遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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3.Cut guy at kick no should now.
51.同訪藤有迂遠徒,明日有迂遠徒.


「ここァよ、始の点……で、合ってるよな」

「うん。かつては、そう呼ばれていた」

「今は違ェのか」

「梓お姉ちゃんも見たでしょ? あの4人の魔法少女に攻略されてしまったから、ここはもう始の点じゃなくて、輝きの園、って呼ばれてる」

「へェ。下の街含めてか」

「うん!」

 

 静かで、良い空間だった。

 中心にいるクソデカウシとブゥリがいて、尚余りある空間。小川がきらきらと流れ、屋内のはずなのに仄かな風が吹いて、木々が揺れる。透明にもかかわらず周囲の景色の見えない壁は、けれど陽光を通し、場に光を落とす。街や心臓が見える事は無いけれど、その光がここを世界の一部であると教えてくれる。

 始の点。

 終の因の反対側。地脈吸入点である終の因へ向けて、世界を覆うようにして魔力を噴き出す地脈噴出点。

 

「梓お姉ちゃんは、ここを壊しに来たんだよね?」

「……よくわかったな。そォさ。……そォだよ」

「わかるよ。殺意があるもん。梓お姉ちゃんが命を司るように、私もそうだから。──ここを、私を。殺したいんだ、って。わかる」

 

 ブゥリァ化け物だった。

 クソデカウシ含め、完全に化け物だ。終の因におけるアンヴァルやアンゲル、あるいはソテイラみてェなモンなンだろう。

 迷宮は既に攻略されていて、基底部を人間と化け物の棲み処に。最奥ではこォしてブゥリたちが暮らしてる。

 ここに争いは無く。

 無為に死んでいく魔法少女もいない。

 

 じゃァよ、EDENってな、なンなンだ。

 

「……魔力を無くす、殺すってなよ、できンか」

「できるよ。梓お姉ちゃんに殺せないものはないもん」

「ほォか」

「うん。勿論、私も、アードゥムラも、あの4人も、街の人達も、魔物達も、自然も、何もかも、世界だって──梓お姉ちゃんは殺せる」

「いいのかよ、ンなこと教えちまって」

「それが摂理だよ」

 

 ……チビのくせに、難しい言葉使いやがる。

 なーにが摂理だ。やめろよ、生きたいって言えよ。抗えよ。

 じゃねェと……。

 

「魔力を殺すにァ、どうしたらいい?」

「私とアードゥムラを殺せばいいよ。私達は迷宮の要だから、私達がいなくなれば始の点は機能しなくなる。そうすれば、供給源が停止して──この世界から魔力は消えてなくなる」

「……つまりまァ、コンセントプラグか」

「なぁに、それ」

「アレが口なンだろ、ってことさ」

 

 アレ。

 天頂。天辺。逆ダイヤのとんがってるトコ。

 

 空──つまり世界の外に突き刺さった頂点ァ、そこから魔力を吸いだしてるってワケだ。

 

「なァよ、ブゥリ。終の因にァ何の役割があンだ。あるいはEDENって場所ァ、何なんだ」

「EDENについては私を倒した4人に聞いてほしいけど、終の因の役割は簡単だよ。始の点から出た魔力を集めて、世界の中に落とす。ただそれだけ」

「落としたら、どォなるンだ」

「魔力が世界に満ちるよ?」

「始の点だけじゃ満ちねェのか」

「ここはあくまで世界に魔力を流すためだけの場所だもん。世界を流れる魔力は、終の因や、他の地脈吸入点を通して世界に入って、世界に魔力を満たす。……梓お姉ちゃんには、星とか、惑星、って言った方がわかりやすいかな」

「あァ、なるほど」

 

 世界と星ァ別なのか。

 だから──天、ってなカプセルがあって、周囲を電気が走ってて。カプセルからちょいと突き出たコンセントプラグたる始の点が、カプセルの内部ってな世界に電気を流してて。カプセルの中に浮いてる星っつーロボットに終の因が電気を注いでて。

 そォいう構図なンだろう。

 何のためにとか、誰の意図で、とかァよくわからねェが、まァ大体そォだと思う。

 

「ブゥリァよ、生きてェたァ思わねェのか」

「わかんない。でも──もう、世界が苦しいって、星が痛いよって。そう言ってる声は、聞きたくない」

「ン、そりゃどォいう──」

 

 ──レーテーを起動。取り出すのァ剣じゃなく弾丸。襲い来るソレに、適当でいいからぶん投げろ!

