それは敗走だった。潰走と言っても過言ではない。
神を目にし、膝を折り、天幕の向こう側から吐き出され──そしてまた、神を目にした。
一瞬で無理だと分かった。一目で逆らえないと悟った。故に逃げた。他の者達を置いて、逃げた。
「──ク」
笑ってしまう。
笑えてしまう。何をしているのだと、笑ってしまう。
オリジン。自らや、あるいは殿。他、少なくない数のそれらとは一線を画す。たとえ正面に立ったとしても感じなかった威圧。あるいは輝き。どの魔法少女にも、どの魔物にも感じないそれを感じ──逃げた。獣らしく、命の危機を感じて。
己は北方の出だ。元よりEDENとも西方とも関係の無い身。
彼女が消えたのならばここにいる意味は無く。彼女がいないのならば、わざわざ危険を冒す意味も無い。
神。そういうものがあるとは知っていた。風の声も、世界の声も聞こえている。だからいる事は知っていた。
あぁ、けれど。
あんなにも──あんなにも、恐ろしいものだったとは。
「ク、ク」
笑える。
笑いが止まらない。
魔として生まれ落ち、太陽を食ろうた摂理の狐。それがまさか太陽の使徒へと覚醒し、こうも人間と関わり合うとは思っていなかった。
こうも──逃げた事に、罪悪感を覚えようとは。
初めの頃は、本当に思っていなかったのだ。
「……すまない、などと」
言えた口ではないが。
どの道自身は魔物であり。
どの道自身は、最後の最後には死ぬ。太陽の使徒であることなど関係はない。魔物は輪廻の呪縛から逃れ得ることもできず、互いに食い合い殺し合って高め合う。そうしなければならない。世界を巡る風として、その使徒として──そうして、最後には死ななければならない。
だから、今逃げても。
どうせ死ぬ。
だから、今諦めても。
どうせ死ぬ。
吾1匹いなくなったところで問題はないだろう、と。
そう高を括って──故郷に帰ってきた。何度も後ろ髪を引かれ、何度も戻ろうとし、けれど諦め、悩みに悩んで──やはり静観を選んだ。我ながら幼子のような女々しさだとは思うが、
まさか帰って来たところで、彼女の姿を見よう、などとは思わなんだが。
「……フルオブズヴィトニー。ジョームンガンダー。クク、吾でも刺激しようとは思わぬ大物を、よくぞ、と言いたいが」
全部見ていた。
北方山脈の麓に存在するこの林。それをもう少し行った所で、自らは生まれた。
懐かしい話だ。その頃はもう少し小さかったフルオブズヴィトニーとジョームンガンダーを、しかしそれを差し引いても刺激しないよう迂回路を取ったものだというのに。
悪名高き姉妹の魔物。すべてを凍らせ全てに噛みつく姉と、すべてを滅ぼし全てを食らう妹。己が生まれた時には多少あった人間や仙女の集まりも、この姉妹によって食われ尽くした。魔物も、だ。目に付く魔物はすべて2つの腹の中。ゆえにこの辺りには体躯の大きな魔物がいないし、いたとしても北方海域の方にまで離れている。
彼女らがいるせいで風は淀まず、形成地点も生まれない。彼女らがいるせいで獣もほとんど寄り付かず、食事もままならない。
こんな場所はすぐに出て行った方が良いと──己含め、ほとんどの魔物が逃げ出したこの魔境で。
よくもまぁ、ああも真っ向から喧嘩を売り、討ち果たしたものだ、と。
助力はあったが、それでも大部分は彼女の功績だろう。
それに、と。
「最後に会った時は、殺しを躊躇っていたように思えたが……ク、それも成長、か? 良き方向か、悪しき方向かはわからないが」
殺す事。傷つける事。
それらを極端に嫌っていた──魔物にさえもそれを向けていた彼女が、それをしなくなっていた。
どころかその亡骸を食す……まるで、本当の魔物であるかのような行為さえ、魔法少女達に見守られる中、平然と行っていた。
魔物として考えるのなら、確かに当然だ。殺した相手を食べない、などという選択肢はない。それが毒や酸を持っている場合は別だが、それならばそもそも仕掛けない。
素直に思う。
変わったな、と。
鬼気迫るものがあった、というか。
何か焦っている。そう感じた。
「……当然か」
