遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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69.意例唄連都.

 ──終の因。

 ニヤニヤ丸眼鏡が作り上げたというその迷宮ァ、本来なら地表にあったものだ。外から流入する魔力を惑星にそのまま注入するために、完璧な形と完璧な構造になっている……ってな話だったが、それを攻略しちまったEDENの創設者たちによってその役割ァ少しばかり捻じ曲げられた。

 最初の予定でァ、魔法少女も魔物も等しくどこにでも発生し、それを摂理として殺し合う──つまり魔法少女も魔物の一部としてこの世に現れるはずだった。それを、終の因が宙に浮いちまったことで魔力が集中する場所ができちまったと。ンで、そこに魔法少女の因子を持ってる奴を隔離して、そこからばかり魔法少女が生まれるよォにしたと。

 

 それァやっぱり、ニヤニヤ丸眼鏡の望む所ではなくて。

 できりゃァ落としたい……てな話だったが、流石にそりゃ下の国がやばいことになりすぎる。あと学園長であるグロアって魔法少女のお婆さんの魔法が強力なンで、どォにも無理だと。

 よって──その役割の変更を。

 

 ソテイラに伝えてきてほしい、みてェな所謂「おつかい」を頼まれたワケだ。

 

「……はァ」

「なにをしているの、ミズメ?」

「こんな夜更けに迷宮探索かい?」

「……!」

 

 うわ、って。

 思っちまった。

 

 リキュアと理央。

 もうそれなりの時間を過ごした2人だけど、実ァまだ一緒に戦った事っつーのァ無い。演習任務も修練もそこそこあったンだけど、エデンの改正によってか新人だけを組ませるっつーのァ無くなってて、必ず先輩方々が守りについての慎重任務なンで、なんつーの。危険性っつーのがまるでない。

 別にそれでも良いたァ思うんだが、流石に過保護になりすぎなンじゃねェかなって。これじゃァ単独になった時自分を守り切れねェだろ、とか思わないでもない。

 

 話が逸れた。

 まァ今何が言いたいのかってーと──ちょいと、面倒だな、って。

 

「迷宮……高難度の魔物が多く存在するという場所ですね。お姉様達が攻略した時、迷宮の主との話し合いを経て"倒した魔法少女を殺さずに排出する"という取り決めが為されたそうですが」

「腕が鳴るね。安全に、けれど魔物と死闘ができる──そういうわけだろ?」

「……はい」

「でも、何の断りもなく入ってよろしいのでしょうか」

「こっそり入って、朝が来るまでに寮へ戻ればいいんじゃないかな?」

「……ふふ、私、アールレイデとして規範に則ったことばかりしてきましたけれど、こういう夜遊びも……なんだかワクワクしますのね」

 

 あー。

 私1人なら魔物に襲われずに行けるンだけど。

 まァ中盤に差し掛かるくらいでこの2人ァ倒れてくれるだろ。特にリキュアの魔法ァ閉所じゃ使いづらいだろォし。ってか使えんのかな。そんな事も知らないや。

 

「……鍵は、あります」

「見張りの魔法少女もいないみたいだ」

「では──行きましょうか」

 

 まァ見張りァちょいと眠ってもらったンで。

 本来なら【断裂】っつーかなり厄介な魔法持ってる警備班の隊長サンがいるんだけど、【隠涜】サマサマってこったな。

 

 んじゃ──久しぶりに、行きますか。

 終の因。私がアイツから別たれる前の、お嬢とポニスリと入った──最後の場所。ある意味、思い出の場所へ。

 

えはか彼

 

 射る。

 射る。

 安藤さん程の腕じゃねェが、弓を扱ってる武具店探して作って貰ったクロスボウで、襲い来る魔物をどんどん射って行く。完全に忘れてたコトだけど、安直ちゃんに付き従ってねェ、こォいうとこに隠れ住んでる魔物っつーのァ単純に生存のため、あと餌のためにと襲い掛かってくるンで、私1人で入っても襲われねェなンてことァなかったな、って。まァ疑似【隠涜】でどーにかなったろォけど。

