遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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44.藍織其迂音徒塔栖多泥阿爛迎時. / 糸伊豆院歩渋琉. / 藍夢庵繰離.

 敵襲。ぶっちゃけマッドチビ先生なら大抵の攻撃にァ対処できるたァ思うンだが、それでもって呼び集めたって事ァ、よっぽどの敵なンだろう。

 

「マッドチビ先生!」

「あ、別にアンタは来なくていいわ。戦わせる気ないし」

「私も……!」

「アンタもまだ燃料補給し終わってないでしょ。戦いは戦える奴らにやらせとけばいいのよ」

 

 出鼻をくじかれた。

 おいおい、みんなが戦ってるってのに、俺とシエナだけ待ち惚けってな無理な話だぞ。

 

「じゃあ聞くけど、アンタ【神速】や【喧槍】の間に入って戦えるワケ? 敵はアレだけど」

「アレ……?」

 

 ブリッジの硝子窓。その先を指さすマッドチビ先生。

 そこには──なんぞ、霧の巨人、みてェなのがいた。

 LOGOSから伸びた足場とプテラゴイル達を踏み台に、4人の戦士がそれと戦っている。

 

「なンだ、ありゃ」

「ミストベイル。海上にいる魔物ね。ミスト種の中でも巨大にして好戦的。厄介なのは、その身体の核をあの霧に隠している、ってトコ。攻撃方法は霧を凝固させての氷の礫や槍。防御は当然霧になって当たらない、ってヤツ」

「ンだよ、そりゃ。明らかに──」

「オリジン、ではないわ。ディケントなのよ。始めはうっすらとした霧でしかないの。核も見やすいから攻撃もしやすい、そこまで強い魔物ではないわ。けど、ここまで巨大になると──」

 

 氷の礫。

 それが、こっちに飛んでくる。

 

 防いだのァ赤スカーフ。【静弱】で完全に防いでくれた。

 

「シエナ、魔力検知でコアの場所ァわからねェか?」

「……霧全体に微量の魔力が含まれています。……私の目には、霧ではなく──とても大きな魔物、にしか見えません」

「そか。んじゃ俺が出るよ」

「……アンタ、話聞いてたのかしら。【神速】に任せなさいよ。【波動】と【喧槍】でもいいけど。【即死】にできることは無い、って今言ったつもりだったんだけど?」

「【即死】にァそうかもしれねェが、俺の司ってンのァ命なンでね。そっちの訓練も怠っちゃいねェんだ──わかるぜ」

「へぇ。なら出すわ。……そっちの行きたそうにしてるのも」

「ありがとうございます! 主ではない主ディミトラ!!」

「その呼び方なんとかならないの?」

 

 シエナと一緒にハッチから出る。

 うぉ、寒ィな。魔法少女が寒がるってな相当寒いぞ。霧のせいか?

 

 落ちて行きそォになる俺をシエナががっちりつかんで、噴射機構(ブースターユニット)で飛翔。みんなの元へ行く。

 

 プテラゴイルの一匹に降り立って──よし。

 

「──よォしお嬢、ポニスリ、青バン赤スカ! あとシエナ! 巨人退治だ、気張ってくぜ!」

「なんで出てきましたの!? 邪魔にしかなりませんのよ!?」

「馬鹿かお前は。私達がこれだけ時間をかけているんだ、これ以上守るべき対象を増やすな」

「梓、貴女の鼓舞の力は素晴らしいが、戦場を駆ける戦士ではないと何度言えばいい?」

「単純に邪魔。LOGOSも守らなきゃなのに。早く中に戻って」

 

 ……。

 泣いちゃうぞ、おじさんは。

 

えはか彼

 

「いいから聞け! コアの場所ァ俺がわかる! 結構小せェから【喧槍】で狙い撃つのァ無理だ、霧を散らすことに専念しろ! 場所ァ首に近い中心部! お嬢とポニテスリットァ両端に回れ! 全体が霧だっつっても塊ァある! 切り離して殺せば数も減らせる!」

「承知……【喧槍】!」

 

