遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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46.地僅亜耗蛇安堵羽生亜耗止論倶例栖本痺里程.

「改めて──()はナリコという。この寂れた屋敷の主人ぞ。クク、そう固くなるな。何も取って喰らおうというわけではないのだから」

「固くなってるってワケじゃねェんだけどよ。その……なンだ。もうちょい隠すとこ隠せよ」

「うん? 別に良かろう。お主を含め、可愛らしい女子ばかり。もっと近うよっても良いのだぞ? ほれ──乳でも吸うか?」

「吸わねェよ。あァ、まァ自己紹介ァ返しとくよ。俺ァ梓・ライラックってモンだ。さっきの化け物……式鬼っつったか? そォいうのの退治を専門にして旅をしてる。周りのもおんなじさ」

「ほう、式鬼の退治師。なれば先に送り出したユアサジを飛ばしたのも主らか?」

「あァ、悪かったな。襲われたンで、ぶっ飛ばしちまった」

「大丈夫ぞ、ユアサジは死なぬ。少し驚いていたようだが、その身に罅の一つとて入っておらん故な」

「そりゃァ良かったよ」

 

 幽霊屋敷、ってな、こういうトコを言うンだろう。

 それはもうザ・幽霊屋敷なトコに、俺達ァ招かれた。んでいるわいるわの化け物達。けど全部制御されてンのか、襲ってくる気配ァ無い。

 おじさんはそれよか……もう乱れに乱れた着物に色々とツッコミをいれたい。43歳がちゃんと反応しちまうよォな豊満な身体で、それを隠そうともしてねェんだ。出るとこ出てて、隠すとこ隠せてねェ。何のために布纏ってンのかわかんねェ。そんくらいの露出をしておいて、顔ァ狐面と。

 

 もうちょい、あるだろ。羞恥心とか。頭隠して尻隠さずってレベルじゃねーって。

 

「でよ、着物狐。聞きてェのァまさにそれさ。さっきの式鬼での話し合いにもあったが、あの半壊した城ってな元ァお前らのモノ、であってるか?」

「ああ、あっている。吾ともう2人、ここには命在りし者がいるのだが、元はもっと沢山の者がいた。それをここまで減らされてしまったのは、あれら忍軍のせいに外ならぬ。吾らの城を奪うだけでなく、吾らをも追いやって、我が物顔で占領しているのだ」

「成程。あァそォだ、姫って奴の名が知りたい。そいつがどォなっちまったのかも」

「姫の名は──カネミツ、という。姫は我らを守るために単身敵地へ駆け──そのまま、躯と成り果ててしまった」

「……ん-」

 

 まァもしかして? たァ思ってたけどさ。

 そー来るか。

 

 んで、こっちも似たような手法で死んで蘇生したくせェなァ。

 ったく、どっちも姫ってガラじゃァ無ェだろ。

 

「お主は、鉱石が欲しいと言ったな。だが、それらは吾の軍勢を作るために必要でな。ユアサジを含め、吾の軍勢は鉄や石といった素材でできている。主らのような可愛らしい子には恵んでやりたいのだが、あまり余裕がなくての。クク、この身であれば、いくらでも好きにして良いのだが」

「……単刀直入に、且つ唐突に聞くがよ、着物狐。アンタ死なねェだろ。死んでも復活する。違うか?」

「ほう? どうしてそう思う?」

「俺達もそォだから、だ」

 

 さてはて、どォ切り込んだものか、なんて考えちゃいたが、まァスッパリでいいだろ。

 騙し騙されってなルルゥ・ガルとだけでいい。別に敵かどォかもわからん奴とまで腹の探り合いァしたくねェ、疲れるからな。

 

「成程。お主らは、まほーしょうじょ、という奴ぞな?」

「あァよ。知ってンのか」

「うむ。同じくまほーしょうじょを名乗る、るるぅ・がるという者から様々な事を聞いたのでな」

 

 ──。

 あァん?

 

 ……そォいうことかー。このすれ違いァ。で、んじゃ何が目的だ。この争いを起こさせるにァ何か理由があンな?