 

「!」

「……もう来ちゃったんだ」

「下がってな、ブゥリ。できンなら、あのアードゥムラってのも下がらせな」

「守ってくれるの?」

「もうちょい、聞きてェ事がある」

 

 飛んできたのァ半透明の物体。

 多分魔法だって思ったンで【即死】の弾丸投げたら死んでくれた。はン、精神体が俺に敵うかよ。

 

 ……だが、だ。

 

「どォいう了見か、教えてくれるか。よォ、創設者。名前も知らねェが、いきなりのご挨拶にァ驚いたぜ」

「聖域に無断で入り、アードゥムラとブゥリに危害を与えようとする、夜の使徒。不意を打ってでも殺さない理由がない」

「ハハ、なンだよ。だったら最初に殺せよ。ここに来た時ァ無視してくれたクセによ、なんだって今更」

「梓お姉ちゃんは、私が隠してたから、あの4人には見えなかったよ」

「……あァじゃァブゥリに感謝だな。あそこで血みどろの争いってな気が引ける。こンな綺麗な場所でもお断りだが」

 

 なるほどね。

 俺がぼっちだったのァ、見えてなかったからか。

 ……みんながどォなったのか気になる所だが。

 

「なァよ、名前、教えてくれや。俺ァ梓・ライラックってンだ」

「ハイドレート」

「おゥ、紺碧ベルトな」

「無礼」

 

 また来た。

 よくわからねェのを、今度ァ剣で叩き切る。弾速っつーか飛来する速度ァ遅いのに、【即死】の気配がするってなどォいう魔法なのかね。

 

「ブゥリ、梓お姉ちゃんァこーみえて強ェんだ。だから大丈夫」

「嘘だよ。梓お姉ちゃんはとっても弱いよ。私が踏み潰したら簡単に死んじゃうでしょ」

「あァ真っ直ぐな言葉ってな傷付くなァ。でもまァ、いいって。下がってな、傷つけば痛ェよ。痛ェのァ嫌だろ?」

「うん。でも、梓お姉ちゃんも嫌でしょ」

「そりゃァな。だが、俺ってな奴ァ俺にもわからなくてねェ。化け物だってわかってても、子供ァ……ああいや、なんでもねェ。いいから下がってな。どォせ一緒に戦うってなできねェんだろ。ソテイラと同じく、契約かなンかで縛られてそォだし」

 

 魔法少女にァ絶対服従、だったか。

 ここを聖域だの、アードゥムラとブゥリに危害を~だのと、こいつらを大切にしてるっぽいンで大丈夫だとァ思いてェが、万一ってないつの場合にもある。特に俺ァ回避専門なンでな、思わぬ流れ弾があるかもしれねェ。

 

「それに、どォにもブゥリの声ァアイツに聞こえてねェみてェだし──そもそも1人で来たってのも、なんぞ怪しいしな」

 

 紺碧色のベルト腰に巻いてるから紺碧ベルト。

 魔法少女なのァ間違いない。得物ァ、ありゃ鞭か? へェ、おっそろしいモン使いやがる。つか、案外武器有の魔法少女ってな多いんだなァって。あるいァ【喧槍】みてェに魔法で作りだした武器かもしれねェが。

 

「……わかった。気を付けてね、梓お姉ちゃん」

「おゥ」

 

