遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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65.阿鰤譜羅須閉徒.

 生きてた。

 

 いんやさ、こんな軽い言葉で済ませるモンじゃねェ、それァもうすんげェ事をされたらしィんだが、まァ気が狂いそォな激痛の中だったンでな、何されたかなんざ覚えてねェ。

 覚えてねェけど──まァ、ぐちゃっとなっちまった足ァなくなった。腕の時と同じだ。んで、義足を、ってワケだ。けどンな高性能なモンァ作れないので、ほとんどただの鉄の棒だな。なンで車椅子生活ァ同じ。今までと特に変わりなく、って奴だ。

 

 ただ。

 

「……やっぱり、増えてるよなァ」

「魔力が、ですの?」

「あァさ」

 

 そう。増えた。

 迷宮でも増えたンだが、そン時の感覚に似ている……よォな、全く似ていないよォな。

 フリューリ草の花弁のおかげ……とすると、世に蔓延ってる獣や化け物ァ魔力たんまり持ってねェとおかしい。あとのたうち回って苦しんでるはずだ。外の魔力、なんてのを身に入れて大丈夫なのァ、同じく外の存在だけ、みてェなコトをアズサが言ってたしな。

 

「……だからといって、戦場に出ることはやめてくださいまし。当分は大丈夫でしょうけれど……」

「そォなることを願うよ。俺ァもう、鈍っちまった。……化け物をマトモに殺せるかわかんねェ」

「ええ。そういう事は、矛であり刃たる私達の仕事ですわ。アインハージャのお2人やディミトラさん、シエナさんも大層怒っていましたし、どの道もうEDENの外には出させてもらえなさそうですけれどね」

「愛されてるねェ」

 

 当然だけど、置いてったマッドチビ先生達ァカンカンだ。義足作ってくれた時も終始無言だったし。アインハージャの2人もマジで無視って感じだったし。シエナはすっげー冷静な声で「あまり怒らせないでくださいね」って言ってきた。怖い。

 

 あァ、んで、そうそう。

 EDEN解放運動っつーか、上層部を是正しよォ、って動きな。創設者たちがやるって言ったやつ。

 俺がぐちゃっとなった後、カンコウも去ったEDENを、創設者たちが襲撃した。ってーと言い方すんげェ悪いンだけど、中央塔の壁を脳筋娘が破壊して、文字通り殴り込みに行ったンだ。

 

 ──けど、中央塔ァもぬけの殻。

 ジャハンナムっつー上官含めて、"上層部"って呼ばれてる上官ァ誰1人としていなかったらしい。

 

 ただ、最上階で。

 安楽椅子に座った学園長殿が、静かに眠っていただけだった、とか。

 

 ま、簡単に言や逃げられたってハナシだ。あるいァ元からいなかったかのどっちか。マッドチビや安藤さんが来ていた時点で内通者がいたのァ確実だし、多分ハナから繋がってて、だから今回の件に肖ってとんずら、ってなが正解なンだろう。

 だからEDENァ是正されましたよ、結果的に。ってな。

 

 問題ァこっからかね。

 

 マッドチビ、安藤さん、そしてアズサ達ってな、やっぱり隔離塔の地下に封印されてた魔法少女を奪うのが目的だったらしい。封印措置を受けた魔法少女ってな要はEDENに反旗を翻した、人類に仇為そうとしたってやべー奴らの集まりだ。まァ俺もそれを受けそォになってたンだが。

 奪われた魔法少女は3人。

 

「【合成】、【蟲独】、そンで【帰述】ねェ」

「3人共、私が魔法少女になった時には封印措置を受けていた方々ですわ。というより、私達が封印措置というものそのものを知らなかったくらいには、近年その措置を受ける方々はいなかったんですの。それくらい昔の方々で」

「3人が3人共、同じ班の同じ隊だった、ってな……なんつーかな」

 

