遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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67.藍夢沙伏頼頭土倍地羅運動野伊豆.

 初めて自分が意識を持った時にあったのは、深い海のような達成感と──恐ろしいまでの、虚脱感だった。

 造物島・クルメーナ。【鉱水】の持ち主によって如何様にも姿形を変えることのできるその島の地下で、私は、生まれた。訪れたのは絶好の機会。

 梓・ライラックが暗がりにて単独になる、などという──こちらの疑似魔法を考えるに最高の機会。安藤さんが渡してくれた人格分割の紋章を媒介に、私達……というかこちら側の陣営はその秘法を使用。人格分割型戦闘用ガーゴイル・死得無(Ashes)で既に試験を終えていたマッドチビは、何の失敗も無くその人格の一部を切り取る事に成功。

 先んじてEDENで生まれていた私の肉体の中に、切り取られた仄かなる精神体を入れて──新たな梓・ライラックとした。

 

 それが、私。

 元はアイツの片腕で──紋章が吸い取ったアイツの分割された人格と、いくらかの魔物の精神体を混合することで作り上げられた合成獣(キメラ)

 自覚はある。その身体、この存在そのものが本来許されざるものである、という、禁忌の自覚。

 そして──梓・ライラックは本来私だった、という、何か確信めいた欲求。

 

 今じゃアイツにも勝る魔力量と身体能力があって、アイツの知らない事をたくさん知っていて。

 

 けれど──私は、アイツの場所には戻れない。

 取り戻したくはある。取り戻したいという気持ちは、勿論、十二分にある。

 

 同時に。

 世界を救わなきゃいけねェってさ。叫ぶんだ。

 

「梓。梓? 大丈夫?」

「ン──あァマッドチビ。どォした。なんか用か?」

「どうした、じゃなくて。貴女、何か泣きそうな顔していたじゃない。何かあったのかとおもってね」

「へェ、珍しい。マッドチビがそォいうの気にするっつーのァ、明日ァ槍でも降るんじゃねェかな」

「そ。余計な気遣いだったというのなら謝るわ」

「いんやさ──多分、泣きそォになってた。だから、ありがとよ」

「ええ。……やっぱり、気になるかしら?」

「何が?」

「エデンの様子」

「そりゃァ、気にならねェワケねェだろ」

「じゃ、見に行く?」

「……もう用ァ無いんじゃなかったのかよ」

「そ。EDENはもう用済みよ。けど終の因にはまだ利用価値があるし、エデンには面白い魔法を扱う子も多い」

「……また殺しに行けってか」

「そうは言っていないわ? 潜入任務、という奴よ。危なくなったら助けてあげるから──少し学園を見てきなさい。勿論変装をしてね」

「バレたら殺し合いになンだろォがよ」

「バレなきゃいいのよバレなきゃ。前に言ったでしょ。私、こういう馬鹿な行為好きなのよ。こんなこともあろうかと変装道具一式は用意してあるし、最悪の場合ルルゥ・ガル経由で魔物の群れでも集めて貰うから、捕まっても助け出せる。どうかしら?」

「計画ァ?」

「進行中だけど、貴女大詰めの時以外要らないし。それとも今から魔工学を学ぶ?」

「……遠慮しとくよ」

「なら、どう? 前は短期の──今回は、少しだけ長期の学園生活。貴女はまだ幼いのだから、丁度良く楽しめるんじゃないかしら?」

 

 なンて。

 悪戯っ子みてェな顔で聞いてくるマッドチビに。

 

 ……私ァ、頷いてしまったのだった。

 

えはか彼

 

「ようこそ学園エデンへ。今期入園生は3人。リキュア・アールレイデさん、李・理央さん、ミズメさん。貴女方は同期という形になります。仲良くお願いしますね」

「はい。よろしくお願いしますね、皆さん」

「ああ。魔法少女……なんだか、昔の夢を掘り起こされたような気分だよ」

「……はい」

 

