矢文に書かれてた拠点、っつーのァまァここだと思う。
魔力は多分ない。シエナじゃないんで正確にァわからねェんだが、魔力っぽさがないので違う。
ここ。
さっき言ってた、半壊した城の事だ。
「いるな」
「ええ。建物の陰に十数人。地下には数十人がいますわ」
「なァよ、西方の国ってな、50年前に滅んだ。それァ間違いねェんだよな?」
「はい。教本に載っている事だけでなく──当時を知る方々が、それを証明していますの」
「が、壊れちゃいるが、ここにァ確かに文化ってモンがある。んで人間がいる。魔法少女じゃねェ人間が」
「つまり──」
特に声量も気にせず話していたからだろう。
城の壁の陰に隠れていた1人が、ゆっくりと出てきた。それもうザ・女忍者ってスタイルの、髪の長い女性。ちょいと……おじさんには目に毒だ。その、胸だの足だの、出るとこが出過ぎてて。隠れるとは、忍ぶとは、ってツッコミたくなる露出度の多さで。
まァ暑いからなのもあるンだろォけど、うん。
「つまり、我々はこの国が滅んだあとも、細々と生き永らえ──この国を守っていた、というわけだ。ようこそ、来訪者。あの文が読めるという事は、我が国から去った者の身内だろうか?」
「ン、まァそんなトコだ。ついでに言うとソイツァ忍者なンで、アンタの知り合いの可能性ァあるな」
「なんと。……外国に根を張って、しかし未だ忍を名乗り続ける者がいるとは。その者、名は?」
「ユノン」
言えば──それはもう、めちゃくちゃ明らかに周囲がざわつく。おいおい忍べよ。シノビだろ。
「来訪者よ。あまり──我らを惑わすな。その名をどこで耳にしたのかは知らないが、その者は既に死した者の名だ」
「あァそォかい。ンじゃ、もう俺達にァ用ァ無ェな。敵か味方かだのと聞いてきたがよ、敵でも味方でも無ェよ。ただまァ、たった今──友人を死んだ扱いにされて、ちょいとイラっと来たくらいかね」
「……もし、
いんやさ。
なァ、神さん。どォして非善ァこうも命を簡単に扱うんだろうね?
──いや。
でも、そうか。違う、のか。
「もしかしてお前ら……太、ユノンが死んだトコを見た事あンのか?」
「ああ。我らは見た。敵の手に渡った姫が──首をつられ、その身を刺し貫かれるところを。そして、妖の餌にされるところを、全て──見た。姫が我らを逃がしてくれたが故に、我らは姫を見捨てたのだ」
「……」
非善、ではある。
けれど──違うのか。命を貴ぶ心はある。ただ、妖……つまり化け物なら対峙しなきゃいけねェって思ってるだけだ。
なら、歩み寄れはするな。
「あァよ、お前らァ……えーと、妖術だの陰陽術だのに理解ァあるか? 忍術でも良いんだが」
「後ろの2つは知らないが、妖に混じり行った物が妖術を使うという事実は知っている」
「お前らの姫ァそれになった、と言ったら……お前らァどんな対応を取る?」
「……退治するべきだ。命とは、そう簡単に蘇って良いものではない。外法で姫が操られているというのなら、今すぐにでも解放してやらねばならん」
「たとえその姫が──毎日を楽しく過ごしているとしても、ですの?」
「そうだ」
ちょいと無礼だが、魔煙草を吸わせてもらう。
さてはて、脳をクリアにしていこう。そもそもなンでこいつらが俺達を呼び寄せたのかも含めて、敵だの味方だの、姫だの太腿忍者だのを考える。
まず、太腿忍者ってな多分マジに姫だったンだろう。忍者なのに姫とはこれ如何に、って感じなンだが、俺の知識の全てが通用するたァ思ってねェ。忍者姫くらいいるだろ、この世のどこかにァ、ってな。だからそれァ良い。