 プテラゴイルを足場にした青バンダナから、無数の槍が射出される。

 それの一本一本ァ霧に飲まれちまうが、数が数なンで段々とそれらを散らして行ってくれる。

 

「ポニテスリット、【波動】で右肩の方から圧かけてくれ! お嬢ァ左肩の方からだ!」

「私は?」

「赤スカーファ引き続きLOGOS防御!」

「わかった」

 

 レーテーを起動。剣を引き抜いて、腰だめに構える。

 刀身に【即死】を浸して行き──。

 

「プテラゴイル、バランス取りァ任せたぜ!」

 

 クェ? なんて声を出すプテラゴイルを無視して、思いっきり踏み込んでからの──腕部強化で横薙ぎ!

 

 それで飛んでいくのァ、ポニテスリットに褒められた【即死】の飛沫。霧の巨人だ、でけェんだ。だからそれァ簡単に直撃し──その部位を、殺す。

 

 ……はず、だったンだが。

 

「魔力反応……巨体の一部から魔力が失われました! 恐らく通常の霧になったものと思われます!」

「ウォムルガ族の諺にこういうものがある。実楠阿泥伏負不空加魚多韻地思惟(大海に染料を一滴落とす)

 

 焼け石に水ってコトね。

 はいはい。そーですか。

 

「んじゃシエナ、ミストベイルの頭部──と思われるトコに、昇級試験の時やった極太光線撃ってくれ!」

「了解しました! 両腕変形、合体! 実包装填、3! 加速力場形成、熱量上昇……!」

「頼まァ!」

「発射します!」

 

 ガションガションガションとシエナの腕からカートリッジみてェなのが排出される。海に落ちるかに思われたそれァプテラゴイルが上手くキャッチしてくれた。偉いなコイツらホント。

 

 そんで──やっぱり凄まじい熱量が、彼女の掌から放たれる。

 豪、なンて音を立てて光ァ空を、霧をぶっ飛ばし、その頭部と思われる場所を消し飛ばした。

 

 当然だがそこにァコアはない。移動したな。

 

「ポニテスリット、大きめの【波動】をぶつけろ!」

「了解した──【波動】!」

 

 いつかの演習でやった、超規模の【波動】。それは確実に霧を雲散させる。コアは左側へ。

 だからお嬢に指示を出そォとしたら、ンなこと言う前にお嬢ァ左肩っつか左腕の全体を細切れにしていた。刃の部分じゃなく剣の腹ァ使って少しでも散らそうとしてやがんな。俺の考えァ遅い、ってか?

 

 両腕と頭部を無くした霧の巨人ァ、けれどそれでもと──胸部に何か、氷の塊みてェなのを出現させる。

 クルクルと回る十二面体。鋭利なソレの向く先ァ──俺、だな。

 

 いいぜ、ホームランよろしく打ち返してやらァ。

 

「知覚強化──」

「【静弱】。……あんまり余計な事考えないで。調子に乗らないで」

 

 あ、はい。

 ……なんだろォなー、この。

 

 ホンットに頼りにされてねェっつーか、マジで俺要らないんじゃねーか、っつーか。

 なんならマジで邪魔になってるだけなんじゃねーか、っつーか。

 

 なァ?

 

「くぇー。じゃ、ねェんだわ」

「梓! 今核はどこにある!?」

「ン──ほとんど海面に近い! 上にでてる胴体部分に攻撃しても何の意味もねェぞ!」

「それだけわかれば十分だ──【喧槍】弐式……!」

 

 それは、いつも通りの【喧槍】じゃなかった。

 いつもの【喧槍】ってな、自分の手に槍を一本生成するとか、それを無数に射出するってな魔法だ。だがそれァ──持つ事なんざままならねェ、でけェでけェ、太すぎる槍。槍っつか、もう塔。

 

「やはり、ヴァルメージャの御業とは──想像力次第でどうとでもなるな!!」

 

 青バンダナァそいつを。

 いつも通りの速度で、射出した。

 

 

 

 

