目を開ける。
背中に感じる体温は、あァ、懐かしい。体温で人を判断するとか変態チックで嫌なンだが、長くを一緒にいるとわかるもンなンだなァ、って。
「よォ、金髪お嬢様。ちゃんと受け止めてくれたよォで何よりだ」
「……」
「ン? もしかしてまだ疑ってンのか?」
「いえ。大まかな話はそちらのお2人に聞きましたわ。既に謝罪も済んでいます。けれど」
「けれど?」
お嬢は──俺の、腕を。
そして顔や腹に残る火傷の痕に、優しく触れる。
「こんなになってまで、どこへ行っていましたの?」
「ドラゴンをちょいとな。退治してきた。今しがた、神さんも殺した。これから故郷を取り返しに行くところだ」
「……」
よっこいしょ、なんておっさんくせェ声を出しながら、立ち上がる。
戦場だ、まだ。ルルゥ・ガルがどこにいるのかもわからねェ。オオカミとカラスの化け物の死体がわんさか転がってるあたりは、お嬢の戦果なンだろォが。
「青バンダナ、赤スカーフ。ベルウェークの死は確認できたか?」
「ああ。過去のアインハージャたちも胸をなでおろしていることだろう。……これで、私達の役目も無くなった」
「けれど、ウォムルガ族の村にはこういう諺がある。"
アインハージャとヴァルメージャは、ベルウェークを討ち果たすためだけにあった。
もしかしたら、だが。
魔法少女ってな、こいつらが原型なンじゃねェかって……ちょっと思ってる。500年だのじゃァ済まねえ年月を戦い続けてきたみてェだしな。
「どの道ウォムルガ族の村は滅んでいる。このまま貴女に付き合うのも悪くはない」
「あァよ、ありがてェ。んじゃ、つーわけだがよ、お嬢。どォすんだ?」
「どう、とは」
「私達についてくるかどォか、って話さ。まだ判別しきれてねェんだろ? EDENにいる私と、ここにいる私。どっちが本物なのか、ってなよ」
「それは」
「だから、迷いがあンならおいていく。正直お嬢様の戦力ってなありがてェよ。すげェ頼りになる。でも、苦しいだろ? どちらの敵になってもどちらの味方になっても──私に刃向けンのァ、無理だろ」
「……」
金髪お嬢様ァ俺なんぞよりずっと優しいからな。ずっとずっと親身になってくれて、ずっとずっと俺の事を考えてくれンだ。その好意も含めて、ありがたい限りさ。
けど。
もし、あっちの俺と対峙することになったら──危ねェからさ。
「私ァお嬢に死んでほしくねェ。みんなにもだ。痛みさえ感じて欲しくねェ。傷って話だけじゃねェよ、心の痛みもだ。板挟みになって苦しくなるよォなのも、全部たァ言わねェが、できるだけ感じないでほしい。私ァお嬢の悲痛な顔なんざ見たくないんでな。ここで大人しく待っててくれりゃ、あとは私達がなんとかする。な? わかるだろ?」
「……舐められたものですわね、本当に。ああ──そうですわ。思い出しましたの。貴女のその、
「あァさ、そいつァいい奴だったんだろ。じゃ、剣を向けたくねェよな」
「対して貴女は自分の事ばかり。自分が嫌だから、私達に傷付いてほしくなくて。自分が嫌だから、誰もが傷付かない、死なない方法を選ぶ。私達と同じ所からではなく、もっと高い場所から私達を見て、愛でて、愛して──故に、私の気持ちになんて気が付かない」
「お、おゥ。そォ聞くと最低じゃねェか私」
「ええ、そう言っていますの」
そっかァ。
そんな風に思われてたかァ。おじさん今ちょっと……どころじゃなく、かなりしょんぼりしてますよ。
「でも、私の好きな梓さんは、こちらですの」
「……いんやさ、決めなくてもいいんだぜ、お嬢。あっちの私が偽物ってわけじゃァねェんだと思う。どっちも私で、なんなら──あっちのが、可哀想な私だ。私みてェに外れてねェ真っ当な私だ。だから」
