遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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61.蘭酢琉地蔵独活.

「あー、今いつで、どこだ」

「起きて早々それ? 普通は生きてることに驚くものじゃないかしら」

「生きてる実感あっからな。そこァいいのさ。んで、この揺れァLOGOS特有のモンだ。随分と命の気配があるよォだから、今ァ協力的な魔法少女運んでEDENに侵攻中、ってトコじゃねェかってな」

「概ね正解よ。ただ、すべての魔法少女を、というわけにはいかなかったから、別動隊としてもう一つ輸送ガーゴイルを作ったの。今は潜航中……海の中をね」

「へェ」

 

 いんやさ、寝た、寝た、大爆睡だ。

 あれからどんだけ時間経ったのか知らねェけど、俺抜きでコトァ進んでるらしい。まァ創設者たちもマッドチビ先生もいるからな。

 

「ン? ってこた、鼠は見つかったのか」

「ええ。ローグンを回しておいて正解だったわね。案の定、紛れていたわよ」

 

 鼠。

 まァ簡単に言や、スパイとか密偵の類だな。

 ルルゥ・ガル側から、じゃねェ。EDEN側から、だ。いんやさ、おかしいだろ? 俺を殺すために小隊組んで来るのァ良いが、まっ正面からぶつけて、しかも暴走させる、なンて作戦。暴走させてきたの自体ァあとでわかったことたァ言え、まっ正面から全隊が来るってながオカシイオカシイって話してたンだ。

 ンなもん作戦たァ言えねェ。なんせ、魔法殺せる俺がコッチにいンだ。SS級がいるからって無理なモンは無理だし、ぶっちゃけ俺が始の点に籠ってたらあんな量来ても意味なかった。

 

 だから──もっと早くに、こっそりと。

 俺達がLOGOSでEDENを出たその時に、尾行けてきてる奴がいるンじゃねェかって。

 始の点に入った時点でもうそいつァ輝きの園内部にいて、絶好の機会かなンかを虎視眈々狙ってンじゃねェかって。

 

 そんなんじゃなかったら全部杞憂で済む話さ。

 でも、案の定だった、ってコト。何も無いならそれでいい。何かあってからじゃ遅い。そんだけの話さ。

 

「そいつァ今どこに?」

「ペルチットとハイドレートが尋問しているわ。中々吐かない上、何か呪縛のようなものが見受けられるから、難航しそうだけど」

「LOGOSにいるのか?」

「ええ、そうだけど。……まさかとは思うけど、アンタ」

「あァさ。会ってみてェ。んで多分、俺なら解ける」

 

 どーせまた太陽の使徒だろう。

 なら、俺の出番ってな。

 

「ダメよ」

「エ」

「……ビーファン達から聞いたわ。貴女が使うその謎の唸り声。世界言語っていうのね。そしてそれは──精神を擦り減らせる。忘れているかもしれないけれど、私は肉体から精神体を抜く技術を開発した、いわば精神体関係の専門家なのよ。その専門家から言わせてもらうと、精神を減らす、という行為は──」

「最終的に死ぬって言いてェんだろ?」

「ええ、そうよ。特に魔法少女はね。魔法少女の固有の魔法というのは肉体に宿るものだけど、魔法少女の扱う魔力……つまり、身体強化や飛行魔法などに用いられる魔力は精神側に由来する。それが擦り減るというのなら、当然それが使えなくなっていく」

「元から使えねェよ、飛行魔法なんざ」

「アンタの身体、私が気付いていないとでも思ってるワケ?」

「まさか。マッドチビ先生ァよく見てくれてると思ってるよ。……でも、口を割らねェんだろ?」

「絶対にそれが必要な時ではない、って言ってるのよ。……アインハージャ達が回数制限付きでしか蘇生できないのも、それが原因のようね。もう──あの子達の精神は擦り減りすぎている。アンタがそういう話を嫌うと承知の上で言わせてもらうけど、これ以上精神が擦り減ったら、死んでも蘇生できなくなるわ。──寿命が来る、ということよ」

 

 あァ。知ってる知ってる。

 ぜーんぶ聞いてきたよ、神さんに。

 

