「──全隊出動、魔物どもの駆逐を急げ!」
「──迷宮内部、外壁から多数の魔物を確認! 高位種も数多く見られます!」
「──防衛組防衛班は国民の防衛を最優先しろ! 突撃班は最高位種アンゲルの討滅を! 確認できているだけで──5、否、6体はいる!」
上から見ただけで、数百を超す魔物の姿がある。小物ァいい。その辺の魔法少女でも対応できるだろう。だけど、高位種──ゴーレム種やアンヴァル、アンゲル、その他S級でも手こずるよォな奴らも出てきている。なるほど、あんな狭い迷宮でなンで翼持った魔物がいるンだって思ってたけど、
考える。
いや、考えてる暇ァ無い。
私の本懐ァなンだって話だ。
友人たちと楽しい日々を過ごす事? 魔法少女として国を守護する事? 魔物達を討滅すること?
違ェだろ。
もっと大切な役目が、私にァある。
ある、けど。
「──こォいう時に、真っ先に動く奴がさ。動けねェんだと。だったら──」
隔離塔。
そこからも多数の魔法少女が出てきているけど、アイツの姿ァ無い。
そりゃそォだ。出てこようとァしたンだろォけど、流石に縛り付けられてンだろ。アイツ、車椅子縛り付けられたらもう何もできねェからな。降ろされてるかもしれねェが。
安直ちゃんを通じて、魔物ともそれなりに仲良くなった。私自身が魔法少女じゃねェからな、仲良くなれた。ソテイラの部屋でキニセルしてるアンゲル見て、コイツ案外人格らしィモンがあるンだな、って思った。
でも。
それでも──ダメだろ。
私の本懐ァなンだって話だ。
友人たちと楽しい日々を過ごす事でも、魔法少女として国を守護する事でも、魔物達を討滅する事でも──もっと大切な役目を遂げる事、でも──無い。
それは、私の大切なものを守るために手段や、過程でしかない。
私は。
「馬鹿が馬鹿がってうるせーよ、ってな。自覚ァあるさ。だって私ァ」
どこまでいっても、梓・ライラックだから。
その言葉は心の中にしまった。
何故って。
「──ミズメさん?」
「……フェリカさん」
緊急脱出機構から射出され、EDENの外周を落ちて行く中で──彼女に出会ってしまったから。
光輝なりし神姫。その背から余りある光翼を放出し、真白のドレスを彷彿とさせる鎧で戦場を駆け巡る、あァさ──これァ、希望だろォよ。
「……私は、国を、守りに、行くので」
「いえ、貴女はまだ魔法少女になったばかりなのですから、他の先輩方とご一緒なさい。単独では危険ですわ」
「……大丈夫、です。私は、強いので」
「それでもです。単独で動いては──単独でいくら強くても、守れるものと守れないものがありますの。仲間と共に行動し、連携し、故にこそ守り得る命がありますわ」
「……結構、です」
「言ってわからないなら、連れて行きますの」
あァさ。
頑固だな。流石お嬢だ。それでこそだ。
そォさ、事態を引き起こしたのァ私だ。ニヤニヤ丸眼鏡の言葉をソテイラに伝えてなきゃ、今のEDENも国も平和だった。EDENに用ァ無いけど終の因にァ利用価値あるってアイツが言ってたのを、もっと深く考えりゃ良かった。伝言の内容をもっと吟味すりゃ良かった。
これを。
この惨状を齎したのァ、紛う方なき私なンだよ。
だったら──1つや2つの危険くらい、背負わねェとずりィだろ。
「──言ってわからねェなら、こっちの指示に従いな、お嬢」
「!?」
壊さないでね、って言われたっけ。
知らね。こォなるって教えてくれてたら考えたけど、もォいいや。
変装道具を解除手順踏まずに解除する。方法ァ簡単さ。発生させてる魔道具潰せばいい。
急速に元の色味を、形を、声を。
全てを取り戻していく私ァ、お嬢の目にどォ映っているのやら。
「あなた、は」
