遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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84.畏怖訪藤有似井戸伊豆紺虎韻泥系手取.

 やっぱり、アオンは餌になるよォで、今までの何十倍もの魔物と遭遇するよォになった。純粋な魔物じゃないからか、匂いだのなンだのァわからねェんだけど、多分アオンからは芳醇な香りでも出てるンだろうな。

 アオン・ガフス。

 魔法名は【断巻】。本人がそォ言ってたからな。魔法名ってなパっと頭に思い浮かぶモンだから、そこに間違いァ無いだろう。

 問題はどォ制御させるか、ってとこ……だったンだけど、意外や意外、割合じゃあるけど上手いこと制御できてる。なんつーのか、センスがいいって感じだ。相も変わらずボディランゲージ以外の意思疎通ァできねェけど、これはもう「俺から教えてやれることはない」って奴さな。

 ちなみに文字もダメだった。大陸共通語で通じねェならお手上げだよ。当たり前だけど式鬼の言葉もダメ。

 

 魔物を狩って喰らって、強くなって。

 アオンに群がる奴を食って。アオンに集まる奴を殺して。

 

 まるで俺が守護霊かなんかみてェになってきた──ンな最中のこと。

 

「──【円閃】!」

「おっと」

 

 死の気配でも命の気配でもなく、単純にそォいうもんを察して避けられるよォになったのァ成長だ。

 完全な死角だったにも関わらず、その飛んできた……あー、刃の輪っか? みてェなのを避けて、振り返る。

 

 そこに──いた。

 

「クロムクラハ! 大丈夫!?」

「あァよ。だが、別れってなお早いモンなのが普通らしい。お迎えだぜ、アオン」

 

 煌びやかな衣装に身を包む、4人の少女。

 魔法少女がそこに、いた。

 

 

えはか彼

 

 

 さて、探す手間が省けたどころの騒ぎじゃねェ。

 飛んで火にいる夏の虫、でもねェな。まァなンだ、ありがとよ、って感じ。

 

「──精神体ッ! それも、これは……」

「相当に高位。人命確保第一で、討伐及び深追いは控えるべき」

「全員構え!」

 

 EDENの魔法少女、じゃァない。

 見覚えの無い奴らだ。まァEDENの魔法少女全員知ってるか、っつったらンなことないんだけど、1人も見た事ねェってこたないだろう。

 それが4人。退く構えができてる辺り、拠点も持ってる。帰ったら仲間もいると見た。

 

 つまり、魔法少女の組合って奴だ。

 EDENに属さず、あの国に何の因縁も持ってねェ奴ら。戦う事を拒否したか、あるいは他にやることがあったか。

 

 なんにせよ、お迎え時ってなこれこのこと。

 セイタスとよりも遥かに短ェ旅路だったが、ま、これも運さな。

 

 アオンは若死にする運命になかったって、そォいうこったろ。

 

「【水縄】」

「【壁塞】」

「おォ、何気に流水系の魔法ってな初めて見るな。マッドチビ先生のが流水扱いならまァ初じゃねェんだけど」

「縛り上げて!」

「圧しだす!」

 

 ──ンな呑気な事言ってたら、割とヤバめの魔力量が隆起したのを感じた。

 水の縄、上空から来る不可視の壁ァそこまでじゃァない。さっきの【円閃】だったか。アレもそこまで気にするモンじゃない。

 じゃあ多分、残りの1人だ。

 

 ソイツがやべェ。

 

「──一撃で刈り取る! 【斬滓】!」

「剣士──そこか!」

「!? 防がれた──それに、今のは!」

 

 亜空間ポケットより引き摺り出したクリスでソレを受け止める。

 何やら光の粒が溢れ出る剣。魔力で編まれてンのか、実体は見えない。ヒュゥ、精神体を斬るためにある魔法じゃねェか、そんなん。

 

 さて。

 まァ傷つけるつもりァ無い。こいつら多分人間側……EDENに属してないだけの普通の魔法少女だろうし。俺別に魔法少女の因子いらないし。

 だからとっととアオン押し付けてとんずらこくのが一番だ。

 短い間だったけど、思ったより楽しかったよ。なんか最近じゃ一番平和な時間を過ごした気がする。

 

「んじゃ、アオン。──ま、またどっかで会えたら、」

「──やめて! クロムクラハをいじめないで!」

 

 手を広げ──俺の前に立つアオン。

 ……危惧してた事ではあった。けど一緒にいた時間ァかなり短いから、そんなでもねェって思ってたンだけど──5歳児を甘く見過ぎたか?

