遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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6.Cut back to call cuckoo roll not can re.
79.泡円徒例須徳霊邪脳途


 精神体になったことが影響してンのか、どォにも魔力の流れってのがわかりやすく感じる。

 始の点から溢れ、世界に流れて行く魔力。終の因が機能停止したことを受け、その魔力は次第に飽和し──最後にァぱァん、のはず……だったンだが。

 

 今、この世界から魔力は急速に減少し始めている。

 

 世界にとって毒である魔力。それが消えて行くってな、一見良い事の様に思える。淀みから生まれる化け物もいなくなるし、新たな魔法少女も生まれ難くなるだろう。

 だから、一見だ。

 魔法少女の因子に関する問題が一切解決していないまま、魔力が世界から消えてなくなったら──。

 

「魔力を求めて魔法が精神を食い荒らし、魔法になる、か」

 ──"梓"

「ン?」

 ──"どうして、発声を用いる?"

「……」

 

 ふむ。

 まだまだセイタスと行くラハブってな化け物の捜索旅ァ始まったばっかりだが、多分圧倒的にコイツのが歳食ってるってわかる。

 倣うか。

 

「これでいいか?」

「理由を問うただけだ」

「いんやさ、理由ァ無いのよ。前ァ発声しか意思疎通の手段が無かったンでね、発声にこだわってたってだけだ。今ァ──コレ、なんつーンだろォな。念話? で確かに十分だわな」

 

 切り替えァ素直にできた。

 ふーちゃんが俺にやって来たのとおんなじ感覚だったから、ふーちゃんに感謝ァしておこう。

 

 そォいや、精神体になったってこた、俺も念動力的なモンが使えンのかな。

 今や懐かしい、アビスワーム討滅の演習で会った精神体。アイツが使ってた、明らかにオーバーパワーな念動力。

 

 ……そォいや、あの精神体ってな、結局なンであそこにいたんだろ。

 そォいえば繋がりだけど、俺って結局湧きポ殺せンのかな。最終的に一切証明できねェまま激動が過ぎてユーレーになっちまったワケで。

 残念ながらっつーかなんつーか、【死漸】ァ肉体に宿ってる。だからマッドチビが使ってるンじゃねェかな。あァさ、アイツがどォいう動きしていくつもりなのかァ知らねェけど、良くない事が起きるってだけァわかる。

 だから早いとこ取り返しに行かねェとなンだけど──さてはて。

 その手段がどーにも見えてこねェと。

 

「なァよ、セイタス」

「なんだ」

「ラハブ、っつったっけ。お前の友達。なンで今一緒にいねェんだ?」

「ラハブは、旅を好んでいた。我は定住を好んでいた。──いつしか我の身体は大きくなり、少し動くことさえ億劫になってしまっていた」

「あーね」

 

 まァそんだけでかけりゃなァ。

 その言い草だと、意図して成長したってワケでも無さそォだし。

 

 ン、てこた。

 

「お前、小さい時があったのか?」

「無論だ。神なりし者以外、誰も彼もが幼き時があろう」

「いやまァそりゃ、そォか」

 

 EDENの教本ァ、化け物の分類についてァ結構詳細に書かれてる。

 小型で高位な化け物だったら、進化を繰り返すディケント、元々でけェ化け物だったのが圧縮して小さくなったのがイオルー。んであるいァ、着物狐やヨウキ、あとァカンコウみてェなオリジン。一応アンゲルとアンヴァルもオリジン扱いだけど、ありゃ迷宮の化け物なンで除外してもいいだろう。

 ぶっちゃけると俺もオリジンに近い。精神体の今ァがっつりオリジンかもしれねェけど、そォでなかった時もオリジンではあった。夜の使徒ァ化け物じゃないンでそォ呼称するのァおかしィんだけど、ま、アンデッド枠で括るならそォだって話な。

 

 で──小型で高位な化け物が記載されてンなら、勿論、中型、大型の化け物の記載もある。 

 中型ってなァ結構広く分布してて、書き記すにァページが足りねェ、って感じの教本や図鑑がズラリとEDENの図書室にあンだけど、大型だと割合少ない。

 大型の化け物ァ、まさにセイタスが一例に上げられる、小せェ頃があって、そっから成長してったディフォリーってな種類が1つ。

 ミストベイルみてェな本体ァ小型なンだけど図体ァクソデカいっつーブラフィーってなが1つ。

 最初からでけェまま生まれた、要するに象だのクジラだのみてェなギガントって種が1つ。セイタスァこれだとばかり思ってたンだが、ちゃんと小せェ頃があったらしい。

 