彼女の飛び去って行った方向を見ながら呟く。
自らのオリジンたる力を持って一枚紙を出して、それが萎びるのを感じる。
魔力だ。
魔力が、もう、薄い。
核さえあれば魔力の生成を行い得る魔法少女であるから、己はまだ大丈夫だが。
そうでないものにとっては、ひしひしと感じる事だろう。
世界の終わり。
あるいは──その収縮を。
「さて。行くべきであると、そう思うかえ?」
「なんだ、気付いていたのか。傷心中ゆえ、話しかけずおいてやろうと思ったのだが」
「クク、頭領も冗談を覚えたか。……地に潜っているそちらのも、出てくるが良い」
「流石に驚かすのは無理か」
「たとえコイツの足を引っ掴んだとしても驚きはしないだろう」
「そうなんだ」
頭領は良いとして、地面より浮かび出る白みがかった銀髪に、何やら沢山の輝く髪飾りのついた少女。
ヒノモトでは単なる国民の1人だったという、あるるらら、という少女。
「良いのか? EDENは今厳戒態勢であろう。蘇生槽の連続使用ができなくなった以上、あらゆる魔物からの脅威に全力で立ち向かわなければならないのだから」
「知らんな。勝手にやっていればいい」
「ヴェネット達も何か画策しているみたいだし、私達が単独行動しても問題ないと思うよ」
「そういうものか?」
そういうものではないように思うが。
ヴェネット。【凍融】か。
その画策なるものが、"役割の統合"であるのなら──あるいはそれが、神に対抗し得る手段になるのかもしれない。
……ク。そんなどうでもいいことを即座に思いつく程には、魔法少女に染まったか。
「そして、ついていく、いかない、の話だったか。当然だが、私達は行く。そのために来た。お前がどうするかはどうでもいい。妖1匹いなかろうと然したる差はなかろう」
「戦力は足りているからね」
「他にも増援がいるのかえ?」
「ううん、そこ」
そこ。
そう指の差された方を向けば──そこには、未だ親の庇護が必要だろう年齢の少女が1人。
隠れているつもりなのだろうが、全く隠れる事のできていない様相で、こちらを窺っていた。
気付かなかった、というわけではない。
気にしていなかった、が正しい。矮小故に。たとえ攻撃を仕掛けられたとして、どうにもならない。彼女に倣うのならば、魔法少女を殺さない──それを貫くつもりでもあった、というのもある。嫌われたくはないのでな。
「ば、ばれてるっ!?」
「何者だ?」
「なんだ頭領、気付いていなかったのか? ク、腕が鈍りに鈍りまくっているようで何よりだ」
「気配は察していたが、魔法少女だとは思っていなかった、が正しいな」
「こんにちは。君の名前は?」
頭領と無駄口を叩いている間に、あるるららが少女に声をかけにいった。
まぁ、それが正しいだろう。事態は一刻を争う。あれほど彼女が急いでいたのだから、その先の目的地に早く行かなければいけない……つまり、こんな所で無駄口叩いていれば、置いていかれる可能性が高い、ということ。
……また、己は。
自然と、魔法少女のような。──あるいは、彼女についていくのが当然である、かのような、考えを。
「えっと……アオン・ガフス」
「うん。良く言えました」
「あ、小さい子だって思われてる……! 実際そうなんだけど、えと、実はもう少し賢いです……?」
「アオン。何故このような場所にいる? 何故私達を見張っていた」
「見張ってたっていうか、クロムクラハがどこにいったか見るために一番高いとこにきたら貴女達がいたっていうか」
「クロムクラハ?」
──また、懐かしい名前を出すものだと。
そう思った。
遠い昔、ある仙女がこの地を訪れた。"予言の巫女"を名乗るその少女は魔なる者と会話が可能で、故に魔物にも、人間にも、仙女……魔法少女にも、ある予言を残していった。
予言だ。眉唾物と言って切り捨てるものも多かった。そうでなくともフルオブズヴィトニーとジョームンガンダーのいるこの土地に残り続けたいと思うものなどほんの僅かだった。
予言。