 魔法の詳細ァ明かされてない。

 明かすと不都合だから……みてェな今までのお上っぽい事情じゃなく、知らねェんだと。まァ創設者たちァEDEN作って早々にEDENを去っていたし、学園長殿ってなEDENの維持のためだけにいるよォなモンで、決定だのなンだのァ全部お上がやってたらしィんで、マジで誰も知らねェと。

 EDEN奪還に非協力的だった観測班アルカナ隊の奴らもやっぱり知らなかった。非協力的だったのも「隊長がそう言っていないから」であって、その隊長たるL・アルカナが失踪した以上ァ、こっちに従うと来た。自分の意思ってのがねェっつーか、なんだかなァって感じ。

 

 ってなワケで、EDENァ平和になりましたよ、と。

 危険な任務ってのも無くしていくらしい。確かに襲い来る奴ァ倒さにゃならねェが、被害の出ない方法を取る、ンだとか。

 つまり俺の理想としたEDENになりつつあるってワケさな。

 ……ま、あくまで似てるだけだ。創設者たちの理念と俺の理念ァ、やっぱりちょっと違う。だからそこでの衝突ァ起きるンだろォけど、まァまァまァ。とりあえずこの平和を享受しよう、ってンで──今。

 

「そォいやよ、お嬢」

「なんですの?」

「ポニテスリットを長い事みてねェんだけど、どこにいるンだ?」

「……あー」

 

 なンだその反応。

 ついに振られてしまいましたかその話題、みてェな顔。

 

「なンだ、体調でも悪ィのか」

「いえ。……ミサキさんはその……今、自己嫌悪の真っ只中でして」

「ほォ」

「ほら、私達は、何者かに駆り立てられて、とはいえ……一度は梓さんを完全なる敵として見做したでしょう? その前に殺そうとしたのも紛れもない事実ですし」

「まァ確かにそォだな」

「それが、ミサキさんにとっては……結構な心労になっていたようで。ミサキさんは私よりかは守護向きというか、私は"いち早く殲滅して国を守る"という守護の剣ですけれど、ミサキさんは真っ当に敵を弾いて守る、という守護の、いわば盾、なんですの。……ですから」

「それが完全に殺す事しか頭になくなってたって事実に自己嫌悪してるって? 意味わからんな、そりゃ。仕方ねェって割り切ればいい。太陽の使徒の言葉ってなそォいう強制力があるモンなンだ、魔法少女である以上ァ仕方ねェよ」

 

 もう絶対に使うなって念押された世界言語だって、結構な強制力持ってる。アインハージャ達の魔法を無理矢理覚醒させたあたりを考えりゃやべェのァわかるだろ。あとァ自分の身体操ったりな。それを、直属の上司みてェな奴に使われたンだ。そりゃおかしくなりもする。

 ……慰めに行くべきか、ってーと、微妙だな。

 俺が行くと余計に罪悪感加速させそォだ。まー面倒な手土産残してくれたモンだよ。

 

「他の話題にしましょうか」

「あァよ。……つっても、なンかあるか?」

「ええと、そう。西方の方々の話、とか」

「あァな」

 

 西方出身の奴ら。キラキラツインテ、先公、尖り前髪、太腿忍者、あみあみ忍者、着物狐、あとカンコウか。そいつらの行方な。

 まァ、キラキラツインテと尖り前髪ァEDENを抜けるつもりでいたみたいなンだが、EDENが変わったンで残る事にしたらしい。太腿忍者も別段変わりなく残るそォで、ただあみあみ忍者のことも多少ァ気になってるみてェでな、休暇申請頻繁に使ってあみあみ忍者のトコに行ったり、逆にEDENや国へ来ないかって誘ったりしてるとのコト。

 確かに忍軍の守るべきモノ、ってな無くなった。城を護る理由もこだわる理由もな。

 だから一般人も一般人なアイツらァ国へ来てもいいと思うンだが、当の忍軍がNOだってンだ。死ぬまで城を守り続けるのが忍軍だー、つって。あみあみ忍者もおんなじ。

 

