71.法被場須禰,百木長.
「ま、引き際って奴さな」
ぶっ飛んでったEDENからも、国からも離れて一人呟く。
疑似【隠涜】の機能ァすべての魔法少女の目を欺いて、私をあの場から離脱させた。
EDENが離れると同時、永遠に続くかに思われた魔物達の侵攻ァ、その身体が消え行くとともに終息を迎えた。迷宮の魔物ァ迷宮の外でァ生きられない。ソテイラやキラキラツインテの言ってた通りだったってワケだ。
いやまさか私も終の因がEDENごとぶっ飛んでくたァ思っちゃいなかったけどよ。
……これで良かったのかね。
多分、ニヤニヤ丸眼鏡の意図してたコトたァ違うンだろォし、こっから先のEDENがどォなるのかも全く以て予測がつかない。予想も推測も、憶測さえもできない。
もしかしたら私達の野望を阻害する行為だったのやもしれねェ。
けど。
「最後に家族と、あいつらの顔見れたのァ、でけェな」
「えー。お前会ってきたのかよ。ずりぃー」
「!?」
あり得ない。
疑似【隠涜】ァちゃんと機能してた。現に他の魔法少女ァ誰1人として追ってきていない。
だってのにコイツァ。
……えーと、なンか変な形の鳥みてェなガーゴイル、なンて言ってたっけ。プテラゴイル? に下半身埋めて──ここまで来た。
「よォ。なンでついてこれた、みてェな顔してるけど、別についてきたワケじゃねェよ。もし俺がそっち側で、混乱に乗じて逃げるとして、且つ口惜しさから国を一望できる場所っつったらドコかねェ、なんて考えて当たった場所の3個目だ。1個目に居ろよ馬鹿が」
「知るかよ……」
コイツ、わかってンのか?
私が逃げてくるって事ァ。
私が、この場所に逃げた、って事ァよ。
「あら、久しぶりね。そしてボロボロね」
「よォマッドチビ。そっちも壮健そうで何よりだ。んで、安藤さんに……そっちのァ、お初かね」
私の迎えが、いるってことなのに。
「ふん、アンタはいつ見ても怪我してるね。ちゃんと飯は食べてんのかい?」
「あンま食ってねェけど、時たまコイツが飯持ってきてくれるんだよ。ハハ、安藤さん。コイツ、結構俺ンとこ来ちゃお悩み相談とかしてくンだぜ」
「へぇ? そんなに仲良くなってたのかい」
「なってねェって!」
プテラゴイルに身を埋めたコイツァ1人だ。単独だ。
対してこっちァ大所帯さ。私含めて4人。私とマッドチビと、安藤さんと──。
「話には聞いている。──お前が、梓・ライラックか」
「よォ、てこた、てめェがゲヘナか? それともジャハンナムか? はン、どっちも一緒だよなァ?」
「成程、聞いていた以上に学はあるらしい。だが、この場にたった1人で現れた事には感心しないな。こちらの戦力はわかっているのだろう?」
「節穴かてめェ。コイツがいるだろォが。相棒だぜ俺の」
「……それは、ガーゴイル種だ。魔物だが、わかっているのか?」
「ア? なンだてめェ俺の眼を節穴だって言いてェのか。初対面の奴によくもまァそんな悪口吐けるな。感心するぜ」
馬鹿が、刺激すンなって。
ニヤニヤ丸眼鏡ァ案外心狭いから痛い目見るぞ!
「ソテイラを、殺したな」
「あァ。なンだ、お前が唆したのか? それともアズサか?」
「私が唆した。梓は私の言葉を伝えたに過ぎない」
「へェ、庇うのか」
「事実は正確に伝えなければならない」
「そりゃごもっともで」
ソテイラを。
殺し、た?