んで、アイツは多分魔法少女に覚醒して、けどコイツらが敵とやらに囲まれちまって、ンで自分の身と引き換えにコイツら逃がして、自分も死んで蘇生槽での復活、ってな……アイツにとってァ完璧な、けど何の説明もされてなかったコイツらからしたら罪悪感MAXな作戦を敢行した……みてェな事だと思うんだよな。
太腿忍者ァ割とマイペースなトコあるし、最低限の説明しかしねェとことかまさに、って感じだし。
ちょいと気になンのァ時期だな。姫だってンだ、常に監視がついていそォなモンだが、ここまでの長距離移動を短時間で済ませて蘇生槽と経路を繋ぎ、また短時間で帰ってきた、とでもいかねェと……それに、どこでEDENの存在を知ったのかとか、なンでそんな作戦をパッと思いついたのか、とか。
「東方に大国があることァお前ら知ってンのか?」
「知っている。名前の無い国。名前を失ったのではなく、あらゆる国が集ったが故に名を付けられなかった国。我が国の者達も多く流れ込んでいると聞いている」
「その上にある、EDENってなモンァどォだ」
「国を守護する者達の集まる場であるとは聞いている」
「聞いている聞いている、と。誰にだ」
「……この地には、お前達の様に来訪者が訪れる事がある。その者達から断片的な情報を受けている」
どォにも怪しいな。
来訪者がンなにいるか? 一応この世界ってな化け物共に人間が棲み処追いやられてるよォなやべー世界だぞ? ンな、まるで旅人がうんさかいるみてェな言い方。有りえねェだろ。
それともフリーの魔法少女でもいンのか? まァいるにァいるんだろォけど、それもしっくりこねェな。なんつーか、考えたくない可能性を除外した場合の考えをしている、みてェな感覚だ。
ははァ。
じゃ、俺の一番考えたくない可能性ってなーんだ。
「ソイツの名前ァ……ルルゥ・ガル、か?」
「なんと。知り合いだったのか」
「……」
「知り合いも知り合いさ。考える事がまんま同じってくらい仲もいい。ちょいと挨拶したいンで、どこにいるか教えてくれねェか?」
「今はいない。彼女は稀に訪れるに過ぎない」
「ほォか。んじゃよ、また聞きてェ事があるンだが──」
キィン、と。なんともまァ甲高い音が後頭部で鳴る。屈んでもいねェし避けてもいねェ、【即死】の気配ァ感じたが知覚強化も行ってねェ。
ルルゥ・ガルの名前が出た時点でお嬢が剣の柄ァ握ってたのァ知ってたからな。
「どォにもそォァいかないらしい」
「梓さん、避けられる時は避けて欲しいですの。私の心臓に悪いですの」
「なンだ、お嬢の心臓ァんな程度で止まンのか。じゃァこれからァちゃんと避けるよ、お嬢を殺したくないンでな」
広がるのは動揺。
防がれた事に、じゃねェ。ソイツがソコにいることに、かね?
「っ、来訪者、下がれ! 敵だ!」
「あァよ、斬りかかってきといて敵じゃなかったらこえーって。んで、よ、コイツ──化け物だな?」
「そうだ! その鎧武者は一度倒したとしても何度も蘇る妖だ、だから早く逃げろ──」
「いんやさ、ヒトガタだったから怖かったンだけど──それならいいや」
レーテーを起動。剣を引き抜きながら、身体をぐるりと回す。
お嬢が受け止めてくれているのァ刀だ。んで、おゥおゥ、っとに鎧武者だな。迷宮最深部周辺にいた鎧騎士とどっか似ちゃいるが──こっちァどォも、ヒシヒシと伝わってくるもンがあるぜ。
恨めしい──ずるい。
怨念だ。これァ。
だからそれを――斬る!