 ってな話を創設者たちにチョロっと流してみたら、西方文化の再興を目指して見たらどうか、って話が返ってきた。どォいうことかってーと、俺の目的に被るのさ。

 俺ァこれからどォにかして国に蔓延ってる魔法少女の因子ってなを殺したい。で、この魔法少女の因子ってなァ感染するンで、魔法少女の因子を殺した一般人の隔離先が必要なンだ。それを西方にしたらどォか、ってな。

 

 たァ言えジパングとEDENってな結構距離がある。だから移住ってなァ結構長い目で見なきゃいけねェ話だし、ジパングに魔法少女の因子が残ってないかどォかも調べなきゃいけねェ。特に忍軍にァ妖術師がいそォだし、残された2人の侍衆なんか多分がっつりだ。そいつらがどこに行くのかも考えなきゃなンねェ。問題ァ山積みも山積みっつーか、無理難題に近い。

 が、まァやるっきゃねェって、西方出身者がちぃっとやる気出してる、みてェな現状さな。先公とキラキラツインテァどっちでも良さそォな雰囲気を隠そうともしてないンだが。

 

 で、着物狐とカンコウ。

 

 ……あんまりな、言いたかねェけど。

 どっかで、死んできたらしい。2人の秘密の場所か、思い出の場所か。それともなンでもねェ山の奥か。

 

 着物狐ァ確かにもうダメだった。俺の死に具合も相当だったけど、あいつァほぼほぼ死んでた。ほとんど気力で保ってただけだ。半身焼失してンだ、それで動けるだけすげェって話。

 で、カンコウァカンコウで、もう消えよォとしてたらしい。恨みつらみが晴れて、その矛先も無くなって、封印も解けて──そのコアも見えていたンだとか。だからそれを――着物狐が、ってな。

 

 そいでまァ、着物狐ァ蘇生して。

 

 けど、EDENに居座る、って気ァ無いとのことだ。

 自分が99%化け物だから、ってのもあるンだが、こんな女の子だけの園にいたら理性が保てそォにないとかなンとか。だからマッドチビ先生のLOGOSに留まるンだってさ。西方にゃいなくていいのかって聞いたら、殿のいねェ西方に然して興味ァ無いとのこと。まそォだろォなァって。

 ちなみにアインハージャ達とシエナはまたEDENに残ることになった。まだまだ学んでない事があるから、って。

 

 創設者たちァ半分がこっちに、半分が輝きの園に戻った。具体的に言うと紺碧ベルトと脳筋娘がこっちで、びりびりタイツとパッパラメガネがあっち。敵が精神体を操る以上紺碧ベルトがこっちにいた方がいいだろォってのと、魔法少女や国が危機に陥った時ァ脳筋娘が役に立つ。まァあいつ魔法使うより殴った方がつえーンだけど。

 逆にパッパラメガネとびりびりタイツの魔法ァ輝きの園の方が役に立つンで、そンな感じ。

 

 こんなところかね。状況説明ってな。

 あァ、各種組班隊ァ、大体元鞘っつーか元の位置に戻った。遠征組はちィと見直されるらしィんだが、今までのチームワークだのがあるからな。統合されることァあってもバラバラにァされねェんだと。

 即席ライラック隊ァ当然の様に崩されたけど。まァ当たり前だわな。

 

「つか、いいのかよお嬢」

「何がですの?」

「なんぞ、今日SS級ってな集まりがあるとか言ってなかったか?」

「ええ、ありますのよ」

「時間、もォすぐだろ」

「梓さんを()()に送り届けてからでも何も問題はありませんわ。私、元【神速】ですのよ?」

「……まァお嬢がいいなら良いがよ」

 

 病室。

 ま、当たり前なンだわな。

 こンな身体じゃ寮生活ァできない。授業ってなたまに受けに行かねェと永遠卒園できねェみてェなンでどォにかして行くつもりでァあるけど、もう学園寮じゃ無理。ちょいと前のアズサの件で未だトラウマ引き摺ってるB班もいるしな。他、まだ俺見てヒッとなる子ァおおい。