「だから、なんですの? あちらの梓さんの方が可哀想で、真っ当で、しっかり本物で、短期間とはいえちゃんと私達と過ごした方であるのだから──あちらを好きになるのが、当然、とでも?」
「そ──れは」
「この際ですから鬱憤をぶつけさせてもらいますけれど。私はこんなに好きだと言っているのです。私は貴女と出会い、貴女に救われてからずっとずっと好きだと──愛していると告げているのです。それを、やれ"保留にさせてくれ"だとか、"恋愛対象には見られない"だとか、"私なんか"とか……そろそろ苛立ちも破裂しますのよ」
金髪お嬢様が──俺に、剣を向ける。
おー待て待て。さっきの完全な敵対状態だったら殺意ァ乗ってたンで避けれたが、そーなってくるとマジでやべェぞ。殺気の無ェ攻撃は避けられる気がしねェって。
「梓・ライラックさん。はっきりしてください、ですの。私は貴女を愛しています。好いています。恋仲になりたいと、そう思っていますの。──返事は?」
「おいおい、今ァそォいうことやってる暇無ェんだって。早いとこEDENに行かねェと、手遅れになるかもしれねェ」
「ですから、無駄な問答は要りませんのよ。返事を言いなさい。先延ばしにしないで、先送りにしないで──今の貴女の、私へ返す言葉を言いなさい。私はどちらでも構いませんの」
「……」
状況がわかってねェってこたないはずだ。
だってのに、なんだって愛恋の話を。
……思春期、かねェ。でもおじさんはさ……正直言って、お嬢達ァ子供にしかさ。
あー。じゃあ、もう、言っちゃうか。それで──禍根ァ無ェだろ。もう、これ以上傷つけるのも、嫌だから。
「ごめんな」
言う。
息を飲むお嬢に、言う。
「私ァさ、お嬢を……フェリカ・アールレイデを、恋人ってな風には見えねぇのさ。良くて娘か、娘の友達か。私たァ絶対に関わっちゃいけねェよォな、キラキラした存在だ。その好意はありがてェけど、お嬢は私の事なんも知らねェだろ。私もお嬢のことをほとんど知らねェ。私は──お嬢に、あァいや、みんなに言ってねェことがわんさかある」
「な、らば、それを今ここで言ってください。それが──私を恋人には見られない理由、なのでしょう?」
「言えねェ。言わねェ。言いたくねェ。──だから、その告白ァ受け入れられねェ。これが、答えだ」
自分に向けられた剣を触る。その腹に指を這わせて、剣を突き出したままのお嬢に近づいていく。
──潤んだ瞳。あァよ、だから保留にしてたンだよ。言ったら傷付くだろ。苦しむだろ。だから愛恋ァ苦手なンだ。俺の心がこんなだからよ、絶対傷つけちまう。でも、もっと早くに断ってたら良かったな。余計な苦しみを与えちまった。
本当に、ごめんな。
「ありがとう。私ァさ、
お嬢を。
フェリカ・アールレイデを、抱きしめる。
感謝はある。溢れんばかりの感謝は。
好意もあるさ。仲間だし、EDENじゃ一番仲の良い友達だって言える。
けど、愛恋にァ発展しねェのよ。
「安心しな」
「……ッ」
「私にフられて、お嬢が傷心してる間に、全部終わらせっからよ。どういう結果になったとしても──お嬢が笑ってられるよォに、上手く立ち回って見せる」
そォいう話じゃねェ、ってのもわかってるよ。
そォいう話をしてねェって、言いたいんだろ。
だから、ごめんな。で、ありがとう。そして、安心しろ。
終わるにせよ──終わらせられるにせよ。
俺に迷いァ無ェからさ。
「すまねェな、時間食っちまった。青バンダナ、赤スカーフ。EDENに向かおう。プテラゴイルは……お、修復してンな。流石マッドチビ先生の作品。お前らにも迷惑かけるが、もうひとっ飛びしてくれや」