「すげェな、青バンダナ。いつのまにあんなのを開発したンだ?」

「EDENに滞在している間、私達とて何もしていなかったわけではない。他のヴァルメージャ……多くはS級やSS級とされる魔法少女の魔法を観察させてもらっていたのだ。昇級試験の期間であるから、遠征組、というのも多くが戻ってきていたしな」

「ちなみにだけど、私も【静弱】の新しい使い方を見つけてる」

「へぇ!」

 

 ミストベイルァ青バンダナの極太槍で無事討滅できた。シエナがコアの消滅も確認してくれてる。

 結局俺ァ、ほぼ何もできなかったってワケさな。

 戻ってきた俺に「ほら言ったじゃない」みたいな顔してくるマッドチビ先生ァおいといて、俺達ァシエナの部屋へ。燃料の再補給ついでに話題ァ青バンダナの魔法の使い方について、になった。

 

「ですが、まだ魔法を自覚してから十数日程……なんですのよね? それでよく……」

「私達が初めて見た魔法が【侵食】と【鉱水】であるが故、かもしれない」

「なるほど……確かに変幻自在な魔法の代表格だ」

 

 槍を形成し、射出する。

 青バンダナの【喧槍】ってな言っちまえばそれだけの魔法だったはずだ。"矛"のアインハージャとして妥当な魔法で、本人の戦闘力も相俟ってAからSくらいだろう、と予想していたが……。

 こりゃ、SS、じゃねェかな。もし今の太さの槍を、通常通り無数に射出できンなら、それだけで攻城兵器だ。

 

「そォいや2人とも昇級試験ァ受けてたよな。どォだったんだ?」

「合否を受け取る前にLOGOSに戻ってしまったが、試験官にはSだと言われたな」

「私も」

「う……申し訳ない、ですぅ……」

「あァごめんごめん。責めてるわけじゃねェって、だからそんな落ち込むなって」

 

 多分自分のせいで、とか思ったンだろォけど。

 シエナのアレが無くても、多分俺ァS行けなかったンじゃねェかなって思うよ。

 

 このレベルの殲滅力ァ俺にァ無い。とっておきの【即死】の飛沫もなーんの役にも立たなかったしな。

 

「魔法の使い方、か」

「ですのね……」

「なんで2人まで落ち込んでんだ?」

「……いや、何。私達の魔法にも、新たな使い方がないものか、と思ってな」

「ミサキさんは十二分に形を変えている方ですわ。けれど、私は速くなるだけで……」

「速くなるだけでSS級に行ってる奴が何言ってンだよ」

「もしその使い方で、新たなものがあれば、夢のSSS級に届くのかもしれませんのよ!?」

「お、おゥ」

 

 その等級区分だのなンだのも消しに行く旅だってなわかってンのかね。

 

 しかし、SSS級か。

 キラキラツインテの話じゃ俺ァ届き得るってな言われたが、お嬢ァどォなンだろな。

 正直【即死】より【神速】とか【神鳴】とかのがSSSっぽくァ感じるンだが。

 

「なァ青バンダナ。太くできるってこたよ、細くもできンのか? 細く、小さく」

「ふむ。考えた事も無かったが……【喧槍】」

「おおー」

 

 一歩離れて、青バンダナの手に現れるのァ、細くちまっこい槍。

 長さ30cmくらいで、細さァ……直径1cmもないのか? すげェな、よく折れねェっつか。

 

「強度は十分にある。これはこれで貫通力に優れそうだな。梓、貴女に感謝を」

「いや俺別に何もしてねェって。青バンダナの想像力がすげェんだよ」

「梓。私にも助言が欲しい。私の作りだした弐式はこれ。【静弱】」

 

 そう呟いた赤スカーフの周囲。前後左右上下の六面に、半透明の盾が形成される。

 つまりそれは、盾でなく。

 

「結界、って奴か。へェ、これァ範囲どんくらい広められンだ?」

「まだ腕をいっぱいに広げたくらいの広さしかない。さぁ、助言を」

「待て待て、ちぃっとくらい考えさせろ」

 

 自分を囲う盾の箱。

 その良い使い方。別に青バンダナに言ったのだって太くでっかくできンなら細くちっこくできンじゃね、って話で合って、新しい使い方じゃねェんだけど……。

 

 ん-。

 

「リジ様。その盾、厚みがありません」

「うん? うん。そう。【静弱】に厚みはない。ただこちらとあちらを隔てるだけの壁」

「なら──たとえば、それで魔物を切り裂いたら、どうなるのでしょうか」

 

 ん-。

 ん-!

