遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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53.夏油是夢,舞頬伏.

 ちゃぷちゃぷと水音が響く。

 なんつーかなァ。まァ良いんだよ、別に。けどなんだかなァって。

 

「ククク、どうやらお主の知る吾は、幾つもの嘘を吐いていたようだな」

「あァ透けたか」

「そうも目に見えて落ち込まれたら、誰でも気付くというものぞ」

「片目が見えねェんでね、気付かなかったよ」

 

 魔煙草を取り出して、吸う。

 どこまでが本当で、どっからが嘘か。

 

 少なくとも口ぶりからして、カンコウを……生前の殿を想ってたのァ間違いなさそうだし。あの子、とか言ってたあたり、結構懇意だったンじゃねェかな。

 それが目の前で化け物になってよ、それを隠して……自分も魔法少女になって。化け物作って、たった3人で生きて、忍者共と戦って。

 

 絶対なんか、隠してて。

 絶対なんぞ、寂しがってンだろ。あァそォか、俺にああも優しくしてきたのァ──自分を見てるみてェだったから、か?

 はは、傷のなめ合い上等ってな。

 記憶を取り戻したら、散々に問い詰めてやらァよ。

 

「そろそろ、着きそォだな」

「ク──どこに、だ?」

「本来の入り口だよ。迷宮、始の点の入り口。一切化け物がいねェってなちと気になるが──終の因に似た構造なら、そろそろ入り口だ。入り口で、出口で──お前らの記憶を奪ったやつのいる所」

「そうか。だが、気を付けると良いぞ? 後方より足音が複数。前方には、何やら妖の気配が複数がある」

「ま、自陣を固めてねェはずねェからな」

 

 さァ、ご対面といこう。

 後ろから味方にどつかれる前に、ぶっ潰してやらァよ。

 

 ──知覚強化。転がって──否、否、否。それはダメだ。身体にそれ以上ソレを付けるな!

 

「うっ!?」

「へぇ、面白い鉱石を使っているのね。ちょっと全部見せなさいよ」

「【即死】!」

「あら?」

 

 いた。

 さっきシエナに絡んでたやつと──マッドチビ先生だ。

 その周囲に、数多のガーゴイルを従えて──いた。

 

 足元にァ【鉱水】。今【即死】でぶった切ったが、義手の指も持ってかれちまった。

 なンだなンだ、最近ァ頼りになるが、根っこのトコじゃポンコツなマッドチビ先生ァどこ行った。

 

 なンだ──この範囲ァ。

 この、恐怖ァ。

 

「よくこの場所がわかったね! ナリコちゃんと……えっと、君誰?」

「俺ァしがない魔法少女の1人さ。夜の使徒、でもいいぜ」

「嘘だぁ。だって君死者じゃないじゃん! ま、なんでもいいや! ──大人しく材料になってね♪」

 

 ざばァと。

 始の点の基底部。五角形の底辺。そこに浸された──あり得ねェ量の【鉱水】が、一斉に立ち上がる──。

 

えはか彼

 

 レーテーを起動。取り出すのァ【即死】の弾丸。もうそろ在庫が切れるが、そォも言ってらンねェ状況ってなあるだろ? 今がそうさ。なァ

 

「包み込め!」

「死ね──」

 

 いつぞやの火山の時みてェに俺達を包もうとした銀の液体を【即死】させる。たった1発の弾丸で十分だ。ガーゴイルじゃねェ【鉱水】ァ全部繋がってる。槍とかになってなけりゃ、だがな。

 突然力を失ってビシャリビシャリと落ちた【鉱水】に、あァ、これが目に見えてわかるって奴か?