 だがそォなってくると、太腿忍者と尖り前髪がどォ関わってンのかも気になる。一切関係ないってこたねェだろうが、あるんなら情報提供ァするだろ。ってこた、面識ァ無いと見た。

 

 単純に考えりゃ、双方の姫が似たようなコト起こした後、ルルゥ・ガルが双方を唆して争わせてる、ってーのが丸い。なんでとかどーしてとかはおいといて、状況だけ見たらそれが一番シンプルだ。

 

 が……。

 

「俺達が魔法少女で、その特徴がアンタと合致してる。ってンなら、アンタも魔法少女だって自覚ァあんのか?」

「クク、吾は妖ぞ。妖の混じるヒト、と言ってもよい。もっとも、まほーしょうじょがそうだと言うのなら、やはり吾と主らは同じなのやもしれんな」

「あァ、回りくどい言い方をどーも。しかし、どォやって復活してる。蘇生槽らしィモンは見当たらないが……」

「庭に盛られた土があったであろう? そこから這い出るのだ。信じられぬのであれば──実演してみせようか?」

「やめろ」

 

 いつの間にか手に持っていた小刀を、自らの首に当てていた着物狐。

 マジックショーかってくらい簡単に命を散らそォとしやがる。わかっちゃいたが、コイツも死が軽い奴か。

 

「おお、怖い怖い。そう睨むな、梓。……クク、どれ──少し、味見をしてみたくなった」

「何を──ん!?」

 

 さっきから、初動ってモンが全く見えねェ。そォいう魔法なのか、それとも技術なのか。

 わからねェが──唇を奪われた。後ろで息呑んだのァお嬢か。やめてくれよ、キスされたってだけだ。それで殺すとか、間違ってもやるんじゃねェぞ。

 つか舌を入れてくンな。やめろ、あと狐面の下結構美人っていうか、なんかめっちゃ好みっつーかうわちょっと惚れそうなンだけど──。

 

「って、なるワケねェだろ」

「ん……クク、美味い美味い。若い味がしたぞ、梓」

「危ねェな、惚れそうだった。【魅了】とかその辺りか?」

「なに、吾の接吻が上手いだけぞ?」

 

 絶対違う。

 今のァ完全に変な心の動きだった。それこそ【劇毒】の媚薬みてェに、なんぞ無理矢理ヘンな気分にさせられた。

 いや確かに顔ァ好みだったがよ。

 ……あ? いや、顔……覚えてねェな。美人で好みだってわかってンのに、覚えてねェたァどォいうことだ。

 

「どれ、今度はもっと奥まで──」

「させませんの──ッんむ!?」

 

 我慢ならなかったらしい。

 わざわざ【神速】使ってまで俺と着物狐の間に入り込んだ金髪お嬢様は、しかし向きが悪かった。俺を庇う形で出てきたせいで、そのキスァお嬢に。

 

 くちゅくちゅと、なんぞ、その、なんだ。あんまり表現しちゃならねェ音が幽霊屋敷に響き渡る。

 最初ァ驚いた顔。

 んで次にァ──蕩けた、頬を染めた、あー。まァ。

 

 惚れました、みてェな顔に。

 

「ぷは。クク……予想外ではあったが、良い良い、可愛らしい女子だ……どうだ、吾の妻にならぬか?」

「ぁ……ぇ、と……」

 

 ……ん、揺れてる?

 おいおい、お嬢。それ多分媚薬とかなんかそーいう類の奴だぜ。

 

「クク……そちらの子達も、吾と唇を交わそう」

「う──!?」

「え」

「くッ……ん、ぅ」

 

 早業にも程がある。

 着物狐ァ次々に全員にキスをして、その身体を弄り、甘い雰囲気を……って、おいおいやりすぎだって。そこまでァ……おじさん、見ちゃいけねェ気がする。

 水音が多すぎる。目ェ瞑ってるが、後ろでナニしてるのやら。あァ、来ちゃダメだったな。こォいう奴か。さてどォするか──。

 

「クク……もう目を開けても良いぞ、梓」

「ん。あのな、あんまりそォいう事してやんなよ。こいつらァまだ若い──」

「クク、どうした、そんなにも目を開いて。ククク、やはりお主も可愛らしいなぁ。是非とも──私の妻にしたい」

 

 あー。

 やっべェ。俺が抵抗できたからって、油断した。

 

 4人、だ。

 金髪お嬢様も、ポニテスリットも、青バンダナも赤スカーフも。

 みんながみんな頬を上気させて、潤んだ瞳で着物狐に寄りかかって──やられた。

 