 一度ァ聞いた、けれど今回ァ同期のいる入園。

 今の私の見た目ァ梓・ライラックとは似ても似つかぬソレだけど、身体能力や魔力量が低下したワケじゃねェ。から、ちゃんとセーブしねェとバレる。何より私ァ魔物に襲われねェからな、あんまし前に出るわけにゃいかねェ。なンで、遠隔魔法少女って事にしてもらった。

 今のEDENァ早々危険なことさせられねェって話だけど、万一もある。

 救いがあるとすりゃ、アイツが療養中……つまり隔離塔にいるンでバレる心配ァあんまりないってトコかな。アイツめちゃくちゃ鋭いから多分変装してても対面したらバレる。それが無いのだけが救いだ。

 

「今から学園エデンの案内に移りますが……その前に、お互いの魔法の紹介をしておきましょうか。魔法というもの自体が初めてでしょうし、もし暴発してしまったら大変ですからね」

「ええ、わかりました。私。リキュア・アールレイデの魔法は【転候】。極々限られた範囲内でなら、天候に作用し、それを変える事ができます。攻撃性の少ない魔法ではありますが、天候を制御するオリジン種の多く出現する昨今であればEDENのお役に立てると思います」

 

 なンか売り込んでンなーこの子。

 って思った。まァアールレイデ家……お嬢と同じな家名な辺り、対抗心だのなンだのもあるンだろうけど、明らかに今の学園でどォするか、じゃなくて、軍事部に入ったらどォ役に立てるかの紹介って感じだ。

 そのお嬢ですらまだ学園生だっつーのに。……まァ、もう卒園しちまうんだったか? 確か八回生だよな。留年しなけりゃ確実にどっかの軍部に入る。……そォか、お嬢と学園生活送れるのもここ逃したらもう無いのか。

 

 その辺マッドチビがわかっててくれた──ってこた無さそうなンだよな。

 あの人そォいう気遣いとかないし。優しくて律儀なのァ認めるけど、それよかこの変装道具がどこまで通じンのか、って方を気にしてそォだ。作ったモン試したくて仕方ないって人だし。

 

「李・理央。この辺りじゃ珍しいと思うけど、北方の生まれだよ。魔法は【気烈】。どういう魔法かは、見てもらった方が早いかな。随分と長い間魔法だと思って使ってなかったから、魔法だっていう自覚もないんだけどね」

「……長い間?」

「お、興味を持ってくれるんだね。そう。私は北方のとある村で気功というものを教わっていてね。それは結局特別な力なんかじゃなく、武術の一つだったんだけど……いつしか本当に気功が放てるようになっていたんだ。師はそれを努力の賜物だと言ってくれたから、長い間そういうものだと思って使っていたんだけど、ある日村を大きな蛇の魔物が襲ってね。村は壊滅し──けど、私一人が生き残った。その蛇を撃退することで、ね。その時に気付いたよ。これは気功なんかじゃなくて、遠くに伝え聞く魔法なんだ、って」

 

 あァ話長い子ね。了解。

 クセ強いなァ2人とも。いんやさ引っかかっちまった私も悪いけどさ。

 つかあのクソヘビやっぱ悪さしてンじゃねェか。っとに、私達が行った時も丸呑みにしてくれやがって、あのベトベトでくっせェ腹の中、叩き切ってやりゃよかった。

 

「貴女は、どんな魔法を使うの?」

「君はどんな魔法を使うのかな?」

「……【致息】。呼吸を必要としているなら、必ず殺せる」

「おお……凄い魔法だね」

「ええ、多くの場で役立ちそうな魔法です」

 

 完全なる嘘だけど、確かに似た効果があるのでコレにした。

 そもそもの話をするなら、私は魔法少女ですらない、という部分も変装道具とやらで完全に隠れている。この喋り方も。ほんとァこォいゥ喋り方なンだけど、勝手になんか根暗な感じになンだよな。毎度思うけど、マッドチビの魔工学とやらァ意味わからん。製作にァ安藤さんと、さらにァ【合成】の奴が関わってるらしく、結構なすげェ機構なンだと。

 できれば壊さないで欲しい、とのこと。どォなったら壊れるか聞けなかったンで、何やったら不味いのかわからなくて怖い。二個目ァ作れるか怪しいとか言ってたし。材料がなんぞ特別なンだと。ンなもんもっと大事な時に使えよ、って思う。

 

 それこそEDENに潜入する時とか……って、そォか。もうEDENァ用済みだから、要らなくなったってことか?

