遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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十三、新生編
75.地伏零須上亜御土升斗美.


「まぁ待て、ライラック。そう気を逸るな。まずは退院おめでとう。五体満足での復活、心から祝福しよう。そして命令だ、ライラック。今すぐに国民から魔法少女の因子を取り除け」

「よォ鬼教官。すまねェけどその命令ァ拒否させてもらう。なんなら俺の軍属も外してくれて良い。あ、そォいやミズメって奴しらねェ? 行方不明らしィんだけど」

「堂々と命令違反とは大きく出たなライラック。ミズメ、という魔法少女については現在我々も捜索中だ。リキュア・アールレイデ、李・理央、その他多くのエデン生が彼女の安否を案じている。恐らく先の騒ぎで誘拐されたか、どこかで負傷したまま動けなくなっているかだろう、とアールレイデ……姉の方が提言したが故だ。それで、魔法少女の因子を取り除くことが出来ない理由はなんだ」

「あァ快癒祝いありがとな鬼教官。ミズメの席ァ残ってンだな良かった良かった。それァ良いとして俺ァちょいと行かなきゃいけねェとこがあンだよだから首根掴んでる手離してくれねェか」

 

 ふゥ。

 まァまァ。

 話が錯綜してるぜ。いやまァ俺が故意に錯綜させたンだけど全部拾ってくるのやべェなこえーわ。

 

 そうだ、義手と義足ァレーテーの中にしまっとくか。勿体ないし。

 

「それは、どこだ」

「おそら~あ痛ッ!?」

「ふざけるなよ。お前が眠っている間に世界は変わっている。お前の我儘一つも聞いてやれん程には切迫している」

「あァすまねェな鬼教官。俺が眠ってる間に俺も色々変わったンだ。世界に危機が迫ってる。申し訳ねェけど俺ァ魔法少女をやめてでも止めにいかなきゃなンねェ奴らがいる。アンタらの我儘に付き合ってられねェのさ」

 

 投げ捨てられるのを──猫みてェに着地して、受け身を取る。

 取れてねェな。強化してなかったら膝に来てた。

 

「世界の危機とは、何だ」

「新しい世界になる。新たな世界が作られ、こっちの世界ァ潰される」

「……何の妄言だ」

 

 ま、妄言だと思うわな。

 ハハハ。

 

 けどちょっと、2か月も経ってるなンて聞いてねェんだわ。2か月前の時点でマッドチビァ準備が整った、って言ってた。でもまだ世界が死んでねェってこた、何かしらで手こずってるってこった。

 そこを叩かなきゃ──やべェことになる。

 世界が死にてェっつってンなら、死なせてやろうって思えるよォにァなった。

 けど、世界も材料にして新しい世界作ろうってな無理だ。夜と太陽と風も捕まえて。ンなのァダメだ。ダメだってわかった。目覚めて頭スッキリしたよ。

 

 迷ってる暇無いってさ。

 

「すまねェな、鬼教官。ちと──問答してる暇ねェんだわ。──プテラゴイル!!」

 

 キェー、なンて声を上げて、その飛翔音が聞こえた。

 ずっと近くで待機してくれてたのかね。ありがてェ限りだ。

 

「っ、魔物!? 【痛烈】!」

「おォ残念だったな鬼教官。ガーゴイルでね、痛みとか無ェんだ。ンで──俺に来るのァ、すまねェけど殺させても貰う」

 

 見える。

 今まで薄すぎて見えてなかったけど、これも紺碧ベルトの魔法とおんなじだ。

 何かが飛んできてる。だから、殺せる。

 

「プテラゴイル、LOGOSまで頼まァ!」

 

 またくぇー、なンて言って。

 プテラゴイルァ、最高速度で飛び始めたのだった。

 

えはか彼

 

 新生梓・ライラックちゃんァやっぱり魔力がちょいと増えてる。

 思うに、アンゲルとの戦いで増えた時にも、ちィとばかしの"役割の統合"ってな起きてたンじゃねェかな。お嬢が言うように、"気付いたら増えてる"ってな、お嬢に"役割の統合"が起きてたンじゃねェかな。【神速】が、例えば【高速】と【瞬足】みてェな魔法があって、役割があって、それが統合された結果、みてェなさ。

