遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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50.亜有佐渡上下韻?

「すまねェ、迷惑かけた」

「本当にね。けど、無事でよかったわ」

「あァさ、マッドチビ先生ァ全域にプテラゴイル放っといてくれてありがとな。アレがなきゃマジで死んでたかもしれねェ」

 

 無事、プテラゴイルに拾われた俺達ァ、LOGOSへの帰還を果たした。

 終始何も言わねえお嬢とポニスリァ俺の身体に引っ付いたままで、青バンダナァ他のプテラゴイルに乗って。シエナもLOGOSの上で待機して周囲をずゥっと見ていてくれたみてェで、いんやさ感謝しかねェや。

 ちなみに着物狐ァ浴場で酒飲んでた。

 

「……」

「……」

「なァお嬢、ポニテスリット。そろそろ話してくれねェか?」

「……」

「……」

 

 どォしちまったのか、あっちから帰ってきてずっとこの調子だ。

 何か思う所でもあったのか、それとも単純に怒りからか。

 

「マッドチビ先生、もう俺ァいなくならねェんでよ、始の点へ頼まァさ」

「ええ、わかったわ」

「シエナも、ありがとうな。自分の感情まげてまで着物狐の作戦に付き合ってくれたンだろ? おかげで俺ァ帰ってこれたし、ホント助かったよ」

「い、いえ。あるいはナリコ……様の声を無視し、阻害し、梓・ライラック様を助けられなかったかもしれない、と考えると……その」

「そォならなかったンだから、いいじゃねェか」

 

 ンなIf考えてたら俺なんざ懺悔だらけだろォが。

 プテラゴイル間に合わなかったらマジで死んでたかもしれねェんだぞ、ちったァ考えて動けっつの。

 

「リジ。私はとても活躍したように思う。あまりよく覚えていないのだが」

「ウィジ。偉い偉い」

「うむ」

 

 まァあっちでの事ァ俺もほとんど覚えてない。だいたい何したかってなわかるンだが、何考えてたのかはわからん。夢みたいなものだからな。あくまで俺ァ梓・ライラックで、アンディスガルじゃねェワケで。

 

「クク……ああ、よく戻った。吾は嬉しいぞ。妻を失わずに済んだのだからな」

「ゆったり酒呷ってたクセに何言ってンだよ。つか、俺の妻になるんじゃなかったのか?」

「吾の妻がお主で、お主の妻が吾でも良かろうぞ」

「……別に良いがよ」

 

 ん? 何かこの件やったよォな。

 

「……梓さん」

「梓」

「おォ、よォやく喋る気になったか。どォした、2人とも」

 

 俺の服を引っ掴んで離さなかった2人が、ようやく。

 

 ようやく、喋って。

 

「……私は、やっぱり魔力を殺す、という案に……賛成できませんの。それは私の否定ですわ。私の、そしてアールレイデの。今ある魔法少女の否定ですの。……だから」

「すまないが、梓」

 

 ──知覚強化。レーテーを起動し、剣を引き抜きつつ後方へ下がれ!

 

 

 

「死んでください」

「死ね」

 

 

えはか彼

 

 細剣と籠手と俺の剣がぶつかり合い、高い音を響かせる。

 突然のことだ。そして、一瞬のことだ。

 

 前方から放たれるは見えない力、【波動】。

 そして全方位から来るのは見えない斬撃、【神速】──知覚強化など意味を成さない死が、俺を狙う。

 

 それに、あっけなく。

 何の抵抗もできずに、俺は切り裂かれてしまった。

 

「クククッ、吾の妻を殺そうとするとは、不届きが過ぎるぞ?」

「!?」

「いつの間にッ!」

 

 切り裂かれた──のァ、俺を模した紙人形。

 いつのまにか俺ァ着物狐の腕の中にいて。──けれど、わかる。わかってしまう。

 

 2人の剣に、拳に。

 明らかな殺意が乗っている。

 

「何、を」

「梓さん。私、わかりましたの。貴女はまだ一度も死んでいない。──確かに私も、魔法少女になってからの、初めの死は、とても怖かったですわ。確かな恐怖がありましたの。だってそれまでは、死とは避けるべきで、忌避するべきものでしたから。アールレイデにあってもそれは同じなのです。──魔法少女になるまでは、死ぬ事は許されない。魔法少女となるまでは、アールレイデは資源であるのだから、死んではならない」

