87.彼地伊豆買雲垂赤媒裁字蟻.
ジョームンガンダーは北方山脈にいる──という情報しか俺の元には入ってきていない。少し前の俺では絶対に勝てない相手で、刺激すると世界も魔物も魔法少女も人間も動物もなにもかもやばい相手、ってのも知ってるか。
ちなみに北方山脈というのはあくまで山脈の名前であって、今俺のいる北方海域からすれば南にある。EDENの元あった位置から見て北方にある巨大な山脈、という名付けに見えて、北方山脈より北であるこちらでも伝わる名前なのはちょいと違和感があったりなかったり。
さて、そんな北方山脈であるが、高所というだけあってとても寒い。精神体だから特にそれらに不便は覚えないンだけど、この寒さは魔法少女にとってもキツいだろォなァ、という印象。実際殴り飛ばされたEDENが刺さってた麓でさえ寒かったし。
季節らしい季節なンて無いこの大陸における、唯一の冬、なのかねェ。そーいう意味じゃ恐竜島やウォムルガ族の村なンかは夏だったか。群塔魔閣はちょいと秋っぽいし、始の点はそれこそ春っぽくある。
まァ天動説よろしくマジでこの星自転してないンで四季なんざ生まれようもない。太陽も月も前世のよォな天体じゃねェからな。行こうと思えば行けるとかやべーって。ちゃんと高温だから行ったらジュッなンだけど。
「で?」
「──で、とは」
「で、とは、じゃねェんだわ。誰だお前。なンでさっきからついてきてやがる」
「難しい事を質問しますねアナタ。ワタシが誰か──それは誰も知らぬ事。ワタシ自身ですら知らぬ事」
「記憶喪失か。俺今から危険なトコ行くんだわ。邪魔だから消えてくれ」
「それは、死ねと?」
「誰が言うかンなこと。どっか行けっつってんだよ」
なんか、さっきから俺についてくる影があった。
影っていうか。
なんぞ──でっけェ女。身長は2mを超すンじゃねェかってデカさで、けど何より特徴的なのァ。
「お前、それ、痛くねェのか?」
「それ、とは」
「頭だよ。やべェ量の血出てっけど」
そう。
いんやさ、これでもかってくらいの出血量だ。それは纏う衣服をも濡らし、染め上げ、全身を真っ赤にしている。出元はちょいとグロいンだけど、露出した頭蓋骨、かねェ。
今にも死にそうな見た目でありながら、命の気配はむしろ強い方。そォいう見た目の魔物、なンだろうな。
「これは恐らく、元よりワタシがこういうものかと?」
「今そォ思ったよ」
「そうですか」
俺ァ今、結構な速度で飛んでる。
けどソレについてこれてる。寒さにも対応できてる。感じてねェだけかもしれねェが。ついでにいうと、出血が凝固する様子もないし、衣服より下に滴り落ちる気配も無い。
こえーけどそォいう魔物なンだろう。俺がビビっているのは多分伝わっている。ビビってるっつか引いてるっつか。
「名は?」
「恐らく、ボーグルと」
「あァそれは覚えてンのか」
「恐らくですが」
なんにせよ、名前があるのァ良かった。
名前の無い奴と食い合いはしたかねェからな。
「で? やンのか?」
「何を、でしょうか」
「何って、殺し合いだよ。食い合いでもいい。魔物の摂理。風の摂理に則って、頂きを目指すための儀式」
「やだな、しませんよそんなこと。痛いじゃないですか」
「お、おォ。そうか」
……いんやさ、それがまァ確かに普通なンだが。
ここへ来て、これからジョームンガンダーと戦うぜ、ってとこまで来て、ンな普通なこと説かれると思ってなかった。
「え、じゃァ何で付いてきてンだお前」
「だから、難しい事を質問しないでください。知りませんよそんなこと」
「そォかい。じゃァついてくるのやめてくれるか? 邪魔だから」
「嫌ですよ。なんでそんなことアナタに命令されなきゃいけないんですか」
面倒くせェなァコイツ。
俺も食い合いじゃねェ殺し合いなんざしたかねェから手は出さねェけど、横になんかがいるってな落ち着かねェ。コイツがアオンみてェに謀り事してねェとは限らねェんだし。
