遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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7.藍初種藍句得度三糸有寒泥.

「おォ、安藤さん。悪ィね、急な注文で」

「何言ってんだい。ウチは元々閑古鳥が鳴く武器屋さ、アンタの支払いだけが命綱なんだよ。それで食ってんだ、無視なんかできるかって」

「あー、そりゃァまァ、そうだよな。武器使う魔法少女あんまいねェもんな」

「まったくさ!」

 

 ここはEDEN商業区。

 ……の、片隅も片隅。

 エデンの下には国があって、そこでも当然の様に市場っつーんはあるんだが、如何せん魔法少女がソッチに降りて行くことは少ない。エデンにいた方が色々楽だしな。

 んじゃどーやって菓子類やら欲しいもんやらを手に入れてるかっつーと、このEDEN商業区と呼ばれる出張店舗群から購入してるってワケ。魔法少女に理解のあるというか、"国を守れ! 盾になれ! 遊んでないで働け!"みてーな事言いやがる国民、じゃない方の一般市民。

 俺達を少女として、あるいは人間として扱ってくれるお方々の出張店舗群が、ここになる。

 ま、単純に儲かるから、ってのもあんだろけどね。俺達魔法少女は金払いめっちゃ良いから。

 

 んで今日俺が来たのは『安藤武器工具店』っつーシンプルな名前の付けられた、店。出張店舗群の中心からはちょいと外れた場所にあって、つかここに関してはもう下には戻らずずっと上で続けてくれてる稀有な店。売りモンは店名の通り武器や工具で、魔石も扱う。

 ま、なんでずっとエデンに居られるか、っつーのは、結構単純な話。

 

「もっとこう、派手に爆弾とか大砲とか撃ち込めばいいものを、アンタら魔法少女は長いチャージしてその隙を突かれたり、近接で戦って取り込まれたり……。文明の利器、ってモンを知らな過ぎる!」

「ははは、そりゃァ仕方ねェよ安藤さん。アンタの時代がどうだったかは知らねえが、今じゃ武器持ちは補助有つってな、あんま好かれねえんだ。単純な剣みてぇなのだったら良いんだが、銃となるとな」

「そりゃアタシの時代でもそうだよ! 全く、本当に変わらないねぇ学園は」

 

 安藤さんも、魔法少女なのだ。

 正確には──エデンに出張している間に魔法少女として覚醒した、というべきか。故に魔法少女に理解があるし、学園での生活も経験済み。この店やってない時はちゃんと魔法少女としても戦ってる。なんならS級と、色々情報盛りだくさんな女将さん。あァ別にお宿ってワケじゃねェから女将でもなんでもないんだけど。

 

「で、どうかね。今回は多くなっちまったが」

「全部出来てるよ! 空の魔石砕いて入れた弾丸1000発!」

「ありがてェ」

 

 そう、俺のいつも使っている【即死】を込めた弾丸っつーんは、ここで購入している。まァ【即死】を込めるのは後からやる事で、この弾丸自体は魔石が詰まったモンでしかないんだが。

 ちなみに拳銃とSRは普通に軍用の奴な。

 

「そいで、今回はまたなんか新しいモン作ってねェのか?」

「ふふん! よく聞いてくれたね……あるよ!」

「おォ!」

 

 安藤さんは発明家、というか、武器の改良も得意としている。

 顧客が俺しかいねェから、最近はもっぱら銃弾の改良ばっかやってるらしいが、前は剣だの斧だのが斬撃と同時に爆発する、みてェなのも作ってたとか。なんだそりゃ、自滅するだろ、つったら、だから売れなかったんだよって返ってきた。

 

「コレさ」

「ソレか」

「コイツは炸裂弾! 対象へ着弾した後、周囲の魔物にもその破片が突き刺さるって代物さ! 撒き散らされる破片は当然魔石で、その範囲は5mくらいかね」

「……買いだな」

「あいよ! とりあえず50は用意した。使いやすかったらまた発注しな、千だろうが万だろうが揃えてやるさ」

「助かる」

 

