遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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76.泥直愚須手韻虞害事亜泥直頼句土絵鰤上亜.

 宙の莽ァ墓所だけあって、中も陰鬱としている──ってなこたない。

 むしろ終の因の最深部や始の点の外観と同じく、どっか近未来的っつーかよくわからねェ材質でできた、つるっとした外壁の迷宮だ。ところどころに巻き付いている真っ赤な花が、その近未来さをガクッと下げてンだけど。

 この赤い花ァ勿論フリューリ草。紺碧ベルトの言う通り外来種──本来ァ冥界の花なンで、あっちじゃレアリティの高すぎるそれも、こっちじゃ大して珍しかねェってな。まァこっちから世界の方へ持って行こうとすると一瞬で萎れちまうンで、補充なんざできねェんだが。

 

「ク──迷宮とは、こうも……過激なものか」

「終の因とは比べ物になりませんね。気を抜けば死──それがわかります」

「あァまァ大丈夫だ。死んだら死者になるだけさ。こっち来たら蘇生槽との経路ァ切れてるだろォからな、一発で冥界行きだ」

「申し訳ありません、梓様。今何をどう大丈夫であると言ったのでしょうか?」

「俺の仲間入りってこったよ!」

 

 強化した足でゾンビの下顎を蹴り上げ、浮いた体を剣で切り裂く。アンデッドだから死なないンで、行動不能にすンのが一番だ。幸いにして魔力ァ潤沢、先行した奴ら……マッドチビ達が残してった破壊痕も辿れるンで、普通に攻略するよりかァかなり楽なンだが。

 着物狐にも冷静メイドにも神さんの加護をお願いしてるンで魔法が使えなくなるってなこたないが、どこまでいっても【侵食】ァサポート向き。俺みてェに殴る蹴るしかない。まァ顔掴んで骨にする、みてェなエグい事もやってるから完全サポートじゃねェ上にフツーにエグいンだけど。着物狐の魔法の詳細ァ知らねェが、式鬼あるから大丈夫だろ。

 

 問題ァ。

 

「クク、先ほどから思っていたのだが、お主、何故魔法を使わぬ?」

「あン? 使っても意味ねェからだよ」

「意味が無い、ですか」

「だってそォだろ。コイツらァもう死んでんだよ。死者にァ【即死】も【死漸】も意味を成さねェって」

 

 生きているものを即座に死なせる【即死】。生き終えた物をようやく死なせる【死漸】。

 こいつらってな生きてるワケじゃねェからな。終の因や始の点の化け物ァ生きてンのもいくらかいたが、こいつらァ完全なる防衛機構だ。セキュリティロボットみてェなモン。

 なンで、殺しても意味が無い。多分アズサの【終焉】も効かねェはずだ。

 ぶっちゃけ【死漸】で無双ができンなら、宙の莽に入らねェで外側から壊してる。冥界ァ終わってるし死んでるから【死漸】がほぼ意味無ェンだ、だからこーやってちゃんと攻略してる。

 

「──なるほど、つまり──生き物にしてしまえばいいわけですね」

「【侵食】で、ってか? やめてくれよ、殺しづらくなるだろ。俺ァちょいと考えを変えたたァいえ、いま生きてるモンを殺すのァバリバリ抵抗あるっつかしたくねェんだよ」

「わかりました」

「ク──ならばこういうのは如何ぞ?」

 

 着物狐が式鬼札を一枚取り出し、壁に張りつける。

 紋様ァ……あー、読めねェな。消えるの速いって。ンな一瞬の文字読める程目ァ良くないんだよ。知覚強化ほとんどしてねェから。

 

 んで、その札もバチンと弾かれた。

 

「今のァ?」

「ククク、失敗したが、使役の札だ。この迷宮そのものを式鬼と見做し、屈服させる。流石に無理だったか」

「一応神の建造物なンでなァ」

「私の【侵食】もこれら材質には干渉できないようで、少しばかりの対抗心を覚えますね」

「おゥさ、雑談してねェでとっとと行くぞ。そォいう非正規手段が使えたら、俺達よりもアイツらがまず使ってるだろ?」

「確かに」

「ク、そうか。なら──正攻法で行くとしよう」

「ハナからそーしろっての」

 

 足先でゾンビの鼻っ柱を蹴り飛ばす。背後、カランコロンという音。スケルトンか。

 んじゃ剣で──いやさ全身強化で緊急回避!!