 ズシンズシンとブゥリが動く。

 アードゥムラをその手で引っ掴んで、迷宮の奥の方に消えて行く。

 

 さて、レーテーから剣を引き出して──準備万端、ってな。

 

「不意は打つくせに、待っててァくれるンだな」

「無効な攻撃は不要。対策を計算中」

「はン、そォかい。んじゃこっちから仕掛けても?」

「問題ない」

 

 どォも調子の崩れる奴だが、EDENの創設者ってなだ。相当強ェに違いねェ。

 ブゥリの言葉が聞こえねェってなちょいとわからねェが、さてはてどォ仕掛けたモンかね。

 

 まとりあえず、牽制か。

 

 剣に【即死】を浸して、振る。

 死飛沫、なンて名前でも付けてみるか? ……言い辛。

 

「魔力? ……危険度SS。回避を選択」

「おォさ、その鞭で弾くのかと思ったよ。避けンのか。偉いっつーかなんつーか」

「鞭?」

「手に持ってるソレだよ」

「……本当だ」

 

 あ?

 なんだコイツ。

 何言ってやがる。

 

「夜の使徒。聖域で何をしている?」

「談笑」

「理解不能。排除実行」

 

 飛んでくるのは精神体。【即死】弾丸食わせて対処。

 なンなンだこれァ。弾速遅ェから知覚強化する必要がねェのァありがてェが、どォいう魔法なンだ。

 

「──つーかお前、マッドチビ先生と話してた時と雰囲気違いすぎねェか?」

「?」

「マッドチビ先生。ディミトラだよ。話してただろ、さっき」

「……懐かしい名前。解放の時以来、会っていない」

「あ?」

 

 ……これ、()()か?

 

 あー、やめて欲しいな、ソレ。あン時はアイツらの人となり知ってたし、馴染んで無さそォだったから気付けたものの……俺、お前ら知らねェからよ。

 

 偽物かどォか、わからねェ。

 

「問うが」

「何」

「EDENってな場所ァ知ってるか」

「当然」

「それァ、お前らが作ったからか? それとも──お前らが狙ってる場所だから、か?」

「理解不能。私達が作った場所を私が知らないはずがない」

「あァよ。じゃ次の質問だ」

「何」

 

 ……なンだコイツ、ホントに。

 質問してる間ァ普通に聞いてくれるし答えてくれる。攻撃してくる気配も無い。

 本物偽物ァ置いといて、ちょいと情報引き出してみるか。

 

「EDENってなよ、何のために作ったンだ」

「魔法少女の楽園が必要だった」

「なンでだ」

「過去、魔法少女は魔物として扱われていた。迫害を受けていた」

「……そォなのか」

「そう。攻撃してもいい?」

「ダメだ。まだ聞きたい事がある」

「わかった」

 

 ははァ。ま、ちょいと予想してた事でァあった。今の国も半分くらいそォだしな。

 魔法少女なんつって管理されちゃいるが、そォでねェ奴ァただ突然やべー力に目覚めたやべー奴だ。石だの雷だの火だのを操り得るのがある日突然街中にでてくンだから、そりゃやべェだろォよ。迫害できるのかどォかは置いといて、異端だと思うのァ納得できる。

 

「だから、解放か?」

「そう。各国で迫害を受けていた魔法少女の全てを解放した。終の因を拠点として、今まで迫害を受けていた魔法少女達が死なないようにした」

「だがよ、EDENにァその今まで迫害を受けていた魔法少女、ってなァいねェぞ。少なくとも聞いたことが無ェ」

「? 寿命で死んだ。それだけ」

「寿命? 魔法少女ってな永遠を生きるンじゃねェのか」

「そんな事があるわけがない。理解不能。意味不明。それが出来るのは神だけ」

 

 ……確かにそォだ。

 それは、そォだ。合っている。

 