 

「な──何よソレ! 今何したのよ、私の【鉱水】の力を奪った!? 違う、そんなのじゃない──」

「はは、なンだよマッドチビ先生。その程度で天才彫金師名乗ってンのか? ケケ、この分じゃ、クルメーナってのも大したこと無さそォだなァ?」

「え、何でアンタが私の一大計画の名前知ってるのよ! というかアンタ誰よ! それに何よマッドチビ先生って──馬鹿にして!!」

「はン、何言ってやがる。マッドでちびだからマッドチビっつってンだよ。なァマッドチビ先生。やーいちび、ちび、ちびっこ~」

「──殺す」

 

 よし、完全に俺しか目に入ってねェな。

 正直着物狐を守りながら、ってな今の俺にァキツい。良い所で帰らせたかったが、後ろからも追撃が来てるンじゃァ仕方ねェ。

 

" NUSHIHA CHINOSAGUME INOORITO TETSUWOKURAITE TACHIAGARE KAKONITAORESHI MUNENNOBOUREI "

 

 着物狐が紙にそれを書き込む。

 そしてそれを【鉱水】の海に落とすと──。

 

「クク、どうやら吾とお主は相性が良いらしい。これほどの金属──吾の式鬼に使わせてもらおう。何ゆえかは知らぬが、式鬼の制御権が数百に増えているのでな、クククッ、あの時もこれだけあれば、殿をどうにかできたやもしれんというのに──あぁ、口惜しい事だ」

 

 組みあがる。

 鉄で出来た、鎧武者。鉄だけじゃねェ、【鉱水】に溶けた金属から、次々と鎧武者が現れる。忍者との毒が云々ァ本当なのか。全く、何が嘘でどれが本当なんだか。

 まァ今ァありがてェ。

 まさに、だ。まさに──。

 

「百鬼夜行だなァ、オイ」

「クククッ、本当に博識ぞな。良い良い。だが──百では済まさぬぞ?」

 

 増える。増える増える増える増える増える──。

 マッドチビ先生のガーゴイルが、少なく見える程。

 

 このフロア一帯を満たす、鎧武者の群れ。

 そのどれもが恨みを、怨念を──否、違う。これは。

 

「無念、無念か。……どうやら、吾の失った記憶に、余程の喪失があったのだろうな」

「あァよ。でも、全員がアンタに託したンだ。使ってやれよ」

「クク──無論だ」

 

 鎧武者が。いんやさ、侍衆が、雄叫びを上げる。喊声って奴だ。はは、いいね。いいね。

 仲間失ってよ、仲間に殺されかけてよ、ははは、いいね。色々キてたンだが──俺のじゃねェたァいえ、こんだけ仲間がいるってな、気持ちがいい。

 んでもって、こいつら全員死者なンだろ? じゃァ非善でもねェ。マジのお仲間だ。化け物でも式鬼でもねェ、この怨念ァ、無念ァ──生きるために抗って、けれど成せず、死んでいった者達の念だ!

 なら、なら、なら!

 

鳥有為預!(夜よ、私の神よ!) 侠示威頭碑引(彼らならば)例渋湯上武烈震倶(私達の天に迎えられますか)?」

 ──"負不漉"

 

 日本神道じゃ氏神になっちまうモンだが、いいね、こっちの世界ァちゃんと死後に行けるらしい。無念を、恨みを、苦しみを。

 安寧の世界へ持っていけると来た。

 

 それなら、俺も役割ってなが果たせるってモンだ。

 

「わー、世界言語だ。凄い、喋れる人久しぶりに見たかも。ならなら~、こっちも!」

「ア?」

微止長(強くなるよ~!),絵鰤湾初琉大(死ねば死ぬほど),其絵鰤湾初琉微止長(みんなで強くなれるの!).」

 

 マッドチビ先生のガーゴイル達が、そちらもまた叫びを上げる。いや、ガーゴイル達だけじゃねェ。よくわからねェ精神体もいる。あっちァ完全な化け物だ。その精神に至るまで、全部化け物だ。プテラゴイルやLOGOSがいなかったのァ幸いかね。

 あァ、まァ、なンだ。

 

 いいぜ、全面戦争と行こうじゃねェか。あのモーゲン・真凛とかいうのに入ってる奴が何なのかもわかったしな。

 