 

「ミズメさん、行きますよ」

「緊張しているのかな。大丈夫、ほら、手を握って」

「……ん」

 

 手を──握る。

 義手だけど、人間の肌の質感の再現された手。私の義手っつか右腕っつーのァどんだけ蘇生しても生えてくる事ァないらしい。元のアイツがそォだからな。まァいいよ、これァこれで、っつか色々便利だし。

 ……アイツに言われた、MYTHOSの非人道的な機構。うん、それについちゃ私も事実知って外したくなったから、マッドチビに言ってそいつらァ解放してもらった。今この義手に入ってンのァちょいと違う精神体だ。

 私だって真っ当な倫理観っつーか、他者を自分の為だけに利用するのァ良くない、みたいな道徳心ァある。……だから、仲間を作ろォとした、って言われて……やっぱり、色々思っちまった。そォだよなァって。無理矢理さ、私の仲間になって。それァさ、そいつァさ、ホントに仲間なンだろォか、って。

 マッドチビ達ァ気にしねェみたいだし、安藤さんですら使えるものァ使え精神だからあンま意見できねェんだけど、やっぱ違ェよな、それァ。

 

 やらなきゃいけねェ事の前に犠牲ァ必要だってのァ理解してる。

 でも、必要ないことの前に犠牲っつーのァ要らねェよな。

 

「こっちが教室です。AからDまでのクラスがありますけど、特に優劣で決まる、とかではなく、どの時期に入ったか、で決まりますねー。授業も常に教室で受けるわけではなく、初めの内は移動教室も多いと思うので、覚えられないようでしたら地図を持つか、他の生徒さんに聞きましょう!」

 

 一瞬、窓に隔離塔が映った。

 ……あそこにいる、ンだよな。っとに悪運の強い奴っつーか、助けた身だけどさ、あンなンで助かるのァどーかしてるって。私ァその痛みを知らないけど、同じよォにフリューリ草の花弁で魔力補給したことあるらしィニヤニヤ丸眼鏡ァ、想像を絶する苦痛、って言ってたし。あのニヤニヤ丸眼鏡が言うんだから相当だぜ。

 

 それを乗り越えて。ちゃんと仲間が来てくれて。

 ちゃんと、助かって。今頃お嬢達とお菓子パーティでもしてンのかねェ──。

 

「あら? フェリシアさん。もしかして後ろの方々は、新入生、ですの?」

 

 ──。

 

「あ、フェリカさん。はい、そうですよー。しかも、妹さんも来ています!」

「妹? ……へえ、もしかして、アールレイデですの?」

「はい、フェリカお姉様。そのお噂はかねがね聞いております」

「ふふ、少し間が開きすぎていて、姉と呼ばれるには……な気がしますけれど。これからは同じ魔法少女として、よろしくお願いいたしますわ。軍部の方にはアムリタもおりますので……」

「はい。アムリタお姉様にもご挨拶させていただくつもりですわ」

「それが良いでしょう。ああ、申し訳ありませんの。こちらの事情で引き留めてしまいまして。では、どうか楽しいエデンでの生活を。私は用がありますので、この辺りで失礼させていただきますわ」

 

 ぺこり、と。

 お辞儀をして、去っていく──去っていこうとする、金髪お嬢様に。

 

「あっ……の……」

「?」

「……あ、いえ、なんでも、ないです」

 

 思わず声をかけてしまった。

 いやいや。

 いやいやいや。

 私。少しァ自制しろよ! 無理だろ! なンて話しかけるつもりだったンだよ! なンて言ってもバレかねねェだろォが!!

