遠吠えは遥か彼方に   作:劇鼠らてこ

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十四、収監編
95.阿経路渡会井鈍斗御椀都塔理面場.


 さて、一刻も早く梓様のところへ向かいたい──のは山々なのですが、現在EDENは少しばかりの問題を抱えております。

 それが何か、というと。

 

「……あの」

「はい?」

「コーネリアス・ローグンさん、ですよね。その、睡眠薬というものを……」

「ああ、【劇毒】は姉のリヴィルです。私は持ち合わせておりませんので、悪しからず」

「そう、ですか」

 

 EDENは国家防衛機構です。いえ、その根本は別物であり、ジャハンナム様によって変えられてしまったがゆえの姿であるとはいえ、私を含むほとんどの魔法少女は国を、あるいは大切な方々を守る、という一本芯の下その身に鞭を打ってきました。

 それが──神の降臨に伴う、国の持ち去りによって、熱意、というものを失ってしまった方々が多数。

 その方々は戦意を喪失しているも同然で、「終わりの時まで眠りたい」と姉に【劇毒】たる睡眠薬や弛緩薬を求むるようになりました。相変わらず魔物は襲ってきますし、前回の泥雨のような突発的な事態がないというわけでもないのに、もう自分たちの役目は終わったとばかりに、休息を。

 

 それを否定することはありません。

 ただ……どうなのでしょうか、とは思います。立ち上がるための休息ならともかく、やる気がないから死ぬまで動かないことを望む、というのは。

 それは自殺と何ら変わらないのでは、と。

 

 この現象は、主に防衛組の中では"怠惰病"と俗称が広まっておりまして、中には無理矢理叱咤をしてその関係性に亀裂が、などの話も少なくはありません。まぁ私達防衛組はEDENを守護するという"仕事"があるのでそれに罹らずに済んでいますが、確かにそれ以外の方々は強い喪失感を覚えているのでしょうね。

 

 ですから、防衛組の一員たる私が冥界などに向かう、というのは難しい話であったりします。特に私の魔法は遠隔の通話手段としても有用なので。梓様の前では使いませんが。

 

「憂鬱、ですね」

「なんだ、お前までやる気を失っているのか、ローグン」

「……えるるー。学園は良いのですか?」

「ふん、学びを受ける生徒がいないのだ。私がここにいても問題はあるまい」

 

 そう。

 この"怠惰病"、もっとも強く影響を受けているのは学園組の皆さんです。

 まだ魔法少女になってから日の浅い、国への思い入れの強い方々。

 あるいは魔法少女である、という根幹意識を未だに見つけることのできていない方々。

 

 そういう、所謂魔法少女目線での"幼い"方々が、皆少しずつ眠りについて行っています。

 その影響あって、学園にはもうほとんど生徒がいません。アールレイデ隊はこのまま遠征組に組み込まれそうですし、さらにさらに静かになることでしょう。

 

「ローグン。暇なら少し、私の愚痴を聞け」

「暇ではないですが、良いですよ」

 

 珍しいな、と思いました。 

 えるるーが自ら弱音を、しかも私に吐くとは。これは相当に溜まっていそうですね。

 

「……教え方をな。間違えていたのやもしれないと、最近思う」

「──国のためなら命を厭うな、という、少し前までのEDENの在り方ですか?」

「半分は正解だ」

 

 確かに。

 創設者様方による改変が入ったとはいえ、多くの魔法少女にはまだその考えが強く根付いています。

 それが果たせなかった──国が奪われるのを、膝を折ってみているしかなかった自分たちの存在意義。それの答えを見つけることができないがゆえ、今の怠惰病は流行っているのでしょう。

 なれば、その考えを強く植え付けたのはだれか。

 私はジャハンナム様であると知っていますが、そうではない方々にとっては──学園の教師、と。そう思うのでしょうね。そしてそれは、えるるーを含めて。

 