「待て、お前……ソテイラを殺したのか?」
「あン? たりめーだろ、アイツァ化け物だぜ。それも、国を魔物に襲わせた最悪の化け物さ。殺して当然だろ」
「殺さなきゃ、いけなかったのか? ──それァ、必要な犠牲、なのか?」
「何言ってンだ。──無意味な死だよ。アイツもっかい屈服し直して、契約の軛をもっかいつけりゃ、普通に生き永らえたンじゃねェの。契約だのなンだのを俺ァ知らねェが。そこんとこどォかね、ニヤニヤ丸眼鏡」
「あは、凄い。こっちの梓と同じあだ名をつけるのね、貴女」
「センス大体一緒だからな」
あいつァ。
ソテイラァ、直前までアンゲルとボードゲームしてるよォな。普通に会話出来て、普通に迷宮の魔物達と仲の良い──生きてる奴、だろ。
生き物だ。生物だ。中身ァ確かに違うのかもしれねェけど、魔法少女や人間となんら変わらねェはずだ。生きてるコトァ、何も。
どころか、生き返りもしないンだぞ。家族やガッコの連中とかと同じ、一個の命しか持ってない奴なンだぞ。
それを殺して。
なンでヘラヘラ笑ってやがる、てめェ。
「確かに、再度調伏し、契約を結び直せば可能ではあっただろうな」
「そォか。ま、知っててもやらなかっただろォけど」
「【終焉】」
「【即死】」
魔法が、殺される。
……終わらせられない。
「おいおい、今更来るたァ思ってなかったぜ。やるタイミングなんざいっぱいあっただろ。まァ今みてェに単独になった方がやりやすいのァわかるけどよ」
「──やっぱりお前ァ私じゃない。感性が大体一緒だなンて嘘だ。──私だったら、ソテイラを殺す事ァない」
「あァそこで引っかかってンのか。俺だって対面する直前までァそっちだったよ。殺すつもりなんざ一切無かったし、どうやっても殺さなきゃいけねェってなったら死ぬほど迷うつもりだった」
「じゃァ、なンで」
「簡単なこと。同じ夜の使徒だから、だろう?」
ニヤニヤ丸眼鏡が。
にやにやと、厭らしい笑みを浮かべて──言う。
「へェ、ちったァ学があるみてェだな、はじまりの魔法少女サンってな」
「ふん、私に知を説くとは、大きく出たな」
「夜の使徒だったら」
「ン?」
また煽り合いを始める2人に、割って入る。
認められない。
「夜の使徒だったら──ソイツがたとえ、人間でも。お前ァ殺すのか? 殺す必要がなくても──ソイツの命が、一個でも」
「別に模範的な夜の使徒なら殺さねェよ。ソテイラァ向けちゃいけねェモンに矛向けたから殺したンだ。つか、なンだその条件。俺ァそォいう区別ァしてねェんだよ。殺す必要があっても、夜の使徒でも風の使徒でも太陽の使徒でもねェ奴だったらさ、命が幾つあったって俺ァ躊躇する。つか、殺せねェ。ずっと言ってるだろ」
「なンでだよ。──おかしいだろ、それァ」
「おかしィのァお前らだよ」
違う。
やっぱり違う!
こいつァ、目の前の女ァ。
私、じゃない。
完全に──別人だ。
「ま、その辺にしておきなさい。ほら、梓。帰るわよ。もうあの国にも、EDENにも、壊れた終の因にも価値はないの。それに──準備は整ったから」
「ふむ、命拾いをしたな、梓・ライラック。今は手元に空の精神核が無い。あればその精神を引き抜いたものを」
「馬鹿言え、そこまで近づかれりゃ手足だの臓器だの殺して動けないまま一生を終えさせてやるよ」
「ほう、やってみるか?」
「なんだい、折角完成までこぎつけたのに、決別かい? じゃあこれは要らないね?」
「おォ待て安藤さん。なンだその足みてェなの」
「義足だよ。この子に作ってほしいって頼まれてたのさ。けど、今そんな気分じゃなさそうだろ? だからまぁ、壊しはしないけど、預かっておくよ」
「えー、くれよー」
「馬鹿だねアンタ。アタシらは敵同士。今ここで命奪われないだけ良しとしときな!」
「えー、くれよー」
「聞き分けの悪い子だね! ダメっつったらダメだよ!!」
「えー、くれよー」
「……【業焔】」
「ちょっとアニマ、こんな至近距離でそれ使わないでよ。って、あぁ、私の知識も総動員した義足が溶けて……あぁ」
「私も少し手伝ったが、まぁ怒らせたアイツが悪いな。アニマが怒るとなると、相当だ」
「そうね。私も滅多に見ないから驚いているわ」
「うるっさいね師匠もゲヘナも。別に怒ってないよ。ゴミを処分しただけさ」
うるさいのァアンタら全員だ。
私ァ今怒ってンだよ。気ィ削ぐンじゃねェ。
「おい、そこの馬鹿」
「ア?」
