遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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36.塔久那琉阿可運多中苦.

 現状を整理しよう。

 

「とりあえず、簡単に現状を整理するわ」

「あァさ、頼む」

「まず、アンタ達が山頂へ登っていったあとのこと。雷雲もなくなったから、私はLOGOSにこっちへ来るよう命令を出したの。ウィジとリジをそれに乗せて、アンタ達の回収を、と思った辺りでLOGOSは攻撃を受けたわ。後方、ウォムルガ族の村のある方向から、遠隔の何かが飛んできた。勿論そんなことでどうにかなるLOGOSじゃないけど、問題はウォムルガ族の村の方。LOGOSじゃ遅すぎるから速力特化の軽量プテラゴイルでウォムルガ族の村を見にいったら、見るも無残な壊滅具合。多数のウルフ種とレーヴァン種がいた」

「壊滅具合ってな、どォいう状況だ」

「文字通り、言葉通りよ。食い散らかされた人々と、倒壊した家々。ウルフに食い破られた死骸とレーヴァンに破壊された全てが、そこにはあった」

 

 レーヴァン種ってな、カラスの化け物のことだ。でけェカラスで、そこそこ知能が高い。中にァ精神体でもねェのに魔力を繰る奴もいるらしい。

 オオカミとカラス。……ね。

 

「だからすぐに引き返して、アンタ達にそれを伝えようとしたら、丁度ウィジとリジがローグンを受け止めているところに遭遇したの。腹部を削がれたローグンは、けれどすぐに【侵食】して復活。全員でLOGOSに乗り込んでアンタを回収した。ま、状況自体はこの程度よ」

「あァよ、わかった。じゃ、今後と敵についてを考えよう」

「ええ。敵はルルゥ・ガル。及び引き連れている魔物と、蘇生したベルウェーク」

 

 魔煙草を吸う。

 ふゥ。脳がキュリキュリ回転していく。あァさ、色々考える事があンな。

 

 まず。

 

「なンでルルゥ・ガルがこの地に来たのか、ってトコだ」

「この辺りが大陸にほど近い場所にあるか、何らかの装置や魔法で来訪者を検知する仕組みがあるのか、本当に偶然か。どれかしらね?」

「偶然、だろォな。言葉からして、私達がここにいるってわかってねェ様子だった。世界中探し回ってたら偶然見つけたってな、ンな感じだ」

「そうね。そして、ルルゥ・ガルは私達を……いえ、アンタを探していた。私が生きている事も知らなかったみたいなのに、アンタだけは生きてるって確信があった。これがどういうことかわかるかしら?」

「ん……」

 

 EDENにいるっつー俺の偽物。

 単純に考えりゃ、そいつがルルゥ・ガルの仲間で、仲間だから当然本物じゃねェって知ってるから、本物を探してた、ってトコだろう。

 だがそォなると、ちょいとおかしな部分が出てくる。

 なンだってルルゥ・ガルァ、ンな面倒くせェことをしたのかってトコさ。

 

 俺の偽物を拵えて、EDENに潜入させる、なんてのァ面倒なンだ。それができンなら、他の奴の偽物をEDENに入れて、油断しきった俺を仕留めた方が早い。俺の【即死】を欲しているというのなら、それこそクルメーナの地下で待ち構えていりゃよかったはずだ。マッドチビ先生と協力でもすりゃ、簡単に仕留められただろう。冷静メイドァ強いが、殲滅力にァ長けてねェ。シエナァ未知数だが、あンだけの魔法を使えるンならどォとでもやりようはあったはずだ。あン時みてェに俺を透明にする、とかな。

 それをしなかったってのがどォにもしっくり来ねェ。

 

「冷静メイド」

「はい」

「EDENにいる私ァ、お前から見てどんな奴だった? 私とどんな違いがあった?」

「……死を受け入れている、ように感じました。割り切れてはいない様子でしたが、仕方のない事として受け入れている。決して軽く扱っているというわけではないのですが……こちらの梓様のように、何が何でも受け入れられない、という風ではありませんでした」

「他は? お嬢やポニテスリットに対してァどォだった? 何か、態度の変化とか」

「……特には、思い当たりませんね。こう言うのは少々失礼かとは思いますが、普通の梓様、という感じがしました。戦闘や遠征に出ていない時の……平常時の梓様。年相応の、少女。少しばかり達観はしているようでしたが、……()()()()()()()()()()()()()()()()()()、単なる魔法少女」