 ンな年頃で孤独になった所の庇護者だもンなァ。そりゃ懐くか。

 

「何を……」

「クロムクラハは良い魔物さんなの!」

「魔物に良いも悪いもない」

「貴女にはまだわからないことかもしれないけれど、魔物は魔法少女や人間を食べるのよ! 危ないの! だから早くこっちに来て!」

「嫌!」

 

 亜空間ポケットから魔物の爪を取り出す。

 ふゥ。

 

 俺ァこれ、フェードアウトでいいかね。適当に地面ン中潜って、それが正解かね。

 

「シャオメイ、【水縄】で」

「うん。──拘束する!」

 

 水の縄がアオンに迫る。それァいとも簡単にアオンに巻き付き、絡みつき、その動きを封じた。

 まァ優しく縛ってくれるだろ。水の縄ってながどンな強度を持つのか知らねェが。

 

「いや──冷たい、気持ち悪い!」

「……傷付いた」

「シャオメイ、傷付いてないで早く引っ張って! 引き剥がさないと!」

 

 へェ、冷てェのか。

 そォいや魔法で作りだした水って飲めンのかな。アイツ1人いれば喉が渇く事なくて便利そうだ。まァ魔法少女は喉渇かねェんだけど。

 

「クロムクラハ、助けて!」

「んー。まァ、助けてくれねェ俺に絶望して、俺を嫌っておきな。魔物に情湧かしたって、魔法少女にァ良い事ねェって」

 

 俺みたいに殺せなくなっちまうからさ。

 なンで──手を振る。ばいばい、みてェな。

 

「壁張って、リュウイン!」

「もう、発動済み!」

 

 おォ、不可視の壁が俺とアオンの間に入る。

 えーと、【壁塞】つったっけ? 防御系だろォけど、色々バリエーションあるンだろうな。こう、角をぶつけてえぐるとか。単純に圧し潰すとか。下から突き上げて跳ね飛ばすとかもできそうだ。

 

「ッ、この!」

「あァそりゃ防ぐけどよ。ン? もしかして手ェ振ったのが攻撃に見えたのか?」

「何をするつもりかは知らないけど、こんな小さな子を──」

「まァそれァ俺も悪いと思ってるよ。こんなちっくせェ子を危険地帯で連れまわし過ぎた。餌に使ってさ、魔物をおびき寄せたってな変わらねェ。それァ謝るよ。言葉通じてねェだろォけど」

「【斬滓】!」

「おわっと!」

 

 いまいちどォいう魔法か掴めねェが、アレがやべェのだけはわかる。

 剣ァ出したまんまにできて、至近距離でも魔法の発動は可能。近接だな。ンで、多分だけど魔法名的にあのチラチラしてる光の粒がやべェんじゃねェかなァと推測。触れたら斬れるとかありそォだ。

 ずっけェなァ。近接のクセにそォいう魔力攻撃までしてきやがるのァよ。まァ尖り前髪も似たようなモンだが。

 

「さっきの亜空間といい、この剣技といい──コイツ、ヤバイ。一旦完全に引いて態勢を立て直すべきね。みんな!」

「女の子確保完了!」

「リュウイン、壁は維持したまま、逃げるわよ!」

「了解!」

 

 魔法少女達が退いていく。

 あー。

 なンだ、俺の討伐隊でも組むつもりか。

 怖い怖い。ンじゃとっとととんずらこかせてもらいますかね。

 

「クロムクラハ!!」

「じゃァなー──ア!?」

 

 思わず声が出た。大きな声が出た。

 だって──オイお前さん、その手の中にあるのァ!