「それで?」
「あン? 何だよ」
「何だよ、ではないでしょう。ワタシに名を問うたのですから、アナタも名乗りなさい。それが礼儀でしょう」
「記憶の無い不躾な奴に礼儀を説かれるたァ驚きだ。俺は……まァ、クロムクラハだよ。そォ呼んでくれ」
「わかりました。クロクラさん」
「ん-」
ん-。
馴れ馴れしいなァ。
マジで何なんだコイツ。
「クロクラさんは何をしているのでしょうか」
「魔物を探してる」
「それは、どのような?」
「お前に話しても意味ねェよ。記憶ねェんだろ?」
「ですが、ワタシが名を喪失していなかったように、何かを問われたきっかけに思い出すものがあるかもしれません」
うるせーな正論言いやがって。
……まァ時間が無いンだ、藁にも縋る思いで、ってな間違っちゃいねェか。
「俺ァ今、ジョームンガンダーってな魔物を探してる。心当たりァ?」
「ないですね。生憎ですが」
「あァよ一瞬でも期待した俺が馬鹿だった」
藁に縋っても溺れ死ぬだけなンだなって。
「しかし、その名を聞いて思い出したことがあります」
「へェ。そりゃなンだ?」
「ツイウ、というお友達についてです。この辺りのある穴にツイウというお友達が住んでいます。彼女がその名を呟いていた気がします」
「お前さん、記憶無いってな嘘か?」
「いいえ? 実際、記憶はありません。私が何者なのかはわかりません。ですが、お友達は覚えています。大切ですので」
「……まァそりゃ良い事だがよ」
大切だから、覚えてる。自分のことよりも、何よりも、友達の事を覚えている。
っとにマトモな事言いやがるなコイツ。グロい見た目のクセによ。
あー、でも。俺わかったわ、次の展開。
「その穴の位置は?」
「覚えてるわけないじゃないですか」
「だよなァ」
だよなァ。
そんな中身の無い話をしていると、日もすぐに暮れる。なんつーかな、こいつ打てば響くっつーか、まァなんか会話は弾むんで、ジョームンガンダーを探しながらも結構話しちまってる。あぶねェからどっか行ってろっていうと必ず命令するなっていってくる辺りちょいと怪しいンだけど、まァそこそこ? 仲良くなっちまったよォな、そーでもないよォな。
アオンの例があるからなァ。今の俺はちょいと警戒気味なンだよ。
ちなみに中身の無い話ってなこういうの。
「記憶の始まりァどこなンだ?」
「目が覚めたら何も覚えていませんでした。上を見たらアナタが飛んでいました。付いて行こうと思いました」
「ん-、情報量が無い」
とか。
「ツイウってのとはどんな関係だったンだ?」
「お友達だって言ってるじゃないですか。何度も同じこと聞かないでください」
「どんな関係の友達かって聞いてンだよ」
「そんなこと覚えてるわけないじゃないですか。何度も同じこと言わせないでください」
「あァさ」
とか。
「俺を見て、戦いてェとか殺してェとか思わねェのか?」
「物騒ですねさっきからアナタ。それで何か得られるんですか?」
「上を目指せる」
「これ以上上に行ったら寒いですよ」
「あァそォかい」
とか。
……頭のネジが一本無い、って感じだ。
違うな、頭のネジはあるけどそもそも構造体として形を成していないってのが近いか。記憶無くなるとこォなんのか、こいつが単純に馬鹿なだけか。多分後者。
しっかし、どォすっかね。
相変わらずジョームンガンダーってなも、そのツイウってながいる穴も見つかってない。人間や魔法少女の集落も無ければ、ボーグル以外の魔物にも遭遇しねェと来た。
八方塞がりだ。
「これ以上無駄に魔力消費すンのも悪手だな」
「おお、奇遇ですね。形も知らないものを探しても無駄だと言わないでおこうとしていたところです」
「言えよ」
「言ったら"うるせェな、俺の勝手だろ"とかいいませんかアナタ」
「……言いそうだけど」
なンだよコイツ。