切っ先から染み出るは【即死】。それは固い装甲にまで染み渡り──中心のコアを殺す。
はっはっは、成長してンなァ俺。今ならあの大蛇も殺せるぜ。
「──まだですの!」
「エ」
ぐいっ、と引き戻される。引き戻されるっつか、お嬢にラリアット気味に下がらされた、というか。
「ッ、な」
「だから言っただろう──」
女忍者の言葉よりも、速く。
その鎧武者は──組みあがっていく。確実に殺したコアも、復活している。
ベルウェークの復活速度を彷彿とさせる。まさかコイツオリジンか? 何か特別な方法じゃねェと殺せねェんだとすりゃ、やべェな。何も思いつかねェ。情報が少なすぎる。クソ、余裕ぶっこくんじゃなかった。いつもそォだ。っつか最近ホント調子乗りすぎだぜ俺。しっかりしろ。
魔煙草を吸う。不味い。そォだ、そォだ。俺ァこうやって考えるべきだ。
散々言われてンだろ。戦いのスペシャリストたちから。根っからの戦士たちから、お前は前に出るべきじゃねェってよ。言われてンだよ。そろそろ自覚しろ、俺ァ前を張れる奴じゃねェんだって。
ふゥ。
「お嬢、俺の剣の腹ァ使ってよ、最高速度で──かっ飛ばせるか?」
「勿論ですわ。では、お借りしますの」
俺の剣の方がお嬢のモンより腹が広い。
だから──まァ、ホームラン、だ。
「遅い【神速】……からの!」
踏み込みで一度完全に停止し、直後【神速】で身体を捩る。鎧武者の知覚外。っつか俺も想像しただけで見えたわけじゃない。後ろの女忍者もそォだ。いんやさ、それを知覚し得る存在ァいねェんだろう。あ、迷宮の天使を除く。
んでまァ、そのフルスイング。
それァ鎧武者を面で捉えて──それはもう、綺麗にかっ飛ばした。金属バットみてェな音がしたのも高評価。高く高く、遠く遠くまで飛んでいく鎧武者に、「たーまやー」とか空気の読めねェ事言いたくなるけど自重。
「ナイスだお嬢」
「……これ、中々気持ちがいいですわね」
「今まで斬ってばっかだったからな、たまにァ叩いてみンのも面白れェか」
「はい。あ、これお返ししますの」
「あァよ」
野球かァ。
こんな世界じゃなければ──魔法ってのが、俺の理念に直結して反してなけりゃ。
そォいうスポーツも、楽しかったンだろォなァ、って。
ちょいと思っちまった。
「お前達は」
「話ァあとだ、あみあみ忍者。下にいる戦えねェんだろう連中含めて、移動した方が良い。あれが死なねェんなら、この後もわんさか来る可能性がある。何も此処を放棄するってワケじゃねェ、一旦だ一旦」
「……それは、できない。この城は守らなければならないものだ。たとえ一時だとしても、我らはこの城を放棄するわけにはいかない」
「それで、下の奴らが死ぬとしてもか?」
「そうだ。戦い得る者、戦い得ぬ者。しかして等しく忍だ。姫に生かされ、任された使命は、命に代えてでも守らねばならない」
……コイツァコイツで、だな。
魔法少女の理念ってなも嫌だが、この……なンだ、忠義か? これもちょいとイラっとくる。
しかも魔法少女じゃねェっぽいから、魔力消したってこの考えァ変わらねェな。まァ敵ってなが化け物だってわかったのァでけェ。それなら、殺せる。
同時にルルゥ・ガルの手が入ってるってな要警戒と。はァ、単なる鉱石集めのはずが、なんだって……って別にスルーしてもいいのか。別に俺達が何をしなくとも戦えてァいたわけだし。
……いや、それはどうだ。単なる人間が、そりゃ修練訓練ァ積んでるんだろォが、けど人間が──化け物に対抗し得るモンか?
