「フフ──何か、得心が行ったようだな。さて
「ん」
歩きながら色々と纏めていた。
そォか。
俺か。
俺が来たのが始まりか。
ンで、ソテイラが夜の使徒だったのもそォだな?
おかしィんだよ。夜の使徒ってなよ、ホントァいねェはずなンだよ。俺を含めて。
死者だから、現世にいちゃいけねェ。冥界にゃそりゃいるよ。しこたまいる。けど、夜の使徒ァ基本冥界から出ていけねェ。
それこそ、夜自らが遣わさない限り。
「ここはヨウコといってな。吾の名を冠する湖だ。──どうだ、美しいだろう?」
「……あァ、綺麗な光景だ」
丸っこい、玉みてェな葉っぱと、ススキみてェな植物が生え並ぶ──緑と黄金の草原。その中に、ぽっかりと開いた穴に、恐ろしい程に透明度の高い水が溜まっている。
湖底まで見えるその水を──掬う。
冷たくはない。けれど、どこか心洗われるような、ひやりとした感触がある。
「良い。考えを纏めると良い。時間の軛は、現世にしか現れない」
「……あァ」
別に、夜ってな神さんァ鳥有為亜だけじゃねェ。あのニヤニヤ丸眼鏡も多分夜だ。なんとなくわかる。
俺とアズサの分離と、マッドチビ先生とマッドチビの分離ァ多分根本から違う。そこばっかしァ俺にァわからねェままだが、少なくともマッドチビの方ァもっともっと前からいたンじゃねェかって思う。つまり、マッドチビ先生が生まれる前から──ディミトラ、という名ではなく、シエナ、という名前で。
そォだよな。
ヒントァ提示されてたンだ。
人格分割型戦闘用ガーゴイル。
マッドチビの人格を分割したにしちゃ、マッドチビとシエナの性格ァ似て無すぎる。
……あァ、ここの村長もいい例だ。あるいァ、クルメーナで自己をオーレイア隊だと錯覚しちまってた奴らも。
精神ァ位でしかない。肉体の記憶に強く影響される。その形を取れば、その形になってしまう。
本来のシエナ……死得無って奴ァ、マッドチビの形を取ったから、マッドチビに似た。つっても多少ァ、だ。マッドチビ先生とマッドチビがあれだけ性格に違いがあンのもそのせいだ。偽物どころの騒ぎじゃねェ、あの2人ァ完全に別人か。そォさ、それこそマッドチビが言ってたじゃねェか。「長い間隙間でこそこそやらせてもらっていたわけだし」、って。
もう、あっちのマッドチビにァ自覚があるンだ。自分ァディミトラじゃねェって自覚が。
EDENから離れて暮らす、ガーゴイルを操る魔法少女。その隠れ蓑ってな、安藤さんの造る機械を含む、マッドチビの造り上げるモノにあまりに上等過ぎた。最適だった。
だから、マッドチビ先生ァホントに単純に利用されただけ。
シエナ。
死を得ることの無い者に。
そして──そいつの目的は、天幕の向こう、宙の莽へ行く事、か?
