遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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7.Such tech will end night more none.
83.韻地出伏須負不地泥伏不俺止.


 生きるために食う。

 強くなるために食う。

 

 殺すのと何が違うのかって哲学を説かれりゃ、それを糧にしているかどォかの違いって答えるよ。前の俺ならそォ答えるのァ無理だったし、なんなら問う側だったけど──いんやさ、食事と殺しァ違わァな。

 無論、食われる側だって抵抗する。食い返す奴だっているンだろう。

 化け物。魔物。

 いんやさ、生物の摂理だ。獣の摂理。

 この世界じゃ人間でさえそォだ。EDENの下……じゃねェか。まァあの国ァ守られちゃいるが、そォじゃねェのァ普通に魔物と戦ってる。魔法を持たねェ軍人ァ震える手で武器握って、食われねェために戦ってる。

 

 殺す。

 食い殺す。

 

 あァさ──幸いにして、っつーべきか。

 俺ァちゃんと、強くなるために、生きるために、生き残るために【即死】を使ってた。魔物を殺すときァ全部そうだった。そればっかりァ幸いで、だからこそ、やっぱり仲間にそれを使うのァ違ェって再認識できた。

 

「私はアダンシー。お前は!?」

「梓。お前を食うモンだ」

「いいだろう! 受けて立つ!」

 

 世界にいる魔物ってな、勿論オリジンだけじゃねェ。小型中型大型といろんなのがいて、色んな能力をもってて。まァ魔力扱えるのァ相当高位だけど、モォルとかスネイク種みてェに自分の長所を活かすのがいっぱいいて。

 

 戦い続けた。

 食い続けた。

 多分、魔法少女やってた頃よりァ、死の危険が少ないンだろう。魔力攻撃してくる奴ァ少ないから、ジャカンの時に感じた見てェなクる感じが無い。

 でもそれァ、俺側だけ。

 

 相手が。魔物達が、それを感じてンのが──ひしひしと伝わってくる。

 負ければ死。勝たば生。廻るからつって記憶が受け継がれるワケじゃねェ奴らは、一個しかねェ命背負って、けど強さを、上を、頂きを求めている。

 すげェンだ。その覚悟ァ、どこまでも──強い。

 番のいる奴。子供のいるヤツ。ラハブみてェに世界を巡ってる最中だっていう奴もいたし、何千年と代替わりしながらその縄張りを守ってるって奴もいた。

 

 でもみんな。

 ──飽いたり、疲れたり、意欲的だったり好戦的だったりしながら──死を覚悟している。

 恐怖はあるんだ。怖いって、やべェって。クリスを出した瞬間に怯えを見せる奴もいる。それでも、それでも、それでも。

 逃げるし避けるし隠れるし、騙すし集まるしおびき寄せる。それでも、それでも、それでも。

 

 それでも、だ。

 

「アダンシー! アンタを食らって俺ァ先に行く! ──言葉はあるか!」

「無い──やれ」

 

 ──慈悲を乞う奴が、いねェ。

 負けたら死。負けたら死なンだ。スーグが言ってたよォに、慈悲って言葉を知らねェんじゃねェかってくらい──命乞いをしてこない。

 

 あるいはジャカンが言ってたように。

 負けた奴が生きてても仕方がないンだ。魔物は、強くなって、1つになって、その最頂点を目指すものだから。

 引き分けなんざ無い。見逃すなンてことァない。

 覚悟はもう、随分と昔に決まってる。幼体でさえ、そうだ。この世に異物として生まれ落ちた時から、命を乞うなンて選択肢は無い。

 

 それが──なンでかな。

 俺には、眩しく映った。

 

「……」

 

 今斬った、青黒いビーパーみたいな魔物を食べる。

 アダンシー。そうだ、魔物にァみんな、名前がある。必ず名乗りを上げる。必ず名を問うてくる。

 オリジンだけじゃねェ。小中大全部の魔物がそォだ。親から賜るのか、生まれた時から知ってンのか。

 