 んで、まァベルウェークとかのオリジン種が1つな。オリジン種ァ小中大の全部に跨って存在してるから、基本教本にァ載ってない。一々記載しててもあンま意味無ェしな。"出会ったら刺激せずに即逃げろ"、が対処法なンだし。

 

「ラハブもそォなのか?」

「そうだ。我らは幼き頃から、共にいた。しかしラハブはある日突然旅に出たいと言い出して……それから、会ってはいない」

「そっから一回も帰ってきてねェのかよ」

「我も、いつもの散歩程度だろうと思った。故に待っていた。……しかし彼女は帰ってこなかった」

「……そりゃァ」

「そうだ。死んだものだと考えた。……だが、貴女が彼女を見たというのなら、未だどこかで生きているのだろう。それを我は喜ばしく思うし、貴女との出会いに感謝する」

 

 ……あー。

 見た、つったって、其夢盗の皮がそォだった、ってだけだ。

 つまりラハブを見た誰かがカシヨの村に辿り着いて、その記憶を其夢盗が見たってだけの事。ラハブの安否ってなわからねェままだ。

 ……生きている可能性ってな……どォなンだろォね。

 

「悲しむな、同輩。──我とて、それも予見している。我らは死と隣合うもの。相対するものが同輩であろうと、天敵であろうと、餌であろうと──気を抜けば、簡単に命を散らす。──けれど、同時に残るものがある」

「残るもの?」

「そうだ。貴女はまだ生まれたばかりなのだろう。故に知らないのだろう。我らは、その身に死が訪れた時──そこに記憶を残す。記憶を染みつかせる。縁はそれを惹き、その地は記憶を呼び覚ます。そうして我らは巡り、受け継ぎ、新たなものになっていく。──輪廻の呪縛とは、同時に互いを惹き合う潮騒となる」

 

 へェ。そりゃ、ホントに知らない知識だ。

 記憶か。ヨウキの話の中にァ、オリジン種ァ記憶を受け継ぎ続けるモンがいる、みてェなのがあったけど。そォか、それ以外も──記憶ってな、ちゃんと残るンだな。

 じゃァ、俺のやってる事ァ否定じゃねェんじゃねェか? 

 ……なンて調子乗れるほど安易な人間じゃねェんだよなァおじさんァ。記憶がその場に染みついて、誰かがそれを受け継いだから、つって──そいつの全てが残るワケじゃねェ。

 

 やっぱり俺ァもう、化け物を殺すってなできそォにねェやな。

 

「しっかし、この亀裂ってなどこまで続いてンだ? あれから結構進んだよな」

「まだまだ、深いところがある。そこは熱く、暑く、また毒性のある水も溜まっているが、貴女や我には問題の無いものだ」

「これ以上か。……そこにいけば、ラハブってな見つかるのか」

「そこへ行けば、輪廻の閲覧が可能になる」

「……」

 

 なンじゃそら。

 輪廻の閲覧? ンなことしていいのか?

 いんやさ、前世的な輪廻云々じゃねェ、マジモンの呪縛の車輪がこの世界にゃあるンだけどよ。それが化け物達を絡めとってンのァ知ってンだけどよ。

 それを見る、なンて──していいのか?

 

「輪廻を見て、何になるよ」

「少なくともラハブは輪廻の中にいないと確認できる」

「なるほど。つまり、いなけりゃ外で活動中ってこった」

「そうだ」

 

 化け物達が輪廻を辿るサイクルにァ一定の期間が存在する。死んですぐ別の化け物に生まれ変わる、ってなワケじゃねェ。それこそ魔法少女の蘇生槽みてェな蘇生時間があるンだ。あっちより遥かに長いが。

 まァそォじゃねェと世界ァとっくに化け物が覇権握ってるよ。そォでなくとも湧きポからァ複製された化け物がわんさか出てきてる状況だ。っとによく滅びてねェよな、この世界の人類。

 

