遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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55.寒対難有侠徒案出栖端初図会疎十王.

「完全復活!!」

「何がよ。どこがよ」

「あン? 動けるよォになったンだから復活だろ何言ってんだ」

「……」

 

 構造知ってるつったって俺ァ設計士じゃねェ、工業系の職人サンでもねェ。だから覚えてる限りで引いた適当設計図を、けど構造上無理なとことか穴とか色々突いて、マッドチビ先生ァたった数日で車椅子を完成させちまった。

 義手もな。ちゃんとある。まァアズサの腕にあるよォな魔力回復機構ってなありゃ外道の手段ってンでやめてもらった。そもそもマッドチビ先生にァ作り得ねェらしいけど。

 

 目はどォしよォもないんで包帯ぐるぐる。眼帯ってなも考えてくれてるらしい。輝きの園の裁縫職人に創設者たちが依頼したとかなんとか。

 

「なァマッドチビ先生」

「何? まだどこか不便?」

「いんやさ、ありがとうってさ。もっかい言いたくなった」

「そろそろやめなさいよ。アンタわかってて言ってるでしょ。そんなボロボロの姿でお礼言われても、こっちは苦しくなるだけなんだから」

「……だよなァ。んじゃこの礼ァ誰にぶつけりゃいいんだ」

「アンタの神様とかでいいんじゃない?」

「だな、そォするよ」

 

 車椅子をキコキコ漕いで、外に出る。

 部屋の外。通路。そっから、タラップ作って貰って地面に降りる。

 

「しっかしLOGOSァマジで快適だったな。マッドチビ先生の手動たァいえ、だが」

「まったくよ。……この先、ずっと私が面倒見てあげられるってことはないんだから、自分の事は自分でできるように頑張りなさい。できるようになるまでは見ていてあげるから」

「あァよ」

 

 マージで母親だよなァ、マッドチビ先生。

 

「む、出てきたか。梓、調子はどうだ?」

「ウィジ、調子が良いわけがない」

「それはそうか」

「いんやさ、バリ元気だぜ。それよかみてくれよコレ!」

 

 もうこの身体じゃァ剣ァ取りまわせない。槍だのなんだのも無理だ。

 だってンで、義手にダガーを付けてもらった。ちっさいダガーだけど、耐久性能に優れてて、しかも出し入れができる。

 かっけェ。

 

 自分がおじさんだって自覚した30の辺りで捨てよォと頑張ってた厨二心が、いんやさもう出て来ちまったね。レーテーから剣取り出す時点でかっけェ! って思ってたけど、これァかっけェわ。マッドチビ先生ァよくわかってる。

 

「成程、小剣か。確かに梓、貴女には丁度いいだろうな。盾になり得て、いざという時の隠し玉にもなる」

「ウィジ。そもそも梓に敵を近付けた時点で落ち度」

「ああ。梓、貴女はもう戦わなくていい。私達アインハージャは守護者だ。故に、此度一瞬でも貴女に刃を向けた事を含め──貴女に7度の生涯の全てを捧げることにした。貴女が魔力を殺せば、それで、そこで、終わりだ」

「いらねェよンな捧げモン。ベルウェーク倒して自由になったンだから自由に生きやがれ」

「ウィジ。だから、勝手に守ろう」

「うむ」

 

 ……それに、魔力も世界も殺す気ァ無い。 

 あの夜ブゥリが来てくれてよかった。もう俺の腹積もりァ定まってンだ。

 

「なんぞ、みんなが集まれる場所ってあるか?」

「クク……それなら、集会場がある。本来であれば輝きの園の祭りなどを企画し、話し合う場所だというが、創設者たち権限で貸し切りにできるだろう」

「おお、着物狐。そっちも壮健そォで何より。あァそうそう、ちょいと聞きたかったンだけどさ」

「何ぞ?」

「あン時一緒に戦った鎧武者、ウチに迎え入れていいか? あァ勿論アイツらの無念を晴らしてからだけど。カンコウとヒノモトに纏ろう全部を解決したらよ、あの死霊にァ安寧があっていいと思うんだ。ウチの神さんも良いって言ってくれたンでな」

