それが、マッドチビ先生から聞いたある迷宮の名だった。
私も行った事はないんだけれどね──なんてマッドチビ先生ァ言ってたが、大体の場所は知っているとのことで。
「なるほど、その迷宮に行くのが目的、と。それで、行って何をしますの? 攻略……をするにしても、今の私達は蘇生槽があるわけではありませんし、死んだらEDENにまで帰る事になりますのよ」
「死ななきゃいいだけだろ、ンなこと。初見で攻略すりゃいい。んで──今度こそ俺ァ、その迷宮を壊す。化け物ってな魔力の淀みから生まれるんだ。魔法少女ってな魔法に覚醒して生まれるんだ。じゃあ、魔力そのものが生まれなきゃ──もう、悲しみは起こらない」
「……それは」
「私達も賛意している。アインハージャもヴァルメージャもその存在意義を失っている。目的が無いにも関わらず生まれてしまうアインハージャなどいても仕方がないし、何より無用な争いを生んでしまうだろう」
「アインハージャも、ヴァルメージャも、ヒトが持つには過ぎた力を持ってる」
前提をな、ひっくり返しゃいいんだ。
俺の【即死】がなんのためにあるかを考えた。それって、世界を、魔力を殺すためなンじゃねェかなって。それをした時に何が起きるのかも考えたけど、色々考えた結果、やっぱり無い方が良いって結論に至った。
「そんなことをすれば……私達はもう、蘇生できなくなってしまいますわ」
「ああ、そォするっつってンだよ、お嬢」
「死んだら、終わりになってしまうんですのよ……? それがわかっていらっしゃいますの?」
「それが普通なンだよ。化け物も魔法少女もただの動物に戻って、一回こっきりの一生を過ごすンだ。化け物がいなくなンだから、魔法少女が死ぬ事も蘇生しなきゃなンねェって状況にも陥らねェだろ?」
「……梓は、魔法少女が……嫌い、なのか?」
「今の在り方は、嫌いだ」
今までァ、そっちにァそっちの、こっちにァこっちの理念があるっつって区別してるフリをしてた。
割り切れてない感情を、でも俺のが異端なンだってわかってるフリしてた。
それはもう、やめだ。
ただ一人、この世界で俺だけの感性で──俺だけの世界観で、この世界を変える。
「で、でしたら、梓さんは一度
「そうだな……それをするというのなら。
「……」
ほら。
まだ、これなンだよ。金髪お嬢様もポニテスリットも、まだソッチなンだ。
死は便利なツールでしかない。俺が死を厭う意味の本質を、未だに全く理解していない。結局、俺が悲しむから、俺が厭うから、俺が嫌うから。だから死を遠ざけているだけで──俺の世界観と彼女らの世界観ァ、根本の部分から違う。
それを無理矢理変えちまおうってのが今回の作戦だ。
「ま、どの道さっきお嬢が言ったよォに、既にEDENからァ遠く離れてる。この先で死んじまったらもう俺にァついてこれねえってこった。命ァ大事にしろよ、2人とも」
露骨に意見を無視した俺に、2人ァ不満そォな顔を隠そうともしない。
馬鹿がよ。誰が治すか。別に傷に誇りを持ってるなンてこたないがな、死んで治す、なんてな──ンな吐き気のするよォなこと、誰がやるもんか。
「話は終わったかしら」
「おォ、マッドチビ先生。なンだ、もう見えたのか?」
「どんだけ近くにあると思ってんのよ、アンタ。まだまだかかるわ。嵐や雷雲があったら避けなきゃいけないから、真っ直ぐにも進めないしね」
「ほか。んじゃ何用だ?」
ちなみにこの魔力を、世界を殺す、ってな俺の作戦に、マッドチビ先生は「できるものならやってみれば?」なんて対応だった。から、できねェかもしれねェって可能性ァ頭に入れとかなきゃいけねェ。
止めはしない。けど、できるとは思ってない。そンな感じだ。