 ちゃんとこいつらってな生きてて。

 それを、食う。

 

 ……少しばかり疑問なのァ、こっち……北の海にァ湧きポがほとんどない。

 EDENの周囲にァ結構あったはずなンだけどな。オリジンがいっぱいいることと関係してンのかな。

 

「魔力も……大分増えたな」

 

 呟く。

 ごちそうさまをして、なんだか実感できたそれを言う。

 

 魔法少女はできることを増やして"役割の統合"をし、魔力を増やす。

 魔物は強くなって強くなって、魔力や生命力を増やす。

 これもある意味"役割の統合"ではあるンだろう。魔法少女が大粒で、魔物が小粒ってだけだ。

 

「体も、段々戻って来たなァ」

 

 水面に映る体。

 銀の髪に、碧い目。魔法少女になった13歳──そン時のまんまの身長。

 まだまだ細部ァぼんやりしてるけど、ちったァ俺らしくなってきたっつーか。それは魔物を食べるたびに、どんどん濃くなってて。

 

 マッドチビ先生や紺碧ベルトに引っこ抜かれた精神体が自我を持たねェのって、多分"薄い"からなンだろうな。いんやさ、ちっと気にはなってたンだよ。

 魔法は肉体に宿る。魔力ァ精神に宿る。んじゃ精神引っこ抜いた時、心ァどこへ行く。

 全部が全部カシヨの村に行くってわけでもないだろう。心ってな、どっかにあるはずで。

 それは多分、精神に引っ付いてンだ。ちゃんとそこにあって、けど薄くて自我を保てない。もっともっと濃くなりゃ自分を思い出せるし、もっともっと自分らしい姿になる。

 

 俺が最初から自我持ってたのァ、非正規の手段で抜かれたからか、あるいは夜の使徒だからか。

 もしくは、前世なンてもんを持ってるからか、だな。

 

「──そこな精神体」

「ン?」

「強き者とお見受けいたす。──どうか、某と刃を交えてはくださらぬか」

「あァ。だが、俺が勝ったらアンタを食うぜ」

「無論」

 

 亜空間ポケットからクリスを引き出す。

 あァそうそう、亜空間ポケット。これも結構ちゃんと扱えるようになってきた。正直レーテーに入れてある云々が勿体ねェってのと、ありゃ安藤さんに貰ったモンだからできりゃ回収したいって思いはあるンだが、こーやって自在に使えるとなるとやっぱりこっちのが便利だって感じる。

 

 ま、関係無ェ話ァこの辺にしよう。

 

 こっからは命の取り合い。

 

「俺は、梓・ライラック。頂点を目指してる」

「奇遇である。某はバチョウ。頂きを目指す者なりて」

 

 さァ、笑え。

 その感じが来なくても、笑え。

 ちゃんと笑って、ちゃんと食え。

 

 それが魔物の摂理なんだから。

 

「いざ尋常に──」

 

 

えはか彼

 

 

 海の他に、勿論陸地でも戦ってる。

 ただ陸地ァたまに人間がいるのが怖い所だ。アインハージャじゃねェが、自然発生っぽい魔法少女がいたりするのも厄介。

 こんだけ魔物の生き死にを語っといてなンだけど、俺ァ人間や魔法少女を殺すってなまだちょいと無理そォだ。そもそも魔物が魔法少女食うのって生まれ変わった時に今の能力を継承しやすくするため、らしいし。セイタスの記憶談。

 

 だから生まれ変わるつもりなンざこれっぽちも無い俺にとっては、マジに逃げるしかねェ障害なンだよな。発声すると気味悪がられるし。なンでか言葉通じねェし。

 

 ──なンだが。

 

「……いやァ、どォしたもんかねェ、これ」

 

 場は、死屍累々。

 夥しい量の血液──魔物と人間のものだ。

 