「……クク、良い良い。ヒノモトでは死者とは妖に堕ち、生者を襲う怨霊となり──ただ、退治されるだけの存在に成り下がるものだが。そのような場所にいけるというのなら、あれらも浮かばれようぞ」

「ン。ありがとよ」

 

 よォし、言質ァ取った。

 ……なんかこォいうと悪ィことしてるみたいだな。

 

「んじゃその集会場ってトコに行くか。他の皆も集めたいンだが……」

「では私が行ってきます!」

「あれシエナ、LOGOSにいたのか」

「先ほどまで燃料補給による休眠中だったので、気配は無かったのだと思います。でも、補給は完了しました!」

「んじゃ、ひとっとび頼むよ。創設者たちも集めて欲しい」

「了解しました!」

 

 さてンじゃまァ行きますか、と車輪に手をかける。

 

「クク、まぁ待て。吾が押す。これはそういう作りであろう?」

「そォだけど、いいよ。自分でいけるって」

「吾の妻のため、妻である吾が吾の妻の手足となるのだ。不満はあるまい」

「分かりづらいなオイ」

「ククッ、不満はあるまい?」

「……いいけどよ。けど、ずっとァやめろよ。俺だって自分の意思で進みてェんだ」

「わかっている」

 

 さァてさて。

 お嬢とポニスリが死んでから、もう結構経ってる。

 そろそろ、来る可能性があるンだ。

 

 だから、対策会議と行きますかね。

 

えはか彼

 

「魔力も世界も殺さない? ……じゃあ何のためにここまで来て、何のためにアンタそんな怪我したのよ」

「ハハ、すまねェなマッドチビ先生。二転三転手のひらクルクル、芯の無ェ生き方で俺も嫌になるがよ。なんぞ、世界ってな死にたがってるらしィんだわ。だから殺さねェ」

 

 集会場。

 円形に作られたそこに、魔法少女がずらりといた。あと化け物も。

 俺と着物狐、マッドチビ先生。アインハージャの2人、シエナ。

 創設者たちである脳筋娘とびりびりタイツ、パッパラメガネに紺碧ベルト。

 

 そして──ブゥリ。

 

「なら、フェリカとミサキがお前を殺そうとする理由も無くなったはずだ。EDENと敵対する必要が前提から消えた」

「んだな。なンでここァ大人しく降伏を──ってなが一番丸ィんだが、なんとそォもいかねェんだわ」

「何故?」

 

 紺碧ベルトを見る。

 紺碧ベルトはうん、と頷いて。

 

「その理由については私達から説明させてもらうよ。いいかな」

「お前記憶失う前と今とで喋り方変わりすぎだろ」

「うるさい」

「へーい」

 

 十全俺が悪いので口を閉じる。

 

「私達はEDENを魔法少女のための楽園として作り上げた。国家防衛機構なんかじゃない。況してや、死んでも蘇る尖兵や死兵にするためなんかじゃない。彼女達が安心して暮らせるように、迫害を受けないように……死んでほしくなくて、作り上げたんだ。そこまではいいかい?」

「今のEDENとは、かなり違うな」

「私が最初に聞いたのはそれだったし、最初の頃は本当にそうだったわ。私の所に来る使者も、隔離塔や修練塔を作った時も、みんな幸せそうだったもの」

「うん。──けど、今のEDENは恐らく何者かによって変えられようとしている。その何者かというのが──」

「ジャハンナム、っつー、中央部の上官だって俺ァ睨んでる。もしくァ学園長殿だが」

「グロアはそんなことしない、と言いたいけどね」

 

 へェ、学園長殿ァグロアって名前なのか。

 知らなんだ。

 

「よって、私達はEDENを是正しにいく必要がある。……そこで、今回の話。梓を殺すためだけに、大勢の魔法少女がここ、始の点に来る可能性がある、という話だったね」

「あァ、まァ俺を殺すためなのか魔力を殺すのを阻止するためなのかァ定かじゃねェが、結果ァ同じだろ」

「それを利用する」

 