「私はアールレイデではないが。私も、最初の死は怖かったよ。私の場合は演習任務でな。自身の魔法を過信し、魔物の群れに突っ込んで、背後からの攻撃により背骨を折られ……苦しみながら死んだ。少しずつ冷たくなっていく身体に恐怖を覚えたものだ。本当に生き返り得るのか、本当に私は──続くのか」

 

 剣を構える金髪お嬢様。

 籠手を構えるポニテスリット。

 

 その眼に、冗談の色は無い。

 本気で言ってる。本気で言ってやがる。

 

「貴女はまだ経験していない未知を怖がっているだけ、ですわ。そうでなければ──EDENの、いいえ、全世界の魔法少女から居場所を奪うようなことをしよう、などとは思わないはず」

「……それ、本気で言ってンのか」

「当然だ。梓、考え直せ。死にたくないというのなら、その考えを直すというのなら、このまま帰ろう。だが、変えぬというのなら──死んでもらう。死んでEDENへ還れ。それでも尚と言うのなら、その度に殺してやる」

 

 目を見ても。言葉で確認しても。

 本気なンだ、って。わかった。

 

 ──腕部強化。無理矢理でいい、逸らすだけでいい。ぶっ叩いて弾け!

 

「何よ。アンタが殺されそうだったから助けてあげようとしたのに。なに、そいつらを庇うの?」

「ったりめェだろ、なンだって殺し合いなんざ──」

「ククク、ほら、隙だらけだぞ?」

 

 紙が俺へ向かう剣を包み込む。腕を掠める切っ先には、明らかな殺意が乗っている。

 マッドチビ先生も本気だ。本気でお嬢とポニスリを排除しよォとしてる。着物狐ァ俺を守るに留めてくれちゃいるが、それも時間の問題だろう。

 アインハージャの2人ァ──くそ、【即死】!

 

「む。殺されたか。【喧槍】で射出した槍も殺せるとは、やはり恐ろしい魔法だな、【即死】は」

「ウィジ。とりあえずあの剣を奪った方が良い。そして、身体に密着して拘束する。そうすれば梓は抵抗できない。その内に速やかにフェリカとミサキを排除すればいい」

「リジ、その通りだな。行くぞ」

 

 待て、待て、待て。

 俺が帰ってきて、ごめんな、迷惑かけたわ、んじゃ行こうぜ始の点に! じゃねェのかよ。

 なンで、なンだって殺し合いをしてンだ!

 

「クク、危なくなったら助けてやる。お主の思うようにするといい」

「ッ、あァよ!」

 

 少なくとも着物狐ァ理解してくれてるらしい。身体を離してくれたンで、全力の脚部強化。

 ゴリっと削れる魔力に、けれど青バンダナの拘束ァそれで躱す事に成功した。──後頭部に死の気配。躱した姿勢を維持し、そのまま倒れ込め。バックハンドスプリングだ。前ができたンだから、後ろもできる。できると思え。言葉の力無しにやれ!

 

「【静弱】」

「【波動】、くっ!」

「助かった、赤スカーフ!」

「別に良いけど、大人しくしてほしい。2人を殺すに貴女を守りながらというのは厳しい」

「殺さねェでくれっつー頼みを聞いて欲しィんだがな!」

「無理。だって2人は殺す気。殺すまで止まらないのなら、殺し返すしかない」

「その通りだ──【喧槍】」

「遅いですの」

 

 また、即死の気配。青バンダナの槍がお嬢やポニスリに届く前に、【神速】の剣が俺を刈り取る──ことはなかった。

 

「っ!?」

「馬鹿ね、ここは私のLOGOSの中よ? アンタの立っている床だって、アタシの【鉱水】で作ったんだから、【鉱水】に戻せないはずないでしょ」

 

 体勢が崩れる。見れば、お嬢の足が通路の床にまで沈み込んでいた。いや、それだけじゃない。一度液体になった【鉱水】は──しかし、即座に硬化する。

 完全に足を嵌められたのだ。こえー魔法だが、よし、これでとりあえずお嬢ァ封じてくれた──。

 