 

「それァ良いな。盾に触れたモンを全部弱化させるンだ、俺の【即死】斬りに似たよォな事ができるンじゃねェか?」

「……なるほど」

「そォ考えると、もう一個できンな。化け物の身体に腕突き入れて【静弱】を発動すりゃ、スパっといけそォだ」

「それは私の【喧槍】にも応用できるな?」

「外皮の柔らかい魔物に限るだろうが、【波動】でも可能だろう」

「赤スカーフの場合ァ光眼鏡みてェに拳にその箱型【静弱】纏って突き入れて、奥まで行ったらでけェ盾に切り替えるってのもアリだな」

「光眼鏡?」

「あァ、【排析】っつー魔法使うヤツがいてだな」

 

 盛り上がる。

 魔法の使い方は無限大。可能性の塊。

 俺の【即死】でさえ色々な使い方があるんだ、こいつらの奴ァすげェんだろう。マッドチビ先生の【鉱水】なんかも代表格オブ代表格だしな。

 

「……」

「あ、えーと。ンな寂しそうな顔すンなって、お嬢。お嬢のも考えるから……」

「……」

 

 それはもう、これでもかってくらいしょんぼりした顔の金髪お嬢様。

 そォだよな、自分も輪に入りてェよな。それを消すための旅っつっても、まだまだ先ァ長ェもんな。

 

 で、えーと。【神速】の新しい使い方。

 速くなる。誰よりも。何よりも。世界を遅くして、速くなる。

 

 ……。

 ……。

 

 ……ん-。

 

「【神速】は【神速】のままで十分強いのではないか?」

「ウィジ。ダメ。わかってても考えてあげるのが優しさ」

「む、そうか。それはすまないことをした」

 

 いんやさ。

 俺も全く同意見すぎて、フォローがな。

 

「あー、お嬢ってなよ、何かを投げンのも【神速】で投げられンのか?」

「……はい。できますの。自分の手から離れたものに【神速】をかけることはできませんが、離れる前であればいくらでも」

「ンじゃよ、俺のこの余った【即死】の弾丸、お嬢が投げたらすんげェ強くなるンじゃねェか?」

 

 レーテーを起動。そこから取り出すは、撃ち出すモノの無くなっちまった弾丸ズラリ。

 数ァもう補充できねェが、俺がぶん投げたりばら蒔くよりかマシなンじゃねェかな、って。

 

「……確かに。それでは、いざという時のために少しだけ頂いておきますわ」

「お、おゥ。……確かにコレ、別に【神速】の新しい使い方じゃねェもんな」

「いえ。別にいいんですの。別に」

 

 良く無いからプイっとしてンだろォよ。

 

 えーと、でもなァ。

 うーん。

 

「前から気になっていたんだけど、アンタ」

「はい? なんですの、ディミトラさん」

「【神速】中は、どこを強化しているの? 全身強化?」

「いえ、攻撃の瞬間や回避の瞬間は強化をしますけれど、基本はしませんわ。魔力を無駄に消費してしまいますし」

「つまり、アンタの身体は【神速】の負荷を受けない、ってことね」

 

 ……ふむ。

 普通、速く動きゃァそンだけ力がかかる。慣性でもGでも空気抵抗でもなンだっていいけど、速く動くにァ何かしらの抵抗があるンだ。それが音よりも速いってンなら、当然各部位にかかる負担も大きくなる。

 けど、お嬢にァそれがない。全身強化をせずとも【神速】に耐え得る。それは。

 

「お嬢、今、座ったまま【神速】使えるか?」

「座ったまま、ですの? 使えますけれど……」

「じゃあ使ってくれ」

「わかりましたの」

 