なンで俺への理解力がそんなに高ェんだよ。
「他、言わないでおこうとしてる事ってなあンのか?」
「4つほど」
「多いなァ。全部言ってくれ」
「まず、クロクラさんはどうして透けているのかな、と」
「あァそりゃ言わないで良い事だ。次」
「そして、クロクラさんはどうしてジョームンガンダーなるものを探しているのかな、と」
「それも聞かなくていい事だ。次」
「さらに、クロクラさんは寒くないんですか、ワタシ結構寒いんですよ、と」
「寒くねェし知らねェよ寒いならついてくんな暖を取れ。最後」
「ツイウの住んでいる穴を先ほど見つけたのですが、通り過ぎました」
「ンなこったろォと思ってたよ早く案内しろ」
「嫌ですよ。なんでそんな命令されなきゃいけないんですか」
……。
ふゥ。落ち着け。落ち着け俺。
俺はおじさん。落ち着きのあるおじさん。コイツの年齢なんざしらねェが、社会に出た事もねェ魔物だ。つまり子供だ。落ち着け。
「ツイウの住んでる穴に案内を頼んでもいいか、ボーグル」
「えー。どーしよっかなー」
無言でクリスを引き抜く。
「うわ、なんですかその殺傷能力の高そうな剣。痛そう。もしかしてそれでワタシに酷い事する気ですか」
「お前次第だ」
「わかりました。じゃあワタシ、ツイウの所へ逃げるので、追ってこないでくださいね」
「あァよ。案内ありがとう」
「お礼を言われると少しばかり嬉しいですね」
疲れるなァ、こいつの相手。
んで。
「あー、よ。1ついいか、ボーグル」
「難しい事は質問しないでください。ワタシには記憶がありません」
「迷ってねェよな? ツイウの住んでる穴、見つけたンだよな?」
「難しい事は質問しないでくださいと言ったはずです。主観的に見れば一切迷っていませんが、客観的に見れば完全に迷っていると言えるでしょう。この場合の回答は迷っている、迷っていない、そのどちらになるのか、記憶の無いワタシにはわかりかねます」
「あァさその場合は迷ってるが正しい」
「アナタがどうして物事の正しさなんかを決められるんですか?」
「叩っ切るぞてめェ」
「ひぃ怖い」
暗い暗い、林の中。
高度を下げたンで寒さは無いが、月あかりをも遮る背の高い木が辺り一帯を真っ黒に染めている。俺自身がぼんやり光ってるンでその光源こそあれど、こりゃ真昼間でも迷いそォな森だな、という印象。指標となるモンが何にもないんだ。同じような林が続くし、空も見えねェ。
「ボーグル」
「なんでしょうか」
「その穴ってな、広いのか」
「難しい事を」
「あァさ覚えてねェと。けどまァ、居住区になるくらいだ。そこそこ広いよな」
クリスの柄を両手で持つ。
ンで──地面に、グサっと刺す。おー、アレか。腐葉土ってやつか? やーらけー土だな。
「何をなさるおつもりで?」
「ここら一帯の地面を探る。広い空間に出りゃわかるからな」
「そんなことができるのなら早めにやってくださいませんか? ワタシもう迷い疲れました」
「やっぱり迷ってンじゃねェかよ」
クリスから、稀釈された死の魔力を浸し流していく。
最初はそのツイウってのにあたりゃ気付くだろ、的な意味で流そォと思ったンだけど、この辺り一帯の土に命の気配が多少あるってンなら話は別。つまり、死なねェのにぶち当たったらそこが空間だ。濃度を調整しねェと土地を殺しちまう可能性があるンで気を付けないといけねェが、こないだみてェに暴走さえしなけりゃその辺は大丈夫。
問題は、こいつが言う「この辺でした多分きっと」が全くの見当違いで、マジでなーんもないとこだった、って場合があるってことだが──。
お。
「なンか、あんな。こっちか」
「おお、アナタ有能ですね。初めからアナタが探してくれたらよかったのに」
「お前が見つけたっつーからついてきたンだろォが」
「そうでしたか? 忘れました。記憶喪失なので」
「俺と出会ってからの事ァ忘れてねェだろォがよ」
