遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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64.藍吏部塔出須.

 さて──そもそもの話をしよう。

 そもそも何があったのか。西方の国。ジパング。国民からの名称ァヒノモト。

 色々と螺子と歯車があって、糸があって。

 

 この話ァ、大きく分けて10の事件から成ってる。

  

 元々ァ多分そこそこ平和だったジパング。それが狂っちまったのァ、まァまァまァ九割九分九厘着物狐のせいだ。北方より来たりし大妖。オリジン種。話を聞く限り、九尾の狐って奴。それが、何百年か前の殿様に取り入って、姫になった。

 そこで大層好き放題したンだろう。けど、それがバレちまって、当時の侍衆に縛り上げられてグサグサグサリのグサグサリにされた。けど死ななかった。けど普通に痛かったンで、死んだふりして葬られたフリをした。これがまず、最初の事件。

 んでまァ、俺の知ってる限りじゃ、侍衆と忍軍どっちが殿姫に近いかって言やァ忍軍の方だ。だから、いたンだろ。姫に恋慕だの忠義だのを抱いてる奴がよ。多分いっぱいいたンだ。けどどーしよォもなくて、姫ァ死んじまったンだと思い込んだ。

 これが第2の事件だ。そォいう思いがあって、既にあの地にァそォいう怨念みてェなのが溜まってたンじゃねェかなァ。鎧武者たちの怨念を見るに、式鬼ってな妖、化け物にァ感情や肉体の死した精神体が乗り移りやすいみてェだし。

 

 んで、けど特に何も無く──あるいァ着物狐がなんとかしてか、マッドチビが何かしらをして、また200年300年と経って。

 

 侍衆が、着物狐を捕獲する。

 尖り前髪の断片的な物言いから察しただけだが、殺さないよォ生け捕りにして──その血肉を侍衆に入れて、妖術使えるよォにして。その代償か見返りかなンかで着物狐ァ侍衆入りして。着物狐ァ勝手に御殿に入り込んで生まれたての殿とやり取りして……ってなが、第3の事件。

 

 太腿忍者が生まれた。

 太腿忍者ァ順当に育って、順当に人間の夫と結婚して子を儲け──その時点で、マッドチビに接触した。

 

 そこで、どォいうやり取りがあったのかァ知らねェ。後で聞きてェよォな聞きたくねェよォなだが、何らかがあって──太腿忍者ァ自身の子になった。その後、多分痴呆症みてェになっちまった母親であるあみあみ忍者とその夫がどこで何をしてたのか、ってなわからねェが、まァ張られちゃいたンだろ。貴重な実験例として、みてェにさ。

 それが第4の事件。

 

 そして、第5の事件ァ、その子供になった太腿忍者が魔法少女になったって事。多分夫がEDENの下の国出身だったンじゃねェかなァ。名前もそォいう意図があるよォに思う。ヒノモトっぽく、けど響きァ外国っぽく、みてェなさ。

 だから──隔離されていたはずの魔法少女の因子が入り込んじまった。まァキラキラツインテや先公を見るに、EDENから流れて来てた奴ァそれなりにいたンじゃねェかと思うンだが、それは今ァおいといて。

 魔法少女になった太腿忍者ァ、けど馬鹿じゃねェ。自分を理解して、多分EDENにも行ったンじゃねェかな。そんで──けど、カンコウに、ミチサネに見初められちまったと。断りゃ打ち首もあり得たンでオッケーだして、姫になって。まァ好き放題したンだと。

 これが、第6の事件。

 

 そして、ミチサネの告白を太腿忍者が断るのが第7の事件。

 ミチサネァご乱心だ。太腿忍者を殺しちまったらしい。そのまま狂っちまって──魔法少女の因子に食われちまった。俺ァここの理解がまだ甘いンだが、男でも魔法少女になるモンなのか、それともミチサネが実ァ女なのか、どっちなのかね。太腿忍者が子供を儲けられねェってなを理由に断ってたあたり、普通に男な気もするが……ここァまァ曖昧だが、これが第8の事件。

