さて──宙の莽。
帰ってきたな、という感じがある。
見た感じ、マッドチビ側についたっつー神の姿は見えない。お嬢たちが捕まったとかいう檻も。
特に変わらない──何の変哲もない宙の莽。冥界の墓所。あるいは迷宮。
俺としちゃほれ見たことかなンだけど、さっきから攻撃を繰り返しているマフク達ァ、けれど宙の莽に何の傷も与えられていない。
が、勝ち誇ってばかりもいられない。
わかったのァ結局宙の莽の中に入らなきゃなんねェってことと、罠がある可能性が十分に考えられるってこと。前回見てェなヘマァもうしねェと言いたいが、慎重にもなる。
「……あァ。ハハ、いいね。なんだか──調子出てきたぜ」
久しぶりの感覚だった。
精神体になってから。あるいはちょいと強くなってから、感じることのなかったそれ。
──高揚感だ。
つまり、この先ァ──死地ってことだ。
いいじゃねェか。
肩透かしでも、絶望でもねェ。
俺を待ち受けるのが死地であることァ、最上の意がある。
「着物狐、キラキラツインテ、尖り前髪」
「我らも行くぞ」
「あン? なンだよ、宙の莽壊すンじゃねェのかよ」
「それについては謝ろう。少し逸っていた。──柄にもないことだが、我は心躍っているのだ」
「長らくなかった死の気配。ジョームンガンダーに対峙するお前を見て、そしてここ──冥界の空気を吸って。
つまり、まァ。
「戦いてェと」
「そうだ」
「恥じ入ることだが」
「えと、クロムクラハ。私もいるんだけどなー……?」
「あァそーだったな。ま、いいよ。ついてきな。ただアオン、お前ァ前に出るな」
「守ってくれるの?」
「お前の魔法は邪魔だっつってンだよ」
混戦時に【断巻】なんぞ出してみろ。味方まで切り刻まれちまうじゃねェか。
スーグとシュジがどンな戦い方すンのかはまだちっとわからねェが、周りに甚大な被害もたらすよォなもんじゃねェだろ。アオンのそれは、まだまだ練習修練改良が必要だ。
「ク──なんだ、吾の妻。他人にあだ名をつけるのはやめたのかえ?」
「ん……ん-。まァアオンはつける機会がなかったってのもあるンだが」
あだ名。
死んだときに悲しいから、本名で呼ばない。
……けど、ほとんど魔物になって──魔物ってな、名乗りあいがあって。名前を知って、名前を呼んで、その次の瞬間にァ食い殺してる、なんざザラで。
なんか──それは違うンじゃねェか、って。そー思うよォになってたところはある。
つっても波ヘアピンにァあだ名つけてっけど。
単純に嫌いだからかなァ。
「しゃァない、そこまで言うなら今つけるか」
「別に良いのだが、気になっただけだ」
「えーと、サイコチビとかでいいか」
「普通にアオンって呼んでくれてたほうがよかった……」
「うるせェなァ。とっといくぞ、アオン」
「あ、うん!」
なンか。
こいつにあだ名つけンの、しっくりこねェんだよな。
ちゃんと死んだら悲しいし、嫌なンだけど。
俺の──あるいはクロムクラハの部分が、違う、って言ってる。
「ウィジ、なぜ私たちは忘れられているんだと思う?」
「リジ。それはおそらく、この大きな魔獣のせいだ。単純に大きく、私たちが見えない」
「あァ別に忘れてねェよホントだよ」
忘れてた。
迷宮探索する時って基本5人以下だから、スーグとシュジをまとめてちゃんと5つでいいなァとか考えてたわ。
で。
「んじゃ──行くぞ。無駄口は」
「いらねェ、だろ?」
「【静弱】!」
それは半透明の壁によって阻まれる。
だが、止まったのァ一瞬。壁は徐々に終わっていき──だから、拳銃形態のクリスで撃ち返す。ビリヤード、だっけ? こォいうの。
赤スカーフが下がり、青バンダナが槍を構える。スーグとシュジが唸り声を上げ、着物狐が幾枚かの紙を出す。
「おーおー、臨戦態勢だねェ。なンだ、私がここにいンのがそんなに驚きか?」