 見た目、何も変わらない。莫大な量の魔力ァ減ってる感じもしない。

 

 その顔を、頬を、ぶにゅっと掴む。

 はたかれた。

 

「あの……なんですの? 人が真剣に相談しているというのに……」

「今、わかったか?」

「……?」

 

 わかってないらしい。

 いやコッチも仮説だからそォじゃねェ可能性を考えてのぶにゅ、だったンだが。

 

「じゃあもう一回行くぞ。いいか、避けないでくれよ?」

「え、ええ。わかりましたの」

 

 座ったままに発動される【神速】。

 その──デコを、ピン、と弾いた。

 

「……?」

「おお、やっぱりか」

「え、何ですの?」

「梓。今の所意味が分かっているのは貴女だけだ。説明が欲しい」

「何がやっぱりなのか、意味不明」

 

 え、わかんねェか。

 あァまァ当人じゃねェと分かりづらいよな。つか、当人もわかってねェっぽいし。

 

「今さ、お嬢。痛くなかっただろ?」

「はい。それが何か?」

「今俺さ、一応強化したンだよ。ほんのりとだけど──指を強化した。だから、結構な威力出てるはずなンだ。でも、お嬢のデコァ赤くなってねェし、お嬢も痛がってねェ。これがどォいう事かわかるか?」

「ふむ……」

 

 なんなら弾いた俺の指の方が痛い、とかは置いといて。

 

「お嬢の【神速】ってなよ、身体の強化込みで【神速】なのさ。【神速】に耐え得る身体強化込みで、【神速】。普通の余剰魔力での身体強化とァ全く別原理でお嬢の身体ァ保護されてる。だから、【神速】より遅い攻撃ァほぼ効かねェ」

「……しかし、それが本当なのだとしたら、あの時の演習でフェリカがあれほどの傷を負ったのは何故だ?」

「ありゃお嬢が【神速】使いながら動いてたからだよ。【神速】にァ耐え得るが、自身が【神速】で動いてる時に前から物がぶつかってきたら、【神速】以上の速さのモンがぶつかってきたのと同じになる。だからお嬢ァあんだけボロボロになった」

「なる、ほど?」

 

 相対速度って奴かね? いんやさ、この世界物理法則が云々とか言ってられるよォな作りしてねェから滅多なこと言えねェんだけど、つまりだ。

 お嬢の身体ァ、【神速】の圧力の一切を受けつけない。【神速】を使っている間ァ【神速】の最高速度までの圧力、負荷の一切を弾くンだ。そォやって身体を強化して、初めて【神速】になり得る。この時の魔力消費ってな【神速】分だけでいい。身体強化の魔力とァ別口での支払いだ。

 で、一気にそこまでの身体強化を行えるンだ、座ったまんま【神速】を使えば、最高速度の時に身体が受ける負担までの威力の攻撃の全てを無効化できる。

 

「つまり、私は【神速】を使いながら遅く動く、あるいは止まっているだけで、防御になり得る、と?」

「あァさ。ただまァ」

「それをするくらいでしたら、【神速】で避けた方がよくありませんの?」

「……そォなんだよなァ」

 

 わざわざ防御せず、避けられンなら。

 それでいい。

 

「ただほら、もし避けられねェ攻撃とかが来た時にァ役立つだろ。あるいァ、避けちゃいけねェ攻撃とかな」

「避けてはいけない攻撃……」

「後ろに守るべき相手がいる時、だな」

「なるほど」

 

 ……余計なコト言ったかな、コレ。

 もし。

 もし、お嬢が俺を守るため、とかで前に出て──防御しようとしたら。

 

 ま、膝カックンでもして転がすかね。

 

えはか彼

 

 EDENを出てから3日。

 マッドチビ先生の言う通り、所々で嵐が発生していたり、雷雲があったりして近づけない所が多く、「コレ海上行くより陸上いった方がまだ天候いいんじゃね?」ってなって、EDENのある大陸の方にまで軌道修正をすることになった。