 

 んで、こっからさ。

 ここまで8つ事件があって、こっからが大混乱だ。

 8つ目の狂乱で妖になったミチサネを着物狐が封印し、けれどミチサネァ国を滅ぼした。それによって元から表面上でしかおてて繋いでなかった忍軍と侍衆ァ完全に決別し、多分この辺りで──忍軍側に、第1の事件の時の怨霊が憑りついたンじゃねェかなァって。

 流石にいつあみあみ忍者が忍者になったのか、とか、父親どこ行った、とかァわかんねェけど、忍軍が狂ったのァ多分ここだ。侍衆の食事に毒を入れる程、侍衆を恨めしく思っちまったのァココ。憑りつかれたのか──あるいァ、マッドチビが何かしたのか。

 

 それによって、事件が起きる。

 カンコウが消えた事を祝し、再び手を取り合わんとした場での、大虐殺。まァそれじゃ死ななかったらしィんだが、毒を入れたのァ事実で──それが、第9の事件、と思いきや。

 この前にも一個あったンだ。それが、今回の混乱を引き起こした事。

 

 上述の憑りつき含めて、やっぱりマッドチビがやったンだと思うよ。

 カンコウの封印を、ヒトに移す、なンて暴挙ァ。だからこそ、カンコウァ消えたし、忍軍ァあり得ない程の恨みつらみを侍衆に抱いたし。

 それが第9の事件なンだ。

 

 そんで、大虐殺ァ第10の事件。

 

 そっからァ大体知っての通り。

 魔法少女化した尖り前髪ァ早々に侍衆を抜け、一人残った着物狐ァ、自分も魔法少女になっちまったものの元から化け物なンでバレずに続行。

 忍軍やカンコウの再出現を見張りつつ、明らかにおかしい忍軍に時たま式鬼で攻撃を仕掛けつつの毎日。

 

 対して忍軍ァ、カンコウを取り込んだあみあみ忍者が、多分疑似的な魔法少女化したンじゃねェかなァ。カンコウってな、魔法に食われたミチサネだ。魔法そのものだ。それを体内に封印されたら、魔法が使えるよォになる……とは言わずとも、魔法少女の因子ァたんまり貰えるわけで。

 ここが微妙にわかってないンだが、鎧武者であみあみ忍者を攻撃すると鎧武者の怨念が溶けちまうってんで事態ァ穏便化。俺達が来るまで、ゆったりゆったりと殺し合いしてたってワケさ。

 

 そンで──俺がまァ、双方に死を齎したくない、とかいう理由で、着物狐連れ去っちまったから。

 

 自覚の無いまま封印の媒体になってたあみあみ忍者から、カンコウァ出てきちまって。

 でも、封印されてる間に、自分の怨念ってな全部あみあみ忍者が背負っちまってて。だから目的もわからずに──ただただ、操られるままに。

 

 カンコウァここまでやってきました、ってなが、おさらいさ。

 操ってたのが誰かって、そりゃ決まってる。

 

 マッドチビさ。EDEN内にいたみてェだからな。アズサと、安藤さんも一緒に。後ろ、まだジタバタしてやがる炎の腕ァ安藤さんの作品だとよ。余計な手土産残していきやがる。

 

 んじゃまァ、こーなってくると。

 誰の恨みを晴らせばいいのか。誰が──どこに、恨みを持ってンんか。

 よォやくわかるよな?