「なンだっけか。アイツに言われた言葉。そォだ──生きるために抗うってンなら。私がアイツを名乗るのなら。もっと笑わなきゃだ。こっから向かうのァ死地で、命のやり取りすンだから──私は私の死力を尽くさなきゃなンねェ場だからさ」
ハハ、と。
笑う。これでいいか、笑い方っつーのァ。
こんないびつでいいのか。こんないびつな奴で、いいのか。
でも、笑う。
アイツァ世界を何にも知らないけど、私ァアイツを何にも知らないから。
習った事を──倣って、言う。
「
心に浮かんだ言葉を言う。
鋭い痛み。これか。精神を傷つける、っつーのァ。
自分で言っててなんて意味かわらかねェのに、こォも傷付くンなら利点が無さすぎるな。
けど。
最後まで、言う。
最後まで──宣言する。
「──
瞬間、世界が、全部が、私を見た気がした。
今まで、その苦しみから、痛みから、死ぬ事だけしか考えていなかった世界が。
アイツだけしか見ていなかった世界が。
その眼で、私を見る。
「今の、唸り声は」
「わかってるたァ思うがな、お嬢。金髪お嬢様。私ァ敵の方の梓だ。隔離塔にいねェ方の梓・ライラックだ。──けど、一時で良い。国を守るために、私と一緒に戦っちゃくれねェか」
「……」
落ちる。
落ちる。
もォ地面ァすぐそこだ。別に落ちても潰れる程弱い身体じゃねェんだけど。
ただ、なンか。
返事ァ空で聞きてェな、って。
「──当然、お断りいたしますわ」
「……だよなァ」
「ですから──どうぞご勝手に、前へお進みください、もう1人の梓さん。私は勝手についていきますので」
俯きかけた顔を上げる。
そこには、光があった。
「あァさ。ただまァ、あンまし見くびってくれンなよ。私ァ──アイツの何十倍も強いンでね」
「私はあの方の何千倍も強いですわ」
「……そりゃそォだが」
負けず嫌いだなァ、相変わらず。
って。
思わず、笑みが零れた。
「おいアンゲル! アンヴァル! てめェら言葉通じンならちったァ耳傾けな! ──国に手ェ出すンなら、私が相手になるぜ。迷宮じゃ戦えなかったモンなァ──いっちょ腕試しと行こうぜ、オイ!」
「──
「そォかい。じゃァ死にな。馬鹿が、マトモに戦うなら潰す程度で見逃してやったンだが──ハハ! 安直ちゃん直属の魔物でもねェんだ、やりたい放題やらせてもらわァよ!」
クロスボウを亜空間ポケットより取り出す。
二丁拳銃ァ持ったままで、けどソイツのがいい具合の放物線を描くって知ってるからな。
「ハハハ、こンなトコで使う予定ァサラサラなかったが──食らえ、安藤さん特製、『疑似【青陽】ただし中身はないしただ見た目がそうなだけの奴』!!」
射る。
空を飛んでたアンゲル一匹にそれを射って──そこに、青き太陽が発生した。
「!」
「んで──弾けろ!」
別に私が叫ばなくても勝手に弾けるンだけど。
再現された何万分の一以下の熱量しか持たないハリボテの青い太陽ァ、けれどその熱量を水平方向に弾けさせる。元の奴ァ当てりゃ消し飛ぶンだろォけど、こっちァ単純に燃やすのさ。ハハ、国にァ行かねェよ。行く奴ァ別のだ。それァ使わねェ。
「
「ハ──アンゲルを雑魚呼ばわりたァいいねェお嬢。簡単に打ち上げられて一突きにされそォになってたのが懐かしい!」
「私は、強くなりましたので」
「良いさ。私だって強いんだぜ」
ミズメでも、もう一人の梓さん、でもなく。
普通に名前で呼んでくれたことが嬉しい。とか言ってる場合じゃねェんだわな。
金髪お嬢様の背中から、幾条もの光が放出される。それは流麗な曲線を描きながらアンゲルやアンヴァルに殺到し──その身を、何の抵抗もなく貫いていく。
本当に雑魚扱いだ。
すげェ。"役割の統合"ってなこォも──とか言ってる場合じゃねェわな。何回言う気だ。
落ちる速度を高める。
飛行魔法を併用し、ぐんぐんと進んでいく。目的地ァ決まってる。
家だ。
私の生まれた家。
家族のいる家。
