追う。追う。
勿論追っかけられてる側も死ぬ気だ。とんでもなく速い。飛行魔法ではなく身体強化を選んでいるあたり、キョドってる割に頭も良い様子。精神体相手に空中戦とか悪手も良い所だからな。
それにしても、ちょいと魂胆が見えねェ。
自分達の拠点に精神体引き込んでどォするつもりだろな。もっと戦力がいる、ってなが可能性としちゃ一番高ェんだが、そんならもっと攻撃に特化した魔法少女連れてきて俺と戦わせた方が良い気もする。防衛向きの能力なのか、たァ思うが、【壁塞】なンかがまさにそれだってのに出張ってきてるのも妙だ。
何より蘇生槽がまだ無いってな時点で死闘になっちゃァあいつらはマズイはず。それとも蘇生槽ってな一瞬で作り得るモンなのか? マッドチビ先生は技術が必要とか言ってた気がするが。
「──させない」
「へェ、防ぐか!」
地面の中からの斬り付け。それァ【爆塵】の魔法少女の足に届く前に、一本の針によって止められた。
さっきから無音の針撃ってきてる奴だ。身体強化もさることながら、気配消すのも足音消すのも上手ェ。なんぞ、達人の気配がする。言ってて意味わからんけど。
「また、地面に……」
まァ地中ってな安全なンでよ。
特にお前みてェなのァ貫通力に欠ける。ティオイジが全力で放った針でさえ地中深くにまでは至らなかった。そンだけ地面ってな勢いをそぐンだ。
気にするべきは──。
「【円閃】!」
「それだよ、な!」
地面を抉り進んでくる輪状の刃。それをさらに深度を上げて避ける。地中じゃクリス出せねェし。
しかし、環境保全とか無いのかね。この辺お前らが住んでるトコなンじゃねェの?
「もうすぐで……!」
「おォさ、もうすぐでなンだよ」
「ッ、!」
前に出る。道を塞ぐ。
先頭にいた【爆塵】の魔法少女──アオンを抱いた少女の前に、立ちふさがる。
さて──余裕ぶっこいてるけど、実は結構ギリギリなンだよな、俺。
省略世界言語からの他人の魔法の使用。それァ、申し訳ねェけどメリザだけじゃ回復しきれなかった。そこにこれだ。C級、お飾りB級だった頃に感じていた魔力切れ。ンなもんよりもっと不味いモンが近づいてるのを感じる。頭がカチ割れるよォな痛みと、身体が引き裂かれるよォな痛みと、あと──飢え。
正直全部痛ェしやべェし苦しいし嫌なンだけど、飢えが何よりも不味い。
食えと。
死して尚続きたいのなら、目の前のソレを食えと──何かが囁きかけてくる。
うるせェ。てめェが風だってンなら、今度てめェも食いに行くから覚悟しとけよ。
「ど──どうして、魔物が邪魔をする、ん、ですか」
「はァ? お前魔物に出会った事ねェのかよ」
「言葉を繰り、亜空間や魔力を操る精神体──オリジン種。それが私達や、こ、この子を狙う理由は、無いと……そう、考えます」
「へェ」
よく勉強している。よく知っている。
俺なンかオリジンの生態や魔物のシステムなんざ、魔物になってから知ったってのに。
それに、多少言葉に詰まりァするけど……良い意思の強さだ。
絶対に生き残ってやる。絶対に目的を成し遂げてやる、ってな、強ェ意思を感じる。
「クロムクラハ──と、あなたはこの子に呼ばれていました。この子に求められたから、ですか」
「ん-、まァ理由ァ色々あるけど、別にアオンに求められたからじゃァねェよ。アオンが材料にされるからだ」
「ッ……なら、この子を使わなければ──あなたは、邪魔をしない。そう、ですか?」
「いんや?」
悠長に喋ってるけど、既に周囲にァ他の魔法少女達が展開してる。
連携ってなモンを知ってる、っつーのか、自分達がその場面に直面した時、それぞれがどォ動けばいいのかをそれぞれがちゃんと理解してる。言葉が無くても動ける。
すべてァ全員がちゃんと生き残るために。生きて帰るために。
いいよ。
今からやろォとしてるこたァ気に入らねェが、そォいうスタンスは褒め称える。
「どういう、こと、ですか」
「他の奴を使って蘇生槽を造る、ってこったろ? 当然止めるさ」
「何が当然、」
「残念ながら、俺ってなどこに行こうとなんになろォと、無為な死ってな受け入れられねェんだわ。お前らのためになる死ってなよ、けどソイツのためにァなんねェ。ソイツが幸せじゃねェ。1に押し付けて10が幸福になるってな、俺の理念に反してる。そンだけだ」
「──魔物のくせに!」
バックステップ。距離を取ったか。
飛んでくるのァ魔法。当然のように全方位から。けどそれァ地面に潜って避けるとして。
……今の反応。
尾行してる時も思ったけど、此奴ァちゃんと倫理観のある子、だな?