「あー、てめェ、誰だ」
「あン? 何言ってやがる。私は梓だよ。梓・ライラック」
「馬鹿にすンのも大概にしろよ。てめェのどこが梓・ライラックなンだよ。俺に寄せてきやがって、アイツはもっと生きてるよ」
そこにいたのァ、確かに梓・ライラック。その見た目をした何者かだ。
宙の莽に入ってすぐの曲がり角。そこでずっと構えてたのか、なんとも絶妙なタイミングで撃ってきてくれた。
が、馬鹿野郎。
お前がアズサであるはずがあるか。
そンだけ死を纏ってて、よくもまァ堂々と嘘がつけるモンだ。
「そっちこそ、誰だよ。私に似てるけど」
「……」
「梓。吾を覚えているか?」
「はン、生憎だが知らないね。誰だお前。魔物っぽいが、魔法少女っぽくもあるな」
さて、はて。
あァさ。ちょいと怒りゲージがたまっちまうなァこれは。
「なんだ、記憶を失っているのか?」
「ウィジ、でも自分の名前は言えた」
「クロムクラハの、魔法少女版……?」
ふざけやがる。
どこまで死を、冥界を冒涜する気だ。
「……殺しは?」
「構わねェ」
「なるほど、そういうことか──【飛斬】」
言い終わる前に、特大の斬撃が放たれる。
宙の莽の通路さえもカチ割るンじゃねェかってくらいでけェ斬撃が、アズサを名乗るヤツの体を真っ二つに割る。
「え──」
「ク」
それぞれの呼気が誰のものかはまァどうでもいい。
必要で大事なのァ結果だ。
真っ二つに切られた──俺のカタチをしたもの。
それは、苦しがるでも、痛がるでもなく、すげェ剣幕で尖り前髪をにらみつけている。
「何、しやがる」
「生きて、る?」
「梓、これは」
「あァ」
割れた頭蓋を、クリスでかっ飛ばす。掃除だ。どーせ余計な事しか言わねェだろうし。時間たてば消えるだろ。
「──今のが、今の宙の莽における"迷宮の魔物"。遠慮はいらねェ、全部叩き潰してくれ。本物の気配ァないからよ」
馬鹿にしやがる。
宙の莽にいたアンデッドの魔物、その全部が俺のカタチ、だって?
ハハ──はっはっは。
当てつけってか。
「行かねェなら、先行くぞ」
身体強化はマックスで。
クリスを剣の形状にして、突き進む。すぐに追従するのァ尖り前髪と着物狐。いいね、割り切ってるヤツァ行動が早い。
「さて──俺狩りの時間だ」
どす黒い魔力を纏った弾丸をクリスで切り裂く。一応全部に【死漸】がついてる。だから、当たったら結構やべェ。それはもう周知してある。
その上で、みんなちゃんと激しく戦ってる。ちゃんとっつーのァ、躊躇うヤツがいねェってことだ。
みんな──普通に敵を対処するものとして、俺の姿をしたゾンビ共を倒していく。
「こうも同じ姿の者ばかりだと、薄気味悪いな」
「あン? なンだよ青バンダナ、俺の姿が気味悪いって?」
「いやそういうわけではないのだが」
「大丈夫、俺もそォ思ってるよ」
スーグの爪に引き裂かれ、シュジの体当たりにぶっ潰され。
尖り前髪の剣に斬られ、キラキラツインテに脳を引っこ抜かれ。
着物狐の紙に貫かれ、一応アオンの練習したらしい小規模な刃の竜巻によって切り裂かれ。
槍に突き刺され、盾に押しつぶされ。
銃弾と剣によって、ぐちゃぐちゃのバラバラになって。
──それでも、口さえ残ってりゃ「何、しやがる」とか「痛ェなァ、ちくしょう」とか「なンでだよ、私が、なンで……」とか。
そォいう後味の悪い言葉を残していく──俺の模倣体。
はっはっは。
「ふざけやがってよォ」
「こっちのセリフなンだよ、馬鹿が」
「私がなにしたってンだよ!」
「あァそればっかりァ同情するよ、ホントにな!」
斬る。斬る。
その弾丸こそ怖いが、それさえなけりゃ他は普通のアンデッドと変わらない。動きはのたのたしてるし、【死漸】自体も弾丸を介さないと使えない様子。あるいはありゃ魔石に【死漸】仕込んでるだけか?