キェーとかグェーとか鳴くプテラゴイルにまたがる。
お嬢に斬られた傷は既にくっついていて、元の形に戻っている。【鉱水】ァ強いね、こォいう時に。
「……いいのか?」
「俯いたまま動かない」
「いいさ。迷うってンなら、いないでいてくれた方が安心できる。さァ行くぜ、ヴァルメージャ」
「応」
プテラゴイルに飛翔を指示する。二人も乗って、さァ飛び立つ──といった所で。
「待て」
と。
……なんぞ、底冷えする声が聞こえた。
すげー久しぶりに聞いた声だ。
「あァ? 待つわけねェだろ、だが用件くらいァ聞いてやるよ。なンだ、指揮官」
「ほう。私に対し、そのような態度を取るようになったか、ライラック。褒めてやろう」
「はン、何様だって話だろ。私に敬意を持って欲しいなら──その、四つ足の姿勢やめてからにしろや」
プテラゴイルが高度を上げて行く。
それに追従するようにして飛んでくる指揮官殿。飛行魔法。固有魔法しか使えなかったクルメーナ地下の偽オーレイア隊たァ違ェな。
相手さんの技術や躾も向上してるってこった。
「気付いているというのなら話は早い。私の魔法は知っているな? ──死ぬがいい、ライラック! 我らの悲願のために!!」
一気に加速して突っ込んでくる指揮官。
その魔法は【自爆】。いいさ、ンな魔法ァ殺してやるよ。
──知覚強、化。
「いま、わたくし、とてもイライラしているんですの」
「……殺したのか」
「ええ。何か問題でも? 敵ですのよ。たとえ知己の姿をしていたとしても、気配は確実に魔物でした」
強化をするまでもなかった。
突っ込んできた指揮官殿の首がポーンと飛んだから。魔法を使うまでもなく落ちて行く指揮官の身体と、それを為した──煌めく風。
「ジュニラさんが敵の手に落ちているとなると、色々と対策が必要ですわね。防衛組のほとんども掌握されている可能性がありますわ。──何をぼさっとしていますの? 早くEDENに帰りますわよ」
そう言うお嬢の手には、あァ、いつぞやの魔煙草がある。
まだしまってたのか。んで、なンだって今喫んだのやら。クソ不味いだろォによ。
「最愛の人にフられてしまったので、少しばかり悪いことをしてみようかと思いましたの。傷心中故──今の私は、何をするかわかりませんのよ。このイライラをぶつけたくて仕方がないので」
「お、おォ。そか」
「故に、貴女の忌避する殺しも、何の抵抗も無くいたしますわ。相手が魔物であるのならば、躊躇はしませんの。姿形や肉体が仲間であろうと、魔物は魔物。戦場で迷う者は邪魔、なのでしょう? そっくりそのまま返しますわ。──寝返った仲間も、仲間の姿をした魔物も殺せない半端者は、帰ってくださいます? 戦場において、とっても邪魔ですわ」
「それには同意する。先ほど向かってきた者も、その身ではなく魔法の方を殺そうとしていただろう。梓、貴女は正直に言って戦場を駆けるべきではない。その鼓舞や指揮は有用だが、戦士としての役割は我らに任せるべきだ」
「この人、よくわかってる」
「おゥいきなり1対3になるたァひでェこった。んじゃ私ァ勝手に行かせてもらうぜ。仲良しこよししてる暇ァ無いんでな。おォさプテラゴイル! EDENにひとっ飛びだ! 他の二匹や、【神速】なんぞに負けんじゃねェぞ!」
キェーキェーグェーと鳴くプテラゴイル。
あーわかったわかった。お前の言う事なんか知るかってことね。じゃァ俺もそォさせてもらわァよ。知るか、お前らの気持ちだのなんだの。
俺ァ俺のしたいよォにさせてもらうからよ。
お前らも勝手にしやがれ。死なねェ程度にな!