 死ねば治る。

 それァ健全な精神があってこそだって。

 こんな虫食いボロボロの奴ァ、死んで治るのァ怪我だけ。

 その精神体に開いた穴っつーのァ治らねェ。治す手段ァまァ、あるっちゃあるが、無いに等しい。

 

「今はその時ではないわ。ま、第一印象が最悪だったから、ビーファン達を信用できないっていうのはわかるけど、あの子達は私以上に長い時を生きる魔法少女よ。だから、大丈夫」

「……口を塞いでいてくれていいから、会わせてもらう、ってな無理か」

「なんでそこまで会いたいのよ」

「気になるだけさ。単身敵地に潜り込まされて、何も成せずに掴まっちまった憐れな魔法少女って奴が」

「……それでも、ダメよ。会っても辛いだけだから」

 

 会っても辛いだけ、ね。

 

 知り合いかァ。

 

えはか彼

 

「や」

「ン? おォ……キラキラツインテか。久しぶりだな」

「うん」

 

 魔法少女ァ食う必要ってなねェんだが、単純に好きで輝きの園産のリンゴをシャクシャクやってると、ふわりふわりと、つかにゅーんとベッドから少女が顔を出した。

 薄紫の髪にキラキラしたなんぞかがいっぱいくっついたその頭。まァキラキラツインテさ。

 

「何しに来たンだよ」

「助言をね、しに来たんだ」

「おォさ、ありがてェが、今度ァ何の詫びだよ」

「お詫びじゃないよ。ただ、カネミツを解放してくれたお礼」

「あァ、んじゃ要らねェ。お嬢にやってくれ」

「その【神光】ちゃんにね、貴女を助けて欲しいと頼まれたんだ」

 

 ……助けて、ねェ。

 死ねば治るのに派のお嬢が?

 

「私がこうやって飛んでいるの、どうやっていると思う?」

「ン? 飛行魔法じゃねェのか?」

「ううん。私は【透過】しか使っていないよ」

 

 ふわーっと。

 にゅーんと。

 

 LOGOSの壁中を、あらゆる家具小物類を、上下左右を関係なく飛び回るキラキラツインテ。 

 確かに、飛行魔法程の魔力を感じない、よォな?

 

「【透過】は昔、【通過】という魔法だった。……といえば、わかるかな」

「そりゃ、お嬢の魔法が変わったみてェに、って事か」

「うん」

 

 通り過ぎるだけの魔法が、すり抜ける魔法になったって?

 ……魔法の種類が変わった。いや、あるいは──役割が統合された?

 

「地面は、物を引っ張る力を有している。調査班の【引力】の子が使うようなものをね」

「あァ。……それも、【透過】できンのか」

「そう。そして、それだけじゃない。()()()()()()()()前に立ちはだかる障害も、【透過】できる。こっちに行きたいと思えば──世界に溶けた私は、そっちに行っている。何故なら、そっちに行く障害が無くなったから」

「……ん、ちと難しィな」

「"私がそちらに行ったと認識したんだから──世界(あなた)もそうだと認めて"」

「そりゃ」

 

 それァ。

 あの迷宮で、俺が陥った感覚だ。

 何度も触った。何度も【即死】させた。させたことにした。

 だから──俺の中でそォなったンだから、世界(お前)も認めろ。

 

「【即死】はまだ一段階目だよ。前にも言った通り、SSSに至り得る魔法は限られている。それは、創設者の子達がいうような命と精神と心に作用するかどうか、だけじゃなく──」

「伸び代があるかどォか、って?」

「そう。SS級の【神速】は、【神光】になってもSS級のまま。あの子の努力を否定するのは心苦しいけれど、それはどうやっても変わらない。けど、【即死】は──次の段階になれば」

「【即死】以上の危険度ってななンだよ」

「なんだと思う?」

「……」

 

 死、以上。

 即座に殺す魔法以上ってな、なンだ。

 ああいや、役割を統合するって考えたら……死と統合されンのァ、なンだ? ……えーと、誕生とか? いやいや、流石に流石に。

 

「わかんねェ」

「うん。わからないだろうね。私にもわからないから」

「あくまで助言、ってか」

「そう。私はたった50年しか魔法少女をやっていないけれど──同時に、私はその魔法少女歴のほとんどで、世界に溶けてきた。だから色々教えられるし、色々わかるよ。もう、世界が死にたがっていることも。魔物が、君を求めていることも。──君がやろうとしていることも」