ただ、俺をEDENから引き剥がすために、あと自分があんまりEDENに逗留したくねェって理由でLOGOSでの旅を許可してくれたに過ぎねぇ。始の点を見てみたい、ってのもあるらしいが。
「そ……それにしても、このLOGOSというのは、凄いですのね。ガーゴイルという話でしたけれど……こうも広く、こうも快適だとは」
「へえ、見る目あるじゃない。ちなみにどんなところが凄いと思うかしら」
「まず、揺れがほぼない所ですわ。空を飛んでいる事を感じさせない。ほとんどが鉱石でできているというのに、室温は適切に保たれていますし、部屋の数や小物も自由自在。【鉱水】のディミトラといえば五回生になった魔法少女の誰もが習う名前ですけれど、ここまでだとは思っていませんでしたの」
「す、すごい褒めるじゃない。何よこの子。そ、そっちの子は? 私について、何か知らないの?」
「勿論知っている。【鉱水】のディミトラ。世界で唯一反魔鉱石を自在に操り得る魔法少女であり、EDEN創設者達の友人。古くからいる魔法少女でありながらEDENには所属せず、己が島を作り上げた強き者。等級区分はSとされているが、準備さえ整えたのならばSS級に手を届かし得る──不定形のものを操る魔法少女の中には、貴女に憧れる者も少なくはない」
「そ、そうなんだ……?」
チョロいなァマッドチビ先生ァ。
……この分だと、もしかしたら──マッドチビ先生も、かもな、とは。
「あ、そうですわ。一つ思い出しましたの」
「ン?」
「梓さん、貴女は剣を扱うようになったでしょう? 固有魔法は使わず、一つ手合わせなどいかがでしょうか」
「遠慮しとくよ。俺ァ剣なんぞこれっぽちもわかんないンでね、素人の動きにお嬢が翻弄されて怪我でも負ったら敵わねェ」
「……えと、それは……もしかして、私が梓さん程度の剣を避けられないと……そうおっしゃっていますの?」
「だって魔法無しなンだろ? 知覚強化も身体強化も無いんだから、意識外で無作為な攻撃ァ避けられないに決まって──」
「……梓。貴女は戦士というものを舐めすぎだ。元よりそういう事をしていなかったのだから仕方のない事ではあるが……」
「火をつけたね」
……あー。
えーと。
「ま、まァ俺がお嬢の剣避けられねェしよ。やめよやめよ、危ねェよ」
「では、梓さんだけ強化有でいいですのよ。私は強化をしませんので──私に一太刀でも当ててみなさい」
「いやだから真剣じゃ」
「はいこれ。アンタ達の剣を真似て作った金属棒。中身抜いてあるし刃は潰してあるから攻撃力は無いに等しいわ。代わりに重さもなくなっちゃうけど、そこは慣れて」
「ありがとうございますわ、ディミトラさん!」
──あ、これは、逃れられないって奴ッスね。
さて──昇級試験の件でポニテスリットととも戦ったばかりだが、まさかお嬢ともとァね。
んでもって、凄まじいまでのハンデ付き。
これァ勝たなきゃ嘘でって奴だ。
LOGOS内に作られた修練スペース。道場みてェなそこで、2人構える。
俺の方ァ身の丈に合ってるたァ言い難い大きめの剣。お嬢のァ鋭い細剣。
ま、攻撃力のほとんどねェって話だ。
だったらさっさとケリつけて、ンな危ねェことァ終わらせようか。
「行くぜ、お嬢」
「遅いですのよ」
知覚強化。おかしい。目の前に剣がある。腕部を強化し、義手で受け止めろ!
「ッ!!」
「……そういえば、殺意が無ければ梓さんの直感は発動しない……でしたか。であれば」
底冷えする感覚に襲われる。
いつしか、尖り前髪との訓練の時にそォいう話をした。俺の周りには、俺を本気で殺そうと思ってくれる奴がいねェ、って。
──知覚強化を継続。聴覚強化。踏み込みは右足。視覚強化。剣先の軌道は──首。聴覚強化だけを継続し、視覚強化から脚部強化に移行。軸足捻って自分の剣を蹴っ飛ばせ!