軽口を叩きながら。
その見つけた場所に向かう。割とすぐ見つかったし、ホントにこの辺ではあったンだろうな。コイツの記憶も案外頼りになるってことで。
……で、だ。
「穴、なンだよな?」
「はい。深い穴です。確か」
「ん-。そりゃ、なンだ。扉だの蓋だのはあンのか?」
「難しい事を」
「あァ覚えてねェと」
「いえ、今のはふざけました。確か、大きな石があったはずです。それをどかすことで穴に入れたかと」
「ふざけンなよ」
「なんでそんなことアナタに命令されなきゃいけないんですか?」
「あとそれならどォみてもアレだろ」
アレ。指を差す。
形成された手はしっかりと指のディティールもあって、それでしっかり指を差す。
──この辺りに似つかわしくない、林のど真ん中に設置された黒曜石の塊。
どう見ても、アレ。
「あ、はい。アレですね」
「わかってたけど言わなかった──じゃ、ねェよな?」
「違います。暗かったんです」
「そォかい」
近づく。黒曜石の塊に。
……しかし、黒曜石か。色々と思い出しちまうな。
何って、昔使ってた俺の【即死】の弾丸。あれも見た目黒曜石に近いンだ。ってのは、魔石ってなの主成分が石英だから、とかまァ色々あるンだが、今使ってる死の魔力含めて色が黒っぽいンだよな、俺の武器だの魔法ってのァ。クリスも黒い刀身に白い線だし。
そォいやこれ材質はなンなんだろ。黒曜石よりかは色の薄い黒だけど。
「これ、どォやってどかすンだ」
「難しい」
「ん-、じゃァとりあえず力づく……は、無理だな。重すぎる。流石にぶっ壊すのァ悪いし……」
「少しは反応してください。ワタシ、泣いてしまいます」
「勝手に泣いててくれ。俺今考え事中」
「えーんえーん」
「うるせェな泣き止め」
「横暴! この方横暴です!」
黒曜石か。
ん-。
……いや、普通に透けていけばよくね?
「え。ちょっとアナタ、何やってるんですか」
「いんやさ、俺精神体だからよ。魔力含んでねェモンなら通り抜けられるンだ」
「なんですかそれずるい」
「ズルイよなァ。俺も昔そォ思った事あるぜ」
キラキラツインテに。
アイツの場合、反魔鉱石以外全部すり抜けられるンだけど。いやマジでずりィな【透過】。
「もしかしてこの暗い場所にワタシを取り残すおつもりですか?」
「あァさ。なンだ、暗闇が怖いのか?」
「いえ別に」
「じゃァいいじゃねェか。ちょいとツイウってなのに話付けてくるからよ。そしたらまァコレ退かしてもくれるだろ。それまで待ってな」
「ワタシがアナタの事を信じられるとお思いで?」
「じゃいーよ別にどっか行っても知らねェよ」
「お願いします」
「へいへい」
さァて、こんなヤツとお友達ってなだ。
どんなクセの強い奴なのかってな、ちょいと身構えとかねェとな。
んじゃご対面──。
「お前さァ」
「はい?」
「精神体だったンなら、早く言えよ」
「難しい事言わないでください。今気づいたんです」
じゃァ寒くもねェだろ。
こえーから背後にぴったりついてくンのやめろ、マジで。
「上が騒がしいと思っていたら、なるほど。君か。そしてそちらは」
「俺ァクロムクラハってンだ。ちょいとアンタに聞きたい事があってな。あァさ、アンタがツイウで合ってるか?」
「勿論だとも。私はツイウ。学者だ」
「……学者ァ?」
ふむ。
おお。
なるほど? 確かに穴ン中を見渡すと、なんぞ、フラスコだの蒸留器だの、大凡魔物の棲み処でァ見ることの無いものが沢山ある。
こいつ自身は……ちょいと親近感の湧く隻腕の戦士、って感じ。アインハージャに似てるか? まァ顔が骸骨なンで明らか魔物ってわかるンだけど。
「何を研究してンだ?」
「私達魔物について、かな」
「へェ。そりゃまた」
「物好きだ、と?」
「まァな」
自分達について研究してる、なンて。
物好きだろ。まァ医者とかってその類か。人間の研究者が医者だよな。