 ──ふと、周囲に明るさが出てきた。

 あり得ない──陽光も届かぬ深海。マジの真っ暗だった。つまり深度ァ4000mァ優に超えてるってなワケだ。んで、セイタスのデカさと進んだ時間から察するに──6000mァ来てんじゃねェかなァ。

 

 そこに明るさ、っつーと、まァチョウチンアンコウみてェなのがいる……かもしれねェけど。

 そォじゃない。明らかに、明るい。

 

 これァ。

 

「……火山、か」

「そうだ。この辺りには、活発な火山がある。それらは熱を発し、生物の生存を極端に狭める。……貴女は、熱を感じるだろうか」

「いいや。俺にァわからねェな」

「ならば、良い」

 

 赤だ。 

 ぐつぐつと煮えたぎる海底火山──煌めくマグマが、辺り一帯を照らしている。

 

 その中を、ずんずんと進んでいくセイタス。

 ……すげェ。いんやさ、魔法があって、魔法少女がいて、化け物がいる、ってな世界をファンタジーだ、ってさ。最初ァ思ったよ。自分が神さんに拾われて、死者だってンのに生者になるってなった時もだけど。

 

 でも──これァ、また違う。

 すげェ。だってこれ、前世にもあるンだろ? 綺麗な……それを、生身で見てる。いんやさ全くもって生身じゃねェんだけど。

 

「梓?」

「ン。すまねェ、見惚れてた」

「熱を好むのか?」

「いんや、どっちかっつーと光かな。前ァ眩しいくらいの光が常に隣にいたンでよ」

「そうか」

 

 お嬢のそれたァ違うけど。

 この赤ってな──星の生きる光だ。

 

 すげェ。

 

「……にしても、ちゃんと化け物じゃねェ魚もいるンだな」

「我らの方が異端である」

「そりゃまァそォだな。あ、つかお前ら自分が外の生き物だってわかってンのか?」

「当然だろう。故に小さきもの、強くなりしものは死を目指す。自らの居場所がここではない事を知っているが故に」

「……そォだな」

 

 そうか。

 アイツらの、輪廻の果てに1つとなって、死にてェ、っつーのァ。

 

 この世界から出て行きてェ、って。そォいうことでもあンのか。

 

「もう少し先だ」

「あァ」

 

 煮えたぎる熱海。そこを過ぎると、今度ァなんぞ──青だの緑だのが見えるよォになってきた。

 魚介、あるいァ植物が発光してンのか?

 

 ……それに、このなんぞ見るからにやべェ液体ァ。

 

「塩、か。それに……放射性物質?」

「それがなんであるかは我らにはわからない。ただ、それに触れ続けていれば、我らとて損傷を追う。貴女も一応気を付けて欲しい」

「あァよ、触らんとく」

 

 専門的じゃないンで詳しいこた言えねェけど、これが人体にも生物にも化け物にも害のあるものだ、ってなァわかる。

 ……セイタスが通ることで、沈殿していたそれらが巻き上がってる──ってなァまァ、言わねェでいいか。ここの住民なら避けるだろ。気合で。

 

 進んでいく。

 時たま、セイタスにァ及ばねェものの結構なデカさの化け物にも遭遇するンだけど、どっちも攻撃したりしねェ。まァアレだ。ワニ同士の戦いが、噛みついちまうとお互い致命傷になって勝っても得られるモンが無いんで、それ以外の手段で攻撃する──みてェな。この場で戦闘したってお互い利益が無いンで、無視。ってな感じなンだろう。

 一瞬俺に視線ァ来たけど、セイタスが守ってくれた……気がする。

 

 俺も、その輪廻の閲覧とやらが終わったら自衛くらいァできるよォになっとかねェとなァ。

 すーぐおっちんじまって記憶失って気付いたら他の化け物だった、なンて笑い話にもならねェ。

 

 念動力。あるいァ魔力か。魔力ァ普通に使えるっぽいンで、固有魔法以外の部分をどォにかして行けばなんとかなりそォでァあるが。

 

「まだ潜るのか」

「そうだ。ここより先は、明かりも減る。我を見失うなよ」

「あァそりゃ大丈夫。命の気配で何がどこにいるのかってなわかるよ」

「そうか。……我には無い知覚だ。それが、貴女の特異性なのだろう」

 

 確かに。

 命の気配や死の気配ってな、【即死】、あるいァ【死漸】を持ってるからわかるモンだと思ってた。つかそォ教えられたし。魔法ってながそれぞれに司るモンがあって、【即死】ァ命や死を司ってンで、だから自分が死ぬ気配とか命の気配がわかる、みてェなさ。マッドチビ先生ァそォ言ってた。

 けど、【死漸】を失った今でもわかるモンってこた──それだけじゃねェ、ってことか?