左足で蹴り上げた剣が、今まさに俺の首に届かんとしていたお嬢の剣をカチ上げる。
──強化継続。柄を逆手に掴みなおし、思い切り地面に突き立てろ。剣の後方に身を寄せ、足音を聞け。
「あら、よく防ぎましたのね。──ですが」
「右!」
右と言いつつ右に出る。右から来るとわかっているフリをして本当に右に出る。
その意表を突いた作戦ァ、けれど対応される。わかってる。どっちに転んでも、どっちに出てきても良いよォに構えてンだ。
──だから、ちょいとズルをする。
「
「!?」
完璧な対応をしたお嬢の剣ァ、俺の上を掠めて行く。俺が転がり出てきた体勢からァあり得ねェ前傾姿勢になったからだ。
「
「唸り声──何の技法ですの!?」
「
そして大きく、床を押す!
つまりまァ、ハンドスプリングって奴だ。それを、無理矢理やった。
やって。
「く──けど、たかだか曲芸ですの! 私には──」
──腕部及び脚部強化。捉えるのァお嬢の剣。その腹。中身の無い、刃の潰れた剣だって言うんなら──折れろ!
「あっ!?」
「──勝負あったなァ、お嬢ぬがっ!?」
「……ご、ごめんなさいですの。思わず手が出てしまいましたわ……」
なんか。
つい最近、全く同じ負け方をしたよォな。
「痛つつ……」
「だ、大丈夫ですの? ごめんなさい、強く殴りすぎてしまって……」
「ん、あァそいつァ平気なンだがな。さっきやったのが、案外身体にキてる。無理矢理身体動かしてるから当然なンだが……あー、滅多な事では使わんとこ」
「そう、それですの。何なんですの、さっきのは。ベルウェークの時や、あちらの梓さんを相手にする時も妙にうーうー唸っていると思っていましたの」
「まァ強化の一つ、かな。俺だけじゃねェ、青バンダナも赤スカーフも使えるぜ」
「使い得るが、梓、貴女程自在に使い得るわけではない」
「私達が知っているのは単語程度。聞けばわかるけど、自分からは難しい」
「そォなのか。それァ知らなかったな」
筋肉痛ってーの?
無理矢理身体捻ったり動かしたりしたせいで、動いた直後だってのに身体が痛い。こォいうのってもっと後に来るモンなンじゃねェのかなァ。
あー。
痛い。
「そういえば、剣の勝負だというのに最後は殴りだったな」
「そもそも俺ァ剣なんざ使えねェんだって」
「なんなら一度も梓から剣での攻撃をしていないんじゃないか?」
確かに。
何の勝負だったンだ一体。お嬢が強化無しでもアレだけ動けるやべー奴ってながわかったってだけかコレァ。
「あー、つか、なンでお嬢ァそんなに動けるンだ? 強化しねェで戦えるってながまず意味わかんねェんだが」
「梓さんだって終の因に潜る前は強化無しで戦闘していましたのよ?」
「そりゃ、まァそォだが。そォいうんじゃねェだろ、お嬢のァ」
「ああ、フェリカの戦い方には何か型のようなものを感じた。アイン……魔法少女となる前から武芸を嗜んでいたのではないか?」
「それは当然だろう。フェリカはアールレイデなのだから」
「……アールレイデだと、何なんだ」
俺がお嬢の事を金髪お嬢様って呼んでンのァ、一応ホントにお嬢様だって知ってンのと、口調がお嬢様っぽいから、なンだが、そォいやアールレイデ家っつーのの実態ァ知らねェなァ。
なンだ、武芸一般に秀でた家なのか。
「隠す事でもありませんから言いますけれど、アールレイデというのは魔法少女を生み出すための家、ですわ。国の出来た当初から存在する貴族にして、沢山の子を成し、その女児の全ては魔法少女となるために訓練を受ける……そんな家ですの」
「……だがよ、魔法少女ァ遺伝しねェだろ。魔法少女になるための訓練なんざしても──」