 ま、あンまり気の良い話じゃねェんだけどよ。

 恐らくお嬢達ァ、戦力掻き集めて俺を殺しに来る。だがお嬢達の一存でンなことができるわけじゃねェ。鬼教官か指揮官殿か、あるいァもっと上の誰かか。

 そォいうのに緊急案件として相談して、しっかりした遠征組を組んで来ると思われるってなワケさ。

 

 相手ァ【鉱水】のディミトラに暫定S級のアインハージャの2人、シエナ、んでもって未だ実力未知数な着物狐ことナリコ。

 お嬢達にァこんだけの戦力がいるってわかってる。んでもって俺もいる。これらの対策を取るには、それなりの魔法少女が必要だ。

 単純なパワー馬鹿だけじゃなく、もっと応用の利く……特殊魔法の使い手、とかが。

 勿論単純パワー馬鹿も来るだろう。【青陽】とか班長とかな。多分それくらいにァ危険視されてると思って良い。はずだ。明媚。

 

 まァ何が言いたいかってーと。

 

「梓殺害のために投入されるEDEN側の戦力──根こそぎ、奪わせてもらう。私達がSSS級とされているのは、簡単に敵を味方に引き入れることができるから、でね。それくらい危険だから、SSS。今の等級区分で区切られたSS級なんかには負けないよ」

「あンま油断してくれンなよ? 班長の【凍融】だの鬼教官の【痛烈】だのァ範囲も効果もやべェンだ」

「それ、見ないと発動しない奴でしょ? ふふん! 私の【隠涜】があれば問題ないのよ!」

「……そいやそォだったな。だが、それも弱点がある。周囲の急激な変化にゃついていけねェ。そォだろ?」

「え、そんなことないけど」

「何?」

 

 ……その弱点が無かったら完璧すぎる。

 危険すぎる。いや、でも、確かにそォか。その程度で弱点を突けるのであれば、他3人に比べて【隠涜】ァSSSにァ区分されねェだろ。

 じゃァなんで寂しんぼの奴の使うのァ……。

 

 ……劣化版、ってことか?

 

「ビーファン、梓。話を戻してもいいかな」

「ン、あァすまねェな。いいよ、頼む」

「はぁい」

「うん。……EDENから投入される戦力。恐らくそれなりの強い所が来ると思う。それらを全員捕まえて、説得に応じれば仲間に、応じなければ──少しの間、眠っていてもらう。そして、こちらから打って出る。EDENを攻め落として、EDENを変えてしまったのが誰なのかを突き止めて、元の形に戻す。私達が作り上げた楽園を取り戻すんだ」

 

 って、ことだ。

 向かってくるお嬢達に、魔力殺すのァやめたンで止まってくれー! で止まってくれるなら万事良し。

 止まってくれねェなら捕まえる。正直止まってくれるたァ思ってンだが、どォにも嫌な予感がしてな。なんぞ──アッチで、吹き込まれてそォで。

 

「大丈夫なの? アンタ達がいなくなったら、輝きの園の魔物が暴れ出したりしないワケ?」

「うん! そこは私達とザグルスが責任をもって大丈夫っていうよ! 暴れ出す子は、お仕置きもするから!」

「……えっと、この子は……始の点の要、なんだっけ?」

「そうだ。ブゥリ。そしてもう少し上の方にいるアードゥムラ。そしてザグルス。始の点に住まう魔物でありながら、私達との共存に応じてくれた誇り高き者達」

「……"良いから私の言う事聞きなさい!"って殴ってきたくせに……」

「エ? な、何か言ったかな~ブゥリちゃん」

 

 まァ、こォいうこともある。

 記憶失った状態の紺碧ベルトァまだ攻略してねェって思ってたが、その実ちゃんと攻略されてる。ザグルスってなもソテイラと同じく服従のうんたらを結んでるとかなんとかで、ただしソテイラ程の強制力ァ無いんだとか。ただまァブゥリがこっちについてくれてるンで、化け物の制御ァなんとかなると。

 ……ルルゥ・ガルがいるのァちィと気になるンだがな。シエナ曰くもういなくなってたたァ言ってたが。

 