「普通の女子(おなご)であれば、逆らえるはずがないというのになぁ。梓……どうだ、この輪に交ざりたくはないか?」

「あァよ、お断りだね。んで、今すぐその術だか魔法だかわかんねェの解いてくれや。でないと、ちィと怒るぞ」

「ほう? 良い良い、愛い子の怒り顔というのもそそるものぞ。特に主は、その火傷も、その腕も……吾の好みに合致しすぎている。もっと怒り、泣いてはくれぬか? クク、吾のものにしたくてたまらないのだ」

「そォかい。んじゃ──」

 

 座っている場所から【即死】を一滴垂らす。

 

 それだけで、屋敷からパラパラと木屑が降り注ぎ──メキメキという音を立て始めた。

 

「……何をした?」

「いやなに、この屋敷そのものから命の気配ってながしてたンでよ。コレも化け物の一種なンだろ? だから殺した」

「良いのか? 屋敷が倒壊すれば──女子達も巻き添えを食うぞ?」

「問題ねェよ。それでお前をみんなから離せるンならな」

「……ならば、こういう嗜好はどうかの?」

 

 ガシャンガシャンと。

 今まで沈黙していた鎧やら何やらの化け物達が、一斉に動き出した。

 そしてそれらは──着物狐に寄り添うみんなへ向かって刀を振り下ろす──着物狐ごと。

 

「ッ、思惟瑠徒恵印減後琉("盾"のアインハージャは)名句阿簿楠蒲湯上競流布(自身を覆う箱を作りなさい)!」

「【静弱】」

 

 あァダメだった。余裕ぶってるフリ失敗だ。奥の手をもう一個使っちまった。

 形成されるは【静弱】の箱。それは着物狐を含めた5人を取り囲い、攻撃を防ぐ。

 

「今の唸り声……お主は妖だったか?」

「そりゃァお互い様ってことで」

「クク、それもそうだ。だが、良いのか? ──ほれほれ、こうも密閉されては……こんなこともしてしまうぞ?」

 

 そんなことを言いながら、"コンナコト"をする着物狐。

 俺のことおじさんだってわかってンじゃねェかってくらい的確に──いや、普通の女子なら絶対かかる、とか言ってたな。もしや気付いてンのか? 俺の人格が、男性であるって事に。

 

「……だが、殺せたな。つまり家の化け物ァ、外からァ殺せねェが内側からなら殺せるって条件か」

「む?」

「そォいう風に辿るなら──例えば」

 

 申し訳ねェが、お嬢達には"コンナコト"をされといてもらう。俺ァその辺に関して激昂するよォな奴じゃないんでな、死なねェんならそこまで気にしねェ。だから、それよか周囲の化け物を考える。

 あの鎧武者……ユアサジっつったか。アレみてェに即時復活するってこたない。もうこの家ァ死んでる。倒壊ァもうそろそろだ。もうちょい殺せば死ぬ。つまるところ、条件さえ満たせば殺し得る──オリジンと同じよォな仕組みだって考えて良い。

 なら、今あいつらに群がってる別の鎧武者や一反木綿みてェのとかヒトダマみてぇのとか、とにかく日本妖怪みてェな奴らも、条件さえ整えゃ死ぬと見ていいだろう。問題ァ俺がそォいう対処している間に着物狐がみんなを殺さないか、だが……それができンならとっととやってる気がすんだよな。

 わざわざ化け物操って殺すってな、ちょいと遠回りだ。あのいつの間にか動作が終わってる奴含めて、なんぞかカラクリがある。

 

 なンで、とりあえず試すのァ。

 

「シエナ! 家の隙間から中に向かって閃光弾! お前ァ入って来なくていい!」

 

 ──"はい!"

 

 ヒュ、なんて音がして、ちっくせェ玉が屋敷内に入る。

 それは屋敷の中央当たりに来て──凄まじい光を吐き出した。

 

 幽霊にゃ光だろ。あるいは掃除機。

 

「へえ? お主、妖についての知識を多く持っているようだ。式鬼の言葉といい、この国出身ではないのか?」

「違うね。だが、似たような国を知ってるってだけさ」

「ほう! ヒノモトと似たような国とは──是非、行ってみたいものぞ」

「生憎もう行けねェ場所にあってな」

「……そうか。お主も、帰るべき場所を失った子か。……。良い良い、やはりお主は吾に愛されるべきだ」

 

 光ァ、効いた。俺の【即死】を使うまでもねェ、一反木綿みてェなのと人魂みてェなのが一瞬にしてジュッと消えた。まァこの辺魔力密度高くて暗いからな、そォいうトコじゃねェと生きられねェ化け物だったンだろう。