「おいおい、何ひとン家襲ってンだよ。誰が許可した?」
周囲にいる魔物を拳銃で撃ちぬいていく。【即死】ほど便利じゃねェが、こっちのァ特別製でね。ハハ、効くだろう、生物なら。
終われ終われ。眠りの時間だ。目を瞑る時だ。
私の魔法ァ【即死】でも、況してや【致息】なンてよくわからねェもンでもねェ。
「【終焉】」
終われ終われ。
機能を停止しろ。安らかに、何も感じる事無く、終わっていけ。
魔法少女にァ許されざる力さ。魔法少女じゃねェから使える魔法さ。
見てるか世界。【即死】じゃなくても──お前を終わらせる魔法が、ここにあるぞ。
「お姉!?」
「ン──よォ、久しぶりじゃねェか。元気してたか、菫」
「してたよ! 私はしてたけど、今は、お父さんが」
「──怪我したか? それとも、戦ってンのか?」
「怪我、してる。軍に行ってすぐに足を噛まれちゃって、って」
「……そォか」
当然だけど、家族ァ魔法少女じゃない。
だから──殺しても、治せない。
「お姉──守ってくれるの?」
「はン、なンだ。随分としおらしくなったじゃねェか、菫。馬鹿が、家族守らねェで何守るってンだよ」
「だってそれは、お姉が」
近づいてくる魔物を殺して行く。
首を狙うのァ一番効率良いからだ。そこが一番、各器官に魔法を作用させやすい。【即死】と違って終わらせるだけなンでな。即座に死ぬンじゃなくて、終わっていく間ァちっと息があるのが難点だ。だから、的確に殺す。近づく奴を全部。
「菫、家ン中こもってな。母さんも父さんも戦えやしねェんだ、お前が守らなきゃなンねェ。で、外のァ私が全部やる。上で他の魔法少女も戦ってる。いいか、絶対出るなよ。朝が来る頃にァ全部終わらせてっからよ」
「……わかった。頑張ってね、お姉!」
「あァさ!」
ハハ──これも、本来ァアイツが受け取るべき声援だ。
知ってるよ。奪ったのァ私だって、ンなこたもう理解してる。幸運の均衡ァちゃんと私に傾いちまってる。だったら、奪った分の働きァしねェとな。
梓だ。
梓・ライラック。私はここにいる。
「今だけァ、魔法少女梓・ライラックだ。家も国も守ってやるよ、ってな」
亜空間ポケットを開く。
取り出す。取り出すのァ、長い銃身。そォさ。
私の、SRだ。
「よォ相棒、久しぶりだな。んじゃ早速だけど──酷使するぜ。行けるだろ」
スコープの倍率ァちょいと下げた。自分の視力だけで十二分に見えるからな。
家の上で飛行魔法を維持。近付く魔物を全部撃ち貫いていく。【終焉】の込められた弾丸さ。効くだろ。はン、てめェらァ仲間じゃねェからな、安らかに眠らせる、なンてことしねェよ。腹だの手足だのから、徐々に終わっていく自身に恐怖しな。
「──【気烈】!」
「国民の皆様は建物の中に! この雲は視界を塞ぎますから!」
「ん?」
上の、つまり迷宮浅部の雑魚処理が終わったンだろう。自然形成の魔物ァ後から住みついた奴だからな、C級D級でも殺せる。だから、A級の奴らァどんどん地上に降りてきてンだ。もっと高位の奴らァ、たとえばお嬢とか太腿忍者とかっつーのァ逆に空飛んでる魔物の処理してるワケで。
だから、なンの因果か。
ここに揃ったワケだ。
「よォ──」
「随分と高位の魔法少女とお見受けしました! 微力ながら、助力いたします!」
「銃器を扱う魔法少女なんて初めて見るよ。それに、撃たれた魔物が全部死んでいっている。相当な使い手だね。近接の守りは任せてほしい、その力を存分に!」
「──あァよ」
そォか。
そォだったな。
私ァ今、梓だ。
ミズメじゃねェんだった。
……どっちも、ァよ。流石に欲張りってモンさ。変装道具ァ握り潰しちまったンだ、仕方ねェさ。もォミズメにァ戻れねェ。
こいつらと紡いだ時間っつーのァ、結局幻想だったってワケだ。
「──なんて、言うと思ったかい、ミズメ」