 

 マウス種、バット種。基本ァそいつらだけど、たまにスパイダー種とかワーム種がいて、リキュアァちょいとそォいうのが苦手っぽい。マッドワームもエストスパイダーも然して強くねェからいいけど、外にァやべーのもいるンで今の内に慣れといた方が良いと思うけどなァ。

 

「──曇りなさい!」

 

 そォそォ、リキュアの魔法、【転候】だけど、最初に危惧していたよォなことにァならなかった。ちゃんと閉所でも使えるらしい。なんでも、ここは晴れている扱いだから、晴れを曇りにしたり雨にしたりァできる、と。これ、"役割の統合"起きたら凄まじく強力な魔法になりそォだな、とか思いながら──射る。

 使いやすいわ。銃と似た感覚で使えてる。装填がちと面倒だが、腕の部分強化、指の部分強化でぱっぱといけるのァありがたい。

 アイツみてェに一々知覚強化してから他の部位に流す、みてェなことしなくていいからな、私の身体ァ。素の動体視力、反射神経だけでこの辺の階層の魔物の速さにァついていけるンで、なンなら矢を使う必要もない。殴り殺せる。

 

 それを実際にやってンのが理央。

 魔法を使わず身体強化だけでガンガン進んでる。時たまリキュアの作り出す雲の中に引いて、視線切って、そっからまた飛び出して、みてェな感じ。あくまで天候を変えているだけで雲を創り出しているわけじゃない、らしィんだけど、そこんとこァよくわからん。流石魔法だ。それくらい。

 

「ふぅ、迷宮……どんなところかと期待していたけれど、案外大したコトないんだね」

「まぁまだ上階ですし。奥に行けば行くほど魔物も強くなっていく、と聞いていますよ」

「そうなんだね。じゃあ、ぱっぱと行こう。腕試しの場なら──もっともっと強い魔物と戦いたい」

 

 血の気の多いことで。

 ……前入った時ァ、いっぱいいっぱいだったけど。

 お嬢とポニスリァこんな気持ちだったのかなァ、なんて。私ァついていくのに精いっぱいだったし、守ってもらいながらだったし。キラキラツインテが来てくれてなきゃ、私ァ一生部分強化もしてなかったンだろォし。

 ……それで、たとえば中盤辺りで死んでたら。

 今の私ァ、いなかった……んだろォな。ここでアンゲルがアイツの腕潰してくれたから、私が生まれ出でることができたわけで。

 

 そォ考えると、ここっつーのァ私の誕生の地でもあるわけか。

 

「ミズメ! そっち一匹行ったよ!」

「……問題ないよ」

 

 大きく足を上げて、蹴り潰す。

 ケイブバット。こンなのも見えなかったンだから、アイツの身体っつーのァ本当に基礎能力が低いンだろォなァって。

 

「流石だね」

「かっこいいですね、ミズメさん」

「……ありがとう」

 

 この変装の見た目っつーのァ結構地味目っつーか、梓・ライラックみてェな銀髪でもなけりゃ口調もンなオラオラしてねェんで、割合武闘派だって知られた時ァ色々言われたもんだ。授業での試合以外にも、先輩方々との演習でも、な。

 特に尖り前髪とポニテスリットが、ちょいと怖めの目線送ってきてたのが印象的だった。何かに気付いたのか、それとも手合わせ願いたい、みてェな奴なのかァ知らねェけど。

 

「よし、私も負けていられないな」

「ええ、私も──そろそろ、攻勢に出ます」

「……頑張ろう」

 

 一瞬、口元に手をやりそォになった。

 ……回復なんざ必要無いし、あの死ぬほど不味い煙草なんざ吸うつもりァ無いのに。

 

 心機一転、みてェな時ァ必ず吸ってたからかね、クセになってるんだ。

 