「一つ、良いだろうか。質問がある」

「何かな、ウィジ」

「梓を逃がしてはダメなのだろうか。この状態の梓を戦地に立たせること自体、無理がある」

「最初だけ、いてもらう必要がある。魔力を、世界を殺す必要は無くなったと、そう叫んでもらわなきゃいけない。その後は可能な限り遠くまで逃げるか、LOGOSと言ったか、あのガーゴイルの中に避難するといい」

「そうか。ならばその守護は私達が引き受けよう」

 

 お嬢達の狙いァ俺だからな。

 戦場見てられねェのァちと不安だが、流石に足手纏いなのァわかってる。車椅子の奴が戦場にいたって邪魔なだけさ。つか、車椅子じゃそもそもふんじばれねェんで、知覚強化だの死の気配だのなんだのでお嬢の【神速】に対応できたとしても、ぶっ飛ばされるのが関の山だ。

 とりあえず俺にァもうその意思が無くなったぜ、って言う係。んでもって、絶対に死なない係だ。なんでって、死んだらEDENに戻っちまうからな。EDENに戻っちまえば何されるかわからねェ。

 

「とりあえず、私の【仙導】、ナリコの式鬼、ディミトラのガーゴイル軍団を用いて布陣を固める。それでいいかい、ハイドレート」

「うん、構わない。私達は危険度SSSだけど、単純な攻撃力には欠ける。ビーファン以外ね。だから、搦め手で捉えなきゃいけない。そのためには数が必要だ。混戦にして、その隙に【幽拐】で精神体を抜いていく。モーゲンは賛意を示さなかった魔法少女の処理だ。【幽拐】はそれほど多くの精神体を溜めて置けるわけではないから、お願いするよ」

「勿論~! 今回なんかすっごく迷惑かけちゃったみたいだし、活躍するよー!」

 

 ……いんやさ、まァ、正直な。

 しょーじきな話をすりゃァ──こえーな、って。そォ思ってる。

 確かに殲滅力も殺傷能力もそこまでじゃねェ魔法ばかりだ。紺碧ベルトの【幽拐】だって、精神体抜くから結果的に即死っぽくなるだけで、実際に殺してるわけじゃねェ。だからEDENの等級区分で言えばSSにァなってもSSSにァなれなそォなンだよな。

 けど、違うんだと。

 この等級区分は危険度であり──成程、生物を相手取るのにこれほど怖い魔法ァ存在しねェよ、ってなラインナップだ。精神を奪い、記憶を奪い、心を操り、姿を消す。ルルゥ・ガルで身に染みてわかっちゃいるがよ、この作戦ァちょいと外道すぎねェか、って。

 

 まァ殺さねェって約束してくれたし、そもそもこいつらに魔法少女を殺す、って考えが無いンで助かってるけどさ。

 

 こえーよ、創設者たちってな。

 

「危険視すべきは、まず【凍融】という子だろうね。温度変化なしに視界内に入った全てを凍らせたり融かしたりできる……。それは、数に物を言わせる今回の作戦において最大限に警戒すべき魔法だ」

「あァさ、だが、同時に視界内に入らなきゃ大丈夫だ。班長に向かって真っすぐに突っ込ませるか、脳筋娘の【隠涜】で隠すかで対応できる」

「それよりも不味いのは多分結よ。来るかどうかはわからないけど、あの子はD級にして補助の最高峰にあるわ。【弱化】……思考速度の弱化、耐久性能の弱化。かけられたが最後、あらゆるものが【神速】に見える」

「あァ、虹色ロングァマジでヤバイ。が、アイツァ魔力量少ねェからな。最初にガーゴイルで押しきっちまえばなんとかなりそォな気もしてる」

 

 オーレイア隊に関しちゃ、来るかどうかァわからねェ。あいつら調査班だからな。突撃たァ違う。それに、俺を殺す作戦、ってのに銀バングルが同意するよォにァ思えねェっつーか。

 でもまァ、楽観視ァ危険すぎる。

 