「もう半分は?」

「……いつか、ライラックにな。"魔法少女にとって最も大切なことは何か"を問うた」

「新入生に対する最初の難問ですね。大抵は国を守ること、あるいは魔物を殲滅すること、と答えるかと」

「一番大切なのは、自分の命、だそうだ。信じられるか? あのライラックが言った言葉だぞ」

「……梓様が、一番ご自身を大切にしていないというのに……と、言いたいのですか?」

「違う。逆だ。あいつはその体現をしていると言っている。ほとんどの魔法少女がこの問いに対し、教本通りのものをぶつけ、しかしそれを志として持てずにいる中、あいつだけは何かをずっと心に持っている」

 

 国を守る。それはできなかった。

 魔物を殲滅する。それができた魔法少女はいない。

 なれば、確かに。自分の命を最も大切に思う、というのは、それが傍から見てできているように見えるかは置いておくとして、梓様はずっとそれを言っていますね。

 

「私が教師として育てるべきは、そういう部分だった。各々の道徳心。各々の信念。魔法少女としてではなく、生徒1人が自身として何をしていたいかを見極めさせる。……エデンでは、遅刻や規律違反の罰を死に直結させていた。軍事違反でもそうだが──それも、良くなかったのだろう。守れなかったから、罰が欲しい。失ってしまったから、罰が欲しい。けれどそれを与えてくれる者は居らず──なれば、自ら眠るしかない」

「それを死の代替にする、と」

 

 なるほど。

 確かに、そうなのかもしれません。私達魔法少女は容易く蘇りますので、最も罰則として役に立つものが死でした。死の痛み。死の苦しみ。それを味わいたくないなら規律を守りなさい、と。

 それはけれど、創設者様方によってその在り方が改変された時から、少しずつ。

 少しずつ、少しずつ……まるで【劇毒】のように皆様を蝕んだことでしょう。

 

 じゃあ、今までの苦痛は、なんだったのだ、と。

 そしてそれ以下の痛みや苦しみなど──何の罰にもなりはしない、と。

 

「世界が終わる。そう言っていた」

「神ですね。えるるー、貴女は膝を折った者ですか?」

「いいや。私はあれを見ても、特に何とも思わなかった。D級ゆえか、別の理由か。少なくとも私にとって神は脅威でなく──しかし同時に、国への思い入れもない。そんな私があの時に抱いた感情を当てられるか?」

「無理ですね。えるるーのことなど欠片も理解できませんので」

「──ようやく平和になる、だ。実際はそんなことにはならなかったが──私はな、安堵したんだ。魔法少女の守るべきものがなくなれば、魔法少女は幸福を手にし得ると。残された時間を、ただ楽しく、文字通り学生らしく過ごせばよいと。そう思った」

 

 それは、なんとも。

 夢物語でも見ているのでしょうか。と、辛辣な言葉を入れたくなりますが、我慢。何やらえるるー、本当に参っているようなので。

 

 平和、ですか。 

 

「魔法少女とは無縁の言葉、と言いたいところですが……良い言葉です」

「"いい歳をして夢ばかり見ていないで、現実を見なさい"とでも言われるかと思ったよ」

「無論そう言いたいのですが、私が懇意にさせていただいているお3方の内お2人がそういった思想の持主でして。さて、ではえるるー」

「なんだ」

「言葉にしたことは実現すべきです。作りましょうか、平和」

「何?」

 

 申し訳ございません、梓様。

 少々私、この手間のかかる同級生の面倒を見たくなってしまいました。

 ジャハンナム様の改造を受け、今の私は神に対しての抵抗感が一切ない状態、だそうなので、早いところ引き摺り下ろしてきてくださると助かります。

 神といえど実体があるのなら、その身のすべてを【侵食】しきって殺しつくして進ぜましょう。

 

 ええと、ですので。

 

「私の助力は期待しないでください。──と、お伝えください」

「何の話だ」

「いえ? それでは取り掛かりましょうか。平和作りの第一巻──とりあえず、パーティでも」

「は?」

 

 ()()を見送って、お辞儀を1つ。

 さて──お料理の時間です。

 

 

えはか彼

 

 

「理央さん」

「リキュア。……誰かに尾行されたりは、していないだろうね?」

「はい。細心の注意を払ってきましたから」

「うん。じゃあ、行こうか」

 

 ……どうしたもんかねぇ、と。

 ため息を大きく吐く。ちょっと近くに寄っただけだったんだけどね、と。

 

 