 クラスター弾か。

 俺の低すぎる殲滅力を補うに持って来いだな。ただ、味方への誤射が怖い。味方のいねェとこに、且つ化け物の集まってるトコに撃ち込む弾だ。

 いいね、これは俺のパワーアップって奴だ。今回の件で痛感したことでもある。俺ァマジでピーキーだ。殺傷能力はSS、殲滅力はCどころかDを下回るかもしれねェ。身体強化用の魔力リソースが無いのは割ときちィ。仲間がいりゃあ色々となんとなんだが、一人になると真面目に死ぬ。

 そういう場合に生きそうな弾だ。ありがてェや、流石安藤さん。

 

「そォだ安藤さん、魔煙草って知ってっか?」

「そりゃ知ってるが……なんだい、アンタ、そんなナリして煙草吸うのか」

「魔煙草は別に毒じゃねェからいいだろ。まァんな事聞きたいんじゃなくてよ、アレより魔力回復量のたけェもん知らねェかな、って。安藤さん色々知ってっから、ちょいとアテにしてんだ」

「魔力回復か。確かにアンタ、魔力少ないもんねえ」

「だから銃使ってんだろィ」

 

 先日の一件。

 フリューリ草を死ぬほど食わされたあの時、明らかに魔煙草より魔力回復量が多かった。量もあんだろうが、何かこう……純度が違う、っていうか。

 

「魔煙草の原材料がフリューリ草って花だってことは知っているのかい?」

「花? 花なのか。私が食ったのは草だったが」

「……アンタ、正気かい? フリューリ草の葉は誰もが悶絶する程不味い事で有名だよ。だから煙草にして少しでも軽減を狙ってる」

「あァ知ってる知ってる。でもちょいと必要な工程でな、悶絶する程不味かったが、常に魔煙草吸ってるおかげか、ちったぁ耐性ついてたよ。……で、フリューリ草の花について教えてくれ。多分それが私の必要なものだ」

 

 フリューリ草が魔力回復の役に立つ、って事は広く知られている、らしい。ポーション調合の勉強過程では習わなかった事だが、なんでも学校では教えてくれない、ポーション屋に就職すると教えられる知識、なんだとか。なんでそんなことになってるかっつーと、乱獲を防ぐためだの絶滅を危惧してだのと言われたが、単純に危ねェからだ。フリューリ草は国の外に生える。そんな、魔法少女相手に高く売れそうなモンを子供が習っちまったら……みてェな話なんだと。

 じゃあポーション屋はいいのか、って事になるんだが、なんでも軍が採集したものを買い取ってるらしい。軍っつーのは魔法少女じゃなくて、魔法少女の素質に恵まれなかったこの国の兵隊さんの事な。

 あの場で鬼教師がフリューリ草を亜空間ポケットにしまってたのも、そんな感じの理由。ポーションの調合材料になるから、常備している魔法少女も多いんだと。

 ……A級未満の魔法少女は、だが。

 

「フリューリ草は魔力回復の効果がある。それは魔物共も知ってる。だから昔は食われまくってたんだけど、いつしか進化して、フリューリ草は苦味や不味さを獲得した。結果魔物はフリューリ草を食べなくなって、奴らは絶滅の危機を免れた……ってのが、あの草が不味い理由なんだ」

「へェ、すげェな、自然の知恵っつー奴か」

「だけど、フリューリ草は一応増えなきゃいけない。植物として当然のように種をばら蒔いて、ってね」

「あァ。広がる必要があるとかはンなこたない、って学者に否定されるだろォけど、種の存続は大事だろォな」

「だから、フリューリ草は、枯れると花をその場に落とすようになった。面白い生態だと思うけどね、花弁が開いたまんまで、それが閉じるより先に茎や葉、根の方が枯れるんだ。落下したフリューリ草の花はそこからまた芽を出す。というのも、魔力回復を行う成分を花弁に全て集中させているから、枯れるのも魔力を失った花弁以外だし、成長の基盤となるのも魔力を豊富に含んだ花弁だし、って具合さね」

「ほーォ……つーことは、その花」

「ああ。採集出来れば普通に草を食べるより高い回復効果が見込めるだろうね。問題は」

「んなの見つけんのは至難、って事ね」

 