 

 ……俺がやろォとしていること、ねェ。

 EDEN解放以外に何があるっていうンだ。魔法少女の因子殺してまわるのが、ンな神妙な顔して言われる事柄かね。

 はン。

 

「で、その魔法の進化? 変化ァよ、俺を助けることになンか繋がンのか? そォ頼まれたンだろ?」

「ふふ、繋がるよ、ちゃんと。魔法が変わるということは──肉体が一新される、ということでもある。その精神の穴は、もうどうしようもない。どうにかする術は残っているけれど、君が一番嫌いな方法だから、しないだろうし」

「あァ。絶対しねェ」

「だから、魔法の一新を目指すと良いよ。それが唯一、死なずに、身体を治す方法だと思う。一回切りの、完全復活、だね」

 

 なるほどねェ。

 ま、頭の隅にでも置いておこう。今の俺にゃ考え付かねェし。なンだよ【即死】より上って。アレか、【皆殺】とかか。こっわ。でもそォだよな、国民的RPGでも対象が1つの奴の上位互換ってな、全体を対象にできるよォになるし。

 班長の【凍融】、鬼教官の【痛烈】然り、つえーつえー魔法ァ全体をどォにかできる魔法ってイメージがある。虹色ロングのァ……まァ、等級区分ァアレだが、強いだろ。創設者基準で言えば心に作用できンだから、あるいァSSS級やもしれねェし。

 

「それじゃ、そろそろ私は行くよ」

「おォ。助言、ありがとな」

「うん。……あまり、こういう事を他人には言わないんだけどね」

「ン?」

「無理しないでね。君は、君が思っている以上に、みんなに好かれているよ。愛恋ではなく、友人として──あるいは、身内として。前にできなかったお菓子パーティもやらないとだからね」

「あァさ、わかってるよ。そのためにァ今大変なコトになってるEDENをどォにかしねェとな」

「……うん」

 

 なンだ、その溜め。

 ……なンだ?

 

 俺さ。

 ()()()()()()()()()()を──考えないよォにしてねェか?

 

「ばいばい、ゆっくり休んでね、梓」

「ン──あァ」

 

 この、違和感ァ。

 

えはか彼

 

「シエナ。燃料補給中か?」

「え? あ、え!? だ、ダメですよ梓・ライラック様!! お部屋にいないとお体に障ります!!」

「いーだろ別に。つまんねーンだよ流石に。車椅子ってな俺みてェなのが自力で移動できるよォにするモンなンだから、こーやって動き回るためのモンさ。くるくるーってな」

「回らないでください!」

 

 怒られた。

 ちぇ。いーじゃんかよ。生きてて、こーやって車椅子の操作も上手くなったンだぜ。その場で回転ァ勿論、片輪浮かせて急カーブとかもできる。何度か転んで青バンダナに「馬鹿なのか貴女は」とか赤スカーフに「そろそろ学習した方が良い」とか言われたけど、まァ練習あるのみだったな!

 

「もう……梓・ライラック様は、傷だらけなんですから……少しはご自愛ください」

「なーに言ってやがんだ。そりゃみんなそォだし、EDENもそォだし、お前もそォだろ、シエナ」

「いえ、私は定期点検で、こちらの主ディミトラによって整備が為されているので問題ありません」

「エ、マッドチビ先生お前の点検なんざできるよォになったのか?」

「流石に内部構造までとなると難しいのですが、身体骨格のへこみや傷などは取ってくださるんです」

「へー。……なンか変な機構付けられそォになったら言えよ? 俺が庇ってやるから」

「問題ありません! あちらの主ディミトラもよくわからない機構をつけてきていましたので!」

「そこァセンス一緒なンだなァ」

 

 そォいや俺をぶん投げた時の腕のブースターとかも、確かによくわからん。

 ……ふむ。

 

「燃料の消費の少ねェ奴で、意味の分からねェ、なんか面白い機構ってなあるか?」

「はい! たとえばですね、これとか如何でしょう!」

 