 だが、鎧武者はダメっぽいな。鉱石で作るだのなんだの言ってたし、マッドチビ先生の作るのと同じくガーゴイルか。あるいはゴーレム、マリオネッタ。まァなんでもいいが、精神体だ。

 

 なら──良い。俺ァ精神体にァ滅法強くてね。

 

「まあ、待て、そう血気を見せるでない。クク、もう満足ぞ。そら──返してやる」

「え」

「あ」

「んぅ……?」

「──!?!?!??」

 

 その言葉の通り、一瞬で顔付きを変える四人。鎧武者ァそのままだが、4人は一斉に着物狐から距離を取り、臨戦態勢になった。

 なンだ、その。乱れた着衣を直しつつ。

 着物狐ァ着物狐で、見せつけるように──口元を拭う。

 

「梓さん!!」

「なンだよ」

「ち、違うんですの!! 私は本当に梓さん一筋で!」

「あァわかってるわかってる。わかってるけどそォいうの後にしな。アイツから目ェ離すのァダメだぜ、お嬢」

 

 明らかに圧倒的有利だったはずだ。

 それを解放したのァ、何の意図があってか──。

 

「なぁに、お主らと敵対するつもりはないのでな。特に梓。お主には、吾の愛を受け取ってもらいたい」

「お断りだァよ。確かに見た目ァ結構良いが……じゃねェ、そうじゃなくて、なンだ、まァそこそこ良いたァ思うが、簡単に死のうとする奴ァ恋愛対象外でね。出直してきな」

「成程成程……では、吾がお主の妻になる、というのはどうだろうか。無論、自死も殺しもやめよう。式鬼を嫌うというのであれば、これらも捨てよう。どうだ、このカラダを好きにできると考えたのなら──魅力的ではないか?」

「アンタ、信用ってな言葉ァ知ってるか?」

「クク、少しばかり虐めすぎたか。ククク、周りの者も、そう殺気立つでない。ここからはちゃんと、吾の困っている事を話そう。それを解決しに来てくれたのだろう?」

「……ンなわけじゃねェが、話ァ聞くよ。ただし、次アレやったら──アンタの手持ちの化け物ァ全部殺す。いいな」

「ああ、わかった」

 

 それで、ようやく。

 話し合いが始まった。

 

 ……無駄が多いっつの。

 

えはか彼

 

「まず──事の起こりから話そう。あれは今より50年前、この国が滅んだ時の事ぞ」

「あァさ、そもそもどォやって滅んだんだ? 化け物に襲われたってなァ知ってんだが」

「吾の使うこの式鬼……ああ、驚くでない。完全に制御下故、愛でることもできる。これを、外では魔物と呼ぶ……というのは、合っているか?」

 

 ポン、と掌に出したのァ、小さめの猫……じゃねェな。ありゃ猫又だ。

 それに警戒するのァ4人。俺ァもうそんな警戒してねェ。なんつーか、コイツから殺意みてェなのが欠片も感じられねェんだよな。

 ただ悪戯、って感じだ。冷静メイドに似てるンだ、ちょいとな。

 

「あァ、合ってる。ま、式鬼として話してくれていいよ。そっちのが話しやすいだろォし」

「ありがたい。……50年前、この国には3つの勢力があった。吾らの侍衆、吾らの敵である忍軍、そして何の力も持たぬ人々。吾らにも忍軍にもそれぞれ姫という存在があり、吾らは北を、忍軍は南を領地とし、国外から来る式鬼を倒していた」

「その頃から敵対してたのか?」

「クク、良い所に気付く。答えは否だ。過去では手を取り合っていた。吾らと忍軍は、最も貴ぶべき御方に使えていたのでな」

「殿とかその辺りか」

「おお、よく歴史を勉強しているようだな」

 

 つまりまァ、最初ァ仲良かったと。俺の知ってる侍と忍者の関係たァかなり違うが、まァ国の守護者としてあったと。

 ……この分だと、キラキラツインテや先公ァその何の力も持たない人々、つまり一般人だったって感じかね。名前の響き的にも。

 

「その均衡は程良かったのだ。吾らも忍軍も、見事に式鬼を抑えきっていた。──殿が病で亡くなるまでは」

「はァ、なるほど。それで、利権争いっつーかどっちが頭になるか、みてェな争いでも起きたのか?」

「いや、違う。殿()()()()()()()()()()

「……あン?」

 

 人間が──化け物になった、だと?