「敵同士なンだろォが。肩組もうとしてきてンじゃねェよ。どォせ幸せのバランスとか分配とか面倒なコト考えてたンだろォが、そもそもが間違ってンだよ。いいか? あの時認めただろ。思い出せよ」
「……」
「俺ァお前を否定しねェ。お前ァこの世にいていいんだ。俺ァもう認めてンだよ、お前を。世界ももうそろ認めただろ。お前が梓・ライラックであり続けるか、ミズメを選ぶかァ知らねェけど、もう俺から別たれたから、とか、俺が受け取るべきものだったから、とか、そんなの考えンな。お前程度が責任背負えるほど俺ァ軽くねェんだよ」
それァ──確かに、言われた。
あの時。
世界になど屈するなと。死を前提に考えるなと。
目標さえ達成したら、死んでもいい、なんて。死んでも考えるな、と。
「いいか? 何度も言うぞ。俺とお前ァ別人だ。同姓同名なだけの別人だ。俺が俺に入園祝いなんざ贈るわけねーだろ。俺が俺に話しかけられて喜ぶわけねーだろ。訪ねられて、飯貰って、相談受けて。それを喜ばしいと、楽しいと。そォ思うワケねーだろ、馬鹿」
アイツの手の内で、魔煙草が起動される。
私ァ、しない。あんなクソ不味いもの喫まない。
「俺とお前の考えが違う、なンて当たり前なンだよ馬鹿が。馬鹿が。ばーかばーか。馬鹿がよ。だから、とっとと行っちまえ。決別だし決裂だ。お前ァお前のやりたいこと勝手にやってやがれ。それが俺にとって邪魔だったら、全力で殺しに行く。邪魔じゃなかったら、また一緒にピザでも食おう」
「……嫌だね。なンでアンタなんかと飯食わなきゃなンねェんだ」
「パルリ・ミラのパフェでもいいぞ」
「……それァ考えとくけど」
「そこで揺れるのかいアンタ……」
うるさいな安藤さん。
そこァ譲れねェんだよ。コイツしか本店知らねェんだし。
「まァこんなとこだ、お前に言うのァ。んでそっち。安藤さんァ、まァまた今度ゆっくり話そうな。あるだろ、多分。話せる時間。だからいいとして──そっちの3人」
「あれ、バレてるのだ!?」
「馬鹿が、カマかけに引っかかりやがって」
「騙されたのだ!?」
言うだけ言って、矛先を変えた。
……クソ、結局コイツが主導権握ってやがるじゃねェか。
これじゃ、私が。
「まずマッドチビ! マッドチビ先生からの伝言だ。"もし会うことあったらアンタ裸にひん剥いて反魔鉱石で固めて永世街中に飾ってあげるから覚悟しときなさい"だそォで」
「それは嫌なのだけど、それってつまり自分の裸の彫像を街中に晒す事になる、ということには気付いているのかしらね」
「多分気付いてない。あの人ポンコツだから」
「そ。まぁ覚悟しておくわ。長い間隙間でこそこそやらせてもらっていたわけだし」
「おゥ。で、次ゲヘナ」
「なんだ。私にも伝言があるのか?」
「いやあるわけねーだろ。ただ、ウチの神さんからな。"嫌われものは帰ってこなくていいですよ"、だそォで」
「なるほど。余計に帰りたくなった」
「んで、そっちの! 名前ァ!?」
「ぷ、プリメイラなのだ!」
「了解、ピンクカチューシャな」
「安直!?」
……これじゃ、私だけが、気にしてる、みてェじゃねェか。
クソが。
いつか絶対わからせてやる。こっちの考えのが正しいンだって。お前ァ間違ってる、って。
私は。
「やっぱり、助けなきゃよかった──って、思ったか?」
「……思うわけねェだろ。でも今死ねって思ってるよ」
「ハハ、そりゃいいな。あ、そォだ。一応言っておくぜ。──ミズメの名前ァ学園に残すよォ打診しといてやる。全部終わってわだかまりなくなったらもっかい通いに来いよ。単なる不登校児として扱われるだけだからよ」
「うるせェ。……理央とリキュアって魔法少女にァ、絶対手ェ出すんじゃねェぞ」
「えー、横取りしちゃおっかなー」
魔法を放つ。
殺される。
やっぱりダメか。
「はいはい、今度こそ行くわよ。それじゃあね。次会う時は、宙の莽かしら?」
「あァ。天幕の向こうで会うンなら今度こそ本気だ」
「やはり学はあるな──どうだ、今からでも私達と共に」
「ゲヘナってたまに馬鹿なのだ。今のはどう考えても"ここは今生の別れに非ず。しかして友誼を結ぶでもなく、ただ背を突き合わせ、己が道を進むのみ"の状況なのだ。今から手を取り合うとかどー考えても無理なのだ」
「馬鹿な話してないで、ほらほら行った行った。いつまでも駄弁ってられるほど時間はないよ」
「……」
「アンタもいつまでやってんだい! ほら行くよ!」
首根を引っ掴まれる。
ちょ、ちょい安藤さん、結構苦しいそれ。結構苦しいそれ!