……違うな。宙の莽ってな場所を俺ァ知ってるが、大した機能を持つ場所じゃない。必要なだけだ。3つ──夜と、太陽と、風。
女を化け物にする技術。男を化け物にする技術。その2つを以て、人間を風に巻き込む手法を構築した。
化け物から精神体を抜き取る技術。魔法少女から精神体を抜き取る技術。その2つを以て、太陽と風を自在に操る手法を構築した。
そして──精神を切り分ける技術。肉体の一部を文字通りきり分ける事で、同じ心を持つ個体を創り出す技術。この技術を使うことで、夜すら手懐ける事に成功した。
なら、次ァ、太陽と、風と、夜。それぞれの神さんを纏めることができりゃ、そのハイブリッドに何かが生まれる。
EDENから奪われた、封印措置を受けた魔法少女。その魔法ァ【合成】、【蟲独】、【帰述】。
あァ、やりてェことァ見えたな。
んで──。
「ヨウキ」
「フフ、なんだ?」
「アンタ、世界に意思があるってな、知ってっか?」
「無論だ。吾のように高位の魔物ともなれば、自ずと聞こえてくる。"苦しい"。"死にたい"。"眠りたい"。──"誰でもいいから、どうか、殺しておくれ"と」
そォだ。
ブゥリも言ってたじゃねェか。始の点も、終の因も、ずっと昔に世界の死を悟った人たちが造った延命措置だ、って。
ずっと昔から、あいつらァ知ってたンだ。知ってやがった。知ってやがって、そォいう実験して世界を苦しめて。魔法少女の楽園だってそォだ。創設者たちが輝きの園に夢中になってるのいいことに、内部に入り込んでその在り方を変えて。
「生前は何を馬鹿な事を、と思った事もあったがな。今ならば理解もできよう。世界ももう、疲れてしまっている。吾より酷いだろうな。苦痛を覚えている。殺し得るのなら、殺してやった方が良い」
「だが、それじゃァ困る連中がいたンだ」
「……フフ」
そう。
ソイツってな、堕ちた神で、始まりの魔法少女であるニヤニヤ丸眼鏡さえも利用して。そいつの使徒も利用しようとしたけどできなくて。だから今度ァ万全を期すために実験に実験を重ねて──よォやく手に入れた。
アズサを。
そして──宙の莽に行くための手段を。
どォやって行くか。ンなの簡単だ。そもそもなンで魔法少女が天幕に近づけねェのかって、魔力素が分解されちまうからだ。
じゃァ、もっと濃くすりゃ良い。
この世界の魔力濃度を上げる。どォやって、って。
循環させてる機構を片方だけ壊せば、はい完成。
この世界にァ魔力が流入し続け──しかしそれァ流れる事無く淀み、溜まり、化け物を生み出し、魔法少女を生み出し、更に更にァ、天幕を破る。
この世界自らが魔力で満たされて、水風船みてェにぱァんと弾ける。
そォすりゃ冥界も宙の莽も行き放題さ。
「ソイツらァ、死にたくなかった。生きたかった。世界の寿命なんぞで折り畳まれるなんてまっぴらごめんだったンだ。だから世界を生かし、延命し、苦痛を訴える世界をどォにかしよォとした。その寿命を延ばすか──あるいァ」
「別の器に移し替えるか──であろう?」
「……できンのか」
「フフフ、苦しいからと、疲れたからと、飽いたからと。心を外し、肉体と精神を他者に預けたモノが目の前にいるであろう?」
は──ン。
なるほどね。
じゃァ、もしかしてコイツも……実験体か?
なァ。
「フフ。そこにばかりは、踏み込んでくれるな。吾と友誼を結んだ彼女が"そう"であったなどとは、考えたくもない」
「いんやさ、そっちじゃねェ。そいつを殺したのが"そう"だって話さ」
「……フフフ。そうだな。そうなるのだろうな」
だって、コイツが絶望すりゃァ。
体の良い実験ができる。実験体自らが技法を実践し、死してくれるのなら。そしてその様子を見せつけてくれるのなら。
魔法少女の1人や2人の犠牲。
……ふゥ。
いけねェ。熱くなってる。
「それを聞いても、やる気ァでねェか?」
「復讐を、と?」
「あァ」