 

 そうさ。

 なァあみあみ忍者。

 

 お前さん、誰が恨めしいンだよ。

 

えはか彼

 

「私、が……誰を、恨んでいるか、だと?」

「そォさ。ミチサネァもう良いって言ってンだ。もう自覚してる、って。けど──繋がってるアンタの恨みがまだ晴れてねェ。ぜーんぶ背負っちまったアンタの恨みが、まだ残ってる。だからアンタもミチサネについてきちまったし、ミチサネァ止まれねェ。何かが恨めしいかわからねェまま世界を呪ってる」

「肯定する。梓、あなたの言う通りだ。余はもう、この世に未練はない。ただ、ユクナ。あなたの恨みを晴らしたいと思っている。……ように、思う」

「だ、だが私は恨みなど、侍衆にしか……」

「クククッ、ならば、吾とカネミツでも殺すか? ヒノモトにはショウモンとストクもいるぞ。それしか残ってはおらぬがな」

 

 殺したい。

 そォいう気概ァ、感じ取れなかったンだよな。あの時、枯れたジパングで出会った時から、一切。

 襲ってきてるから対処してるだけで──姫を惨殺した侍衆への恨みってな、もう晴れてるよォな気がする。その毒の事件で。あるいァ──毎度毎度、鎧武者っつー侍衆の亡霊を殺してたことで、か?

 

「……いや。侍衆を殺したいとは、思ってはいない」

「ほう? ならば、誰を殺したい」

「殺したい──とは、思っていない」

 

 恨めしい。何がだ。

 ずるい。何がだ。

 ミチサネのそれを背負って、しかしそれに支配されねェくらいの恨みってな──なンだ。

 

「……私は」

「──斜多伏(黙ってろ)!」

 

 精神に罅が入るのを感じる。

 

「あァさ、すまねェ。クソみてェな横槍を感じ取ったンで対処しちまった。水を差した。謝る。続けてくれ」

 

 明確な痛みとなって、それを訴えてくる。

 これ以上ァダメだって。これ以上ァ──もう、この言葉を使っちゃいけねェ。

 

 雨だ。雨のおかげで、わかった。

 いる。いる。

 

 見えねェカラスがいる。

 

 何しにきやがった。俺か。俺がここにいるからか?

 だったら──。

 

 ダガーに死を浸す。

 ンで──委員長の【引力】を斬る。

 

「ちゃんと、聞いてやってくれ! ごめんな、俺が迷惑かけた! 空気読めなかった! ──アンタらの道先に幸運があるって信じてる!」

 

 っとに、最悪のタイミングでやってきやがる。

 空気読めってンだ。クソがよ。

 

 落ちる──。

 大丈夫。きっと誰かが助けてくれるさ。

 

えはか彼

 

「……私は」

 

 呟く。

 光り輝く乙女に支えられて。

 自らの中にいたという神に見つめられて。

 憎し憎しと思っていた──思えなくなった侍衆の参謀に見られて。

 

 言う。

 

「……多分、ただ、愛されたかった……それだけなのだろう」

「ク──それは、それは。愛い女子のような事を言う。吾が愛してやろうか?」

「得子。あまり茶化すものではない。あなたはそういう所がある。悪しき所だ」

「クククッ、妖となり、神となった殿に諫められるとは──良い、吾も自重というものを覚えよう」

「……私は、誰に愛されたかったのだろうか。侍衆。殿よ。私は……自分でも」

 

 わからない。

 ただ。

 恨みなんかより、憎しみなんかより。

 ずっとずっと、愛してほしかった。愛してほしい相手がいた。

 知らない誰かに。違う。知っている──それが誰なのかを知らないだけで、知っているあの人に。

 

「この場にいる誰もが分からないのであれば、少し。私が口を挟んでもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ」

「完全なる部外者が申し訳ありませんの。──ただ、貴女の求めているものは、私にもわかります」

 

 自身の身体を支える少女が、言う。余りに眩しい光を放つ、この曇天の中にあっても輝かしい少女。

 貞淑に。一つ、黙礼をして。

 

「それは──母親の愛、ですわ」

「──」

 

 侍衆の参謀が紙を下方に飛ばした。

 自身の仕えた殿が下方を見た。

 

 そこから、紙と樹木に捕えられた──姫が、伸びてきた。

 