「ですから、成れなかったらそれで終わりですわ。学生時代の全て、友人などの交友関係の一切を断って訓練を積み──そこから魔法少女が生まれたら、初めから十二分な戦力として輝ける。覚醒しなかった者は軍部に行く。それがアールレイデですの」
「そいつ、ァ」
「だから私は成功例……幾人もの姉妹の中で、数少ない魔法少女になることができたアールレイデ。故の強さですわ」
……魔法少女を生み出すためだけの、家系。
そんなものが。
「そういう意味では、私はウィジさんやリジさんに似ていますのね。戦うために生まれた存在──であるが故に、他の子よりは強い信念を持っているつもりですの」
「そうだな。フェリカ、貴女は私達に似ている。とするのならば、アールレイデにも……あるいは魔法少女にも、為すべき事、というものがあるのだろうか? 私達のようにベルウェークを討滅せしめんと生まれるように、何か滅ぼすべき敵があるのではないだろうか」
「……少なくとも私達は、魔物と戦うために存在している、と考えている。そう習ってきた、が正しいか」
「ならば、魔獣、いや魔物のいなくなった未来において、魔法少女の存在意義は無い。ということだな」
「それは……そう、だな」
何を勘違いしてンのか、青バンダナァ俺の考えを2人に納得させようとしてる感じがある。
いやまァ、納得させてーってな俺も同意なンだが、ンな詐欺師みてェなやり方じゃなくともいいだろうに。
……でも、魔法少女を生み出すためだけの家。そして、魔法少女になるためだけに生まれてきた、かァ。
そいつらの目的を奪っちまったら……なんぞ、ンな事に配慮できる程俺の器ァ広くァ無ェんだけどさ。
「フェリカ。私とも一手どうだろうか。"矛"のアインハージャとして、試合という形式で戦いを申し込みたい」
「ええ、いいですのよ。強化の類はいかがいたしますか?」
「無しで行こう。LOGOSを壊すのもいけないだろうから」
「わかりましたの」
「なら、私はミサキと戦ってみたいかな。"盾"のアインハージャとして。貴女も防御を攻撃に転じさせる戦士。だから、訓練になる」
「む、良いぞ。しかし、私にはこの籠手があるが……」
「はいはい盾ねはいはい作ったわよ中身抜いてないからちゃんと重い奴。これでいい?」
「万能だなマッドチビ先生」
「鍛冶職人の道もいいんじゃないかと最近思ってるわ」
そォだよなァ。
彫金師がやる仕事じゃァ無ェもんなァ。
さぁて、ちょいと俺ァ席を外しますかね。なんぞ──こいつらの戦闘ってな、参考にならなそォだし。
「ふゥ」
「お疲れ様、とは言ってあげるわ。けどね、アンタ、元から戦いが好きって奴じゃないんだから、無理だと思ったら断ればいいのよ。あのコ達は根っからの戦士。アンタはそうじゃないでしょ?」
「あー、まァ戦士でァあるかもしれねェが」
「嘘吐きなさい。アンタただの子供でしょうが」
や、企業戦士っつー戦士で。
まァンな冗談ァ置いといて。
「マッドチビ先生ァ、その、そォいう過去だったワケだから、素の強さァそれほどでもねーよな?」
「ええ、奴隷の中でも看板商品だったから、戦闘には出されなかったわ」
「奴隷、ねェ」
あンま使いたくない言葉だったから避けたのに、まァ同情されたくねェって言ってンだから余計な配慮だったンだろォが。
「……もしかしたら、だけど」
「ン?」
「始の点には、私の国を襲った魔法少女達……つまり、EDENの創設者達がいるかもしれないわ」
「そりゃまた、どォして」
「アンタの狙い通り、始の点は魔物や魔法少女にとって無くなってはならない重要な地点よ。なら──」
「そいつらが敵に回るかもしれねェ、ってことか」