「フフフ、面白い事をいうものだ。──仙女の中には、吾を諭す者もいたというのに。共通の知り合いでな、復讐など何も生まないから、と。貴女は逃がされたのだから、自由を謳歌しなさい、と。大きなお世話であったが、フフ、吾はそれに従った。何より彼女がそうだったからな。憎しみの連鎖など何も生みはしないと、そう言っていた。──汝は、違うのだな」
「生きる理由になるならなンでもいいよ。他者を害する理由でも、見返すための動機でも、蹴落とすための憎悪でも。それでも、無いか」
「無い。……吾はもう、飽いた。今一度現世へ戻るのも無理だ。疲れてしまった。どの道、吾の身体も役割も他の者が使っているのであろうが」
そいつァ多分。
あいつ、なンだろォなァ。
「……そうか」
「ああ。もう、良いか? 汝の悲しむ顔はあまり見たくない。先にも言ったように、汝の容姿は吾の好みに合っている。此処に来る誰にでも婚姻を願っているのは事実だが、あのような褒め言葉を言ったのは初めてだ」
「そりゃありがとよ。……けどなンで婚姻なンか迫ってンだ?」
「フフ──契りさえ交わせば、夢を見る生物ならば必ず情が湧く。苦痛の無い世界であるのならば、尚更に。であれば──吾が死にたいと、眠りたいと言い出せば」
「殺してくれるかもしれないから、ってか」
「フフフ、吾は妖狐でな。昔から、狐と狸はヒトを騙すモノよ」
性質の悪ィ告白が過ぎる。
殺して欲しいから婚姻を結ぶ、なンて。
……でも。
「もうちょい、考えさせてくれ。アンタのこと、忘れるのァ──嫌だから」
「フフフッ、なんだ、誘っておるのか?」
「違ェよ。忘れるってな死と似てんだよ。俺の中でアンタを殺すのァまだ避けたい。だから、アンタの事を考えていたい。それだけだ」
「誘っているようにしか聞こえぬのだが」
「だから違ェって」
湖面に映る自分を見る。
……やっぱり梓・ライラックだ。前世のおじさんじゃァない。
その水を、掬う。
掬って──飲んでみた。
「……なンだ、空気みてェな水だな」
「溺れる事もできない、ということだ。フフ、水の中で呼吸ができることに喜ぶ者は過去にもいたな」
「へェ」
んじゃ、と。
ざぶんと入ってみた。おォ、すげェ。濡れねェ。浮力ァあるし水圧っぽいのも感じるけど、濡れねェ。目ェ開けても痛くねェ。呼吸もできる。
「すまねェけど、ちょいとここで頭冷やしてェ。いいか?」
「良い。と言いたい所だが、吾は吾の家に戻っているぞ。また話があれば、訪ねてくると良い」
「場所ァ?」
「この世界に距離も方向も無い。ある程度歩いたと思い込み、目の前の家が吾の家だと思えば、そこが吾の家になる」
「……わかった。ありがとォな、ここを案内してくれて。ンで、またな」
「ああ。また、だ」
そォいって。
最初の村長みてェに、すぐに溶けて消えて行くヨウキ。
……。
ふゥ。
「まだ起きねェか、俺。手遅れになる前にとっとと──」
起きて、止めにいかねェとなのに。
小一時間か。
あるいァ3時間くらいか。
ずっとそォしてた。
仰向けで沈んで、陽光の入らねェ水面を水中から見上げるって、ただそンだけの時間。っとに体感時間のわかんねェとこだよ。
わかったのァ、ここがやべェってことさ。
「ずっと居られるなァ、ここ」
酷く──酷く、穏やかだ。
冥界ほどじゃねェ。夜の宮程じゃァない。けど、ここァ──ほんとに何も無い。
苦痛になる事が。あるいァ、きっかけになることが、何にもない。
ずっと沈んでンのも、ぷかぷか浮いてンのも、ずっとしていられる。ずっとずっとずーっと。
身体が起きてくれない限り、ずっと。
「……いけねェなァ。早く起きねェとなのに。……こっち側からアプローチってなできねェのかね」
「あたしには無理だケド~、あなたならいけるカモ?」
「ん?」
ばしゃん、と。
そいつァ降ってきて──俺に抱き着き、キスをした。
……ん?
「どお? すごくない? 呼吸しなくていいからずっとちゅーしてられるし、ちゅーしながら喋れるのすごくない?」
「わかったから一旦やめてくれ」
「一旦ね。りょーかい~」
ふゥ。
えーと。
ん?