「わ、わわわ!? ちょ、この木、私だけ狙い撃ちとか卑怯です! こっちはチャージ必要なのに……お殿様ですね!? 私を追い掛け回すのは大概にしてください! そこな妖風情も、この濡れてベタベタする紙邪魔です! うわっ、無理矢理体勢を──本気で怒りますよ!?」

「ク──いいから、自身の娘を見てやれ。吾への怒りも殿への怒りも、あと少しで瓦解する」

「得子。その間、余を抑えてくれるだろうか」

「良い良い。──今度こそ、最期を見届けようぞ」

 

 姫。

 姫だ。

 あの日、侍衆によって惨殺された姫。

 

 姫、ユノン。

 

「──今、なんと?」

「え、あー。……えっとぉ」

 

 今。侍衆の参謀が、何かおかしなことを言わなかっただろうか。

 彼女は姫だ。

 姫の妖だ。だって姫は、死んだのだから。

 

 なれば。

 なれば──この心に去来する感情は。

 

「あ、なた、は」

「いやその! えっと、私は……えーっと」

「──母様、なのですか?」

「うっ、直球……!」

 

 口が勝手に言葉を紡いだ。

 そんなわけがないのに。そんなはずがないのに。

 勝手に。

 

「えと、そのぉ……い、いやだな~、私が貴女のお母さんなわけ……」

「ユノン。ユノン。ユノン。……違う。姫の名は──ユノン、ではない。あの時。あの日。殺された姫の名は」

「ククッ。その名は、ナリコという。似ても似つかぬ名前ぞ」

 

 そうだ。

 そうだ。

 我らの姫は、ユノンなどという名前ではない。

 ナリコ。ナリコ姫。横暴で、横柄で、けれどカラカラと笑う姿の可愛らしかった、あの姫は。

 

 もう、死んだ。

 そして彼女は──。

 

 いや。

 そも。

 我ら、とは。

 

「う──う、ぐぅ……」

 

 焼ける。焼けるように痛む。

 何かが邪魔をしている。私が思い出す事を、余計なものが──阻んでいる。頭の中に。

 

 何かが、いる。

 

「【神光】」

「──」

 

 自身を支える少女の光が強くなった。

 強い光だ。まるで、太陽が如き光。それよりも強い。けれどそれは目を焼くことなく。

 

「統合された役割は、3つ。神が如き光。神が如き速さ。──そして、神が如き浄化ですの」

「浄、化……?」

「ええ。貴女は……その幼さが故に、蝕まれているようでしたので。今、焼き払いましたわ。どうでしょう。貴女の邪魔をしていた何かは、消えましたか?」

「……」

 

 向き直る。

 樹本と紙に捕えられた少女に。

 

「……えっと。そんなに見つめられると照れちゃうかなー、って」

「母様、なのですね」

「うっ……」

「……ずっと。ずっとずっと。ずっと──探しておりました」

「う、ぐっ……」

 

 そうだ。

 恨みなど、あるわけがない。

 怨念など、あるはずもない。

 

 ただ私は。

 会った事のない母に。貴女が、誰なのかを。

 聞きたかった──それだけだ。

  

 物心ついた時から、何も覚えていなかった私を。

 否、既に婚姻を結んだ相手すら覚えていなかった、何も無かった私を抱いてくれた、顔の見えない母様。

 

 私はただ、それだけを追う存在だったはずなのに。

 いつから、私は。

 

「──申し訳ありません」

「うっ……え?」

「母様の今を壊すつもりはありませんでした。ただ──恐らく、無意識に、でしょう。貴女がここEDENにいると聞いて。私は──ここに来たくなってしまっていたようです」

「あ、いや、その」

 

 多分切っ掛けは、梓に話を聞いた時。

 ユノンという名の妖術師が、ここにいると。そう聞いた時。いるわけがないと、死んだはずだと──その名は私の知る誰かではないと。

 そう、決めつけたときに。

 

