「さァ吐け、今すぐに吐け。パッパラメガネの精神体を吐け!」
「ちょ、待って、揺らさないで、吐いちゃうから、揺らさないで」
「吐けっつってンだよ!」
「だから待ってってば!!!」
ぶっ飛ばされた。
空中でシエナにキャッチされる。
コイツ、まだ隠し玉あンのか。クソ、完全に掴んでたのに離されたな。よし、もう一回。
「まったく……これだから野蛮人は。なんか騒ぎを起こしてたみたいだけど、だめよ。ここは輝きの園。争いごとはご法度なんだから。わかった?」
「はァ? 元ァてめェが仕掛けた事だろォが。いいからとっととパッパラメガネの精神体返せよ。また両手足ぶっ殺すぞ」
「……? なんの話してるの? 精神体? パッパラメガネってだぁれ?」
「モーゲン・真凛。EDENの創設者の1人だよ」
「あー。ちょっと待ってね、今探すから」
言って。
ルルゥ・ガルは、どこぞの青狸を彷彿とさせる仕草をしながら、あれでもないこれでもないとぶつぶつ呟き始めた。なンだ、集めた精神体ってな腹にでも入ってンのか?
……つか、隙だらけだな。魔法少女じゃねェ、精神体ってな、なるほど、こォやってゆっくり観察する確かにそォだ。そォっぽい。
殺すか──?
「えーと。はいこれね。モーゲン・真凛の精神体。これでいいかしら? 返したけど、見える?」
「え。あー。お、おゥ。見えるが、これどォやって持つんだ」
「大丈夫大丈夫、勝手に引っ付くから。じゃ、用件はもう無いわね? けほ、あーもう、やっぱり胃とか内臓って要らないんじゃないかしら。あっても良いことないんだけど」
「……攻撃、してこねェのか?」
「してきたのそっちでしょー?」
「いやまァそォなンだがよ」
調子狂うなオイ。
なんだこのローテンションなルルゥ・ガルァ。こいつこそ偽物なンじゃねェのか?
「何、まだ何かあるのかしら。もしかして、お姉さんときもちーことしたくなった?」
「いやもちっと大人になってから言えちびっこ」
「はいはい。いつもならその煽りに乗ってあげられるんだけど、ここじゃ無理だから、外でやろうねー野蛮人」
「なンだよ。ここァ特別なのか?」
「当たり前じゃない。始の点は私達の聖地よ。たしかにちょっと出来心で精神体のつまみ食いはしたけど、貴女が来てるならそんなことしなかったわ。絶対面倒事になるもの」
「俺が来てるからやったワケじゃねェのか」
「なんで私が貴女に合わせないといけないのかしら。あぁまぁ最初の邂逅とかクルメーナでは露骨に罠を仕掛けたけど、私も暇じゃないのよ、野蛮人」
「疑うにァ十分なンだよ」
とりあえず戦う気ァ無いらしい。
そォいや狼も烏も引き連れてねェな。
「いつもの取り巻きァ?」
「取り巻き?」
「ウルフ種だよ。噂じゃレーヴァン種もいるらしいが」
「ああ、休暇中よ、みんな。輝きの園はすべての魔物が安心して羽を伸ばせる場所だもの。見ての通り、私も休暇中。だから視界から消えてくれるかしら野蛮人」
「……あァ、そりゃいいんだがよ。いっこ聞かせてくれねェか」
「えー」
モロに嫌そうな顔をして。
……クソ、ペース乱れるなァ。
「エーじゃねェんだわ。アズサ、いるだろ。そっちに。どォしてる?」
「アズサって、あぁ、はいはい。あの子の動向は知らないわ」