 

「ク──なるほど、そういう類もいるのか」

「いねェよ! こいつァ──今さっき作られたンだ!」

「【蟲独】の魔法少女ですね」

 

 迷宮の通路いっぱいを這って退けて来たのァ、数多のスケルトンが一つに纏められた──いわば、がしゃ髑髏。明らかに迷宮のサイズを超えたそれァ、形こそそォなってるだけで、スケルトン達がめちゃくちゃにまとめられている。

 俺達が追ってくることを見越してのトラップなのァわかるが、やってることがやべェって。

 

「来るぞ!」

「ク──」

「突撃いたします」

 

 逃げ道の無い場所での、巨大な拳。

 骨で出来ているが故に硬く、しかし軽さを見越して防御姿勢を取ろうとした──が、冷静メイドが突っ込んだのを見て作戦変更。

 レーテーを起動し、新生の時に取れたマッドチビ先生作『折れないし溶けないし凍らないしあと軽いすっごい義手』を取り出す。

 

「着物狐、身代わり用意!」

「もうしてある。気軽に行け」

「あァよ!」

 

 こいつのこの身代わりもよく原理がわからねェんだが、まァオリジン種ってなそンなもんだ。ベルウェークやカンコウァ易しい方だった。着物狐が敵に回ってたらって思うとゾっとするが、それさえもまだ魔法少女じゃなかった頃の侍衆が抑えきったンだよな、とか。すげェよな、とか。

 今考えるべきじゃねェことぜーんぶ頭ン中から追い払って──突き入れる!

 その、肌色になった部分に、だ。

 

「【侵食】」

「冷静メイド、そのまま下に滑り込んで関節部位にも【侵食】しとけ! 細かいトコァ俺がやる!」

「承知いたしました」

 

 即席で作って貰った剣より、こっちの義手のが硬い。硬いし折れねェし解けねェし凍らねェしあと軽いから、武器として優秀過ぎる。一応ヒトの腕の形してるってながちょいと傍から見ると気味悪ィかもしれねェが、俺にとっちゃ結構な相棒だ。また一緒に戦えてうれしいぜ、ってな。

 相棒と言えば、SRとかプテラゴイルとか、懐かしいのがいっぱいだなァ──って。

 

 さっきから余計な事考えすぎ。

 

「【死漸】」

「──!?」

 

 ヒトガタァこれだから。

 声帯も無ェくせに、叫び声みてェなのを出しやがる。こえーって。命の気配が一切ないからイケてるけど、まるでマジに怨念あるみてェに聞こえるンだよな。

 

 突き入れた中身。 

 ちょいと肉っぽい嫌ーな感触を覚えながら、その全てを死滅させる。【即死】は統合されただけでそのまま使えるよォで何より。イメージが変わったからか、今まで死飛沫とかの類を重力気にして使ってた所、完全に重さの無いソレになったのァでけェ。

 夢の中の湖。ヨウコ、だっけ。サマサマだな。

 

 染み渡らせる。

 骨自体ァ死なせられなくとも──冷静メイドが乱雑に変えて行った【侵食】部分ァ殺せる。

 だから、出力の上がったソレが。【死漸】ががしゃ髑髏の全部に行き渡って──その部分部分がガシャドシャと外れて行く。

 

 つったってこいつらァ元から別々のスケルトンだ。

 だから崩れてすぐ、俺や冷静メイドに斬りかかろうとするが──さて、本物ァどれでしょう、つってな。

 俺と冷静メイドの群れ。

 着物狐が手のひらから舞わせていた紙が、骨と骨に隙間に入ってァ俺達を形作る。

 