 なンで、病室……つかまァ、隔離塔行きだ。

 悪い事したってワケじゃねェ。いやまァしかけたンだが、それァおいといて。

 ただ、戦場復帰が難しいってンで、隔離塔で病人生活ってな話さ。とりあえず精神体を治す方法ってなが見つかるまで。あるいァ魔法の新生ってなを思いつくまで。もしくァマッドチビ先生がすんげェ義足を開発するまで、ってな。

 

「着きましたの」

「ン。……お嬢、ポニテスリットに伝言があるンだが」

「はい。なんですの?」

「──"ばーかあーほまぬけー"って。言っといてくれ」

「わかりましたの」

 

 よし。

 んじゃ──ちょいとの間、病人生活だー、ってな。

 

えはか彼

 

 

 飽きた。

 

 いや飽きるって。なんもすることねーもん。

 暇だから車椅子キコキコやって動き回るンだけど、看護師みてェな奴らに遭った事ァない。いやまァ当然っつーか、EDENにいるのってな全部魔法少女であって職員とかじゃねェ。市場区画のァ別だけど。

 だからだーんれもいねェ静かな病室をキコキコキコキコやって、疲れたら病室帰って寝る、ってそンだけの生活だ。今3日目な。

 

 たまに誰かがお見舞いに来てくれるンだけど、それもたまにタイミング悪くて花だけ、みてェな事がたまにたまにたまたまにある。稀によくある。

 

 だからここんとァずっとこォして、監視塔直下の展望スペースでぼけーっとしてることが多い。動き回ると疲れるンでな。

 

 ……いやァ。

 平和ァ望んだけどさ。

 

 ……いやァ。

 

「そんな梓様に朗報があります」

「びっくりするから気配消すのやめろ」

「おや、梓様は命の気配、とやらで私達のことがわかるのではありませんでしたか?」

「ンな常に気ィ張ってるワケねーだろ」

 

 嬉しい。

 冷静メイドだ。久しぶりの。

 

 そォいや、マッドチビ先生のLOGOSに乗った連中ってな、何も着物狐だけじゃなかったりする。流水だの造形だのの魔法を使う奴らがこぞって「天才彫金師に教えを乞いたい」と言ったのがさァ運の尽き。俺にァ終始無言だったクセに、突然鼻高々になって「ふ、ふん! 一月だけならいいわよ!」とか言っちまったモンで、今LOGOSァ結局少女の園になっている事だろう。

 そして着物狐の毒牙に……。

 

 なンでそンなことを急に言い出したか、ってーと。

 

「朗報ってな、なンだ」

「私が来たことです」

「あァそりゃ朗報だ。……暇なンだろ。姉ちゃんいねェから。鬼教官殿も自由にしてこい、とか言ったクチか?」

「お見通しのようですね。はい。その通りです。揶揄う姉がいなくてつまらないので、梓様で遊びに来ました」

「ちったァ隠せ」

 

 なんとあのコーネリアス・リヴィル、怒りしょんぼりもマッドチビ先生の下に弟子入りしたのだ。

 なンでもその知識量に惚れこんで、とか。着物狐も結構薬草にァ詳しいし、怒りしょんぼりも【劇毒】っつー、なンだ。マッドな魔法使うンで、結構息が合うとかなンとか。

 

 だから、コイツァ暇なンだ。

 一日中鬼教官殿の世話をしているってワケじゃないらしくてな。なんなら断られるらしい。

 

「……平和だなァ」

「仮初ではありますが」

「なーンで水を差すかね」

「私達の抱える諸問題の多くは解決していませんから」

「そりゃ痛感してるがよ」

 

 ルルゥ・ガル達化け物勢力。マッドチビ達アズサ勢力。世界各地でまだ猛威を揮うオリジンやルルゥ・ガルに従ってねェ化け物達。

 ンで、俺が殺すべき魔法少女の因子。

 確かになーんも解決してねェし、平和たァ言い難い。

 

「一つ、余計な事を聞いてもよろしいでしょうか」

「余計な事ってわかって聞く奴ァお前かキラキラツインテくらいだよ」

「光栄です。では、問いますが」

「あァ」

 