 そうして飛んでみれば、なるほど確かに海上よりかは天候がおだやかだ。比較的マシ、なだけだが。

 

 海上と違うのァ、やっぱり鳥系の化け物が多いって点かね。

 止まり木があるからか天鷲だのなんたらバードだのと化け物がうじゃうじゃいる。普通にローパー種とかスネイク種とかもいるけど、そォいうのァスルーできる。なんたってLOGOSァ飛んでるからな。

 あとァたまに夜の湖や午後の森よろしく魔力密度によって光が遮られている場所があったりするくらいか。

 

 なるほど、やっぱり陸上のが楽な航海だ。……航、空?

 

「……そろそろ、西方の国に近づくわね」

「おォ、なんぞ、50年前に滅んだっていう」

「えるるー先生やあるるららさんの出身国ですわね」

「ちなみにユノンも西方の家系だぞ」

「そォなのか」

「EDENに滞在していた時に手合わせをしたカネミツという魔法少女も西方という国の出身だと言っていたな」

「へェ、尖り前髪が」

 

 結構いるンだな、西方出身者。

 俺ァ知識として、教本に載ってる事くらいしか知らねェンだけど。

 

「西方にあった国の名前。言える子はいるかしら。ああ、シエナは無しで」

「う」

「アンタのは偽……そっちの私とやらが仕込んだ知識だもの。知ってて当然よ」

 

 おォ、マッドチビ先生が配慮した。

 偽物の私、って言ったら、確かにシエナァ傷付くかもしれねェって思ったンだろォな。いんやさ、随分と丸くなったっつーか。まァ元々生命倫理が欠如してるだけで、そォいう思いやりの出来る人ではあったンだろォけど。

 

「西方の国。名を──ジパング」

「エ」

「あるいはその国の言葉で、ヒノモト……だったか」

「エ?」

 

 ……え?

 

 

 

「梓さん?」

「ン?」

「ン? じゃありませんの。降りますのよ。ディミトラさんからの依頼ですの。"使えそうな鉱石あったら持ってきなさい。別に加工されててもいいわ"とのことですわ」

「あ、おゥ」

「2人一組での捜索。これって、デート、ではありませんこと?」

「違ェなァ」

 

 あまりにも衝撃的過ぎて頭がトんでたわ。

 

 へー。

 西方の国ァジパングってーのか。

 

 ……まァ、驚きァしねェんだけどよ。

 この世界、色んな国の文化ってなが元々あって、けど化け物のせいで滅んでいって、今の国の形に落ち着いてる。だから国にァ色んな響きの名前の奴がいるし、この国特有の言語もあれば、なんぞか聞き覚えのある単語が混じってたりする。

 そして文化も、だ。太腿忍者然り、尖り前髪然り。忍者とサムライなんざ、確かにジパングジパングしてらァな。

 キラキラツインテと先公ァ別にジパングジパングしてねェんだが。

 

「よ、っと……」

「ん~っ、久しぶりの外の空気、ですのね」

「あァ、だな。あのミストベイル戦以来外に出て無かったンだ、LOGOS内部も換気機能ァ必要だって感じるよ」

 

 まァ、それにしちゃ渇いてるが。

 

 第一印象ァ──枯れた国、かね。

 建物のほとんどが倒壊してるってのも大きいが、どれもこれもが水分を無理矢理ぶんどられたみてェに萎っとしてる。地面も砂漠みてェな色合いだし、少なくとも俺の知ってるジパングってな国たァ違う。ま、名前が似たってだけなンだろう。文化も、か。

 

 それで、鉱石、ね。

 

「折れた刀とか、手裏剣とかァ死ぬほどありそォだな」

「あら、詳しいんですのね。国の名前も知らなかったのですのに」

「お嬢、なんぞ俺したか? 最近ちょいと厳しくねェ?」

「もう自分を取り繕わない、というだけですのよ」

「ははァ、元からそォいう性格だと」

 

 いいよ、性格キツくたってお嬢の優しさァ理解してるからな。

 ハナからそォだったら、確かに距離置いてたかもしれねェが、もう大丈夫だ。

 

「この辺の屋根の瓦も鉱石っちゃ鉱石だよな」

「では、亜空間ポケットに入れてしまいましょう」

「おー。……いいのか? 文化財的な……」

「なんですの、それ」

 

 あァ、別に保護するアレソレとか無いのね。

 ……まァそォか。化け物がどォにかならねェ限り、取り戻せもしないンだ。そこを保護する法律なんざ作るはずもねェ。

 

 ──知覚強化。風を切る音?