「問題ありません」

「おう、下がったぞ。ド派手に燃やせ」

「ク──良い良い。そら、たんと味わうが良い。──火刑・式鬼城郷」

 

 それらすべてに一瞬で火がつく。

 ハハハ、世界で上塗りされた火じゃねェ、冥界で上がる火だ。──効くだろ。なンたってそりゃ、清浄なるモンだ。

 死者にァ【即死】も【死漸】も、あとァ【終焉】だの【劇毒】だのも効かねェだろォがな。

 葬られンのァ、堪えるだろ。

 

「ちなみに聞くけど、着物狐」

「クク、火を消せ、というのは無理な相談だ。吾は火との相性が果てしなく悪い」

「梓様の好まれる手段では、私も不可能です」

「んじゃ俺がやるよ──【死漸】」

 

 ……。

 うん。

 

「すまん、無理だわ。アイツの【終焉】ならできただろォけど、単なる火を消すのァ普通に無理」

「何故この作戦を敢行したのですか? 急いでいるのではなかったのですか?」

「ばっかお前、今俺が超絶焦ってンの伝わんねェのか?」

「クク、馬鹿はお前だ。吾もだが」

 

 さて、この大火事どォすっか。

 ……いや待てよ?

 

「冷静メイド」

「はい」

「……あー、その、あんまりこォいう指示ァ出したくないんだが」

「はい。やはり皮での消火でしょうか?」

「いんやさ──あるだろ。ほら、その──口に」

「……なるほど」

「良い良い。そういう見世物も良い」

「見世物とか言うンじゃねェよ」

 

 察した着物狐が紙を取り出す。それァ何枚も、何十枚も、何千枚も出てきて──当然それにも火が移るのだが、その前に。

 

 冷静メイドが、紙の一端を舐める。

 

「【侵食】」

 

 瞬間、紙の全てが唾液に変わった。

 ──大量の唾液が、大火事に降りかかる。その規模、豪雨が如く。粘性もあるから余計にこう。うん。

 

 いんやさ、ほら。

 たまにいるだろ。俺ァやんなかったけどさ、おっさんで、灰皿無いって気付いた時に、舌に唾液溜めて煙草消す奴。はしたねェっつか見てて気持ちよくねェからあんまり見てェもんじゃねェけど──まァ水ァ水だし。冷静メイドの【侵食】が世界を自己に変質させる、ってンなら、唾液も自己なンじゃねェかな、と。

 ……人体の液体っつーと、まァ胃液とかもあるけど、それァそれで色々思う所あるし。血液だとスプラッタすぎるし。今更も今更なンだが。

 

「クク、侍女の唾液で浸した通路を通る主人、か。ククククッ、良い良い。世には様々な趣味も有ろうよ」

「いや俺のメイドじゃねェし」

「少しばかり恥ずかしいのですが、なるほど、考えもしなかった魔法の使い方です。私の魔法にはまだまだ可能性がありますね」

「……火、消えたな。行くぞ」

「問題ありませんが、無視はしないでいただけると」

 

 ごめんって。

 でも触れ難いンだよおじさんにァよ。指示しといてなンだけどさ!

 

 いーから、行くぞ!

 

「ふむ、唾液も自己であるとなると……少しばかり考えてみたのだが、肌や骨、肉だけでなく、臓器の類もいけるのかえ?」

「はい。私がその形を認識している必要がありますが」

「敵を胃酸の海に沈める、ということもできるわけだ」

「良いですね。他に何か思いつきますか?」

「そうさな、吾の式鬼さえも【侵食】出来得るのならば、魔法少女の衣装にもいけるのだろう?」

「なるほど、では例えば、服の裏側に【侵食】し、舌を這わせるなど如何でしょうか?」

「吾の考えたものとは違うが、それも良いな」

「急ぐんだってば!!」

 

 魔法談義ァ全部解決した後にやれ! こえーのもえぐいのも触れ辛いのも!!

 今ァ急ぐぞ!