「誰だ、お前さん」
「あたしはフクン! ふーちゃんって呼んで!」
「あァよふーちゃん。お前さん、魔法少女だな? ンで、封印措置とかされてねェか?」
「え!? マジ!? 君心とか読めちゃう系!? 記憶とかわかっちゃう村長系!?」
「いんやさ、1人2人ァ絶対いると思ってたンだよ。あァ、俺ァ梓だ。梓・ライラック。よろしくな、ふーちゃん」
「よろぴ! じゃあ君はあーちゃんね!」
「おゥ」
やべェな。
アゲアゲなギャルだ。
おじさんもちったァ若者言葉ァ使えるが、ついていけるか? っべー。まじっべーすわ。っべー。
エアッラスミスー。
「で、何だって? 俺ならこっちからアプローチできる、ってな、どォいうこった」
「ふふん。ふーちゃんは【運誓】という非常に強力且つかなりやばい魔法を使える魔法少女なので、色々わかるのだ~。ずばり! あーちゃんは【即死】という非常に強力且つかなりやばい魔法を使える魔法少女でしょう!」
「あァよ正解だ」
「そしてそして~、あーちゃんの【即死】は魔法にも効くってゆーか、万物に対して効果的でしょう!」
「それも正解だ」
「ならなら! ──この世界、殺せちゃうヨネ☆」
ふーちゃんァ。
そんな事を言いながら──またキスしてきた。
避けた。
「……この世界を殺す、ねェ」
「そそ。ぱーっとやっちゃって、ぱーっと! 魔力必要なら念じれば出てくるから! ふーちゃんはもう長い事ここに閉じ込められてて退屈なのです!」
「でもここから出てったって、反魔鉱石で封印されてることにァ代わりないンだろ?」
「問題ナイナイ! 外でEDENに大きな衝撃があって、私達を覆う反魔鉱石に罅が入ってる事も【運誓】は見破っているのであーる」
「マジか。起きたら封印し直さねェと」
「酷い!?」
酷かねェだろ。ナチュラルに犯罪の片棒どころか凶悪犯に仕立てようとしやがって。
夢の中から外の様子見れる魔法ってなンだよ。どンだけやべェ魔法だよ。
「……ちなみに今、外ァどーなってる?」
「え~? もっと丁寧に頼んでくれないと教えてあげたくないカモカモ~。具体的にはホラ──あたしの足を舐めなさい、みたいな! きゃ、年下に一度は言ってみたい言葉最上位!!」
「ンじゃいーや。俺ァ別の方法考えるよ」
「あーちゃん私に興味無さすぎ!?」
ギャルじゃねェ。
ただの煩い奴だコイツァ。おじさんのギャル観が古すぎた。きゃいのきゃいのいう奴ァギャルって図式になってたけど、違わァな。うるさいだけの奴とギャル一緒にしたら、ギャルが可哀想だ。ギャルルルル。
「ふーちゃんァなンで封印されたンだ? うるさいからか?」
「酷いよ~さっきから! でもでも、半分正解カモ?」
「マジか」
「マジマジ! あたしの魔法ってば、外界の様子は勿論、その子が隠したいものとか、秘密の部屋の中とか、ちょっと先の未来とか、色々見えちゃうのサ☆! それをなーんにも気にせず言いふらしてたら、封印措置食らっちまったゼ☆!」
「ぜってェそれだけじゃねェ。それだけで封印措置食らうかよ。もっとやべェことしてるだろ」
「シ、シテナイヨ~」
「そォかい。じゃァ煩いから封印されたンだな。納得だよ」
「納得しないで!?」
水の中だってのに響く響く。
子犬のがまだうるさくないぞ。さらに子犬ァ可愛いだろ。
「えっとー、ホントの理由は~」
「ン、別に話さなくていいぞ。聞いてないし」
「あれ、ふーちゃんとあーちゃん初対面だよね!? 扱い酷くない!?」