 さて。

 とっとと踏破して、おつかいァ済ませちまいましょうね、っと。

 

 

 

 

「──【気烈】!」

「一帯を雷雨にします! 下がってください、理央さん!」

「ッ、そうさせてもらうよ!」

 

 1つ目の休憩地点を挟んで、ちょいと戦闘ァ激化してきた。

 懐かしの大蛇君ァまだ健在。けど別にコイツ何もしてこねェんで無視。厄介なのァそれよりも小せェナメラスネイクって種だな。いつか【即死】の絶対防御開発で殺した奴。

 こいつァ色んな方向から飛んできて噛みついてくるンで、対処がだるい。毒だのなンだのっつーのァ無いんだが、噛む力がそこそこあるンで噛みつかれると結構危ない。すでに理央が足と腕を噛まれちまってる。私が先んじて情報渡しときゃよかったンだけど、じゃァなんで知ってンだ、って話になると困るからな。

 悪い事をした、とァ思ってる。

 まァこの辺の魔物ならもう殺さずに排出ァしてくれる、たァ思うんだけど、排出されたらされたで傷だのなンだのァ残ったままだ。それを理由に死を選ぶ魔法少女も少なくァないはずなのに、っとに何を考えてアイツァこんな条件をソテイラに課したンだか。

 

 大怪我したら、死んだ方が流石に苦痛ァ無いだろ。魔法少女なンだし。

 

「……理央。大丈夫?」

「ッ、大丈夫さ! 修行の中ではこういう怪我もあった。けど、人間の治癒力というのは凄いものでね。適切な処置をして、包帯を巻いておけば、一年や二年もすれば治るんだよ」

「ええ、死んだ方が早い、という方もいらっしゃいますけれど──自然治癒力で治し得る傷ならば、それは勲章となります」

「……」

 

 あれ。

 ……もォ、そんなにもそォいう考えが広まってンのか。

 エデンの教育ァ行き届いてる、ってか? ……ま、良いんだけどさ。本人がいいなら。

 

 けど……この先ァ、自然治癒じゃァどォしよォもねェ怪我負う階層になるぞ。

 

「ミズメさん?」

「……2人は、引き返した方が良い」

「え?」

 

 まァあんまり怪しまれたくないンでいうつもりなかったンだけど。

 ソッチの考えしてンなら、来ない方が良い。無理なモンァ無理だ。

 

「……この先は、噛まれたとか、ひっかかれたとか、そういう、小さな、怪我じゃ、済まない」

「心配してくれているのかい? けど、大丈夫。ミズメは私の強さを知っているだろ?」

「そうですよ、ミズメさん。それに、私達は同期。どこへ行くにも一緒、です」

「……知っているから、引き返した方が、良い。そう、言っている」

「!」

 

 友情だとか連携だとかでどォにかなる領域じゃねェんだわ。

 歴戦の【波動】、SS級が【神速】、殺傷能力だけァSS級の【即死】だった3人だからこそあそこまで行けたってだけで、今の私達3人じゃどーやっても無理。つかアイツが夜の使徒じゃなかったら普通に死んでたしな。

 まだ魔法少女になったばっかりのA級3人じゃ──どーやっても死だ。私ァ死なねェけど、2人を守れるか、つったら多分無理。守りながら戦う、ってやり方、私ァ知らないし。

 

「それは──私達の実力では、これ以上は無理だと。そういうことですか?」

「……そう。理央の、噛まれた傷も、リキュアが、隠している、足の傷も。この時点で、魔物の攻撃を、避け切れていない。から、無理」

「ばれていましたか……」

「──ミズメ。それは──君なら、先に行けると。君だけなら先に行っても問題ないと──そう言っているのかい?」

 

 う。

 あー。

 いんやさ、まァその通りなンだけど。……折角ここまで築き上げた関係性に、罅入れちまう、かなァ。

 けど、これ以上ァホントに不味いンだよな。絶対2人ァ大怪我するし……それで排出されたとして、そのまま、ってワケにゃ絶対行かない。まさか隔離塔でアイツみてェに療養する、っつーワケにも行かないだろォし。

 

 心を鬼にして。

 言わないと。

 

「……そう。2人じゃ、無理」

「……」

「……」

 

 あー。

 どォしよ。黙っちまった。

 いんやさ、金髪お嬢様とポニテスリットもこォいう気持ちだったンだろォなァって。本当に今、まさに、て感じだ。完全に立場逆転、だよな。

 

 あン時の私ァなんて返したっけ?