 

「ッ、追ってきた!?」

「不味い、私が止めるから、みんな逃げて──」

「馬鹿野郎全員逃げろ! ンなこた伝わんねェだろうから、ぶっ飛ばすけど! 柄の打撃だ、ちったァ我慢してくれよ!」

「速ッ!?」

 

 アオンを抱えてる【水縄】の魔法少女をかっ飛ばす。その横にいた【壁塞】の魔法少女は蹴り飛ばす。飛行魔法ってな浮遊してるってワケじゃねェ、背中から推進力出して飛んでるンで、それを押すよォに蹴っ飛ばしてやれば遠くまで飛ぶ。

 俺を止める、なンて言ってた【斬滓】の魔法少女はその魔法少女衣装掴んでぶん投げる。背負い投げなンて綺麗なモンじゃねェ、単なる投げだ。柔道なんざとォの昔にガッコでやったくらいだからな。

 

 最後に【円閃】の魔法少女は──クソ、馬鹿が、ちょいと遠いとこにいやがって! そこじゃ届かねェだろォが! しかもその手──まだ魔法使う気かよ、死にてェのか!?

 

来夜目琉珪素(省略、)井伊明日尾伏怒涛品(祈りの物語)!」

「【断巻】!」

褪戦死遠(【静弱】)!」

 

 張りだされる半透明の壁。厚みの無いソレァ確実に輪状の刃を止めて、更にすべてを切り裂く風とも少女を別つ。

 その隙に、今尚水の縄で縛られたまんまのアオンを連れて──逃げる!

 

 省略した世界言語なんざ初めて使ったが、やべェな。一撃でかなりキてる。食べて癒してもっと強くならねェと。

 

 それより、だ。

 

「馬鹿が。あのままだったら、アイツら全員殺してたぞ!? 蘇生槽があるかもわかんねェ奴らを! あったとしても殺しちゃダメだし、もしやっちまってたらお前、封印措置みてェなことになってたかもしれねェんだ。ちったァ考えて動け馬鹿!」

「クロムクラハ、助けてくれたんだね……」

「俺が助けたのァお前じゃなくてあっちの魔法少女達だよ」

 

 ……とりあえず逃げたけど。

 やべェな。やべェ事がいまいっぱい積み重なってる。

 

 一番良い展開ァ、あの魔法が俺の仕業で、魔法少女1チームを無力化、5歳の少女を奪った卑劣にして凶悪なる化け物がいる──みてェなコトになってるケース。それならこっちもやりようがある。

 次点で、魔法ァアオンのモンだけど、それァ誰も魔法を教えてくれる奴がいなかったから仕方のない暴発だったってことで、もっかい助けに来てくれるケース。

 

 最悪なのァ──俺とアオンは完全に結託してて、アオンは完全に魔法少女の敵、魔物側の存在だ、って認知されてる場合だ。むしろアオンが俺を操ってる、とかでもやべェな。

 どちらにせよなんにせよ、アオンの居場所が無くなっちまう。俺とずっと一緒にいるってな無理な話だ。俺ァやんなきゃいけねェことがあって、そのタイムリミットはもうすぐ。正確な時間はわからねェが、空気中の魔力濃度がどんどん下がってるのが肌でわかる。肌無いけど。

 

 時間の問題ってな、まさにこれの事だ。

 だから一刻も早くその魔王とやらになんねェといけねェ。

 

 魔法少女の事情なんぞに関わってらんねェんだ。

 

「ねぇ、クロムクラハ。もっと遠いところへ行こうよ。クロムクラハをいじめてくる人のいない所へ」

「そのつもりだがね。お前さんァついてこれねェのさ。その場所ってな冥界でよ」

「あの人達……なんでクロムクラハをいじめるのかな」

「アオン、お前さんは5歳児にしちゃ凄まじいってレベルで聡い子だと思ってたンだが、ンなこともわからねェとは驚いた」

「クロムクラハは良い魔物さんなのに……」

「そもそもの話をすンなら魔物じゃァ無ェんだけどな」

 