「何言ってンだ。封印措置ってな人類に敵対したとかEDENに害を為した魔法少女がされる最終措置だろ。矯正も更生もできなかった奴ってこった。ンな奴の扱いァこれで十分だろ」
「……ぶー! 抗議します! 別にあたし人類に敵対もEDENに害を為したりしてないもん! ただちょっと」
「ただちょっと?」
「──……他人の意思変えて、囲い作っただけだもーん」
「ちょっとじゃねェなァオイ」
SSS級か。
他人の命、精神、心を操れる魔法少女。創設者たちにおけるSSS級の定義。
やべーのいるじゃねェか。しかも魔法使えるままだって? オイオイ、どォ防ぐよ。
「あ、だいじぶだいじぶ! 夢の中じゃ外界を見るくらいしかできないから!」
「尚更封印解けねェよ」
「しまった!?」
……あー。
ヨウキが静かな奴だったから、マジでうるせェ。
これ苦痛じゃないンですかねェ。苦痛認識したら消えるンじゃないのかいこれ。
「あ、ちょっと! 今あたしのこと苦痛って思ったでしょ! あ、やめ、遠ざかる、くっそ~、泳ぐぜ! あたしの泳法は180通りある! あっ、あっ、遠ざかる、ちょっとちょっと、静かにするからもうちょっとお話させて!!」
「うるせェ自覚あンのかい」
「なんちゃって、夢の世界では距離など無に等しい! 食らえ必殺彼我の距離零ちゅー!」
「40㎞くらい離れてくれ」
「あぁ!? 一瞬で対処された!?」
鬩ぎ合う。
へェ、こォなるのか。俺の遠ざけてェって念と、ふーちゃんの近付きたいって念がぶつかり合って、水面に波を生んでる。
争いの無い世界じゃなかったのかい? ハハ、こォいう奴が1人でもいると、波風立たずってな難しィんじゃねェの?
「く……かくなる上は! 【運誓】!」
「あン?」
──"聞こえますか。聞こえますか。今あなたの心の中に語りかけています!"
うわうるさ。
つか便利な魔法だなオイ。
──"デショデショ!? 気に入った? 交換する?"
アホか。
できねェだろ。つかしねェよ。
──"残念無念! ……とまぁ、この辺で落ち着きまして。改めてあーちゃん。起きる方法を教えて進ぜましょう"
「落ち着いたンなら別に魔法なんざ使わなくても」
「隙ありッ、唇は頂いたゼ☆」
「……もォいいや。このまま喋るけど。夢の世界を殺しちまったら、中にいるお前さんらァどォなるンだよ」
「そりゃ勿論解放されるよ! ここは安住の地を謳っているけれど、その実奈落の一歩手前! あまりにも低く、あまりにも強い重力があたしたちを引っ張って離さないのだ! お、おほぅ。あーちゃん小ぶりなオムネしてるね。舐めて良い?」
──"あぁ!? 無言で距離離された!?"
便利だなコレ。
別に俺ァ疲れねェからそォやって話してくれ。対応ダルいわ。
「いやまぁ落ち着きます、落ち着きますとも。ふっふっふ、ふーちゃんはなんと齢1000歳の魔法少女なのですから落ち着きますとも」
「はァ? 嘘こけ、ンな自制もできねェで封印措置食らうよォな奴が1000年も生きてられるはずねェだろ」
「チッチッチ、できるんだなぁコリガコリガ。私は自分の未来も見えるのでネ☆」
「……捕まりそォになったり、殺されそォになったら逃げてた、って?」
「そう! 各地に伝わる予言の巫女伝説の9割はあたし! ううん10割かも! そんな各地も大体滅んじゃったケドネ」
あー。
なンだ、多分真面目に危険で、真面目にやべー奴なのァわかるンだが、どォにも気が抜けるな。
これ意思操られてねェか? 大丈夫か?