 お嬢自身ァ最初から【神速】だったって思ってるだろォけど、違ったンだ。役割ァもっと前に統合されてて、だからお嬢やSS級にァ魔力が沢山ある。役割を統合した分の魔力が、増えた分の魔力が。キラキラツインテにもだ。恐らくァポニテスリットや背中メッシュも。太腿忍者ァよくわからねェが。

 

 俺にもそれァ起きてる。

 名前こそ変わらなかったが、できることが増えた時点で役割ってな統合されてンだ。役割が増えりゃそのためのリソースも増える。それを世界から賜る。それが魔力の増える仕組み。

 

 海を、空を飛んでいく。

 ジパングが見えてきた。そォか、そっちにいンだな。

 

 そォいえば逗留してンだっけ? なンだっけ。まァいいや。必要なのァ着物狐とシエナだけなンで、まァ他ァ喜楽に過ごして欲しい。

 

「──私を置いていける、などと、本当にそう思っていますの?」

「思ってねェよ馬鹿お嬢。俺が飛んでったら全速力で付いてくるって信じてた!」

「ちなみにミサキさんもいますのよ」

「あン?」

「ほら、私の背中」

 

 そこから、ひょいと顔を出すポニテスリット。

 なンだよお前。始の点行くときもそォだったけど、ついてきたいならはっきり言えよ。

 

 つかお嬢すげェな。人乗せて飛べるのか。

 

「──見つけた、LOGOS! おいプテラゴイル、俺が次に何言うかわかってるよな?」

 

 プテラゴイルァ、クェ……と。心なしか嫌そうな声をあげる。

 ハハハ。

 

 そンで──急激に速度を上げた。

 

「あっ、ちょ」

「ハハハハ! やっぱお前、いっちゃん最初の時からのプテラゴイルだな!? わかってンじゃねェか、そォだよ──突っ込め!」

 

 クェー!! って。めっちゃ怒った声で。つかやけくそみてェな声で。

 進む、進む。いいね、いいね。いいぞ!

 

 行け、プテラゴイル。

 LOGOSの壁なんかぶち抜け!!

 

 

 

「馬鹿でしょアンタ。身体が治ったのは蘇生……じゃなくて、新生かしら? ともかく良かったわね、って言ってあげるけれど、それとこれとは話が別。【鉱水】の海に沈みなさい」

「まァ待ってくれマッドチビ先生。ちょいと色々立て込んでてさ、マッドチビ先生と遊んでる暇無ェんだ。おーい着物狐、来てくれ!」

「クク──久しいな、吾の妻。ところで今の衝突の衝撃で化粧が崩れたのだが、どうしてくれる?」

「なーに言ってンだお前面してンだから関係無いだろ。ほれ行くぞ!」

「どこへ、おお、おお。良い良い。よいが、そう引っ張るな」

「む? 梓、起きたのか。おはよう」

「おゥおはよォさん」

「ウィジ、それよりも言うべき事がある。梓の身体が」

「リジ。挨拶よりも先に言うべき事などないぞ」

「……それはそう」

 

 相変わらずの様子で何より。

 まァこいつらァEDENがどーなっても関係ないからな。

 

 あー、で。

 

「シエナ」

「はい。お帰りなさいませ、梓・ライラック様」

「──お前の名前の意味は、知らされてるか?」

「はい。──私は人格分割方戦闘用ガーゴイル・座具留守死得無(Ashes)です。名称の意味は、灰より出でて灯と共に見守る者」

「始の点の迷宮の主を知っているか?」

「はい。……はい。いえ。知りません。知っているはずですが、知りません」

「あァさ、わかった。一度すべての処理を強制終了し、再起動しろ」

「──再起動の命令を承認いたします。実行中……」

 

 明らかに今、聞こえる名前が増えた。

 元から聞こえてたンだがな。シエナのAshesって世界言語ァ。他が聞こえてるかどォかァ知らねェけど。

 それが今、はっきり増えてた。

 ザグルス。始の点の迷宮の主にして──恐らく、風の使徒。

 