「なるほど」

 

 魔煙草を大きく吸う。

 脳と肺に至る魔力が、血中魔力濃度を劇的に高めていく。

 

「──私をオカシくしてェんだな?」

「いえ、そういう意図ではなく」

「いんやさ、冷静メイドの話じゃねェ。敵の狙いさ。わかったよ、ちょいとァな」

 

 正直に言やァ、偽物の俺とやらを金髪お嬢様やポニテスリット達が見抜けてねェってのが気になってたンだ。それなりの信頼を築いた自覚がある。仲間だって思ってる。思われてると思ってる。

 だから、帰ってきた俺を俺じゃねェってわかンねェのァさ、薄情通り越してあり得ねェと思ってンだ。

 

 つまり、EDENに帰った俺ってな、俺なんだよ。

 偽物じゃなく──マッドチビ先生と同じく、どっちも本物って奴だ。

 

 その上で、今の俺ってなオカシイのさ。冷静メイドの言う通り、行動が読み難いらしい。アインハージャの言葉も理解できるし、無駄にでけェ火傷も負っちまった。拳銃も無くしてる。SRもな。

 外見的特徴からも、内面的特徴からも──俺を俺と判断できる要素が無ェ。

 

「ああ、なるほど? あっちの私がアンタの義手を奪ったのはそういうことね。アンタは死なないから、死にたくないから、蘇生槽を使う必要が無い。仮に偽物だと疑われたとして、アンタは蘇生槽を用いての証明というのをしたがらないから、EDEN側はアンタを外見的特徴でしか判断できない。なら、アンタの偽物を作って、腕を無くして、遠征に出る前と同じ見た目の腕を付けて行けば……()()()()()()()()、アンタじゃない誰かはアンタになれる」

「ですが、新たな義手を貰った時、梓様はとてもはしゃいでいました。あれを演技だとは……」

「それでいいんだよ。ま、元ァ化け物の精神体かもしれねェが、虹色ロングと同じさ。EDENの私ァ、自分のことを私だって思い込んでる。だから新しい義手貰ったら嬉しいし、平穏な学園生活ができりゃ嬉しい。年相応に──嬉しいンだ」

 

 そこに欠如しているのァ、肉体足る脳に記録されてねェ情報。

 つまり、前世の価値観。倫理観。常識。

 

 あっちにいる俺ってな、この世界生まれの普通の魔法少女って事さ。

 何を騙っているワケでもねェ、自然にしている事こそが全ての証明になる。年相応の、まだ魔法少女になったばかりの、【即死】なんつーピーキーな魔法を与えられちまった梓・ライラックちゃんのでき上がりだ。

 

「なるほど。それならあるいは、EDENにいるアンタは【即死】を持っていない可能性もあるわね」

「ン? そりゃ冷静メイドが見てンだろ?」

「いえ、あちらの梓様が対象に触れ、対象が死に、梓様の魔力が減った、という事を確認したに過ぎません。【即死】は光や炎が出る魔法ではありませんので、本当に【即死】であったかどうかの証明はできません」

「ははァ、じゃァ【即死】じゃねェ魔法を【即死】だと思い込んで使ってる可能性があるワケだ。……いや、そもそもの話、そォなった場合のあっちの私の肉体ってな、なンだ? 【即死】に似てるが違う魔法を積んだ別人……けど容姿ァそっくり、と」

 

 俺ァここにいる。

 ってこた、あっちの俺ァ誰かではあるはずで、お嬢達が違和感を持たねェってンなら、俺の記憶も持っているンだろうってトコまでァいいんだ。

 どォやって作った? それは──何で、作り上げたモンだ。

 

「一つ、意見をしても良いだろうか」

「ん、あァすまねェ、ずっと放りっぱだったな。青バンダナ、なンだ」

「私達アインハージャの話だ。今聞いた話が、とても私達に似ている、と思ってな」

「似てる? 何がだ」

「アインハージャが一つの時代の2人しか存在できない事は説明しただろう」

「したのは私」

「そしてアインハージャは、()()()()()()()()()()姿()()()()()()。私とリジがどこで死せども翌日にはその場で蘇るのと同じように、あと7度死んだのならば──次なるアインハージャは、私達ではなく、しかし私達の姿をしたアインハージャになる。それは私達も同じだ。先代のアインハージャと同じ姿形で戦士の名を受けた。……守るべき村は無くなってしまったが、その法則に変わりはないはずだ」

 

 あァん?