「でも、本当に何も言わずに出てきてよかったのでしょうか」

「大丈夫さ。というか、言ったら出してはもらえなかったよ」

「それもそうですね。──では、行きましょうか。ミズメさん探しの旅!」

「ちょ、リキュア、大きい声出さないで」

「あ、あぁ、申し訳ありません」

 

 EDENの突き刺さった北方山脈。

 その林の中をこそこそと行く少女2人。

 

 ……いや普通なら見捨てるんだけどねぇ、あんまりにも幼いというか、しかもミズメを探すと来たかい。ヤな縁だねぇ、本当に。

 

「それで、ミズメさんのいる場所を教えてくれた、という方……本当にどんな方だったのですか?」

「だから、言えないよ。言わないっていう約束の上で教えてもらったんだから」

「でも、気になります。それに、信用の有無も」

「ああそれは大丈夫。信用できる人だよ」

「ふむ。つまり、ある程度理央さんに近しい人物なんですね」

「……しまった」

 

 ああ、ああ。そっちは魔物の形成地点があるけど、大丈夫かい?

 小型のアウル種とはいえ、数が数だ。アンタ達2人じゃぼろぼろになっちまうよ。

 

「──ッ、【気烈】!」

「え、敵ですか!?」

「アウル種だ! 囲まれてる……10や20じゃないぞ!」

「【転候】!」

 

 なるほど煙幕……? その隙に近接の子が仕留める、って?

 アウル種を馬鹿にしすぎだよ。あいつら目がいいんだ、煙たくても突っ込んでくる。それに近接魔法じゃどうしようもない量がいるよ。

 あ、ああ、馬鹿だね、そっちはもっと形成地点に近いんだから、そんな方にまで行ったら──。

 

「──あぁもう見てられないねぇ! EDENの教育はどうなってんだい全く!」

「え」

「だ、誰ですか!? いえ、だめです。来てはいけません! 魔物がたくさんいます、逃げてください!」

「そんなことは、ハナからわかっててのご登場さ! 【皇爛】!」

 

 亜空間ポケットより疑似魔法の発生装置を取り出して、状況に適した魔法を使う。

 囲まれてるならこれが一番さ。周りの林も燃えるけど、それは必要な犠牲さね。

 

「え、魔法少女!?」

「しかもこの魔法、強い……」

「ほら惚けてないで、脱出しな! あっちに道を残してあるから、ほらさっさと行く!」

「あ──ありがとうございます! あの、お名前を」

「アタシの事なんざ気にしなくていいから! 早く行く!」

「は、はい! 行きますよ、理央さん!」

「ちょ、リキュア! 自分で歩けるって、押さないで押さないで!」

 

 ふぅ。

 全く、まだ魔法少女になって数か月だろう生徒を放置するなんて、今のEDENはどうしちまったってんだい。そんなに国を目の前で奪われたことが衝撃だったのか。……別に殺したってわけじゃないんだ、すぐにでも取り返しにいくような算段を立てるのがEDENだと思ってたよ。

 

 ……けど、まぁ、須留途を倒した子たちに免じて、今乗り込むのはやめてあげるよ。乗り込んでも旨味はないし。

 

「きゃあッ!?」

「リキュア!?」

「スクァオル種です! く、ここは私の【転候】で……ひゃあっ!?」

「くそ、なんだこいつら! くっついて、まとわりついて……離れろ!」

 

 あー。

 あー。

 

「アンタ達、いいかい。そいつらは狭くて暗い場所が好きなんだ」

「先ほどの方!? そして、有益な情報をありがとうございます! ──【転候】!」

 

 また煙幕でも出すのかと思ったら──突然周囲に光が指す。

 月明り……こんな一部分だけに?