 何がくるンだろォなァ。

 冷静メイドのことだから、どーせどーでもいい事なンだろォけど。

 

「梓様は、私の事を好みだと思われているのでしょうか」

「ンー? ンー?」

「いえ、カネミツ様から少しばかりお話を聞きまして。梓様ではないアズサ様が、ナリコ様に口吸いを受けた時、そう漏らしていたそうです。私やナリコ様のようなオトナな、けれどオトナ過ぎない女性はめっちゃ好みである、と」

「めっちゃ好み、なんざアイツ言わねェだろ」

「失礼、多分に脚色しましたが──お好きなのですか、私のカ・ラ・ダ」

「無表情で言われてもなァ」

「おや、頬を上気させ、上目遣い、などがご所望ですか?」

「所望しねェよ」

 

 ……いんやさ。

 まァ認めるよ。おじさんだからな、結婚適齢期っぽい女性ァ好きだよ。そォいう目で見れるよ。歳の差ありすぎて結婚とまでァいかねェけど、なンだ、そォいう目ってな目でァ見るよそりゃ。

 ……っとに何言ってンだアズサの奴ァ。

 

「でしたら、どうでしょう。私と──」

「やめとけやめとけ。アンタ暴走繭が好きなンだろ。暇だからってそォいう話題振るンじゃねェよ」

「では、エミリー様も交えて」

「交えるも何も、アイツまだ暴走繭の中にいンだろ」

「──いえ。先日、ようやく心の整理がつきました」

 

 その声が、冷静メイドの反対側。俺を挟んで左側に立つ。

 見覚えの無い顔。聞き覚えの無い声。いんやさ、通信端末ってなあンまし画像も声も再現率高くねェんだよ。

 

 だから──初対面に、感じちまった。

 

「お久しぶりです、になるのでしょうか? ライラック様──いえ、初めまして、と言っておきましょう。私はエミリー。【壊糸】のエミリーです」

「ン。久しぶりだな、初めまして。俺ァ梓・ライラックってンだ。魔法ァ解けたよーで何より、ってな」

「……? 少し口調が……その、更に粗悪になられましたか?」

「エミリー様。日を追うごとに、でございます」

「うるせー」

 

 綺麗な顔した少女だな、って。

 そォ思った。確か、幼い時に魔法少女に覚醒しちまって、鬼教官殿が魔法少女になるまでにかなり時間があったンだったか。

 キリバチとエミリー。名前の響きも似つかねェが、顔立ちはあン時みた通り、鬼教官殿にちったァ似てるよォな、まったく似てねェよォな。なんか、子役みたいだ。洋画の。西洋人形っぽい、っつーの?

 

「もォ暴走してねェから、暴走繭ってなあだ名ァ付け替えるべきかね」

「ふふ、そのままでいいですよ。自身への戒めにもなりますし」

「そォかい。んじゃよ、暴走繭」

「はい」

「鬼教官殿にァもう会ったのか?」

「ええ、勿論です。抱きしめられて泣かれて、それはもう大変でした」

「鬼教官殿がねェ。やっぱり可愛らしワオ痛ってェ!?」

 

 ど、どこだ?

 どっから見てやがンだあの人。っつかこっちァ曲りなりにも病人だぞ!?

 

「あはは……。過保護な姉が申し訳ありません」

「いや学習しねェ俺が悪いけどよ。……で、そっちの冷静メイドァ何そわそわしてやがる」

「いえ、ですから、3人でするのでしょうか、と」

「しねェよアホ」

「あら、私は構いませんよ。ライラック様がよろしければ、ですが」

「構えよ。あっ、つか元からそォいう関係かてめェら」

「ええ。リヴィルもローグンも。同じ隊にいると、どこも自然とそうなると思いますよ?」

 

 ……オーレイア隊もだが。

 あと班長のトコも、そォいう話題になンなかっただけで、そォなのかね。

 

 きちー。

 いや別に勝手にしてくれってな話なンだけど、おじさんにあんまりそォいう話聞かせねェで欲しいなァ。

 