 シエナが畳んでいた足を延ばす。あァ座ったままな。

 その、つま先から。

 

 ぴゅーっと音が鳴った。

 

「……ン?」

「あちらの主ディミトラ曰く、換気機構だそうなのですが、換気口が狭いためか、ぴゅーぴゅーと音が鳴ってしまうんです。加えていうのであれば、口腔での体内換気が可能である上、そもそも体内の換気をしなければならない状況に陥ったことが無いので……なんのためにあるのかわかりません。ただ音が出るので面白いと思います」

「お、おゥ」

 

 なんか可哀想になっちゃった。

 この分だと、他にも余計な機能いっぱいついてンだろォな。戦闘用ガーゴイルとか言ってなかったか? なンだよその機能。俺をぶん投げた時の奴の1000000倍は要らなそうなンだが。

 

「あ、でも、恐らく主ディミトラは面白がってつけたのでしょう機能が、中々に役立っている事もあるんです。たとえばこれとか」

「ん……ン?」

「あ、申し訳ありません。その位置からですと見えませんよね。ええと、これです。腰部解放……というよりは、脚部を外した方が見やすいでしょうか」

 

 なんて言って。

 シエナァ、右足を──外した。太腿の辺りから。

 

「な──に、やってンだ」

「あ、大丈夫ですよ。もとから外れる仕組みです。それで、見えますか? この臀部の辺りのふくらみ」

「いい、いいから、尻を見せつけてくンな。説明だけでいいから」

 

 左足だけで立って、腰部装甲をパカっと開けて……その、なンだ。尻を見せてくるシエナ。

 確かにそこに膨らみがあったが、やめろやめろ。おじさんにそンなもん見せつけンな。

 

「それァ何なんだ?」

「主ディミトラ曰く、椅子が無い時でも座れる折り畳み式便利三脚、らしいのですが、このふくらみはとても硬いので、攻撃に使えるんです!」

 

 あー。

 ヒップアタックね。それにメリケンサックがついてるみてェなことね。

 結構凶悪だなソレ。

 

「つゥか、あっちのマッドチビってな、そんなユーモアある性格なンだな」

「そうですね。こちらの主ディミトラよりは落ち着いている方ですけれど、突発的な発明や発想でとりあえず私に機構を組み込もうとする方でした。私自身、そこまで長い期間あちらの主ディミトラと共にいたわけではないのですが……私の中の彼女の印象は、面白い方である、と記録されています」

「こっちのァ?」

「怒りっぽい方です!」

 

 ──"あのね。LOGOSで喋った声は大体聞こえてるのよ。よほど込み入った話は聞かないようにしてるけど……シエナ。後でもっと余計な機構つけてやるから感謝しなさい"

 

「……優しい、母親のような方です!」

「それにァ全面同意だよ」

 

 壁に耳あり障子にメアリーだな。余計な事いわんとこ。

 

「あ、それで、何か御用だったのでしょうか?」

「いや、動き回れるよォになったンで動き回ってるだけさ。お嬢にもポニスリにも出会えてねェしな。シエナ、どこにいるのか知らねえか? 背中メッシュと太腿忍者にも久しぶりに会いてェんだが」

「……すみません、知りません」

「……そォか」

 

 まァ、頑張った方だよ。

 シエナなら嘘吐けねェんじゃねェかって訪ねた俺が悪ィ。ごめんな、意地悪いして。

 

 さて、じゃァそーなっと。

 

「ちょいと艦橋にでも行ってくるわ。またな」

「はい。……でも、本当にご自愛ください、梓・ライラック様」

「あァよ、ありがとう」

 

 考えないよォにしてた──嫌な予感。

 ンなもんは。

 

えはか彼

 

 ブリッジの戸を開けたら着物狐の上にマッドチビ先生が乗っかってて、着物狐の着物ァこれでもかってくらい(はだ)けてて。

 

「──あ、悪いな。帰るわ」

「待ちなさい。私とナリコはそういう関係じゃないし、なんなら襲われた側よ!!」

「じゃァそォいう関係じゃねーか。悪かったって。邪魔するつもりァねーって」

「クク……待て、待て、吾の妻。お主も一緒にどうだ?」

「アンタも否定しなさいよ!!」

 