 俺が夜の使徒だから? うーん。なんぞ納得いかねェな。

 

 ──少し、流れが出てきた。

 

「……魔力?」

「いいや。魔力とは、天より堕ちるもの。これは」

 

 肌を掠める。

 肌っつか、身体っつか。

 色があるのかどォかもわからねェ俺の身体を──それが掠めて行く。

 

 魔力──じゃ、ない。

 もっとしっかりしたものだ。

 

 これは。

 

「精神体──?」

「そうだ。我らの精神体。輪廻より出で、この世界で再び生まれるために旅立ち、地を染み、空を流れ、海を渡って各地へ散らばるもの。梓。貴女はこの先に風を感じるだろうか」

「……あァ。感じる。暴風って程じゃねェ、強風ってこともねェ。ただ穏やかな風が、ある」

「それこそが我らの最高神であり、輪廻である」

 

 精神体だ。

 しっかりしてるけど、薄い。同じく精神体である俺の身体をすり抜けるくらいにァ薄い。それが、世界へ、外へ外へと拡散して行っている。

 今までァ土壌に含まれる魔力だのなンだのでわからなかったが──ここまで何も無いと、わかる。

 

 ここァ。

 これから生まれ出でるモノのいる場所だ。

 

「ようこそ、()()使()()。ここなるは"輪廻の根源"。我ら風の使徒の生まれ出でる場所」

「……なンだ、わかってやがったのか」

「だからといって、差別はしない。貴女はラハブを探す手伝いをしてくれると言った。こちらに敵対の意思がないことは道中に示した。そして、此処より先は貴女の知らない世界である。故に歓迎の意を示した」

「あァよ、ありがとな。こっちも短気だった。だからそォ焦んなって。大丈夫、どォせ今の俺にァ何にもできねェよ」

 

 こっちが臨戦態勢に入っちまったのが悪かった。

 いんやさ、ちょっとビビったンだわ。夜の使徒ってな世界にいちゃいけねェからよ。排斥、あるいァ排除されンじゃねェかって。そのために──風の集まるここに連れてきたンじゃねェか、って。

 そォやって俺が警戒したのを察してか、セイタスァ全部説明してくれた。でけェ図体の割に気の小せェ奴なのか、あるいァ単純に平和主義で且つ優しいってだけか。

 

 ま、後者だろォな。

 

「んで、ここァもう輪廻の中なのか?」

「輪廻の中に入ることはできない。我らは未だ生きるモノ。故、外側から眺むることしかできない」

「そりゃそォだが。でも"輪廻の根源"なンだろ?」

「風がそういう呼び方をしているというだけだ」

 

 まるで友達みてェに言うなァ。

 いんやさ、まァ俺と神さんも似たよォな関係なンだけど。こっちに生まれ出でる前ァボードゲームとかしてたし。

 

 ……つか、風ァ地平にいねェんだな。こっち来てンのか。

 それ、いいのか?

 

「着いたぞ、梓」

「……ん? ついたって、特に何も……」

「命の気配、と言ったか。それでは何も感じ得ぬだろう。何故ならここに命は無い。肌を凪ぐ風を感じてみるといい。頬を撫でる風に触れてみるといい。──ここに、どれほどの同輩がいるのか、貴女にもわかるはずだ」

 

 目を瞑る。

 命の気配を除外する。魔力の流れも除外する。まァこの辺魔力ほとんど流れてねェけど。

 

 潮流も除外して、俺から発されてる魔力も、セイタスから発されてる生命力も、全部全部外して行って。

 

 奥。奥の奥。

 さらに深い場所から感じ取れる風──それに、意識を集中する。

 

 ……うーん。

 わからん。

 これァ俺が純粋な化け物じゃねェからか?