 会話にゃなってない。

 俺の唸り声を、アオン側で勝手に解釈してるだけだ。それで言葉が通じてると思っちまえてる辺りァ5歳児か。メルヘンだねェ頭の中が。

 

 ……とにかく、確かにもうここにはいられねェってな事実か。

 他の魔法少女の組合探してそこに引き取ってもらわねェと。できりゃァ【断巻】を抑えられるよォな魔法持ってる奴で頼む。

 

「クロムクラハ……なんだか、疲れちゃったみたい」

「そりゃ魔力の使い過ぎだよ。あの規模の魔法だァ疲れるンだよ。初日もそォだっただろ?」

「……おやすみ、クロムクラハ」

「あァよおやすみ」

 

 そうして、俺の腕のなかでコクコクと眠っちまったアオン。

 この水の縄も解かないとだが、それよかどっか休めるとこ探すのが正解だな。この辺りで休めるとこっつーとスーグとシュジの島くらいしか知らねェんだけど、流石にあっこへアオン連れてくのァなァ。

 かといって洞窟に出戻りもうーんだし。

 

 あァ。

 なーんで俺ァ子守なんぞしてンだ全く。

 適当にあの魔法少女の帰り先尾行けてって置いていけばいいんじゃねェの?

 

 ……それで出来上がるのァ血だまりの村ってか。

 洒落になンねェなァ。

 

「……だいすきだよ、クロムクラハ……」

 

 はァ。

 嫌な寝言呟きやがる。

 

 捨てるに捨てれねェじゃねェかよ。

 

 どーっすっかなァ。

 

 

えはか彼

 

 

「──後ろにいる太陽の使徒を明け渡せ。さすればお前の命は見逃してやろうぞ」

「あァさ、断っとくよ。明け渡さねェし、見逃さなくていい」

「ほう? ──では、この数と、たった1人で戦うと──そう言うておるのか?」

「そォじゃなかったらなンだって話だよなァ」

 

 当然だけど、魔力切れで眠ってる魔法少女なんざ魔物にとっちゃ据え膳みてェなモンだ。

 戦場で魔力切れ起こす事自体が禁物なのァそういうことなンだけど、ンなこた知らねェアオンに何期待しても無駄だ。

 で、まァ別に俺ァ守護霊ってワケじゃねェ。

 もしここでアオンが魔物に食われちまってもそりゃ摂理だ。俺が嫌いな、この悲しい世界の自然。

 

 が。

 

「ちょいと、腹が減っててな。いつもやんねェことやったせいでボロボロなンだ。──糧になってもらうぜ」

「そうか。なれば、太陽の使徒諸共我らが食い散らかしてやろう!」

 

 守る守らないァ別にして、魔物ァ食わなきゃならンのさ。

 だから──その命、いただくよ。

 

「俺ァ梓・ライラック。アンタらは?」

「我はメリザ。そして、これらに名はない。我の力よ」

「あァそうかい。そりゃ、食べ応えがありそォだ」

「抜かせ!」

 

 ハチだ。ハチの魔物。

 それもコイツは多分──オリジンで。いつか大きな丘で見た奴らとは一線を画す。その一匹一匹がA級ァあるだろう魔物。そしてそれを従える女王蜂。

 俺ァ1人。背後にァ眠る魔法少女が1人。

 

 はン。

 

 いいね、そォでなけりゃいけねェ。

 俺ァ危機にいねェと──馬鹿みてェ笑うってな、難しいからよ。

 

「ハハ──こんだけ馳走があンだ、もうちっと無理したっていいだろ!」

「全軍、貫け!!」

糸伊豆阿止理負不伏零矢堕千経度戸地内途(それは夜に捧げる祈りの物語)!」

 

 クリスを抜き出し、大仰に振りかぶる。

 浸すのァ死の魔力。【即死】や【死漸】よりもうっすいその死を、ふんだんにクリスに蓄え──振る!