「後は、【痛烈】、【侵食】、【劇毒】、【寄生】には気を付けた方が良さそうだね。話を聞く限り、だけど」

「鬼教官に関しちゃ班長と同じ対応で良い。それで完封できンのァ証明済みだ。だが、冷静メイドァちとヤバイ。何がって、アイツァ拘束するってのにあまりに向いてねェんだ。腕縛ろォが足縛ろォが身体を石で固めよォが、自分で歯の一本でも折って飛ばしゃァそっから自分を【侵食】できる。同時に、どんな材質でも自分に変えられるってなキツすぎる」

「いえ、その心配はないかと」

 

 直後にァ脳筋娘の拳が目の前にあった。

 俺の眼の前。を、通り過ぎて──左横。赤スカーフのすぐ近く。

 

 そこに、いた。つか──生えてきた。

 

「……お前それやめてくれって俺言ったよな」

「申し訳ありませんが、そうも言っていられない状況になりましたので」

 

 そんなことを言いながら。

 目の前の拳なんざ一切気にも留めず、床を【侵食】して生えてくる冷静メイド。たりめーのよォに裸で、けど気にせず、亜空間ポケットからメイド服を着て、すまし顔で……まァ、いつも通り、と。

 

「初めましての方は初めまして。お久しぶりな方はお久しぶりです。B級魔法少女、【侵食】が使い手コーネリアス・ローグンと申します。──以後お見知り置きを」

 

 優雅にカーテシーを決めて。

 冷静メイドァ、みんなを見た。

 

えは

 

 間をあけてる時間ァねェ。

 

「何があった?」

「現在、EDENが襲撃を受けています。常の侵攻ではなく大侵攻の類。その筆頭は、天候と樹木を操る魔物」

「!」

「で、なンでこっちに来た」

「キリバチ様の命令により、初めは静観していたのです。アールレイデ様、縁様による梓様の叛逆に関する報告から、急遽の遠征組の編成。組み込まれかけましたが拒否しました。オーレイア隊の皆様もです。しかし、この拒否を上がどう捉えたのか、私達に監視がつくようになりました」

「……ほんで?」

「監視がつくようになってから数日後、この襲撃。現在EDENに残っている戦力は少しばかり心許ないため、梓様に梓様を私が連れ戻すことによって遠征に出た魔法少女の皆様方もEDENに引き戻し得るのでは、という浅慮のもとやってきたわけですが、事態は相当に複雑化している様子。故、ご安心頂くための情報提供を兼ねて、こうして皆様の元に姿を現しました次第でございます」

「どこまで知ってンだ」

「概ね、全てを」

「……概ねなのか全てなのかはっきりしろ。まァいい。脳筋娘、大丈夫だ。コイツァ大丈夫なンで、拳引いてくれるか?」

「はい。そろそろその拳にキスの1つでも落としてしまいそうになりますので」

「……わかった」

 

 反応速度ァ二重丸だ。魔法ありきじゃねェ、マジのバケモンさな、この脳筋娘ァ。

 一瞬で身体強化して的確にぶん殴ろうとして、けど相手が魔法少女だって気付いたンで寸止めして。

 

 そこまでが一秒に満たねェ。いやー、怖いね。

 

「仕切り直しといこう。コーネリアス・ローグン、そちらに座ってほしい」

「承知いたしました」

 

 んじゃ、仕切り直しだ。

 

「冷静メイド、俺のために来る魔法少女の詳細を頼む」

「梓様討伐のために組まれた遠征組は、突撃班ヴェネット隊、観測班アルカナ隊、学園組はAクラスA班、B班、防衛組攻撃班イドラ隊、特例組潜入班ネイビー隊となります」

「多いなァオイ」

「それほど【即死】は危険視されているようですね」

「……ン? そりゃどォ……いや、いい。紺碧ベルト」

 

 いうことだ、と問おうとしたが、自重。

 話の腰折りすぎるのァよくない。

 

「うん。敵戦力がわかったのは何よりだ。けど、出来得るのなら、それら魔法少女の名前と魔法、その特性をそれぞれ書面に書き出しておいてくれないかな」

「ここに」

「……どういうことかな?」

「亜空間ポケットより出したまでです」

「そこではなく、──どうして、そんなものが必要になると予想していたのかな、と。さっき梓にしていた話を聞くに、こういった事態になるとは予測していなかったように聞こえたけれど」