 ……それァ、あり得る、のか? あり得ちゃ……いけねェんじゃねェか?

 

「式鬼となった殿は強かった。侍衆も忍軍も歯が立たたぬ。して、吾らは南北に別れ、その交流は断絶した。何の力も持たぬ人々の多くが殺され、それでも尚式鬼となった殿……生前の名からカンコウと名付けられたそれは、国のあらゆるところを破壊して回った。吾らも忍軍も逃げ回ることしかできぬ。そうしていく内に、ヒノモトという国は滅亡したと──外国にも知れ渡るようになった」

「そのカンコウってな、今はどこに?」

「わからぬ。ある一時から、その姿を見なくなった。忍軍が倒したのではないかと恐る恐る問いに行けば、忍軍からも吾らに使いの者が出ていてな。どちらからしても知らぬ──どこにいったのかは、どちらにもわからぬというのだ」

「まァ隠す意味が無ェンだ、嘘じゃねェんだろうな。本気でどっちも知らねェとなると、国外に行ったと考えンのが普通だが……。着物狐、カンコウってなどんな事をする式鬼なんだ? あるだろ、雷を操るとか火を扱うとか」

「雨と木々だ。カンコウは天候を繰り、意のままに樹木を生やす」

「お嬢、ポニスリ。心当たりァあるか」

「いえ、そのような魔物がEDENに来た、という話は知りませんの。ただ、50年前ですと私はまだ生まれておりませんので……」

「遠征組がそのような魔物を討伐した、という話も聞かんな」

「ベルウェークの例で考えるのならば、何者かがそれを連れ去った、という事は考えられないだろうか? 幾百と大きな丘から動かなかったベルウェークが、ルむぐ」

「ウィジ。余計な事を言わない。でもその通り。ずっと大きな丘から動かなかった──私達が繋ぎ止めていたはずのベルウェークは、その使徒によって簡単に動かされた。カンコウというのも、何者かによって動かされたと考えられる」

 

 そォだな。

 それァまァ、可能性として考えてもいい。だが、ちょいと引っかかる。

 まず誰が、って点。で、何のために、って点。んで、どこに、って点だ。

 恐竜島やウォムルガ族の村、大きな丘ってなは海の向こうにあったからEDENが気付かなかったンだ。だが、ここァ地続き。カンコウってなを連れてくにしても、遠征に出てる魔法少女の一切に気付かれず、ってなはできるモンなのか?

 何のため、はまァ、いくらでも考え付けるから今はいい。一番気にしなきゃなんねェのァ誰が、だな。

 

 ルルゥ・ガル……じゃ、ねェ気がする。アイツが動き出したのって多分最近なンだよな。これァ勘でしかないんだが、いんやさ裏付けをすると、今までEDENの魔法少女が奪われるとか、化け物が統率されてるとかが無かったから、とか色々言い様ァある。大侵攻ァ時たまあったらしィが、統率ァされてなかったと。

 だからまァ、これをやったのァルルゥ・ガルじゃねェ。つかルルゥ・ガルにァベルウェークってな神がいたわけだし。

 

 神。

 神か。

 カンコウってながオリジンだとして、ヒトが化け物になるってなどォいう事なのか。まァオリジンの発生原理ってなわかってねェんだ、もしかしたらすべてのオリジンァ元はヒトなのかもしれねェっつー嫌な想像もできンな。

 

「すまねェ、話の腰折った。カンコウってながどこにいるかは置いておこう。んで、侍衆と忍軍ァどォして仲を違えたンだ?」

「うむ。きっかけは、カンコウがいなくなったことで、これから再度手を取り合ってこの国を再興して行こう、という話し合いの場が設けられたことぞ。その場で──忍軍は、吾ら侍衆の食事や飲料に毒を混ぜた。そしてこう宣言したのだ。"この国は忍のものとする。侍は要らない。国民も要らない。我らが姫と共に、このヒノモトを再建する。貴様らが我らに降るというのであれば受け入れよう──如何か"と」

「回答ァ、"馬鹿を言え"、か?」

「クク、血の気の多い娘子だ。だがまあ、中らずと雖も遠からず。吾ら侍衆は、毒によって死に行きながら──自らの操り得る最上位の式鬼を作成した。そして、その制御権を吾に渡したのだ。中には自らの命を生贄にするものもあった。吾も相当に怒りを溜めていたのでな、式鬼には忍軍の駆逐を命じ、吾と姫、そして毒を食らわなかった少数の侍衆でこちらに逃げてきた」