「ならば、足など要りませんわ」

「は──待て、やめろ!」

「やめませんの」

 

 金髪お嬢様の足元を、一筋の線が駆け抜ける。

 それはどろりと赤を生み──そのままの足で、再度の【神速】を使ったのが見えた。

 

「ッく、そが! 何してやがるっ! ンなことしたら──失血で死ぬぞ!?」

()()()()()()()()

「──!」

 

 まだ。

 まだ言うのか。

 まだ言うのか、それを!!

 

「今の一撃、よく防いだ、と褒めてあげますわ。けれど──捕まえましたの」

「う──」

 

 斬撃は剣で防いだ。

 だけど、その隙に腕を掴まれてしまった。【即死】、なんか使えない。俺の魔法ァそんな汎用性のあるモンじゃない! 使ったら──殺してしまう。部分的な【即死】? けれど、それを使えば、その部位はもう一生使えなくなる! それを、そんなことを、そんな蛮行を、俺ァお嬢にできるのか?

 

「ククク、それは、吾のものぞ?」

「……!?」

 

 俺の手を掴んだお嬢。その顔に、その唇に。

 着物狐が、キスを落とした。

 

「ぅ……ぁ、こ、れは、あの時の……」

「それは、良い判断だ着物狐! ポニテスリットにも──」

「掴んでいれば十分だ──【波動】!」

 

 膨大な死の気配が迫る。

 これは【波動】だ。演習の時や、ミストベイルの時に使った巨大な【波動】。それは通路を、そして──お嬢をも巻き込んで、膨らみ、圧し退けて。

 

「──クソ!」

 

 発動する。

 対象は2つ。お嬢の腕部と、【波動】。お嬢には足先が無いから、ふんじばる事ァできねェ。殺された腕は握力も腕力も失って、だから俺の手を掴み続けられずにするりと落ちる。

 

 だから、逆につかみ返して、後ろに投げて──【波動】ァ【波動】で殺す!

 

「!」

「っはァ、っは──」

「魔力切れか。やはりお前は戦闘に向いていないよ、梓」

「っ」

 

 防御。ダメだ。【即死】防御は相手の腕を殺す。回避。無理だ。もうそンな魔力残ってねェ。助けを乞う。誰に? 着物狐か? アインハージャか? マッドチビ先生か?

 そいつらァ──ポニテスリットを、絶対に殺さないか?

 

「【波動】」

「【即死】!」

「……!」

 

 迫りくる圧を殺し。

 ──その両腕をも、殺す。あァ。ああ。あァ。

 

 殺した。

 お嬢のも、ポニテスリットのも。

 殺した。

 

 いつぞやの背中メッシュの顔が浮かぶ。太腿忍者の苦痛に喘ぐ声が聞こえる。

 アズサが、目や口、手足を潰され、苦しんでいた少女らを殺した時の事を思い出す。

 

「……【鉱水】」

「っ、ま、待って、待ってくれ、マッドチビ先生!」

「待たないわ。足を斬ってまでアンタを殺そうとするなんて思わなった。仲間を巻き込んでまでアンタを殺そうとするとは思わなかった。ここにはシエナもいるのよ? この子は一回切りの生なのに、そんな全体を巻き込むような魔法を使うなんて、思ってもみなかった。──軽蔑する。心からね」

 

 腕をだらんと落としたポニテスリットに、液体化した鉱石が纏わりついていく。足から、動かない腕から、段々と乗ってくる銀の液体を、【波動】で弾いては──しかし、押されていくポニテスリット。その液体は等々胸にまで来て、首にまで来て──口に入り、目を覆い、その全身を包み込んだ。

 振り返れば。

 

 同じように、腕に力を入れる事のできない金髪お嬢様が。足先からだくだくと血を流すお嬢様が。

 鉱石の液体に飲み込まれていくのが──見える。

 

「な──んで、こんな、こと」

「……死して、追いつきますわ。EDENを上げて──魔力を殺す、などという暴挙。止めて見せますの」

「クク、痛みで魅了が解けたか」

「【神速】」

 