自分が思ってるコトを魔物が言いやがるンで怒ったって感じだ。ハハ、いいね。自分が我慢して、周囲に同調しなくちゃ生きていけねェから。それが自分と、そして周囲のためになるから。
だから──自分を押し殺して、やりたくねェことをやる。
前の俺みてェだ。仲間を殺してた頃の俺。
ハハハ。
「決めた。お前のあだ名は波ヘアピンだ」
「な──に、を?」
「だから、あだ名だよ。【爆塵】の魔法少女、なンて呼びかけるにァちょいと不便だろ? その波みてェにうねってる青いヘアピン。それが特徴的だから、波ヘアピン。なンか文句あっか?」
「さ、流石に安直が過ぎるのでは……」
「どいつもこいつもあだ名に対して安直だのなンだのとうるせェなァ。ぱっと見でわかるからあだ名なンだろォが。文句ァ受け付けてねェよ、ばーか」
浮上する。
元々俺が相手をあだ名で呼ぶのァ──本名で呼んでると、そいつが死んだら、悲しいから、だった。
それは"前"も昔も今も変わっちゃいねェ。だからこれァお前は殺せるぜ、って宣言ってワケでもねェ。
情が湧いたと。
そォ言ってンだよ。
「──ミィワン、頭を下げて!」
「お前らにゃ湧かねェって意味でもある」
光の剣を止める。
こいつらに迷いはない。だから、こいつらを傷つけることに躊躇はない。
殺しはしない。できない。それァ俺の中で禁忌だから。それをするにァ、俺ってなもんをもっとバラして組み立て直さねェ限り無理だ。俺が俺である限り、もう魔法少女ァ殺せねェ。
けど、傷つけることァできる。その身に苦痛を背負わせることは──できる。
「【斬滓】の魔法少女──
「ッ、あぁ、そうだ! 我が名は飛蘭! 群塔魔閣が一柱にして、」
「あァ聞いちゃいねェよ、お前の生い立ちァ。そーいう余計な事聞くと剣が鈍るンでな。──まず、1人」
斬る。
別に今まで手加減してたとか、世界言語でズルしたとかそォいうンじゃねェ。
こっちァ希釈されてるたァ言え死の魔力纏ってンだ。
それとこォ何度も斬り合えば、ソイツの魔力もガンガンに削っていける。魔法を殺すことと魔力を殺すことが同義であるってな、こないだ世界言語で【世涯】を使った時にわかったよ。
忘れがちだが、身体強化魔法ってな通常魔法の余剰魔力……つまり込め過ぎた魔力や使わなかった魔力を用いて行う汎用魔法だ。つまるところ、身体強化オンリーで使う、ってな奴ァあんまりいない。冷静メイドとかはガッツリそォだったけど。
まともかく、死の魔力や【即死】で魔法を……【斬滓】を殺しまくったら、本来使えるはずだった身体強化用の魔力もガンガンに殺して行けるワケだ。
寂しんぼが【即死】は対魔法少女において有用とかなんとか言ってのァまさにそれ。
俺と打ち合えば打ち合うほどジリ貧になっていく。そうして、本人でも気付かない内に身体強化を薄めちまって、いつのまにか一般人並みにまで落ちてる、と。
今までァ俺側もジリ貧で、相手の魔力が切れる前にこっちがゼェハァしてたンで実感は無かったンだが、こォやって魔力量が増えてみると、なるほど【即死】ってなやべェ魔法だよ、ホント。
「フェイラン!?」
「殺しァしてねェから安心しな。すぐに安全なトコつれてって適切な処置すりゃ傷も塞がる。ま、痕ァ残るし斬られる前と同じよォに使えるよォにはならねェけどな。これァそういう剣だ」
クリスで斬った傷は消えない。波打つ剣ってなそォいうもんだ。縫合も難しい。【回復】や【治癒】ってな魔法の無いこの世界においてァ、相当やべェ剣さ。
けどまァ致命傷にならねェよォにしたし、傷も深くァないからすぐに戦線離脱すりゃ問題はない。
「──見逃され、て……魔物に、生かされ、て……!」
「ン。おい、あんま喋るなよ。体力使うと失血死もあり得るンだ、傷口押さえて黙っときな」
「こうも誇りを傷つけられて──生きろと!?」
「叫ぶなよ。おい、そこの【水縄】の魔法少女。早いとこコイツ持っていきな」
……。
あン?