 ……そォだよ、今の私ァ梓・ライラックじゃなくて、誰でもねェミズメなンだ。しっかりしろ。今の私にァ、誰との関係性も……無い、ンだよなァ。はァ。

 

「……貴女、お名前は?」

「えっ……あ、えと」

 

 気付いたら、眼前にお嬢の顔があった。 

 うー。うー。

 私だよ、お嬢、って。言いてェ。言ったら殺し合い確定だし折角の機会があんまりにも勿体無いけど……お嬢にこれ以上嘘吐くのか、私。あの短い間ですら騙しといて……これ以上、これ以上……!

 

「あっ、あっ、あら? 泣かせてしまいました……ごめんなさい。私、もしかして圧があったりするのでしょうか……」

「大丈夫ですよ、フェリカさん。ミズメさんも。初めての場所で緊張するのは誰でもあることです。大丈夫ですか? 自己紹介できますか?」

「──大丈夫。……ミズメ」

「はい、よろしくお願いしますわ、ミズメさん」

 

 いんやさ。

 なーに泣いてンだ私。もうそろ14歳だぞ。子供じゃねェんだ、ンなボロボロ涙流すとか恥ずかしィにも程がある。

 あー。あーあー。同期の2人にもやべー奴だって思われたってコレ。いややべー奴なのァ間違いねェんだけどさ。

 

 ……お嬢。金髪お嬢様。フェリカ・アールレイデ。

 私ァ──。

 

「貴女、私の知っている人に……どこか似ていますのね」

「!?」

「ああ、いえ。申し訳ありませんわ。あんまり刺激してしまうのはダメですのね。それでは、今度こそさようなら、皆さん。次に学園内で出会いましたら、その時にはゆっくりとお話いたしましょう」

 

 では、なンて言って。

 お嬢ァ去っていく。

 

 ……わかる、モンなンだなァ。

 それが──今、すっげェ嬉しいのァさ。ダメなことかね。私ァ結局お嬢達の敵なのに──。

 

「大丈夫ですか、ミズメさん」

「ミズメ、涙は止まったかな」

「ミズメさん、ごめんなさい。お姉様は悪い方ではなくて……」

 

 あー。

 まず、こっちだな。

 私の嬉しさとかァ、まァ、後々噛み締めるとして。

 

「……大丈夫。ごめん、心配してくれて、ありがとう」

「いいんですよー! それじゃ、案内再開しますね!」

「大丈夫。大丈夫だよ、ミズメ」

「ええ、大丈夫です。私達が貴女を守ってさしあげますからね」

 

 ……アレ。

 なンか──なンか、想像してた対応と違う、よォな?

 

えはか彼

 

 寮の部屋に寝転がる。

 無駄な散歩ァしない。して、また知り合いに遭ってボロ出すの怖いってのと──なンだ、やっぱりここに帰ってきた、って思いが……ちょいとニヤけちまう。

 ミズメ、なンて少女ァいない。いないし、今日会った人全員騙してて、これから会う奴らも全員騙してて……最後にゃ敵になる、障害になるだろォ存在だってのに。

 

 なんか、楽しかったなァ。

 

「ん?」

 

 ノックされた。

 なンだろ、こンな時間に。まァ魔法少女っつーのァ寝ないのも多いから、同期あたりかなーとか思って。

 

 油断して、ドアを開けて。

 

「よォ」

「──ッ!?」

 

 その車椅子姿に、思い切り飛び退いた。

 一瞬で色々考える。もう使うか、緊急脱出機構。それとも魔物? いや、コイツを黙らせちまえばいい話──。

 

「まァそォカッカすンなって。ほれこれ、入園祝い」

「……は?」

 

 渡されたのァ──なんか、甘い匂いのする箱。

 でかでかと書かれているのァ、PARLER(パルリ)MER(ミラ)の文字。

 

