができる」

「詩?」

「そうだ。戦いの詩、守りの詩、癒しの詩。アインハージャに伝わる、アインハージャのみが使い得る言葉で、私達は身体を強化する」

「へェ。ちなみにそれってな、私に教えてもらうことァできんのか?」

「構わないが、アインハージャでなければ使うことはできないぞ」

「いいさ。そォいうの知りてェだけだからよ」

 

 特に、癒しの詩ってな。

 すげェ気になる。固有魔法を用いずに癒しってのができンのなら、収穫も収穫だ。そもそも固有魔法に癒しが無ェんだけどよ。

 

「まず、戦いの詩は"逢丹異弩喪上巴環"だ」

「ウィジ、そもそも聞き取ることができないと思う」

「ああ、そうか。そうだったな」

「"逢丹異弩喪上巴環(更なる力を欲す)"?」

「え?」

 

 ……なんだ。

 すげェ、耳馴染みのある言葉だな。そのアインハージャの詩、ってな。

 俺ァよく使っている、よう、な? ン? そォだっけか。

 

「聞き取れるようだな。やはりお前はアインハージャなのか?」

「……ウォムルガ族以外のアインハージャがいると聞いたことは無い」

「あァよ、なんぞ聞いたことある言葉だったンだ。他の二つも聞かせてくれ」

「守りの詩が"逢丹異弩喪上櫓刃笥賭"で、癒しの詩が"逢異愚埜迂意図"だ」

「"逢丹異弩喪上櫓刃笥賭(更なる堅固を欲す)"と……あァ、なるほど。"逢異愚埜迂意図(無視をする)"か。癒しの詩ってよりかは、鎮痛用かね」

 

 求めていたものじゃなかった。

 一時的に痛みを消す、ってだけだ。治すワケじゃァねェ。

 

 だが、なンだ。

 すげェしっくりくる。魔法ってな詠唱が必要、っつー前世の先入観のせいかね? ンな先入観持ってた覚えァ無ェが、なんか正しい方法を見つけた、って感じがすげェ。

 いやまァ戦闘中に一々ンなこと言ってたら色んな判断が遅くなりそォだが。

 

「あン? だが唱えても発動ァしねェのか」

「精神力が必要だ。詩と共に精神力を込める事で、詩は現実になる」

「……なるほど」

 

 魔力込めろってことね。

 ま、そこァ当然か。込めずにできたらそれこそ御業だ。

 

「アンタ達、ブリッジに来なさい。見えてきたわよ」

 

 にゅんっと突き出てきた伝声管から、マッドチビ先生の声がした。

 一瞬驚いたような表情を見せた青バンダナと赤スカーフも、その声にそォいうモンだって納得したンだろォな、頷いてこっちを見る。

 

「あァ、行くか」

「一つだけ、言っておく」

「ン?」

「私達はアインハージャだ。お前やヴァルメージャがどのような戦い方をするのかは知らないが、私達の事を気にする必要はない。簡単に死ぬつもりはないが、死んだ所で翌日には蘇る。故に、自身にのみ集中しろ。……ヴァルメージャやもう1人の者と違い、お前は、その」

「弱そうだから。ウィジ、言葉は濁さずに言った方が良い」

「はっはっは。大正解」

 

 クソデカトンボ倒した時ァ結構活躍したんだけどなー。

 そっかそっか、やっぱマジの戦士にゃ見抜かれるか。

 

 ……お前が一番弱そうだ、ってな、まァその通りなンだがよ。

 

「すまねェけど知らねェんで、勝手に助けさせてもらうよ。私の寝覚めが悪ィんでな」

 

 いやはや、っとに。

 ……俺ァ、こんなにも融通の利かねェ奴だったかね。もう全世界の人間が死ぬの嫌がってねェか。ンなこた無理だって、わかってるだろォによ。

 

えはか彼

 

 ブリッジに着くと、なるほどなるほど。

 前方に陸地。そしてその奥の方に山があって、山の頂は暗雲に飲み込まれてる。

 そこァごろごろと雷が響いてて……ま、確かに「なんぞかいますよ」って感じだ。

 

「マッドチビ先生、大体の話は伝わってるか?」

「ええ。聞いた話だけじゃなく、確認も済んでいるわ。見える? あそこにいるスパイダー種」

 

 大陸の端。

 尻を持ち上げてこちらを威嚇するよォな姿勢を取ってるクソデカクモが1匹2匹と、その眼前の海に浮かんでる糸でめちゃくちゃにされた……多分プテラゴイル。

 射程ァそんなでもねェのか、LOGOSに対しては臨戦態勢を見せるだけ。距離にして500mくらいか? それにしたって大概なンだが。

 