「ええ、そう。アンタの言いたい事はわかった。けど、あの子達……あぁ、ヴァルメージャを除いた2人のことね。あの子達を見て、話して、分かったでしょ。──なんでそんなことをするのか。蘇生できなくなる、なんて──なんでそんな、恐ろしい事を、って」
「あァ。ま、そンな反応だったな」
俺ァ死は怖いモンだって知ってる。死ってな一回しか訪れなくて、訪れたらもう会えなくなるんだって。もうソイツとァ、ただ墓前に語り掛けるくらいしかできなくなるンだ、って。
そォいうことを、知っている。
けど、長い事魔法少女やってると違ェんだろォな。
死ねば助かるのに。死ねば治るのに。死ねば──どんなに苦しくても、痛くても、また元気になって会えるのに。
そォいう理念が蔓延してンだ。まかり通っちまってンだ。
だから、それを壊すなンざ。それを無くす、なんざ。
まさに悪魔の所業──ってな、はは、俺が悪魔って、冤罪じゃなく呼ばれる日も近いのかね。
「正直に言えば、私もそっちよ。私の場合はちょっと違うけど」
「魔法を消すなんざ、なんて勿体ねェことを──とか、そんな辺りか?」
「大正解。【鉱水】が使えなくなる、なんて考えられない。どれだけ不便かと思うと、今ここでアンタを殺してしまった方が良いんじゃないかって思うくらい」
「こえーこと言うなよ」
「創設者たちはそう思うかもしれない。便利云々は置いておいても、何故そんなことをするんだって──アンタの敵に回る可能性は十二分にある」
「知るかよ、ってな、無理な話か」
「ええ。戦闘は必至でしょうね。けど、アンタは彼女らを殺さない。殺せない。【即死】は十二分に彼女らに対抗し得る魔法だけど、使い手のアンタが見合って無さすぎる。……最悪。いいえ、ほぼほぼ10割の確率で──アンタは死を迎えるでしょうね」
「あァよ、だろォな」
EDENの創設者たち。
何を思ってEDENなんてものを作り上げたのか。「魔法少女のための楽園を作る」。その真意ってな、一体なンだってのか。
そんでもって、なンでEDENにいねェのか。本当に始の点にいるとして、なンでそこにいンのか。
聞きたい事は山ほどあるが。
「その上で言う。知るかよ、ってな。俺ァ俺のエゴを貫くって決めたンだ。たとえ、もし。お嬢やポニテスリット、マッドチビ先生から見放されたとしても、俺ァ進むぜ。それを俺の役割に置きてえからな」
「……そ。ま、私がアンタの敵に回ることはもうないから、安心なさい。私は戦場に立つべきじゃない子に向ける槍は持っていないわ」
「さっき殺すかもとか言ってたじゃねェか」
「例え話よ例え話」
わかってるさ。
魔力を殺す、世界を殺すってな──今ある世界の否定だってのァ、ひしひしと伝わってる。
考え付いた時点で、なんぞ圧力みてェなのを感じてンだ。彼女ァ見てくれているみてェだが、世界ってな大きくてよ。
わかってる。
わかっては、いる。
「もう一つ、考えておくべき事があるわ」
「ン。そいつァ──魔力を殺せたとしても、化け物が死なねェかもしれねェ、って話か?」
「そう。よく考えているわね」
ま、それァそォだ。
別に化け物ってな魔力の淀みから生まれるってだけで、その身体が魔力で編まれているってワケじゃァない。精神体なら話ァ別だが、肉体持ってる奴ァ魔力が無くなったトコロで死なねェ可能性ァ十二分にある。ま、それァ魔法少女側も同じ。魔法が使えなくなる、みてェな事ぁあるかもしれねェが、それでよォやくスタートラインだろう。
……あ。
「なァ、マッドチビ先生」
「何よ」
「EDENってな、学園長殿の魔法で浮いてンだっけ?」
「そうよ。終の因は元々地面にあった迷宮だもの。だから──あ」
あ。