 いんやさ、おじさんは遠慮しておきます。

 つーかブリッジなんつー、まァ海の上たァ言え開けた環境でよ、こう、なんだ。オープンで明るい場所でよ。

 そーいう事すンの、おじさんァ無理だなァ。そーいうプレイが好きな奴も同僚にいたが。……ああいや、嫌なコト思い出したんで消去消去。

 

「ク、冗談はさておき……どうだ、梓。身体は」

「ン、まァ万全たァ言わねえよ。マッドチビ先生に否定されっからな。けど、良い方だよ。車椅子の扱いにもなれてきたし、何よりほら」

 

 言って──眼帯を外す。

 勿論何も見えねェが──魔力を微量に注ぐと、なんと。

 

「ほら、と言われても、吾にわからぬが。その絡繰は、どのような効果があるのだったか?」

「……簡単な熱検知器よ。シエナについてたのを真似したの。私には私じゃない私程そういう絡繰機構に優れた知識があるわけじゃないから、完全再現は無理だったけど……どうやら正常に動いているみたいね」

「あァ。なんかおもしれーよ。熱源がぼんやりと見えンだ」

 

 サイボーグだ。

 ハハ、かっけー。

 

 ……まァLOGOSってな断熱されてるせいで周囲みてもほぼなーんも見えねェんだけど。

 

「いい? そんなのでも、魔力を使う。アンタの少ない魔力をね。だから、本当に必要な時にだけ使いなさい。今みたいな状況で使うものじゃ──」

「ン、マッドチビ先生。なンか服の中にいんぞ?」

「え──きゃぁ!?」

 

 ところで、マッドチビ先生の魔法少女衣装ってな修道女みてェなソレである。

 その中を、するすると。……その、ヘビみてェなのがいるワケで。それがサーモセンサーにくっきり見えるわけで。

 

「あ、アンタ、もう全部出したから安心しろって……!!」

「ククククッ、吾の桜餅を勝手に食べた仕返しだ、そんな容易に許すワケがなかろう」

「え、何桜餅って。美味そう」

「ほう? お主、餅に理解があるのか?」

「あるある。なんなら結構好きだ」

「良い良い。輝きの園でいくらかのもち米を見つけてな。それを丹精込めて吾が打ったのだが……ディミトラに食われてしまってな。それで、今仕返しをば、としていたところぞ」

「あァそりゃ仕方ねェよマッドチビ先生。食い物の恨みァでけェんだ。大人しくチョメチョメされときな」

「た、食べてくださいと言わんばかりにここに、私の机に置いておく方が悪いでしょ! ちょ、どこ入って……ひゃあ!?」

 

 うむ。

 俺ァどっちも擁護できない。というかこの場にいるのは不健全だ。

 帰るか。

 

 ……俺に何かを気付かせないために、無理矢理そォいうことしてた、ってなァ──考えすぎかね。

 

えはか彼

 

「もう、いいよ。わかってるからさ」

 

 はァ、と。 

 溜息を、吐いた。

 

 わかるよ。

 お嬢もポニスリも、冷静メイドだってさ。

 多分俺が起きたって知ったら真っ先に会いに来てくれると思うンだよ。

 

 それがねーってなよ。

 どォいうことか、なんざ。

 

「死んで先に戻ったンだろ。なんせ、EDENが襲われてンだ。ンなちんたらLOGOSで戻るわけにゃいかねェよな」

「……」

「俺に戦わせたくねェと、俺を戦場に立たせたくねェと。そォすンならまァ、俺を戦場から剥がして、俺が来る前に終わらせるのが理想的だ。誰だってそーするだろ。……はン、愛されてるな。全くもって──っとに」

「……」

 

 魔煙草を起動する。

 考えさせねェよォにしてる、なんて。

 わかりきってるに決まってんだろ。俺ァそォいうのにァ聡いンだよ。気を遣われてンのもわかってるよ。でも、俺のエゴのために、俺1人の理想のために、EDENの危機を見過ごすってなできねェんだろ。知ってるよ。

 たとえ、今EDENに死に戻ってさ、それが結構危険なことかもしれねェって言っても──魔法少女ァ、少なくとも今EDENにいるのァさ、国家防衛機構を回してる魔法少女たちだ。

 それが、オリジンに襲われている自国を守らねェでどーするってな。

 

 やだ、やだ。

 

「で?」

「……で、とは」

「あるじゃねェか。EDENまで行く方法で、クソ危ねェ、けどクソ早ェ方法がよ」

「梓。貴女は」

 

 だーれが思い通りに動いてやるかっての。

 馬鹿か、だと? 貴女は馬鹿か、だと?

