空があった。
「──……は?」
見渡す限りの青。雲一つなく、鳥一匹飛んでない。
体は。
「……うわ」
うわ、と。
声が出た。念話でもなく、自然と、発声で。
手を見る。
手だ。
ぼんやりしてない。
背中に温度を感じる。心臓に脈を感じる。眼球が動いている。耳が動いている。
「……あァさ」
起き上がれば──そこは、平原、だろォか。
まァ。なンだ。
「これは、生き返った、って奴か?」
声も、目線の高さも。
あァ、どこぞに鏡か、池か、水たまりか。なンでもいいから姿ァ見えるモンねェかな。
自分の髪……銀色だ。
はァ。
「……そんなンばっかだなァ」
何番煎じだって話さ。
何回奪われりゃ気が済むのか。
何回別物になりゃ気が済むのか。
……原因ァ、100%アレだよなァ。
着物狐曰く──オーディン。その血肉、あるいは卵。
殺すなら食う。壊すなら食う。
その選択肢において、俺ァ選んだワケだ。
食って。
蝕まれた……ンだろうなァ、って。
オーディン、とかいう奴に。
俺が食ってきた、育てに育ててきた精神体って奴は、オーディンの意識かなンかに奪われちまったと。
そォ見るのが一番だ。クロムクラハ。オーディンはまた新しい名前を得たってわけだ。
ちょっとムカつくよなァ。
まるで──ソイツが生まれるために。ソイツが強く生まれるために。
俺が必死になって魔王ってなを目指した、みてェじゃねェか。
……はァ。
まるで、じゃねェんだろうなァ。でなけりゃあンなトコに置かねェよ、オーディンの血肉、なンてもんを。
いいよ、生きてるから。
でも流石にだりィよ、そりゃ。何度も何度も──奪いやがって。
自分で努力できねェのか。奪うことでしか成長できねェのか、てめェら。
って。
「……で」
まァ仮定、この体は梓・ライラックのものだとして。
どうするべきなのか、って話だ。
まずなンでこの体に戻ってきたのかを考えよう。
第一に思いつくのァ、精神体からさえも弾き出されて、元の鞘に収まったっつーか。マッドチビ……シエナがどォなったのかはわからねェが、俺ァ肉体を取り戻すことができた、ってな──可能性の薄すぎるケース。当然だけど違うと思う。
次に思いつくのは、実はぜーんぶ夢でしたって奴。そォだったらいいね。はい没。
その次は……まァ、精神体から弾き出された精神体ですらない何かが、肉体を形成した……とか? どォやってだよ。蘇生槽があるわけでもあるめェに。つか死んでねェっつの。
周囲。
見渡す限り平原。蒼穹。なだらかな丘が遠くの方に見えるものの、険しい山脈なンかは無い。深い森も、林も、いんやさ樹木の一本も無ェと来た。
マジで夢みてェな景色だ。
こんだけ広くて、魔物の一匹もいねェとは。
「とりあえず」
立ち上がって──息を吐く。
亜空間ポケット……は、開くな。魔力もある。が、かなり少ない。
クロムクラハの時と比べると、何千分の一みてェな量だ。それでもお飾りB級の時よりァ多いが。
……ちゃんとさァ。ジョームンガンダーとも約束したのにさァ。
最期までやるってさ。
すまねェな、本当に。
「──
亜空間ポケット──ではないところから、それを引き抜く。
よかった。いや良いのかは知らねェけど、まァこいつは無事と。
あとは魔法だが。
「……適当に何か殺してみる、とかできねェしなァ」
なンだその倫理観の薄い奴。
だァから俺の魔法は練習ができねェんだって。ずっと前からの課題じゃねェか。【即死】も【死漸】も【世涯】も……ピーキーすぎンだよ。
世界言語は……ちょっと後が怖いな。
保身は考えねェたァ言ったが、自ら死にに行くほど馬鹿じゃねェ。俺の精神が冥界でどンだけやられてンのかは微妙なトコなンだよな。普通は修復がかかるンだけど、あのピンクカチューシャを覆ってた世界での使用がネックだ。あそこで結構使ったときにキてたからなァ。