「知らねェってこた無いだろ。仲間じゃねェのか」
「違うわよ。この前のEDEN侵攻時は利害の一致で協力したけど、あれはあくまで魔法少女じゃない。ディミトラとかアニマとかと一緒にいるんじゃない?」
「お前ァあくまで化け物側って?」
「わかり切ったこと聞くのそろそろやめないかしら。地下で争い合い起きてるんでしょ? それ、とっとと持って行きなさいよ。私の欲しい魔法じゃなかったし、ここで騒ぎを起こすのは本意じゃないし」
「……わかった」
ダルそォに、んでもって、面倒くさそォに、さらに、ジト目で。
それァもう──お願いだからどっか行ってくれ、って。そォいう顔で。
「……外で会ったら、殺し合いだからな」
「殺せないクセに何言ってるんだか」
「はン」
シエナに目配せをする。
いいんですか? みてェな目で見てくるシエナに頷き返す。
「ルルゥ・ガル」
「えー。まだ話しかけてくるの。流石は野蛮人、空気を読むってことを知らないのね」
「お前のあだ名、ちびっこから変えるわ。今日から寂しんぼな」
「は?」
なんか。
よくわからねェけど、そんな感じがしたンで。
あだ名の変更ァ、初めて……じゃねェか。マッドチビ先生にもしたしな。
「ちょっと、どういう意味よ!」
「ア? まだ話しかけてくンのかよ。流石だな寂しんぼ。空気が読めねェらしい」
「……あーもう。いい。いいから行きなさい。ここではもう私の前に現れないでくれる? 折角の癒しの時間が台無しよ、全く……」
「あァよ、じゃァな」
なんだ。
俺も、あんだけの事されといて、よく大人しく引き下がるよな。
偉いよ俺。……なんかな。ホントに、邪魔されたくないって感じだったンでな。
……いや俺だってどこにいたとしても邪魔されたくァないんだけど……まァ、早く帰った方がいいのァ事実だし。
戻るか。
「あ! あんた、よくもぬけぬけと戻って来たわね!! モーゲンに何をしたのか知らないけど──ぶっ潰してあァん!?」
「やめろ。艶やかな声出すんじゃねェよ脳筋娘」
「だ、だって、服の中に何か──ぁあっ!」
戻ってきたら、戦場ァ割と落ち着いていた。
アインハージャの2人ァ戦闘に不参加。たァ言えびりびりタイツを常に見張っているよォで、びりびりタイツァ動けずにいる。鎧武者たちぁ束になって脳筋娘の相手をしてて、着物狐ァ楽しそォに笑いながら、指をクイクイやってる。多分脳筋娘の魔法少女衣装の中に入り込んだ式鬼を操作してンだろォけど、あんまりアダルティな事はやめてくれると助かる。
んで、紺碧ベルトとマッドチビ先生。
「ガーゴイルじゃ私には勝てない。ただの【鉱水】でも私には当たらない。貴女の攻撃方法は対策済み」
「……なら、これでどうよ!」
「大波を起こすには【鉱水】が足りない。理由はあっちのガーゴイル達に持っていかれているから」
「なら、なら──」
「無理。無駄」
なンか、圧倒的だった。
ちょいとこのマッドチビ先生が幼すぎるってのもあるが、紺碧ベルトァ完璧にマッドチビ先生の攻撃を避け、封じ、あと論破して、何にもさせない。ガーゴイル達も全部【鉱水】に戻ってる。
危険度SSS級の魔法、【幽拐】。なるほど、って感じだ。つか、創設者たちァ魔法無しでも強いのがデフォなのか?