 私の心はもう、惹かれてしまっていた。

 

「母様。──貴女を見る事ができて。そのお顔を、その声を──その存在を確かめる事ができて。娘は、ユクナは、嬉しく思います。──ありがとうございました。これで──私の想念も晴れた事でしょう」

「う……な、なんですかこの良心の呵責……!」

「ユノンさん。いい加減、認めてあげてください。そうしないと浄化しますわよ」

「それは何故か怖い!?」

 

 いいんです、もう。と。

 そう言おうとした。

 

 けれど。

 

「ああもう! わかりました! わかりましたよ! 私、こういう捻じ曲がった事苦手なんです! 【光線】なので! えーと、だから──そうですよ、私がお母さんです! 貴女にユクナと、由苦無と! 自由で、苦しみなく育って欲しい、なんて名前をつけたのが私ですよ!!」

「……」

「それで、その……ごめんなさい。私は……貴女も夫も、国もお殿様も、全部なかったことにしようとしました。新しい人生を歩み始めたことにして……何も顧みなかった。貴女達を無視しました。──もし、貴女が望むのであれば……国に帰って、お母さんらしいことをしても、いいですよ」

「いえ。その必要はありません。私は既に忍軍の頭であり──何より母様、家事とかできなそうなので」

「えーっ!? この流れで!? この流れで今なんで私を馬鹿にしたんですか!?」

 

 笑う。

 そうだ。

 恨みなんて無い。怨念なんてあるはずもない。

 ただ、今。

 貴女がこうも元気であると知れたのなら。

 

 もう、大丈夫です。

 

「お2方も──ありがとうございました」

「ク、ク……吾らは何もしておらぬ。さて、殿よ。少しばかり──遠くへ行こう」

「ああ。……ユクナ。余はあなたを苦しめるばかりだった。それを謝りたい。そして──これからは、自由に生きて欲しい。余もそうするのでな」

 

 言って。

 2人は、消える。如何なる術か、どのような妖術か。

 今まで降っていた豪雨も、樹木も、紙も──何もかもが消えて。

 

「──それと。あれなる焔は、余が消しておこう。置き土産、というものだ」

 

 それだけを言い残して──殿と、侍衆の参謀は、この場から完全に姿を消したのだった。

 

えはか彼

 

 

「……馬鹿だな、お前」

「ア? おォ、なンだ。ハハ、来てたのか。久しぶりだな──アズサ」

 

 雨の止み始めたEDEN近くの森の中。

 

 そこに。

 いた。

 

「何やってンだよ。お前、仲間あンだけいただろ。──なンで、死にかけてンだ?」

「みんな──忙しかったみてェでよ。あとあれ、透明にするヤツ。【隠涜】の劣化版みてェな奴。多分、かけられた。誰にも声届いてなかったしな。カラス殺して逃げ切って、このザマだ。……ハハ。なンだよ、とどめ刺しに来たか?」

 

 夥しい血。

 なんらかの方法で受け身を取ったのだろうが──その身体がもう無理であることなど、誰が見てもわかる。

 

 いた。

 梓・ライラックは。

 そこで、倒れていた。

 

「……私とEDENの蘇生槽の経路ァ断たれてる。死んでも、あそこで蘇生できる。……だろ?」

「ハハ。どォもな。そォァいかねェらしい。精神ズタボロなンだと。ハハハ。……死ぬかもしれねェ。これで」

「どォにか、できねェのか」

「ハハッ、な、なンだよ。お前さん、俺のこと大嫌いじゃなかったのかよ。なンでどォにかしよォとしてンだ。見捨てるなり、止め刺すなりしろよ。あんまブレた行動すンじゃねェ、俺の意思が揺らぐだろ」

「……こっちの台詞なンだよ」

 