 

「口腔内に」

「それは流石に痛みが勝りそうで」

「なるほどそれなら」

 

えはか彼

 

 結構深くまで来た。

 出てくる敵ァ苛烈になってるが、こっちに怪我等ァ無し。まァこの世界じゃ俺ァちゃんと強いので守らなくていいってのと、着物狐の身代わりがマジでつえーわ。どォいう仕組みか知らねェけど。

 

「──戦闘音に、命の気配!」

「後ろから攻撃をしかけますか?」

「クク、それとも式鬼をけしかけるか?」

 

 数ァ──3? なンだ?

 マッドチビ、ゲヘナ、アズサ、ピンクカチューシャと封印措置の魔法少女2人。だから、6人いねェとおかしい。戦闘してる……つっても迷宮の化け物と戦ってるって配置じゃねェ。

 これァ──仲間割れか?

 

「まどろっこしィのァ無しだ。どーせ一本道、突っ込むぞ」

「承知いたしました」

「吾は少しばかり後方に居よう」

「あァ」

 

 曲がり角の先だ。

 そこを──曲がる。

 

 そこに。

 

「──丁度いい所に来たな。少しばかり手伝ってはくれないか。私の身が危ない」

「げ、面倒なのが来たのだ! アニマのやつ、もっとも引き留めるべき方を勘違いしてるのだ!」

「チ、てめェらもう追いつきやがったのか!」

 

 いた。

 

 ──血だらけで、ボロボロで、今にも死にそォな──ニヤニヤ丸眼鏡と。

 ソイツを攻撃し続ける、アズサとピンクカチューシャ。

 

「何を」

「見ればわかるだろう。仲間割れだ」

「隙アリ、なのだ!」

「バカ、今のァ誘いだよ! 一旦下がれピンクカチューシャ!」

「梓までそう呼ぶのだ!?」

 

 考えろ。

 その正誤を。

 命の気配ァ確かに3つだ。残りの3人ァいない。なンでこの3人が仲間割れしてて、他の3人がいねェ? 先行したか? いやいや、宙の莽において一番大事なのァニヤニヤ丸眼鏡だ。まずニヤニヤ丸眼鏡が夜の神に戻らねェと何も始まらねェ。それくらいマッドチビにもわかってるはず。

 アズサもそォだ。言い方ァ悪いが、こんなところで壊されちゃ困るモンのはずだ。ピンクカチューシャ……【帰述】がどォ生きンのかァ知らねェけど、少なくともこの面子を残していく意味ァ無い。

 

 じゃァ、マッドチビ……シエナの魔法か?

 名前ァわからねェけど、【誤認】とかその辺の、認識を操る系統の魔法だってなわかってる。ヨウキの言う通りなら、凄まじい範囲と人数にかけられるタイプのやべェ魔法。

 なンだ?

 他の可能性を全部洗え。このボロボロになったニヤニヤ丸眼鏡ァ幻覚か? いんやさ、命の気配の陰りァ確かにキてる。死の気配ァ周囲に無い。

 

 あるいァ──いらなくなった、とか?

 夜の神がいらなくなることなンてあるか? 代用品を見つけでもしねェと。つか、だからといってアズサとピンクカチューシャに殺させよォとする意味ァ? 自分達が離れる理由ァ?

 

「長考している所悪いのだが、そろそろ助けては貰えないだろうか。私はどちらかといえば研究者でね、あまり肉弾戦というものに強くない」

「ククク、良い良い。瀕死になっても使い道はあろうさ。吾らもお主を行動不能にすることを目的に来たのだ、そちらの2人、協力せぬか? ──特に梓。クク、吾を覚えているだろう?」

「う……う、う! ぴ、ピンクカチューシャ、やべェ、私アイツに攻撃、できねェかもしれねェ」

「何乙女みたいに顔赤らめてるのだ!? 別にあっちの露出狂を攻撃する必要はないのだ! こいつさえ殺してしまえばいいのだ! そうすれば──世代交代が起きるのだ! 後はディミトラ達が」

 