「帰ってきた?」
「あァよ。マッドチビ先生の相手代わるから、コレ頼めるか?」
「あ、モーゲンの精神体」
「あァさ」
別に引っ掴んでるワケじゃねェのにくっついてきたそれを渡す。
受け渡すときも何もしてねェのに渡っていって、紺碧ベルトの腕に引っ付いた。
「ガーゴイルは全部潰した。けど【鉱水】がなくなったわけじゃない。気を付けて」
「問題ねェよ。俺ァマッドチビ先生とァ相性良いんだ」
「──モーゲンを殺した魔法少女!!」
殺到する【鉱水】の槍。知覚強化して、【即死】を纏う。いつぞやのヘビよろしく先端から潰れて行くソレに、まァ、ちったァ手応えを感じてる。
俺も少しァ強くなったんじゃねェかなァ、って。
そんな、油断を。
「──カ……?」
背中だ。
なんか、熱い。
死の気配ァしてなかった。だから多分、この攻撃で俺ァ死にァしないンだろう。
でも。
深い傷だ。
「どうよ……私の【隠涜】は、相手が一番油断してる時に本領を発揮するんだから!」
「ふふ……【仙導】とはなにも、ヒトだけを導くものではないですよ?」
「──死ね」
殺す。
透明のガーゴイルか。クソ、その危険性ァ俺が一番よく知ってるはずなのに。
前のめりに倒れる。
いや、倒れかけた。シエナが支えてくれたンだ。ありがてェ。けど。
「モーゲン。モーゲン。起きて。早く起きて。今──大変なことになっている」
「ん~?」
「
「なんだ、癒しの詩?」
「ウィジ。彼女はヴァルメージャだから」
「リジ。だが──死にかけだぞ」
「ヴァルメージャは死んでも翌日に蘇る。問題ない」
「そうか」
血を吐きながら、痛みを無視するコトバを使う。
意識が朦朧とする。している。違う。もう保てない。保てそうにない。
身体が冷たくなっていくのを感じる。
あァ、そうか。【即死】じゃねェもんな。
失血死ァ。
「モーゲン! 起きろ、モーゲン・真凛!!」
「はい! おはようございます──! ……えっと……あれ、何この記憶……?」
もう、無理だ。
意識が落ちる──。
真っ暗な空間にいた。
真下にあるのァ、月。真っ黒い月。周囲が光った朔の月……に見える、真っ黒くて発光してるっつーよくわからん球体。
その中で、輝く1人の女性。
「起きましたか?」
「……あァよ。なンだ、見守っててくれたのか」
「ええ、そうですよ。」
俺ァその女性に膝枕されてて。
覗き込んでくる顔ァ、すんげェ可愛いのさ。ああいや、美しィ、のが正しいか。
「トリウィア。俺ァ、死んだのか」
「まだ、わかりません。」
「そォかい?」
「はい。今、貴女のお友達が、頑張っています。貴女を生かそうと。傷を塞ごうと。貴女に死んでほしくないと。」
「だってなら、俺ァここにいねェで、早く帰らねェとじゃねェのか」
「そうかもしれませんね。……ふふ、呼んだ時はすぐに来てくれて、見守っている時はたくさんの怪我をして。……つらくないですか?」
「わからねェや、そいつァ。でもよ、トリウィア。多分だけど、俺、この世界に生まれる事ができて良かったよ。拾われてさ、送り込まれてさ。なんて世界だって思った事もあったけどさ」
別に、大したことを成し遂げたわけじゃねェ。
仲間の記憶を取り戻したにすぎねェ。お嬢とポニテスリットにァ嫌われたままだしな。多分、EDENのみんなにも嫌われたンだろう。反逆者だって。魔法少女の居場所を奪う奴だ、って。
でもさ。
なんか、良かったって。そォ思ってる自分がいる。
「凄くねェか。なァ。俺ァさ、まだ死んだ事がなくて。でもさ、生き返るンだろ。意味の分からねェ法則に乗っ取られて、俺ァ生き返っちまう。死んだらな。……それがわかっててさ。俺を助けようとしてくれてる奴らがいるんだって。すげーよ。俺ァそれが嬉しい」
「そう、ですね。」
「はは、まァホントァな、それをしてくれるのが金髪お嬢様やポニテスリットだったらって。ちょっとァ思うよ。あンだけ好意を寄せてきてくれてたンだ。あンだけ──アプローチをしてきてくれてたンだ。……2人にァ、俺の死じゃなくて、俺の生を願ってほしかったって。そォ思うよ」
自分で言ってて笑っちまう。