「着物狐、こいつらの指揮ァ俺がしてもいいか」

「ククッ、吾は構わぬが、式鬼がいう事を聞くかどうかは──」

「 NJAIKUZOTEMERA TEKIHABAKEMON KOCCHIHASIRYOU WAKARUKA AITENITOTTEFUSOKUNASHITTEYATSUDA !」

 

 オオオオッ! と。

 喊声が上がる。はは、そうさ。どっちもどっちなら、どっちがつえーかの勝負ってこった。

 ハハハハハ! いいね、気分がいい。んじゃここで魔煙草を1つ。クク、こんなトコで大義名分背負えるたァ思ってなかった。

 こんな所で──はは、だったら、名乗りも変えるか。この世界のものじゃねェ名前で、アイツをぶっ潰してやらァよ。

 

「──あァ、改めて。俺ァアンディスガルってンだ。今だけァそっちで名乗らせてもらうよ」

「さっきから、意味の分からない事言ってんじゃないわよ! 貫きなさい!」

「オオオオア!」

 

 叩っ切られる。石の槍。鉱石の槍。

 それが、単なる刀一本に切り裂かれ、力を失う。

 

「嘘!?」

「気を付けてね~、ディミトラ。あれ、全部が夜の使徒だよ。全部が──死を纏ってる」

「夜の使徒って何なのよ! 私知らないんだけど!」

「あれ。そこまで奪っちゃったか。えーとね、夜の使徒っていうのは~」

 

 マッドチビ先生もチビだが、モーゲン・真凛もチビだ。

 チビ同士仲良く話してるとこ悪ィが──ハハ、今の俺ァ普段の俺程臆病じゃねェんだわ。誰もいねェ今なら。事情を知ってる奴らしかいねェ今なら。言ってもいいはずだ。マッドチビ先生ァまァ、知ってる事を期待している。知らなかったらすまねェな、うん。

 

「夜の使徒ってなよ、死んだ奴らの事さ。ハハハ! 続くだァ? 廻るだァ? 馬鹿抜かしてンじゃねェよ、死んだら全員終わりさ! こんな、この世に縛り付けられて、可哀想だろォが! 死後の世界で! 安寧の世界で! 冥界で!! 水先を案内してやンのが夜の使徒ってな!」

「……っ」

「もしかして、こわいの? 大丈夫だよ、ディミトラ。魔法少女はね、太陽の使徒だから。何度沈んでも、また昇る。それに今は、風の使徒である魔物もいっぱいいるでしょ? 世界を巡る、廻り続ける風の使徒。吹けば吹く程強くなって、最後には嵐になるの。ね? 夜の使徒なんかに負ける私達じゃないんだよ!」

「……行きなさい! 私の最強のガーゴイル軍団! そしてアイツらを殺しなさい!」

 

 ──脚部強化。知覚強化ァいらねェ、踏み込め。ガーゴイルの背を踏め。俺に向かう攻撃ァ全部鎧武者たちが防いでくれる。着物狐が見ててくれる。

 だから、安心して突っ込め。

 笑え。笑って突っ込め。

 

 魔力が切れたら吸えばいい。食えばいい。──飲めばいい。

 世界の外の魔力を。

 俺の世界の魔力を!

 

「貫け、貫け、潰せ包め切り裂け殺せ!」

「あァよ、だったら死ね! 怖いか! 怖がってンなァマッドチビ先生! はは、それでいい! 生きるために抗え! 生きたいと願え! ならばそれは、俺が相手をするべき対象だ!」

「コイツ、どういう身体能力してんのよ! 自分を攻撃するガーゴイルを足場にするとか、正気の沙汰じゃ……」

「ディミトラ、落ち着いて。ガーゴイルなんて形にしてるからダメなんだよ。【鉱水】はもっと色んな使い方のできる魔法。そうでしょ?」

「──解けて、波となれ!」

「そりゃ殺すがよ」

 

 魔煙草じゃ足りねェ。フリューリ草を食う。むしゃむしゃと食う。あァ、いい味だ。クソ不味い味が口に広がって、思考がスッキリと純化されていく。

 容赦してくれ、勘弁してくれ。はは、そうさ。お飾りB級、お飾りA級。はは! なンだ、魔法少女の等級区分が、本来ァ危険度だっていうンなら──じゃァそうさ!