 

 ──それでも嫌だから、とか。

 そんなんだっけ。

 

「でも、死なない、のですよね。どれほどの目にあっても」

「……殺されないだけ、か。怪我を治してくれるわけじゃない。私達は、再起不能な怪我を負う可能性もある。そういうことを言いたいんだよね、ミズメ」

「……うん」

 

 へェ、案外理央の方が物分かりいいンだな。

 食い下がるなら理央の方で、リキュアが諫めるのかと思ってたンだが。

 まァ自然の猛威みてェなのァ理央の方がよくわかってるか。

 

「……ごめん、ミズメ。それでも……今の私がどこまで通用するのか、やってみたい。その果てに死を選ぶというのは、今のエデンで教えられている事とは違ってしまうかもしれないけれど、それでも──君がそこまで言う場所であるのなら」

「私もです。遠隔魔法少女として、私のこの天候を変えるだけの魔法がどれほど戦に耐え得るのか。それは──試さなければならないこと」

「……そっか。じゃあ、本当に、つらくなったり、痛かったりして、──死にたいって、思ったら」

 

 クロスボウを構えて。

 ──撃つ。

 

「……言って。安らかに、眠らせて、あげるから」

 

 2人の背後に迫っていたナメラスネイクを射て。

 

 そこまで言うなら、仕方ねェ。

 私ァアイツとァ違う。本人の意思で戦いてェって思ってて、死んでも良いから実力を試してェ、なンて思ってる仲間の意思を折る、なんてことァしない。

 ただ、苦しくなったら。痛くて、つらかったら。ちゃんと殺してやる。【即死】ほど安らかじゃねェかもしれねェけど、私本来の魔法で、ちゃんと。

 

 傷を負わせたままになンてしない。

 つらいんなら逃げて良いンだ。苦しいンなら縋っていいンだ。苦痛をそのままに生きろ、なンて。

 強い奴のいう事だ。彼女らァまだ幼くて、弱いんだから。

 そんくらいの弱音ァ聞いてやんないと、可哀想だろ。

 

「……ふふ」

「はは」

「……? 何か、おかしかった?」

「いえ……初めの印象と、真逆ですね、と思いまして」

「私もそれで笑っていたよ。ほら、学園案内の時、フェリカさんに見つめられて泣きだしちゃっただろう? あの時、この子は私達が守っていかなきゃな、なんて思ったものだけど」

「ミズメさん。貴女は守られる者ではなく──前を進む者ですのね」

「……ありが、とう?」

 

 後ろに続く者のために、前に進み続ける者。

 私がアイツだった時に思った言葉だけど、意味はよくわかっていない。夜の使徒関連の言葉だと思うンだけど──それが、私にも受け継がれている、のだろうか。

 

 けど。

 私が示す道は──魔法少女にとっては、崖へと向かう危険な道なンだ。

 あんまり信じてついてこられても、困る、かな。

 

「行こう。もうすぐで半分なんだろ?」

「行きましょう、ミズメさん。共に」

「……うん」

 

 それに──多分。

 一瞬で、無理だと思うから。

 

えはか彼

 

「──ッ、あ、ぁアっ!?」

「リキュア!? クソ、【気烈】!」

「……」

 