 

褪戦死遠,藍出内沙米紫遠(死ね、痛み無く──【即死】)!」

 

 大きな丘でやった、大規模殲滅──その空中バージョンさ。

 カシヨの村がヨウコで、重力に振り回されねェ水のイメージァついてる。だから、大気に浸す、なンてありえねェイメージもちゃんとできる。

 

 精神が悲鳴を上げる。

 同時に──黄色と赤の軍勢が、バラバラと落ちて行く。取るに足らないはずだった希釈された死の魔力。それが突然、暴力的なまでの死に置き換わったンだ。

 世界言語による魔法の使用。これも結構慣れてきた。

 

「な──」

「言葉は、要らねェよな」

「──無論」

 

 殺す。

 ……相変わらずだなァ、ホント。

 

 さて。

 何気、ハチを食べるってな初めてだな。"前"、大学生だった頃になンか虫食できるカプセルトイでイナゴだのカブトムシだのァ食った事あるが。

 そもそも虫の魔物って少ないんだよな、何故か。大きな丘にァあンなにいたのに、この辺の陸地でァ今のメリザが初邂逅だ。なにかね、生存競争で負けちまうのかね。

 

 にしても。

 

「……できりゃァオリジンは仲間にしてェんだけどな」

 

 ヒトガタを取ってる女王蜂と、後ろに転がってる蜂。

 全部を食べて行く。あァ、癒される。罅の入った精神に潤いが戻る。んでもって満たされる感覚があって──また一段、上に上がったよォな感覚に見舞われる。

 相変わらず味ァ無いんだけど。

 

「──ッ!」

「まァ食事時ァ一番の狙い目だよな。わかるわかる」

 

 飛んできた針を避ける。

 ティオイジとの戦いを経ていて良かった。こっちァ魔法だけど、掴んだり弾いたりせずに避けた方がいいってな学びだ。

 

 しかし、魔法名を言わないタイプの魔法少女か。

 厄介だな。

 

「アオンは……あァ、もう連れ去ったのね。いんやさ、それでいいならいいんだがよ」

「第二陣!」

 

 掛け声と共に、でっけェ岩が飛んでくる。

 ……魔力の籠ってねェ岩? 精神体にンなもん効くと思ってンのか?

 

「【第三陣、やって!」

「【水縄】」

「【氷張】!!」

「【泥縛】!」

 

 あー。

 ははァ。なるほどね。

 

 まず、無音で魔法の針飛ばせる奴が俺の食事中を狙って攻撃する。それで仕留められりゃ御の字。けど無理なのァわかってるンで、それは避けられる前提。役割ァ目印。

 そこへ向かって投げられるのァ魔力の籠ってない大岩。それは精神体の身体をすり抜けて、そこにドスンと鎮座する。これが型。

 ンで、その岩に向かって水と氷と泥を張り付けりゃ、簡易封印の出来上がり、と。いーね、良い連携だ。

 精神体ァ魔力籠ってるモンァすり抜けられねェからな。そんでもって精神体の能力が風を起こす形だと認識してンなら、石の中に閉じ込めンのァもう大正解。そォじゃなくても亜空間ポケットやら謎の剣やらを出させないって点で完璧だ。

 

 俺がそれを察して地面に潜ったりしてなけりゃ、だけど。

 

「やった!?」

「多分……」

「どうする? このまま潰す?」

「ダメ。外枠が壊れたら出られちゃう。これはこのままにすべき」

「そうね。今の内に離れましょう。この子の安全が最優先だわ」

 

 いんやさ。

 案外早かったな、立て直すの。全速力で来たのかな。

 

 ……ンー。まさに絶好の機会、でァあるンだけど。

 これさ、アオンが目覚めて、俺を探していねェってわかって、「封印した」だのなンだの言われた瞬間──また魔法使わねェかなァ。大丈夫かなァ。

 

 過保護か。流石にそりゃ。

 そォなったらもう、アイツの責任だ。別に俺に責ァ無い。んじゃとっとと逃げますかね。

 

 ってなワケで。

 セイタスに続き、俺の旅の奇妙な同行人ァ、こォいう別れを遂げた感じである。

 

 

えは

 

 

「やりましたね! ──これでようやく、私達も蘇生槽が作れます!」

「ええ。……良かったわ、安全に確保できて」

「欠損があったらまた見つけ直し……命は最優先」

 

 ──ア?