「国でやったのか?」
「エ? あぁ、チガウチガウ。EDENでね、女の子、選り取り見取りだったから、ちょちょいと弄って侍らせて、ドロッドロで甘~い時間を過ごしたってだけ。そしたら中に密偵がいてサ、敢え無くあたしは封印措置行き。ちなみに他の魔法少女の中で、一番好いカッコで固まってるはずだから、起きたら見てみて」
「知り合いに【鉱水】がいるンで上塗りしてもらっとくよ直方体に」
「一生出られなそう……」
で。
1000歳ねェ。
「あ、今"見えねェな"って思ったでしょ。ふっふっふ、ダメだよ~。魔法少女を見た目で判断するなんて、まだまだダネ」
「そいつァまァそォだが、ふーちゃんに関しちゃ合ってるだろ」
「いつまでも若いってことだよね!」
「あァ」
「同意がなんか寂しい!?」
なンだよ、ツッコミ待ちなのかよ。
「んで? 俺に近づいてきた目的ァなンだ」
「そりゃ勿論、この世界を殺して欲しくて!」
「んじゃ諦めな」
「もしくは私を殺して欲しくて!」
「──それも諦めな」
「うわ目怖ッ!?」
冗談でも言うンじゃねェ。
そこァ逆鱗だぞ。
「ち、ちなみに殺して欲しいのは事実だったりするヨ~?」
「……理由くらいァ聞いてやる。なンでだ」
「だってー、ふーちゃんはあーちゃんの言う通り、多分もう一生反魔鉱石の封印から逃れられないのです。魔法少女にも寿命はあるけど、あまりにも長いしー。その間ずーっとここにいなきゃいけないとか、無理無理の無理」
「そンだけか?」
「そんだけって、凄い暇なんだよーここ。外の私は事実上死んでるようなものだし、もういーじゃん。そろそろ解放してよー。肉体と精神は反魔鉱石に閉じ込めたままにしておけば出て行かないからさ、心はもう殺してよー」
ふざけンな、と言おうとした。
……でも、言えなかった。
適当な口調だし、適当な態度だけど。
その主張ァ──真っ当なモンに聞こえちまって。
「……外の身体の封印を壊したら、生きてェって思えるのか」
「あー、どだろネ? 今の外って、結構やばやばじゃん? あたしこんな性格だから、全然反省とかするつもりないし。これでまた封印されるくらいなら、もいっかなーとか考えてるケド」
「なンでだ。生きられンなら、生きたいと思わねェのか」
「あたし、好かれるのは大好きだけど、嫌われるのは大嫌いだよ」
──。
……そりゃ、誰でもそォだろ。
「でもさ、少なくともこの世界を殺せば、あたしの心は奈落の底に落ちて行くのです。そのまま落下し続けるならここと変わんないけど、もしどっかで狂ったり死んだりできたら楽々の楽。この世界、狂うこともできないからさー、ほんとつまんないんだよねー」
「好きな奴でも作りだせばいいだろ」
「それができたらマジの楽園☆。けど、ヒトの意思って固定じゃないからさ。そのカタチをしたお人形さんは、ほら、こーやって作れるけど、中に心も精神もないよ。肉体ですらない、夢幻の張りぼて」
そォ言って出すのァ、俺の身体。
ぐてん、としたそれの背後から、腕や頭を掴んで人形劇みてェにする。
……。
「愛情が欲しいのか」
「あは☆、そんなの当たり前じゃーん。まぁ快楽を求めて、みたいなコもいるだろうケド、そーいう子はここには辿り着けないのだよん。そーじゃない子しかここにはこれない。本当に欲しいものは手に入らない、それ以外の全てが手に入る楽園。それがカシヨの村なのです」
「……」
あー。
黙るしかねェ。
軽い奴だと思ったら、重いなァ。
「死を望む理由ァ、飽いたからか」
「そそ。ここに定住してる人はみーんなそうなんじゃないかなぁ。魔物も魔法少女も人間も、そうじゃないのもね」
「そォじゃないの?」