「再起動完了いたしました。ご命令を」

「2分前時点の保存記録を記録庫に上書き。その後もっかい再起動だ」

「承認。保存情報を参照中。……参照終了。上書きします。……上書きは成功いたしました。再起動中」

 

 バックアップ処理、あと余計な記憶の消去も思いのままか。

 っとにやべェモン作りやがる。だが、500年ばかじゃねェ、何千年と前から生きてるってンなら可能かもしれねェ。

 

「ちょ、ちょっと。アンタ何を」

「マッドチビ先生、剣を作ってほしい。前のよりァちょいと軽めので頼む」

「……ああもう! わかった、わかったわよ! ──何をする気かは知らないけど、元気になったからって無茶しないこと! いいわね!」

「あァ。今回ばっかりァ自分の意思で、自分のやりてェことやりに行くつもりだ。戦場に立つ覚悟ができた」

「ならば、我らも行こう。リジ」

「うん。そろそろだと思ってた」

 

 2か月だ。

 2か月ありゃ、何ができる。なンだって作れるだろ。

 

 たとえばなンだ。

 あァさ。決まってる。

 

「時間が無ェ先プテラゴイルに乗っててくれ。あァ今から最終決戦みてェなモンなンで、心の覚悟もな。死地に向かうからよ、そんくらいァしといてくれ」

「はい、剣! できたわよ。これでいい?」

「助かる」

「それと、これ!」

「ん?」

 

 箱で、何かを渡される。

 ……ポーション?

 

「コーネリアス・リヴィルが開発した痛みを最大限に和らげた止血ポーションよ。使えるでしょ」

「ありがてェ」

 

 レーテーにしまう。

 剣もしまって、と。

 

「んじゃ、行ってくるよ。パパっといって、パパっと帰ってくる。そンで世界中の魔法少女の因子を殺して他の事も色々し終わったら──また一緒に旅がしたい。マッドチビ先生。いいか?」

「はいはい、私の事気遣ってないで、さっさと行く! やりたくてやるんでしょ。だったら止めないし、気にもしないから──死なずに帰って来なさい」

「あァよ!」

 

 流石にLOGOSに穴ァあけられなかったので、普通にハッチから飛び降りる。そこをキャッチするはプテラゴイルだ。ちょっと口ンとこ曲がっちゃってるけど、飛翔に問題ァ無さそうで。

 

「んじゃ出発だ。向かうァ天空、天幕の向こう! 宙の莽!」

「承知いたしましたわ。無理なものは無理。ですけれど、貴女が一緒であれば、そうならない事も知っていますので」

「あァ。シエナ、周囲、見渡せる限りに熱源ァあるか? 高空だ」

「……はい! 発見しました、南東側海洋付近……いえ、超高速で高度を上げています! 円筒状の……」

「やァっぱ作ってたか! タイミングが良いのァアレか、俺が起きたからだな!? 青バンダナ、あっちに向かって【喧槍】弐式だ!」

「承知した」

 

 飛ばす。

 大きな塔を──飛ばす。

 

 それァ、しかし途中で燃え尽きる。 

 その光によって、それの全体像が映る。

 

「ロケットなんざ作っちまうたァ、やっぱりアンタ天才だよ!」

 

 円筒状の機械。

 疑似【隠涜】とやらで隠された、超巨大飛翔物体。

 

 燃え尽きたのァ【業焔】だろう。わかるさ。

 わかるぜ、色々!

 

「あれは、なんだ」

「なンでもいいさ。大事なのァあれに敵が乗ってるって事で──今から行く先に、アイツらもくるってコト!」

「ならば、なんとしてでも撃ち落さねばなりませんわ!」

「いや、いい! アッチが何か手段持ってンなら良い! 今ァ魔力残しときなお嬢。こっから激戦になるぜ!」

 

 迷ってる時間も、立ち止ってる時間も無い。

 

灰鳥有為預(よォ神さん)舞御土(夜の神よ)! 伏理伊豆御分地土亜(冥府の扉を)負不地根座割琉度(開けてくれ)!」

「梓さん、貴女はまた……!」

「残念だけどお嬢、俺ァ保身なんざ考えられねェよ。やりてェことがありすぎる。だから──俺のためなんかに迷ってられる程、俺ァ暇じゃねェんだ」

 