 

 

えはか彼

 

 

 地面の中を進みながら、魔法少女達を尾行する。

 ちょいと──どころじゃねェ、不穏な会話。

 人命最優先ってな、正義から来るモンじゃねェ、のか?

 

「それにしても、あの魔物……クロムクラハ、といったかしら。少し不気味だったわね」

「顔周りは人間にそっくりだった。それに、剣技も」

「亜空間を操っていた事も気になる。未確認のオリジン種……しかも、直前に他のオリジン種と戦い、一瞬でそれを殲滅していた。正直、あんな封印では縛り切れない」

「大丈夫です。そのための蘇生槽ですから! あれさえ作る事ができたら、何度だって挑めます!」

 

 蘇生槽。

 その製法ってな、なンでも知ってそォな冷静メイドさえ知らない代物。

 EDEN上官……つまりニヤニヤ丸眼鏡や、ほんとァいたはずの他の高官、あとはマッドチビ先生とマッドチビくらいか、知ってンのァ。あァ後創設者たち。

 とかく、作り方ってのァ秘匿に秘匿を重ねられてるってなわかる。

 ただ、アインハージャ達や着物狐、あみあみ忍者みてェに、自然環境が偶然そォなって蘇生槽みてェになった、なンて事例もあるくらいだから、知識が必要なだけで高い技術を求められるってワケじゃねェんじゃねェかって思ってる。

 

 ……ただ、着物狐もあみあみ忍者もアインハージャ達も、全員寂しんぼ、あるいはマッドチビと接触してる可能性があるってのァミソだよな。キモかもしれんが。

 あいつらが故意にそォいう環境作り上げてなんらかの実験をしてたって可能性ァある。マッドチビ……シエナはアインハージャの歴史と同じくらいの時間を生きてるみてェだし。

 

「シャオメイ、ちゃんと魔力は奪い続けておいてね」

「わかってる」

 

 ……あァ、そォいう魔法か。

 あの規模で【断巻】を使ったから、ってだけじゃねェのな。あの水の縄が身体に巻き付いてるから、そっから魔力吸いだされてる、と。

 オイオイこえー魔法使うな。魔法少女の魔力吸いだす魔法なンてあンのかよ。

 

 ──精神体に効果抜群じゃね、それ。

 

「リンリン、周囲の警戒は怠らないでね」

 

 そンでもって魔法少女の層もそれなりに厚い、と。

 EDENが厚すぎるだけで、この組合も結構な規模っぽいな。

 

 しかし。

 

「……」

「浮かない顔ね、ミィワン」

「ご、ごめんなさい」

「怒っているわけではないわ。でも、割り切ってほしいとは思う。これは私達にとって大切なことだから」

「……はい」

「わかるわよ。その気持ちは。()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()──そうでしょう?」

「……はい」

 

 やっぱりそォいう魂胆か。

 あァー。どォすっかなァこれ。いんやさ、何も魔法少女が良い奴ばっかだ、なンて偏見ァもってねェのよ。そりゃ十人十色いるわな。EDENが公明正大だとも思ってねェのよ。隠し事もいっぱいあったンだろな。

 けどさァ。

 そこまでだったたァ思ってなかったよ。

 

 蘇生槽の材料。

 

「──それとも、貴女が"成る"?」

「う……」

「ふふっ、ごめんなさい。嘘よ。冗談。……この子は可哀想だとは思うけれど、仕方のない犠牲。そう考えないと、この先やっていけないわ」

「……はい」

 