 おじさんそんなに草花に詳しく無いから偉そうなこと言えないんだけど、花弁ってな花粉を運んでくれる虫だのなんだのを誘引するもんだと思ってたよ。そうじゃないのもいるんだな。前世でもいたん……だろうなぁ。俺が不勉強だっただけで。

 あーあ、折角そういうのに詳しそうなやつが近くにいたのに、なーんも聞かなかったな。アイツとは麻雀ばかりで……。

 

「見た目は真っ赤な花だ。本当に稀にだけど、地面に落ちている事がある。枯れた直後、あるいは芽を出す前の花弁だね」

「見つけたら拾えって事ね。ちなみに味は」

「美味いと思うのかい?」

「ハハ、覚悟しておくよ」

「……ま、食べた事のある奴はいない。少なくとも私は聞いたことが無い。そんだけ稀少なんだ、外でくまなく探す、ってのは徒労に終わる可能性が高いよ」

「あァよ、見っけたら儲けモン、程度に考えとくよ。何にせよ、情報ありがとうな」

 

 真っ赤な花弁、ね。

 最悪の状況に陥ったら探してみよう。魔力切れ残弾切れ仲間もいないで逃げ回る、みたいな時に見つけたら最高だ。主人公になれるなソレは。

 

「普通のフリューリ草の茎や葉で良ければ、アタシのトコにも仕入れてやってもいいよ。それくらいのラインナップは増やせる」

「おォ、そりゃァ助かる。ついでといっちゃなんだが、それの煎茶も作ってみてくれねェか?」

「……死ぬほど不味い茶が出来上がる未来しか見えないねえ」

「味はいいんだ、別に。草をもしゃもしゃ食うより高い効果が見込めるなら、水筒にでも入れて持ち歩きたい」

「ま、わかったよ。その代わり今後ともご贔屓に、ってね」

「そりゃ勿論」

 

 魔石の弾薬扱ってくれるトコなんかここしか知らねえし。

 ……つーか、ん? 

 

「アンタさっき閑古鳥だから支払いが命綱とかって言ってたけど、給金は出てねェのか? 魔法少女としてもやってんだろ?」

「そんなもん全部実家に仕送りしてるさ。子供がいるんだ、魔法少女じゃない普通の子がね。その子らの養育費もそうだけど、寂しい思いさせてる分遊びの部分は不自由なくしてやりたいだろ?」

「やべェな、偉すぎて涙が出る。私もそうしようかな」

「何言ってんだい。アタシは親だからそうしてんだよ。別にアタシはここで武器作ってりゃそれでいいんだ。やりたいこともない。だがアンタは違うだろう。魔法少女になったのは13の時だったね? それで、まだ数ヶ月……魔法少女歴も浅い。アンタはまだ子供なんだよ。子供はちゃんと自分のために金を使いな。家族を想うのは、大人になってからでいい」

「つっても成長しねェだろ、魔法少女は」

「元の年齢に魔法少女歴足して成人越えたら大人だよ!」

 

 至極当たり前のことを言われた。

 そりゃそうだ。

 ……だけど実はおじさん、前世含めると50超えてるんですよ。子供じゃないんですよ。

 

「そも、魔法少女の家族は待遇もよくなるはずだ。……仕送りなんて考えんじゃないよ、親の気持ち考えてからモノ言いな」

「あァ、そうするよ。確かにあんだけ泣いて送り出してくれた両親だ、私が金なんて送ってきたら、顔真っ赤にして怒って送り返してきそうだ。なんならエデンに乗り込んでくる可能性もある」

「よくわかってんじゃないかい。そうだよ、とんだクソ親でもない限り、親ってのは子に幸せであってほしいんだ。……アンタは自分が子供っぽくない、みたいな自覚があるみたいだけどね、アンタがアンタの両親の子である事は間違いないのさ。だから」

「あァよ。せめてもの恩返しに、ちゃんと子供をするさ」

「……引っかかる言い方だけど、聞かないことにしとくよ」

「助かる」

 