「……魔力を殺す手段が見つかったとして、その場ですぐに、ってなダメだな」
「そう、ね。私にとって一般人なんていてもいなくても問題ないからどっちでもいいけれど、流石にその辺の色々は倫理として理解できるわ。どうでもいいけど」
「おォ、マッドチビ先生の口から倫理なんて言葉が出てくるたァ、俺ァ感涙だよ」
「やっぱりどうでもいいわ。国に終の因を落としなさい」
あぶねェあぶねェ。ここで話しておいてよかった。
向こう見ずで行き当たりばったりたァホントあぶねェな。危うく大量殺人になるとこだった。非善だから良いとかいう声ァ無視させてもらう。そいつァ俺の理念に反するンでな。
「ちなみにだけど、あとどんくらいで着くンだ?」
「だから、まだまだよ。結構かかわるわ。途中で補給にも降りるつもりだし」
「補給って……何を? 俺達ァ飲み食い必要ねェだろ」
「鉱石よ。またどこぞの無人島を丸々飲み込ませてもらうわ」
「……補給っつか、略奪じゃねェか」
じゃあ何しに降りるンだよ。
「流石にいつまでもLOGOS内部じゃ気分も滅入るでしょ? これは私の配慮なんだから、ちゃんと受け取りなさい」
「あァよ、俺達の事考えてくれてありがとォなマッドチビ先生」
「単純に褒められて気分が良くてあの子達に何かしてあげたいとかそんな事じゃないからね」
「あァそォいうこと」
妙なトコで律儀だよなァ、マッドチビ先生ァ。
おじさんァまァこォいうトコですし詰め状態の徹夜マーチってなよく経験してたからそこまででもないが……確かに、ずっと室内ってな色々とな。これでLOGOSにバルコニーでも、とか思う奴ァ馬鹿だ。なんたってLOGOSは凄まじい速度で飛んでる。外に出るのァ愚策オブ愚策。寒ィしな。
「あァそォだ。ちょいと俺ァシエナのトコ行ってくるよ」
「ええ、わかったわ」
手を振って、痛む体をよたよたやりながら、ブリッジを出て行く。
向かうのァ、シエナの部屋。
……女の子の部屋に入るのって、えーと、ノックだけでいいン……だよな?
「あ、いらっしゃいませ、梓・ライラック様」
「ン。……燃料補給中か」
「はい。あ、大丈夫ですよ。確かに予定外の消費でしたが、活動に関わる程のものではないので」
「あー。えーと、俺ここにいても大丈夫か?」
「? はい、大丈夫です」
シエナの部屋に入ったら、シエナが腹ァ晒してた。
……あっちのマッドチビァ何を思ってこんなトコに燃料補給口をつけたンだ。
「あれ、それ、魔石か?」
「あ、はい。私の燃料は魔石燃料と言いまして、私自身は魔力を扱い得ませんが、私の身体は魔力の籠った鉱石の、それを更に液体化したものになるんです。ですので、こちらの主ディミトラに説明をさせていただいたところ、こうして主ディミトラのくださったものと同じものをくれて……」
「へェー」
魔石。
あンまり知られてる鉱石じゃねェが、前に俺が使ってた空の魔石含む、魔力を閉じ込める石ってなが存在する。産出量ァそこまででもない上、扱いにも結構な技術が必要だってンで市場に出回る事ァ少ない。安藤さんがあンだけ量を取り揃えていられたのァ多分ソォイウルートでもあったからなンじゃねェかな、とか、今になっては思う。
魔力を含んだ石を、その性質を保ったままに液体化して、燃料にする。
確かに【鉱水】を使えないとできねェ技術だろう。
……ん? だが。
「あっちのマッドチビァ、【鉱水】ァ使えなかった……ンだよな?」
「はい。少なくとも私が製造された時には既に使えないと仰っていました」
「じゃあそン時の魔石燃料ってな、どォやって作ってたンだ」
「天然の魔石燃料を用いていました」
「天然の魔石燃料?」
自然に魔力を含んだ石が液体化した、ってことか?