「薄々気付いていましたけれど、迷宮の時にはっきりしました。今も、です。──貴女、私達の事下に見過ぎですよ?」
「え?」
思わず、素っ頓狂な声が出ちまった。
手が滑って、なンてことァ無い。ちゃんと魔物を撃ち殺す。
「……誰だよ、それ」
「ははは、面白い事を言うね。君のことだよ、ミズメ。言いたい事があっても面倒だからって口に出さなかったり、これ以上やったら怪我をさせてしまうから、って訓練で手を抜いたり、歓迎会やパーティを楽しんでいいのかわからず、いつも苦しい顔をしていた君の事だよ」
「さっき言った言葉は全部本当です。最初から、そう思っていました。──高位の魔法少女とお見受けしました。ずっとしております。ので──貴女の戦いに、私達もついて行かせてください」
「ハ──ハハハ!」
あァ。
あァ。
これか。これかよ、梓。
成程なァ。自分を見てくれるっつーのァ、こんなにも気分が良いのか。ハハ、そりゃ笑いも出る。
「馬鹿が、騙されやがって。私ァ梓・ライラックっつーンだよ。ミズメなんて奴ァどこにもいねェ、どこの誰とも知れねェどっかの誰かさ。誰かでもねェ作り物さ。紛い物さ。お前らの信じた奴なんざ、どこにもいねェんだよ」
「それが何か? ふふ、貴女は単純に猫を被っていた──ただそれだけでしょう?」
「EDENの都市伝説に聞く悪魔と同じ名前か。それはさぞかし強そうだ。──それで、君は何か変わるのかい?」
「その悪魔本人、っつったら?」
「心強いね」
「……そォかい」
亜空間ポケットから──安藤さんに貰った、買い手のいなくなった魔煙草を取り出す。
起動法ァ、クソ、身体が覚えてやがる。
そりゃそォか。
アイツが一番使ってた方の腕が私なンだから。ハハ。ハハハ。
あ──不っっっっっ味ィな、オイ。
「リキュア、可能な限りの範囲に曇りを起こしてくれ。雷雨や雨雲じゃなくていい、曇り空だ。高さァちと低空。魔物も魔法少女も覆うくらいの高さでいい。厚みは出来る限り厚く、だ」
「ええ、わかりました」
「理央、あっちの学校周辺に行って欲しい。魔力が集中してる。あそこで誰か戦ってるかもしれねェ」
「了解!」
不味い。
本気で不味い。毒でも食ってンじゃねェかってくらい不味い。あ、ホントに毒なンだっけこれ。
正気じゃねェよ。
これを常に吸って、原材料食って、抽出した液体まで飲もうとしてやがるなンて。
正気じゃねェ。
だから、アイツあンなに楽しそォなンだろな。
だからアイツ、あンなに前向きなンだろォな。
「ならよ、だったらよ」
口に出す。
声に出す。
じゃァ、私がもっともっと、ケタケタ笑うためにァよ。
「もっと馬鹿やらねェと──追い付けねェよなァ?」
四足の構えを取る。
自分に入れられた魔物の精神体がなンなのか、って。
ハハ、教えられちゃいねェけど──覚えてるよ。もう私に完全に統合されちまったけど、ちゃんと覚えてる。
「リキュア、ここの守りァ任せた。地上に被害が出そォになったら雷を弾けさせてほしい。できるか?」
「──そういう魔法ではないと、何度も申し上げましたけれど。ええ、できます。任せてください」
「あァ」
飛行魔法を用いる。
翼だ。今ァ無い翼をはためかせていた。
爪だ。今ァ鋭くない大きな爪を持っていた。
尾だ。今ァ持ってねェ長い尾っぽを振り回していた。
その身ァうねり、その髭ァ靡き、その鱗ァ輝いていたんだ。
「歓べよ。その名が示すとおりに!」
駆け上がっていく。
泳いでいく。
そらを──大蛇のよォに。
終焉を歓べ。来たぞ。私が来たぞ。
「
「
「
「ハン、
聞こえるさ。
最初に迷宮来た時ァ、喋れるなンて知らなかった。聞こえて無かったもんな。
でも、私はもう、魔物の精神持ってるって自覚あるからさ。聞こえるよ、その言葉。被ってる奴ァあんまし聞こえねェけど、どーせ非難轟轟なンだろ?