「──ぐッ!?」
「……遅い。お前は遠征で何を学んできた? 魔力の効率化も、部分強化も──何もかもが、無に帰している」
「ッ、はン、仕方ねェだろ。まだ慣れてねェんだよ」
「そうか。習熟の遅いことだ」
EDEN隔離塔、地下一階。
その通路を塞ぐは、たった一人の魔法少女。名を、カネミツ。
A級魔法少女にして【飛斬】の使い手。その魔法により、この狭い通路に押し寄せた"敵"の全ては斬り伏せられている。
残っているのは2人。
梓・ライラックと──。
「……強い。……A級。嘘」
「だァな、過激無口。信じられねェよ、A級なんてな」
同じくA級魔法少女、【槍玄】がケトゥアン。
寡黙なりし攻撃的魔法少女2人は、しかし2対1になってもカネミツを乗り越えられない。
「……【槍玄】」
「観測班、調査班を下に見る程私は腐ってはいないが──拍子抜けも良いところだ。同じ遠征組として情けなくすらある。この剣一つ乗り越えられないとは、A級魔法少女が聞いて呆れようさ」
「尖り前髪、お前なンでA級なンだよ。っつーか、あれか。今回の昇級試験でSSにまで上がるつもりだった、とかか?」
全身を槍にして突っ込んだケトゥアンを難なく弾き、吹っ飛ばすカネミツ。
剣捌きだけでなく、要所要所の身体強化や知覚強化も限りなく研ぎ澄まされている。一切の無駄のない瀟洒な剣は、狭い通路においては部類の強さを発揮する。
先程から乱射している梓の弾丸さえも弾き、未だ無傷。
「遠征組突撃班の均衡が崩れるからだ。SS級、S級が1人ずつ。他がA級。そこにもう一人S級が出てしまえば──戦力過多として、他の隊に回されかねない。故に、私はこの位置で良い」
「ははっ、そりゃ最低だなオイ。別になろォと思えばなれるが、ならなくていいからならないってか。舐め腐りやがって」
「そうか? 今のお前であれば、SやSSは容易いだろう。
「──へェ」
スイッチが切り替わる、と表現するべきだろう。
梓の顔付きが──酷く凄惨で、残忍なものになる。横にいるケトゥアンもまた、同じ。
獲物を前にした獣のような。
あるいは──生贄を見つけた悪魔のような。
「よくわかったな。参考までに、どォして気付いたのか教えてくれよ」
「首を狙わなければ発動しない上、消費魔力量も【即死】とは違う。僅差だが、そちらの方が少ない。無駄に効率化をしすぎたのだろうな。それに、魔法を発動したあとの数秒、表情を変えることができる程度には死んでいない期間がある。それは【即死】とは言わん」
「随分詳しいじゃねェか。私と尖り前髪ァ、そこまで一緒に戦ったことあったかよ。遠征の時も修練塔の時も、【即死】ァあんま見せてなかったはずだぜ」
「魔法の名には意味がある。そうではないものをそうであるとは言わない。その名を騙っているのでもない限り、な」
「あァそォかい。アンタ、私の知らねェこといっぱい知ってるみてェだな。──なら、尚更仲間に引き入れねェと」
梓が──その義手を、前に突き出す。
ディミトラによって改造を施された義手。魔力回復の仕組みのついた義手。
その、本当の力。
「くらえ、魔力砲」
大きく開いた義手の手のひらから──極大サイズの光線が発射された。
「──隔離塔にて極大魔力反応を検知!」
「うん。大丈夫。もうすぐ、あの子達が帰ってくるからね」
「もー、魔法少女同士の争いとか余所でやってほしいんだけどー」
ここはEDEN下部。
迷宮・終の因。その最奥部にて、3人。
1人はベッドで足をぶらぶらさせて、とても不満そうに頬を膨らませる美女。
1人はテーブルについてオレンジ色の果実を食べている、きらきらしたツインテールを持つ少女。
最後の1人は、先ほどから忙しなく上方を見ては大きな声を発している、整った顔立ちの少女。