 

「あ、本当にでていきました。けど、驚きです。攻撃してくるでもなく、ただ衣服の中に入りたがる……そんな魔物もいるんですのね」

「いや、リキュア。多分これスクァオル種じゃなくて、ただのスクァオルだ。魔力を感じないし」

「えっ」

 

 ……参った。

 アタシぁこの子らの先行きが不安になっちまったよ。

 ま、どうせ今の師匠は言葉通じないし、寄り道はアリっちゃアリだけど……。

 

「あ、じゃあこれもワーム種ではなく、ただのワー」

「馬鹿かいアンタ!? それはアビスワームの触手だよ! 早く離れな!!」

「えっ」

「【気烈】!」

 

 まんまと獲物を釣り上げた、とばかりに地中から飛び出してきたアビスワーム。

 その胴体が、どしゃぁと弾け飛ぶ。

 

 ……なるほど、そういう魔法か。まぁあんまり再現する必要はなさそうだけど、こう、こぶしに纏うものに組み込めば、良い感じになりそうだね。

 

「リキュア、さっきから注意が散漫すぎるよ。もう少し緊張感を持ってくれ」

「申し訳ありません……。ミズメさんを探す秘密の旅、と思うと、少しばかり舞い上がってしまって。先ほどの方も、ありがとうございました」

「……」

「えと?」

 

 ミズメ探し、ね。

 この世界にはいないあの子のことを探す旅。当然見つかるはずはないんだけど……この理央って子に居場所を教えた、という奴が少し気になる。

 知っている魔法少女はいないはずだし、本当に言っているのなら大問題だ。EDENの中にアタシ達の内情を知ってるやつがいるってことになる。

 

 この子にそういう情報を与えたってことは、その目的地となる場所でソイツが待ち構えている可能性は高い、だろう。わざわざ嘘の情報を教えた悪戯ってことはないだろうし。

 アタシの見立てによれば……こっちの、リキュアっていう子。

 この子の魔法に用がある、と見た。ちょっとどころじゃなく特異な魔法を使うようだからね。

 

「安藤だ。アタシのことはそう呼びな」

「安藤さん、ですね。わかりました」

「ああ、名前を教えてくれてありがとう、安藤さん。ああ、私は李・理央。こっちは」

「リキュア・アールレイデと申します。よろしくお願いいたします、安藤さん」

「へえ、そっちのはもしかして北方の出かい?」

「ああ。もう無くなった村だけどね。安藤さんは北方について詳しいのかい?」

「昔行ったことがある程度さ。群塔魔閣と閻魔刃塔。知ってるかい?」

「前者は私が村を出た時にもあったけど、後者は無かったかな。多分ジョームンガンダーかフルオブズヴィトニーに壊されてしまったんだと思う」

「悪食姉妹か。まぁそれは仕方がない」

「……あの、お話盛り上がっているところ申し訳ないのですが……私たちは用事がありまして」

 

 北方か。

 懐かしいねぇ。師匠は基本南方に居を構えているから、あんまり行く機会はなかったんだけど、一度だけ連れていかれたことがあった。あの時は……そうだ、魔法少女の魔物化の実験。結局ジョームンガンダーに邪魔されて失敗に終わった実験だけど、それさえもしっかり身にしているのは師匠のすごいところだろうねぇ。

 

「そうだった。安藤さん、ごめん。また会ったら、その時はゆっくり話せると思う。私達は行かなきゃいけない場所があるんだ」

「ちなみにそれは、方角としてはどっちだい?」

「え? あっち、だけど」

 

 指をさされた方。

 ……アタシたちの拠点があった方角だねぇ。これはちょいと臭くなってきたか?

 

「アタシもあっちに用があるんだ。どこまで一緒にいられるかはわからないけど、もう少し一緒に旅をしないかい?」

「それは、心強いです。あれほど強力な魔法を用いる魔法少女の方。先ほど見せた通り、私の魔法はあまり攻撃性に富みませんので……」

「うん。私1人で十分、と言いたいところだけど、さっきみたいに数で来られたら困るからね。それじゃ、よろしく」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 さて。

 炙り出しの時間、さね。

 

 

えはか彼

 

 

「100年前。私たちの知らぬことだが、ウォムルガ族の村を未曽有の水害が襲った。田畑は枯れ落ち、人々は居住を移し、けれど魔獣たちも溺れ死に……その後で、私たちが生まれた」

「水害……」

「雨だ。それは長く長く降り続けた。大きな丘も、ウォムルガ族の村をも覆うほどの」

「いや、それァあり得ねェだろ」

 

 大きな丘は火山だった。

 あれが覆われる程の水嵩なんざあったら、EDENさえも沈没してる。始の点は大丈夫だろォけど、終の因は大きな丘の火山より低い位置にあるはずだ。

 そんなの洪水とか高波ってレベルじゃァない。

 