「聖獣とか、あと神様とか」
「……神もいンのか、ここァ」
「村長さんのこと!」
あァ。
そォいうのも知れるのか、【運誓】って魔法ァ。
村長ァ、神か。だが、あの様子だと。
「うん、自分が何なのか、誰なのかはもう忘れちゃってるネ~☆。でもいーんじゃない? 少なくとも村長さんはまだギリギリ飽きてない。というよりは、飽きてるから、漂流者の記憶にある人物になり切って、飽きを忘れてる、って感じカナ?」
「目を覚まさせる事ァ、できねェのか」
「うーん、どうだろ? 少なくともあたしは無理だったし、あたしにも無理だよね。たとえ目を覚ましても石の中。瞬きも食事もできない、しゃべることもできない彫像に戻るのは嫌カナ☆。それならここで退屈を謳歌した方がまだマシ」
「自由に喋れて、自由に眠れて、自由に食事が摂れて、愛してくれる奴がいて。それならふーちゃんァ、生きたいって。生きてたい、って。そォ思えるか?」
「無☆理!」
なンでだよ。
さっき自分で言った事だろ。
「だってあたし、誰からも愛されたいし!」
「──それが無理だって、知ってるから……か」
「うむん!」
自分の欲望の重さを知っている。
それができねェなら死んだ方がマシだ、って?
ふざけんなよ。
ふざけンなよ。
そンな理由で、命が断たれてたまるか。
「──魔法少女になンか、ならなきゃよかったと。そォ呪ったことァ、あるか」
「えー、それ聞く? 聞いちゃう? ──あったり前じゃん。こんな魔法に目覚めなきゃ、あたしは身の丈にあった大恋愛ができたのにサ。ヒトの心を覗けて、操れて、世界の未来までちょろっと見えちゃって。そんなチカラ要らないってー。誰か貰ってよーって。ずーっと思ってるよ」
「そ、っか」
「魔法少女にならなきゃ、こんな長い命もなかっただろうし。あたし、みんなから愛されたいって思ってるけど、ずっと生きたいとは思ってないよ。マ、殺されそうになったら逃げてたケド!」
「そりゃなンでだ」
「だってさ、殺意って嫌いの塊なんだもん。聞きたくない嫌い嫌い嫌いの声が勝手に聞こえてきちゃう~。──だから逃げてた。聞こえないとこまで。そしたらいつの間にかEDENにいたんだよネ~」
また、指がピクリと動いた。
殺意なンかなくとも──他者を殺せる魔法。
「んー、こんなテキトーじゃなくて、真摯にお願いしたら良い?」
「何が」
「──お願いします。もう飽きたし、もう嫌われるの嫌なので、殺してください。あたしを太陽の呪縛から解放してください。静かな夜で、あたしは眠りたいです。死にたいです」
ふざけんな。
ンなこと──望むな。
ダメだろ。そんなの。
「大丈夫、現世の肉体や精神が死ぬわけじゃないから。心が死ぬだけ。あたしを殺しても新しい【運誓】の魔法少女は生まれない。さらには反魔鉱石の封印を解いても、物言わぬ肉体が転がるだけになるお得仕様。反魔鉱石の数は限られてるからネ」
「……そんなこと言うな。死がお得とか、ふざけても言うな」
「ん。ごみんごみん。泣かないで。……あーちゃんは、早く目覚めた方が良いかもね。ここにいる人たちは多分、誰とどんな会話をしても──最終的に、死を求めてくると思うから。その手段をもってるあーちゃんは、責任を感じちゃうね。ごめんね」
誰かの声が木霊する。死を求める声が。"前"の声が。
あぁ。そうだな。
これは悪夢だ。
早く目覚めてほしい。
でないと──。
「大丈夫だよ、あーちゃん。ここは苦痛の無い世界。──あーちゃんが忘れたいと願えば、あたしも、どっかの魔物さんも、ぜーんぶ忘れられるから」
「──それだけは、絶対に嫌だ」
忘れるのァ──ダメだ。
ダメなンだ。