ハハ。
知るかよバーカ。
知らねェだろ。14歳っつーのァな、一番聞き分け悪い時期なンだよ!
思春期だからな!
「【終焉】──終わりに身を窶せ、天なりし者の使い」
「【神光】が、全てを貫き通しますわ。この空に、貴女達の居場所はないと知りなさい!」
すぐ近くで、それァ聞こえた。
いいね。お嬢も雲の中で戦ってる。この雲の意味をわかってる。
「ハハ──笑え笑え。馬鹿やるンなら、とことん笑え!」
それが、梓・ライラックだからな!
「さァて、今頃アイツが頑張ってる頃だと思うンで、俺ァこっち来たわけなンだわな」
「はい。私達に無断で、丁寧に分解した車椅子を自力で組み上げ、誰も引き連れずに来たわけですね」
「俺ァもう自分の守りとか考えねェことにしたンだ。俺ァ前だけ向いて進むンでね、勝手に誰かが守ってくれるし、守りに来てくれるだろ?」
「その妄信が下半身圧壊に繋がったわけですが」
「ケケ、そりゃ返す言葉も無ェってな」
「……なんか、仲良いですね、お2人とも」
冷静メイドの言う通り、お忍びもお忍びで迷宮の方に来てみたら、なんとこいつら待ち構えていやがった。
3人だ。冷静メイドと、暴走繭。
そンで──。
「……梓」
「おいおいまーだシケた面してンのかお前。そろそろ顔上げろよ、ポニテスリット」
始の点の時から、ずーっとギクシャクしてるポニテスリット。
この3人が、迷宮の内部で俺を待ち構えていた。誰もいねェなラッキー、って入って行ったらコレだ。一瞬で捕まって、今冷静メイドに抱かれてる。足が無いンでな、持ちにくいンじゃねェかと思ったら、案外そォでもないらしい。
「それで、ロクに走ることはおろか歩くことも立つ事もできない梓様。どちらへいかれるおつもりでしたのでしょうか?」
「決まってるだろ、ソテイラのトコさ。何があったのかァ知らねェが、迷宮の主にしかこォも迷宮ァ変えられねェよ。──こんな風通しの良い迷宮、どっからでも入り放題じゃねェか、なァ」
迷宮の、壁という壁。
外壁の全てが開放されている。
逆三角錐の、ちょいと頂点の少ないピラミッドだった終の因ァ──今ァ角張ったハチの巣みてェになってるわけだ。
なンで、迷宮の化け物達ァ湧いてァ出てって、湧いてァ出てってを繰り返してる。
キラキラツインテの話でもソテイラの話でも、迷宮の化け物ってな迷宮の外じゃ生きられねェはずだ。だからホントに短時間の尖兵なンだろう。下の国を、上のEDENを破壊して──どっかへ行く。
さっきからな。ちょいと移動してる気がすンだ。本当に少しずつだけど。
多分それが、狙い。
「なンでまァ、本格稼働する前に頭叩いて殺しちまおうかと思ってな」
「殺せるのですか? 梓様はもう魔物を殺せなくなってしまったかもしれない、と、アールレイデ様から聞いておりますが」
「私みたいにトラウマになってしまったと、私も聞いてます」
「……」
「あァ、そりゃ大丈夫。絶対躊躇するから背中ァお前らが押してくれ。押されても迷うだろォから決心付くまで守ってくれ。得意だろ?」
「素晴らしい身勝手です、梓様。防衛組防衛班エミリー隊がコーネリアス・ローグン。この身に代えず、この身もエミリー様も縁様も守りつつ、梓様も守り通します」
「100点満点さ。んじゃよ、冷静メイド」
「はい」