 

 風自体ァわかる。穏やかな風だ。

 けどそれ以外がわからん。命も魔力も水も何もかもを除外しちまったら、何も流れてなくねェか。

 

「──よもや、このような場所で出会おうとは」

「え」

「久方ぶり──に、なるのだろうか。──梓。余を殺さなかった娘子」

 

 まーったく感じなくてうんうん唸ってたら──そこに、いた。

 え。って。え。って。え。って。

 

「ふむ。余を覚えているか? 余は──」

「いんやさ、覚えてるよ。──久しぶりだな、カンコウ。ミチサネの方がいいか?」

 

 着物狐と共に消えたっつーオリジン。

 異例の雄の化け物、カンコウがそこにいた。

 

えはか彼

 

「余はもうミチサネではなく、カンコウである。故にカンコウで良い」

「あァそォかい。で? なンでこンなトコにいるンだ?」

「それは、こちらの言葉である。──余は妖となった。故に輪廻の呪縛へと引き摺り込まれた。余は未だ、輪廻の中で次を待っている。余がここにいる理由はそれだけだ。ではあなたはなぜ、ここにいる?」

「あー」

 

 そっか。

 そりゃそォか。

 

 確証が取れてるワケじゃねェが、多分マッドチビの実験で化け物にされちまったカンコウァ、多分輪廻側にとっても異物なンだろォな。

 だからアレから結構経った今でも輪廻の中にいる……的な?

 

「俺ァまァ、見ての通りお仲間になっちまってよ。まァ死んでないンで今ァ観光中ってな。やんなきゃなんねェこたあるンだけど、一朝一夕にできることじゃねェんで、こっちのセイタスっつー化け物と一緒に……ン? セイタス?」

 

 あれ。

 いねェ。え、先に帰ったとか?

 

「梓。貴女は1人ではない。"輪廻の根源"において、距離や時間というものは曖昧になる。探さなければいないし、会おうと思わなければ辿り着けない」

「……そりゃ、夢ン中みてェだな」

「斯様なものに例えるとは、面白い。まるで、夢を旅してきたような言い草だ」

 

 してきたンだよ。まァ旅じゃなかったけど。

 ……んじゃまァ──こォか。

 

 おお。見えた。真っ黒い巨体。

 なるほどね。

 

「カンコウ。ここにァ、数え切れねェ程の化け物がいる、ンだよな?」

「その理解で合っている。余も、これほどまでの妖がいるとは知らなかった。……少しばかり、居心地は悪い」

「ン、なンでだよ」

「妖をそう表現することが正解であるかはわからないが──ここには、女性しかいないのだ」

「あァ」

 

 ……あっはっは。

 ハーレムじゃーん。

 

「まァ化け物ァ雌しかいねェんだそうだ。だから、そォいう意味じゃアンタも女になったンだろォよ。んで、こっから先で生まれ変わるとしても雌だろォな」

「なるほど。やはり余は、何かの陰謀に巻き込まれたのだな」

「あァさ。ン、その辺着物狐……じゃねェ、ナリコから聞いてねェのか? あァいや、アイツもわかってたかどォか知らねェけど」

「余と得子は、ただ昔を語り、彼女の生まれたという地に赴いて、安らかに眠った。その間に余計な事は話していない」

 

 ……まァそォか。

 もォ会えねェってな、文字通りの今生の別れ。そこに、実ァお前ァ誰かの陰謀で化け物にされたんだぜ、みてェな話ァしねェか。野暮も野暮だもンな。

 そォだそォだ。ハーレムつったけど、こいつァ着物狐にぞっこんなワケで。じゃァ余計辟易するンだろォなァ。まァ人型の奴らばっかじゃねェだろォし、そこまで明確な意思持ってる奴ァ少なそォだからそんなでもないたァ思うンだが。

 

「誰か、話ができる奴ってないるのか? お前さん以外で」

「ヒトの言葉を繰るモノは少ないが、いなくはない。呼ぶか?」

「あァさ、ちょいと話を聞いてみてェ」

「わかった。では──べるうぇーく殿。こちらだ」

 

 ん──。

 んんん~~~~。

 

 ソイツァ呼んじゃダメだなァ! それ呼ばれると色々マズイなァ!