 

 俺ァ、SSSだ。文句なしの過激派だからな!

 

「だ、ダメ! どうしようモーゲン、コイツの魔法、わかんない!」

「んー、じゃあ相手から使い方を奪ってみよっか!」

「それも殺すよ。ハハハ、お前らの魔法ァ見やすいな。紺碧ベルトもそォだったが、見えてるぜ、魔力が」

「あ、あれー? ……もしかして、私達危機的状況?」

「ちげェなァ。私達、じゃねェ。お前だけだ。よォ──天使。風の天使。久しぶりだな。やっぱり迷宮内部じゃねェと存在できねェか。ま、そりゃそォだ。だってよ、天使ってな──目的がなきゃ、役割が無きゃ、存在してさえいられねェ。いつまでもいてェよな、世界にいてェよな! だがそォさせてくれねェ。他ならぬ自分の神が、それを許さねェ!」

 

 後方で爆発音。

 多分、到着したンだ。アレらが。

 けどまァ、そっちァ任せるぞ、侍衆。ってな。

 

「んじゃまァ、外法を使うしかねェよな。太陽の使徒の中に入って──まるで太陽の使徒のフリをすれば、この世で生きてられる! ──ンなルール違反、俺が許すかよ」

「な、何言ってるのかわかんないな~……あ、ビーファン! ペルチット! ハイドレートも! 助けて助けて~! 夜の使徒に襲われてるの!」

「わかってる! ──最大出力でぶん殴るから、とっとと離れて!」

 

 ビーファン。【隠涜】だったか。透明にする魔法だ。だが、ンなチャチな事より、本人の魔力がデカすぎる。近接魔法でもねェだろォに、莫大な魔力量で身体強化してぶん殴って終わらせるタイプだ、ありゃ。脳筋も脳筋、俺と最も相性の悪い魔法少女。

 殺せねェんだ、防御もしようがねェ。

 

 が。

 

「 SUMANAIGA TANONDEIIKA MOUJANOTOMOYO !」

「オオオオオオ!!」

 

 止める。

 脳筋娘の拳を、3人がかりで止める。ハッ、あの規模の拳をたった3人で止められンだ、すげェよお前ら。尊敬する。

 

「おやおや、夜の使徒が、私の真似事ですか? ──なら、これでどうでしょう。【仙導】──さぁさ皆さん、敵はあそこにいますよ! 小さな子に手を出して、殺してしまった夜の使徒! この平和な輝きの園に争いを齎す敵対存在!!」

「【喧槍】」

「【静弱】」

藍夢割朽麗(魔法なんぞに気ィ取られてんじゃねぇぞ)府悪露地韻止楽紫遠図(自分が何者か思い出せ)! 恵印減後琉(アインハージャ)!」

「──う」

「これ、は」

 

 あいつらにァ悪いが、混乱しといてもらう。余計な戦力ァ削いでおかねェとな。

 

「紺碧ベルト! お前、まだ俺の事疑ってンのか! それとも──」

「否定する。既に計算済み」

「あァよ、だったらマッドチビ先生のガーゴイルァ任せていいか! 俺ァこっちのパッパラメガネを相手にしねェといけねェんでな!」

「も、もしかしてパッパラメガネって私のこと~?」

「ハハハ! 他に誰がいるよ! おォい着物狐! そっちのびりびりタイツァ任せたぞ!」

「クク、お主、珍妙なあだ名しかつけられないのか──良い良い。着物狐というあだ名も、既にしっくり来ている」

「おやおや、あまり他人の身体的特徴や姿形を揶揄するものではないですよ?」

「馬鹿が、馬鹿にされたくねェならちったァマトモな格好しやがれ。魔法少女の衣装なンだろォが、それァ流石に自分で破いてンだろ」

「さて、どうでしょうね?」

 

 余裕ぶりやがる。

 まァあっちァいいんだ。一番気になるのァシエナの位置だが……いねェな。おっかけて来なかったのか?