 水害、じゃなく。

 

「今思えば、あれは魔法だったのかもしれないな」

「確実にそォだろうよ。……多分、それを起こした奴にはあったンだ。ウォムルガ族がその場所にいられちゃ困る理由か──ウォムルガ族をその場所に移動させたい理由が」

「その理由とは?」

「知らねェけど、なんかあったンだよ。だからお前らの村は移動させられて、……あァそうだ。1つ聞きたいんだがよ、お前らの蘇生ァ、死んだら翌日その場所で蘇る、ンだよな?」

「そう。蘇生。久しぶりに聞いた言葉」

「じゃァよ、今までのアインハージャはベルウェークに挑んで、でも大きな丘で死んでったンだろ? その後ってなどォなるンだ。次のアインハージャはそっから生まれるのか?」

「いや、村の中心で生まれる。あるいは成る」

「成る場合もあンのか。魔法少女の覚醒みたいに」

「私たちは生まれた側ゆえわからないが、そういう事例があったとは聞いている」

 

 ……じゃァ、やっぱりあそこも実験場だ。

 魔法と魔物と魔法少女に多方面からアプローチしかける実験。マッドチビがずーっと取り組んできた実験の一例。それがアインハージャにもなってて、……じゃァ、ベルウェークってななンだ。

 マッドチビが作ったオリジン……? いや、ンなことできンならほかのトコでもやってる。少なくとも数千年を生きるオリジン種だ、マッドチビより年上の可能性もある。

 

 ……そォいやよ、俺。

 最初にアインハージャの蘇生の仕組み聞いた時──()()()()()()()()()()()とか思ったよな。

 

 それ、あってンじゃねェか?

 

 蘇生槽。

 その作り方。魔法少女の核たる多胞体。ベルウェークの核たる多胞体。蘇生の仕組み。

 

「1つ、助言をするのならば。吾の知る限り、大陸側にそのような水害があったということはない」

「あァさ、だからそれは魔法で」

「そして──クク、ベルウェーク、という名は、ある神のものであった」

「あン? 神、だァ? ……そりゃねェよ。あの世界で神つったら、ウチの神さんか、ウィドアルか、レイか。そのどれかだ」

「でも、クロムクラハも神様だよ?」

「あァちと黙っててくれ。こんがらがる」

「クク、そう邪険に扱うな。この幼子の言うことは合っている」

「どォいう意味だよ」

 

 つかなンでそォいう重要なコト先に言わねェんだよ。なンで今まで隠しておいたンだよ。あと1つじゃなくて2つじゃねェか。

 

「そのままぞ。梓、お主がクロムクラハという神になったように、過去、とある者がベルウェークという神になった」

「……そりゃ」

 

 まさか。

 

「安心しろ、魔法少女ではない。──魔物だ。ある魔物……こればかりは吾も聞いた話になるが、つまるところ、最初の魔法少女と共に生まれ出でた、最初の魔物。それだ」

「んじゃその伝聞ァ間違ってるよ。最初の魔物はジョームンガンダーとフルオブズヴィトニーだ」

「否。あの2つは元獣だ。獣から魔物になった最初の例であることは事実だろうが、自然形成された魔物ではない」

 

 それは……そうか。

 あいつらそォ言ってたし。それは、あるいは魔法少女の因子に感染する、みてェなモンなンだろう。

 だから──そっちじゃなくて。

 

 最初に、魔力から形成されたオリジン。

 それが時を経て強力になり、神となった。

 

「そのオリジンは、禍を引き起こす者(オーディン)と呼ばれていた。各地を荒らして回っていたが故にな」

 

 ……うわ。

 おじさんでも知ってる有名どころが出てきた。

 

「オーディンは強くなった。強く、強く、強く。奴はベルウェークを名乗り、グクマズを名乗り、その後、ウィズヌと名乗り、レイと名乗り、ハキタと名乗り──」

「待て待て。こっちの世界作った神勢ぞろいじゃねェか」

「そうだ。だから風には2つ名前がある。太陽にも恐らくあるし、夜にもあるだろう? ハキタ、ではない名前が」

「……ある、けど」

 