ンなことありえンのか?
「そうですね……では、梓・ライラック様。死した魔物や魔法少女の肉体がどうなるか、というのは知っていますか?」
「あァ、世界に溶けるな。あンま長い時間残ってねェってなが死体ってモンだ。人間やただの獣ァ違うが」
「はい。ですが、何故溶けるのか、を知っているでしょうか」
何故溶けるのか?
……ふむ。
「普通に考えりゃ、何かが分解してる、とかそンなトコじゃねェか?」
「いえ、そうではないんです。説明しますね。えっと、魔法少女や魔物の肉体というのは、それを操る精神体が死ぬ、あるいはいなくなった場合において、肉体にある魔力素、というものを繋ぎ止める事ができなくなります。そうした場合、これら肉体は形を保てなくなり、まるで世界に溶けてしまったかのように極小の粒になるのです」
「ほォ。んじゃなンだ、溶けてるよォに見えて、見えなくなった肉体ってながその場にあンのか」
「いえ、地面さえも通り抜ける程に小さくなるので、下へ下へと沈殿していきます。それが何度も何度も繰り返されることで、魔力素の密度は高くなる……と、ここまでは理解できますか?」
「あァよ。つまり、堆積していくワケだな」
なンだ、前世知識で微生物なんぞがいるのかと思ったが、どォにもそォじゃねェらしい。
いや微生物ァいるンだろォが、確かにやってンのが微生物だとしたら分解速すぎるもんな。【即死】で殺したら数十秒で死体消えるし。
「魔力素の密度が上がると温度上昇が起きます。魔力密度が上がると光を通さなくなる、というのは先日初めて知りましたが……」
「あァな」
「つまり、一定の場所で魔法少女や魔物が死ねば死ぬほど、そこに魔力素が堆積して行き、先にあった魔力素は更に更にと密度、及び圧力を増していくのです。同時に、温度も」
「ははァ」
つまるところ。
「それで、最終的に魔石燃料になるワケだ。魔法少女や化け物の魔力素を含んだ鉱石……あるいは、近くにあった鉱石がその温度上昇によって魔石燃料になり、そうなることで上にあるモンを抜けて地表近くにまで昇ってくる。それをマッドチビァ掘り出してた、と」
「はい。ですが、この方法によって産出された魔石燃料は異物が多く、その選別作業に主ディミトラは苦心していました。【鉱水】がないと難しい、と」
「だろォな」
そォいや恐竜島でもマッドチビ先生ァ似たよォなコトやってたっけ。
今選別中だから! とかなんとか。
純度を上げるための作業ってな、さぞかし大変なンだろォよ。
「……いや、だが待て。ってことァなンだ、お前やマッドチビの拠点にしてたあの無人島ァ、数多くの魔法少女や化け物が死んだ土地、ってことか?」
「どう、でしょう。私が製造されてからはあそこで戦闘があった、ということはありませんでしたが……」
別にあそこじゃなくてもいい。
そォいう場所がある、ってワケだ。魔法少女や化け物が数多く死ぬよォな場所が。
……そォいやなんぞ、似たような話があったな。
そう。
安藤さんから聞いた──フリューリ草の生える場所の話。
「なァ、シエナ。それってもしかして──」
疑問を、ぶつけようとした。
けどそれァできなかった。
突然──LOGOSが、大きく傾いたからだ。
「アンタ達! 敵襲! 敵襲よ! 足場やプテラゴイルは用意してあげるから──アレ、なんとかしなさい!」
敵襲。
俺とシエナは頷き合い、シエナァ腹からチューブをちゅぽんと抜いて──ブリッジに向かった。