 痛みなンざ知るか。

 蘇生しなきゃ良いって話だろ。だったら最初とおんなじさ。

 

 ──開く。

 空に、冥府の門が。

 

 そこに直進する。

 

鳥有為預(重ねてすまねェ),伏理伊豆儀部武烈震倶塔毎触練度(こいつらに加護を)!」

 

 一瞬で暗くなる周囲。

 太陽の光の届かぬ夜の世界。冥界。

 

 そこに現れるァ俺達だ。神さんの加護を一時的に貰って、分解を防いだ状態で降り立つ。

 

 そして、そこを突き破るのァバカみてェにでけェロケット。

 周囲に激震を齎したソレから、幾人かが出てくるのが見えた。加護もねェのよくやるモンだ。

 

 レーテーから剣を抜き出して、担ぐ。

 んで、降ってくる奴に向かって叫ぶ。満面の笑みさ。

 

「よォ──アズサ! 久しぶりだな! 元気してたか!?」

「あァ、てめェが起きねェとこっちもどん詰まりでな。よォやく起きてくれてありがとよ──死ね」

 

 降ってくるアズサァ、憤怒の形相で。

 

 俺ァ彼女の腕を、剣で受け止めた。

 

えはか彼

 

「そ。"役割の統合"、果たしたのね」

「あァよ。んでまァ、アンタらの目的もわかった。ハハ、一応聞いとくが、ヨウキって名前の化け物ァ知ってるか?」

「……成程。完全に潰したはずだったのだけど、生きてたのね」

「いんやさ、死にかけてたから、殺してきたよ」

「そ。……で? 貴女達は、私達と完全に敵対すると──そう見て良いのよね?」

「勿論だ。宙の莽での神格の再生。夜と太陽と風の合成。それによる器の生成。心ァそこにいて、精神ァこっちにいる。何か間違いァあるか?」

「──素晴らしい。ディミトラ、やはり奴はこちらに引き入れるべきだった」

「そうね。今少し後悔しているところ」

 

 正解だったらしい。

  

 要はこォ言う事だ。

 世界ってな、夜の神、太陽の神、風の神がそれぞれの血肉を分け合って作り上げたモンだ。だけど彼ら彼女らァそこに干渉しなかった。ただ我が子として見守るだけに過ぎなかった。

 それを侵したのが、目の前で手ェ叩いてるニヤニヤ丸眼鏡。何をしでかしたか、神々の座を追われ、こっちの世界に逃げ込んだ。けど、逃げ込んだが故に世界ァ寿命を延長されて、苦しみ始めた。

 そンなとこに現れたのがシエナ。オリジナルの方のシエナだ。つまり、マッドチビな。

 マッドチビァ世界が終わるなンてとんでもねェと、色々な策を講じ始めた。

 

 つまり、世界ってな夜と太陽と風の神の血肉がありゃよくて、そこにァ勿論夜と太陽と風の心が伴って無けりゃいけねェ。

 なンで色んな実験通して夜と太陽と風の心を持つ少女を創り出した。まずそれが第一段階。

 ンで、これから夜の神を席に戻し、太陽と風の神を狩りに行くンだろう。【終焉】なンて物騒な魔法持ってる奴がいるからな。その狩りァ万全に行われる。それが第二段階。

 

 最後にこっちの世界の精神引っこ抜いてその肉体に入れちまえば完成だ。少女を心にして、自分達ァそこへ入ればいい。そのために全員でこっちに来たし、そのためにアズサを仲間に引き入れた。そのために一度ァ危険を犯してでも冥界……つまり世界の外に出なけりゃいけなかったワケだ。

 

「──今、殺してきた、つったな」

「あァ言ったぜ」

「それァ夜の使徒か」

「いいや」

「──そォかよ。じゃァ、とうとう堕ちたって事だ。お前ァもう、高潔ぶって何も殺さねェでいた梓・ライラックじゃねェ。単なる殺人狂だ」

「オイオイ、今からコッチの世界潰そうとしてる奴の、言い分がそれかよ!」

「何、言ってっか──わかんねェよ!」

 