 ──全身強化。

 剣を振りかぶって──思いっきり斬りかかる。

 ピンクカチューシャに。

 

 止めたのァ、アズサ。ケッ、そっちも『折れないし溶けないし凍らないしあと軽いすっごい義手』か? MYTHOSとか言ったっけ? はン、騙されやがって。

 

「情報提供感謝するぜ、ピンクカチューシャ。今全部理解した。おいニヤニヤ丸眼鏡、アンタ助けたら何くれるよ!」

「お前の知りたい事を教えてやろう。──魔法少女の因子が、人体のどこにあるのか、をな」

「あァさ十分! 着物狐、アズサァ任せるぞ!」

「クク、任せる、ということは──貰っても良い、と?」

「もも、貰う!? な、何をだよ!」

 

 そォいうことか。

 今のニヤニヤ丸眼鏡ァ神じゃねェ。まだ魔法少女だ。

 んなら──コイツ殺しちまえば、神の座が1つ空く。本来だったらウチの神さんか、もう1人の方に吸収されンだけど、もう1人ってな其夢盗のことでよ。もういねェんで、吸収ァちょいと遅れる。

 そこに、代用品を押し付けてやりゃ、新たなる神を作り得る。

 

 なんなら代用になるか、って。

 

「捨てられたってのに助けに来たのか? 律儀だなァオイ。──ソテイラ! いるンなら返事しな、助けてやっからよ!」

「助けて~~~!! もうちょっと先にいるよ~~~! 連れてかれてるよ~~神にされちゃうよ~~~~!!」

 

 大声が返ってきた。

 ハハ。

 ハハハ。

 

 ご同輩、それも大先輩からの救援コールってな、ケケ、やる気出るねェ。

 前ァルール違反で殺したがな、冥界でなら助けてやる。俺達ァ死者にァ優しいンだよ。

 

「なンで──すまねェけど、殺すぜ。何、命までァ取らねェから、潔く死にな」

 

 剣を向ける。

 ピンクカチューシャ。【帰述】の魔法少女。

 

「か、かっこつけられたのだ……! ならばこちらも、"よかろう、その宣戦布告、確と受け取った。──やはり我らの運命とは、潰し合う所に落ち着くのだな"の奴なのだ!」

「意味わかんねェよ!」

「な──読んでないのだ!? 誰もが知ってる大人気小説、『黒鉄と白銀の剣士』!! 全72巻!!」

「知らねェな、聞いた事もねェ」

「あたしの最高傑作なのだ……読んでないなら、読ませてやるのだ!!」

 

 背後、傷付いたニヤニヤ丸眼鏡を冷静メイドが引き離し、簡易治療と拘束を行っているのがわかる。

 よォし、んじゃまァ──大暴れと行きますか。

 

 アズサァなンか、着物狐にホの字っぽいし。アイツのキスで魅了されてるだけだと思うンだが、アレってそんな持続するモンなのか? それとも初恋故に、とか? ううん、おじさん色々考えちゃうな、父親みてェに。

 

「行くのだ、クロガネ、シロガネ!」

「──!」

(kill)

 

 とか考えてたら、なンか出てきた。

 黒い騎士。白銀の騎士。

 精神体? いや……言動的に、魔法か?

 

 特殊魔法じゃねェだろォな。それだと殺しちまうンだが。

 

「安心しろ、学のある方の梓・ライラック。それは特殊魔法ではなく、遠隔魔法の類だ。それらの命を奪った所でプリメイラは死にはしない。──これを聞きたかったのだろう?」

「アンタ、案外見どころあンな。いいぜ、なら──久しぶりに、全開で行こうじゃねェか」

 

 踏み込む。

 強化に強化を重ねた、俺の最大速度。

 それァいとも容易く対処され、2本の剣が俺を襲う──も。

 

「嘘、折られたのだ!?」

「剣が死なねェって? ハハ、馬鹿言うんじゃねェ、剣ほど死にやすいモンァねェよ、さて無手の騎士──」

「じゃあ書き直すのだ」

「!?」

 