「魔法少女の寿命ってな、いつ訪れる。少なくともマッドチビ先生ァ500年を生きていた。アンタもそォだよな」

「蘇生を繰り返せば、上限が減る。魔法少女は初めから魔力保有量が決まっている。死亡時にそれを失い、蘇生時に八割程を取り戻す。魔法が殺されたり切り離されたりすれば、その減少はさらに早まる」

「……つまり、死ななきゃ死なねェほど長く生きられるワケだ」

「当然。そろそろ攻撃する」

「ダメだ、もうちょい待て」

「わかった」

 

 成程? つーと、やっぱりマッドチビ先生が怒ってた、「最初は本当に魔法少女の楽園だった」ってなマジなンだろォな。それを、今みてェに死兵扱いにした奴がいる。学園長か? それとも……ジャハンナムとかいう上官か?

 

 少なくともこいつらァ魔法少女のために、魔法少女が安全に暮らせるための場所を作ったンだ。それァ間違いない。んで、できるだけ死なないよォにもしてたし、死んだとしてもすぐに蘇る事ができるよォに蘇生槽を作った。ソコについてァ俺ァ気に入らないンだが、今ァおいといて、ホントに楽園だったってわけだ。

 じゃあ、国ってななンだ。

 なンで国家防衛機構なんぞに成り下がってる。

 

「EDENの下に、国があンのァ知ってンのか」

「当然。魔法少女になる可能性を持つ人間を集めた国。終の因から放たれる高密度の魔力によって、国では魔法少女が生まれやすくなる。終の因が地に在った頃は世界各地で生まれていた魔法少女が、今やあの国以外では滅多に生まれなくなった」

「あァな。なるほど、終の因を浮かべた理由がソレで、国を造った理由もソレか。んじゃなンでEDENァ国家防衛機構なんてのになったンだ」

「? EDENは魔法少女のための楽園であって、国を守るためのものじゃない。むしろ、国が魔法少女を生み出すための施設であると言える」

 

 隔離病棟かね。つまりァ。

 魔法少女が覚醒、発現する可能性のある人間を集めて魔力に晒し、覚醒したらEDENに上げる。そォすりゃ見えねェとこで迫害される心配もねェし、反対にやべェ思想持つ魔法少女が一般人に何かをする心配もなくなる。

 臭ェ物に蓋をするってーと些か語弊があるが、まァ似たような事だろ。

 

「計算及び対策完了。攻撃開始」

「まァ待てって。もうちょい聞いたらちゃんと戦ってやるから」

「わかった」

 

 何を対策されたのかァ怖ェ所だが、もうちょい引き出したい。

 

「輝きの園、だっけ? ここの集落ァ。此処にいる奴らァよ、魔法少女にァならねェのか」

「当然。そうならない人間を集めた。そうなる人間はEDENの下にいる」

「んじゃ、化け物と共存できてる理由ァなンだ」

「? 魔物は魔法少女の因子を狙う。魔法少女になり得る人間と、魔法少女。それを食せば、魔物はもう一度生まれ直すことができる。高位へと進化することができる。理由はそれだけ」

「アンタらァなンで狙われてねェんだ」

「強者に挑み、死ぬ事と、強者に恵まれ、生きる事。賢い方を選んだだけ」

「そォかい」

 

 あるいは、そうか。

 化け物が生まれ直す事を求めるってな、つまり死ぬ可能性があるからだ。こォも平和な街で、こォも生存競争からかけ離れた場所なら、生まれ直そうっつー気にもならねェ、とか? だが、奴らにァ悲願があるだろ。

 成道し、完全になるっつー悲願がよ。

 

「対策その1。流体」

「あァそいつァ殺させてもらうが」

「……再計算中」

「おゥ、一回攻撃したンだ、もうちょいと聞きてェんだが、いいか?」

「構わない」

 

 さっきァふわっとしたボールみてェなのが飛んできたが、今度ァ水みてェなのになった。

 けど魔法ァ魔法な上に耐久性能がクソ程低いンだろう、【即死】弾丸1発で消せた。ふわふわだろォが流体だろォが俺の弾丸を受け入れちまう時点でダメなンだよ。教えたら硬質化とかしてきそォだから言わねェけど。