だからまァ、クリスで突っ込んでいって腕落として顎落として足を切って、が一番いい。順不同。
「死ね、魔物!」
「殺させるかよ!」
当然なのかはわからねェけど、図体のでけェスーグとシュジは標的にされやすいよォで、彼女らに向かう弾丸は全部叩き落してる。【死漸】の怖さを知らねェだろうからな。
「──弱ェ自分たちがいる意味はあンのか、とか思ってンじゃねェだろうな」
「……クロムクラハ。お前は心を読めるのか?」
「その通りだ。やはり我らはお前に食われるべきだ。この程度の魔を相手に守られているようでは、お前の力になれるとは思えない」
まァな──……は?
今俺、そォだな、とか。まァそうだな、とか。
言おうとした、か?
「魔物と何を会話しているの?」
「……いや、なンでもねェ。集中しろ、ってなまァ俺が一番しろって話だが」
「結局のところ、我らはジョームンガンダーやフルオブズヴィトニーから逃げたオリジン種だ。あれらを御したお前への力添えなど」
「すまねェ、黙ってくれ。俺に従うンだろ、お前ら。じゃあ余計な事言わねェで戦え。どこのどいつが自分の手足食うンだよ。空腹でもねェのに」
守られているようでは、って、そもそもこの魔法ァちゃんとすげェ魔法なンだよ。普通にSSS級狙える魔法なンだよ。だから守って当然だし、守られて当然だ。自分たちは死んじまうから今ここで食われたほうが得って、やめろよ。
魔法少女みてェなこと言うんじゃねェ。お前らまでそっちに回ったら──あァいや、考えたくもねェ。
──クリスを後ろに振れ。
「……うるせェ」
直感に、従わない。
従わずに退がる。そこに、その鋭い爪を振り下ろすスーグの姿。
「やはり、魔物か?」
「カネミツ、少し待って」
「クク──」
おい。
今、敵地だぞ。
従ってくれるって言ったよな、お前ら。
なンだ──その、目は。
「クロムクラハ」
「……」
「我らと戦え」
「──後にしろ。宙の莽の機能を破壊し終えたら、いくらでも戦ってやる。いくらでも食ってやる。だから」
「それでは、遅いのだ」
──攻撃しろ。避ける必要はない。その程度の攻撃に、今の状態の俺なら傷一つ負いはしない。
──殺せ。食え。僅かでも糧となる。外の魔もそうだ。言うことを聞かない者たちを残しておく必要はない。
──死を。どの道魔物だ。敵の攻撃で死ぬより、俺が食って殺した方が全体の益になる。
「うるせェつってンだろ!!」
今まで、【即死】の気配を察知して、直感のよォに働いていたそれ。
違う。
これは、俺の直感なンかじゃねェ。
自分の面を掴む。
うるせェうるせェうるせェ。
「
暖かいそれ。
あァさ、やっぱ信用なンねェ。助力なんざ求めなきゃよかった。
いつだかお嬢の頭にもついてた──太陽の気配。
ぶちぶちと、千切れていく何か。
その痛み。あるいは喪失感を無視して、掴み千切って──殺す。
「
──目の前に、爪。
避ける。あァ、すっきりした。
「
「!」
「……これは、風の」
「
スーグとシュジ、ついでに着物狐の体が硬直する。
はン。うるせェうるせェ。
ぐだぐだ言ってンじゃねェってな。
「……わかった」
「吾の妻。それは吾にも効く。抵抗はできるが、あまり快いものではないぞ?」
「その狐耳閉じてりゃいーだろォが」
「ク──実は吾にはヒトのような耳もあるのだ」
「知らねェよ」
これでとりあえずは大丈夫だ。
……ほとんど、というかまるっきり始の点で出会った太陽の使徒とおんなじことしてるけど。
いいよ、戦いてェなら後でやってやる。食われてェとかふざけたこと抜かすンなら後で検討してやる。
今は目の前に集中しろ。
「クロムクラハ、あれ!」
「今度はなンだ」
「人! ヒトが倒れてる!」
アオンが指さす方。
通路──そっちは確か行き止まりなンだが、その奥。
そこに、いた。
「……なんだこれ」
何か、水晶のようなもんに囚われた──ピンクカチューシャ。
それが、でん、と。通路の最奥に置かれていた。
うわ罠くせェ……。
……考えろ。
えーと、ピンクカチューシャは、手を殺したンだよな。けどアズサが終わらせちまって、けどその死体……つまり魔法の使える肉体は多分疑似【隠涜】で持ってかれて。
で、あの最奥の部屋で、全部を俺に合成するために使われた──はずだ。多分。
最後の最後までを確認できたワケじゃねェから多分止まりなンだが、だからまァこの水晶を割れたとしても、死んでる可能性のが高い。ンなもんを行き止まりに配置する理由は。
ん……でも、なんぞ命の気配がする、よォな?