 俺がやったンじゃねェぞ。

 やったのァこいつ。

 

「子供……んで魔法少女か。ったく、見境無ェな、魔法少女の因子ってな」

 

 そう、今俺の足元で眠ってる5歳くらいの子供だ。

 陸地の魔物を食いにきたら、なんぞ暴風が巻き上がってたンで様子見に来たらコレだ。

 

 多分だけど、魔物達が人間の村を襲ったンだろう。見分ける術は無ェけど、魔法少女の因子持ってる村だったのかな。もしくは食料調達か。

 どっちにせよ──それで、虐殺が起きた。こんな森の中にある村だ、迎撃なンかの準備はちゃんとあったンだろう。強い戦士もいたのかもしれない。だけど、魔物達もちゃんと準備してきたんだろう。死体になっちゃいるが、明らかに強い……多分イオルーだろう種が一匹いる。

 自然の生存競争が起きて、人間側が押し負けて。

 

 ──その絶望の最中、この子は魔法少女に覚醒した。

 

 覚醒した魔法は多分風の類。遠くからでも見えるレベルの竜巻を巻き起こし、そンでもってその風は全部刃。周囲の木々や家々に斬痕があンのと、人間も魔物もこれでもかってくらい切り刻まれてンのがその証拠。

 まーまー厄介な魔法だ。防衛にァもってこいだが、仲間を巻き込む可能性がある以上制御はちゃんと学ばないといけねェ。

 

 ……どーやって?

 5歳の子供が、親もいねェ先達もいねェ状況で、まだまだ周りにァ魔物が沢山いて。

 

 最近さ、ちょいと調子に乗る事もあったし、思考が幼稚なこともあって、自分の事おじさんだって思わなくなってきてたンだよ。俺ァもう魔物だって、そう思うトコまで来てたンだよ。

 

 でもさァ。

 

「流石に見捨てられねェよなァ」

 

 惨殺されてた魔物の爪を拾い、齧る。

 口元が寂しくて適わねェ。魔煙草でもフリューリ草でもいいから落ちててくれよ。まァ舌ねェから味が分かるかどうかわかんねェんだけど。

 

 はァ。

 

「時間も無いってのに……どっか人間の村でも探す、いやでも魔法少女なンだよな。そこで魔法暴発させて村壊滅、とかなったらトラウマレベルじゃ済まねェぞ。じゃあここに捨て置くか? まァ魔物の餌だろうな。抵抗ァするだろうし、逃げるなりもできンのかもしれねェ。見たトコS級はありそうだ。飛行魔法も習えば使えンだろ。どこで習うンだっつー話な。でもまァ魔法少女なら蘇生槽……なンて作れるはずもねェし」

 

 さて、はて。

 困ったな。

 

 正直に言えば、見捨てるのが一番なンだ。

 今まで食ってきた魔物のため、なンて言うのァ烏滸がましいけど、世界がやべェんだから早いとこ強くなンなきゃなンなくて、そォやってきた魔物達を食らってきたンだから、俺にァ頂きを目指す義務があって。

 だから魔法少女なんぞに構ってる暇はない。

 

 ない、ンだが。

 

「ふゥ。ま、とりあえず食べるか」

 

 俺が殺したわけじゃねェから、少しだけ、思う所はあるけれど。

 惨殺された魔物を全部食べる。あ、人間は埋葬する。いらねェし。可哀相だし。

 

 そォいやこの世界の葬式事情って、火葬なンだよな。理由ァ魔物に掘り返されちまうから。魔法少女の因子ってな肉体が死んでも抜けねェのか、死体でもガツガツ食う魔物ってなも多い。だから火葬して、死体が掘り起こされねェようにする。