 

「あ、あれー? ハイドレート、なんでそんな目で私を見てるんですか?」

「くだらない茶番は終わりにして。私の記憶、返して。じゃないと──その精神、抜く」

「ひぃ──怖い怖い! じゃあ、もっと記憶を奪って赤ちゃんにしてあげます!」

「あァよ盛り上がってるとこ悪いが紺碧ベルトァガーゴイルを相手にしてくれ!」

「わかった」

 

 物分かりの良い奴でホント助かるな!

 

 んじゃまァ、本領発揮と行こうかね。

 

えはか彼

 

「さァて、よォ。ちょいとお話と行こうぜ。こんだけ戦闘が激しけりゃ、聞こえるモンも聞こえねェさ」

「さっきから何のこと言ってるの~? 私、天使なんかじゃないよ~?」

「あァ良いって良いって。お前に話してンじゃねェんだよ混ざっちまっただけの仮人格。ハハ、出てこいよ、天使。アンゲルでもいいぞ。あの時ァほとんど思い出せてなかったが、あァよ、一回里帰りしたら全部わかったわ」

「……エ──ァ」

 

 ぐりん、と。

 パッパラメガネが目を剥く。

 口を半開きに、ぱたりと倒れて──その口から半透明の何かが出てくる。白目剥いた少女からンなもんが出てくンのァホラーオブホラーなンだが、まァ俺も半ばホラーな存在だしな。別に怖かねェよ。

 

 んで、半透明のそれは。

 ぐじゅり、ぐじゅりと音を立てて──カタチになる。カタチを作る。形成する。

 

 白い翼。鋼のような胴体。手に持つ槍は鋭く長く、その眼孔は何を映す事もない。荘厳な装飾の施された盾と、目に見える程に圧縮された魔力。それらは光球と天輪を召し上げ──この階層を、強く照らす。

 強く強く。暗い基底部を、強く強く、広いこの階層を──照らす。

 

「え、何!? ──アンゲル!?」

「……! 危険、離れて!」

「クク……なんだ、あれは。荘厳だが──あまりに、虚ろ」

 

 ありゃ、こんだけ騒いでりゃ気付かれないと思ったンだがな。

 馬鹿が、光り出し過ぎだよ。全員気付いちまったじゃねェか。

 

理単戸減琉,葉阿歩止琉(冥界に帰れ、彼女の使徒よ).」

「ハハハハハ! よォやくお出ましだな! 馬鹿が、簡単に自分を奪われやがって、簡単に操られやがって! 簡単に、役割を忘れやがったな!」

泥椅子伊豆能登湯上伏零須(ここはお前の場所ではない).」

「あァ、だがてめェの場所でもねェんだよ。お前、自分がどこにいるかわかってっか、ア?」

「……歪編無藍陽阿(ここはどこだ)

「始の点の入り口だよ。てめェのいるべきァ、頂点だろォが。アードゥムラを守るのがてめェの役割だ。違うか」

歪同有脳地眠(何故その名を知っている).」

「会ってきたからだよ。なァ、どうする。てめェが元の役割に戻るってンなら、俺ァてめェを殺さねェ。それァ抗いじゃねェからな。だが、このまま続けるというのなら──」

懐羅離,藍初琉理単(当然だが、すぐに帰る).」

「え」

 

 エ。

 

 あ、あら。

 あれ。

 そこァ「当然──貴様を討滅する!」じゃねェのかよ。

 

 天使の身体が消えて行く。方向ァ、ブゥリたちのいる所。上。

 えー。

 え。

 えー?