 安藤さんは空気を読んでくれるからホント助かる。

 気の良い肝っ玉母さん、って感じなんだけど、前世含めた歳が近いからか、クラブのママさんと話してる気分になんだよな。

 

「んじゃ、1000発確かに。炸裂弾もありがたく。金は後で振り込んでおく」

「ああ。……そうだ、梓。一つ聞きたい事があったんだ」

「ん?」

 

 久しぶりに名前呼ばれたな、とか思いながら。

 振り返る。

 

「ルルゥ・ガル、って魔法少女、知らないかい?」

「あァ、すまん。私ァ自分のクラスメイト以外にゃとんと疎くてな」

「そうかい。ま、知らないなら良いんだ」

「見つけたら安藤さんが呼んでた、って伝えときゃいいか?」

「いや、それもいいよ。すまないね、気になって眠れなくなりそうなことを聞いちまった」

「んなこたねェけど、気にはしておくよ。せめてもの礼だ。じゃァな、安藤さん」

「また来な!」

 

 知らねえ知らねえ。

 魔法少女の名前、マジで知らねェ。もっと交友関係広めねェとなァ。おじさんになると交友関係ってあんまり広がらないんだよな。同じ会社の奴か、営業関係とかでちみっと増える事はあっても、出会いの場、っつーんは行かねえし。

 ……いや友達が少ないとかではなく。

 

「ソイツ見つけたら、友達になろう、って……なんだ、少女らしく強引に行くのもアリかね」

 

 なんて。

 少女らしくない事を言いながら、俺ァパルリ・ミラを探しに行った。

 まだ見つけてないんだよな、その店。

 

えはか彼

 

 

「B級への昇級おめでとうですわ!」

「ああ、めでたいな」

「おめでとう」

「おめでたいです!」

 

 称賛の声に。

 

「あーァ、いや、ありがてェんだけど……いやありがとうな、お前ら」

 

 なんとも言えない表情になってしまう自分がいた。

 

 

 

 事の発端は、っつーか先日の件が功績として認められたっつー話だ。

 いち早く国内に発生した化け物に対処した……って方じゃなく、化け物の湧き地点を完全に破壊した、っつー方な。化け物の対処は魔法少女が当然としてやるべき事だ。褒められることじゃねェんだと。

 まだ自然生成の湧きポにまで有効かどうかはわかっていないものの、その有用性から()()()()()()()()()()()C級からB級へ昇級した。D級、C級は遠征に連れていかれないんだよ。足手まといだから。

 だから、戦力的にはC級だけど、実用込みでBにしといてやるよ、っつー措置。素直に喜べるモンじゃねェし、何より俺ァ昇級自体したくなかったよ。仕事ふえっから。

 

「でも、寂しくもありますわ」

「ン?」

「だって梓さん、もう少ししたら遠征に行ってしまわれるのでしょう? 私は遠征向きの魔法少女じゃないので呼ばれる事はありませんし、その間に……遠征組の魔法少女に梓さんを奪われてしまったらと思うと気が気でなく……」

「奪われるも何も、私ァお嬢のモンじゃないがね」

「はぅっ!?」

「梓。それはフェリカを振った、という事でいいのか?」

「あー。そういうワケじゃ、っつか告られてるワケ……でもあるか。んー」

 

 おじさんは清いお付き合いをしたいんですよ。友達として。

 純朴な女の子達の好き好きイチャイチャにはついていけねェってーか、でもなァ、今の言い方は確かにマズったな。フったフラれたはデリケートな話題だ、それで友人関係に亀裂が入るのは……あー、でもなァ。

 

「すまない、余計なコトを言った。フェリカ、お前も必要以上に傷付いたような反応を見せるな。梓が困っている」

「必要以上じゃないですけれど、けれど、けれど……! 梓さん! あくまでこれは、私が貴女を好いているという話であって、答えて欲しいとか、あわよくばキスをしたいとか、いつか私の家に招待したいとか、そういう事ではないですの!」

「どう聞いても、そういうこと」

「読心術を使うまでもないですね」

 

 わかってる。すげー好意向けてくれてんのはわかってんだ。

 わかってるけど……。

 