 

「あ、すまねェカンコウ、俺ァちょいと用事が──」

「──へ~? よく私の前に顔出せたね、アンタ」

 

 わお。

 こちとら精神体で、生き物だぞ。なンで掴めるンだよオイ。

 

 あとこえーって顔。お前、元のサイズのまんまかよ。おいおい握りつぶす気ですかね、セイタスに助け求めるぞコラ。あと声ちょっと可愛いな案外クソ野郎。

 

「よォ──ベルウェーク。久しぶりだな」

「何友達みたいな顔してるの? ──私を殺した事、あの時言ってくれた言葉、1つ足りとも忘れてないからね」

 

 握る力が強くなる。

 おー。

 はは。あァ?

 

「──ねぇ、怖いかしら?」

「よォ、怖いか?」

「!?」

 

 おーおー。

 あァ。ふゥ。ちぇ、魔煙草ァレーテーの中か。吸いたかったのに。

 

 ハハ。

 

 ダメだなァ。

 やっぱ俺ァ、ちゃんと縛っててくれるモンが無いと──すぐやらかすンだ。

 腕が失くなって縛れたと思ったのに、大火傷負う程調子乗るし。腕失くして大火傷負って大人しくなったかと思ったら、下半身不随になるほどの怪我負うし。下半身不随で腕も無けりゃ大火傷負ってりゃどォにか止められるかと思ったら、足全部失うくらいにァ他を過信するし。

 ダメなンだよ。

 俺ってばすぐ調子乗るからさ、なンか縛り無いとダメなンだよ。

 

 ──全身失ったってのよ。魔法さえ失ったってのによ。

 おいおい。なンで俺ァ笑ってンだ?

 

 決まってらァなァ。

 

 ダメだよ、枷外しちゃ。

 そりゃ──調子に乗るって。

 

「いいのかよ、掴んで──触って。輪廻の果てでまでも、死ぬか?」

「……!」

 

 魔力が漏れ出でる。

 感情の高まりは強い強い魔力を呼び起こす。

 

 それは。

 それは。

 

 それは──明確な形を取って。

 

 死の、形を、取って。

 

「──そこまでだ。べるうぇーく殿、こちらは余の友人である。梓。べるうぇーく殿は余らより幼い。両者矛を収めてはくれないだろうか」

「ん。すまねェ、カンコウ。助かった。ちょいと今の俺ァ短気でな。そォやって諫めてくれると助かる。……ほら、離せよベルウェーク。もう終わった話だろ」

「……ふんっ」

 

 離される。

 ……終わらせたのァ俺だけどよ。

 

 生前の禍根を持ち出されても困る、ってな。いんやさ死者の俺が言う台詞じゃァないが。

 

「ン? 幼いってなンだ? ベルウェークって言えば、アインハージャ達を何千年と苦しめてきた神だろ。幼ェはずがねェ」

「ふん、いつの話よ、それ。私はまだ生まれて100年も経ってなかったのに」

「……あン?」

 

 そういえば。

 ベルウェークを殺した時──俺、なンて言ったっけ。いや、思ったっけ。

 そォだ。──"やっぱりお前、人形だったってワケだな"って。そォ思ったはずだ。

 

 人形。迷宮にいるマリオネッタ種。

 だから外側ってな人形で、頭蓋の核が本体で。

 オリジン種でァあるけど、大型か小型かの判別ァ難しい……みてェな。

 

 けど、今の話を聞くに。

 

「……ベルウェークァ、もうとっくに退治されてた、のか?」

「さっきから何言ってるの? ベルウェークは私。わ・た・し。他にはいない。いたら困るでしょ」

「いや」

 

 そォいえば、宙の莽で、似たような事があったな。

 アズサの終焉によって終わらされたピンクカチューシャ。その身体ァ魔力素結合の分解が起きるって事なく、【隠涜】で回収されて行った。そもそも冥界で夜の神の加護無しで動けてるってながオカシイ。元夜の神であるニヤニヤ丸眼鏡ァ敵対してたンだ。その時に加護解いてもおかしかねェ。

 ……じゃァ、そォなんねェよォにしてたのが、ニヤニヤ丸眼鏡じゃねェってこった。

 