 

「魔法少女ってな、そもそも何なんだ。なんで突然発現する?」

「魔法少女は病。昔からある病気。見えないし除去もできない。感染もする」

「病気……」

 

 マジで隔離病棟じゃねェか。

 それに、その言い方だと。

 

「それってな、治療ァできねェのか」

「それができるのなら、私達は楽園を作っていない」

「そォかい。んじゃもう一個。なンで男にァ感染しねェ」

「そういう病だから」

「そォかい」

「そう。次の攻撃を思いついた」

「そォ逸るなって」

 

 それそれそォそうそォそうそォかいってな。うるせェか。

 あァいや、思考を止めるな。聞きたい事聞き切るために、ちょいと魔煙草を1つ。

 

 ふゥ、不味い不味い。脳がクリアになって良いねェ。

 

「私からも質問がある」

「なンだ」

「何故春の暴風を吸っている?」

「あァ、それ。赤スカーフにも言われたな。なンだ、そんなにおかしいコトか?」

「質問しているのは私」

「頭がすっきりするからだよ。あと魔力が回復する。んで、こっちの質問だ。そんなにおかしいコトか?」

「おかしい」

「なンでだ」

「春の暴風は、始の点が世界に流せなかった余剰魔力を糧に生きる植物。その種子すらも世界の外から来た。つまり外来種。この世界の植物ではない。それを吸うという行為は、世界の外の魔力を直接吸っているに等しい」

「それの何がおかしいンだよ」

「世界の外の魔力は毒と同じ。始の点によって変換されない内は、恐らくこの世のものとは思えない程に不味いと想定される」

「おォ正解だ」

 

 なるほどねェ。これ毒なのか。

 なんだ、ニコチンより毒っぽい言い方するじゃねェか。やっぱ煙草ってどんな形でも毒なんだな。

 

「これァ、吸い過ぎるとどォなるンだ」

「思考が純化される。つまり、己の信奉する神に近くなる。貴女であれば夜に。魔法少女であれば太陽に。魔物であれば風に」

「ははァ、心当たりァあるよ」

 

 なるほど、脳がスッキリすンのァ副作用か。

 別に良いけどな。俺ァ元々神さんの考えに賛意してるし。

 

「対策2。思いついたから攻撃して良い?」

「まだ早ェよ。もうちっと話してからにしろ。まだ聞きてェことがあるンだ」

「わかった。何?」

「お前らァなんだってEDENに帰らねェ? 今よ、EDENってな楽園たァ言い難くなってる。さっき言った通り、国家防衛機構なんぞを名乗ってよ、魔法少女が簡単に死ぬ場所になっちまってる。それを正してァくれねェか?」

「酷い。私達の苦労が水泡に帰している。そうしないためにEDENを作ったのに」

「あァよ。だからよ、4人で帰ってくれねェか。学園長殿ァなんもしてくれねェんだよ」

「それはできない」

「なンでだ」

「まだこの迷宮の攻略が終わっていない。途中で出ることはできない」

「あン?」

 

 ……どォいう事だ。

 ブゥリが嘘吐いてるって事……にァ思えねェが、一応化け物だからなァ。

 だが、うーん? なんか違う気がする。

 

 コイツの口ぶりもそォだが、何か別の所を見ているよォな。

 

「他の3人ァどこいった?」

「迷宮を攻略している最中。私は魔力が減ったからこっちに帰ってきた」

「帰ってきた?」

「迷宮には聖域と呼ばれる階層が存在する。そこには魔物が現れることはない」

「あァ休憩ポイントか。それがここなのか」

「私達は長い間、ここから外に出ていない。輝きの園に住まう者含め、外に出ることはできない。迷宮が攻略されていない以上、その出口は開かない」

「だが、ブゥリァもう攻略されたっつってたぞ」

「……? 意味不明。理解不能。ブゥリは害のない魔物だけど、言葉を喋る事はできない。妄想?」

「はン……?」

 