「お前ら、さっきの鎧武者が現れた時ァ、どォ対処してたンだ?」
「奴は、人間を1人切り殺せば消える。自らが殺されようとも復活し続けるが、
「あァもういいや。わかったわかった。もう喋らねェでくれ」
歩み寄れるかも、とか思ったが。
無理だな。
魔煙草が不味い不味い。はン、いいね、じゃあぶっ潰そう。
「俺達にも仲間がいる。そいつらを呼んできたい。いいか?」
「理由を聞きたい」
「敵ってなをぶっ潰すためさ。そいつらがいなくなりゃ、お前達ァ死ななくなるだろ」
「……呼び込んだのは確かに我らだが、来訪者が関わり得る領域を超えている。これは我々の問題だ」
「あァよ、俺達ァ化け物専門の退治師でな。まァ俺ァ下っ端なンだが。お前達の事情がどォあれ、化け物ァ放っておけねェのさ」
「ならば、尚更だ」
「あン?」
大きく喫む。
良くねェな、その声ァ。
その顔ァ──良くねェ色してる。
「敵は──妖を使役する、人間だ。妖退治の専門家であるのならば、やはりここを立ち去るべきだ」
「……あァ、そんなら、そォさせてもらうよ」
「梓さん?」
首を突っ込みたそォにしているお嬢を制す。
それなら、一旦LOGOSに帰った方が良い。帰って作戦会議だ。首を突っ込むかどォかの、な。
「じゃァな、あみあみ忍者。太腿、じゃねェ、ユノンの事もどォにも勘違いっぽいんで、悪かった。お前らの大切な姫さんだ、生きてるはずが無ェさ。重ねて謝るよ、無礼な事を言った」
「……いや、良い。これは我らの文化であり、来訪者にまで求めることではない。我らも謝罪する。来訪者、貴女達が敵でない事を知れた。それで十分だ」
「おゥ」
お嬢の背を押し、後ろ手振って去る。城を出る。
黄色い砂の、枯れた国。ジパングだかヒノモトだか知らんが、あァ、色々と頭冷やさねェといけなそォだ。
「待て」
「ン?」
「問いたい事が2つある。1つは、貴女達の名だ」
「あァ、俺ァ梓ってンだ。梓・ライラック。こっちァ」
「フェリカ・アールレイデですの。以後お見知りおきを」
「ありがとう。そしてもう1つ聞きたいのだが」
「おゥ」
「あみあみ忍者とは、なんだ? 私の事か?」
「おゥ。今更かよ」
「……私は名を、ユクナという」
「ン。わかったよ、あみあみ忍者。用件それだけだな。ま、また会う事もあンだろ。積もる話ができてる事でも祈っとくよ」
今度こそ。
まだ何か言いたげなあみあみ忍者を背に──俺達は城を出た。
……なんかな。
アイツ、一般人じゃねェ気がすンだよな。どォにも──名前で呼びたくねェんだ、本能がよ。
「え、別に良いじゃない。どうでも。人間の集落のいざこざに魔法少女が手を出すとか、それこそ余計な諍いを生むと思うわよ」
「まァマッドチビ先生ァそォ言うって思ってたよ」
「だが、私達も同意見だ。私達アインハージャはウォムルガ族の村の守護者ではあったが、ウォムルガ族の中で起きた諍いや争いには関わらなかった。私達は普通の人間と比べて強すぎるが故に、たとえ言葉の争いであっても抑止となってしまう」
「関わってこないと約束されていても、目に見えた力というのは脅威」
「あー、なー」
「私は加勢するべきだと考える。魔物を使役する人間の集団、というのがいるのであれば、それはゆくゆくEDENの脅威になり得るだろう。その技術の仕組みや弱点などは知っておくべきだ」
「それに、魔物を使役するといえば……ルルゥ・ガルという方の話にも似ています。ですから、私も忍者の方々に加勢するべきだと思います」
がっつり割れたな。
ま、俺も半々だ。なんつーかシエナの言う程ルルゥ・ガルに似てるたァ思ってねェんだが、忍者側にルルゥ・ガルの手が入ってンのが気になって仕方ねェ。けど同時にマッドチビ先生や青バンダナと赤スカーフの意見もわかる。人間同士の争いに俺達が首を突っ込むってことァ、俺達っつー超大戦力が忍者側に付くことになる。
となりゃ、今まで保たれてきた……言うなりゃ対等だった「味方」と「敵」のバランスが崩れちまう。果たして俺達がそれをしていいのかどォか、ってトコ。
んでもまァ、悩むまでもねェか。
「俺ァその敵って方にも接触してみてェって思ってる。危険はあるンだろォが、なんだって化け物を使役できてンのか、なんだって忍者を襲ってンのか。太腿忍者の事も含めて、ちょいと気になってな」
「賛成ですわ。争い諍い揉め事というのは、どちらか一方の意見だけで判断してはならないもの。攻撃してきた、という時点で私達の敵である線はとても濃厚ですけれど、それでも問答無用で敵と判断するのは如何なものかと」
「別に良いわ。アンタが急ぎたいって言ったから私は急ごうって言ってるだけだし。アンタが首を突っ込みたいなら、そうすればいい。私は面倒だからLOGOSにいるから、自分の手に負えなそうって思ったらすぐに帰って来なさい。アンタは戦場に出ちゃいけない子だけど、戦士を導くことはできる子だもの。これだけ貴女を守ってくれる奴らがいるのなら、流石の私も安心して送り出せるわ」
「前から思ってたけど、マッドチビ先生ァなんか母親みてェだよな」
「この中じゃ一番年上だし? 別に良いのよ、ディミトラママとかディミトラお母さんって呼んでくれても」
「いいのかよ」
「何よ。良いに決まってるでしょ」
「決まってるか?」
そォいうの、嫌がるモンなンじゃねェの?