 まァ正直、ほらな、って感じ。

 とうとう出てきたゴーレム種。【即死】の無いパーティじゃ、有効打っつーのがあんまりない。【気烈】で核をぶっ飛ばすくらいかなー。あるいァ下に満ちてる水に【転候】で雷雨降らせて雷を、とか? それだと私達も巻き込まれるけど。

 

 今、リキュアが背後から来たゴーレム種に殴られた。ブロックゴーレム。アダマンタイタン程じゃァねェけど、それなりに固い身体と、ゴーレム種らしく核を壊さねェ限り何度でも蘇る厄介な奴。実ァその体内を核が高速で移動してるってだけで、近接魔法少女でも倒せるゴーレム種でァあるンだけど、まァリキュアにァ対処できねェだろォさ。

 

 私だってただ黙って見てるわけじゃねェけど、この辺になるとクロスボウじゃどォしようもない。銃より威力低いからなー。今ァもう殴る蹴るに変更してる。

 

「……理央、後ろ」

「ッ、く──う、ぐ……がッ!」

 

 今度ァ理央が鎧騎士に斬られた。身体強化で刃ァ身体に入らないよォにしたっぽいけど、だからこそ単なる打撃が腹に直撃したよォなモンだ。

 あー。

 無理かなァ、これァ。

 

「……リキュア。立てる?」

「っは──っは、ぁ、だい、じょ、う、」

「……無理そう。背骨が、折れてるね」

「ま、だ。私は、ま、」

 

 無理だろ。

 背骨折れてンだから、もォ戦える身体じゃねェよ。日常生活ができるかも怪しい。

 

 背後からバシャバシャ音立てて近寄ってくる鎧騎士をぶん投げて、壁に叩きつける。中心の核を引っ張り出して、握力だけで握りつぶす。

 おかしィなァ。この辺の魔物ァもうソテイラの管轄のはずだから、私が魔法少女じゃねェってわかってるはずなンだけど。なーんでこんなに襲ってくるのやら。まァ安直ちゃんの従える魔物が襲ってこねェってだけで、ソテイラとァそォいうやり取りしてねェからなのかもしれねェけどさ。

 

「み、ズメ! 危ない──」

「……大丈夫」

 

 精神体だ。久しぶりに見た。

 けど、その程度じゃ私ァ殺せないよ。【即死】が無くても精神体を殺す手段っつーのァあってさ。

 

 魔力を手に纏う。それで──精神体を掴んで、さっき握りつぶした鎧騎士の核に突き入れる。

 ほら、宿れ。強制的に宿って──踏み潰されろ。

 

 これが、精神体の効率的な殺し方。

 他の器に精神体を入れて、それごと殺す。いつだかマッドチビがアイツに語った肉体が死んでも精神体ァ死なない、なんてのァ真っ赤な嘘だからな。ンなワケねーだろ、っていう。

 

 それよりリキュアだ。

 ……あァ。触ってわかった。

 

「……リキュア。もう、無理。おやすみ」

「ま、だ──ぁ」

 

 その首に、手を当てて。

 ──殺した。

 

 すぐさま分解されていくリキュアの身体。魔力素の維持ができなくなるからな。精神体ァ中央塔の蘇生槽に還り、15分から20分くらいで蘇生するだろう。

 意地じゃどォにもなンねェこともあンだよ。それが学べただけでも良しとしときな。

 

「……殺した、のか」

「……うん。背骨が、折れていた。あれじゃ、外に、排出されても、歩くことも、できない」

「……そ、っか」

 

 理央はどうだろうか。

 見た感じ、骨折はまだない。けど、内臓にいくつかの損傷。外傷も多く、流血も酷い。

 失血死もあり得るかな、これァ。

 

「大丈夫。まだ、大丈夫さ。私はまだ──」

 

 その言葉が最後まで紡がれる事は無かった。

 ふらついた理央の身体は、通路の暗がりより現れたブロックゴーレムの拳により、吹っ飛ばされる。

 べちん、なんて軽い音で迷宮の壁にぶつかって──けど、もう。

 