 けど今の俺ァ火、起こせねェからよ。別にジャカン食らったからって火を操れるよォになったわけじゃねェ。すまねェけど、世界言語使ってまで火つける程情は無ェ。

 だから、埋葬だ。

 もしかしたら掘り返されるかもしれねェけど……今度見に来てそォなってたら、もっかい謝るよ。

 

 食べる。

 つっても口でバクバクって感じじゃねェ。精神体だからな。セイタスやジャカンの時ァ口で咀嚼してたけど、そもそも歯も舌も口もまだ形になってないンだ。

 だから、触れた所から、全部自分に変換していく。俺が浸った場所、その全ての血肉が吸収されてくサマってな、傍から見たらどォなってンだろね。

 

「──ひ」

「ン?」

 

 背後で小さい悲鳴が聞こえた。

 起きたのか。

 

「あー。すまん、結局トラウマになっちまったな」

「あ、あ、あ」

「まァなンだ。俺ァ別にお前食ったりしねェからよ。安心して──」

 

 ぱたり。

 ……気絶した?

 

 んー。まァいいけど。そんなに怖かったかね、俺。

 怖いか。見た目幽霊な奴が魔物食べてンだもんだ。うわ怖それ。

 ま、もうちょい眠ってな。綺麗に片づけてやっからよ。

 

 

 

 

 食べ終わったし、埋葬も終わった。一応墓っぽいのを作ってみた。石削っただけだけど。

 家とかってな全部壊滅してるンで、とりあえず見つけた洞窟に子供を持っていく。魔法少女だからな。魔力があるから干渉できる。いんやさ、無くてもクリスでどォにかなりはすンだけど、危ないし。

 

 相変わらず念動力ってのにァ目覚めてねェ。

 わからん。遠隔魔法少女の感覚ってなをちゃんと聞いておくべきだった。けど背中メッシュも太腿忍者も別に何かを操ってるワケじゃねェよな。放射したり落としてるだけ。こォいうの得意そうなのって誰だ?

 L・アルカナが、ふわふわ鼠の奴で、あと学園の引きこもり2人も一応アレ遠隔で物操る系だったな。D級でロクに動かせないとか言ってたけど。

 

 あとは……アレ、あんまりいない? こう、外のモンを操ってどォにかする系。

 

 あ、いるじゃん。

 マッドチビ先生。まさにじゃん。代表格じゃん。

 

「……えーと、魔法少女だから冷えても問題ねェ、よな?」

 

 洞窟の中はちょみっとひんやりしてた。

 普通の人間だったらどォにかして火ィ起こして暖を取らねェと死んじまうンだろうけど、まァ魔法少女なら平気だ。温度に疎くなるからな。耐性ができるって言った方が良いか。

 他……は、いいか。

 水も食事も必要無い。蘇生槽こそ無いけど、魔法少女ってな魔力の保つ限りァほとほと死から離れた存在だ。魔物だって日々の食事は必要で、喉が渇けば脱水症状とかになるってのにな。オリジンを除く。

 

「起きるまで待つ……べきか。だが、いいのかね。俺ァ一刻も早く……」

 

 気絶したまんまの子供の顔を見る。

 ……。

 

 うゥん。

 

「あー、でも。これ、たとえ起きたとしても、俺見たらまた気絶するよな。あるいは眠ったふりして隙見て逃げる、とか」

 

 言葉に出す。

 出すと納得感が出てくる。

 そうそう。

 だからやっぱり離れた方が良いって。

 

 そォじゃなくても、俺ァ今は修行中で。

 魔法少女だからつって、生き返ることができねェからつって、守って貰える、なンてことは無くて。トラウマがあってもソイツが生きるか死ぬかってな自由で。そもそも魔法なんつー自衛の手段があって。

 

 こいつを守る必要なんざ無いンだ。

 実際、マッドチビ先生は8歳の時にそォなって、そっからずっと1人で生きてきたワケだし。

 

 ……。

 

「優柔不断、禁止。どの道必要ではあるンだ、その辺の魔物狩ってくるか」

 