口でァ子供だなンだ言っといて──こんなにも意識してンじゃねェか。
好きなんだろ。ちゃんと。俺がおじさんかどォかァもういいよ。もう、好きになってンだろ。だって優しいじゃねェか。だから、好きだったンだろ。
──それをさ。勝手に裏切られたって。
同じ方向を向いてねェからってさ。反対を向いてるからってさ。
俺ァ、勝手にさ。
「なァよ、神さん。恋愛成就ってなァ持ってねェんだっけ?」
「ふふ、ごめんなさい。そうですね。私にはそういった類の権能はありません。」
「あァよ、謝る事じゃねェさ。……なァ、前の話だ。俺の死ってな、意味があったと……そォ思うか?」
「……ごめんなさい。それは、私にはわかりません。けれど、そんな
「あァさ、感謝してる。2回目なんざ、普通ァあり得ねェんだ。ホントァその時点で夜の使徒になっちゃいけねェのにさ、神さんァ俺を愛してくれてる。……じゃァさ、3回目ってな、やっぱダメだよな」
「……。」
「まだ、あるぜ。気配がする。自分の命の気配が、自分の胸の中にある。──じゃ、起きねェとだよな。はは……まだ、ここで安寧を受け取るにァ、やらなきゃいけねェ事がありすぎる。……じゃァな、トリウィア。愛してるよ」
「ええ、私も。」
意識を落とす。
温かい手の感触から──冷たい世界から。
どこかへ、帰る。どこかへ──落ちて行く。ありがとう。またな。こんな早く帰ってくるなンて、心配させちまったよな。
もう油断ァしねェからよ。
次会う時ァ──ちゃんと、全部やり遂げてからさ。
今度こそ、有言実行するから。
見守っていてくれ。
「──ッ、っは」
「……起きた。起きた? 起きたのね!?」
「け──ふ、ぁ、ちょ、揺らすな、いてぇって」
「良かった……良かったぁ。良かったぁ……!」
大きく息を吸う。
あァ。生きてる。バリクソ痛ェが生きてるぞ、オイ。
「……脳筋娘が、看病してくれてたのか」
「え! いや、だって、明らかにって言うか輝きの園で負った傷全部私のせいだし、その、えと、っていうか脳筋娘ってなに!? そのあだ名すっごく嫌なんだけど!」
「はン……ありがとう。おかげで死なずに済んだよ」
「う、うん。でも……ホント、本当にごめんなさい! 本当にごめんね、怖かったよね。私もその、記憶がなかったっていうのはあるにしても、何の確認もせずに殴っちゃって、その、痛かったよね。つらい、よね。痛いよね。う、うぅ……ごめん。ごめんね……!」
「お、おい。泣くんじゃねェよ。情緒不安定が過ぎんだろ。つか、ベッドに縋ンなって。いてェんだよこっちァ」
「ごっごごごごごごごごめん!!」
かはァ。
かァ。
生きてる。生きてんな、オイ。
痛いってことァ、生きてるってことさ。はは、当然の様に右目ァみえねェし、義手もなんか取れちまってるし、火傷も実ァまだ痛ェし、背中の傷ァもうどォにもならねェくらい痛ェが──生きてる。
生きてるぜ、俺ァ。
死なねェって。ははは。死ななかったぞ。
「ありがとう。多分、アンタ以外にも俺を生かそうって頑張ってくれた人たちがいンだろ。みんなにも礼を言わなきゃな。……といきてェが、ア? ……ん?」
立ち上がる。
立ち上がりたい。
……ははァ。
「……おい、脳筋娘。ちょいとみんなを呼んできてくれ。大事な話がある」
「う、うん! わかった! 行ってくるわ!
反応しないな。
足が──欠片も。
そりゃそォか。はは。背中ぶった切られたンだ。当たりドコロによっちゃ、腰まで行くよな。
……マジか。
輝きの園ってな、平和な場所じゃなかったのか。
ここまでくるかー。
まァ生きてりゃ儲けモンだがよ。
「梓!」
「梓、起きた?」
「ククク……などと、笑える状況では無さそうだな」
「梓・ライラック様……」
「……」
呼ばれてきた5人。
ははは。なんつー顔してやがんだ。生きてるっつーの。
「梓。大丈夫か? 痛い所はないか?」
「ウィジ。痛い所がなかったらその方が不味い」
「む、そうか。では梓、痛いか?」
「おゥ。くそ痛ェが、生きてるぜ」
「うむ。それは見ればわかる」
何言ってやがる。