唯一無事な左手で──地面を指さす。
迷宮迷ってる暇ってなないンだわ。たとえ外壁開放されてても俺が外伝ってくにゃ敵が多すぎる。
「最奥までぶち抜いてくれよ。俺が迷宮殺し尽くしてもいいぜ」
「お手数はおかけしません。──【侵食】」
「じゃあ、私が少しだけ手伝ってしまいましょうか」
肌色になる地面。明らかにヒトの皮だ。見る奴が見りゃ気持ち悪くなンじゃねェかって思うそこを──細い糸が通る。肌色に罅を入れて、突き進んでいく。
これが、暴走してない状態の【壊糸】。S級特殊魔法。世界の隙間に入り込み、破壊を齎す罅なりし者。
「──開きました。行きましょう」
「あァよ。ポニスリ、来る気ねェんなら他のトコの応援行きな。こっから先ァ、ちゃんと死地だぜ」
「……行く。そう決めた」
「はン、なら来いよ。下なら大丈夫さ。なンたって、悲鳴が聞こえねェ。みんなが全部守ってる証拠だ」
「わかっている」
冷静メイドに抱かれて、その穴を落ちて行く。
ポニテスリットも暴走繭も。ちなみに車椅子ァ迷宮の外に置いてある。流石に持ってァいけねェんでな。
「飛行魔法や【侵食】による速度減衰も実行できますが、如何いたしましょうか?」
「ポニテスリット、【波動】でいけるだろ?」
「ああ。【波動】!」
本来、浅部の迷宮の壁ってな壊しちゃいけねェもんだ。だからポニテスリットァ本気出せてなかった。
けど、もォ潰していいンなら、話ァ別、ってな。
俺達の周囲に出来上がる不可視の力場。それが、開けた穴の周囲をグシャグシャと潰していく。逃げ遅れた化け物も、迷宮の構造も、一茶合切を潰して、一瞬で最深部周辺まで来た。
流石にここの壁ァ壊せないらしい。【波動】では。
「ご安心ください。最深部周辺の迷宮は、この貫通した穴以外私の糸で埋まっていますので──どのような魔物が湧こうとも、外に出る前に壊れます」
「……鬼教官の【痛烈】も相当だけど、暴走繭もちゃんとこえーなオイ。つかお前の【侵食】も怒りしょんぼりの【劇毒】もだけど、やべーのの粒揃いじゃねェか」
「【即死】が一番かと?」
「エグさァ負けるよ。【即死】ァ一瞬なンでな」
じわじわ蝕んでいく【劇毒】。世界を自己に変質させる【侵食】。触れたものに罅を齎し破壊する【壊糸】、見ているモノ全てに激痛を与える【痛烈】。
怖すぎだろ。敵に回したくねェ。
その点【波動】と【即死】の優しさよ。
……いやまァ【即死】ァまァまァまァおいとくとしても。
「私も、もう少し威勢の良い魔法の方が良かったのだが」
「馬鹿お前、これァ威勢がいいンじゃなくて──」
ダガーに【即死】を纏わせる。
そしてその槍を、殺す。
「恐ろしい、ってな言葉で表すンだよ。よォアンゲル。居残りか?」
「……恐ろしさで言えば、お前が一番なのだがな」
やっぱり誰も知覚できねェか。
あの頃のたァ言え、【神速】状態のお嬢が反応できなかった速度だ。それが複数体放たれて、けど国民の悲鳴を生んでない今の魔法少女ァすげェよ。頑張ってる。アイツも、多分【神光】になったお嬢も。
んじゃこっちも頑張んねェとな。
「梓様。世界言語の使用は禁止です。ディミトラ様、ナリコ様、他、複数の方々より使用禁止令が出ています」
「へェ、なンで?」
「貴女に死んでほしくないからです」