「ま、治って……つか、心の整理ついて良かったよ。退院おめでとう、たァ言っとくぜ」

「ありがとうございます。……それで、なのですが」

「ン?」

 

 なンだ。

 なンか用あったのか。挨拶だけかと思ったが。

 

「ライラック様は、卒園後どうするか、というのは決まっていますか?」

「俺ァまだ魔法少女なって一年経ってねェンだわ」

「決まっていない、ということですよね」

「まァな」

「でしたら──我が隊へ、いかがでしょうか」

「考えとくよ。なんぞ、神妙な顔で言われても困る。俺ァこっから先マトモに魔法少女できるかもわからねェんでな」

「そ、そうですよね。申し訳ありません。そういう事を言う場ではありませんでした」

「おいおいあンましゅんとすんなって。……なンだ、どーいう意図だ? よくわからねェんだけど」

 

 何が言いたいのかよくわからん。

 俺の察しが悪いのか、それとも暴走繭が鬼教官殿と同じくあンまり説明に向いてないタイプなのか。

 そォいう問いを込めて冷静メイドを見る。

 

「特に他意はないかと。エミリー様はお礼を込めて、梓様をエミリー隊に誘った、というだけです。自分の隊に来たのなら悪くはしませんよ、と」

「あー。でもEDENァこれから変わるンだ、どこの隊行っても悪くァされねェだろ」

「今包みに包んでご説明しましたが、直球で言わせてもらいますと、何かお礼がしたいのですが何も思いつかないので自分の隊に誘う事がお礼になり得ないかな、というエミリー様のむやみやたらに奥ゆかしい乙女心が多分に含まれた誘いでございます」

「ろ、ローグン。あまりからかわないように」

 

 あーね?

 なんか上げたいけどあげるモンないから飲みに誘う、みたいな? 不器用だねェ姉妹揃って。

 ……よし。思うだけなら痛いのァ飛んでこねェな。

 

「あれ、つってーと、鬼教官殿の隊から冷静メイドァ離れるのか」

「元より私はキリバチ隊ではないですよ。姉も同じく。エミリー様があの状態でしたので代わって頂いていた、というだけです。そして、私達がメイドである事実と隊が違う、という事実はなんら関りありませんので」

「そんな、魔法少女になる前の関係性など捨て置いて良いと常に言っているのですけれどね」

「へェ、元からそォいう関係だったのか」

「い、いえ。そういう関係になったのは同じ隊になってからですよ?」

 

 ……頭ピンク色がよ。

 そォいう意味じゃねェよアホ。

 

「んー。じゃァさ、お礼がしたいってンなら──頼みがあンだわ」

「はい! よろこんで」

「エミリー様、安請け合いはダメです。梓様は稀に無茶なことを言ってきます」

「いんやさ、ちょっとやってみたいってだけなンだよ」

 

 ずっとずっとできなかった。

 

「お菓子パーティ、っていうの? ちょいと、やってみたくてさ。色んな奴集めて欲しい」

 

 おじさんなりに、楽しんでみたくてね、って。

 

えはか彼

 

 

「──以上が、今後のSS級に与えられる任務となります。何かご質問はありますか?」

「私は異存無しだ。結局今までと変わらない。ただちょっと安全に、慎重にってこったろ?」

「はい。特に防衛組の方々は変わりませんね。変わるのは──」

「私達学園組と、遠征組、ですのね」

「正直な事を言えば、私は混乱しているよ。明かされた事実が多すぎる……アールレイデさんに起きた事も含めて、なんといったらいいのか……」

「クク……まさか吾がSS級扱いとはな。身代わりを残しておけ、というから何かと思えば……良いのか? 吾は九割九分九厘魔物ぞ?」

「だからこそです。──ネイビー・ブルー様。聞いておられますか?」

「え? あ、聞いてる聞いてるー。でも私、よくわからないかもー。その──"役割の統合"ってやつー? 実感ないしー」

 

 中央塔の、とある部屋。

 そこに、数人の魔法少女が集められていた。

 