 両者、弾く。

 やっぱりな。

 聞いてるよ。シエナや冷静メイドから、クルメーナの地下で何があったのか。見えないものが見えていた。聞こえねェもんが聞こえてて、聞こえるはずのモンが聞こえて無かった。認識がズレてたンだ。

 そしてそれァ、過去魔法少女を化け物として扱い、迫害したっつー仙女殿も使ってたって魔法らしィじゃねェか。

 

 なァ。

 

「そこまでわかっているなら話は早いわね。──アニマ。後は任せたわよ」

「……はいはい。わかったよ、師匠」

 

 ──消える。

 マッドチビとアズサ、ニヤニヤ丸眼鏡、ピンクカチューシャ、あと知らねェ2人。

 

 残ったのァ安藤さんだけ。

 

「なンで魔法が使える!?」

「世界言語くらい、アタシ達もわかるってことだよ。やりようはいくらでもあるのさ」

「ッ、宙の莽ァあっちだ! みんな、先に──」

「行かせると思うのかい?」

 

 俺達の周囲を、炎の線が走って行く。

 これァ。

 

「──下がれ! この円の外に出ろ!」

「【皇爛】」

 

 炎柱が立ち昇る。

 それァ夜の世界でも美しく輝き──しかし、次第に散って行く。

 

「疑似魔法じゃこの程度か。ったく、冥界の分解力っていうのは厄介だね」

「ッ、無駄ですわ!」

「【神速】……流石に敵わないか。それじゃ、【劇毒】とかどうだい?」

「【静弱】」

 

 地を伝う毒々しいそれが半透明の盾で止められる。

 その直前にァ斬りかかられていた。気付けない程の速度で。お嬢が停めてくれてなかったら、右腕がまた持っていかれてたかもしれない。

 

 即死じゃねェ攻撃の気配ァ辿れない。

 よくわかってることで!

 

「そうさねぇ。んじゃ──【痛烈】、とかどうだい?」

「ぐ、ぅぅぅうぅっ!?」

「頭が割れる……これは、キリバチさんの……!」

「クククっ、痛みでどうにかなる者だけだと思わぬほうがいいぞえ?」

「思ってないさ。【業焔】。アンタには炎が効くだろ?」

「……」

 

 その言葉の示す通り、全部疑似なンだろう。【業焔】以外ァ劣化版。

 だけど──元が強ェ魔法だからか、十二分にやべェ。

 

「【死漸】!」

「!」

 

 とりあえず出て来てたやつ全部を殺す。

 死飛沫だ。よし、この程度で壊れるな。

 

「やっぱり厄介だねぇアンタは。なんで──隔離させてもらうよ。【断裂】」

「梓さ」

 

 地面が割れる。

 それだけじゃねェ、空間に亀裂みてェなのが入ってる。これが【断裂】か。厄介なことこの上ねェな。

 わかる。分断されたンだ。俺だけ、アズサを受け止めるために、その攻撃を自ら受けるためにちっと離れたトコにいたのが不味かった。

 

 ──仕方ねェ。

 

「みんな、ここァ任せた!」

「任せてください! この方を戦闘不能にした後、すぐに追いつきますわ!」

「あァよ!」

 

 宙の莽に近ェのァ俺の方だ。

 だから、頼む。俺ァ先に行く。

 

「ク──同じ敵と何度も戦わせるな。吾とあ奴は相性が悪くてな。こちらに来させてもらった」

「あァ助かるよ。んでとっとと出てきな冷静メイド!」

「……絶好の機会を窺っていたのですが」

「お前が俺についてこないはずないだろ。いーから早く服着る! 安藤さんの撃破なんざあいつらにとっちゃ余裕のはずだ。だから、俺達ァとっとと追いついて、アイツらぶっ倒すぞ!」

「……私の肌にも動じてくれなくなりました。悲しいです」

「クク、そういえば吾の肌を見ても目を逸らさなくなったな。このふた月で何があったのだ?」

 

 ケツ叩いてくれるマッドチビ先生おいてきたのァ不味ったな。

 こいつら緊張感がまるで無い。

 

「そォいうのも後で話すから──全力疾走!」

「クク、では後でを期待しておこう」

「夢の中で、肌に慣れる……なるほど」

「思ってる事とぜってェ違ェからな!?」

 

 喋ってる暇あったら走れアホ共!