 でも、その言い方だとよ。

 それじゃァよ。

 

「今の神さんたちは、かつてオーディンだったモノ……って感じに聞こえる」

「そう言っている。奴は幾度となく神に近づき、同化し、しかし離れ、また同化し、を繰り返してきた」

「我らも知る話だな。──そして、最後に確認したオーディン。それがベルウェークだ。奴は再度ベルウェークとなり──100年前、その身を抜け出した」

「また別の奴に同化した、ってことか」

「ああ。そして、そのものがどこにいるかはわからない。だが確実にオーディンはどこかにいる。あれはずる賢いものだ」

「クク、その最中で──ベルウェークの文様の刻まれた球体。さて、吾の妻。これは一体何だと思う?」

 

 100年前。

 実験のために移動させられたウォムルガ族の村。

 そこで起きたベルウェークの代替わりと、アインハージャの死。

 

 そこから100年、ベルウェークが猛威を揮いすぎることも、アインハージャ側が勝つこともなく──100年が過ぎた。

 過ぎて、俺が来て、2人をヴァルメージャにした。

 過ぎて、俺が来て、ベルウェークを殺した。

 

 その、抜け殻を。

 

「……じゃァ、これが?」

「吾はそう睨んでいる」

 

 魔力を感じる。

 命の気配がある。

 でこぼこした、ベルウェークの文様の刻まれた球体。

 宙の莽とあちらの世界を結ぶ中継点にある何か。

 

 これが。

 これが──生き物である、と。

 

 そう言うのか。

 

「ク──さて、梓。わかるか? 今お主は岐路に立たされている」

「……あァ。なんつーか、マッドチビの思惑通りにな」

 

 もし、これが。

 反魔鉱石で覆われたあの部屋と、あっちの世界をつなぐ中継点の役割を果たしてンなら。

 俺はこれを殺さなきゃいけねェ。

 けど、あァ。触ってみて、さらにわかった。

 生きている。これは……こんな状態でありながら、生きている。

 

 これを。

 食うためでも、生きるためでもなく、殺せ、と。

 

 それが嫌なら。

 

 ──食え、と。

 

「これ、食ったらさ。どォなると思う?」

「まず間違いなくオーディンがお主を蝕むだろうな」

「だよなァ」

 

 だって明らかに体に悪そうだもん。

 ……けど、俺ァツイウに言ったよな。毒があるくらいで食わねェなンてのァ無いってさ。

 

 ふゥ。

 

「待て、何もお前が手を下す必要はないだろう。私が斬ればいいだけの話」

「そうだよ、クロムクラハが嫌なら、私がやるよ!」

「私も、この程度の大きさなら問題なくすり潰せるぞ」

「ウィジ、私の盾の方が潰しやすい」

 

 ……。

 違うンだよなァ。

 

 あーあ、とは思ってるよ。

 なンで触っちまったのか、なンで命の気配なんざ感じ取っちまったのか。

 それさえしてなけりゃ、こいつらの言う通りぶっ壊してもらってハイおしまい、だったかもしれねェ。

 

 けど、生きてるってわかったら──無理だよ。

 

褪戦死遠(【即死】)

「な」

「あ」

「梓、お前」

 

 意思表明とかしてる間に尖り前髪が斬っちまいそうだったンでな。

 すまねェな、オーディンとやら。名乗りもせずによ。

 

 けど、その血肉は。

 俺がちゃんと食うから。

 

「着物狐も、ありがとな。後から知って後悔しねェよォに今言ってくれたンだろ?」

「クク──なに、吾の妻の嫌がることはしない、というだけの話」

「あァさ、良い女だよ、お前ァホントに」

 

 殺すなら。

 命だとわかってた方が、いい。あァさ。知らずに壊してハイおしまい、で済ませられる俺じゃねェってなわかられてンだ。

 ……いーよ。

 

 毒でも、侵蝕でも、おでんでもなンでも来いよ。

 

 ちゃんと受け止めてやるからさ。

 

「──いただきます」

 

 それを、体内に入れた。

 

 

えはか彼




※年末年始は定期更新ではなくなります。
※7日から毎日投稿に戻ります。
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