 下がる。

 一瞬で剣が生えてきた。それも、さっきより硬いっつか……あれやべェな。不死じゃねェが、かなり堅固だ。書き直す、っつったか。で、【帰述】ね。

 書いたモンがそのまま出てくる魔法……ただしそれだけじゃねェ、ンだろうな。

 

「けど、だからなンだ、ってな。──【死漸】」

任セタ(頼斗)

頼ロウ(例太)

 

 剣が克ち合う瞬間、死の気配がした。

 ンで、避ける。【死漸】の浸された剣。それを割って、2つが俺を真っ二つ、いや四分割にする──そんな感覚があったのだ。

 追撃。

 レーテーを起動し、剣をしまう。素手になる。

 

「あはは、諦めたのだ?」

「馬鹿が、剣じゃ打ち勝てェんなら他の手段に頼るなンざたりめェだろォが」

「無駄なのだ! 無駄無駄無駄なのだ! 知らないのだ? いつもはいがみ合い、会っては潰し合い、斬り合い、殺し合う2人が──手を取って、共通の敵を見定めた時! 2人の前に敵は無いのだ! 負けは無いのだ!」

「ハハハ、好いね。そりゃ好い。俺も好きだぜ、そォいう王道ァ。だがよ、ピンクカチューシャ。1つ忘れてねェか?」

「のだ?」

取留守伊豆止蓮邪暫不意串音(事実は小説より奇なり).──ってな。あァまァ、こっちじゃ知られた言葉じゃねェか、ハハ!」

「世界言語を使うのだ!? もう使ってこないって聞いてたのだ!」

「死者が夜の言葉を使って何が悪い!」

 

 突っ込む。

 当然剣を振り下ろしてくる2体の騎士。そこに、敢えて更に突っ込んでいく。確実に剣が当たるルートを通って──その身体が、紙へと変わっていく。

 

「インキュバス!?」

「へェ知ってンのか。博識だな。んじゃ、死ね」

 

 その声ァ背後から。

 切り裂かれてバラバラになった紙ァ──身代わりとしてでなく、目眩ましとしての役割がある。

 さらにその紙の一旦を握るのァ、背後にいる冷静メイド、ってな。

 

「【侵食】」

 

 紙に埋もれた剣が、肉に埋まる。簡単にゃ抜けねェ肉の壁。

 俺の位置ァ、さっき突っ込んだ時のままだ。ピンクカチューシャの声が背後に聞こえる位置。

 

 つまり、騎士2体の背後。ほとんど仰向けの状態で、その2つの背を思いっきり押す。

 ほっとんど動かねェ騎士。

 反対に、加速するのァ俺の身体、つってな。

 

「ハハハ、背中がガラ空きってな! 食らえ──何の捻りもねェ、仰向け頭突き!!」

「よ、避ける──ぶごふっ!?」

 

 はン、自分と騎士の距離が近かったのが災いしたな。

 見た目少女な奴の腹に突っ込むってなおじさんァ世間体とか気にするンだけど、まァ冥界だし。つか誰もみてねェに等しいし。

 

「ツカマエタゼ……?」

「ひぃっ!?」

「【死漸】。──敵になら、容赦ァしねェよ」

 

 カクん、と。

 ピンクカチューシャが──崩れ落ちる。それァ腹の痛み、だけでなく。

 

「……殺した、のか?」

「クク、どうした、梓。吾の方を見ろ。吾だけを──」

「……ごめん、ナリコ。これだけァ譲れねェんだ。……殺したのか、って聞いてンだよ、オイ」

「ン? あァ、そォだよ。どんな魔法か知らねェが、厄介なのァ目に見えてたからな。それがなンだ?」

「【終焉】」

「【死漸】」

 

 克ち合う。

 遠隔の【終焉】と近接の【死漸】。死を纏った拳があらゆるものに終わりを齎す魔力を死なせる。

 