 

えはか彼

 

 ……と言っても、宙の莽までァちょいと距離がある。

 冥界ってな結構広い。まァ世界の外側なンで当たり前なンだけど、この世界じゃ潤沢になる俺の魔力量を以て爆速で走ろうとも飛行しよォとも、それなりに時間がかかる。

 

 なので色々話せてしまうのだ。

 

「どォしてだのなんでだのァ後で聞く。今ァいまから俺達がやんねェといけねェ事を聞いてほしい。いいか?」

「はい。お願いいたします」

「ククク、神を葬る──ではないのか?」

「ちげェよなンで俺がそんな物騒な事すンだよ」

 

 やるべきことァ幾つかある。

 まず1つ。

 

「マッドチビとニヤニヤ丸眼鏡……ゲヘナって魔法少女に宙の莽を攻略させねェのが大事だ。具体的にァ、最奥に辿り着かせねェよォに妨害したい」

「妨害、ですか」

「ク──それは、命を奪うこと含めて、か?」

「残念だがそいつァできねェ。ゲヘナ、あるいァジャハンナムァもうこの世界に来ちまったら神みてェなモンだ。厳密にゃまだ違うンだろォが、ほぼ永遠の命を持っているといって過言じゃねェ。けど、神さんだって怪我ァする。だから──足を殺す。どォやってでもいい、縛り付けるでも封印するでもその足を変質させるでもなンでもいーから、絶対に宙の莽の最奥へ辿り着けねェよォにしたい」

「ジャハンナム……そうですか、EDEN高官が」

「あァ、敵だ。どォいう取り決めが為されたのかまでァわからねェが、夜の神が一柱としてその血肉を提供するつもりだろう。で、やんなきゃいけねェこと2つ目」

 

 指を差すのは2つ。

 1つァ空にある真黒の月。もう一つァ黒く輝く地平線。

 

「あっちが太陽、あっちが風。それぞれに神がいる。そいつらを守らなきゃならねェ。ただ、ぶっちゃけると俺達が守らなくても十分なくらい強ェはずだし、マッドチビ達がそこを考慮してねェたァ思えねェ。もしかしたらもう血肉ァ用意されているかもしれねェってことだ」

「ふむ。その場合、その工程が省略されることになりますね」

「ク──ならば、やはり優先すべきは夜の神とやらの確保か」

「あァさ。んで更にもう1個あンだが──それァとりあえず1個目の奴を遂げてからだ。ゲヘナを確保できなかった場合、つまりアイツが最奥に辿り着き、神に戻っちまった場合──お前達にァ、可能な限り宙の莽を壊す、ってな仕事をしてもらう必要が出てくる」

 

 この世界に入って、色々思い出した知識が色々教えてくれる。

 宙の莽ってな終の因や始の点たァ役割が違う。宙の莽ってな謂わば神座だ。王城で言う玉座。そこに座る者を神とする、神と崇め奉る、みてェな場所。最奥にソレが構えてて、それを守る化け物がいっぱいいる、って点から終の因や始の点が似てるってンで迷宮と呼ばれ始めたンだろう。

 始まりァこっちだ。宙の莽が一番にあった。

 で、なンで壊さにゃならねェかってーと、神を神でなくする──貶めるためだ。玉座の無ェ、地べたに座る王様なんざいねェってな。神座をぶっ壊しちまえばとりあえず権能ァ減らせる。問題ァ神であることに変わりァないんで、その身を切り裂いてとかで血肉の提供とされた場合どォしようもない。

 

 なンで第一優先ァニヤニヤ丸眼鏡の確保になるワケだ。

 