それがどんだけ凄い事か、こいつらァわかってねェらしい。
「梓。……手は、いるか」
「はえーよ着物狐。ネタバラシってなもうちっと溜めるモンだろ、普通」
「……クク、何ゆえお主はそうも前向きなのだ。吾は少しばかり──引いているぞ」
「ケッ、ヒノモトで俺達に語った事の半分以上嘘だってわかってンだぞこっちァ。俺もお前に十分引いてるよ。これでお相子さ」
「吾の方が、これでもかというほどに引いている」
「なンでそンな事張り合ってくンだお前」
生きてるんだぞ。
何を引く必要がある。どこに後ろを向く必要がある。
死んでないんだぞ。
「……梓・ライラック様。申し訳ございません。シエナは──貴女の背後にいたにもかかわらず、その身を護る事ができず……」
「あァよ、お前が壊れなくて良かった。治せねェからな、俺達にァ。敵陣突っ込んであっちのマッドチビに頭下げねェといけねェ。それァまァ勘弁願いたい。だから、お前が狙われなくて良かったよ」
「……」
「はは、とかいうと余計な罪悪感与えちまうよな。……すまん、心配かけた。つか、油断したンだよ。マッドチビ先生相手なら楽勝だってな。それがダメだった。……なんぞ、罪悪感覚えてくれンなら、この後もずっと仲間でいてくれよ。いいだろ?」
「っ……」
ポジティブ過ぎるのも良くない。強がってると思われちまう。
ダメだ、適度に自虐して、悲しがらねェと……余計な心配かけちまう。普通にしろ。普通だ。普通に悲しんでいる事にしろ。
そうじゃねェと、透けるぞ、お前。
「透けてるわよ、馬鹿」
「はン、なンだよマッドチビ先生。紺碧ベルトにも俺にも完封されてたクセによ」
「歩けないんでしょ。その傷診たのも縫ったのも私なんだから、それくらいわかるわよ」
「──そか。んじゃ、一番に感謝すべきァマッドチビ先生だな。ありがとう。なァ、俺生きてんだよ。だからさ。──泣かないでくれ。悲しそうな顔しないでくれ。生きてるんだよ。生きてるんだぞ。それがどんだけ凄ェかって、ここにいる奴らならわかるだろ」
唯一マトモに動かせる左手で、心臓を押さえる。
脈打つソレ。
すげェんだよ。生きてるって。
俺ァ──死んだ事があるからさ。わかるんだよ。生きてるって、凄いんだ。
「アンタ、歩けないのよ。わかってるの?」
「わかってるよ。それがなんだ」
「それがなんだ、じゃないわよ。……言わないわよ。それは、言わないけど。……それでも」
あァよ。
はは。
折角生きたンだぞ。ソレだけァ、言われたくねェんだ。
「俺の義手ァどこいったよ、マッドチビ先生」
「今改造してるわ。少しでも武器になるように。あの剣も、もう少し取りまわしやすい形にするつもりよ」
「ほォか。ありがてェ」
「……ごめんなさい。私の技術では、義足を作るのは難しい。その、癪だけど、シエナを作った方の……あっちの私、っていうのなら、作れたかもしれないけど。……私じゃ、無理。今の私じゃ……無理」
「謝んなって。なんで謝られなきゃいけねェんだ。生きてるっつってンだろ」
「……」
おいおい、しんみりすんなって。
馬鹿野郎が。歩けねェ程度のハンデ抱えた奴なんざ死ぬほどいるだろ。前世にだっていたし、この世界にだっているだろ。化け物が闊歩してる世界だ。安藤さんの夫みてェな英雄もいたンだ、いるんだろ。だったらよ、ならよ。
なんだって俺が、その程度に絶望すると思ってやがる。
「あァよ、じゃあ作ってほしいモンがある。天才彫金師ディミトラに、依頼がある」
「何よ」
「設計図ァ俺が引くからよ。──車椅子ってモンを、作ってほしい」
あれァ結構単純な構造してるからな。
婆ちゃんの介護やってた時に作りを調べた事があンだ。はは、婆ちゃんだァ? くそ懐かしい単語が出てきたな。覚えてるのがすげー嬉しい。忘れねェモンだ、縁ってなよ。
正直よ、会社ァITだったンで、この世界で役立つ知識ってなほぼ無いンだわ。だが、いや、嬉しいね。前世でやった介護がよ。家族の責務つったって善行ァ善行だろ? それがよ、俺に活きるンだと。
凄くねェか。