 でも、まだ無理そう、というか。

 この──死が文字通り隣り合わせの世界で、そういう理念の元にある子と付き合う、っていうのは。

 

 ……鈍る。おじさん弱いからよ、あんまり……大切過ぎるモン作りたくねェんだ。ひでェ事言ってる自覚はあんだがな。

 俺の手は広くない。もし、もしも、家族より大切なモンが出来ちまったら。

 俺ァ国防じゃなく、ソイツを取る可能性がある。……それは、多分、ダメなんだろう。今でさえダメなのに、そうなっちまったら俺は。

 

「おい、フェリカ。どうするんだ、梓が押し黙る程悩んでしまったぞ」

「責任転嫁が凄いですわミサキさん。今のは貴女も悪いと思いますのよ……!?」

「なんにせよ、二人に朗報がある」

「あ、そうでしたね。良いお知らせがあります!」

「なんだ?」

「なんですの?」

 

 あー、ダメダメ。悩むな悩むな。

 俺ァ自分一人で悩んだって解決しないタイプだ。明日の事は明日の俺に任せよう。今は今の俺がやり遂げるからよ。

 気持ち切り替え気持ち切り替え。

 

「すまんな、お嬢様。私ァ」

「今回の遠征! 私達はついていけるそうです!」

「開いていた枠、もぎとった」

「ええええ──!! ずるいですのー!!」

「待て、流石に【神鳴】より私の方が遠征向きじゃないか?」

「もう決まった事」

「遠隔魔法少女は有用なので空き枠に入りやすいのです!」

 

 ……なんか言い出す雰囲気じゃねェな。

 背中メッシュと太腿忍者がふんぞり返って……あァ、遠征の話か。そうそう、こいつら付いてくる事になったんだよな。

 太腿忍者の【光線】は汎用性の高い魔法だし、そもそも忍者っつーのが結構有用だ。サバイバルに長けてる。背中メッシュの【神鳴】は固定された湧きポを叩くのにうってつけ。湧きポの周囲にゃ化け物がわんさかいるからな、そこにバチバチドーンよ。

 

「梓さん!」

「お、おゥ。なんだお嬢」

「……私の方が、貴女の事を想っていますわ!」

「おいその話蒸し返すのか」

「諦めが、悪い」

「あー。ま、すまんが保留にさせてくれ。自分でも優柔不断だとは思うけどさ、ちょいと……私にも譲れないモンってのがある。私も決してお嬢の事嫌いじゃねェからよ。ポニテスリットも背中メッシュも太腿忍者も大事な仲間だ。友達だ。他の知らねえ奴より遥かに好きだ。だから、っつかだけど、か。少しばかり待ってくれ。私ァ……まだ、魔法少女として未熟過ぎて、お前らに並び立てる所にいねェからさ」

 

 おじさんはおじさんだからさ。

 もし本当にお付き合い、って事になるとしたら、色々ちゃんと考えたいしさ。

 ……いやおじさんがこんな小さな子達と付き合うのはやべーんだけど。魔法少女歴どんくらいなんだろなこの子ら。

 

「すまん。梓」

「ん?」

「私はお前を見くびっていたらしい。それを謝った」

「お、おう。いいよ、許すよ」

「感謝する」

 

 いつになく……ってことでもねェけど、ポニテスリットがめちゃくちゃ真剣な目でンなこと言ってくるもんだから、驚いちまった。

 なんだ、いい目、っつーのかね、覚悟の決まった目をしてる、って感じ。若いね、青春だね。

 

「つか、そろそろミーティングの時間だな。お嬢、ポニスリ。悪いが」

「私も!! 私も……私も、」

「そりゃダメだお嬢様。流石に付いてくるのは無理だって」

「そ、そういう事ではなく!」

「梓、行こう。遅いと、怒られそう」

「では梓さんの事は私が運びますね」

「いやいいよいいよ、園内だろ。流石にそんな走力はいらねェって」

 