 お嬢の身体が、完全に固まり切る前に。

 その口から【神速】の何かを飛ばした。俺を狙ってのものじゃない。背後、ポニテスリットを狙っての──射撃。

 

 そして自らも、ごくん、と。

 何かを飲み込み──。

 

 2人とも、【即死】した。

 しんだ。

 

「俺のあげた──【即死】の……弾丸、か」

 

 膝を折る。

 世界に溶けていく2人の身体。包むものの無くなった【鉱水】はまたLOGOSに還っていき、【波動】によって壊された室内も修復されていく。

 

 アインハージャの2人に怪我はない。

 着物狐にも、マッドチビ先生にも。

 

 俺にも。怪我は、無い。

 

「ま、良かったわね。こっちに大した損害がなくて」

「──いいよ、マッドチビ先生。悪役になろォとしなくて」

「そう? その怒り、ぶつける先がいないと──アンタの心、折れちゃわない?」

「大丈夫だ。……早く、始の点に行こう。アイツらが追ってくる」

「ん。わかったわ」

 

 2人は死んだ。

 2人は、死んだ。

 

 

 死んだんだ。

 

 

えはか彼

 

 

 

 LOGOSは順調に進んでいる。

 道中雷や嵐に見舞われはしたが、赤スカーフの【静寂】の応用形や青バンダナの【喧槍】による即席避雷針によって軽減に成功。また、道中にあった島から大きな丘にもあった絶縁体である鉱石ミカラを多量に採掘できた事で、艦内絶縁が可能に。最後の方は雷雲に突っ込んでも問題ないくらいの耐性を得て、LOGOSは進みに進んだ。

 

 そうして──。

 

「……あれは」

「私も、初めてみたけれど……異質ね」

 

 逆五角形……だろうか。んで多分、上から見たら正八角形。ダイヤモンド型、と言えばわかりやすいか。

 ソレ自体もダイヤモンドみてェに輝いていて、一見透明で──その、それが。そのデカいのが。

 

 地面と空を別つようにして、突き刺さっている、みてェな。

 

「クク……なんだこれは?」

「今何故笑ったのだ、ナリコ」

「ウィジ。ナリコの笑いは時に意味を持たない」

 

 なんだこれは。本当に。

 これが。

 

「……これが、始の点、なのか」

「魔力を感じてみればわかるわ。……上から下に向かって、魔力が噴き出してる。この面を通って、世界に魔力が充ちて行っている」

「ホントだ」

 

 目を瞑り、魔力の流れを読む。

 俺ァこれについちゃあンまり得意じゃねェんだが、得意じゃねェにも関わらずできるってな、相当だ。相当、濃い。

 

「……梓・ライラック様。あそこ……見えますか?」

「ン……。あァ、見える。でも、ありゃ……なンだ?」

「熱源です。……恐らくは──心臓、かと」

 

 指差された場所。

 ダイヤモンドの中心部。そっからちょいと上。天に向かうど真ん中。

 

 そこに、あった。

 どくどくと……脈動する、心臓。見えるんだ。ってこた、かなりデカい。巨人の心臓なンじゃねェかってほどデカくて──凄まじい魔力を放ってる。

 けど、アレが中心じゃ、無い。

 

「見て、下に集落があるわ。……EDENの下の国以外は滅びたのだとばかり思っていたけれど、こんなところにもあったのね」

「うむ。ウォムルガ族の村もあったのだ、こういう所にもあろう」

「ウィジ、でもおかしい。あそこは」

「……迷宮の中、に、見えるよな」

 

 ダイヤモンドを逆さにして、尖ってるトコが上を向くよォな形に置いたって感じの迷宮、始の点。

 その底面に──街があった。

 外にではなく、中に。

 

 そして。

 

「私の感知器に間違いが無ければ……魔物と人が、共存している、ように見えます」

「大丈夫よ。私にもそう見えているから」

「可能なのか?」

「ウィジ。可能じゃなければ、この光景は無い」

「む、そうか」

 

 いた。

 みんなが話してる集落、じゃない。そんなのァどーでもいい。

 

 いたンだ。

 いる。

 あそこにいる。

 