 近く、カンコウの力によってできた樹木のうねりに腰を掛ける。 

 溜息。なんでこンなもン見つけちまったのかと、溜息を吐く。

 コイツの言う通りだ。コイツァ敵。私から全部を奪った敵なンだ。私が貰うはずだった全てを奪ってった、ワケのわからねェ、夜の使徒、とかいう野郎。

 

 けど。

 

「何が、だ」

「アイツ。私達が利用した、カンコウってなオリジン種。……助けただろ。クソ野郎」

「助けられたのか。ハハ、良かった。確認する前に落ちちまったからな。ハハ、ハ。はァ。強がるのも、そろそろきちィな。なァ。でもすげェだろ。そォ思わねェか」

「何がだよ」

「──まだ、生きてるぜ。あーンな高ェとこから落ちてよ。ハハ、足の感覚無いんで全力強化してクッションにしたンだ。おかげでぐちゃぐちゃだが、特に痛くもねェ。血がな、ちょいと足りないんで、もう意識ァもうろうとしてンだが……生きてる。すごくねェか? 俺、生きてるんだよ。死に体だけど──生きてる」

 

 このクソ野郎ァ。

 魔法少女を助けるだのなんだのと理想を語るだけだったはずのコイツァ。

 

 魔物にまで、手を出した。

 それで──ほとんど被害も出さずにコレだ。安藤さんがちょいとやっちまった2人ァこいつにァどうしようもなかっただろうから除くとして、そりゃ讃えられるべき功績なンじゃねェか。

 オリジンだぞ。

 ありゃ、紛う方なき神だ。それを――諫めて、鎮めて、止めて。

 

 そのお膳立てして、自分ァここでくたばろうとしてる。

 

「そんな目で見ンじゃねェよ、アズサ。言ってンだろ、俺ァ生きてる。今。生きてて──まだ生きよォとしてる」

「だが、死にかけで、死に向かってる。……あのな、私を勘違いしてるよォだから言っとくけど──私だって、死ァ嫌なンだよ。アンタより理想ァ高くない。仕方ねェ死ってなある。被害を減らすために、苦痛を減らすための死ってなある。それァ絶対あるんだ。救いとなる死が。与えられるべき死が。──けど、私ァ、そうじゃねェ、目の前でただ──失われよォとしてる命を見捨てる程、死を好んじゃいねェ」

「ハハ。やめとけやめとけ。どうせ、お嬢かポニスリが見つけてくれる。──そォなったらお前、また悲しい想いするだろ。今の内に去っておけよ。ひひ……善行して報われねェで、仇だけ食うってな辛いぜ」

 

 なんなんだろう、こいつァ。

 元ァ私だった奴だ。私と別たれて、けど──私より持っていて。恵まれていて。

 私より弱くて。私よりボロボロで、私なんかじゃ比べ物にならねェほど、死を嫌っていて。

 

「なァ、お前さ」

「ン?」

「つらくねェのか。理解されねェってなよ。本質を──根っこの所をわかってンのァ、誰1人としていねェだろ」

「めっっっっっっちゃつらい」

「……」

「ハハ、お前だけだぜ、アズサ。俺がこんな愚痴零すの。……馬鹿が。何泣きそうなツラしてやがる。同情すンなら宛先間違いだ。お前のそれァ、お前に向けな。お前の方が可哀想だ。生きてるってなことを、そんなにも──実感できねェ、なんて」

 

 急速に、生命の気配って奴が抜けて行くのを感じる。

 マジなンだ。コイツが死に向かってるってな。

 

 ……。

 ああ、ったく。

 今の私、おかしィぞ。いやまァあのナリコっていうめちゃくちゃ好みの人に出会ったのが運の尽きっつーかなんつーか、いやあの人のことァいい。今ァいい。安藤さんがやっちまったンで嫌われてる可能性も、ある、し。

 じゃなくて。

 