ワンチャン喋った瞬間ガシャン、もあり得ると。
「北方山脈は……見えねェなァ。じゃあここ南っかわか? 参ったねェそりゃ」
わざわざ口に出す。
……いや、マジで参った。北方山脈周辺だったらどォにかなンだよ。魔物はいるけど、魔法少女もいる。どっかにはEDENが突き刺さってるってなでけェ。そこにさえ辿り着けばなンとかなるってな強い。
それがない。
南方にァ島々が多くてさァ。懐かしい恐竜島とか、ウォムルガ族の村があった場所とか。始の点のあるトコも大陸とは言えねェデカさの陸地だし。
この世界、一応ちゃんと球体なンだけど、星が無ェから自分の位置を知る術が無ンだよな。月も太陽も大して方角の助けにァならんし。
何が言いたいかって、マジで不味いって話ね。
魔力を扱えるってこた、まだ魔法少女……だと、思う。腹が減ったり喉が渇く感覚がないし。精神体の時みてェな渇きもない。
ただの魔法少女だ。となるとさっきの可能性の一番あり得ない一個目が真実味を増すンだけど、じゃァシエナは何がしたかったンだよって話になるのでNG。そもそもじゃァなンでその肉体がこんなとこに放置されてンだよって話だし。話話話。
ま、何はともあれ。
ちっと歩いてみますかね。あの丘の上にでもたてば、周囲は見渡せるだろ。あれ以上に高い場所ないっぽいし。
いやァ。
きついスわァ。
何がって、まーじで何も無いでやんの。
丘の上。見渡す限り──草原。森も海も山も川も林も岩もなく、草原。
野生動物が走ってることも魔物が暴れてることも人間が狩りをしてることも魔法少女が飛び回ってることもない、草原。
平和。まーじの平和。
争いの痕跡らしィモンも無ければ、生存競争のせの字も感じられない。
ははァ。
さてはここ、種が進化しなかったガラパゴス諸島的なヤーツだな?
植物も、さえぎるモンがねェから伸び伸び平和に育ってるってか。自分を食う虫も花粉を運ぶ花も無いンだ、より魅力的に育つ必要もない。より毒々しく育つ必要もない。
ははァ。
「何もないぞオイ」
呟いても──何も帰ってこない。オイ、こういう時に「そうですね」とか言って冷静メイドがニョキって生えてきたり、「ク──そのようだ」とか言ってペラ紙一枚から着物狐が出てきたり、「そうですわね」とかいって金髪お嬢様が走ってきたり……あとはまァ、「だろうな」とか言ってあのキザったらしい太陽が声かけてきたりさァ。
しねェの?
「しないのかァ」
それは困った。困り申した。
マジの1人だ。敵もいねェのは久しぶりだ。
セイタスー。スーグ、シュジ、この際アオンでもいいからさァ。
「いねェとなると」
いねェとなると。
……とりあえずまっすぐ進んで、北方山脈にぶち当たるまで進んで、当たんなかったら多分この場所に戻ってくるンで方向変えて。
気の遠くなる話だが、まァそれでどォにかなるな。
魔法少女だ。旅に必要なモンなんか、自分の気力1つでいい。
んじゃまァ歩き出しますか。
前へ。
「何にもない」
何っっっにもない。え? 嘘だろ? ってくらい何もない。
結構な速度で走ってるよ俺。でもずっと草原なの。嘘だろってくらい草原なの。え? びっくりしちゃうぜ? え?
前へ前へ行けども行けども──マジで何もない。
草と、時折丘になってるくらいしか、変化が、無い。え、夢? これマジで夢説ある?
マジで結構走った。体感時速70㎞くらいで3日間くらい走った。メロスもびっくり。
でも、何にもない。え、これループしてる? それこそピンクカチューシャを覆ってた白い世界みたいになってる?