こいつら、生き延びるために蘇生槽を造りたい、ンじゃねェのか?
そのためなら手段ァ厭わないって感じだったけど、死んじまったら元も子もねェだろ。
なんで、動かねェ。
「あー、俺が近くにいるからか? いーよ、ちょいと離れてやる。ほれ、持って行けよ。こいつ1人じゃ走れねェだろォし。コイツ運んでる最中ァ狙わねェからよ。ほら、とっとと来いって」
動かない。
動かない。
展開している魔法少女は──未だその敵意を滾らせたまま、動こうとはしない。
「クロムクラハ!」
「ン? っと、おわ!」
横合いから投げられたソレ──アオンをなんとか受け止める。
投げたのは勿論波ヘアピンだ。そして波ヘアピンは、【斬滓】の魔法少女を持ち上げる。
成程。
お前さんは、そっちを大事にするってなワケだ。
いいね、真っ当だ。動かない奴らよりもずっと真っ当。まァアオンを俺に返しちまった事でお仲間になんぞ言われンのかもしれねェけど、俺ァ評価するよ、お前の事。
さて、アオンに未だ巻き付く【水縄】を殺す。
これでアオンの魔力も回復し始めるだろう。ったく、すっかり衰弱しちまって。何が人命最優先だ。
「わ──私達は、帰る。他の魔法少女を使うこともない、です。だから、」
「あァ、そんなら追わねェ。魔法少女の組合に興味なンざハナから無いからな」
「──信じます」
言って。
波ヘアピンと、その他周囲に展開していた魔法少女達は去って行く。へェ、物分かりが良いっつーか。他の奴らはもっと抵抗すると思ってたンだけどな。そんだけ【斬滓】の魔法少女が大事なのか。
まァリーダーだし。俺にとってのお嬢、尖り前髪にとっての班長みてェなモンだと考えりゃ納得も行く。
んじゃ俺も帰りますかね。
つっても帰る場所なんざ見つからないンで──ま、あの洞窟で。
眠り姫と初の会話ってなモンをして、色々納得してもらいましょうか。
「クロムクラハ!」
「おォ、起きたか。どォだ、体調悪いトコとかねェか?」
「……あなた、クロムクラハ?」
「あァさ。よーやくな、喋れるよォになったンだ。お前の名前もちゃんと言えるぜ、アオン」
「思ってたのと違う……」
「ハハ、そいつァすまねェ。よく言われるよ」
見た目ァぼんやりした身体の銀髪少女だからな。もちっと女の子女の子した喋り方でも期待してたンだろう。すまねェすまねェ、こいつァ昔っからでね。ビジネスシーンなンかじゃ標準語も扱えるンだけど、喋り言葉を気にしてられる程余裕ある世界じゃなかったからか、もう染みついちまってンだ。
「あの人達は?」
「帰ったよ。追っ払ったって方が正しいか」
「そっか」
「あァ」
真っ暗な洞窟。まだまだ夜だから、月も綺麗に見える。
星の無い空ってなまだ慣れてねェんだけど、そんだけ月が明るく見えるってモンだ。
ちなみにだけどあの月は冥界にある新月と同じ。天幕のフィルターを通すと光り輝いて見えるンだとかなんとか。だからこの世界の人類がロケットだのを開発して宇宙に行こうとしても、当然天幕に阻まれる。まァ行こうと思う奴いないっぽいンだけどな。宙には何も無ェってな、中学の教科書にもあったし。
星が無いから宇宙へ浪漫を馳せる奴もいねェのさ。宇宙なんざ無いってのがまァまァな真実なンだが。
「これから、どこに行こうか、クロムクラハ」
「あァ、それなんだがよ」
さて──どォ切り出すか。
お前をどこぞの魔法少女組合に置いていきたい、なンて。言えんのか、ソレ。俺。
「私から、離れたい?」
「……なンだ、わかってたのか?」
「だってクロムクラハ、最初に私が連れて行かれそうになった時、助けてくれなかったもん」
「あー」
切り出す前に、切り出された。
よく見てるねェ幼子は。5歳児にしちゃマジでちと聡すぎるが。