 これも言葉にする。

 そもそもの目的がそうだ。陸地の魔物を食う。生きるために、強くなるために。

 

 ……それを利用するってな、ちょいと気が引けるけど。

 魔法少女なンていう、魔物にとっちゃ必要不可欠な"餌"がここにあるンだ。

 狙って魔物ァ寄ってくる。無暗に探して回るより、遭遇率ァ高くなるだろ。

 

「夜には戻る。それまでに逃げるかどォかは自由だ。……聞こえてるか知らねェし、言葉わかるのかも知らねェけど」

 

 気付いてるよ。

 起きてる事には。起きたのついさっきだけど。

 

「じゃあな」

 

 さて。

 命のやり取りに、戻ろうか。

 

 

えはか彼

 

 

「お前が梓・ライラックか!」

「あァそォだよ。なンだ、噂でも聞いてきたか?」

「その通りだ──強き者! 一手手合わせ願う!」

「手合わせどこじゃ済まねェよ。俺ァお前を殺して食うぜ。それが嫌なら逃げな」

「望む所だ!」

 

 陸地でも、魔物達の気質はあンまり変わってない。

 ちょいと違うのァ、見晴らしがあんまりよくないんで伏兵やら漁夫の利やらが多いってトコかな。海中は奇襲なンてできねェし。

 

 で、噂ね。

 まァセイタスみてェに会う奴会う奴に挑んで食らってきたからな。その話ァ広まってるだろ。

 けど、基本の活動地ってな海中だったから、陸上にまで話が及んでるたァ思わなかった。

 

「名は?」

「ティオイジ!」

「あァよ。んじゃ──死んでくれ」

 

 正直な話をすれば、俺ァもう結構なトコまで来てる。

 クリスを使った剣術にも慣れた。お嬢の剣の流れを掠めた我流もいいトコだけど、精神体ってな身体を利用しての奇抜な攻撃法もかなり確立してる。

 魔力も結構増えたし、それ以外の手段での攻撃方法も色々ある。

 

 だからか──やっぱり、どんどんあのクるものが無くなって行っているように思う。

 ジャカンの時に感じた、自分を殺し得るモノ。魔法少女の頃は常に感じてた、死と隣り合わせにある感覚。

 

「戦闘中に考え事か!? 余程余裕と見た!」

「──すまねェ。余計なモン挟んじまったな。ちゃんと殺して、ちゃんと食うよ」

 

 クリスで斬りつける。

 ティオイジの見た目ァハリネズミ……っぽい牛、っぽい馬? 犬? わからん。でけェトゲトゲの獣。

 それが繰り出す体当たりァ凶器だ。木々も岩も一瞬でハチの巣。人体なんざ簡単に貫くだろう。

 

 そこに、傷をつける。

 一撃で仕留められるよォな力はない。そォいう剣でもないしな。

 ただ──もう治せねェ、ンでもって出血量の多くなる傷が、どんどんついていく。苦理主。っとに残酷な武器だよ。

 

「く──妙な、武器を! ならば!」

「ん……──ッ!?」

 

 緊急回避──地面に潜る。

 

 それで、けれど頭をちょいと掠めた。そんくらい深くまで突き刺さったって事だ。

 

「どこへ──」

「ここだ、よ!」

 

 ティオイジの真下から、クリスで斬りつける。

 亜空間ポケットの応用だ。潜る時にしまって、出る時に出す。クリスは地面透けねェからな。

 

 それより、だ。

 

「う……こちらの弱点が、腹であると気付いていたか……!」

「いんやさ、全然気づかなかった。それよか、お前魔力使えたンだな。危なかったよ、さっきの針。ちょいと気が抜けてた」

「──なるほど、精神体の対処法とは、それか!」

 

 あァ。

 知らなかったのか。

 じゃ、不味い事言ったな。

 