「──なァ、神さん。今日くらいァ、法被場須禰にしときなよ。これくらいならいいだろ、意味を持たせなきゃ」
そんな声を聞きながら。
私達ァ、森の中へと消えて行った。
ふらっと後ろにぶっ倒れそォになった所を、誰かが受け止めてくれる。
誰だろォな、と上を見上げりゃ、そこにァ怒った顔の逆さお嬢。
絵に描いたようにぷんす、としている。ははァん? これァ、怒ってるな?
「貴女、自分が生命維持に用いる魔力の消費だけで一日の半分を眠って過ごしている、という事実を自覚していますの?」
「知らなかったよ。教えてくれてありがとう、金髪お嬢様」
「……余裕ぶって、今日何回魔法を使いましたの? 貴女の行う、魔法を殺す【即死】も含めて、何度使ったのか言ってみてください」
「数えてねェよ。何回も、だ」
「それで、今。──体力は?」
「はン、っとに頭悪くなったなァお嬢。──ぜろ。もうむり」
はぁ~、と大きなため息。
ハハ、仕方ねェだろ前しか向けねェんだから。もう上体を起こしていることすらできねェ。完全脱力状態だ。呼吸も、なンなら会話もキツイ。目を開けてるのも厳しい。
くそめ、アイツの魔法、【終焉】だったか? 使いやすそうな魔法使いやがって。遠隔じゃねェか。しかも殺すのにかなり魔力持ってかれるし。
それでいてアイツ素の身体能力も高けりゃ魔力量もあるとか、ちぃっとくらい寄越しやがれってンだ。しかも家族にも会ってきたとかずりィ。あと安藤さん折角作ってくれた義足溶かしてくれやがってよ。【業焔】ってそんなに温度あるンだな。こっわ。
「……帰りますのよ」
頷くこともできない。
ただ、閉じて行く視界に。
もう一度、法被場須禰と呟いた。
口ァ動かないんで心の中で。
──起きたわ。
「起きたわ」
「起きたか、梓」
「おお、ポニテスリット。大丈夫だったか?」
「3日眠っていた奴の言葉ではないな」
「マジでか」
「嘘だ。本当は2日だ」
「変な嘘吐くンじゃねェよ」
が、どっか吹っ切れたよォで何より。
で……ここァどこだ。
「ここァどこなンだ」
「EDENだ。私が殴り飛ばし、ディミトラが後押ししたことで北方の山脈に突き刺さったEDEN。下部の迷宮はもう機能していないとの話で、ディミトラが全て【鉱水】に変えて、EDENの再建に当てた」
「マッドチビ先生すげェ」
「今尚尽力中だ。終始"なんで私が……"とか"鉱石の支払い追加忘れないからね"とか"あと生徒達の授業料も取るから!"とかなんとか呟いていたが、とてもまじめで丁寧な仕事をしてくれている」
「あァまァマッドチビ先生律儀だからなァ」
……楽園ァ、堕ちた、ってワケだ。
これ、どォなンのかね。
国ァさ。魔法少女の因子を持ってる奴らァ、終の因から放たれる膨大な魔力を常に浴びせられていたよォなモンだから、魔法少女に覚醒しやすくなってた。それが……終の因が無くなって。
覚醒しにくくなった、ってだけで、する可能性ァ、あるンだよな。
それ以上に──終の因が無くなったンだ。
世界を巡る魔力ァ、いずれ飽和し、天幕を破る。それが狙いなンだろォけど。
はァ、ちィっと冷静になりゃ色々見えてくるワケだ。
「国ァ?」
「防衛組が防衛している。だが、今後については国側とよく話し合う必要があるだろう。国民をこちらに来させるか、私達があちらへ行くか」
「もしくァ、アイツらが化け物に襲われねェよォにするか、か」
「できるのか?」