 

「【即死】──ァ、無理そォなんで回避、」

「全て叩き落しましたわ」

「あ、あァすまねェ、助かった。……しかし、これァ」

「矢、ですのね。何か括りつけられていますが……」

「矢文って奴さな。時代錯誤……ってこともねェのか。はン、どこぞにいやがンな」

 

 目を瞑る。

 感じ取るは、魔力の流れ。

 そして──命の気配。

 

「あっちだ。あの、半壊した城」

「城? ……あの建物が、お城なんですの?」

「おォよ。和……じゃねェや、ジパング風の城ってなああいう形をしてンのよ。つか、ここってな滅んだンだよな? にしちゃァ」

「ええ、それは気付いていましたわ。足跡が、多いですのね。魔物のものではない……確実にヒトの足跡が」

「おォ、そいつにァ気付かなかったが、血臭がすげェな、と思ってよ。化け物同士が争ってンならもっとぶっ壊れてるだろォに──これァ」

「恐らくですが、人間同士の争いの痕跡……ですわ」

「だァな」

 

 確かに日本っぽさァある。

 ただ、現代日本じゃァねぇな。

 

 どっちかっつーと──戦国時代、かね?

 

 

 

「とりあえず、矢文とやらを見てみません事?」

「あァ。つか、よくわかったな。これが手紙の類だって」

「墨の匂いがしますもの。アールレイデでは写経といって、精神を研ぎ澄ませる訓練に墨という染料の付いた筆を用いますのよ」

「へェ」

 

 ンなこともやンのかアールレイデ。

 ……必死だねェ、とか。思っちゃいけねェんだろォな……と。

 

 開く。開いて読む。

 

「 KIDENRAHATEKIKAMIKATAKA 」

「え?」

「 MIKATADEAREBAAIZUWOSHIRO 」

 

 合図?

 何だ合図って。知らねえぞ、ンなもン。

 

「お嬢」

「ああ、はい。この程度を叩き落すのは造作もないのですけれど、今なんと言いましたの?」

「ン? あー。これも聴き取れねェのか。なんか、味方なら合図してくれって言ってるンだが、合図って何だと思う?」

「合図……手を叩く、とか?」

 

 手を叩いてみる。

 追加の矢が来た。落とされる。

 

 それには文がまた括りつけられていて……いや面倒くせェなオイ。

 

「 GINTOKINNOKAMINOMUSMEYO WARERANOSHIRONIKOI 」

「今度は、なんと?」

「ウチ来てくれ、だってさ。お嬢、一瞬マッドチビ先生に連絡してきてくれねェか?」

「嫌ですわ」

「え、なんでだよ」

「どうせ梓さんはいなくなっているからです。私が【神速】を用いてどれだけ急いだとしても、一時でも目を離せば大変な目にあって、勝手に私を置いていくに決まっていますわ」

「どンな偏見だよ。……あー、じゃァこうだ」

 

 その辺にあった木を【即死】させる。まァさせなくても枯れてたが。

 ンで、木の表面に剣でゴリゴリと文字を書いていく。「原住民に呼ばれたンで行ってきます。お嬢も一緒なんで多分大丈夫です」と。

 

「お嬢、これLOGOSの方に投げてくれ。【神速】使ってよ」

「はいですの」

 

 ぶん投げられる木。

 ……赤スカーフの【静弱】とかでグシャっとならないことを祈ろう。【波動】でもぐしゃっとなるな。

 ま、大丈夫だろ。なんたってお嬢がいるんだ。こんなに心強いことァ無ェ、ってな。

 

えはか彼


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