蘇生した、のか? いや、けど冥界だ。蘇生槽との経路なんざつながってるはずァない。
……あるいは、アズサの【終焉】は……あの時のアレは、何か違う効果があった、とか?
「罠、だとして。放っておくのと、調べに行くの。どっちが不利益にならねェか」
「変わったね、少し」
「ン?」
クリスで切り裂いた俺型アンデッド──その脳を引っこ抜いたキラキラツインテが、そんなことを言ってきた。
変わった。
とは。
「前の君なら、罠だとわかっていても、とりあえず人命最優先で駆けつけていたと思うよ。その上で罠にも対処した。……自覚は、ないのかな」
「……それァ」
そう、だ。
昔の俺なら。たとえ敵であっても、駆けつけていただろう。それがニヤニヤ丸眼鏡でも、マッドチビでも、だ。裏切られたら、罠だったら、そん時ァそん時で対処すりゃいい、って。
罠じゃねェか、って考えるよォになったのァなぜか。
ちらっとアオンを見る。
……まァそれもあるが。
「咄嗟に魔法を使えなくなった、ってのァでけェかもな」
「そっか」
「あァ。前なら、【即死】も【死漸】も咄嗟に使えた。脳の強化でゆったりにした世界で、あるいは極限状態のギリギリで。だから向こう見ずで危険なンて顧みなかった──……ってなは」
そんなんは、屁理屈だ。
後付けだ。
違う。魔法の有無、じゃねェ。
俺は……変わったンだ。
「クロムクラハ。我らが行くか?」
「いや……いい。俺が行く」
スーグの提案を断り、その1歩を踏み出した。
何か、欠落というか。
あるべきものを。昔の在り方を。
見失っている、気がする。もとから手のひらくるっくるな言葉の軽いやろーが俺だがよ、そこの芯は……俺自身が変えたくねェって、変わりたくねェって思ってたはずだ。
ゆっくり、歩く。
行き止まりだ。周囲に通路もない。
だから、後ろの部屋でみんながアンデッド倒しててくれりゃ、俺ァ何も気にせずにいける。
行けるから、行って。
辿り着いた。
──絶対に罠だ。
これに触れたら、何か、よくないことが起きる。
「ハ」
鼻で笑ってしまった。
あァさ。あァさ、そうさ。
なーに慎重になってンだ、俺。
向こう見ずの馬鹿野郎が俺だろ。自分が不利益被るかもとか、ケガするかもとか、そォいうの度外視して突っ込むのが俺だったろ。
死にたくねェのは変わらねェ。食い合い以外で殺したくねェのも変わらねェ。
けど、罠にびびって──命の気配のするもんを、こんな場所に捨て置くようなヤツじゃなかっただろ。
「ハハハ──それを、成長とは」
呼びたかねェな。
だから、触れる。
材質もわからねェ水晶に。ピンクカチューシャの囚われたそれに。
──途端、それは光を放ち始めた。
後方。青バンダナの「梓!」という声が聞こえる。けど、俺ァもう周り真っ白で何も見えねェ。
ほら、やっぱり罠じゃねェか。
わかりきってた。絶対に調べに行かなくてよかった。
けど。
「おい……起きろよ、ピンクカチューシャ」
「……」
「お前はまだ、
カシヨの村にいた連中とは違う。俺が今まで食ってきた魔物とも違う。
こいつは多分、利用されただけで。
こいつは多分、まだ生きたくて。
死にたくない一心で──魔法を使ってる。
「【帰述】、つったか。眠り姫の封印の項目でもあるンだろ? ……それは多分、アイツらにさえ解けねェ固い封印だ。玉座にて意識を取り戻したお前ァ、命からがらに逃げたンだろ。そうして、なけなしの魔力でそれを使った。防御になりうる唯一の魔法。【終焉】でも終わらせることのできない逸話」
水晶の表面をなでる。
わかる。
これは、内側にエネルギーが向かっている。放出されることがない。ゆえに【終焉】では終わらせることができない。【死漸】でも無理だ。これは、封印された本人が目覚めたいと思わなければ、決して解けることのない秘法。