 ティオイジの口元、歯に魔力が集う。

 なるほど、それで噛みつかれたらやべェ。やべェけど──そンな愚直な噛みつきにあたるかよ。

 

「──ッ!」

「へェ、退けるのか、今の」

 

 魔力の籠った針飛ばしてきたり、噛みつく寸前で危険察して下がったり。

 こいつは将来化けるだろォな。このまま強くなりゃ、だ。

 

「ティオイジ」

「何だ」

「今からお前を殺す。けどお前ァ多分、もっともっと強くなれる。こっから逃げて、俺から逃げて、成長して経験積んで。そうすりゃもっと──」

「慈悲など要らぬ!! ──それが我らの摂理と知れ!」

 

 やっぱり、か。

 ま、知ってて言ったよ。あるいは一縷の望みを込めて、かもしれねェ。

 死にたがりたァ違う。違うンだろうけど、段々と──そう思うようになっちまってきてる。

 

 若死にする奴が集まる運命、とか言ったっけ。

 っとに。

 

糸伊豆阿派青磁負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる一節の祈り).」

 

 調子に乗るな。上から目線で物事を語るな。

 ──憐れんでンじゃねェよ、俺。みんな必死で生きて、抗って、戦ってンだろ。

 

 先があるのに、なンて。

 馬鹿な事を考えるな。

 

「勝負!」

藍出内沙米紫遠(私は救いを否定する).」

 

 死の魔力を纏うクリスで、腹に付けた傷から全身を斬りぬく。

 慈悲は無い。無くていい。それは無用だと、俺ももうわかってるはずなのに。

 ダメだね、俺ァやっぱり。

 

 死が目的になってンじゃねェかって、ンなこたねェって。

 誤認すンな。誤解すンな。

 こいつらは、本気なンだよ。

 

 救いなんざ求めてねェって。

 

「──まだだ!!」

「!?」

 

 針。

 死に体だろう。もう死ぬ直前だろう。

 でも、でも、でもと。

 ──最後まで、諦めない。

 

「ハ」

 

 魔力の込められた針。今しがた生えてきた針だ。

 それを飛ばす。飛ばしてくる。俺の頭に向けて、真っ直ぐ、ストレートに。

 

 思わず笑みが零れた。

 あァさ。

 

「その足掻きを──俺は、悪いたァ言わねェよ」

 

 避けて、言う。

 悔しさの滲む顔のまま死んでいくティオイジに。

 あるいはまだ先のあっただろう若い魔物に。

 

「礼を言う。また、俺が馬鹿だった」

 

 本当に。

 魔物になってから、本当に。

 

 恵まれてるよ。なんか。ずっと誰かがいるんだ。ずっと誰かが、気付かせてくれるンだ。

 調子に乗ってるぞ、って。お前ァ──まだまだなんだぞ、って。

 

「いただきます」

 

 祈りを捧げる。ティオイジを食べる。世界言語の使用により傷付いた精神を癒していく。

 その身を、糧にする。

 

 ちゃんと口で──。

 

 

 

 

 

「帰ったぞ……と。あァ、逃げたか」

 

 洞窟に戻れば、そこはもぬけの殻。

 ま、それでいい。

 俺も根無し草を再開できるってモンだ。

 

「──魔物」

「ン?」

 

 あれ。

 いるじゃん。というか、なンだ。帰ってきた? なンで? 逃げりゃいいのに。

 

「魔物」

「おゥ。魔物だな」

「……喋れないの?」

「いんやさ喋ってるよガンガンに」

「……私を、食べない、の?」

「食べてもうまみがねェからなァ」

 

 亜空間ポケットから魔物の爪を取り出す。

 んで、しゃぶる。いんやさ、最近我慢できなくなってストックするよォになってンだよな。その場で食うべきなのァわかってンだけど、ちょっと魔煙草っぽい大きさのがあるとつい。

 

「……」

「なンだ」

「……食べないなら、一緒にいていい?」

「あー。まァ、いいよ。ずっとァ無理だが」

 

 これ会話になってンのか?