「ン? 言ってなかったっけか。化け物が人間を襲うのァ、魔法少女の因子持ってるからだ。だからソイツさえ殺しちまえば人間ァ他の生物と同じに成り下がる。つまりまァ、食料として見られることァあっても、大侵攻なンかで狙われるってな無くなるのさ」
「……成程」
だから俺がとっとと復帰して魔法少女の因子殺しをやんないといけねェんだけど、まずァ魔法少女の因子を見分ける方法と、果たしてソレを殺して健康被害が出ないかってのと、そもそも俺が上手く魔法少女の因子を殺せるか、ってのと、更にァ一日にできて10人くらいだろォってデメリットがあって。
まずこの、生命維持に魔力使わなきゃいけねェ状況を脱したい。
だから"役割の統合"とやらで肉体の新生? ってなができりゃいいンだが……あァそォいえば。
「ポニテスリット、暴走繭がどこ行ったか知らねェか?」
「エミリーなら、国だろうな。防衛組だぞ、彼女は」
「あァ確かに」
あとお嬢か。
この2人に"役割の統合"がどォいう感覚なのか聞いて、とっとと済ませねェと。
ふゥ。
「で、お前なンでここにいるンだ?」
「決まっている。お前の看病を」
「いやでもお前ポニテスリットじゃねーじゃん」
そのまま部屋出てってくれたらよかったンだけどな。
やめてくれよ。こっちァ疲れてるンだって。
「……何が、だ?」
「いんやさ、ポニテスリットがンな単純な事で吹っ切れるワケねーだろ。アイツァ落ち込んだらどこまでも落ち込んでいくタイプだよ。余程でけェ事ない限り吹っ切れねーって。あとこの因子の説明ァポニテスリットにしたし」
「……」
ポニテスリットをナメすぎだよ。
アイツ、アズサが来てから何か月か経った今でさえ落ち込んでたンだぞ。どんだけだと思ってンだ。一回仲直りできねェとそれがずっと心残りになっちゃうけどやっぱり言い出せなくて困って困って抱えて抱えて声を掛けて欲しいけど掛けて欲しく無いしかけられたらかけられたでなんて言えばいいかわからないからうむとかわかったしか言えないし、みたいな奴だぞ。
──不器用な奴さ。絵具髪にちょっとだけ似てる。
「そこまで理解していたなら──何故私を殺さない。そうだ。私はミサキ・縁ではない」
「なァ、何なんだお前ら。アズサもだけどさ。人を殺人鬼みてェにいいやがって。俺ァ殺すの嫌だって言ってンだろ。そンな事も理解してねェでポニテスリットに化けたのか。ちっとァ調べて来いよ」
「それは、悪かった」
「謝るんかい」
なんだコイツ。
素直だなオイ。記憶失ってる時の紺碧ベルトみてェだ。
「……」
「……」
「……」
「いや、なンか言えよ。お前がなンでここにいンのか、お前が誰なのか、ここァホントァどこなのか。はい順番に言う!」
「ふむ。まず、私がここにいる理由は、家主だからだ。私が誰かというと、難しいが、村の者には村長と呼ばれている。ここが実はどこなのかというと、ううむ、難しいが、夢の中、という表現が最も正しいだろう」
「あァさ、頭おかしィのかお前」
「それは否定しない。何故なら自分の名前も覚えていないからだ。いつからここにいるのかも、いつまでいなければいけないのかもわからない。ただ、私は人の記憶を夢として見る事ができる。故にこうして他人の姿や言葉を借りて、適当な理由を付けて漂流者を引き留めている。貴女のようにすぐに気付く者も多いが、たまに信じてここでの滞在を決め、今まであった事などを言葉として話してくれる者もいる……という感じで、伝わるだろうか」
「おォ大丈夫だ全部伝わった。説明ァ上手いなお前」
「ありがとう。褒められるのも久しぶりだ」
うーん。
うーん?