「……アレァ、魔法少女だ。4人……多分」

「あら、本当ね。500年ぶりだわ。──EDENの創設者たち。私の国を襲った魔法少女」

「ククククッ……吾の先祖を討滅したのも、あ奴らだろうな。クク、血が疼く、疼く……」

 

 それァ初耳だが。

 多分ここに、全てがある。

 

 そんな予感がした。

 

 

 

 

 

「え~! ディミトラ!? もしかしてディミトラ!? カワイー、変わってな~い!」

「当たり前じゃない、魔法少女なんだから。って、ちょっと、頬すり付けないでよ、痛いだけよそれ!」

 

 ……うーむ。

 俺ァさ、結構覚悟とかあっての。

 

「おや。インキュバスの末裔ですか。インキュバスにも関わらず女性とは、そして魔法少女とは。因果なものですね」

「ククク、吾の胸がそんなに好きか。ほれ、たんと触るが良い。──吾の身は、吾の妻のものだがな」

 

 折れちまいそうになる心をさ。ずゥっと無視し続けての。

 

「君達は、アインハージャ? 懐かしい。私達が会ったのはヒヨルスとラングリーズという戦士だった」

「覚えのある名だ。私はウィジ。当代の"矛"である」

「リジ。今代の"盾"」

 

 ……だったンだが、なァ。

 

「貴女、もしかしてガーゴイル? その身体どうなってるの? ……すごい、色んな部品がいっぱいある!」

「あ、あの、その、えと、た、助けてください梓・ライラック様!」

 

 その集落ァ、規模的にァEDENや国と比べるにァちと劣るが、凄まじいまでにこう……活気のあるトコだった。商売繁盛ってなが全体に在るといえばいいか。市場を行く奴らァみんな笑顔で、売買する奴らもおまけだの酒の約束だのと、なンだ、和気藹々としてる。

 んでもって、当然のよォに闊歩する化け物。

 形ァ様々だ。にっくきウルフ種もいりゃ、レーヴァン種、バード種、スライムもいるな。後ァよくわからねェ馬みてェなヒトみてェな何かとか、翅の生えたちっさいのとか、形容の言葉の見つからねェのもいる。

 

 カオス。あるいは、俺の想像する本来のファンタジー、みてェなトコ。

 

 で、今俺ぼっちね。

 なんでって、創設者たち4人ァマッドチビ先生とシエナとアインハージャと着物狐にご執心だから。

 確かに特別だモンなァ、あいつらァ。

 

 俺ァちょいと離れたトコの塀に座って、なんぞ気の良いおっちゃんから貰ったリンゴを齧ってる。めっちゃ甘い。うわこれレーテーに入れて常時食いてェ。魔煙草吸った後とかに食いてェ。

 

「お姉ちゃん、何してるの?」

「ン? なんだ、嬢ちゃん。1人か?」

「うん! ママがいなくなっちゃったから!」

「……そりゃ多分、お前さんがいなくなったンだと思うが」

 

 ベタっつーかなんつーか。

 突然話しかけてきた少女……つゥか女児だな。そいつが、なんぞ俺の横に座って、ンなことを宣いやがる。

 やめてくれねェかな、ホント。

 

 こっちァ色々抱えてンだよ。目の前の5人もなんとか引き剥がして作戦会議しねェといけねェのにさ。

 

「ママの特徴……あー、なンか、髪が長ェとか、どォいう色の服着てるかとか、わかっか?」

「一緒に探してくれるの?」

「あァさ。何してるか聞いてきただろ? 暇なンで、何もしてねェんだよ。ちょいと観光ついでに探してやるからよ、ほら、手。握んな。また迷子になっちゃ困るだろ?」

「うん!」

 

 ……おじさんに困ってる子供見捨てろとか。

 無理に決まってるだろ。ただでさえ傷心中なンだよ、馬鹿野郎が。

 

 

 

 

「なァ、嬢ちゃん。名前ァなんてーんだ?」

「ブゥリ!」

「おォさ、ブゥリ。嬢ちゃんの家ってな、どっちにある?」

「あっち!」

 