反魔鉱石による封印措置なンて目じゃねェ。これはキラキラツインテの【透過】さえ通さない。
拒絶。あるいは──世界の創造。
そうか。マッドチビがピンクカチューシャを連れ出した理由はそれか。【合成】と【蟲独】に並ぶにァ、ちょいと毛色が違うたァ思ってたンだ。
「
発動する。
夜の言葉を介して太陽の魔法を使う。
それは世界を終わらせる魔法。対世界の時にのみ、最大の効果を発揮する魔法。
「……ほら、逃がしてやるからよ。起きな。──まだ死にたくねェと怯える奴には、冥界は早いのさ」
ピシッ、と。
罅が入る。
これは多分、マッドチビ達にも処理できなかったンだろう。
だから、捨てた。迷宮の行き止まりなんつー誰も立ち寄らねェ場所に。迷宮の外に置くと、神さんたちが持って行っちまう可能性もあるしな。
なンで、捨てて。一応利用価値考えて罠も施した、って感じかね。
「ピンクカチューシャ。……いや、プリメイラ、っつったか。もう魔法は使わねェで、物書きとして生きなよ。アンタの本、結構売れてンだろ?」
「……でも」
あァ。罅はどんどんでかくなる。
その口がもう動くのァ驚いたが……これなら。
「でも、なンだ」
「読者はもう、下の世界には、いないのだ」
「──」
こいつがいつからこの状態だったのかは知らねェが……本意じゃなかったンだろうことは、確認できたな。
「読者も取り返すよ。あっちの世界の国は俺が取り返す。だから、逃げな。アンタ、元から前張って戦う奴じゃねェだろ」
「……でも」
「でも、なンだ」
水晶はどんどんひび割れていく。どんどん、ピンクカチューシャの体を露出させていく。
「みんなを置いては、いけないのだ」
「みんなって、【合成】と【蟲独】か?」
「そうなのだ。それに、ゲヘナも、梓も、シエナも、アニマも……助けてくれたお礼は、しないといけないのだ」
「それも俺がやっとくよ」
「できるのだ?」
「あァさ」
その水晶が、すべて。
「……じゃあ、お願いするのだ。なんだか、疲れて……あったかいお布団で、ゆっくり眠りたいのだ」
「それァ自分で探してくれ。──掘流」
「え」
開く。
迷宮の床なのかどォかは知らねェが──水晶のハゲたピンクカチューシャの真下に。
穴が。
「──の、のだ~~~!?」
「じゃァな、大作期待してるぜ!」
自由落下していくピンクカチューシャにいう。
穴はすぐに閉じた。残ったのは、水晶の破片だけ。
あと、この真っ白い空間だけ。
「……やっぱり罠じゃねェか。これ、どォやって出るンだ?」
まァ、非戦闘員を戦場から逃がせたってな、功績ってことで。
さて、どォ出るかねェ。
歩けども歩けども白。
なンだ、泣き言言うわけじゃねェんだが、俺こんなんばっかだなって。
いんやさ、いいんだよ。別に。死んでる感じもないし、死の気配も命の気配もおかしくなってねェ。だからマジでなんぞかに閉じ込められてるだけって感じァあるんだけど、じゃァ何にってのと、どォやって出るんだってのが付きまとう。
さっきピンクカチューシャに試した世界言語による穴開けは可能。可能だが、いったん元の世界に戻ってまた冥界に戻るってのはちょいとな。実はあんましぼこぼこ穴あけたくねェってのと、ここで穴開けてまた戻ってきた場合どこに出るかわからねェのが痛い。
今まさにみんなが戦闘してるワケだから、できりゃ迷宮の中に戻りたいンだが──さて。
「……ふむ。
ぶわァんと、薄膜の球体が俺を包む。
できた、な。使ってる感覚知らねェからできないかもしれねェとおもってたンだが。
で、これ。
内側にいれば外側の様子を解析できる、みてェなことを委員長が言ってたはずだ。
……どうやって?