「ま、生憎とアンタの研究内容にァ興味無くてね。俺ァある魔物を探してンだ」
「ほう。して、それは?」
「ジョームンガンダー。知らねェか?」
「……成程。勿論知っているとも。というより、知らぬ魔物はいないだろうな」
「そォなのか。で、そいつの居場所は?」
「焦りはわかる。君の目的は大体察した。けれど、少しばかり待ってほしい」
「あン?」
ツイウは──それを、衣服のポケットから取り出す。
特徴的な色の葉っぱ。それを筒状にしたもの。
「私はね、ある2つの魔物についての研究をしている。1つが、君のお目当てであるジョームンガンダー。もう1つが、フルオブズヴィトニー。──私はそれら2つを殺すために、それら2つを殺し得る毒を開発しているんだ」
「……それは」
「そう──あるいは、神をも殺し得る毒。その名も」
「もしかして、魔煙草だったりするか!? くれ! それくれ!」
「……うん?」
ツイウは。
俺の、ずっとずっと求めてやまなかったものを持っていた。
「あァ──染み入る。これだよこれ。ハハ、舌もねェってのに味がわからァ。あ、舌できた」
「ツイウ。ワタシの名はボーグルで合っていますか?」
「あぁ、また記憶を失ったのだね、君は」
「またなのですか」
「そうだよ。君は度々記憶を失う。多分、頭のその穴から記憶が抜け落ちてしまっているんだろうね」
「でもアナタの事は覚えていました。偉いでしょう」
「偉い。褒めてあげよう」
「そう、クロクラさんもこうあるべきです。偉い事をしたら褒めるべきなのです」
「──っはァ。良い味だ。クソ不味い。で、え? なンだって? 褒めろって? お前俺に褒められる事一個でもしたかよ」
染み渡る。
このクソ不味い味。これだよこれ。ニコチンやタールなンかより、もっともっと毒性の強い、この世のモンじゃねェ成分の入った煙草。あァ……生き返る。いや死んでねェけど。いや死んでるか。
「私も他者のことをとやかく言えないけれどね。これを好む者が私以外にいるとは思っていなかったよ」
「そりゃこっちの……あーいや、知り合いにもう1人いるわ」
「つまり、この世界に特別な存在などいない、ということだね」
いんやさ、安藤さんの話じゃフリューリ草の花弁ってな生え落ちても魔物がすぐ持っていっちまうから見つからない、って事だったンだけど、花弁どころか草の一本も見つからねェのァちょいと疑問に思ってたンだよ。
今のツイウの発言からして、魔物の味覚からしても不味いモノって認識っぽいし。
じゃァ誰が持って行ってンだって話。
「もしよければ、これの原材料であるラゥフの株を1つ持っていくかい? 魔力の豊富な土壌で育てたら、花を咲かせるよ」
「いいのか!? ありがとう!!」
「うん、食いつきが凄いね」
これはなんたる幸運。
早くレーテー取り返して中にある水筒も合わせて自室……は残ってンのか知らねェから、LOGOSの自室とかに栽培場作らないと。
もう中毒なンだよ。へへ、これだよこれ。これがねェとやってらんねェぜ、ヘヘ。
「ツイウ、一応アナタの友人を代表して言わせてもらうけれど、この味を広めようとするのは間違っている」
「ばっかお前、これの良さがわからねェのか。吸った事ねェだろ。食べたことねェだろ。クッソ不味いんだぞ?」
「クロクラさんも言葉の使い方を喪失してしまったみたい。悲しい」
「ちなみに私の名誉のために言っておくと、それを食べる事はしないかな。あくまで上澄みを吸うだけだよ」
あれ。
……食うの俺だけか。
まァいいや。俺も美味いと思って食ってねェし。
「ふゥ。で、話を戻してもいいか、ツイウ。俺が逸らしといてすまねェんだけどよ」
「勿論だとも。ジョームンガンダー、フルオブズヴィトニーの話だね」
「いんやさ、そのフルオブズヴィトニーってなどーでもいい。ジョームンガンダーってなをぶっ倒したい。あるいは食うか従えて、俺ァ行かなきゃいけねェとこに行きたい」