 なんじゃそりゃ。

 死に回数制限があって、それを過ぎると別人になる、だって?

 

 ……それじゃまるで。

 

「始まりのアインハージャの肉体を、複数の精神体が使い回している、ということね」

「ウィジ。似ているんじゃなくて、逆」

「む。そうか。すまない、余計な発言をした」

 

 いや。

 ……どうだ? 逆でも、いいんじゃないか?

 

 つまり、俺という精神体がいれば、向こうのマッドチビに言わせるところの肉人形はいくらでも用意できる……?

 その法則、あるいは仕組みを作りさえすれば──同じ人間を創り出せる?

 クソ、SFァ得意じゃねェんだがな。やっぱり俺がずっと提唱してる魔法少女クローン技術説が真実味を帯びてきやがった。

 どォやって蘇生を為してンのか──魔力を持ち得る、記憶を持ち越せる肉体をどォやって形成してンのか。

 

「マッドチビ先生。そいつの意思が無くても、第三者が魔法少女と蘇生槽の経路を繋ぐってな可能なのか」

「可能不可能で言えば可能よ。ある程度近くにいる必要があるけれど」

「じゃァよ、たとえば──蘇生槽に、ソイツが死んだって誤認させることは、可能か?」

「……それも可不可でいえば──可ね。ただし、その子の肉体の一部が必要になるわ。正確にはその子の肉体に宿っている精神体が。精神体というのはね、基本的に肉体と同じ形をしているの。肉体から抜け出してしまえば肉体に沿えなくなって球体に戻っていくのだけど、生きている状態であれば、魔物なら魔物の、ヒトならヒトの形をしている。だから、なんらかの方法で精神体ごと肉体を切り取ってしまえば──それを蘇生槽へ持っていって、認識させれば」

「蘇生槽ァソイツの肉体が死んだって誤認して、そいつの肉体の形成を始める、と」

「ええ、そう。ただし、可不可でいえば可というだけで、それは起こり様のないことよ。精神体の乗った肉体の一部を切り取る、ということでさえ特殊な技術が必要なのに、その魔法少女を生かしておかなければいけないのだもの。魔法少女は身体に欠損ができたら死んで復活する。そうなったら切り取られた精神体だっていつまでも肉体に残ってないで元の場所に帰っていく。その場に留めることはできない」

 

 つまり、そォいう事さ。

 身から出た錆って奴だ。はは。

 

「だから、アンタの腕を斬った奴は──敵ってこと」

「みてェだな」

 

 分身してるみてェなモンなんだ、今の俺ァ。

 俺と、俺の腕と。あン時グチャグチャになって使い物にならなくなった、けれどしっかり俺のモンだった腕ァ──治せねぇから、ぶった切った方が早いってさ。義手にした方がいい、ってさ。

 

 なァよ、安藤さん。

 

「とりま、これで私の作成方法ァわかった。EDENにいる私ァ【即死】を使えるのか使えねェのかはさておき、あァあと何時入れ替わったのか、ってのもさておき、だ。よォやく現状に目を移そう。ベルウェークをどォするか、についてだ」

「アンタね。もうちょっと混乱するとか、落ち込むとかないわね? その人自分の武器の技師だったんでしょ? 利用されて使われたって事に何か思うトコないの?」

「正直に言うとめっっっっっっっちゃある。今私の心ァズタボロだよ。だが死んだワケじゃねェんだ、ならどーだっていい」

「……弱いのか強いのかよくわかんないわね、アンタ」

「戦うのも死ぬのも辛いのも苦しいのも痛いのも嫌さ。大嫌いさ。けど、別に裏切られンのも利用されンのも勝手に偽物作られンのも正直どーでもいい。悲しくねェからさ。その程度の事に動じる程、私の心ァ軟じゃねェのよ」

「粘土よりも柔らかいくせに何を言っているんだか……」

 

 そンなおかしい事かね。

 俺が二人に増えたから、なンだよ。ンな事よりルルゥ・ガルに背中メッシュや太腿忍者が殺されたって方が大事だ。奪われたンだ。じゃ取り返さねェといけねェ。銀バングルも、つか多分オーレイア隊の面々はまだ奪われたまんまなンだろ。

 殺しはしない。俺が嫌だから。死んでほしくない。敵であっても。

 だが──地獄ァ見てもらう。

 