「なンだ。止め刺す気になったのか」

「何度も言わせンな。私だって救える命があンなら救いてェ。目の前にいるのが、死が救いにならねェ奴だってンなら、そォじゃねェ方法で救う」

「……その腕に詰まってるのを使うのァ、やめろよ。知ってンだぞ、その仕組みァ」

「使わねェよ馬鹿。つか使えねェ。これァ私専用だ。私とアンタがおんなじでも、これァ私にしか使えねェ」

「そォかい。じゃ、どォすンだ」

「黙ってな」

 

 亜空間ポケットを開く。

 こいつァ使えねェ亜空間ポケット。私の身体ァもう魔力が十二分にあるンでな。身体強化も飛行魔法も亜空間ポケットも自在さ。

 ……そっから、あるモンを出す。

 

「……赤い、花?」

「フリューリ草の花弁だ」

「へ、ェ……見つけたの、か。ハハ。そこまで、赤いのに、見つからねェ……モンなンだな」

「人間が発見する前に大抵獣か魔物が取っちまうからな。──いいか、今からすンのァあくまで応急処置だ。これで繋げるのァもって一時間くらい。その間にお前の仲間がお前を見つけてくれなかったら意味ァ無ェし、見つけてくれたとしても、その命をどォ繋ぐのかァそいつら次第だ。それ以上ァ私ァ関与しない。したら殺されちまいそォだしな」

「ハ──だから、やめとけ、って。つらいぞ。やさしいことして、いいことして。けっきょくおれァ、おまえにたちはだかるんだから」

「ア? てめェ、見返り求めて誰か助けてンのかよ。くだらねェこと言うんじゃねェ、死にそォな命があるから助けてるだけだ。その後お前に何されてもなんとも思わねェよ。元から大嫌いなンだから」

「ははは。そりゃ、そォだ」

 

 フリューリ草の花弁を、こいつの胸の中心に置く。

 すると即座にフリューリ草ァこいつに根を張り始めた。見てて恐ろしいたァ思うが、フリューリ草ってな別に動植物に寄生する奴らじゃない。むしろその逆だ。

 

「グ──ぅ、!?」

「痛みァするだろォが、我慢しろ。それを生きてることだっていうンならな。……いいか、この花弁ァお前に根を張り、全身に魔力を供給し続ける。ただし、その魔力ってなお前専用じゃねェ、外の魔力そのものだ。つまるところ毒も毒なンだが──お前にとっちゃ違う。夜の使徒。死者。元から外の存在だって話のお前ァ、その魔力との相性も多少ァ良いはずだ」

「が、ぐ……うぅ、ぁ!」

「……ホントに多少ァ、っぽいが」

 

 のたうち回ることすらできねェ馬鹿野郎を見て。

 首を振る。

 

 良いはずだ。

 これで。

 別に善行だ、なんて思っちゃいねェ。こいつァ私達の前に必ず立ちはだかるし、なんならお嬢やポニテスリットも引き連れて──私の大切な仲間を、みんなを引き連れて、私の前に出てくるンだろォけど。

 

 良い。

 死、以外の方法で命を救ったってな事実ァ──お前だけが得ていいモンじゃない。

 お前が得たンだから、私にも寄越せってな、そンだけさ。

 

「相性が悪くても魔力ァ魔力だ。生命維持にァ役立つ。死ぬほど苦しいだろォが──生きることにァ繋がる。──……一応、言っておくぜ。死ぬなよ。死ぬンなら──」

 

 その叫び声を聞いてだろう、複数の気配が寄ってきたのを察する。

 んじゃ、お言葉通り逃げさせてもらいますかね。

 

「──私と直接相対して、そン時に、死ね。じゃァな。梓・ライラック」

「ア──り、がとよ、ゥ──アァっ!?」

「はン、意地っ張りめ。大人しく悶え苦しんでろってンだ」

 

 どォやってでも礼言わなきゃ生きていけねェのかアイツァ。

 

 ……っとに調子狂うぜ。

 さァて。

 

 世界でも、救いに行きますかねェ、ってな。

 

えはか彼

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