 いやァ、青春だねェ。

 おじさんは蚊帳の外でありたかったよ。ちょいと、眩しすぎる。

 なんだって俺なんざに……なんてとこまで卑下するつもりはないが、そんな好かれるような事したかねェ、俺ァ。

 罪作りなおじさんだよホント。あ女の子だった。

 

 ……ジッサイ、どうなんだろな。お嬢たちが、俺の中身は50超えたオジサンです、って知ったら。

 愛想尽かすんじゃねェかな。はは、怖い怖い。

 

 お嬢とポニテスリットを後に、教室を出る。廊下を行く。

 ミーティングルームは別塔だからな。遠征準備室もソッチにある。各塔それぞれに役割があるんだわさ。

 

「梓」

「なんだ背中メッシュ」

「遠征は、少しだけ……梓も楽が出来る、かもしれない」

「ん、そりゃァどういう」

「遠征は目標達成以外での死が許されないからですね!」

「……ははァ、なるほど」

 

 そうか。

 死んじまったらエデンからの蘇生になる。それは一人欠ける事に外ならないし、ソイツが追いつくまで待ってるってのも難しい。ソイツ一人で追いつくのも難しいかもしれねェ。

 だから、死や怪我はちゃんと忌避されるってことか。

 ……目標達成のため、以外では、って冠がつくが。

 

「死なんでくれよ、二人とも。私ァ一人じゃ弱いぞ、物凄く」

「知ってる」

「知ってます!」

「ちったァ否定しろよい」

 

 なんて軽口を叩きながら。

 俺達は、ミーティングルームへ向かった。

 

えはか彼

 

 

「来たか」

「ん、鬼教官。なんだ、今回の班長はアンタなんですかい?」

「いいや、私は作戦説明役だ」

「あらそゥ」

 

 ミーティングルームには、五人がいた。

 鬼教官と四人の魔法少女。確か遠征は俺含めて八人だったはずだから、あと一人いねェな。まさか俺が一番最後じゃないとは。

 とりあえず空いてる席に座る。上座とかあんのかね。知らんなぁ軍隊のそういう事。でも咎められないから良いだろ別に。

 

 背中メッシュと太腿忍者に挟まれる形での着席。なんだいね、なんか守られてる気がする。

 

「君が梓・ライラックか」

「ン?」

 

 席に就いたら、いきなり目の前から声がかかった。

 なんつーの。宝の塚みてェなかっけェ声。ハスキーでちょいとボーイッシュな感じの。

 

「あー。すんませんね、不勉強で。どちらさんで?」

「ヴェネット、という。魔法【凍融】を扱う魔法少女だ。等級はSS、此度の遠征組の班長となる。よろしく頼むよ」

「んじゃま、改めて。【即死】を使う梓・ライラックっつーもんスわ。等級はB。お飾りスけどね」

「はは、そんな無理矢理畏まったような口調にならずともいい。私は上下関係などに気を割かない性質でね、普通にしてくれ」

「あァよ」

「……対応が早いな君は」

 

 さてあだ名は……まァ班長でいいか。呼びやすいし。

 その隣にいる他三人は話す気はねェのかね。遠征組だ、仲良くしといた方がいいんじゃ……って、何期待してんだ俺ァ。自分からやれよ、そういうことは。

 

「お三方も、名前教えてもらってもいいかい?」

「……」

「……」

「……あるるらら」

「あんがとよ、右端のお嬢さん」

 

 他二人は仲良くする気無いらしい。

 まァそうだよな。ぽっと出の、魔法だけを買われた魔法少女だ。前にも述べたが、A級未満の魔法少女ってな内申点だのなんだので頑張ってない奴を指す。まァ殲滅力も殺傷能力もない魔法であるが故にD級に区分される奴もいるんだが、C級ってのは大体頑張って無い奴だ。

 そんなのに話しかけられて、名前を言えっつーのはまァ、気ィ悪いよな。だってこいつら全員A級以上だろ、多分。頑張った奴だ。頑張ってエリートだろう班長の班に入って遠征してるっつーのに、頑張ってない奴に掻きまわされるのは嫌だろ。

 