 

 何が中らずと雖も遠からずだ。そっちのが血の気盛んじゃねェか。

 

「この出来事により吾ら侍衆と忍軍は完全に決裂した。そこからずっと、敵対関係よ」

「姫が云々ってなは?」

「話した通りだ。もう我慢ならぬと、吾らが一斉蜂起しようとした夜──姫は単身、忍軍の元へ行ってしまった。"やるべき事を見失うな"と、そのような書置きを残してな」

 

 尖り前髪らしくもあるが、あの面倒見の良い奴がこいつら見捨てるよォな事するか?

 ……ん-。

 

「ちなみによ、着物狐。俺達ァ忍軍にも接触してきたンだ」

「ほう?」

「んで、あっちの話も聞いた。アイツらの話曰く、お前ら侍衆ァ忍軍を逃がす代わりに忍軍の姫を捉え、首を吊り、串刺しにした後式鬼の餌にした……って聞いてるンだが、これァ事実か?」

「無論、事実ではない。吾がそのような残虐な行為をするように見えるか?」

「信用って言葉知ってっか?」

「ククク。だが、これは事実だ。吾らはそのような行為を行っていない。何より、吾らであれば姫になど興味を示さぬ。忍軍を捕らえたのであれば、姫が何を言ってこようと無視し、それを惨殺するだろう。あの場で食事に毒を混ぜろと指示したのが忍軍の姫であるというのなら、話は別であるが」

 

 まァ、太腿忍者ァそォいゥこたしねェだろ。

 ……いやどォだろうな。アイツ結構効率的っつーか、それが最適だと思ったらやるって可能性ァある。……ん-。

 難しいなァ。

 

「あァ、じゃァ話ァ変わるンだがよ。お前、こんだけ式鬼を操れンなら、どォして忍軍をぶっ潰さねェんだ。アンタ自身ァ他人を殺せねェみてェななんかがあるのァわかるが、こんだけの量をいっぺんいあやつれンなら楽勝だろ」

「それが、そうも行かぬのだ。吾はこの通り、あの場で死した侍衆から制御権を渡され、多くの式鬼を操り得るようになった。そのすぐ後に死なぬ身体……まほーしょうじょというのにも覚醒し、妖の混じるヒトとなった。──だがそれは、忍軍も同じだった」

「ははァ、やっぱりか。あのあみあみ忍者……ユクナっつったか? アイツも魔法少女だな?」

「確認を取ったわけではないが、そうだろう。何度殺せども蘇る。幾度となく殺したが──幾度となく姿を現す。面妖なことに、あの者を式鬼で殺すと、その式鬼の制御権が失われてしまうのだ。故に最近の吾は温存を選んでいる。あまり多くの式鬼を向かわせず、しかしこちらに攻め入らぬよう牽制をする」

 

 ……そもそも式鬼の作成ってな技術が意味わかんねェんだが、あみあみ忍者ァそれの契約かなんかを断ち切れる魔法を持ってるンだろォな。んで、城のどっかに蘇生槽でもあるンじゃねェか? だから動きたがらなかったって考えりゃ納得も行く。

 となると、あみあみ忍者が言ってた人一人を殺せば消える、ってのも嘘か? 毎度毎度自分が犠牲になって……いや、あるいは気付いてねェって可能性もあンな。自身の蘇生にこそ気付いちゃいるが、だからこそ自分が毎回毎回犠牲になってるンで、まるで人一人を殺したら消えてるかのよォに考えてる、とか。

 自分の魔法が何かを認識しないまま、ってな、アインハージャ2人の例がある。別におかしなことじゃねェ。

 

 ふむ。まァ大体わかってきたよォな気もするが……問題ァ、どう終わらせるか、だな。

 

「忍軍に攻撃をやめる、ってな考えァ無いのか」

「吾らにも矜持がある。あの城は吾らの城なのだ。全く、南方に行かば忍軍の城も残っているというのに、何ゆえ吾らの城に固執するのか」

「確かに位置的にァ北側だな。となると、あいつらがあそこを自分の城だって言い張ってンのァ蘇生槽があるからだけ、って可能性ァ高い。でもそーなると退いちゃァくれねェなァ」

 

 さて、どうするべきかね。

 後ろから感じる視線。まァ多分、「これ、放っておいてもいいんじゃないか?」ってポニスリの視線なンだろォが……。このまま見捨てたら、こいつらァ殺し合いをやめねェだろ?