「本店見つけたのかよ!」

「オイ大声出すンじゃねェよ。見つかるだろ。俺が抜けだしてきてンの自体結構無理してンだから」

「いやだってお前、パルリ・ミラつったら、EDEN中探しても見つかんなかった伝説の……」

「暴走繭にな。聞いたら、店主と懇意だってンで、ちょいと見繕ってもらった」

「へェ……じゃ、なくて」

 

 なんだ、コイツ。

 何しにきやがった。入園祝い? 何言ってやがンだマジで。

 

「いんやさ、俺ァもう当分隔離塔で過ごすし、学園生活ってな十二分に謳歌できたとァ言えねェからよ。せめて楽しんでもらおうと思ってさ」

「……何が狙いだよ」

「ハハ、面白れェこと言いやがる。馬鹿が、お礼に決まってンだろ。助けてくれてありがとよ。今俺が生きてンのァお前のおかげさ。だから」

「だから──見逃してやる、ってか? ……馬鹿にしやがって」

「卑屈になンなって。お前、どうせ梓・ライラックでしかないンだろ? ならちゃんと学園生活を楽しめるはずだ。俺ァどーにもきゃいのきゃいのってのがきちィからな、お前なら、梓・ライラックに学園生活を楽しませてやれンだろ」

「……何言ってるかわかんねェよ」

「ハハハ、俺もそォ思う。……この事知ってンのァ、俺と冷静メイドだけだ。冷静メイドも普通に接してくれるらしィんで、そこんとこァ大丈夫。他のにァ言ってねェからバレねェよォ注意しろよ」

「お前、わかってンのか? 私達ァ魔法少女の精神体抜いて魔物の精神入れるよォな奴らだぞ。私が来たの分かったンなら、とっとと追い出せよ」

「馬鹿が、やる気も殺意も無ェ、学園生活楽しくて仕方ねェって顔してる女の子にンな仕打ちできる奴いるわけねーだろ」

「女の子って……」

 

 意味わかんねェ。なんなんだコイツ。

 ……ホントに。

 

「いいのかよ」

「お嬢とかポニスリを盗っちまって、とか言う気か? ケケ、やれるモンならやってみな。アイツら、お前が思ってるより弱かないぜ。俺も最近ァ圧倒されてばっかさ。案外、俺もお前も掌の上で踊らされちまうかもしれねェな」

「……」

 

 やっぱり、嫌いだ。

 こいつとァ考えが合わねェ。嫌い。嫌い。

 

「──生きてて良かった、なンて顔してやがる奴に、ありがとう以外の気持ち抱くわけねーだろ。精々ヒトの生活ってなを楽しみな、中学生。どうせ一年も居られねェんだろ? マッドチビ含め、封印措置の魔法少女達がなンかやってンのァ知ってンだよ。だから、楽しめるモンァ楽しめる時に死ぬ気で楽しめ。俺ァもう十分に楽しんだ後だからな。こっちの余暇ァお前にくれてやる」

「十分に楽しんだ後って、お前だってほとんど……」

「お前がなーんにも知らねェってだけさ、アズサ。ああいや、今はミズメ、だったか」

「お前の方が何にも知らねェだろ。……この世界に今起きている事も、何にも」

「ハハ。かもしれねェけど、俺のこた俺が一番知ってるって話さ。んじゃ、まァもう園内で会うこたないだろォから、これだけァ言っとくぜ、ミズメ」

「なん、」

 

 銃声。

 気付かなかった。咄嗟に義手を構えて──。

 

「ハハハハ、クラッカーって奴だ! 初めて見るだろ。驚いたか? ハハ、俺もちょいと市場区画のおばちゃんに頼んで作ってもらった試作品でよ、結構出来良くて驚いてるが──おわ!」

「馬鹿ですか、と言っておきます。梓様。今の音で複数人に気付かれました。強制退去です。──では、ミズメ様。良い夜を」

「じゃァ気ィ散らすためにもう一発パーンってな!」

「義手取りますよ」

「ちょ、馬鹿無理矢理引っ張ンな痛ェから! 取るにァコツがいンだよ!」

 

 ……っとに、嫌いだ、アイツ。

 