「んで次、アズサの確保」

「それは、あちらのお主か」

「あるいはミズメ様ですね」

「あァ。着物狐のその言い方ァあんまり好まんが、まァアイツだ。アイツァ新しい世界の心になるンだろう。それを本人が知ってるかどォかってなさっき試したンだが、どォにも認識狂わされてンのか自覚してねェっぽい。だからやべェんで助けたい。妨害兼救助だな。アイツァ嫌がるだろうけど」

「世界の心になることは、悪い事なのですか?」

「最初ァ良いのかもしれねェが、途中から最悪になるだろォな。俺達の世界の名前ァ恵理須ってンだが、最初に生み出されてから寿命を迎えるまでが数万年。そこで一旦安らかに眠るはずだったのに、延命が為されちまった。いきなり数万の命が手に入るって考えりゃいいのかもしれねェが、世界になるってな見たくねェモンも見るってことだ。そこまで過保護になるのァまァ悪い気もするが、アイツがそれを望むたァ思えねェ」

 

 余計なお世話かもしれねェのは重々承知だ。

 別になっても良い、って。そォ思ってる可能性ァある。

 

「世界の器を作らせない。世界の心を確保する。ンで最後が、俺達の世界を守ること」

「クク──大きく出たものぞ。世界を守る、とはな」

「多分、紺碧ベルトの疑似魔法だと思う。【幽拐】。それでこっちの世界の精神を抜き取るつもりだろう。それの阻止。紺碧ベルト本来の魔法なら精神体を抜き取るための魔力みてェなのが見えるンだが、こっちがどォかってなわからん。安藤さんの疑似魔法ァ魔法の模倣ってよりァ技術力での再現だ。だから、初見での対処になる。出来得る限り俺が察知するし、出来得る限り俺が殺し尽くすけど、お前らも知覚ァ最大限尖らせといて欲しい」

「承知いたしました」

 

 知覚強化ァ最大限にしてある。身体強化もバリバリだ。

 はン、世界の中じゃできねェことだけど、ここでならマジでアイツと対等だな。

 

「梓様。宙の莽とはどういった場所なのでしょうか」

「でけェ墓所だ。冥界に墓があるってなちと変に思うかもしれねェけど、草むらの中にたったでけェ墓。直方体の、なンだ、真っ黒い匣。入り口ァ無数にあるが、どっから入っても最奥への距離ァだいたい一緒で、攻略するまでァ出られねェ」

「クク、迷宮攻略か。吾にとっては初の事ぞ。少しばかり、気も立とう」

「昔、姉と終の因を攻略した以来ですね……」

「出てくる化け物ァ基本精神体かアンデッド。まァ死者なンだが、街にいる奴らと違って俺の味方じゃねェんで普通に襲ってくる。まァ迷宮の化け物って奴さ。人間の形してても、人間の死体ってワケじゃねェ。単純に人間の形で生まれてきたアンデッドだ。倒しても誰の魂に影響することァ無ェよ」

 

 迷宮の化け物ってな、マジで迷宮の為だけにいる化け物だ。

 アンゲル、アンヴァル然り、ブロックゴーレムやら鎧騎士やら、あーいうのァ外じゃ生まれねェ。まァ形成地点を作っちまえば生まれンだけど、そォでない限りァ自然発生し得ない。

 何かの獣の死骸が、とか、ヒトの怨念が、とか、そォいう化け物ァ死ぬほどいるけど、迷宮の化け物ァ迷宮のために作られ、迷宮のために侵入者を防がんとする、いわばセキュリティみてェなモンなンだ。何か原因があって生まれ出でた化け物なンじゃなくて、ドアの鍵みてェなもん。

 

 だから、魂らしい魂が無い。

 紺碧ベルトの【幽拐】でも抜き出せねェんじゃねェかな、迷宮の最深部周辺の化け物の精神体ってな。だって無ェだろォし。

 

 さて、そろそろ見えてくる。

 地下墓所ってワケじゃねェ、真っ黒い月に照らされた真っ黒い箱。

 それが神殿・宙の莽。

 

「──つまり、全力で、と」

「そォいうこった」

「ク──良い良い。存分に、だな?」

 

 さァ、迷宮踏破と行こうじゃねェか。

 

えはか彼




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