「それで言うなら、お前らのがつらいだろ。守るべき村が消えたンだ。すまねェな、こっちに付き合わせて……守らせてやれなかった」

「構わない。ウォムルガ族の村は、アインハージャを生み出すためにある。次代のアインハージャを生み出すために私達は村を守っていた、というだけにすぎない。だが、私達はヴァルメージャになった。梓、貴女に昇華してもらった。ならばその役割は変わる。単なるアインハージャは村を守る役割を持つが、強きヴァルメージャは敵を打ち砕くためにある。何百、何千の時をかけて、ヴァルメージャとなるアインハージャを生み出すためだけに存続してきた村だ。であれば、村人たちも本望だろう」

「それに、私達は戦うためにあった。村人の名の一つとて覚えていない」

 

 それァ──いやさ、悲しい話、じゃねェんだろォな。

 そォいう役割を課されてたってな、俺の関与していい話じゃねェんだ、多分。

 

 生きるために、抗っていた、というのであれば。

 

「あァ、そォだ。一つ聞きたい。最後に見ただろ? あの魔法少女……じゃねェや、ヴァルメージャ。アレが今んとこ私達の最大の敵なンだよ。アレに心当たりァ無ェか? あいつ、ここを"私達の故郷"って言ってたんだが」

「名や特徴を詳しく聞かせてくれ」

「ルルゥ・ガル。狼の化け物と、マッドチビ先生の話じゃカラスの化け物を連れてるって話だ。他、一人一つのはずのヴァルメージャの御業を複数使うヤツでもある」

「……名には聞き覚えはない。だが、狼と烏を従える存在であるのなら、知っている」

「へェ。そいつァ、どんな奴だ」

「ベルウェークだ」

 

 ……あー?

 ルルゥ・ガルの神がベルウェークで、ルルゥ・ガルもベルウェークの特徴を持ってる?

 

「そもそも、だ。ベルウェークってな何なんだ。既存の生物にゃ当てはまらねェだろ、あのカタチ」

「ベルウェークは神だ。災いを起こす神。禍を呼ぶ神。……梓、貴女は知っているものだとばかり思っていたが」

「……」

 

 神、以上の情報ァでてこねェか。つまり、こいつらにとって神ァ当然の存在だ。伝承や宗教上のソレじゃァない。

 しかし、神さんが砲丸に顔ぶん殴られた程度で死ぬモンかね。

 それに、どォにも動きが緩慢すぎるし、復活したのもルルゥ・ガルが来てから。復活した後だってLOGOSに雷撃ぶち当てるくらいできただろォに、俺を潰さんとする格好のままぼったちだった。

 

 まるで人形、だよな。

 

「で、どうするの? このまま逃げる、というのも勿論アリよ。正直な話、私達の戦力じゃルルゥ・ガルに勝てるかどうかわからない。複数の魔法を用いるのもそうだけど、ベルウェークをもう一度倒さなければならないのと、レーヴァン種とウルフ種にも気を付けないといけない。なんだっけ、透明にする、んだっけ? 厄介極まりないわ。ついでにいうと、反魔鉱石持ってるだろうからそれもかなり危険」

「あァそォいや持ってかれちまったんだっけか」

「ええ。LOGOSは結局どこまで行ってもガーゴイルだから、反魔鉱石の銃弾でも撃ち込まれたら崩壊するわ。そんな加工技術があるとは思えないんだけど、あっちには偽物の私もいるみたいだからあり得ないとは言わない」

「……放置した結果の方から考えよう」

 

 まず、ルルゥ・ガルを放置するとどォなるか。

 ……別にどォにもならねェ。追われてるって状況ァ変わらねェまま、ちょいと位置がばれたが、逃げ果せることにァ成功してる。このままどこぞへでも飛んでいけば大丈夫だろう。

 ベルウェークァどォだ?