 

 

「ミズメ!」

「ミズメさん!」

「……? どうしたの、そんなに、慌てて」

「どうした、って……この階で不審者が現れた話、知らないのか?」

「学園エデンに侵入するというだけでも凄まじい手練れ。けれど、ミズメさんに大事が無くて良かったです」

「……うん。ありがとう」

 

 本当に。

 なンでアイツ、あンな元気なンだろォな。

 しんみりしてた私が馬鹿みてェじゃねェか。

 

 ……馬鹿、なンだろォなァ。

 私もアイツも。あとマッドチビも。

 

えはか彼

 

 授業が始まった。

 つってもまァ、踏襲もいいトコだ。教本の内容をおさらいするだけ。

 でもなンだ、EDENの改正ってなエデンにも及んでいるらしく、特に近接魔法少女ァ突貫して突っ込め、みてェな事を遠回しに書いてた部分が無くなってたり、魔力が切れたら肉壁になれ、みてェなコト書いてあったトコが丸々削除されてたり。

 ……今考えると酷ェ教本だったなァ、オイ。

 

「ミズメ」

「……はい」

「魔法少女にとって一番大切なコトは、なんだ」

「……死なないで、みんなと協力して、魔物を倒す事、です」

「うむ。それでもよろしい。では──」

 

 変わったコトってな、やっぱりコレかね。

 どォしても効率的な死っつーのァある。仕方ない犠牲もある。けど、とりあえず大前提として、死なないで。ちゃんと協力して、魔物を倒す。ってのが、魔法少女にとっての一番大切なコト、になったらしィ。まァ魔物ってな魔法少女の因子が欲しくて来るからな、そこァ仕方ない。安直ちゃんも別にそこについて魔法少女に恨みがあるとかァ思ってなかったみたいだし。

 自然の摂理って奴さな。食おうとしてンだから、殺されても当然、みてェな。たァ言え魔法少女側から魔物をどォこォって事ァないンで、対等な関係ってワケじゃねェんだが。

 

 魔法少女、ねェ。

 色々知っちまった身からすると、これほど異質な存在ァ無い、って感じだ。あのニヤニヤ丸眼鏡を始祖として、創設者たちが築き上げた魔法少女の学園エデン。国家防衛機構EDEN。

 なんつーか。

 利用されるだけ利用されてンのに、それになーんにも気付かねェで、それが当然みてェに笑いあってて。

 

 ちょいと、憐れっつーか。

 可哀想だな、って。そォ思うよ。

 

「──そして、近年魔物の動向が激化している。特にイオルー、オリジン種の活動が激しい。そのため学園は魔法少女の戦闘力向上及び自分を守るための術、という部分に着目していて──」

「──そのため、創設者の1人であるビーファン殿が、特別に──」

「──以上だ。何か質問のある者はいるか? ……いないな。では、授業を終える。移動教室のある者は忘れず行くように」

 

 一度指名された後ァなーんもなく。

 まァ、ぼけーっとしてて、授業が終わった。

 

 次ァ、実技か。

 ……ちゃんとしねェとな。

 

「こんにちは」

「……はい」

「名前は、ミズメ。合ってる?」

「……はい」

「次の、合同実技。実力者と、初心者。組むことになった。私は、シェーリース。よろしくね」

「……はい」

 

 どーンな采配してやがンだあの先公。

 確かに私ァA級認定されたよ。遠隔の中でもチャージほとんど必要ない奴だし、それなりの応用力見せたンで、あと魔力量がそれなりなンで。

 だーからってなンでいきなりS級と組ませやがる。しかも背中メッシュ。

 ……背中メッシュか。あの日。

 ホートン種のせいにして、色々やったあの日、あの時に……【光線】で脚を抉られた背中メッシュを殺して。……それ自体ァ、別に後悔してねェけど。そっから……魔物の精神体入れて、仲間にしよォとして。

 

 もしあそこで止められてなかったら──コイツの中身ってな、【槌憶】で作り変えられた魔物、になってたワケで。

 