「──そりゃ、最高だな」
もう一回。今度ァ盾による突進だった。見えてねェ。反応できてねェ。
俺だってそうさ。ちゃんと知覚できてるわけじゃねェ。けど、どこに行けば死なないかわかるから。
どこに【即死】を置いとけば、相手が来るのかもわかるってなスンポーさ。
「なァ、暴走繭。羨ましいだろ。仲間に死んでほしくないからって、効率の悪い作戦を取る魔法少女がこんなにも増えたンだぜ。ハハ──いいじゃねェか。仲良くおてて繋いで歩こうぜ。誰も死なねェ道をさ」
「ええ、これほど素晴らしい事はありません。そして」
俺のダガーが向く先に、【壊糸】を伸ばす暴走繭。【波動】を展開するポニテスリットに、地面の【侵食】を試みる冷静メイド。
そうさ。
俺が反応できるンだ。じゃァ、俺に反応すりゃいい。
それでアンゲルの対処ァできる。
「SS級の皆さんには申し訳ないのですが──"役割の統合"というものが何なのか、S級の私が先に理解してしまいましたので」
そう、にっこり笑って。
暴走繭ァ──地面に、手を付ける。
「行わせていただきます。──.
この階層の床が、完全に破壊された。
「申し訳ありません、エミリー様。"役割の統合"やら何やら私にはよくわからないのですが、こういう大規模な事をするのでしたら事前に言ってもらえないでしょうか。これは梓様にも常日頃から言っている事なのですが、何事にも準備というものがございます。──それはそれとして、美しいお姿です。エミリー様」
「ごめんなさい、ローグン。でも、ほら。アンゲルも倒せたし──黒幕も捕らえたので、良しとしてね」
「──……君かぁ」
"役割の統合"。
唐突に起きた暴走繭のソレァ、アンゲルごとアンゲルのいた階層を全部ぶっ壊しやがった。
気のせいじゃ無ければポニテスリットの【波動】も壊れてたし、俺の【即死】の魔力にもちょみっと干渉してきたよォな。
まァんな考察ァ後でやりゃいいのさ。
今ァ、コイツだ。
「よォ、ソテイラ。久しぶりだな。今度ァちゃんと、自覚を持って否定しに来たぜ」
褐色肌に、プラチナブロンドの美しい長髪。背筋も姿勢もスラっとした女性。ポニテスリットよりも深いスリットの入った黒い服と、ところどころのシースルーがぶっちゃけ眼服だ。もォ隠さないけど普通にそォいう目で見れる。
が──わかる。前の俺たァ違うンだ。
こいつが、違う、って。
わかる。
「お前、前言ってたよな。魔法少女と人間と獣以外を化け物とするのなら、そうだ、って」
「そうだねー。言ってたねー」
「ちげェな、お前ァ神に近い。聖獣って奴だろ。始の点にいたアードゥムラとブゥリに近いなンかだ」
「……そうだとしたら、それは魔物じゃないのかな?」
「いいや? ただの確認さ。暴走繭の魔法に囚われて動けないよォだが──隙あらば俺達を殺そうとしてる。のほほんとしてやがるがな、その目に殺意しかねェ。だからよ、ちょっと聞きたいンだ」
「なにかなー」
にこにこと、のほほんと。
──ヒシヒシと。あァ、殺したくて殺したくてたまらねェって、そォ言ってるぜ。なァ、あンたの神さんァよ、ウチの神さんとも親交あっからよ。
ちったァ迷ってやる。
ちったァ問答してやる。
なァ。
「お前、生きたいか?」