 人混みも人混み、混雑ってレベルじゃねェが、しっかり手ェ繋いで、早足にならねェよォに気を付けて、一緒にてくてく歩いていく。まァそこまで広い国じゃねェからな、シエナが見つけてくれるだろ、俺のこた。

 だからまずァこの子の親探しだ。ブゥリ。聞かねェ響きだが、まァ世界の反対となりゃそォもなるか。

 しかしまァ、いんやさいんやさ。

 

 活気ある場所だなァ、ホント。

 

「お姉ちゃんは?」

「ん、あァそォか。俺ァ梓ってのさ。梓・ライラック」

「梓お姉ちゃん!」

「おゥ」

 

 なんぞ、妹を思い出すなァ。

 姉ェ姉ェと慕ってくれたあの子。あと5年だか4年だか会えねェっての考えると苦しいなァ。あ、でも魔力殺しゃァその辺の云々も消えンのか。なんにせよEDEN動かしてからじゃねェと大惨事確定なンだがよ。

 しっかし、親も親だよなァ。こんなチビを置いていくなよ。買い物に夢中だったとか、まァなんぞ理由ァあんだろォけどよ。この年頃ァ色んなものに興味を持ちやすいンだから、ちゃんと見ておいてやんなきゃ可哀想だろォに。

 

 ぐゥ、と鳴る。

 勿論俺じゃァない。ブゥリの腹の音だ。

 

「腹ァ減ったか。つか嬢ちゃん、どんだけママを探してたンだ?」

「ん-とね、ずっと!」

「ほォか。じゃァ疲れてるだろ。負ぶってやろォか?」

「いいの?」

「いいよ、姉ちゃんァこォ見えて力持ちでよ。ブゥリくらい軽いのだったら平気さ」

 

 しゃがんで、ブゥリを背に乗せる。おー、軽い軽い。

 まァなァ。見たトコ6歳とかその辺だろォし。ったく、親ァ今何してンのかね。

 

 ……ま、いなくなった子供に焦って、色んなトコ探してンだろォけど。自分の子ァ大切だよな。

 

「ん-、しかしどォすっかな。俺ァ金が無ェんだわ」

「ほう、金が無いと。よし来たお嬢ちゃんたち! 今朝取れたばっかの桃だ、もってけもってけ!」

「おわっ、びっくりした。……エ、いいのかよ。つか悪ィって。なンか貰うために呟いたみてェじゃねェか。いいよいいよ、どォにかして食いモン探すから」

「ならウチのを食べて行きな! 魚は平気かい? 平気だね! ほら、獲れたてだよ!」

「おお、活きの良い……っつか、そりゃ明らかに売りモンじゃねェか。……あー、じゃァ俺ァいいからよ、この子に食わせてやってくれよ。流石に2匹貰うのァ心苦しい」

「そういうことならこのバァユなどどうだ? 子供が2人で食べて丁度いい大きさだ。何、これくらいならいくらでも作れるからな! さぁ食べると良い!」

「だってよ、ブゥリ。ほれ、好きなの食いな」

「アンタもとっとと食えって言ってんだよ!!」

 

 怒られた。

 ……いんやさ、あんまり気が良過ぎると疑っちまうっつーかさ。まァンなモンをブゥリに食わせるなって話なンだが。

 

 そんなに栄えてる集落なンだなァ。周囲に貿易国なんぞも見当たらねェのに。

 始の点からなンか取れるとかか?

 

「梓お姉ちゃん、見て見て!」

「ン? ……おォ」

「全部貰っちゃった!」

「みてェだな。しゃーない、どっかで食うか」

「うん!」

 

 桃に魚にバァユに……その他色々。

 明らかに商品だろォ状態の良いモンを、これでもかって詰め込まれた籠。

 

 なンなンだよここァ。

 

 まるで──楽園、じゃねェか。

 

 

えはか彼

 

 

「見つからねェなァ、ブゥリのママ」

「うん……。もう家に帰っちゃったのかな」

「かもな。んじゃ、ブゥリの家に行くか。案内ァできるか?」

「多分!」

「いいよ、それで」

 