 そもそもベルウェークがウォムルガ族の村を壊そうとしてたってな、多分ヴァルメージャを生み出させねえよォにするためだ。自身を倒す可能性のあるヴァルメージャを、アインハージャの内から摘み取っておこうってな魂胆。とすると、ルルゥ・ガルによって村が壊し尽くされた今、ベルウェークの目的もなくなったってことだ。

 

 そもそもベルウェークの目的=ルルゥ・ガルの悲願って線も捨てちゃいねェ。自らの信奉する神と同じ目的を持つ信徒なんざ腐る程いる。問題はなンでこいつらが単なる魔法少女の域を出ねェアインハージャを潰したがるかってトコだが……アインハージャとヴァルメージャにァ魔法少女にァ無い特性があって、それだけがベルウェークを殺し得る。とかか? 今回トドメ刺したのァマッドチビ先生だ。青バンダナと赤スカーフじゃない。

 そォ考えると、確かに色々合うな。

 どうせルルゥ・ガルのことだ、目的のアインハージャを見つけたはいいものの、近くに俺までいたってンでそっちに目移りしちまって、結局どっちも逃したってトコだろ。二兎を追う者は一兎をも得ずってなまさにこれさ。

 

 もしこの仮説が合ってたら、ベルウェークってな既存の魔法少女じゃ殺せねェってことになる。

 そんな化け物をルルゥ・ガルがEDENに連れて行ったら……。

 

「やべェな」

「ここでどうにか殺すべき、ですね」

「そんなアンタ達に朗報よ。あ、いえ、悲報、かしら」

 

 真逆じゃねェか、なんて思いながら、マッドチビ先生の方へ顔を向ける。

 いつの間にか反転していたLOGOS。ブリッジの硝子から見えンのァ──平穏な海と島。

 

 これのどこが悲報なンだ、って。

 

「おい、雷雲ァどこ行った。ルルゥ・ガルは、ベルウェークァどこいったよ」

「何らかの方法で移動した、と見るべきね。移動先は恐らく──EDEN」

「何らかの方法ってなンだ」

「何らかの方法は何らかの方法よ。私達の知らない何らかの方法。でも、幸運ね。魔力の痕跡が残ってる。これを辿れば、私達もEDENに辿り着けるわ」

「……罠の可能性が高いかと。追って行った先がEDENではなく敵の本拠地などである可能性も考えられます」

「罠だとしても、行くしかないだろ」

「いえ、梓様。現在の私達は敵の詳細を唯一知っている5人。敵が既存の魔法少女の攻撃では死なないと知っている5人なのです。私達はそれを、敵よりも早くEDENに伝える役目があります」

「あー、そりゃ大丈夫だ」

「……何を以て、そうと言い切りますか」

「私なら、そォしねェからだよ」

 

 俺なら、でけェ操り人形連れて、強ェ狼と烏連れて──自分の本拠地になんざ向かわない。本拠地ってな最後の最後まで隠しておきてェもんだ。それを、マッドチビ先生……【鉱水】なんつー広範囲を攻撃し得る魔法少女に追われてる中で見せびらかすよォな真似ァしない。

 壊されたらたまったモンじゃねェからな。最後の最後、隠れて逃げて逃れて隠して、そォやって休息するための場所だ。本拠地だってンなら、最後の最後まで誰にも見せずに置いておく。

 んじゃ本拠地じゃねェ、ただ罠のいっぱい敷いてある場所に、ってのも違う。

 ンなトコにでけェモンは入れねえよ。そいつがかかっちまうし、そいつが作動させちまう。そもそも巨体の化け物ってな単独で戦った方が強いんだ。狼や烏に足元うろちょろされて本気を出せねェってんじゃ意味ァ無い。他の化け物がいたとしても、ベルウェーク程でかかないだろォしな。

 

 だから、少なくともベルウェークっつーでっけェ化け物を連れて行くのに、マイホームってな相性が悪いのさ。

 

 巨大怪獣を連れてくンなら、敵地が一番だ。死なねェってンなら尚更にな。

 あァ、だから逆なのか。

 ベルウェークがアインハージャの村を襲撃してたンじゃねェんだ。

 アインハージャがベルウェークをどっかに行かねェよォに繋ぎ止めてたンだ。背を向けようものなら、いつでも殺してやるぞ、って。

 

「マッドチビ先生、ルルゥ・ガルとベルウェークを追ってくれ。そのままベルウェーク殺してルルゥ・ガル潰して、EDENで起きてる混乱だのなんだのも解決して、全部良しにしようぜ」

「それが一番丸いわね。できるなら、だけど。ま、アンタの馬鹿は今に始まった事じゃないし、いいわ、付き合ってあげる。他のもそれでいいわね?」

「……梓様の意のままに」

「私達はベルウェークを討滅するために在る」

「異存はない」

 

 よォし。

 んじゃ、出発だ。

 

 目標ァベルウェーク及びEDEN!