 多分喋れてないんだろうなァ俺が、ってな自覚はあンだけど、少女も少女側でよくわからん納得を見せてる。

 魔物だってわかってて、近寄ってきて。

 ちょこんと俺の隣に座って──コクコクと、眠り始めた。

 

 ……ん-?

 懐かれた……? なンで?

 

 まァ、いいか。

 俺がいねェ間にどっかいってて、ちゃんとここに戻って来れる、ってこた、死なねェくらいの強さはあるって事だ。覚醒したばっかだろォに、戦いを教えてくれる奴もいねェだろうに。流石はS級ってトコかねェ。

 

 明日明後日くらいは一緒にいて──良い感じにフェードアウトしよう。

 何、精神体だ。いつ消えてもおかしかねェさ。それで悲しんでくれるよォなら、ありがとさん、とでも言って、泣かせておこう。強けりゃ立ち直れるし乗り越えていけるだろ。

 

「私は救いを否定する、か」

 

 夜に捧げる祈りの物語。その一節。

 慈悲を否定し、死を覚悟する魔物達。

 

 まるで──とかな。

 

「……何やってンだろうね、俺ァ」

 

 時間は有限なのにさ。

 こんな場所で、こんな感傷に浸るなンて。

 

 ……魔物になりきれてねェのかね。

 あァどォかな。セイタスは結構感傷に浸る方だったから、ンなこた関係ないか。

 

「長ェなァ、夜ってな」

 

 精神体になって、それをほとほと痛感する。

 精神が傷付いての気絶以外、自分から眠る、なンてこたできねェからさ。

 何もしてねェ、何もしねェ夜ってな──長い。

 

 神さん、今頃どーしてっかね。

 お嬢や冷静メイド達は、無事に冥界から出られたのかね。シエナは、安藤さんは、EDENは。

 

 ──やっぱり、ダメだ。

 静かだと、余計な事を考えすぎる。

 

 俺の好きな夜に戻ってくれ。 

 余計な事全部解決して、悩みの一切無い、俺の大好きな夜に。

 

「それは夜に捧げる一節の祈り」

 

 世界言語を解さない言葉で。

 ずっとずっと、呟く。

 

「私は終わりを肯定する」

 

 彼女に捧げる、祈りの物語を──。

 

 まるで、子守唄のように。

 

 

えはか彼

 

 

「起きたか」

「……魔物さん。守っていてくれたの?」

「ン? まァそォいう見方もできるか。……いや、そォだな。多分お前さんが食われねェよォに」

「ありがとう。……綺麗な髪と、綺麗な目なのね、魔物さん」

「あァやっぱり言葉は通じてねェのね」

 

 ガン無視されたワケじゃねェ。

 多分発声は聞こえてるっぽい素振りみせンだけど、何言ってるかわかってないって感じだ。確かお嬢達も世界言語はうーうー唸ってるよォに聞こえてるンだったか。

 俺がアンゲルの言葉聞くとノイズ走るのと同じ感じかね。まだまだ謎の多いこって。

 

「魔物さん」

「ン?」

「こっち、来てくれる?」

「……そのまま魔法でドン、じゃねェだろうな」

 

 一応警戒して、近付く。

 こっちっつったってそォ離れてねェ。……大丈夫か? 魔力籠ったナイフとか持ってねェか?

 

「はい、これ」

「……」

 

 ……。

 うん?