「──とうとう、そこまで堕ちたか、てめェ」

「ハハハ、なンだ、どこまで期待してたンだてめェ。俺が殺す相手選ぶよォな奴に見えたのか?」

「信念まで曲げちまったら、てめェァ単なる殺人狂だろォが。その一線ァ引いてるって思ってたよ。──勘違いだったみてェだが」

「ン? あー、なるほど。そっちね」

「何がだよ!」

「言い争ってないで助けるのだ!! やばいのだー! 息が詰まるのだー!!」

「あァ、それくらいァしてやるけどよ」

 

 うつぶせに崩れ落ちた少女をひっくり返す。

 その顔にァ涙。物凄い剣幕で睨みつけられてる。……いやまァ、こォ見られると罪悪感沸いちまうが、敵だからな。

 

「い……き、てる?」

「死んでるのだ!! この天才小説家プリメイラ様の手足が死んだのだ!! 死に等しいのだー!!」

「ナマ言ってンじゃねェよ。命取られなかっただけ儲けモンだと思っときな」

「小説家が文字を書けなくなるという絶望の一切をわかってないのだ! この人殺し! 殺人鬼!!」

「SEが打鍵できなくなるってこったろ? その絶望ァわかるさ。けどお前ァやっちゃいけねェ事やりすぎたンだ。罰ってな本来私的に裁量して良いモンじゃねェのァわかってるけどな、俺と敵対した時点でそれくらいの覚悟ァ持ってもらわなきゃ困る」

「知らないのだ! 勝手に敵対してきたクセに!」

 

 ……あン?

 知らねェわけねェだろ。喧嘩、売られたよな? あン時に。

 

 なンだって──。

 

「【終焉】」

「え──」

「あ」

 

 それァ、意識外だった。

 それだけァ絶対にしねェと思ってた。俺に撃ってくるならまだ対処できる。

 

 けど。

 

「──おい、なンで殺したンだよ」

「何言ってやがる。手足死んでて、それが生きてるって言えンのかよ」

「ア? そりゃお前、言っちゃならねェ事だぞ。じゃァなンだ、ちょっと前までの俺ァ死んでたか? あァ?」

「死んでただろ。隔離塔で何も出来ずに景色を眺めるだけ。役割の1つも果たせねェ、人間的生活の1つもできねェ。それが死じゃなくてなンだってンだ」

「生きてンだよ。それでも。──ハハ、いいよ。いいぜ。いいな」

「笑うんじゃねェよ、気色悪ィ。嫌いなモン見て笑うとか、狂ってるぜ。私ァ今、一切笑える気がしねェ」

 

 笑えて仕方がねェ。

 見えてンだよ。終わったはずのピンクカチューシャ。その肉体が──消えちまったのを。

 魔力素に分解されたワケじゃねェ。これァ。

 

「正解だ、学のある方の梓・ライラック。……連れていかれたな。疑似【隠涜】」

「あァよ、正解を正解だって言ってくれる先生ァ好きだぜ」

「何を」

「クク──しばし眠っていろ、梓」

 

 紙が舞う。

 それァアズサの身体に巻き付いて、張り付いて──その身体を、ミイラみてェにしちまった。

 

「冷静メイド、これ使え。さらに上からだ」

「よろしいのですか?」

「あァ。俺の助けになった義足が、コイツの枷になるってンなら、それも因果だろォよ」

 

 言って渡すのァ義足の片方。

 つけてくれた、作ってくれたマッドチビ先生ァ終始無言だったたァ言え、かなり丈夫に作られた義足だ。いつぞやの髪へ【侵食】しての拘束にァ持って来いの材質だろう。

 

「……わかりました」

「頼む。んで、ニヤニヤ丸眼鏡。お前、歩けるか?」

「問題はない。さて、取り返しに行こうか。我が最愛の眷属、黒きストリクスを」

「見捨てた癖に何言ってンだか」

 

 なンでニヤニヤ丸眼鏡の方を切ったのかァわからねェが、行くぞ。

 大丈夫さ、アズサ。その拘束解ける頃にァ全部終わってる。

 

 ちゃんと、な。

 ちゃんと。

 

えはか彼

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