……これ、アレか?
幽体離脱~、で、ヘンなトコ迷い込んだか?
やっべ。
これ2日3日どころの騒ぎじゃないくらい寝てる可能性あるぞ。
早く帰らねェと。
「ちなみにこっから出る方法ァ?」
「夢から醒めればいい。眠りから目覚める事が、此処を出る唯一の手段だ」
「あー、んじゃ、たとえば、だけどよ」
「ああ」
「体が超絶疲れて、2日3日も眠りこけちまってたら──どォなる?」
「当然だが、出ることはできない。こちらと現実での時間差というのを私は測った事が無い。故にどれくらいの差があるのかもわからないまま、ここでゆるりと過ごすしかない」
「あー」
あー。
あーあー。
「もっかい聞くけど、ここ、夢なンだよな。村の名前とかあるか?」
「夢の中で合っている。村の名前はカシヨ」
「村の者にァ村長と呼ばれてる、つってたよな。他に村人がいンのか」
「それなりにはいるぞ。恐らくは、長い間眠り、そのまま目覚めなかった者達だ。ここに定住し、しかして死していない者。死者はこの村には訪れないからな」
「あァそりゃ知ってンだけどな」
ってことァ、だよ。
ってこたァ──いそォだな。
「騙してすまなかった。引き留めるつもりはない。夢から覚め、現実へと帰ると良い」
「それができたら苦労してねェ、ってな。ハハ、俺ァもちっと寝ないと起きれねェくらい疲れてたのさ。しばらくこっちに世話になるよ」
「そうか? それは嬉しいな。夢だけではわからない事も沢山ある。いろんな話をしてほしい」
「あァよ。村人とも交流していいのか?」
「勿論だとも」
一応、手足を見る。
……全部ある、な。おじさんのソレじゃねェが、梓・ライラックのそれだ。
五体満足の、梓・ライラックだ。
おー。
腕。足。久しぶりだなァおい。
「起き上がれるか?」
「ン、大丈夫。現実じゃ無かったからよ、ちょいと感動してただけだ」
「無かった……そうか。夢には出てこなかったが、つらい事があったのだな。大丈夫、カシヨの村では誰もが健康だ。誰もが悪意を抱くことなく、理想のままに穏やかに暮らしている」
「夢みてェだな」
「夢さ」
ベッドから起きて──足で、地を踏む。
おー。感触もちゃんとある。夢って言われなきゃ気付かねェなァこりゃ。
服ァ……あー、制服なのね。魔法少女の衣装じゃねェのァ、……ま、後で試してみりゃいいか。
「俺もアンタの事村長って呼んでもいいか? そこまで長く滞在するつもりァ無いんだけどよ」
「勿論良いとも。それと、衣服や嗜好品についてだが、深く思い浮かべることができれば出てくる。夢だからな」
「へェ」
じゃ、思い浮かべンのァパルリ・ミラのパフェ──じゃなくて、魔煙草。
おお、ホントに出てきた。
……好き好んでこのクソ不味いモン喫んでるワケじゃなかったはずなンだけどなァ。
「あー、染み入る」
「味などは貴女が覚えている通りだが、流石に植物や薬物の効果までは再現できないらしい。前にここにいて、けれど立ち去った者がそう言っていた」
「そォかい」
確かに、脳がスッキリする感じァ無い。
マジでクソ不味いだけの煙草だ。魔力回復の感覚も無い。魔力があるのかさえわからねェが。
……え、じゃァこれマジでただのクソ不味い草じゃん。
「こっちだ、梓。……で、合っているよな? この体の持ち主は貴女をそう呼んでいたが」
「あァ合ってるよ」
「では、改めて。ようこそ、アズサ。カシヨの村へ。歓迎するよ」
「おゥ」
さてはて。
いつになったら起きてくれるかね、俺の身体ァ。