 

 準備がいいってな、何もすげェってなるだけじゃねェ。

 何か知ってんじゃねェのか、っつー疑りの目線。が。

 

「梓様に危害が及ぼうとしていると知れた時点で、このような準備をしておくのは当然かと。加え、魔力を殺すと。私は大いに賛成ですので」

「あァそれァなくなったンだ」

「そのようですね」

「つーわけで、あんま疑ってくれなくてもいい。こいつァ多分大丈夫だ」

「……わかった。梓を信じるよ」

 

 物分かりの良さは変わってねェらしい。

 パッパラメガネが奪った記憶の中でどんな変化があったのかってのァ気になる所だよなァ。

 

「クク、吾とディミトラ、ペルチットはそろそろ軍勢を作りに向かう所ぞな。どうせだ、吾の式鬼とガーゴイル、ゴーレムとやらを混ぜ合わせ、至高を目指してみるのはどうだ?」

「それ、あとで制御できなくなって暴走する奴じゃねェだろォな」

「クククッ、吾だけであればそうなろうが、ペルチットが居れば大丈夫、であろう?」

「おやおや、随分と信頼頂いているようで」

「なんでもいいけど行きましょ。この辺の鉱石も集めておきたいし、地質の調査もしたいから」

「では、そういう事だ。……だが、吾の妻よ」

「なンだ」

 

 着物狐が顔を近付けてくる。俺にだけ聞こえる声量で──そっと。

 

「そろそろ体力の限界ではないか? クク、呼吸が浅いぞ?」

「……一切顔に出して無ェんだからバラすンじゃねェよアホ」

「ククッ、気付いている、と見て良いのだな? ──()()()()()()()()()()()()()()()()()という異質さに」

「……あァ。わかってる」

「ならば、良い」

 

 それだけ言って。

 着物狐とマッドチビ先生、びりびりタイツァ、集会場を出ていった。

 

 ……気付いてるよ。

 集中力だの精神力だのが切れることァあっても、魔法少女ってな疲労ァしない。魔力切れや血液不足でぶっ倒れるこたあるけどな。

 ただ、体力、持久力ってな人間の基本性能の部分に支障を来すってな──まァ、そォいうことだ。

 知ってる。

 

 けど、いい。

 

「それじゃあ具体的な対策についてだけど──」

 

 俺ァ大丈夫だよ。ありがとな、着物狐。

 

えはか彼

 

 

 諸々のブリーフィングを終えて、少しの空き時間ができた。

 意外にもっつーとアレなンだが、冷静メイドァ俺のお付きってことにァならず、実際に戦闘する奴らの方へ情報提供&対策戦略の詰めをしてる。

 

 俺ァやることないんで夕暮れの空を眺める作業中。

 疲れを癒すってのもあるな。

 

 ……みんながみんな、色々やってて、俺だけ、ってなちょいと罪悪感なンだが、ついていっても足手纏いにしかならねェ。

 

「そこで何してるのかしら、野蛮人」

「空みてンだよ寂しんぼ」

「……そのあだ名、納得してないんだけど。まぁいいわ。野蛮人に何言っても無駄だろうし」

 

 まァ来ると思ってたよ。

 コイツの考えァ大体わかるからな。ぶっちゃけ、コイツもそろそろ黄昏にきそォだなって思ってこんなとこに来たんだ。誰にも何も告げず、一人で。

 

「ここを出たんじゃなかったのかよ」

「一度出て、帰ってきただけ。でもまぁすぐに出て行くわ。魔法少女同士の争いに巻き込まれるのはごめんだしね」

「別にここでコト起こすワケじゃねェよ。外でだ」

「外でなら狙える、って? そんなことしないわ。したら貴女の思うつぼ、輝きの園の魔法少女もEDENの魔法少女も全員こっちを狙ってくる、ってことでしょ」

「はン、流石に引っかからねェか」

「貴女は浅慮って言葉を覚えた方が良いわね」

「じゃてめェァ浅はかって言葉を覚えな」

 