──"サムヘインの日、戦いと死と太陽の神クロムクラハが降誕する。彼女は欲す。知識を。彼女は欲す。血肉を。彼女は欲す。戦いを。恐れよ。畏れよ。クロムクラハは魔なる王。すべてを担い、全てを背負い、凡ての魔に告げるだろう。行け。目指せ。天幕を越えろ。その先にある世界を目指せ"
──"願え。祈れ。彼女こそが神である。彼女こそが真なる王である。挑め。盾突け。逆らえ。それが糧となる。それが夢となる。それが希望となる"
──"かくして魔の王クロムクラハは、数多の魔を率いて天へと昇る。流れる銀糸。碧き瞳。彼女は魔を惹き付ける。風も太陽も夜も彼女に従うだろう。何故ならば、彼女は前に進むもの。如何なる姿となっても、前に進み続けるもの。すべては彼女の後に続き、その道筋を彩るだろう。それこそが唯一の正解だと知っているがために"
「……まさか」
「クロムクラハは、私達の神様なの。綺麗な銀の髪と、綺麗な碧い目の女の子」
「そっか。それじゃあ君は、クロムクラハを追いかけるつもりなんだね?」
「……ちょっと嫌われちゃった感じはあるけど、勝手について行っても怒られはしないはず。"もう知らねェ、勝手にしろ"、って言われたし」
「確定したな」
「うん」
サムヘインの日。
光と闇が切り替わるその日。失われた暦において、その日は"夜の日"と呼ばれている。
ああ。
「ク──」
笑いが、出る。
全く。どんな行いをしたら、そのような業を背負うのか。
初めて見た時から惹かれていた。ああも──ああまでに、死を好いている者はそういまい。本人自体も、そして周囲のものも。死を好きすぎている。好かれているのではない。己を含めた全員が、彼女に近づく、近付かんとする全員が──死を好んでいる。
彼女自身は忌み嫌っているつもりだろうが、ク、無理がある。
それが。
それがそれが。
行方知れずとなった先で──戦いと死と太陽の神になっている、とは。
「クククッ」
笑いがこらえきれない。
「えっと……あのお面のお姉さんは、なんで笑ってるの?」
「アレはああいう発作持ちだ。気にするな」
「そろそろ、行こうか。本当に置いていかれてしまうかもしれないから」
「そうだな。ああ、一応自己紹介をしておこう。私はカネミツ。こっちはあるるらら。ソイツは……まぁ、ついてくる気が無いようだから、どうでもいいか」
「吾はナリコ、という。よろしく頼むぞ」
「あ、はい。……えっと、貴女達もクロムクラハを追いかける、ってことでいいの?」
「無論ぞ。──ク。良い良い。良い運命だ」
「?」
逃げた。
尻尾を巻いて逃げた。
だが、どうしてだろうか。何故だろうか。
彼女の後を追う、というのなら。
──怖くはない。
「クク……どれ、飛行魔法では無駄な魔力を消費しよう。式鬼に後を辿らせている。ゆえ、乗るが良い」
出すのは
「……これ、何?」
「紙ぞ」
「紙?」
「賢い、というのは嘘と見た」
「え、ちょ、いやだって流石に見たことないものまでは……!」
「いいから乗ってね」
「あ、はい」
さてはて──行き先は、北方海域か。
ク、フルオブズヴィトニーとジョームンガンダーから逃げたオリジン共の集まり。己と同じく、命惜しさに逃げた魔物に、何の用があるというのか。
わ、わわ、などといって体勢を保てないでいる少女を、頭領が支える。
……ク。なんだかんだと言って、面倒見の良いものだ。
「ゆくぞ。ク──どうせ来るだろう者含めて、追いつくために」
「無駄口は必要か?」
「否。ジョームンガンダーを倒したお前を、ここから視認した。──認めよう。お前は我らの王である。故、その言葉に従おう」
「周辺海域のオリジンももう揃っている。皆、異存はないそうだ」
「物分かりが良くて助かるよ。んじゃ、すぐに行こう。道ァ俺がつける」
「承知した」
北方海域。
スーグとシュジの島。その周辺に、なるほど、凄まじい量のオリジンが集まっていた。
でけェ氷山の下にいた犬っぽいウミヘビっぽい奴、クトウ。宙に浮かんでる。海だけが活動範囲じゃねェのな。
その先の海底洞窟にいた守る者のいた海夜叉ってな奴、マフク。その配下っぽい魔物達。
比較的穏やかとか言ってた癖に超絶敵意向けてきた面倒臭がり3姉妹、魃と罰と跋。今は落ち着いてるよォで何より。