「あのね、私達魔法少女は子を成せないの。まぁアンタは魔法少女になったばっかりだからわからないかもしれないけど、たまにふと"自分の子供が欲しい"って思う事があるのよ。長く生きているとね。だから──子供を名乗って、自らを親だと慕ってくれる子は。あるいは、アンタみたいに放っておけないくらい弱い子は、可愛く見えるものなのよ」
「へェ。お嬢とポニテスリットもそうだったりすンのか?」
「……私はアールレイデですので、そういうことはないですわ。けれど、クラスの皆さんは、時たまそういう話をしていましたわね」
「ああ。──もし、自分が魔法少女にならなかったら。どのような生を追っていたのか──誰と番い、どのような家庭を築いたのか。あり得ぬ夢だとはわかっているが、話題に上がる事はある」
……じゃァ、やっぱり。
魔法少女になったこた──なっちまったこた、後悔に区分されンだな。
それがわかったのァでかい。いんやさ、誰もが最初から死んでも復活する事を目的にしてたわけじゃねェか。ルルゥ・ガル以外。
キラキラツインテも言ってたな。長く生きている内に、重みが無くなっちまった、って。
「まァ話戻すけどよ。その敵とやらに接触して、その上で全部を判断したい。だから野暮かもしれねェし罠かもしれねェし余計な争いを生むかもしれねェが──ついてきてくれる奴ァ、いるか?」
その問いに。
マッドチビ先生含め、全員が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
さて、組みあがったのは即席ライラック隊だ。
基本5人1組の隊っつー奴ァ、
……そう。
「いいですの? 梓さんは前に出てはいけませんの。貴女は時々私より短気で短絡的で好戦的なことがありますので、決して私とリジさんの前から出ない事。約束できますのね?」
「ハイ」
「殿は私達に任せろ。梓、貴女は背後の警戒もしなくていい。ただ前を見て、頭を回せ。それが貴女の仕事だ」
「ハイ」
「上空はお任せを。背面噴射機構を使用せず、建造物の上から全体の検知を行います。もしもの場合はEDENにて使用した閃光弾もありますので、合図をお願いいたします」
「あァよ」
「……私にも"ハイ"って言ってほしかったです、梓・ライラック様」
「はいはい」
結局全員ついてきた、ってワケだ。
まァそーなるたァ思ってたが。あ、マッドチビ先生ァいないよ。
シエナはそれこそ忍者よろしく屋根を伝っての移動。他ァ全員地上をお散歩、ってな。
「しかし、その敵の拠点とやらの位置はわかっているのか、梓」
「ン、それァ大丈夫。魔力の気配だのってな俺にァちょいと向いてないみてェなンだがよ、命の気配ァ結構察せられるよォになってきた。拠点は多分、あそこだ」
あそこ、と指を差す。
そこは──。
「……お墓、でしょうか?」
「へェ、魔法少女だってンのによく知ってンな、お嬢」
「いえ、流石にそれくらいの常識はありますのよ……? 魔法少女が使わないというだけで、国の方々は使用するわけですし」
「そりゃそォか」
そう、墓だ。
墓地。和風な墓石が幾つも乱立する山肌。周囲にァ瓦屋根の家々が立ち並び、これまたどォもおどろおどろしい雰囲気になってる。魔力密度が濃いのか、あの辺だけ暗いのもおどろおどろしさポイント。
ちなみに当然の話だけど、EDENに墓なんてモンはない。だから知らねェ奴もいるんじゃねェかと思ったんだけど、流石になめすぎだわな。
「西方文化というのはどうにも……なんというのだろうな、どこか寂しげな印象を受ける」