「ふむ。そうか。……とりあえず、倒すだけ、従えるだけ、なんて発想はやめたほうがいい。それはそのまま君の死を指すだろう。殺すか、食べるか。その2択だ」
「わかった」
どっちも同じな気がするが。
「どっちも同じ、だと思っているね」
「あァ。だって殺したら食うだろ」
「そこで邪魔になるのが、私の開発している毒だ」
「……あァ、毒使ったら食えねェって?」
「そう」
ん-。
まァ知らねェな。んじゃ使わなきゃいい。
俺は食うために、生きるために、強くなるために、以外での殺傷ァお断りだ。
「そォいう話なら、協力はできそォにねェな。アンタが何のためにジョームンガンダーを殺してェのか知らねェけど、食事以外になんぞ意味があるってンなら、俺ァ1人でやる」
「ふむ。クロムクラハ。ジョームンガンダーがどのような魔物かは、わかっているのかな?」
「いいや。それを聞きに来たンだけど、ただ殺すってな俺の目的に反するンでね。そこの合意が取れねェなら、俺ァ勝手に探して勝手に殺すよ。ここへ来たのァ、ボーグル送り届けるためだった、ってことでいい」
魔煙草1ダース貰ったンでツイウの意思は出来るだけ汲みてェんだけど、そこばっかしは譲れねェ。
「何やら、並々ならぬ事情があるようだね。それを話してはくれないだろうか?」
「……ん-。まァ別に隠すことでもねェか」
「え! さっきワタシが聞いた時にははぐらかしたのに、ツイウには喋るんですか!?」
「お前に話しても意味無さそォだったけど、ツイウは賢そうだからな」
「言外にワタシは馬鹿であると言っているように聞こえます」
「がっつりそォ言ってンだけど聞こえなかったか」
「はい。アナタは表現力が乏しいですね」
……落ち着け。
「今、世界から魔力が無くなりかけてる、ってなは、わかるか。感じてるか」
「ああ。世界に含まれる魔力──私達の誕生に欠かせないものでありつつ、紛う方なき異物たる世界の魔力。それが急速に失われつつあることはわかっているよ」
「あァさ。その原因は、天幕の向こう側。冥界にある。俺ァ元々冥界の住民……夜の使徒でね。同時に太陽の使徒でもあった。それが紆余曲折あって、風の使徒に落ち着いた。その紆余曲折において、新世界の創造ってなどでけェコトが行われよォとしてる。魔力が失われてンのァ恐らくそれに使われてるからだ。で、俺はそれを止めてェ。だから力が必要だ。北方海域にいるオリジン達にはもう話をつけてある。後は俺がジョームンガンダー食えるくらい強いって事見せつけて、天幕の向こうへ総攻撃仕掛けるだけだ」
とりあえず、現状を話した。
2人ァ何の口も挟まず聞いてくれて。
まァボーグルは何言ってんだこいつ、って目だったが。あァ殴りてェ。
「成程。信じよう」
「なんでだ? 自分で言った事だが、荒唐無稽な自信はあるぜ」
「嘘を吐いているとして、今の話の中に、貴女が得をするところはどこかにあったかな?」
「いいね、シンプルなのァ大歓迎だ。その上で、俺ァ殺しについてちょいと拗らせててな。食い合い以外での殺しはしたくない。ツイウ、アンタの作ってる毒ってなが俺へも影響を齎すモンなら、使わないで欲しい。毒を呷ってねェ状態のジョームンガンダーとサシで戦って制すよ」
「それは早計だよ。貴女の信念は理解した。貴女の目的も理解した。その上で、私の目的において、利害の一致が成されるものだと判断した」
「ってーと?」
「初めの話に戻る。貴女はジョームンガンダーがどのような魔物なのか知らない──そうだね?」
「あァ」
吸って、吐く。
純化されていく思考。──果たして、風か夜か。どっちに純化されてンのかは知らねェけど。
「ジョームンガンダーは、巨大な蛇の魔物だ。その大きさは──あの山脈を、超えるほど」
「……いやいや」
「嘘ではないよ。いや、しかし、表現は正しくなかったかもしれない。──北方山脈と呼ばれるもの。──その大部分が、ジョームンガンダーなのだから」