「なんでか、だけ。教えて欲しい」
「……俺ァよ、やんなきゃいけねェ事があんのさ。もっともっと強くなって、他の魔物を率いる事ができる程に強くなって──行かなきゃいけねェとこがある」
「それはどこ?」
「あそこさ」
指を差す。
月を。
「……そこに、私はいけないの?」
「いけねェ。まだ空を飛ぶのもできねェだろ?」
「できたら、いけるの?」
「いけねェ。お前さん、魔法は強いけど、弱いからな」
「そっか」
これを無駄足だとはもう呼びたくないけど、寄り道であることに変わりはない。
セイタスの記憶と血肉。アダンシー、バチョウ、名前も知らない惨殺された魔物たち。ティオイジ。メリザ。その他、もっともっと、沢山いる。そォいう奴らを食らって俺ァここにいて。そォいう奴らが目指してた場所を目指してここにいて。
止まってられねェのさ。殺した分ァ生きなきゃいけねェ。歩かなきゃいけねェ。俺ァ暴走繭みてェに強かねェからさ、歩き続けてないと──止まっちまいそうになる。
「じゃあさ、クロムクラハ」
「あァ」
アオンは──どっか、真剣な目で。
5歳児のしていい目じゃねェよ、それ。
「──私を食べて」
「……──は?」
一瞬。いんやさ数瞬、何言われたのか理解できなかった。
何言ってンだ。
それは。
俺の、逆鱗だぞ。
「何言って」
「だって、私はクロムクラハの旅についていけない。なら──クロムクラハの一部になって、クロムクラハと一緒に行きたい。クロムクラハと一緒に生きて、クロムクラハの役に立ちたい」
「──」
どろりとしたものが零れそうになる。
何言ってンだよ。
助けたンだぞ。お前。殺されそうだったのを。殺しそうだったのを。何言ってやがる。俺が殺すワケねェだろ。何の意味がある。魔法少女を食らったって何にもならねェ。生まれ変わった時に続くかもしれねェってそンだけだ。新しく生まれた時に強きとしての堆積を持てるかどォかって、そんだけだ。
それを──なんだって?
ついていきたいから、やれ、って?
「アホか、お前」
「……」
「俺がお前を殺したいって。そォ思うって。本気で考えてンのか?」
「殺すんじゃないよ。食べるの」
「同じだ。魔物じゃねェんだよ、お前は」
「でも、クロムクラハも魔物じゃないでしょ?」
「!」
……。
なんだよ。お前。
聡い聡いとは思ってたけど、そこまでわかんのかよ。
「クロムクラハは、ホントはちゃんと、他の名前があって。クロムクラハは、ホントはちゃんと、家族がいて。私じゃない誰かを守るために、その行かなきゃいけない場所、ってとこに行こうとしてる。違う?」
「……違わねェ」
「だよね。クロムクラハが喋れない時から、なんとなくわかってたよ」
「そりゃ、すげェな。俺の心でも読めンのか」
「うん。抱きしめられてると、伝わってくるの」
それは、精神体だから、とかなのか。
それともアオンがすげェのか。どっちも、なのか。
「食べて」
「嫌だ。それだけは、嫌だ」
「──じゃあ、あの人達の所に行く」
「……なんで」
「クロムクラハは、助けに来てくれる?」
蠱惑的に。
やめてくれ。それ以上、俺の逆鱗に触れないでくれ。
お前ァ──ちゃんと守りてェって、よォやく思えてきたのに。
嫌いになっちまう。
非善にしか見えなくなっちまう。
「死にてェのか」
「ううん。クロムクラハと一緒に居たい」
「それが無理だとなったら、死しかねェのか」
「それが無理だったら、生きてる意味がないもん」
──やめろ。
何だよ生きてる意味って。馬鹿が。
生きてる意味なんざなくてもいいだろ。寿命限界を無理矢理引き延ばされてるワケじゃねェ、もう生き抜いて心だけに成っちまった奴ってわけでもねェ。
無為に生きて何が悪い。無駄を浪費して何が悪い。
死ぬ? 食われる?