「?」

「……いえ。ごめんなさい。今、行きます」

「謝らなくて、良い」

 

 やっぱりダメだな。

 仲間を作る、ってな──私ァもう、無理かもしれねェ。ごめんなマッドチビ。なんぞ、まだまだエデンにァ面白い魔法持ってる子がいるから、みてェに言ってたけど。

 私にァ──そォいう対象にァ、見れねェや。ほんと、ごめん。

 

 

 

「魔力。チャージの仕方、わかる?」

「……はい。全身を、巡る魔力を、感じて、集中したい所に、意識して集める。ですよね」

「うん、そう。大丈夫そうだね。じゃあ、お手本を見せるから。次に、使ってみて」

「……はい」

 

 先日尖り前髪が両断した修練塔。それも直ってる。いやァマジでEDENの施工班ァ仕事が早ェよな。マッドチビじゃない方のマッドチビがやったンだろォけど。

 しっかしこの変装道具、ちょいと億劫になってきたっつゥか。自分で喋ってて早くしゃべれよコイツ、とか思っちまうっつーか。

 

 まァ背中メッシュも喋るの遅い方だから、噛み合ってるっちゃ噛み合ってンだけどよ。これが太腿忍者とかだったら大変そォだ。

 

「【神鳴】」

「──!」

 

 とか考えてたら、背中メッシュの魔法が降ってきた。

 近くで見るとマジで威力やべェな。いつもァ空に起点置いてそっから落としてるはずだけど、今回ァ屋内ってこともあって威力抑えめ。その上でこれだ。肌を焼く熱量と、ピリピリ来る紫電。

 そう、【神鳴】ァ屋内じゃ使えねェ魔法だったはずなンだけど、練習して使えるよォになった、とかで。いんやさ、私の知らない間にみンな色々できるよォになってンだなァ、って。なンか保護者みてェなコト思っちまったりして。

 

「やってみて」

「……でも、【致息】は、相手が、生物じゃないと」

「大丈夫。修練塔の、人形は。そういう魔法にも、対応できる」

「……わかりました」

 

 そォなのか。

 結局アイツだった頃って修練塔ほっとんど使ってなかったからあンま知らねェんだよな。お嬢達とちょいとやったのと、尖り前髪に殺されかけたくらいか?

 あとァまァ、疑似ホートン種の件でちょろっと行ったか。……あン時あと一歩でも修練塔に近づいてたら、あの【青陽】とか言うのに消し炭にされてたンだよな。っとに危ねェ。

 

 さて、考え事してねェで──やるか。

 

 想像すンのァいつも使ってる銃。魔力っつー名前の銃弾を手のひらに装填して、狙いを定めて──殺す。

 私の魔法、とでもよぶべきモンァ、【致息】なンてモンじゃない。息を止める、詰まらせる、なんて効果じゃねェ。もうちっと怖いっつか、【即死】に似た魔法だ。似てるだけで【即死】じゃないンで即座にァ殺せねェんだけどさ。

 

 でもまァ、似たような効果が──人形に現れる。

 人形。

 内部構造を人間に模してあンのか知らねェけど、殺した人形ァ数秒経って──ばたん、と倒れた。

 

「うん、いいね」

「……ありがとうございます」

 

 いいのか?

 これ、何が起きたのか、とかわかる仕組みになってンのか? いやなってたらやべェんだけど。

 

「チャージの速度も、狙いも良い。即戦力」

「……はい」

「昇級試験は、一年先だけど。これならすぐに、S級になれるよ」

「……ありがとうございます」

 

 一年。

 その先にァ、いねェなァ、私。

 期日ァわかってる。完璧にじゃねェけど、だいたいこのあたり、っつーのァマッドチビから明示されてる。

 

 それでも。

 ……まァ、入園祝いも貰っちまったし。

 

「SS級、SSS級。一緒に目指そうね」

「……はい」

 

 あんまりしんみりしてねェで、この状況を楽しませてもらいますかね。

 

えはか彼

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