 

「花冠……?」

「これはね、ヘイローっていうの」

「へェ。あの村特有の奴かね」

「これ、あげる」

 

 おゥ。

 ……まァ貰うモンは貰うけどよ。

 

 んーと、どうすっかな。花冠だともう死んでる植物なンで、持ち上げるのが難しい。クリス……だと斬っちまいかねんし。

 あー。亜空間ポケットの魔物の爪をこう、良い感じに手先に出現させて……よし。掴めた。

 でも被れないンで、亜空間ポケット行きだな。まァありがとさん。大切にするよ。

 

「もしかして、昨日夕方までいなかったのァこれ作りに行ってたからか?」

「昨日ね、お花畑を見つけて、これを作ってたの」

「……危ねェことしやがる。見晴らしのいい場所に行くなよ、狙われるだろ」

 

 別に見晴らしの良くない場所でも狙われるだろォけど。

 つか……何?

 おじさんの涙腺誘いに来てる? 情を持たせようとしてる? そういう作戦? 効くよ? めっちゃ効くよ?

 

 やーっべー。

 やァーっべェー。

 早いとこ誰かに預けねェと、俺自由行動できなくなるなこれ。

 

「魔物さん。言葉、教えてあげる」

「あァそりゃ結構。喋れるンで」

「あー、って。言ってみて! あー」

「そいつァ俺の口癖だよ。あァさあァよあァね」

「そんなザラザラした声じゃなくて!」

 

 やっぱりそォ聞こえてンのね。

 しっかし、昨日とは打って変わって元気だなァオイ。もっと不思議ちゃんなのかと思ったぜ。

 

「あー。ほら、言ってみて!」

「……俺がマジに魔物だったら、その言ってみて自体伝わらねェと思うンだけど……ま、その辺の理解ァ5歳児には無理か」

「無理?」

 

 ふむ。

 あァ、じゃあ。

 

 頷く。輪郭ぼんやりしてンで、ちょいと大仰に。

 

「! もしかして、言葉はわかるの?」

 

 頷く。

 

「喋れないだけ?」

 

 頷く。

 

 うむ。

 やはりボディランゲージとは偉大。人間ジェスチャーでなンとかなる。親指以外。

 

 ……ダメダメ、こんなことしてたら余計懐かれちまうよ。

 ん-、でも、この辺の人間の村ってーと……無いよなァ。

 あ、でもマッドチビ先生が言ってたっけ。EDEN以外にも魔法少女の組合がある、ってな話。それ見つけられたらワンチャン? まァEDENに行くのもいいんだけど、場所わかんねェし。

 いや。わかるか。多分だけど。

 多分、そのジョームンガンダーとかいうのがいる北方山脈の裏っかわ。北方山脈自体がクソでけェ山脈なンで裏っかわってな表現ァちとおかしィんだけど、まァ多分その辺に突き刺さってる。

 

 行くか? この子連れて?

 ……無理だろ。スーグたちが、あと寂しんぼまでもが止めに止めたジョームンガンダー相手に子供守って戦える自信ァ無いや。

 やっぱりどっか、魔法少女組合探すのがベストだな。そこに預けて、多分魔物に連れ去られた感じ出しておけば勝手に情湧いて助けてくれるだろォし。そこでよォやくフェードアウトだ。そっから修行再開。

 

 完璧なプランニングでは?

 

「私はね、アオン・ガフスっていうの。魔物さんは?」

「梓・ライラックだ、つってもわからねェンだから聞くなって」

「無いの? じゃあね、私がつけてあげる!」

「そォなると思ったよ」

 

 名前、ね。

 ……そォいやアイツ、アズサもミズメってな名前名乗ってたが、ありゃ自分で考えたのかね。

 ミズメ。梓に対する名前としちゃ出来過ぎてるが、誰が考えたンだか。

 

「クロムクラハ! 貴女の名前はクロムクラハ。どう、気に入った?」

「どんな意味があンのか知らねェけど、ポチとかタマじゃねェ事を祈るよ」

 

 ペット扱いは勘弁、ってな。

 

「これからよろしくね、クロムクラハ!」

「ん」

「言葉も頑張って発音できるようになろうね!」

「それァ多分無理」

 

 こうして。

 まァた、なンだ。変な同行人ができました、と。

 

えはか彼

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