 避けてばっかじゃねェって、逃げてるばっかじゃねェって。

 

 そろそろこっちが追っかける番だ、ってな!

 

えはか彼

 

 

 LOGOSでベルウェークを追いかけている最中の話だ。

 

「梓」

「ン?」

「貴女に少し、聞きたい事がある」

「あァ良いが、なんだ改まって」

 

 青バンダナが、所謂ジャパニーズSEIZAで。

 畏まって。

 

「ヴァルメージャの御業……否、貴女達は魔法と、そう呼んでいたな。その扱い方について、指導頂きたい」

「……あー。そいつァ、あんま私に聞かねェ方がいいかもしれねェ」

「何故だ? 貴女と私の御業……魔法は、よく似ていると思うのだが」

「多分それァ、この剣のコトいってンだろォけど」

 

 背中に背負う剣。

 マッドチビ先生に作って貰ったコイツァ意外に頑丈で、まだ使える。刃毀れ無し。

 けど、別に剣としてァ使ってねェんだわ。

 

「私の魔法ァな、剣関係ねェんだ」

「そうなのか。ならば、貴女の魔法はどのような……?」

「あァ、【即死】っつってな。触れただけで、相手を殺せる。そんだけの魔法だ」

「……──!?」

 

 飛び退く青バンダナ。

 おいおい、散々あの島で見ただろ。

 

「仲間にゃ使わねェって。化け物相手にしか使わねェよ、安心しな」

「……だが、それは……神の領域ではないのか? 死を、命を、意のままに操る、など……」

「じゃァ槍を自在に創り出して、増やしたり飛ばしたりすンのァ神の領域じゃねェのかよ」

「む。……それは、しかしヒトの為し得る業の延長線上だ。ヒトは槍を作り、増やし、投げることができる。だが、命を自在に扱うのは……」

「心臓に槍突き立てたらヒトァ死ぬだろ。私ァそれを触れるだけでできるってな、そンだけさ」

「……だが、貴女はフォルミーカを触れずに殺しただろう」

「フォルミーカ?」

「地中より私達の命を狙った魔獣のことだ」

「あァ」

 

 あのアリね。

 ……それ言われると弱いなァ。

 剣の先から【即死】を垂らして殺した、ってな、確かに触れてもいなけりゃ剣で叩いたってワケでもねェ。

 んァー、ありゃどォやったかって説明も難しいンだよな。感覚的なモンだし。

 迷宮ン中でコウモリの化け物の心臓に【即死】を垂らしたみてェに、それを地面に染み込ませただけ、つっても伝わらねェだろォし。

 自分で言っててもよくわからねェもンな。なンだよ【即死】を染み込ませるって。

 

「……あの時の鼓舞でも思った事だが、貴女は……死狂奴理刃(導き進むもの)なのか?」

「違ェよ。そもそも私ァ閉願だ。根本が違う」

「ならば、貴女の神とは……」

「夜さ」

 

 ンなもん、聞かれるまでもねェ。

 

「つってもまァ、私が開花させといて、なンも教えねェってなちょいとアレだしな。そンなに教えンのァ得意じゃねェんだが、それでも良ければ話すよ」

「ああ、頼む」

 

 勉強熱心なこって。

 ……正直マッドチビ先生に聞いた方がいいとァ思うんだが、【鉱水】ァ【鉱水】で結構特殊な魔法だしな。【侵食】は言わずもがな、だが。

 そォ考えると、こっちの戦力ァ結構ピーキーだな。汎用性や範囲においちゃ【鉱水】ァ最上級。生存能力や変質においてァ【侵食】ってな最強クラスだ。【即死】ァ殺傷能力SS級で、【喧槍】ァ……どォかね。射程も威力もあンのァそォなんだが、何より本人がバリ強い。バリバリ強い。【静弱】も【弱化】に似ちゃいるが、防御において比類なき力を発揮できる。これまた本人がバリ強いンで攻撃もできると来た。

 

 ……ピーキーか?

 結構バランス良くね?

 

「まず、魔法少女にァ近接と遠隔ってのがあってだな──」

 

 しっかし。

 まだエデンに入って間もない俺が、先生役なんてのをする日が来ようたァね。

 

 大丈夫なんだろうか。

 教育免許とかいらねェのかな、エデンの教師って。

 

 ……ま、大丈夫だろ。少なくとも罰のために死ね、とか言ってくる奴らよりァマトモだぜ、俺ァ。

 

えはか彼


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