「えーと? あるるららサンは、もしや西方出身で?」

「! わかるの?」

「あァ、まァちょいと勉強したことがあってな。西方……今は亡きもう一つの国。ん、あァ、すまんデリカシーの無い事言った。謝る」

「いい。もう50年は前の事」

 

 こんな幼い少女の見た目をしておいて。

 そんな幼い少女の喋り方をしておいて。

 魔法少女歴は50年以上前か。わかんないもんだねェ。

 

 この、エデンの下にある国。

 今や世界で唯一の国だ。なんでって、他は滅んだから。昔はあったんだ。化け物に対抗できるのは魔法少女だけ、ってこたないからな。魔法少女が最も効率よく殺せるってだけで、銃が効く奴はいるし、毒やら罠やらが効く奴も多い。

 だから、その国ごとの軍隊があって、化け物に対抗してたんだが……ま、それが破られたら終わり。

 そうやって滅んでった国は数知れず。この国はそっからの難民が集まってる場所でもある。だからこんなに名前にバリエーションがあんだよな。

 

「魔法は【透過】。等級はA。よろしくね、ライラックさん」

「おゥ、よろしくなキラキラツインテ」

「……? それ、私のあだ名?」

「あァよ。私ァちょいと事情あって、あんまり他人を名前で呼びたかねェんだ。嫌なら変えるが、どうかいね」

「別に良いよ。むしろちょっと嬉しい。あだ名とか、つけてもらったことないから」

「そりゃァ重畳」

 

 なんだいね、この子はすげェ話しやすいじゃないか。良い子っぽそうだし。

 ま、不和は連携の崩壊を生むって知ってんだろね。魔法少女歴がなげぇからさ。

 

「梓。不満がある」

「私もです」

「なんだ」

「嫌なら、変えると言った。背中メッシュ、嫌」

「私も太腿忍者はやめてほしいです!」

「お前らはもう呼び慣れたからダメだ」

 

 ぶーぶー文句を言う二人をあやす。

 嫌ならもっと早くに……いや言ってたわ。呼び始めた当初から言ってたわ。けどもう定着しちゃったからごめんな。

 

「梓」

「なんですかィ班長」

「私には、無いのかな。その……あだ名は」

「エ? 班長は班長でいいんじゃ?」

「そう、か……」

 

 何、欲しいの?

 欲しいなら考えるけど。

 

「いや、それより。こっちの二人は人見知りでね、悪い奴じゃないんだ。奥のがザイフォン・英。こっちがカネミツ。二人ともA級だ。よろしく頼むよ」

「あァ、了解スわ。ちなみにもう一人は?」

「……た、多分もうすぐ来る。来るはずだ。来なかったら叩き起こしに行くから、安心してほしい」

「来ると良いね、ルナちゃん」

 

 ルナちゃん、というのか。

 キラキラツインテが、にっこりと……「そうはならないと知っているけどそうなるといいですね」みたいな顔で、班長に言う。班長も頬を引きつらせている。

 ……これは、遅刻常習者か。俺と同じだァね。

 

「時間だ。自己紹介は終わったようで何より」

「あ、シェーリース。等級は、S。魔法は、【神鳴】」

「ユノンと申します! 等級はAで、魔法は【光線】です! よろしくお願いいたします!」

「……終わったようで何よりだ。ルナ・ウィーマーンは」

「申し訳ございません。多分、まだ夢の中かと……」

「そうか。まぁいい。アレ抜きでもミーティングは問題ないだろう」

「はい……本当に申し訳ございません。次は強く言って聞かせますので」

「言って聞いた試しないけどね」

 

 苦労してるんだなァ班長。キラキラツインテも。

 つか、ミーティングが要らないってどういう事だ。アレか。ミーティング中も寝ちまうような奴なのか。

 

「遠征組突撃班。今回は監視塔より観測された魔物の群れ……海洋に面した廃墟群に群生していると思われる魔物の掃討が目的となる。及び調査、でもあるな。そこに魔物の湧き地点は無かったはずだが、密集の仕方が湧き地点と同等だ。故にこれを掃討、監視し、湧き地点となっているかどうかの確認。そして──それが壊せるかどうかの確認をする。その際、梓・ライラックの護衛及び補助は全力でやれ。魔物側も自らの形成地点が壊されるとなれば、全力の反撃をしてくるやもしれん。気を引き締めてかかれ」