 場を仕切る魔法少女含めて──全てが、SS級の魔法少女。

 彼女らに説明が為されたのは、元【神速】、現【神光】のフェリカ・アールレイデに起きた"役割の統合"に関する説明と──。

 

「正直なところを言わせていただきますと、故意にそれを目指す、というのは難しいと思いますわ。あの時の私は、少しばかり──太陽に近かったので」

「ええ、そうであると思います。ですから、積極性は求められていません。ただ、出来得る限り迅速に」

「それが積極性を求めるってことじゃなくてなんだってんだ」

「死に急ぐことは無い、という話です」

「……」

 

 他のSS級も、それを目指せ、という指示。

 "役割の統合"──【神光】に統合されたのは、速さと光と浄化の力。神なりし光。故にそれは、紛い物を消し飛ばす。

 ()()()()()()、それぞれが単一の魔法として、魔法少女として覚醒するはずだったそれを、フェリカ・アールレイデ1人が統合し、請け負った。

 それこそがSS級の目指すべき場所であると──場を仕切る魔法少女が言う。

 

「ク──明示はされるのか、とだけは聞いておこうか? 吾らの目指すべき場所とやらがどこなのか。"役割の統合"の末──何が起きるのか、と」

「新たな魔法少女の覚醒を防ぎ、因子の統一及び純化が目的となります」

「ククク、随分と意味のない御託を並べるなぁ? 何が起きるのか、というのを吾は聞いているのだが」

「──明けない夜が、ようやく明けます。具体的に言えば──」

 

 少女は、空を指差す。

 

「空が、割れます。この閉じられた世界に、枯渇して行くばかりの世界に──新たな活力を与えるのです」

「クク──そういうことなら、吾は断らせてもらおう。宣言しておくがな、吾はあくまで梓・ライラックと共にある。太陽の意図に興味はない」

「空を割る、ねぇ。私も大して興味はないが──それをしないとどうなるのか、だけは聞いておこうか?」

「簡単です。世界は滅びます。……とはいえ、消失する、という事ではありません。単一の役割しか持たない魔法少女が増加することで、既存の概念が少しずつ消えて行きます」

「ん-。意味わかんない系~?」

「概念が、消える?」

「たとえば、ですが。──皆さん、火、というものを見た事がありますか?」

「これのことかい?」

 

 女性がその掌に、小さな青い太陽を灯す。

 いいえ、と。場を仕切る少女が首を振る。

 

「自然に起きた火。山や木といったものが燃える火、というものを──貴女方は、見た事がありますか?」

「クク、異なことを言うものよ。──()()()()()()()()()()()()()?」

「ええ、ナリコさんの言う通りですわ。魔法少女の力なくして、火は起こりえない。常識でしょう」

「何々、学園の授業? だったら私かえるけどー」

 

 彼女らの様子に──少女は、何も言わない。

 ただ1つ、頷いた。

 

「……もしかして、そう、なのかい?」

「クク──なるほどな」

「そ、そんな事があり得ますの!?」

「え、何々~?」

「……じゃぁなんだってんだ。元の世界にぁ、私のこれが普通にあったって事か」

 

 役割。

 魔法とは、何かを司る行為。

 故に。

 

「これからそうなる可能性がどんどん増えて行く、ということです。事態の緊急性はわかりましたか?」

「ククッ、それでも吾は断ろう。吾には吾の目的がある」

「構いません。ただ、SS級である貴女方には知っておいていただかなければならなかった、というだけの話です。仮称として任務としていますが、そう思わなくても結構です」

「……それは、SS級以外にも起こり得る、ですのよね?」

「可能性は低いですが、そうですね」

「ええ。それだけわかれば十分ですわ」

 

 では、と。

 その場は解散になる。

 

 紙となり、崩れて行くもの。眠そうにあくびをしながら部屋を出るもの。時たまその危険極まりない火球を手に浮かべるもの。思いつめた顔をするもの。

 

 そして。

 

「……最後の欠片は、既に」

 

 隔離塔を見て──何かを呟くもの。

 

 

 世界にはまだ、平和など訪れてはいない──。

 

えはか彼




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