ははは。43歳のおじさんでよかったよ。これが25、6の若僧だったら、介護なんざ……あァいや、ンなこたねェか。少子高齢化、爺さん婆さんの世話してる若者も少なくァ無かったしな。ま、おじさんァそォいう小道具の構造覚えるのが好きだったってだけだ。年齢ァ関係無ェやな、無礼だった。
「ん──ふぅ」
「梓?」
「ちょっと、大丈夫?」
「クク、単なる体力切れだろう。寝かせてやれ」
「そ、そう」
どォやらそォらしい。
いんやさ、俺にァやらなきゃなんねェことたっくさんあンのによ。
……まァ、もちっと、寝させてもらうか。
今度ァ夜の宮じゃねェ、ベッドで、な。
夜。
なんぞ、目覚めちまった。まァ昼にあンだけ寝たしな。
つーか、どんくらい時間経ってンのかね、これ。
「起きてる? 梓お姉ちゃん」
「ン──おォ、ブゥリじゃねェか。大丈夫だったか?」
「うん! いきなりコレから切断されちゃった時は焦ったけど……」
「あァ、中に入ってた悪ィのは潰しといたからよ。……いや、こんなこと言うのもアレだが」
「なぁに?」
「命の気配がしねェから、安心するよ」
「あはは。そうだね、これは人形だし」
ぜってェ警備しっかりしてるはずなのに入って来れたってなトコを怪しんだンだが、ちゃんと命の気配がしなかった。この人形の中に精神体ァいない。だから、これァ本物のブゥリ。ブゥリの人形だ。
「なンだ、見舞いにきてくれたのか」
「うん! あと、ごめんね、って。始の点の魔物が迷惑かけちゃったみたいで……」
「はは、ンなのブゥリの責任じゃねェだろ」
「ううん、私にもっと力があれば、そんなことはなかったはずだもん。……終の因にいるソテイラみたいに、迷宮全部を動かせる力があったら、助けられたかもしれないのに、って」
「あァ、できねェのか」
「うん。私は迷宮の要であって迷宮の主じゃないから」
「へェ。主ァ誰なンだ?」
「外から見た時、でーっかい心臓が見えなかった?」
「アレか」
「うん。名前はザグルスっていうの」
ザグルス。ふゥん、覚えておくか。
「……その足だと、もう私の所まで来るのは難しいかな」
「まァなァ。来て欲しいンなら、這ってでも行くよ」
「ううん、私が会いに行くから良いよ」
「そォかい」
……なんで俺ァ、ブゥリにこんな気を許してンだろォな。
化け物なのによ。
「なァ、ブゥリ」
「なぁに?」
「……世界ァ、死にたがってンだよな」
「うん」
カーテン越しに月を見る。
明るい月だ。
「世界が死にたがってンのァよ、苦しいからで、もうつらいからで、十分に生きたから、だよな」
「うん。そうだよ」
笑う。
ナメたこと抜かすな。
「決めた」
「何を?」
「俺、魔力も世界も殺さねェ。やっぱヤだからよ。俺、生きたいんだ。生きてたい。苦しいからって死を選びたくない。痛いからって死に走りたくない。何やってでも、何使ってでも生きていたい」
「うん」
「だから、この考えを世界に押し付ける。情けねェこと言ってんじゃねェぞって、直接言ってやる」
「でもそれだと、魔物はずっと生まれ続けるよ。魔法少女も生まれちゃうよ」
「あァよ。だが、共存の道ァあんだろ。──ここがそォじゃねェか」
たとえ賢さの道であっても。
その道ァ、選べるんだ。
「生きるために抗う奴だけだよ、俺が殺すのァ。死にてェって言ってくる奴なんざ殺すか」
「そっか」
「あァ。──だからよ、ブゥリ。アードゥムラも。そのザグルスって奴も。死ぬなよ」
「うん!」
「あァさ、偉い子だ。良い子だ」
だから、俺のやるべきァ──よォやく定まっただろ。
俺が殺すべきァ、魔法少女の因子だけだ。
それを殺せば──魔法少女も。そして、多分。
オリジンも、生まれなくなるから。
「生きてるぜ、俺ァよ」
「うん。私も」
だからよ。
感じるぜ、お前ら。こっちに向かってきてる命。まだまだ遠いが──俺を殺すために来てる命を、感じる。
好意を自覚した上で言わせて貰わァな。
「宣戦布告だ、EDEN。俺ァ死なねェし、誰も死なせねェし──魔法少女も、生まれさせねェぞ」
来いよ、フェリカ・アールレイデ。ミサキ・縁。
殺さずに改宗させてやる。狂信者の意地だよ、これがな。