 

 馬鹿に決まってンだろ。

 

「射角の計算ァやるよ。今、輝きの園出てから何日だ。それがわかりゃ位置も掴める」

「……」

 

 青バンダナと赤スカーフさ。

 丁度俺の部屋に来て──ケケ、捕まえてやった。詰問してやったら、コレさ。シエナ同様嘘に向いてねェからな。

 フリューリ草の苦味を脳と肺に入れて、ひひ、と笑う。

 

「別動隊がいるってなも嘘か、あるいァいても創設者たちだけだろ。ここに残ってンのァEDENとの経路繋いでねェ魔法少女だけさ。キラキラツインテァ別だが」

「……」

「なァ、アインハージャ。教えてくれよ。今の位置さえ掴めりゃ、行けンだよ。青バンダナの魔法がありゃ、俺ァEDENにいける。マッドチビ先生ァ心配して行かせてくれねェだろォからさ。頼むよ」

「良いか悪いか。あるいはダメかどうか、ではない」

「あン?」

「嫌だ。──私は拒否する。戦地に傷病者を送りつける戦士など、いはしない。私はアインハージャであるが故に、ウォムルガ族であるが故に──貴女を戦場には向かわせない」

「そォかい。お前ァ? 赤スカーフ」

「当然、私も同じ。私の魔法じゃ送り届けられないけど」

「……そォかい。じゃァシエナに頼むか」

 

 踵を、車輪を返す。

 そこに、シエナがいた。マッドチビ先生も。

 シエナァにっこり笑って。

 

「拒否します」

「当然だけど、プテラゴイルも貸さないわよ」

「なンでだ」

「アンタは少しくらい、思い通りにならない苦しみ、というのを味わいなさい」

「十分味わってるよ」

「──今まで、アンタの周りの人達が──アンタに抱いていた感情よ」

 

 吸う。

 魔煙草を吸う。

 ぷはァと息を吐いて──そォかい、と。

 

 言えなかった。

 

「んじゃ、ごめんな。もっと味わってくれ」

「──まさか」

「!? 梓・ライラック様の熱源反応急速に低下──これは!」

 

 視界が紙に覆われて行く。

 違う。

 自分が紙になっていっているンだ。紙。紙。紙だ。

 ざぁざぁと、全部が全部紙になっていく。

 

 そォして紙吹雪が晴れたのなら──そこァ、大海の上。

 キコりと車輪を止めて、背に靠れりゃ──取っ手を掴むは()()()

 

 全く、妖術だか魔術だか知らねェが、魔法よりとんでもねェのァわかるよ。

 なァ。

 

「ク──クク。なんだ、吾の正体に気付いたのか?」

「あァ。お前、遥か昔に討伐なんざされてねェんだろ。この嘘吐き狐め。大方どっかに逃げ果せて──死んだふりでもしていたかよ」

「当然ぞ。オリジンだのなんだのと勝手に名付けられ、勝手に殺されるなど──クク、到底受け入れられまい。改めて。吾はナリコ。──遥か昔、九つの尾を持つ大妖として在った──紛う方なき魔物である。今は()()()()()()()()()()()()が故に、魔法少女にもなったがな」

「はン。いいね。俺ァ梓・ライラックってンだ。夜の使徒っつー、まァ死者でよ。でも魔法に覚醒しちまったンで魔法少女やってる。この世界の、あらゆるものから見て、俺ってな化け物だよ。よろしくな」

「ククク。嗚呼。よろしく頼む」

 

 大海を高速で飛ぶ、真っ白い鳥。

 鳩か雀か。いや燕かね。その上で──魔煙草の匂いが尾を引いていく。

 

「今どこだ」

「もうすぐEDENに着く。ククッ、そうそう、吾だけではないぞ、協力者は」

「はい! 私も此処に!」

 