「風、か?」

「あのね。無視、しないでくれる?」

「ベルウェーク、お前……ルルゥ・ガルに対してァ、どォ思ってンだ?」

「ちょっとはこっちの話聞きなさいよ……。もう。……で、ええと、ルルゥ・ガル? あぁ、あの子ね。あの子は別に、どうとも思ってないけど。私より長生きなくせに、私より小さくて、私より強そうなくせに、他の子の力を頼って。よくわかんない子だった」

 

 ……そォいや、聞きそびれてたな。

 あみあみ忍者と着物狐が、ルルゥ・ガルとどォいうやり取りをしたのか、とか。

 

 そォだ。シエナ──マッドチビだけじゃねェ、ルルゥ・ガルもジパングに関わってたンだ。

 やっぱりあそこァ繋がってンのか? けど、そォいう素振りァ見せて無かった。

 

 なンだ?

 何かが、噛み合ってない。

 

 ベルウェークが100年くらいしか生きてなかった、ってな、まァ良い。ベルウェークって入れ物の保存手段があって、そこに入れられた化け物で、自分をベルウェークだと思い込んでた──みてェな、アイツらの常套手段の気配がする。

 けど、そこじゃねェ。

 なンでルルゥ・ガルがベルウェークを神だって言ってたのかってのと、なンでその身体を手に入れられたのかってのと──冥界での、違和感。

 

 そうだ。

 

 世界を創ろうとしたはずだ。あの時。

 2人の魔法少女、【合成】と【蟲独】によって、俺と全てを合わせて、マッドチビがそン中入って。

 あの場にいたのァ魔法少女2人とピンクカチューシャ、夜の使徒であるソテイラと俺。

 

 足りないンだ。

 風が、足りない。ソテイラァ世界じゃ化け物だったが、冥界じゃ単なる夜の使徒だ。風の要素ァ無い。

 あの場にいた奴らで風の要素持ってンのァ着物狐くらいだったが、【合成】に巻き込まれた感じァなかった。

 

 だから、だから。

 だから。

 

「……マッドチビァ、風か?」

「梓」

 

 呼びかけられて、意識が浮上する。

 

 その巨体が、近くに来る。

 あァそォか。別に俺側からじゃなくても近付けるよな。

 

「風は、感じ取れたか?」

「ん。あァそれやってなかったな。今旧知の奴らと話してて──って、アレ」

 

 いねェ。

 カンコウも、ベルウェークも。

 

「それが、風だ」

「……あァそう。なるほど。本来ァあっちゃいけねェ、死後の意思」

 

 幻ってワケじゃねェ。あいつらァ確かに此処にいる。

 けど、それァ此処で生きてるってワケじゃねェ。あれらは風で──通り過ぎるモンなンだ。

 

「ここに、ラハブはいなかった」

「そりゃ重畳。んじゃ、行くか。ラハブ探しの旅」

「ああ。──梓。1つだけ、忠告をしておく」

「ン?」

 

 また静かになった深海で。

 セイタスが、神妙な面持ちで……いやスマン、嘘だ。クジラの面持ちなんざわかるか。

 

 まァ神妙そうな雰囲気で言う。

 

「我が誘っておいておかしな話だが、貴女はあまり、みだりにここへは来てはいけない」

「そりゃまた、なンでだ?」

「ここはあくまで死した者の場所。次なる輪廻の待機列それはつまり、次なる生へ向かう休息の場でもある。貴女にとって冥界が安寧の場であるように、我らにとってここは騒ぎの起きぬ平穏な場である」

「あー、さっきのか」

「何が起きたのか我には窺い知れぬが──貴女の魔力は、我らを酷くざわつかせる。わかってくれるだろうか」

 

 うん。

 これァ俺が悪いな。ベルウェークもカンコウも悪くァない。

 俺が全部悪い。

 悪いし、だ。

 

「あァよ。別に輪廻に俺ァ興味ないンでね。大人しく引き下がるよ」

「ありがとう。──さぁ、浮上しよう。あの狭い亀裂ではなく、外の海へ。そこから、ラハブを探しに行こう」

「おォさ」

 

 ──ほんの一瞬、出かけた。

 カンコウに止められてなかったら出てた。

 

 ……【死漸】。肉体に宿ってるはずの、死の形をした魔力。

 なァんで扱えるのかってな──もうちょい、研究が必要そォだな。

 

えはか彼

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