 

「とんだ肩透かしなンだが」

「殺したの?」

「いんや、帰った。なァよ、紺碧ベルト。【幽拐】で精神体を奪った場合ってな、それァどこにストックされるンだ?」

「私」

「あァ、なンだ。たとえばお前以外が【幽拐】を使えたとして、で考えてくれや」

「? 魔法は1人1つ。共有は不可能。誰かが私の魔法を使う事も、私の魔法を誰かが使うことも不可能」

「そりゃ知ってるンだが、そォいう事が起きてンだよ」

「……それは大変」

「あァ大変なンだ」

 

 さて、どォするか。

 実ァ問題なのァそっちでな。どォやってパッパラメガネの精神体を取り返すか、なンだが──お。

 

「梓・ライラック様!」

「よォシエナ。本物か?」

「はい! 記録庫に欠損が見られたため、常に複製保存している補助の記録庫から記録を読込、上書を実行いたしました! クルメーナの後からは勿論、LOGOSでのすべても覚えています!」

「バックアップデータとっとく機能とか、あっちのマッドチビァどんだけ天才なンだよ」

「?」

 

 ちょいと末恐ろしくなる。

 だってこの世界、携帯電話すらないんだぜ? 魔力を用いた通信端末ァあるけどさ、それだってEDENにしかない奴で。

 独力で、【鉱水】だって使えねェはずのあっちのマッドチビ先生が、そこまでの事してのけるってな。

 マジの天才だよ。正直マッドチビ先生よりも……。

 

「何があったのかよくわからないけど──とりあえずぶん殴る! それで解決!」

「シエナ、そんなはりきってるってこたよ」

「はい! 今度こそお役に立てそうです! 見つけました、モーゲン・真凛様の精神体!」

「助かる。んじゃ俺を運んで連れてってくれるか?」

「了解いたしました!」

 

 シエナが俺を掴む。そんで──飛ぶ。あァこれだ。これさ。

 

「飛んだ!? ならこっちも!」

「クク──なんだ、知らぬのか? 亡者とは足を引っ張るものぞ」

「この、何よこのガーゴイル! 群がってきて、あ、ちょっと、変なトコ触らないで!」

「【仙導】──追いなさい、アインハージャ達」

「うむ。あまり、容易く私達を扱う事ができると思われるのも困るな」

「ウィジ。あんなのより、早くベルウェークを倒さないと」

「ベルウェークァもう死んだよ! 俺が殺した!」

「そうなのか? ならば、貴女はヴァルメージャか」

「ウィジ。さっきそう言っていた」

 

 飛ぶ。

 迷宮の深部に向かって行く。まァ入り口ァどォにも地面に埋まってるみてェだからな。

 シエナの見つけた精神体とやらの所まで──ひとっとびさ。

 

「こら、待ちなさい! あ、ちょっとやめて、ぶっ飛ばすわよ!」

「ククク……ほれほれ、ここがええんか、ここがええんか」

「あ、ヤダッ、ちょ、ちょっと、あ、あっ!」

 

 ……なんか艶やかな声ァ聞かなかった事にして。

 俺達は、猛スピードで迷宮を駆け上る──。

 

 

 

「いました! あれです!」

「もォ面倒だからよ、投げてくれねェか?」

「え?」

「いやよ、あの頭見たらムカついてきた。あんまり変な事考えると読まれるしな。だから、ぶん投げてくれ」

「──大丈夫、ですか?」

「あァよ。()()()だ」

「……ふふっ、じゃあ、わかりました! その大丈夫じゃない大丈夫──信じて、投擲します!」

 

 輝きの園の端っこ。余裕そォな顔で座る、青毛の少女。確かお嬢の話じゃ魔法少女じゃねェんだったか。もう知らねェけどさ。

 

 ぐ、と。身が引かれる。上がる。持ちあがる。

 そんで──。

 

「使う機会が一切なく、何故これを付けたのかと主ディミトラに問いたい日々が続きましたが──まさかこのためだったとは! 腕部噴出機構解放! 実包装填3、排出、3!! 背面噴射機構と連動し──最大加速を実現。命名、梓・ライラック様砲!! 発射します!!」

 

 なンか不穏な言葉がいーっぱい聞こえて。

 いやそこまでしなくても、とか。色々言う暇もなく。

 

 俺ァぶん投げられた。

 ぶん投げられて。

 

「よォ、死ね!」

「えっ──お、ぶ!?」

 

 ルルゥ・ガルのその腹に──突き刺さった。

 

えはか彼


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