「アレがリコザであってっか?」

「ああ。間違いない。気を付けろ、奴の吐く糸には毒がある」

「なら、破壊すればいいわね」

 

 マッドチビ先生が手を翳す。

 伴い、周囲を飛んでいたプテラゴイル計30体が──鋭利な槍へと姿を変える。それは次第に回転を始め、甲高い音と共にその速度を上げて行く。

 

「貫きなさい」

 

 行った。

 凄まじい威力を持つのだろう槍が、3匹ほどのリコザへと殺到する。

 ティラノを殺した時のアレたァワケが違う。ちゃんと厳選した硬度の高ェ鉱石を用いた、【鉱水】による攻撃。それは迎撃にだろう打ち出された糸を容易く引き裂き、リコザの頭蓋を串刺しにする。さらには──。

 

「爆ぜなさい」

 

 毬栗か、ウニかね。

 突き刺さった鉱石ァリコザの体内で一旦液体に戻り、弾ける形で再度凝固。体内全部を串刺しにしたオブジェの出来上がりさ。

 

 いやさ、やっぱこえー魔法だよ、【鉱水】ってな。

 それを操る練度も──マッドチビ先生の発想力も。ちゃんと。

 

「調子良いじゃねェか、マッドチビ先生」

「当たり前じゃない。アンタ達が散々こき下ろしてくれた私のドラゴンが、実在するってわかったのよ? 私の芸術センスはやっぱり天才的だった、ってコト。どう? 見直したかしら?」

「あァそーいうコトね」

「決してドラゴンではないと思われますが」

 

 実在するとしてもありゃドラゴンじゃねェよ。

 実在するのが驚きなのァそォなんだがよ。

 

「で、どォすんだマッドチビ先生。このままベルウェークってな奴のとこまで突撃か?」

「いえ、それは無理ね。アンタには言ってなかったけど、LOGOSは雷には弱いのよ」

「……あー。そりゃ、金属を多分に含んでるから、か?」

「そうよ。金属というのはね、雷を引き寄せるの。これが単なるガーゴイルなら問題ないのだけど、中に私達が乗っている時点でキツいわ。私は自分で自分を守れるけど、アンタはそうじゃないでしょ?」

「あァよ、私の弱さをよくわかってくれてるよォで、ありがたい限りだ」

「当たり前じゃない。どれだけ一緒に居ると思って……あら、そうでもなかったわね。そんなに長くはいないわ。精々が十日くらい?」

「いいよ何日でも。んじゃよ、冷静メイド。頼めるか」

「勿論でございます」

 

 LOGOSで突入できねェってンなら、道は一つだ。

 ハッハッハ。カチでの強硬突破、ってな。

 

「ま、安心しなさい。ここから補助はしてあげるから。大きい魔物も、上からの雷も、全部防いであげる。話を聞くに、そのベルウェークというのは精神体の可能性があるから、さっさと行ってさっさと殺してきなさい。ホントは戦場になんか出したくないんだけど、アンタが言う事聞かないってもうわかったから」

「あァさすまねェな。あンだけ色々言ってもらって、無様に泣いといてよ。どォも私ァじっとァしてられねェタチと来た。それに──妙に楽しいのさ。恐竜島の時から、ここでも。どォにも、心を押さえられそォにねェ」

 

 LOGOSのドアを開ける。

 なんだ、ヴァルメージャの論場、だっけ? だからだろう、ずっと押し黙ってた青バンダナと赤スカーフもついてくる。

 

「石造のガーゴイルに乗っていきなさい。金属のガーゴイルは上空に置いておくから、間違っても飛び移らないこと」

「りょーかい!」

 

 了解、なんていいつつ。

 久方ぶりの──姫抱きをされる。苦労かけんなァ、冷静メイド。

 

 だがよ、はは。クソみてェに楽しいや。

 

 何なんだろうな、これ。原因突き詰めてェのァ山々なンだが──今は早く、あそこに行きたくて仕方がねェ。

 

「参ります」

「アインハージャ戦士団がウィジ、参る! 逢丹異弩喪上櫓刃笥賭!」

「リジ。義武明日喪上巴環!」

 

 飛ぶ。

 飛んだ。

 

 さァ行こう。ドラゴン退治って奴だ。ソレがドラゴンかどォかは知らねェがな。

 

 ハハハ。

 良い言葉だ、本当に。んじゃいっちょ、俺も。

 

義武明日比丘取意(我らに勝利を)!」

 

 この言葉──あァ、使いやすい。

 気分良いぜ、全くよ。

 


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