それこそ、意味がない。
「ね、クロムクラハ。"クロムクラハ"がどういう意味なのか、知ってる?」
「……いいや。生憎、この辺りの言葉にァ疎くてな」
「クロムクラハはね、私達の村で信じられてた神様なの」
「へェ。俺ァそんな大層なモンじゃねェよ」
「戦いと、死と、太陽の神様。お爺ちゃんたちは、風と夜と太陽の神、って。そう呼んでた」
……そりゃまた、賢者も良い所な爺さんがいたもんだな。
世界の真理を理解してるとは。死んじまったが。
しかし、なるほど。あの村がそんだけ賢い奴らの集まりなら、アオンの聡さにも頷ける。
クロムクラハ。
夜の使徒であり、元太陽の使徒であり、現風の使徒である俺にァ──確かに、これ以上ない名前なのかもしれない。
「それが、なンだよ」
「私達の村が、なんであの場所にあったのかわかる? あんな──いつ魔物に襲われてもおかしくない場所に。森の中、なんて。そんな場所に」
「……意味なンか、あんのか。人と人が集まった場所が村になる。それだけだろ」
「ううん。──あそこに村があったのは、いつかあの場所にクロムクラハが訪れる、って。そういう言い伝えがあったから」
「言い伝え……」
なんだ、それ。
──まるで、俺が来たのァ運命である、みてェな。
あそこで死んでた奴らも。魔物も。あらかじめ決まってた、みてェな。
やめろよ。やめとけ。
「じゃあ、問題。──あの村で、私はなんだったでしょーか」
「何だった、って。なンだよ。小せェ子供。それ以外になンかあンのかよ」
「答えは──捧げもの。あの日、クロムクラハが来ると──そう
「もう、いい。やめろ。誰だそんな予言しやがった奴」
「【運誓】の魔法少女」
……そォかい。
余計な置き土産しやがって。やっぱり封印措置食らって当然じゃねェか。
じゃァ、なンだよ。
そのために。
そのためだけに、あの村はあんな危険なトコにあって。
そのためだけに──アオンは生まれて、捧げられて──魔法少女に覚醒した、って?
ハハハ。
「ふざけんなよ」
「だから、クロムクラハに要らない、って言われたら──私には、生きている意味が無いのです」
「ふざけンなって」
「なら、まだあの子達の蘇生槽? だっけ。それになった方がマシ──」
どろり。こぽり。
とうとう溢れ出た。
──それは、洞窟全体を暗く染め上げる。
死の魔力。
俺に付随するもの。【即死】も【死漸】も【世涯】も、これの派生物でしかない。
夜の使徒。否、一度完全に死したものであるという──この世界における死者よりも死んでいる存在の証。
それが、水みてェに、いんやさもっとドロっとした何かみてェに──辺りを染め上げる。
死んでいく。洞窟が、そこに含まれていた全てが。虫が。あるいァ動物が。
俺とアオンを除いて──全部が、どろどろと死に浸されていく。
そんなもの──俺の意思じゃ、無い。
これァ。
「──てめェ、わざとか」
「うん。ごめんなさい。──私の本当の役目は、クロムクラハを覚醒させること」
「だから、適当言ったのか。死にてェとか食われてェとか」
「ううん。それは本当。本心だよ。今まさに、私の役目は終わった。だから、本当に生きる意味も無くなった。クロムクラハと一緒に居たいのも本当。──私に優しくしてくれた、初めての
「……──あァ、なンだ。あそこにいた村民……
自分の役割を理解していて、それを受け入れていて。
それはそれとして──自分を人間扱いしねェ奴らにァ恨みがあって。
だから、殺した。
自分が魔法少女に覚醒したことさえ気付いてた可能性がある。だってそォすりゃ、その因子を狙って魔物が集る。あの村の奴ら全員に魔法少女の因子があったンじゃねェ、此奴はなるべくしてなったンだ。そうして──全部を終わらせて。
ふーちゃんの【運誓】の通りに、俺が来た。
そんで、全部が全部役通りに動いたかどォかは知らねェけど。
こうやって──この、あァ、マジで神さんみてェな状態になるよォ、俺を誘導したと。
ふざけやがる。
「私はクロムクラハを謀ったよ。……それでも、食べてくれない?」
「馬鹿が。誰がするか、そンなコト。それに俺の名はクロムクラハじゃねェ。前提からして違うンだよ」
「ううん。貴女はクロムクラハ。今、そう成った」
「なってねェよ。俺ァお前を食わねェし、魔法少女にも魔物にも寄らねェ」