 ……もしや。

 

「なァよ、紺碧ベルト。お前、どこまで記憶がある?」

「質問の意図が不明」

「どっかの時点から直近までの記憶奪われてンじゃねェかなって思っただけさ。奪われたのか失ったのかァ知らねェが、少なくとも俺ァ輝きの園でお前と会ってンだよ。印象ァ大分違ったがな」

「……記憶を奪う魔法には、心当たりがある」

「マジかよ。こえー魔法使うヤツがいるンだな」

 

 偽物とか本物とかじゃねェんだ。

 今のコイツァ多分過去のコイツで、鞭を持ち始めたのも最近で。あるいァ魔法の使い方についてもほとんど忘れてるのかもしれねェ。だからこんなに弱いと見た。

 

「ブゥリ、聞こえるか!」

「うん! 梓お姉ちゃん、大丈夫だった?」

「おゥびっくりした。そんな近くにいたのか」

 

 ほっとんど至近距離から声が聞こえて流石にびっくりした。

 命の気配が無いンで気付かないンだよな、その人形使われると。

 

「その子は、誰?」

「ブゥリがヒトと話す時に使う人形だとよ。コイツの声ァ聞こえるか?」

「否。……理解した。理解不能なのは、恐らく私。みんなと合流した方が良い」

「あァよ。だがその前に、もう一個聞かせてくれ」

「何?」

 

 攻撃の意思が消えたのがわかった。

 納得してくれたらしィ。チョロ……もとい、意味の分からねェ奴だと思っていたが、案外わかりやすいな、創設者。

 

「記憶を奪う魔法ってななんだ。使い手ァ誰だ」

「魔法の名は【槌憶】。使うのは、私達の仲間の1人、モーゲン」

「創設者の1人か」

「そう。今から探しに行く。一緒に来る?」

「……ちょいと一瞬考えさせてくれ」

「わかった。一瞬経った。答えが欲しい」

「子供かてめェ」

 

 問い質しに行くってな、おかしな行動じゃねェ。

 だが記憶を奪う魔法なんぞを使うのが相手だ、不利ってレベルじゃねェ。んでもって、なンだってソレを仲間に使ったのかもわからねェ。更にァ──マッドチビ先生達までもが毒牙にかかってる可能性ァゼロじゃねェ。どころか百かもしれねェ。

 目的ァなんだ? 俺を殺すため? 違うな、それならもっと別のやり方がある。

 じゃァ事故か? 暴発しちまって……みてェな。違うか。だったら紺碧ベルトを迷宮に留めたりしねェ。手厚く保護するか、そもそも解除の方法があンだろ。まさか奪ったまま取り返せねェってこたない、よな?

 

 ……あるいは。

 

「ついていくよ。ブゥリァどォする?」

「私も行く! この身体で、だけど」

「あァよ。そもそもでっけェと通路入れねェもんな」

「うん!」

 

 あったよな。

 他人の魔法奪って──別人が使う、ってなのが。

 

 よォ、いんのかい?

 

 ルルゥ・ガル。

 

えはか彼

 

 迷宮を行く。

 紺碧ベルトについていく。

 

「なァ、ブゥリ。さっき言ってた世界が苦しいだのってな、何なんだ」

「世界はね、もう限界なの。魔法少女が増え過ぎて、魔物が増え過ぎて。際限なく増えるそれに、星も世界も苦痛を訴えてる。もういいよ、って。もういらないよ、って。だからもう──殺して欲しい、って」

「……それァ、魔法少女や化け物が魔力を食うから、か?」

「ん-ん。単純に寿命だよ。もっともーっと昔に世界は死ぬはずだった。もっともーっと昔に死んで、ばらばらになるはずだった。安らかに眠るはずだった。なのに、魔力っていう異物が入って来ちゃって、世界は強制的に生かされた」