そしてスーグとシュジ。
他、名前の知らねェオリジン沢山。スーグとシュジが声かけてくれたンだろう、人型もそォじゃねェ奴も、巨大な奴も小せェ奴も三者三様。ハハ、こいつらってなそれぞれが単体で災害に数えられるオリジンだ。いいね、戦力としちゃ十分だ。
自分で言った事だ。覚悟はできてるか、とかの無駄口を叩くつもりはない。
だから──文字通り道をつけよォ、として。
それが、目に入った。
「──紙燕?」
「あ、あいつ! まだ生きてたのね!?」
「……太陽の使徒と一緒にいる?」
「否、ジャカンは死んだ。だが、あまりにも……」
すんごい速度で飛んできたのは、いつだかEDENに急行する時に使った紙燕。
それが3つ。乗ってたのァ。
「──ク」
「クロムクラハ!」
「……凄まじい量のオリジン種。これは」
「凄い状況だね」
意外、だった。
お嬢達があァも膝折ってたンだ。なら、こいつらも当然だ、って。
勝手にそう思ってた。アオンは別として。
「問答は要らねェ。手伝ってくれるって事でいいんだよな?」
「無論ぞ」
「無論だ」
「勿論。そのために来たからね」
「私も私も! 勝手にしやがれって言われたから、勝手についていくから!」
「あァさ、もう守らねェからな。勝手にしろ」
そォ言えば、顔を輝かせるアオン。
……はァ。どーせいつか合流すンじゃねェかって予感はあったが、こんなに早ェとはなァ。
「クロムクラハ、そのジャカンに似た者は?」
「ん? あァ、こいつは、似てるけど別モンだよ。ナリコっつってな、火も扱いァするけど、主な武器ァ紙だ。だから、そっちのオリジン達もなんぞ思う所あンだろうけど、納得してくれ。説得するにァちとだりィし時間が無い」
「クク──なんだ、吾にそっくりな魔でもいたのか?」
「いたよ。もう俺が食ったが」
「そうか。──さて、あと数瞬待て、梓」
「あン? もう時間無い、って……」
もう待てねェ、って。
そっちを見て。
……ちょっと、安堵しちまった俺がいた。
「あれは……」
「グクマズ? けど、色も大きさも違う」
──太陽に照らされ、銀に輝く竜。ドラゴン。
あァさ。
そォかい。そォか──そりゃ、最高だな。
「ハハハ……ま、ちったァ俺も傷心してたさ。アイツらが心折れてるって知ってな、ちったァ俺もヤな気分にはなったよ。──けど、そォかい。なら良い。──問答ァ無用だ」
さて、さて、さて!
おいおい、今更聞こえなくなったりしねェよな。最後まで手ェ貸すよな?
あァ、それでいい。んじゃ──あと一柱、足りねェよな。
「?
掴む。
思い出すのァ、お嬢の頭からあったけェ悪霊みてェな魔力取った時の事。
そこにいるのはわかってンだよ。だから、とっとと。
「.
来やがれ、ってンだ。
はン、風は臆病で小心者の蝙蝠野郎、太陽は自分の手汚したくねェキザ野郎たァ驚きだ。夜の神が一番良いじゃねェか。
……いや、ニヤニヤ丸眼鏡の例があるからな。とりわけこいつらは、ってだけか。でもウチの神さんも其夢盗も良い奴だったしなー。やっぱり割合夜の神が一番良いンじゃね?
「これは……」
「今から文字通り道を付ける! 後に続け、魔物も、魔法少女も! そうじゃねェなんかも全部だ!」
ハハハ。
なァ、喜べよ。こんなにすげェコトがあるか!?
魔物と魔法少女だ! 風の使徒と太陽の使徒が、夜の使徒の後を追うンだ。夜の使徒にァ夜も風も太陽も手を貸してる! すげェだろ!
それに──倒せねェ敵が、あるかよ!
「
声に反応して──天に、穴が空く。
毎度毎度すまねェな。ハハ、でもちゃんとおっきくあけてくれてる。こっちにでけェのがいるってわかってるからだろ。見守ってくれてンだ。そんな嬉しいことはねェ。
「
瞬間、その場にやべェ規模の気流が生まれる。いんやさ、風っていうから風っぽいことできるンじゃねェかって適当に無茶ぶりしてみたら、できるでやんの。しかも、すげェな。結構でけェクトウとかも巻き込む威力の風。当然俺も、他の奴らも、天へ天へと舞い上げられる。
だがまだだ。もう一個やっとくことがある。
「!