「……あの、あるるらら様」
「なにかな」
「本当に向かわなくて良いのでしょうか? その……紛う方なきEDENの危機であると、私の主要魔脳計算機は判断を下しているのですが」
「あたし達に似た気配をもつ君が行ったら余計な混乱を生むからでしょー。もうさー、こっちは静かに暮らしていたいだけなのにさー。魔法少女を殺さない、なんて取り決めまでしてあげたのに、魔法少女同士で殺し合ってるのとか、ほんとなんなのって感じなんだけど」
「災難だね。連れ込まれたホートン種もそちらのせいにされたみたいだし」
「ほんとだよー!」
ベッドに寝頃がり、じたばたと暴れる女性。
名をソテイラ。迷宮の主である。
「シエナちゃん。大丈夫だよ。だから、安心するといい」
「で、ですが。ヴェネット様もザイフォン・英様も、その……梓・ライラック様の手に渡ってしまいました。あるるらら様はお二方と仲が良かったと認識しているのですが……」
「うん。同じ遠征組突撃班だからね。隔離塔で頑張っているだろうカネミツも、まだ自分の部屋で寝ているんだろうルナも、大事な仲間」
「であるならば、助けに行くべきでは……?」
「大丈夫だと言ったよ、シエナちゃん。これから来る──私達の知っている、梓・ライラックは。シエナちゃんの想定しているよりも、遥かに強い。だよね、ソテイラ?」
「……あたしあの子嫌ーい」
不貞腐れて頬を膨らませるソテイラに、あるるららは苦笑する。
苦笑して──立ち上がり、その腰に自らの手を突き入れた。
「ひゃあ!? え、え!? いきなり何!? なにするの!?」
「全ての魔法少女には従うんでしょ? 質問に答えてくれるかな、ソテイラ」
「わわ、わかったから! わかりましたからぁ! その手引き抜いて、すっごく変な感じする!!」
「……私には、刺激が……あぁ! どうしてですか、主ディミトラ。何故私にこのような知識を……か、考えたくない事が、関連する言葉が引き出されて……」
「君はヒトガタをしているけれど、種類としてはキャット種だよね。だから──このあたり、弄ったら弱いんじゃないかな?」
「わかったって、わかったって言ってるのにやめてくれない! いや、やめて、魔法少女の手なんかで気持ちよくなりたくな、いひっぃぃいぃ……」
「……あぁ主ディミトラ。やめてください。"この光景はえっちだ、というのよ"なんて、余計な知識の埋め込みを……削除、う、削除できない。なんですかこの厳重な施錠……」
にこにこと笑顔でソテイラの腰のナカを掻き混ぜるあるるらら。
その光景から目を離す事ができず、その魔脳から導き出される答えを削除しては導き出すを繰り返すシエナ。
段々取り繕った化けの皮が剝がれ始め、にゃんにゃん言い出したソテイラ。
上空で起きている凄惨にして無惨な戦場の空気など、ここには存在しない。
平和、であった。
「──1つ、助言を溶かすのなら。……どちらに転ぼうと、どの結果になろうと。敵の目的はEDENの陥落じゃない、ということくらいかな」
「そろそろやめ、にゃっ、んんぅっ!」
「お、大人の空間です……」
あるるららはにっこりと。
誰もいない、誰も見ていない中空へ向けて──美しく、笑った。
「──今のは、魔力……か」
「はァ? おいおい、なンで生きてンだよ尖り前髪。今のァ
「ふん、A級魔法少女の魔力が一律であるとでも思っているのか? ……確かに多少の負傷はしたが、その程度に殺されてやれるほど私は弱くはない。魔力砲と言ったか。それに合わせて突進を行った【槍玄】も、残念ながら斬り伏せさせてもらった。話の合う者だとは思ったのだがな、少しばかり未熟だ」
「……ちッ」
A級魔法少女、カネミツ。