「……魔力ァ、世界にとって毒なのか」

「うん。私もアードゥムラも魔物だけど、だからこそわかるよ。世界は私達を要らないって言ってる。世界は私達を嫌いだって言ってる。けど──世界は私達を排除できるほどの力をもう持ってない。お婆ちゃんなんだよ、世界って。何度死にたいって言っても誰も殺してくれない、どころかもっと生きるための機構をつけられちゃった、お婆ちゃん。始の点も終の因も、ずーっと昔に世界の死を悟った人たちが造った延命措置だから」

 

 死にたがってる。

 世界ァ、死にたがってる。

 魔力を殺してくれと言っている。ブゥリにァ、それがダイレクトに聞こえるンだろう。あるいァソテイラもか? いや、アイツァ否定するなとか言ってたし違うか。何の違いがあるンだ。

 

「さっきの質問。私が生きたいかどうかは、わかんない。もう十分に生きた気もするし、この外を見てみたいという気もあるし、けれどそれができないのも知っているし。でも、これ以上……苦しいよって。辛いよ、死にたいよ、って。それを聞くのは、嫌かな」

「……あァ、そうかい。んじゃ尚更……魔力を、殺さなきゃな」

 

 なンでこう、俺の心を刺す事ばかりなンだ。

 生きたがっててくれよ。そォであれば、俺ァ殺せる。【即死】を揮える。生きるために抗うってンなら、俺ァちゃんと向き合って相手ができる。

 でも、死にたがってたら、ダメだろ。

 だってそれは。

 だってそれァよ。

 

 同じ、じゃんか。

 傷付いた魔法少女達が──俺に死を。【即死】による救いを懇願するのと。

 

 おんなじ、じゃんか。

 

「質問」

「なんだ?」

「今、魔力を殺すと言った?」

「あァ。俺ァそのために来た」

「何故そんなことをする?」

「魔力が無くなりゃ化け物も魔法少女も生まれなくなるだろ。そうすりゃ、これ以上の死ァ──人間が元から持ってるモンだけになる。少なくとも、蘇生をワープ代わりに使うとか、コンティニュー代わりに使うよォな奴らァいなくなる」

「もう一つ、質問」

「おゥ」

 

 紺碧ベルトァ──本当に意味が分からねェ、って顔で。

 言う。

 

「世界から魔力が無くなった場合、魔法少女の因子を持つ子は突然死するようになる。理解はしてる?」

「──……」

 

 な、に?

 

「魔力が溢れているから、魔法少女の因子が発芽しても、その精神が魔法に蝕まれる事無く魔法少女となれている。魔力の枯渇した場所で覚醒が起きれば精神を魔法に食べられて、死んでしまう」

「……ブゥリ。今のァ本当か?」

「うん! そうなれば魔法少女は生まれなくなるよ。人間から魔法少女にならずに済む」

 

 だが……それは。

 それは。

 

「EDENの下にある国ってなよ、国民全員が、その魔法少女の因子とやらを持ってる、ンだよな?」

「そう。──だから、魔力が世界から無くなったら、あの国では突然、何の前触れもなく人が死ぬようになる。あるいは強い因子であれば──周囲に炎や氷を撒き散らして死ぬかもしれない。魔法に蝕まれて、魔法になって死ぬから──もしかしたら、爆発が起きるかもしれない。【自爆】という魔法もあったし」

「魔力を殺して、且つそれが起きねェよォにする手段ァねェのか」

「有ったら私達がやっている。魔法少女になんて、ならない方が良いんだから」

「……そう、か」

 

 そうだ。魔法少女は病気。

 なら、ならねェ方が良い。ただ、なっちまった場合に苦しまねェよォにEDENを作って、だから……。

 

「夜の使徒。もう一つ、問いたい」

「……なンだ」

 