──それにより、皆が仄かに発光する。
へェ、素直に聞いてくれンだな。他の奴らに後れを取るわけにはいかねェ、とかか? ま、ありがとう、とは言っておくよ。
「さァ──行くぞ!」
「──ハ」
最初に出たのは、笑いだった。
穴の開いた場所は、夜の宮からはちィと離れた荒地。俺のためにつくられた花畑からも遠く、あの街も見えない場所。まァそれはいいんだ。いっぱいでけェの来るしな。
──見るべきは、地面ではなく。
「……なんだ、あれは」
「空……?」
魔物達から動揺が広がる。
魔法少女側を見れば──あァ、こっちもわかってねェようで。
「梓。あれは」
「ありゃ世界だよ。笑っちまうけどな。──冥界挟んで、向こう側。新しい世界さ。こっちから吸い取った魔力と人間がいる。今はまだ精神を引っこ抜かれァしてねェが、それも時間の問題。それが終われば──コッチの世界は苦しみながら死んで、萎んで。アッチの世界は、膨らんで、新生する」
「あれが、世界……?」
そりゃまァそういう反応にもなる。
空だ。
蒼穹──とまでァ広くねェ。まだな。
だけど、そこには空があった。空色の天体、とでも言えばいいか。
あれもまた、あっちの世界にとっての天幕なンだ。
「あそこに行くのか?」
「いんやさ、俺達の目的はアレだ。見えるか? あの黒いの」
「……あぁ」
地平の向こう。
光り輝く天地の境に、でんと大きな直方体。
そんな時間は経ってねェが、今や懐かしき宙の莽。
「──ちょっと! 目があったのに置いてくってどういうことよ!!」
「あン? マッドチビ先生ならなんとかしてついてくると思ってよ。あれ、つかLOGOSは?」
「置いてきたに決まってるでしょ。何度も言ってるけど、LOGOSは高空には耐えられないの。──って、なに、あれ」
「マッドチビ先生の偽物が作ってる新しい世界だ」
「……なるほど。じゃ、壊すわ」
言って──この場の誰よりも、どの魔物よりも早くストックしていたのだろう【鉱水】を槍状にするマッドチビ先生。あ、ちゃんとこいつらにも太陽の膜かかってンのか。意外に律儀じゃねェか。
じゃなくて。
「マッドチビ先生、壊すのはあっち。あれの中にァ人間がたくさんいてよ。そォじゃなくとも、今ここで壊したら世界の魔力が全部冥界に戻っちまう。だから──」
「不利益、ないじゃない。やるわ」
「そうだな。どの道魔物は死を急ぐ。世界から魔力が減るというのなら、世界の苦しみも減るだろう」
「簡潔なのは好きよ。魔力を吸いだしている、その先がアレだというのなら、アレを壊せば終わり。その通りね」
「……普通に、攻撃する……?」
「ク──吾の妻よ。魔物に人間を慮れとは、無茶を言うものぞ」
んー。
やべェな、ちょっと。
「"ふざけるな"──と、言わないんだ?」
「キラキラツインテはいつも核心ついてくんなァ。【透過】ってな心の中まで透かせられンのか?」
「誰もがそう言うと思うよ。EDENで君と関わってきた人たちなら、誰でも」
「……あァな」
やべェ。
──不利益が無い、とか。
そォ思ってる自分が、やべェ。
おいおい。俺、あっちに家族いるンだぞ?
なンでそんなこと思ってる。
……簡単だ。
だってもし、ここで、あの世界が潰えたら。
中の生き物ァ全部──冥界行き。つまり夜の使徒になる。魔物は輪廻の呪縛に縛られてるからここで死んだって関係ァ無いが、人間は違う。魔物になってねェ人間は、冥界に来たら死ぬ。──無宗教の奴らをウチに入信させられンだ。
その、これ以上ない機会。国と輝きの園。その人口が全部、なンて。
「──ま、いいよ。勝手にやってな。俺ァ宙の莽に行く」
「いいんだ」
「あァ」
ただまァ、と。
思い直す。
いんやさ、それができンなら、だよ。
やってるだろ、ハナから。誰かが。なんなら神さんが世界を殺してやればいい。
できねェんだろ、多分。
世界を外側から壊す、ってな。だから俺達が送り込まれたンだし。
時間が無いって言ったばっかなンだ。いう事きかねェ奴らは置いていくよ。
飛ぶ。
ハハ、潤沢な冥界の魔力だ。俺が無理矢理近づかずとも、溢れる程にある。
なンで、宙の莽までひとっ飛びさ。
「ついてくンのかい」
「なんだ、邪魔だったか?」
「いんやさ、お前らもアイツらと同じだと思ってたからさ」
「我らはお前についていくと誓った。お前がどこぞへ行くというのなら、それに従うまでだ。我らが声をかけただけの者どもと一緒にしてくれるな」
スーグとシュジ。
その2頭が、俺のすぐ横っつか下を駆けていた。はえーなァ。虎ってなそんなに速く走れたっけ?