「──"かくして魔物達の王クロムクラハは、数多の魔を率いて天へと昇る。流れる銀糸。碧き瞳。彼女は魔を惹き付ける。風も太陽も夜も彼女に従うだろう。何故ならば、彼女は前に進むもの。如何なる姿となっても、前に進み続けるもの。すべては彼女の後に続き、その道筋を彩るだろう。それこそが唯一つの正解だと知っているがために"」
うるせェ。
予言の内容なンざ聞いちゃいねェんだよ。
あァ、魔煙草が吸いてェ。イライラする。なんだよ。馬鹿野郎が。余計な事言い残してンじゃねェよ。ぶっ飛ばすぞオイ。
「──クロムクラハ」
「違ェって言ってンだろ」
「人がいっぱい、来るよ。多分、クロムクラハを討伐するために」
「あン?」
……確かに、何かが近づいてきてる気配がある。
死の魔力が暴走してるせいか、命の気配がわかりやすい。魔法少女の頃よりくっきりとわかる。
やめとけ、近付くな。
危ねェぞ。
「……とにかく、下がってな、アオン。アイツらは俺が相手する」
「ううん。私も戦うよ」
「そンで、死ぬ、とか言わねェよな」
「今バレちゃったから、言わない」
内憂外患たァ違うが。
どォしてこう──あァ、くそ。
とりあえず追っ払うか。話はそれから、ってな。
「クロムクラハを視認しました! 隣には件の魔法少女の姿も確認できます!」
「良いだろう──皆の衆! あれなるはオリジン! EDENの者でも手こずる最強種だ! 心してかかれ、そして──身の安全を考えるな! いくらでも死を臨め、我らはもう背を心配する必要が無い!」
「オオオオオ!!」
沢山──どころじゃ、ねェな。
100人くらいいる。【斬滓】の魔法少女がちょいとだけ口走ってたっけ? 群塔魔閣……だかいうの。EDENに比べたら少ねェが、こっちの組合もしっかり組織してンのな。
で──それよりよ。
「よォ、アンタが群塔魔閣だかの長か?」
「ほう、喋る魔物であるとは聞いていたが、知性もあるとは」
「あァさおしゃべりしてェわけじゃねェんだ。ちと聞きたい事があってよ」
長い茶髪の、強気な目の女。
魔法少女衣装ァなんかチャイナ服って感じ。ポニテスリットと同じくらいスリット入ってるンだが、それ以上に色々露出が多い。
さてはて。
なァ。
「身の安全を考えるな。いくらでも死を臨め。背を心配する必要ァ無い──ってな、どォいうこった。お前ら、蘇生槽持ってねェだろ?」
「我らの心配とは、オリジンとはこうも他者を見下したものなのか」
「あァさ、別に見下してるわけじゃねェって。単なる疑問だよ。まァいいや、アンタが答えねェなら他の奴に聞くよ」
「良いだろう。魔物如きに教授するのは勿体の無い内容だが──これから自らの身に起きる事を考えれば、気になるのも当然。──簡単だ、造ったのだよ。蘇生槽を。故に我らはもう死を恐れない。貴様がどれほど強かろうと──」
「造った。──材料ァ、誰だ」
なァ、波ヘアピン。
他の魔法少女ァ材料にしねェって言ったよな。
あァ。オイ。
今ちっとばかし気が立ってンだよ。
「ほう? 魔物がそれほどまでにこちらの事情に詳しいとなると──あの魔法少女にでも聞いたのか?」
「お前さん、話逸らすの好きだなァ。人望無さそうだ。長は誰かに代わってもらえよ。絶望的な状況になっても誰も助けてくれなくなるぜ」
「ふっ、──
──あーあー。
やっぱりか。
やっぱりなのか。
あーあーあー。
そォだよなァ。
やけにあっさり退いたな、って。思ったよ。
っとに──クソみてェな世界なことで。
「飛蘭、つったか。──勇気のある奴だった。強い意思を持ってる奴だった」
「そうか。貴様にはそう見えたか」
「成程なァ。誰でもいいなら、損の少ない方を、ってか。クソ野郎」
クリスを引き抜く。
カリスマで引っ張ってるンじゃなくて、立場で抑えつけてる感じは確かにあった。
鬱憤か。その群塔魔閣ってながどンなトコか知らねェけど、派閥争いの酷ェとこと見た。
だから、いつか引き摺り下ろしてやるって。
その機会が──丁度、訪れて。
「亜空間ポケット……聞いていた通りか。そしてその剣も」
「ハハハ。んじゃ後はわかるよな」
「無論だとも。──クロムクラハ。貴様を、群塔魔閣全軍を以て討滅する!」
どいつもこいつも逆鱗踏み抜いてきやがって。
相手してやるよ、クソ共。