……嘘じゃ、ねェんだろうな。
だってそんな嘘吐いて、こいつに得は無い。
いやいや。
にしたって、だぞ。
「私の開発している毒は、その全身を覆い尽くし得るものではない。だから毒を用いて弱らせ、その部位を切り落としてから食せば、毒は貴女に回らない」
「……成程ね。だが、どォやって斬り落とす。ンなでけェンだろ」
「そのために、フルオブズヴィトニーが必要となる。フルオブズヴィトニーの爪はあらゆるものを切り裂き、その口はあらゆるものを噛み千切る。私の腕もあの者によって噛み千切られてしまったね」
「戦ったのかよ」
「若かったのさ。とにかく、フルオブズヴィトニーを殺してその爪や牙を手に入れる事ができれば、ジョームンガンダーにも対抗し得る」
「あァさ、生憎だがそれも断るよ」
「……それは、何故かな」
いやだって。
「フルオブズヴィトニーってなを殺す理由が、食うためじゃねェ。ジョームンガンダー殺すためにフルオブズヴィトニー殺すってな俺の譲れねェ部分に触れる。面倒臭い奴で悪ィな。この話はナシだ」
「聞いていて思ったのですが、アナタ相当に面倒臭い方ですね。軽蔑します」
「お前も相当だよ」
「傷付きました」
魔煙草……は、温存しておこう。
まァ、そういうことだ。ンな武器作るためだけにソイツ殺す、みてェなのァ好かねェ。悪いが他を当たってくれってな。訪ねてきたのァ俺なンだが。
「わかった」
「ン、わかってくれたか。じゃあ」
「なら、フルオブズヴィトニーの殺しは諦めよう。私が彼女を殺したい理由はただ1つ、危険だから、というだけだからね。君がもし彼女を抱き込めるのなら──それで問題はない」
「へェ。なんぞ長年の恨みつらみがあります、ってツラしてたのに、ンな妥協ができンのか」
「それだけ君は魅力的、という話さ。貴女からは強い死の気配を感じるからね」
……まァ、こいつもちと怪しいな。
アオンのせいで疑り深くなっちまってるのァ自覚してるが、こうもとんとん拍子だとな。本心かかどォか見極めるにも、顔が骸骨なンでわかりづれェし。
「1つ、いいか」
「勿論だとも」
「そォまでしてアンタがジョームンガンダーを殺してェ理由はなンだ」
「……難しい事を聞くね。理由は様々だけど──」
「あ! また難しい事を質問していますね! 私のみならずツイウにまでそういう事するの止めてください!」
「黙ってろアホ」
「単純罵倒!?」
ツイウは、少しばかり悩む素振りを見せる。
様々。1つじゃねェんだな。色々あって──今、その中でもとびきりの奴を選んでる、って感じか。
「うん。そうだね。私がジョームンガンダーを殺したい理由は──復讐、かな」
「復讐?」
「そうだ。今はこんな見た目な私だけど、昔はもう少し違ってね。私をこんな風にしたジョームンガンダーに復讐したい」
「……そうけ」
なんぞ。
含みのある言葉、だが。
まァいい。警戒するに越したことはない、ってなが強まっただけで十分だ。
「んじゃ、とりあえずそのフルオブズヴィトニーってなに会ってくるよ。場所、教えてくれるか?」
「ああ。けれど、単身で向かうのかい? 私がついていった方が……」
「馬鹿、アンタにはソイツと因縁があんだろ? で、ジョームンガンダーを弱らせるってな毒も完成してねェんだ。それの開発急げよ。俺ァ俺のできることをする。アンタはアンタのできることをする。それが利害の一致ってモンだ」
「……わかった」
「言っておきますけどワタシはついて行かないので」
「あァさこっちから願い下げだ」
「じゃあついていきます!!」
「……勝手にしろよもう」
「なんでそんなことアナタに命令されなきゃいけないんですか」
流石にぶん殴った。
さて。
目指すはジョームンガンダー……から寄り道しての、フルオブズヴィトニー。
穏便にいけると良いんだがな。