 魔法少女、なのか。

 あァ。

 くそ。

 

 じゃァよ、EDENにズラりと並んでる蘇生槽ってなよ。

 その数だけ、犠牲になった奴がいンのか。

 その数だけ──材料にされた奴が、いンのか。オイ。

 

「そろそろ限界かね──俺が」

「ッ、魔物の唸り声!?」

「みんな、気を付けて!」

 

 あァさ喋っちまった。

 まァいいや。出て行こう。ンで、ちょいと大立ち回りでもしようか。性懲りもなく無策で、俺の目的にァ何も関与しねェ、魔法少女同士の諍いなンてモンでァあるけどよ。

 

 流石に無理さ。ちっとでも旅した同行人を潰されるってな──おじさんァ、ちゃァんと怒るぜ。

 

「──下!!」

「下!? 地面……まさか!?」

「あァさそのまさかだよ!」

 

 浮上と同時に斬りつける。クリスで、だ。

 足を完全に機能停止させるつもりで放った斬撃。けれどそれは、光の粒の零れる剣に止められた。

 

「そんな、もう封印が解けて……」

「く……っ、よっぽど、あの子にご執心らしい。けど、それは私達だって!」

「ハハハ──馬鹿野郎、何笑わせてンだよ。俺ァお前ら殺さねェ。殺せねェんだ。命の取り合いできねェんだよ。だってのによ──ハハ、クソ、笑えてくる」

 

 横薙ぎ、袈裟懸け、体内を通しての突き、斬り上げ。

 魔物との戦いで培った我流の剣技が、けれど押し切れない。こっちも押されァしないが、あァさ同等か。ケッ、やっぱり俺ァ死地に潜ったってそォ簡単に強くァなれねェってこったな。

 

「──【斬滓】!」

褪戦死遠(【即死】)

 

 光の粒と死の魔力がぶつかり合う。

 一瞬拮抗したかに思えたそれは、しかし確実に死の魔力が粒を食んでいき──少女の持つ剣に、届いた。

 

「!?」

「馬鹿が、てめェら食えねェんだから世界言語なンざ使わせンじゃねェよ。俺が傷付くだけじゃねェか」

「なに!? 魔法が──」

 

 動揺だ。まァ突然魔法が死んだンだ、そォいう反応にもなる。

 んじゃ、手首の腱でも斬らせてもらうかね。剣握れなくなりゃコイツァ終わりもいいとこだろ。

 

 ってな追撃を見越して吹き矢みてェなの構えてる魔法少女も見えてるよ。さっきの音の無い針だな?

 

「避けられた。シャオメイ、フェイランを!」

「あァさ後学のために殺させてもらうぜ」

 

 死飛沫を放つ。

 水の縄。その中に入った死飛沫は──目論見通り、その力を失って地面にびしゃりと落ちる。

 いいね、吸えるのァ吸おうと思った対象だけか。触れたモン全部を、ってワケじゃねェ。

 

「嘘、【水縄】が!」

「【壁塞】!」

「おいおいそれやったらコイツ死ぬだろうが。考えて魔法使えよ」

 

 上から俺を圧し潰さんと降ってくる壁を、これまた死の魔力で浸したクリスで斬りつける。水の縄もこの壁も薄いな。世界言語使わなくても殺せるンだ。いいぜ、良い感じに情報が集まってきた。

 

「【斬滓】!」

「──っととォ!」

 

 バックハンドスプリング。まァそンなことしなくてもいいンだが、癖でな。

 そォして避けた所を、天まで立ち昇る光の柱。お嬢みてェなことしやがって。

 

 んで──これまた案の定。

 溢れ出る光の粒。それに触れた地面が次々に切り刻まれていく。やっぱり危ねェのァ粒の方だな。つか、あの剣自体が粒の集合体と見た。

 ……ん。

 

「オイ、何こそこそ連れて行こうとしてやがる」

「ひ──こ、こっちに来た!」

「たりめーだろお前がアオン持ってンだから。ほら、返せ。大人しく返したら傷つけねェからよ。魔物に慈悲ァ必要無ェが、お前らァ必要だろ。痛い思いしたくなかったらとっとと──」

「【爆塵】!!」

「はァ!?」

 

 爆発──結構な規模だ。

 驚いて下がっちまったが、オイオイ、アオンもアイツも無事じゃ済まねェだろ。なんつー魔法を至近距離で使いやがる。もっと考えて魔法使え!