 左上の方。

 大きな雲を突き抜けて、またも紙燕。そこに乗るのは2人。

 

 腕を組み、胡坐をかいて目を瞑る──カネミツと。

 

「おお、久しぶりだな、太腿忍者!」

「はいお久しぶりです! 一度は本気で殺そうと思ってましたけど、事情が変わったのでご同行させていただきます! そこな妖風情含めて今後ともよろしくお願いします!」

「妖風情って」

「ククッ、姫は物言いが素直でな。お主の知らぬ一面ばかりだろうが、あまり驚いてやるな」

「……苦労をかけた分の働きはしよう」

 

 さらに──右方。今度ァ少し下だ。

 こちらも紙の燕。そこにも、2人。

 

「キラキラツインテ?」

「うん。そして」

「……」

「──先公?」

 

 いた。

 随分とまァ、落ち込んだ様子の先公が。

 

 ふーん。

 ははァ。

 なるほどね。

 

「鼠ァアンタだったのか、先公」

「っ……!」

「おうキラキラツインテ。先公の洗脳ってな解けてンのか?」

「元から、洗脳なんてされていないからね」

「……」

 

 へェ。

 んじゃ、魔煙草一本を着物狐に渡して、と。

 

 先公の口に運んでくれって頼む。

 狐面の下でにんまりと笑う顔が見えた気がした。

 

「おォ、先公! 口開けな!」

「──!? う、げ、けほっ、ぇ、ぐ」

「カハハ! 魔煙草ァ初めてかい? それってな、思考を神に近づけンだと。どォだい先公。今、俺を殺したいか?」

 

 風が気持ちいい。

 どんなスピードで飛んでンのか、周囲の雲が物凄い速さで後方へ飛んでいく。いいね。

 いいね!

 

「──最悪に、不味いな、これは」

「おう。んじゃ、それで懺悔は終わりにしな。何に唆されたのか知らねェがよ、とりあえずアンタの国の禍根を断ちに行こうぜ」

「……ライラック」

「あン?」

 

 先公ァ無理矢理口に詰め込まれた魔煙草を持ち直し──ふゥ、と。

 中々サマになるカッコで吸って──こっちを睨む。ケケ、いい目だな。

 

「私は、お前にそのままでいてくれ、と言った。覚えているか」

「あァよ」

「いいだろう。もう私も迷いはしない。お前が悪道を突き進むのなら──この手で止める、という事も考えたが。お前にそこまでの覚悟があり、迷いが無く──そのままで居続けるというのなら」

 

 陸地が見えてきた。

 ははは。ハハハ。

 

 こんだけ楽しいってことァ──この先ァ、死地ってこった。

 そォいうセンサーにもなるなァこれァ。いいさ、良いよ。良いぜ。

 

「進め、ライラック! 私はお前の友人ではなく、教師だ。故に、その身の心配などしない。ただ──お前が納得できる道を行き、果てろ。それこそが生物であると、私は信じている」

「あァさ! ──さァ行くぞてめェら! 即席ライラック隊だ。西方出身総勢で、EDEN襲ってるカンコウとかいうのぶっ叩きに行くぜ!」

 

 すまねェなァマッドチビ先生達。

 どォにも俺ァ、思い通りにならねェのが嫌で嫌で仕方ねェらしい。

 

 死んじまったってのも相当来てるが──助けられる命を救わねェのが、もう無理だ。ハハ、いつの間に俺ァこんなに広いモン救えるって勘違いするよォになったンだか。

 

 ハハハ。ハハハハハ!

 

「クク、気を高めている所悪いがな。実は吾は西方出身ではなかったりする」

「エ。いいじゃん別にンなこと気にしないで」

「ダメです! そこな妖風情は北方から来た妖で、昔は散々国を荒らしまわったんですから!」

「へー。ン、昔? 太腿忍者、お前魔法少女歴どンくらいなンだ?」

「60年と少しくらいですね!」

「マジか」

「この場にいる誰よりも大先輩ですよ!!」

「マジか」

 

 じゃァなンで学園に在園してンだ。

 

「座学と内申点がダメダメだからです!!!」

「あーね」

 

 留年しまくりなのね、お前。

 

えはか彼

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