で、その背には。
「わ、わぶっ!」
「しっかり掴まっていろ。あるるらら、もし落ちた場合は頼む」
「うん、いいよ」
……コイツ、ホントなんでついてきたンだか。
この中で自分が一番弱いってわかってンのか? あァまァキラキラツインテがどォかは知らねェが。尖り前髪も……ん-、でもコイツ絶対A級じゃない気がするンだよなァ。普通にSS級ありそう。
な奴らがスーグの背に乗ってて。
「クク──先ほどから妙な敵意を向けてくるがな、先に吾の妻が言ったように、その者と吾は別だ。理解しろ」
「それは理解したが、何故我の背に乗る。自らで走り得るだろう」
「吾は狐故な。虎を駆る狐とは、古来の北方海域ではよく言ったものぞ」
「……なんだ、お前、北方の出か?」
「ククク、覚えておらぬか、シュジ。式鬼城郷、という名を出さねば無理かえ?」
「……貴様、フシワラか」
「ナリコと呼べ」
シュジの背にァ、着物狐。
他、いくらかのオリジン……マフクとか、その家族っぽい魔物とかがついてきてくれてる。クトウとバツの3位はマッドチビ先生と世界壊しに夢中、と。
んで。
「よォ、お前らこそ乗せてもらわなくていいのか?」
「ウィジ、これは多分なめられている。梓のくせに」
「リジ、ここでは梓は強い。強くなった気でいる。簡単に身体を奪われたくせに強気でいる。そういうものだ」
「……すごい。ウィジ、そこまで成長したんだ。ちょっと感動してる」
「煽れるよォになったのを成長たァ呼ばねェよ」
こっちも、爆速で走るアインハージャ達。
俺も、スーグとシュジもやべェ速さで走ってンのに、よくヒトの身で……って、何目線だコレ。さっきから危ねェな。なンか思考おかしくねェか俺。
「宙の莽、といったか」
「あァ」
「あれを壊せばよいのだな?」
「そうだ。ま、ちょっとやそっとで壊れるモンじゃねェから、内部をぶっ壊すのが手っ取り早い──」
「先に行く。振り落とされるなよ、太陽の使徒」
「わ──……」
アオンの声が遠のいていく。
……トップスピードじゃねェのかよ。俺トップスピードだぞ。これ以上は無理だぞ俺。
「クク、お主の相方、ちと短気すぎるのではないか?」
「いや、普段は短気な我を御するのがスーグなのだが……」
「ならば、それほどやる気に満ち溢れている、ということだろう。良い良い。さて──吾の妻」
「なンだ」
「吾ら魔物は、回りくどい事を好まぬ。吾は別だが、基本全員単純明快を初手に取ると思え。故に──」
「壊し難い、からといって──わざわざ敵陣に入る程愚かではない!」
また、俺を通り越して行くのァマフク。その後ろに追従する魔物も、ちらっとこっちを見て、そのまま追っかけてった。一匹だけこっちに向かって舌出したのァなんなんだ。
「クククッ、前を進み、道をつけるものが一番遅いとはな。ほら、アインハージャの2人。そっちももう少し出せるだろう?」
「無論だ。では梓、追いついてくるといい」
「ウィジ、止まれなくて壁に激突とかしないでね」
「リジ、私を何だと思っているんだ……」
「ボア亜種」
軽口を叩きながら。
アインハージャ達も、加速して行く。嘘だろ。
「シュジ。良い。お主も早く追いつきたかろう?」
「……そうだな。では、クロムクラハ。先に行く」
「ククククククッ! 嗚呼、面白い」
いんやさ。
えェ。
いや時間が無ェって言ったのは確かに俺だし、後ろで世界壊そうとしてる奴ら説得しねェで勝手にこっち来たのも俺なンだけどさ。
えェ。
追い越されンだ俺。冥界の魔力で最高峰の状態になってて、負けるンだ速度。
……しゃーねェ。
ズルするか。
「
馬鹿共が。【神速】の速さに勝てると思うなよ──!!