「染料が少ない」
「リジ、ウォムルガ族の村と比べるのはどうだろうか。EDENを見てわかったが、ウォムルガ族の村は染料を使い過ぎていたように思う」
「ウィジ、それにしても色の無い国」
「まァそォいう国なンだよ、ここァ。色鮮やかよりも質素なのを優先する。もう少し正確に言うなら、偉い奴のトコァ煌びやかで、普通の奴らが住むトコァ色があんまり無ェっていうべきか」
「まるで知っているような口ぶりですけれど、梓さん、この国の名前も知りませんでしたよね……?」
「あァ、ダメか?」
「いえ、そういうわけでは……」
ま、俺もちと迂闊すぎだな。
似てる似てるつったって同じじゃねェ、あんまり知ったかぶりの知識話してると思わぬトラップに引っかかる可能性がある。
「……右方、建物の陰に何かいるな」
「命の気配だが、こりゃ」
「魔物、ですのね」
「どうする? あちらと交渉するのであれば、むやみな戦いは避けるべきだ。攻撃を仕掛けては敵対の証と捉えられかねん」
そォさな。
んじゃ、こォしよう。
「何を……」
「アインハージャの言葉……ではないな」
「でも、ただの唸り声でもない」
こいつァほとんど日本語だ。ちょいと発音が違うンだが、まァ訛りで通じるだろ。
田舎モンとしてなめてくれたら重畳、警戒されたら要警戒、かね。
少し待つ。
すると、一匹のスズメが飛んできた。……ただのスズメじゃねェな、アレも化け物だ。等級区分ァCにも満たなそォだが。
あァん?
こっちも姫だって? ……なンだ、話が錯綜してるっつか──どっちかが嘘吐いてンな、こりゃ。
あるいはどっちもか? もしくは──どっちも、何かに騙されてるか、だな?
「あの……そろそろ私達にもわかるような言葉を話して欲しいですの。さっきから何が何だか……」
「ん-、なんかな、あの城ってな元ァあちらさんのモンで、あちらさんにも姫がいたらしィんだわ。んでもって、どォにも攻めてるとか襲ってるって感じでも無ェ。こっちも困窮してやがる」
「なるほど。それでは、どうしてユクナさん達は嘘を?」
「わからねェ。が、とりあえずコッチのが化け物使役してンのァ事実だってわかったな」
「そうだな。このバード種も、そちらの陰にいる……恐らくは精神体であろう魔物も、ただの人間が相手をするには脅威だ。それを嗾けておいて困窮している、というのも理解しがたい。これほどの戦力があるのならば、多少鍛えている程度の人間は簡単に制圧できるはずだ」
そうそう、それそれ。
遠隔に言葉を届けられて、見る事もできる、なんてのァEDENにもない技術だ。つまりコッチのァかなり高文明で、だってのに忍者達を潰せねェでいんのァなんかおかしい。
あるいはそォいう魔法って可能性も、まァあるっちゃあるンだよな。EDENにいない、過去見つかってないって事ァイコールで存在しないにァ繋がらねェ。
ふむ。
「とりあえず面と向かって話さねェか? そっちに攻撃の意思が無ェんなら、ちょいと話してみたい。あァ特に用ァ無ェんだがよ、単純に話したいだけだ。ダメか?」
「……式鬼の言葉で話す面妖な
「っ!?」
ちゃんと、警戒ァしてた。全員だ。シエナ含めて警戒ァしてたはずだ。
だってのに、そいつァ突然現れた。目の前に──いつの間にか、居た。
狐の面を被った、和服の、これまたなーんでか露出の多い女性。胸出し過ぎだろ、おじさんが直視できなくなっちゃうからやめてくれよマジで。
つか。
「……なァ、あの魔力」
「ええ。魔法少女、ですのね」
……そんな気ァしてたよ。
さてはて──どう転ぶかね。