 誰よりも、何よりも憎き仇敵、ってな奴なンだがな。

 ほんと先日の邂逅から、どォして俺ァ……こォも穏やかなンだ。

 

「なァよ、【宥和】だっけ? それ使ってンのか?」

「使ってないわ。というか、使えないわ。もう効果切れ」

「……そォかい」

「ええ、そうよ」

 

 効果切れ、ねェ。

 やっぱりなんぞ条件付きで使ってンのかね。それも劣化版を。

 

「なァ」

「ええ、いいわよ」

「んじゃ聞くがよ」

「貴女の考えで合っているわ」

「……そォかい」

 

 いんやさ。

 ホント、なんだって俺ァ、こんなヤツと通じ合ってンのか。

 マジで意味が分からねェ。紛う方なき敵なのによ。

 

「もし、だ」

「……ええ」

「もしも──世界中が、輝きの園みてェに共存の道を選べる、ってなったらよ」

「……」

「お前ァ、乗るか?」

「……いいえ。私達の目的は、生きる事ではないから」

「だよなァ」

 

 ちったァ期待したンだが、やっぱし無理なのか。

 

「そこに至ったとして、何があンだ」

「永遠と、絶対」

「そりゃ、そんなに大事かね」

「大事よ。そのために、何百年と積み重なってきたのだもの」

 

 空が段々、茜色から──青く、暗くなっていく。

 

 もォすぐ夜が来る。

 

「ウチに来る、って選択肢ァ、取れねェのかよ」

「中にはいると思うわ。もう疲れたって、もういい、って。そう思っている子もね」

「……そいつらだけでも、ってなワケにァいかねェのか」

「ええ。魔物として生まれて来た以上は、もう。この縛りからは逃れられない。──そこに至る以外では」

「そっか」

 

 化け物の事情になんざ興味無ェって、ンな余裕無ェって思ってた。

 けど──。

 

「それに至るにァ、何が必要だ」

「魔法少女の命。魔法少女の因子」

「だよなァ」

 

 だから結局、相容れない。

 クソッタレなシステムを用意してくれたモンだよ、本当に。

 共存の道なんて、やっぱり無ェんだ。

 

 どっちかが諦めて、賢い選択を取るしか。

 

「お前が俺の【即死】を欲しがる理由ァなんだ」

「決まってるじゃない、そんなの」

 

 陽が、落ちる。

 夜が訪れる。

 風が業と吹いて──。

 

「本物の神を殺し得る、唯一の魔法。それが【即死】、だからよ」

 

 それだけ言い残して。

 奴ァ。

 

 ルルゥ・ガルァ、俺の前から消え去った。

 

 ……ま、そんなこったろォとァ思ってたよ。

 

 車椅子の背もたれに背を預け、夜を見る。

 星は出ていない。そりゃそォだ、この世界に宇宙なんざ無いからな。

 

 化け物の達の目的。ルルゥ・ガルの悲願。オリジンが何ゆえ神と呼ばれるか。

 それァ簡単だ。

 世界を巡る魔力の淀み。それらが産んだ魔なる化け物。

 目指し至るァ高みの高み。死んで廻って──最後に一となる。

 

 輪廻に囚われた化け物が、その縛りより唯一逃れる方法が、それ。

 死んで廻って、死んで廻って、死んで廻って──最も強く、高く、全能の存在になって。その一個体になって。

 

 ──死ぬ。【即死】で、死ぬ。

 それが悲願だ。

 

「……あンだけのやり取りでここまでわかった当たり、マジでツーカーだよなァ」

 

 嫌な話だが。

 

 けど、そのためには、魔法少女の命と、魔法少女の因子が必要で。

 だから魔法少女を襲うし、魔法少女の因子を持つが故に隔離されたEDENの下の国を襲うし。

 

 化け物。風の使徒。

 

「ごめんな」

 

 叶えてやれそォにァ、無いからさ。

 

えはか彼




次の話(11/25 08:05更新分)は登場人物紹介風のローグンが書いたレポートになりますので、話はほぼ進みません。お気を付けください。

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