 

「おい、大丈夫──か、っと!」

「ミィワン、早く行って! こいつは私達がなんとかする!!」

「けほっ、けほっ……わ、かりました!」

 

 あァクソ、面倒だなオイ。

 俺ァお前ら殺したくねェんだよ。食いもしねェモンァ殺さねェ。つか殺せねェって何度言ったらわかるンだ。

 ──馬鹿が。クソ。

 

 あンまり──笑わせンなって、オイ!

 

「ハ──ハハハ!」

()()は私達の希望なんだ! お前なんかに奪わせはしない!」

「ハハハハ! ──あァ、オイ。オイ! そうか、つまりよ、てこたよ。おい」

 

 口角を上げる。にィと。

 伴い──それが形成される。口。口だ。よォやくできた。カカ、ハハハ。

 髪があって目があって口がありや、ちったァ顔になるだろ。

 

「てめェら、生きてェんだな?」

「しゃ──喋った!?」

「あァ? ハハ、なンだ──よォやく伝わるのか。あれか、発声器官の問題か。まァンなこたどォでもいい。──てめェらよ、生きるために、生きてェから、死にたくねェから! アオンを奪うってな──そォいうこったよなァ!?」

 

 形成されていく。

 精神体であることは変わらないけれど、それが形として。

 口が。舌が。喉が。肺が。

 

 あァさ、どォ見えてンのかは知らねェ。ちょいとグロテスクかもな。半透明の身体に肺が見えてンのァよ。レントゲン写真かっての。

 まァまァまァまァンなこたどーでもいい。オイオイ。ハハ、いいよ。良いよ、それで。

 

「そ──そうだ。私達は、生きるために! 死なないために!! 蘇生槽を作らなきゃいけない!」

「ハ」

 

 勇気ある言葉だ。

 フェイラン、と呼ばれていたか。この魔法少女達の代表格。【斬滓】の魔法少女。

 敬意を示そう。今の俺ってな相当怖いだろォに、よくぞ言った。よくぞ宣言した。

 

「なら、俺ァお前らの相手をしよう。生きるために抗うってンならよ、俺の非善()だ!」

「──【斬滓】ッッ!」

褪戦死遠(【死漸】)

 

 剣と剣がぶつかり合う。

 しかしそれァ一瞬のこと。一瞬にして光の剣は崩壊する。──死ぬ。

 

「ぁ……」

「……死ぬのが、怖いか」

「ぅ、あ……」

「怖いかよ、オイ」

「あ……当たり前、だろう。だから私達は──続くために、蘇生槽を」

「命が惜しいか。なァ、命を乞うか、魔法少女」

 

 その首にクリスを突きつけて、言う。

 皮一枚、切っ先が入ってる。だからそっから、たらりと血が流れてる。

 

「見逃してくれる、というのか」

「──」

 

 あァ。

 やっぱりこいつらは、魔物とは違う。

 殺せねェなァ。

 

「アオンを返しな。蘇生槽の材料にするってンなら、お前も、他の奴らも、お前らの拠点にいる奴らもまとめて全部殺す」

「魔物が……どうして、あの子にそうも執心するんだ」

「死んでほしくねェからってだけだよ、馬鹿が」

 

 側頭を蹴り飛ばす。

 元から殺すつもりなンて無いし、時間稼ぎされるのも困る。

 

 ──さて、追うか。

 

「ハハ。……いいね、ちゃんと笑えるってな、っとに良いよ」

 

 口で、笑う。 

 さァ──夜ァこれからだぜ。

 

 

えはか彼

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