「あー、解析結果表示!」
何も起きない。
「ステータスオープン!」
何も起きない。
「chkdsk! help! ipconfig! nbtstat!」
当然、何も起きない。
まァ、【排析】自体は発動しても、使い方がわからなければ意味ねェってことだ。
あるいは。
「……マジで周りに何もないか、だな」
「それはないだろう。いくら【帰述】、あるいは【占幽】といっても無限に広がる世界は作り得ぬ。オレにそれを行う権限があるのなら、初めから恵理須など作ってはいない」
「!?」
バックステップ。
振り返って──けど、そこには何もいない。
周囲。
何もいない。いやまァ強いて言えばピンクカチューシャを囲ってた水晶片があるけど、そのくらい。
誰だ。
どこだ?
「探しても無駄だ。オレは見えない。だが、オレを呼んだのは貴様だろう」
「……もしかしててめェ、太陽か?」
「如何にも」
熱い。
何が──これは、形成された……心臓、か?
「問うが」
「なんだ」
「さっき余計なコト言ってきやがったのァ、お前であってるな?」
「貴様が貴様のものではない魔法を使うからだ。なればオレは貴様の思考を使う。単純な取引だろう」
「
「無駄だと言った」
本当に無駄らしい。
……あークソ、神さんみてェにちょっと透き通った声なのがむかつく。男性的ってよりァ某塚みてェな声で、なんつーか魅力のある声だよ。ムカつくほどに。
「何用だよ」
「用など無い。ただ、貴様に憑いていたらオレも閉じ込められてしまったというだけのこと」
「馬鹿か?」
「何、本体ではない。今のオレはただの魔力に過ぎん。ゆえ、特に何か助力をするということもない」
「馬鹿か?」
「仲間に発破をかけられたからといって自らの成長をかき消し、打消し、過去の自分に帰らんとして明らかに罠であるものに近づき、こうして閉じ込められている貴様は馬鹿ではないと?」
「……いや何にも言い返せねェけどよ」
その通り過ぎて。
うわうぜー。こいつ正論マンかよ。
「で、結局ここはなんなんだ。まァわかんなくてもいいけど出る方法教えろよ。世界に戻る以外で」
「簡単だ」
「へェ?」
無限に広がる世界だ、って言った。
それから出る方法が、穴あける以外にあると。
「この空間は無限であるというよりは、端と端がつながっている、というべきだ。つまり、見た目以上に、そして体感以上に狭い。ならば」
「──ははァん? つまり、その法則をぶっ壊し得る──やべェコトすりゃ、耐えきれなくてぶっ壊れると」
「その通りだ。だが、魔法ではいけない。魔法少女を閉じ込める兼罠として用いられたこの結界は、魔法では打ち破れない」
「それだけ聞けりゃ十分だ」
クリスを──狙撃銃のカタチにして、上へ向ける。真上だ。
──借りるぜ。
「
銃口から飛び出るは、膨大な規模の"滅び"。
それは吹き出て、雨となりて──世界に降り注ぐ。【世涯】は維持してる。だから俺ァ大丈夫。
雨はこの真っ白な世界に落ち──次第に溜まり始めた。
なるほど。端と端がつながってるってことァ、ある意味で壁があるよォなものだ。だから、溜まる。
そしてそれは【世涯】の球体を飲み込むほどにまで水嵩を増し。
「……風の技に負ける、というのは気に食わないが、いいだろう。さて、一応応援でも送っておく。頑張れ、オレの元使徒。次に相まみえるときは、その生意気な態度が直っていることを期待している」
「直すワケねーだろ。早く消えちまいなクソ太陽」
「……オレの魔法を勝手に使っておいて、なんという言い草だ。早めに死ね、夜の使徒」
そんなやり取りをして。
──直後、世界が弾けた。