その実力は、ともすれば舐め腐ったと捉えられても仕方がないだろう発言の、その通りに。そのままに。
いつでも、S級に。
否、SS級にまで上がり得るものがある。
「ちょいと、やべェな、おい。なァよ、尖り前髪。私にァそンなに時間が残されてねェんだ、退いてくれると助かる」
「断る。そして、お前に時間がない事も知っている。魔物に堕ちた魔法少女達にも、な」
「へェ? 誰から聞いたンだ? それとも、アンタァそれくらい頭が良いのか?」
「急ぎすぎたな。このような作戦を取り得るのであれば、もう少しゆっくりやるべきだった。じわりじわりとEDENに手を伸ばし、最後の最後で盤面をひっくり返すような緩慢さが必要だった。だが、お前達は唐突に蜂起しただろう。──頭がお前であるのならば、そのような愚策は打たん」
「随分な信頼だなァ。だけど、いいのかよ。──後ろにいるぜ」
カネミツの後ろ。
その暗がりから現れたのは──ミサキ・縁。
俯いた顔からは表情を読み取る事ができない。ただ、ふらりと。
彼女は──。
「その程度の揺さぶりに私が隙を見せるとでも? たかだかA級一人、たとえ敵に寝返っていたとしても、秒とかからず仕留めてやろう」
「おい、言い方が悪いぞ。それではまるで私が貴女に負けるようではないか。本来の実力がどうだかわからぬのはお互い様だ、【飛斬】。私とてなろうと思えばS級になれる」
「……そういう形で張り合ってくるとは。貴様、以前より幼くなったな。梓やアールレイデの長女に囲まれて手緩くなったのではないか?」
「ふん、お前こそどうした。先の魔力に驚いて、【槍玄】を殺してしまったようだな。殺してはならないと何度も言ったはずだ。そうしてしまえば、復活するから、と」
「……それについては失念していた。こちらの非を認めよう」
彼女は、引っ張ってきたソレを投げる。
カネミツの横を通り抜けたソレは、梓の隣に転がった。
「おいおい。ポニテスリットお前、いつからそんな残虐な奴になっちまったンだ?」
「好意を寄せる相手に良く見てもらいたい、と思うのは、そんなにもおかしなことか?」
「ははァ、元から、ってことね」
転がったのは──7人の魔法少女。
目と口と手足を潰された、見るも無残な少女。
まだ、生きている──残酷な処置の施された少女だ。
「しかし、いいのかよ。こっちに寄越して。私が殺しちまうぜ」
「問題ない。その程度の弱さの者達が蘇ってきたとして、些事にもならない。
「……ようやく掴んだのか。【波動】、コイツはなんだ?」
「神の類だろうな。私達魔法少女の信仰する神とは違う、異教の神。梓の肉体に入り、その記憶を手にしたのだろうが、【即死】は梓のものだ。類するものを扱うようだが、彼女には劣る。自身をどこまで梓だと思っているのか、それとも別の自意識があるのかまではわからんが──何、殺しても問題は無いだろう」
「……おいおい、ひでェ事言うじゃねェかポニテスリット。私ァさっきのさっきまで、教室であの魔物を見てただろ? 仲睦まじくよ。そんな私を、殺しても問題無ェ、だァ?」
構えられるは、拳銃。
通路で苦しむ魔法少女達を撃っている暇はないのだろう。
カネミツとミサキに向けて、二丁の照準を合わせる。
「ンなこた言わねェでよ──仲良くしよォぜ、私達の仲間になってよォ」
「【飛斬】」
「【波動】」
銃弾が。
そして、世界を切り裂く斬撃と、世界を圧し退ける力がぶつかり合う──。
前に。
「あいよォ! ちょいと待ちなすって、お三方──なんつってなァ!」
「【静弱】」
「【神速】──ほんっとうの馬鹿ですわね! さては!!」
「でなければ、ここまではこれなかっただろうが──【喧槍】」
間に。
その集団が、割り込んできた。