「そりゃ勿論だよー。生きて、殺して。魔法少女をこの世から消し去って、人間も消し去って、私達は行かなきゃいけない場所があるからねー」
「そォか! アハハ、そりゃいいな! 嬉しいぜ、ソテイラ」
その顔を、掴む。
──やっぱり俺の価値観ァ、倫理観ァ、狂ってるらしい。
カンコウの時ァあんだけ泣いたぞ。こっちァ初対面じゃねェ、なンなら親交のある方だ。ハハハ。
だってのに──こんなにも、殺意が湧く。
「否定するの? 殺すの? ──私を。君は、殺せるの?」
「あァ。可哀想にな、たァ思うぜ。お前、捨てられたンだろ。自分の信仰する神から。それが迷宮を作った奴なのか、外にいる誰かなのかァ知らねェけどさ。──ダメだよ。捨てられたからって、自暴自棄になったからって。狙うモン違えたら──俺の敵だ」
「……そっか。そっかぁ。そっかぁ。君、夜の使徒だったんだー。魔法少女の身体だし、魔法持ってるから気付かなかったよー。──ねぇ、見逃してくれないかな。もう悪い事しないからさ。
「ダメだ。お前ァやっちゃならねェことやったンだ。死者は死者の国に帰りな」
発動する。
魔法、【即死】。躊躇いなく、躊躇なく。
ヒトガタで、会話できて、その過去も今知って。
けど、見逃してくれないか、なンていいつつ、最後の最後まで反撃の機会を狙ってたソテイラを──殺す。
暴走繭の不可視の線に捕えられたまま、カクンと首を落として動かなくなったソテイラ。
身体には徐々に罅が入っていき──最後には、パキン、と。
バラバラに砕け散った。
「……殺した、のか」
「すみません、砕くつもりはなかったのですが、唐突に抵抗が消えて……」
「あァ、俺が殺したからな。まァここで悠長に喋ってる時間ァ無いんだ。ポニテスリット、お前にしか頼めねェことがある。やってくれるか」
「な、なんだ?」
「簡単さ。──もォすぐこの迷宮が落ちちまうンで、最大級の【波動】でぶん殴って国の上から飛ばして欲しい」
「──そう言う事は溜めずに早く言え!!」
いやァすまねェな。
迷宮の主殺しても学園長殿の魔法ァ有効なンじゃねェかと思ったら、普通に切れるでやんの。多分ここがもう終の因じゃなくなったからだと思うンだけど、それにしたってもちっと準備しとけって話だ。
まァ、もうEDENァ固定されてない。
ポニテスリット以外の奴でもぶん殴って飛ばせるだろォが、【波動】が一番効率良いわな。
「よォし冷静メイド、暴走繭。俺達も脱出するぞ」
「アールレイデさん達からは"梓さんは時折馬鹿ですけれど私達への指示や作戦立案などを熟す頭の良い方ですのよ"なんて聞いていたんですけど、時折じゃなくて根っこからの馬鹿ですね?」
「エミリー様。梓様は日を追うごとに馬鹿になっていっているだけで、初めの頃はもう少し冷静でマトモな方でした」
「しょーがねーだろ魔法少女ってな馬鹿しかいねーンだもん。合わせてたらこーなるって」
「ほう」
まァ、大丈夫だ。
保険ァかけてある。なんでもできる便利屋さんに手紙出しておいたンだ。
実際落ちちまったら惨状も惨状なンでな。
「【波動】!」
「誰が便利屋よ! ちゃんとマッドチビ先生って呼びなさいよ! 【鉱水】!」
「クク──鳥の形をした式鬼で文通がしたい、などと言い出した時はようやく乙女になったか、などと思ったが──」
「ぶっ飛べ、EDEN!」
ぶっ飛んだ。