 

 俺ァそれが嫌なンだよなァ。

 ……んじゃ最終手段か。

 

「あー、よ。着物狐」

「なんだ?」

「その矜持ってなよ──俺の妻になる、ってのとじゃ、どっちが重い?」

「梓さん!?」

 

 まァ、どーやったら殺し合いが起きねえのか、なんて。

 簡単だ。

 

 どっちか引き剥がしちまえばいい。

 

「……クククク、良いのか? 吾からみても、そちらの金糸の乙女は、お主に惚れているようだが」

「あ? なンだよ、そォいう配慮できンのかよ。最初にあンなことしておいて」

「無論、舌を交えたのなら、心情など手に取るようにわかる。──因めば、その答えは是だ。お主は酷く魅力的故な、侍衆の悲願も妄執も吾らの覚悟も全て捨て去って、お主の妻となろう。それと、吾は妻が他に居ても構わない。ククク、どうだ?」

「だ──だめですの!! それは絶対ぜったいぜったい」

「んじゃ、それで。ただまァ、さっきの接吻でわかっただろォが、俺ァあんまりそォいうのに靡かねェんでな。そっちの努力次第って事にさせてもらうが、それでもいいか?」

「構わない。吾は難攻不落の城を落とすのも好みだ。さて、ならば少々支度をしてくる故、待つが良い。ああ、そうだ。クク、旅ともなれば──共に湯浴みをすることもあると、そう期待しても良いのだな?」

「時と場合による」

「良い良い。では、そうしよう」

 

 よし、これで良いな。

 なんぞ複雑な事態ってな、こォいうシンプルで強引な方法で大体なんとかなンだよ。【即死】もシンプルで強引な魔法だしな。俺ってばこォいう手法が合ってるのやもしれん。

 ……アレかな。前世で陰口とか叩かれてたのかな。あの人の企画いつも詰めて無くて大変だよねー、とか。

 

「あ──あ、あ」

「ン、どうした、お嬢」

「梓、貴女には人の心が無いのだろうか? 聞けば、フェリカとはそれなりに固い約束を交わしたと聞いている。だというのに今のは……あまりにも」

「ウィジ。ダメ。私も見ていられない。これは悪魔の所業。最低」

「……梓。あまりこういう事は言いたくないのだが……もう少しだけでいい。私……いや、良い。フェリカの気持ちも考えてやってはくれないだろうか?」

「エ、なんだよ揃いも揃って。ハナから言ってるだろ。俺ァお前らのことそォいう目で見れねェんだよ。だからお嬢の告白もちゃんと断っただろォが。お嬢の気持ちだァ? 知らねェよ、お嬢ァ"梓さんが勝手に振り向きますの"なんつってンだ。ンな風にお嬢を慮ったら、お嬢の努力ガン無視じゃねェか」

 

 子供相手にしてるみてェで恋愛対象に見れねェってのもそォだが、お嬢もポニスリも結局まだ死が何なのかわかってねェ。

 その点、着物狐ァ最初に言ってくれた。俺が望むンなら自死も殺しもやめる、火傷も腕も良いってな。魔力消すくらいならいっぺん死んできた方が良い、なんて事宣うお嬢達たァ違う。その年齢含めて、子供にも見えねェし、ちゃんと……なンだ、愛恋の対象にァ見える。

 

 結構でかかったよ。

 あの時言われた言葉。一度死んで治してきた方が良い、って言葉ァ──ちょいと、俺の中で2人の評価を下げ過ぎた。その怒りもまァ、欠片も伝わっちゃいねェんだろォけどな。

 

 別に朴念仁ってワケじゃねェよ、俺ァ。

 わかってる。好意くらいわかる。けど、俺にだって譲れねェモンがある。それだけさ。

 

「梓。私は貴女を見誤っていた。ここに謝罪をする」

「ウィジ。それは私も謝るけど、一緒に子供扱いされた事は遺憾」

「……」

「……」

 

 ごめんなァ、けったいで複雑な人間で。

 でも俺を好くってな、そォいうことだ。だから──無理なら諦めな。少なくとも俺ァ自分変えられねェからよ。

 

えはか彼


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