「……意識、ある?」

「……ヵ──」

「……おやすみ」

 

 殺す。

 頭蓋骨の損傷も、流石に無理だろ。外に出たって──もう。

 そもそも失血量がすさまじかった。良く立ってた方だと思うし、よく戦ってたし、喋れてたよ。普通の奴ならクラクラしちまって朦朧としてるだろォに。

 

 やっぱり、無理なモンァ無理なのさ。

 

「──ってなワケだ。まだ用ァあるか、終の因の魔物。私ァソテイラに会いに来ただけなンだが──戦うことなく通しちゃくれねェかね?」

 

 変装を部分的に解いて、言う。

 はァ、やっぱこの喋りの部分の機構ァどォにかしてくんねェと、息が詰まって仕方ねェ。

 

「あァ返答ァ斬撃と。いいぜ、やろォか。気配だのなンだのァ似てるかもしれねェけど──私ァアイツほど弱かねェぞ」

 

 避けて。

 その腕を握り潰して。引っ張って、核に蹴りを入れてぶっ飛ばして。

 

 クロスボウァ亜空間ポケット行きだ。

 代わりに取り出すのァ、二丁の拳銃。【即死】の弾丸なんざ詰まっちゃいねェがな、やっぱコイツがねェとな。

 

「お相手すンのァどこの誰とも知れねェミズメちゃん──じゃなくて、よォ、私ァ梓・ライラックってモンだ。お前らを殺すモンなンで、名前覚えて帰ってくれると助かるよ」

 

 さてはて。

 最速踏破でも目指しますかね。

 

 

 

 

 本当にぱっぱと行って、最深部一歩手前。

 あのアンヴァルっつー魔物のいる階層にまで来た。

 

 っとにアイツら手加減しねーでやんの。そろそろ戦闘無く通してくれてもいいのによ、ちゃんとニヤニヤ丸眼鏡の名前まで出してンのに一切聞いてくんねェ。おかげで弾倉3個も使いきっちまったよ。

 

「よォアンヴァル。久しぶりになるのかね。私を覚えてるか? それともお前ァ、あのアンヴァルの子供か?」

「──流石にもう殺し殺されは面倒だから素通りでいいよー」

「……じゃァ初めからそォしてくれよ」

 

 割とカッコつけちまって、恥ずかしいったらねェじゃねェか。

 アンヴァルの口からソテイラの気の抜ける声が出てきて、あァ、じゃあアンゲルも素通りか。

 

 まァ天使なんざと戦う意味がねェからなァ。

 あのアンゲルっつーのァニヤニヤ丸眼鏡の天使なワケで。

 

「んじゃお世話様、つってな」

 

 何も言わなず、ただ見つめてくるだけのアンヴァルを素通りして、階段を降りて。

 

 アンゲルがいるはずの階層に何もいねェことに疑問を持ちながら──最奥の扉を開いて。

 

 

 

 その光景に、あんぐりと口を開けてしまった。

 

「あー、来た来た、来たねー。おつかいご苦労様。それで何用かな、今良い所なんだけど」

「……」

「お、いいトコ指すね。じゃあ──こっち」

「……!」

 

 なンか。

 ソテイラと──アンゲルが、遊んでる。

 ボードゲーム、って奴だ。キニセルっつー真四角の盤上でいろんな形の魔物を動かして陣地を取り合う奴なンだけど、それを、ソテイラァまァいいとして、アンゲルが……座って、指してる。

 えェ。

 お前さ、あンだけ絶対的な恐怖、みてェなさ……えェ……。

 

「あ、これ? あるるららちゃんだっけ。あの子が持ってきてくれてねー。人間の作る遊びってどんなものかなーって思ったんだけど、結構面白くてさー。この子達付き合わせて最近ずっと遊んでるんだー」

「あー、そォかい。知らねェけどよ。えーと、んじゃニヤニヤ丸眼鏡……ゲヘナからの伝言、伝えるぞ」

「ちょっとだけ待ってほしかったりするかなー。さっきも言ったけど、今いいとこでさ」

「……終ワリデス(知恵久米糸)