 紺碧ベルトは振り返る事も無く言葉を発す。

 振り返る事も、立ち止る事も無く。

 

 ただ──。

 

「魔法少女が生まれなくなっても、既に生まれ落ちている魔物が消えるわけではない。──確実に人類は滅びる。それについては、考えている?」

「あァ、なンだそんなことかよ。神妙な声出すから何かと思ったじゃねェか。そンなのァ別にどーだっていいよ。人類の生き死になんざ俺にァ知ったこっちゃねェ」

 

 なンだよ。

 溜めたからなンかすげェこと言われるのかと思ったじゃねェか。

 そんなクソどうでもいい事、考えるわけねーだろォが。

 

「どうだっていい?」

「あァよ。そりゃ単なる生存競争だろ。化け物が勝つか人間が勝つか。既存の魔法少女だって消えるワケじゃねェんだ、もう蘇生できなくなった体で、どっちが勝つか。魔力が消えたら湧きポも消えるンだ、化け物だって無限に生まれるワケじゃねェ。ならイーブンだ。だったらどっちの肩を持つことも無ェだろ」

「……確かに。貴女の言う通り」

 

 あのな、俺が嫌ってンのァ粗末に扱われる死と、仲間が無駄に苦痛に喘ぎ、死に恐怖し、俺に殺しを懇願してくる事なンだよ。あと理不尽に一般人が死ぬ事もか。

 知るかっつーの。危険を冒した一般人が化け物やら獣やらに襲われて死のうが、知るかってンだ。勝手にしやがれ。生きるために抗って、化け物が勝ったってだけじゃねェか。

 

 ンなもん、俺に救いを求めンな。

 

「そりゃ全力で守るがよ。俺の大事な人達くらいァ。あと目に入って、あと会話して。そォいう事して、身内だって認識しちまった奴らァ守るがよ。なんでどーでもいい奴らまで心配しなきゃならねェ。知るか知るか。俺ァ博愛主義じゃねェんだ、自分で殺すのァちょいと心にクるんで嫌だが、勝手に死ぬ分にァ知らねェ知らねェ。勝手にやってくれ。俺の身内にならねェ内に、勝手に勝手なトコで死んでくれ」

 

 ただ、その突然死するってな受け入れがたい。

 それァつまり、俺の家族だの、煙草屋のおっちゃんだの、瀬尾奏だのが、ってことだろ。それァまだ受け入れられねェ。なんとかしてェ。

 どうにか、どうにかできねェのか。

 

「……いや、そうか」

「お姉ちゃん?」

 

 そうだ。

 それがあったじゃねェか。

 それこそ──迷宮で見つけた、俺の展望!

 

「紺碧ベルト。聞きたい事がある」

「何?」

「魔法少女の因子ってな、形あるモノか。それとも精神体にでも憑りついてるモンか」

「わからない。ただ、それを判別する魔法を持ってるのが仲間にいる」

「じゃァそいつならわかるってことだな」

「多分」

 

 因子だ、ってンならよ。

 切除しちまえばいいんだ。部分的な【即死】で──それこそ、医療的に。

 

 それだ。

 それがいい。

 救済でなく、治療として。

 

「……よし、やる気が出てきた」

「?」

「梓お姉ちゃん?」

 

 懇願されてるってなァ気に入らねェが、蘇生を願っての死じゃない──安寧を求めての死なら、受け入れる。それァ大丈夫だ。安楽死ァ、彼女も許してくれる。

 だから、世界も魔力も殺してやれる。だが、その前に国の奴らの、俺の知ってる限りの奴らの因子を全部殺す。そうだ。それで全部解決だ。万事解決だ。

 

「とりあえず行くか、紺碧ベルトの記憶を取り返しに。その辺全部片づけて──そうさ。そうすりゃ、お嬢も、ポニテスリットも」

 

 わかってくれるはずだ。

 もう蘇れないンだってわかれば。もう、あンなトチ狂った事ァもう。

 

えはか彼

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