 

 成程。いやなるほどっつか。

 ちょいと疑問ではあったんだ。なんで演習場とかにある、つまり近場の湧きポで試さねェんだろう、って。

 今回のこの掃討作戦が丁度都合が良いから、ってことね。突然現れた湧きポ。自然発生のもんか故意のもんかわからんから【即死】の有効性についてのソースにはならんが、着いていかせて壊せりゃ御の字だ。それが終わってから、それこそあのアシッドスライムの湧きポとかで試しゃあいい。

 ……ってことで、あってるかね。ちょいと……疑問も残るが。

 

「あァ鬼教官。発言は?」

「構わん。なんだ」

「その廃墟群が滅んだ理由を知りたいんスわ。そこには無かったはずの湧きポが出来て、今密集してる、ってんなら、その前は湧きポなんかなくて、でも滅んでた。なんで滅んだんスか」

「魔物の湧き地点は海中にも存在する。それが原因だ」

「成程。んじゃ、自然発生のを試すなら、ソッチでもありスかね」

「いいや。そこは海中である上に、S級の魔物が生まれる地点でもある。近づくには向かん。やるとしても一個中隊は必要だろう」

「なーる。了解スわ。続きがあるなら続けてくだせェ」

 

 つまり、最悪その海中の湧きポからもS級魔物が上がってくるかもしれねェってことね。ただでさえ海洋には高ランクの化け物がいるんだ、気を付けるに越したことは無い。

 なんだろね。クラーケンとかかね。いんやさ、この世界の化け物触手とかスライムとか多すぎなんだわ。魔法少女つったら確かに……ああいや、余計なコトは考えんとこ。

 

「続きは無い。作戦説明は以上だ」

「キリバチ上官。私からも良いでしょうか?」

「ああ。構わん」

「その廃墟群は、破壊しても問題ないと……そう捉えてよろしいのでしょうか」

「許可は出ている。更地にして構わん」

「ありがとうございます」

 

 こえー質問する。

 けど、両隣の二人も明るい顔をしている辺り、破壊していいってのは楽なんだろうな。【神鳴】とか建物気にしてたら撃てねえし。

 

「私からもいい? キリバチ」

「なんだあるるらら。お前が質問とは珍しい」

「たとえ効率を無視したとしても──班員に譲れないものがあったら、そっちの手段を取っても良い?」

「……曖昧だな。どうした?」

「ううん。ちょっとお気に入りが増えただけ」

「ふむ。まぁそこは班内で相談しろ。最高効率を取れ、とは言わん。遠征故、出来得る限り損害の少ない形で収めろ」

「りょうかい」

 

 仲いいのかな、って思った。

 というかもしかしたらこのキラキラツインテが最年長まである。見た目9歳くらいの子なのに。俺より年下っぽいのに。

 

「もうないな? よろしい、では作戦を開始しろ。出立時にはルナ・ウィーマーンを引っ張り出して連れていけ」

「あァ忘れてた。そいつァどんな方なんで?」

「S級の魔法少女だ。魔法は【氷壊】。一日の八割を眠りに使うような奴だが、殲滅力は十分だ」

「さいで」

 

 いいなァ、それ許されるの。

 ……いや許されてるワケじゃねェのか。だからこれから引っ張り出されるワケだし。

 

 っつーところで、んじゃ、まァ。

 初めての遠征任務。頑張りましょうかね。

 

えはか彼

 




登場人物
遠征組
名前【魔法】等級
ヴェネット【凍融】SS
ルナ・ウィーマーン【氷壊】S
あるるらら【透過】A
ザイフォン・英【吸呑】A
カネミツ【飛斬】A



その他
名前【魔法】等級
ジュニラ(指揮官)【自爆】S
キリバチ(鬼教官)【痛烈】A
エミリー(暴走繭)【壊糸】S
安藤さん【業焔】S
コーネリアス・ローグン【侵食】B
コーネリアス・リヴィル【劇毒】B
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