 ブゥリの腹も膨れて、そっから小一時間探し回ったンだが、やっぱりいねェ。

 いんやさ、そのママンがどォいう奴かも知らねえンでたりめーちゃァたりめーなンだが、こんだけ探して見つからねェってなると、屋内の可能性が高ェよな。

 

「ねね、梓お姉ちゃん」

「ン?」

「お姉ちゃんは、どこから来たの?」

「んー。よく俺が外から来たってわかったな」

「だってヘンな服着てるもん!」

「はは、確かに」

 

 さっきの創設者4人以外、魔法少女を見かけてねェ。

 んなら魔法少女の衣装ってな奇抜に映るか。これ、変身解除しても制服だからな。奇抜なのァ同じだろォが。

 

「遠いトコさ。遠い遠いトコから、飛んできたンだ」

「飛んで? どうやって?」

「竜の背に乗っかってよ。はは、信じられねェか?」

「ううん。信じるよ!」

「それまたどォして」

「だって私も見た事あるもん! でっかいでっかい竜! こーんなに、こーっんなにでっかいんだよ」

「へェ。そりゃ、俺も見てみてェな」

「ホントに?」

「あァさ」

 

 さて、はて。

 あンまりなー。疑いたくァなかったンだが。

 

 気配がしねェんだよなー、ずっと。

 

「じゃあさ、じゃあさ、でっかい竜を見ても……怖がらない?」

「怖がりァしねェよ。俺ァもっと怖いモンがあるんでね。つか、俺の方が怖いかもしれねェし」

「そうなの?」

「あァよ」

「でも、梓お姉ちゃんは──気付いてるのに、手を離さないでいてくれたよ?」

 

 しねェんだ。

 命の気配、って奴が。俺の司る死が、ブゥリから感じられねェ。

 

 化け物からすら、式鬼からすらも感じられるソレが、ブゥリにァ無い。市場の人達にァあったのに、ブゥリにだけ、無い。

 ……でも悪意とか無さそォだったのがな。

 

「ここまで来りゃ大丈夫だろ。ここァ、迷宮の端っこか? 始の点のそとっかわ。ヒトァあんまり寄り付かねェようで」

「うん」

「ここが、嬢ちゃんの家、なンだな」

 

 始の点は、透明に見える。けど透明に見えるだけだ。

 中ァちゃんと入り組んでて、ちゃんと迷宮になってる。

 

 俺とブゥリァそン中を歩いてきた。いるはずの化け物は一匹も出て来なくて、ただ入り組んだ複雑な迷路を、道案内できるブゥリに従ってついてきたってだけだ。

 

 んで──開けた場所に出たと。

 

「ブゥリ。アレが、お前のママか?」

「うん! アードゥムラっていうの!」

「へェ」

 

 そこには一匹の牛がいた。

 牛だ。

 

 でっけェ牛だ。

 

「それで、お前さんは?」

「?」

「ブゥリァどこにいるか、って聞いてンだよ。あァ、怖がらねェから、早く出てこいよ。わかってるよ、今のブゥリが人形だってな、最初からな」

「……うん」

 

 ずしん、と。

 地面が揺れた。揺れて、揺れて。

 

 揺れて──影が差す。

 光り輝く壁を、しかし遮るもの。

 

 手を握るブゥリの身体が光になっていく。

 元から生きちゃいねェ人形だが、あんまり快い光景じゃァねェな。

 

 んでまァ。

 

「よォ。ブゥリ。でけェドラゴン見た事あるってな話だったが、どこで見たンだ?」

「──此処で。壁に映る己を」

「なるほどな。んじゃもういっこいいか?」

「──許可する」

「いいよ、別に。カッコつけよォとしなくて。お前さんマジで子供だろ、でけェけど。だから、そのまま喋って良いよ。俺ァ気にしねェからよ」

「うん! わかった!」

 

 そこにいた。

 いた。いた。いた。

 

 でっけェでっけェ、LOGOSなんざメじゃねェ程にでけェ──金色のドラゴン。

 恐竜島のソレとも違う──こう、なンだ

 

「これだよ、マッドチビ先生。これがマジのドラゴンだよ」

「うん。私は竜だよ、梓お姉ちゃん!」

 

 やっぱあの人芸術センス無ェーって。

 

えはか彼


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