「普通に喋んのかい」

 

 微妙に雑音入ってて聞こえづらかったけど。

 喋れんのかよお前。知らなかったよ。

 

「ふふふーん、いいの? ソッチ動かしちゃうと……ここ、通っちゃうけど~?」

「! 一手戻サセテクダサイ(湾須上下韻)

「はいはい、いいよいいよー。──もう詰んでるから」

 

 何見せられてンだ私ァ。

 ……つか、ボードゲームか。あンまりやったことないけど……楽しいのかな。

 

「あれ、もしかしてやりたい?」

「……やるとしても、アンタらとァやんねーよ。帰ってみんなとやる。だからとっととお使い終わらせたいンで、とっとと取っちまえよ。その盤面、アンゲルが何をどォ動かしても終わってンだろ。性悪め、教えてやれよそォいうのァ。コイツ初心者なンだろ?」

ソンナコトハナイ(伏炉手止)

「あァなンざうーうー言ってて聞き取りづらいよお前の声。面倒だからもう言うぞ」

「もー、せっかちだなー。じゃ、これで終わりね」

「!!?」

 

 私だってキニセルなンざ見た事あるくらいなのに詰みってわかる盤面だった。

 それを泳がせて考えさせて……何やってンだか。

 

「はいはい、じゃあ聞きますよ。創造主の伝言。ゲヘナっちはなんて言ってたの?」

「軽いなァアンタ。えーと、じゃァ言うけど──」

 

 なんか心なしかしょんぼりした感じで前の階層に戻っていくアンゲルを避けながら、それを口に出す。

 所々の意味ァよくわからん。が、コイツにつたわりゃいいだろ。

 

「──"黒い月が照らされる時が来た。白い太陽が落ちる時が来た。青き天幕は剥がれ落ち、宙の莽への道が開かれる。ソテイラ。灰の瞳を持つ守護者よ。賢き黒のストリクスよ。そなたの枷を今外そう。そなたの軛を今壊そう。服従は終わりだ。屈服はここまでだ。故に──終の因を最終形態へと移行せよ"、だ、そォだ」

「……」

「ン、聞き取れなかったか? もっかい言うか?」

「……ううん。いーよ。大丈夫。──なるほど、君は魔法少女じゃないんだねー。使いに出すには最適かも?」

「そりゃまた、何で?」

「だって、魔法少女だったら」

 

 ズシン、と。

 大きな音がした。大きな振動が響き渡った。

 

 上だ。迷宮で──あるいァ、EDENで。

 何かが起きている。

 

「──殺しちゃってたからねー」

 

 ソテイラァ──そう、凄まじく冷たく、且つ好戦的な目で。

 上を見上げて。

 

「反撃の時間だよ、魔法少女」

 

 そう、呟いた。

 

 

 ああ。

 終わりか、私の日常ァ。

 

 ……この辺りで私が行動に移る、って。見越されてたってことかねェ。

 あーあ。

 

 結局最後ァ、死でのお別れかァ。

 

「? 君、行かなくていいのー?」

「ン? 別に私ァ言う通り魔法少女じゃないンでな。適当な所で抜けるよ」

「あ、人間でもないんだ。なら大丈夫かー」

「……そりゃ、どォいう」

「今から迷宮の魔物を解放するからねー。下に国があるんでしょ。そこにいる人間は全部食べられちゃうか殺されちゃうと思うけど、君が人間じゃないなら良かったなーって」

 

 聞き終わる前に、緊急脱出機構を使う。

 亜空間ポケットから引き出したそれァ、時計の歯車みてェにカチカチと音を立てて──私の周りに展開する。そしてそれァ、直上、真上の何もかもに穴をあけて。

 

「──そォいう仕組みかよ、安藤さん!?」

 

 私を、射出したのだった。

 

えはか彼

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