天候も変わらない。雲一つない空は、ずゥっと雲一つない。雨も降らない。一応昼夜はある。でもそンだけ。夜になったからって、昼になったからって、何が変わるわけでもない。いや気温は変わってンのかもしれねェけど、魔法少女の体じゃ感じ取れない。
え。
え、マジで困ってるけど。つかこの大きさ普通に大陸なンだけど。いや日本みてェに列島の可能性は無きにしも非ずだけど。
「こういう時は、とりあえず魔煙草を吸うンだよ」
大して魔力なんざ消費してねェけど。
ふゥ。
いやァ。
「まさか起動しねェたァなァ。なンだ、じゃあここ冥界か?」
おいおい唯一の楽しみ奪いやがって。いやこのクソ不味い味を楽しみだなンて思ってねェけどよ。
いや。
どォしたモンかね、これ。横でダメなら下とか? 掘ってみるか、草原。
クリスを剣の形にして──グサっと。
んで掘り返して。
……お前さ、もっと幅広くなれねェ? スコップとかシャベルとかみてェにさ。
無理かァ。
「あいつら、大丈夫かなァ」
多分状況的に俺が突然オーディンとかいうのになった、みてェなコトになると思うンだよ。そしたら、連れてきたオリジンたちとか、着物狐とか尖り前髪とかキラキラツインテとかさァ。大丈夫かなァ。マッドチビ先生は自分でなんとかするだろォけどさァ。
アオンも、1人じゃ厳しいだろうなァ。
……大丈夫かなァ。みんな。冥界にやべェのが現れた、ってな状況は、まァ神さんは慣れてるだろォけどさァ。
はァ。
何にもできねェどころか、何にもすることないってなやべェなァ。
キチいわ。今までは色々やることあったしできてたからよかったけど。なンだ、EDENの隔離塔で病床に臥せってた頃を思い出す。あン時はあン時で暴走繭やら冷静メイドやら、アズサやらが訪ねてきてくれてたから……退屈はさ、あンましなかったんだけど。
くわー。
こんだけ動けて、こんだけ走り回れて。
何にもないってな──つれェなァ。
……。
……。
…………。
よし。
「じゃ、一回もやったことなかったこと、やってみるか」
なんつーか、地平線がどこまでも平坦だし。
このまま走っても、なンかな。無理そうだな、って。直感でさ。
だから──気になってたけど一回もやったことなかったこと。
一個やってみるか、って。
「まず、亜空間ポケットを開きまして」
入りまして。
──閉じまして。
……。
……。
開きまして。
出まして。……元の草原。
「クソ、マジで何にもないのかよ。EDENの教本に注意事項として載ってなかったからもしや誰も思いつかねェんじゃねェかって期待してたンだが」
普通に出られるから記載してなかったのね。あるいは死ねばいいからか?
はァ。
次。
「まず、魔法少女の衣装を解除しまして」
目が覚めた時には纏ってた衣装を解除する。
出てくるのはもちろん、中学ン時の制服。
その状態で寝っ転がって──変身。
「……別に土や草が巻き込まれたりはしねェ、と。はい次」
身体強化を舌に施す。
そして──魔煙草を噛む。
うっわ不味っ。
「俺なンでこれ試したいって思ったンだ」
次。
クリスを消して、もっかい取り出して──途中で止めて。
手を放す。
消えるクリス。
「……」
次。
そうして、ああでもないこうでもない、これはどうだ、あれはどうだと試して。
結果──。
「マジで何も起きねェと来た。なンか変なコトすりゃバグるンじゃねェかと思ったんだが」
ゲームだのなんだのはあんまり嗜んじゃいねェんだけどさ。
単純にシステム組む時とかにやるじゃん。一応、ユーザーが誤操作した時用にさ。まァその想定を超えて意味わからん問い合わせしてくるのがユーザーなンだけど。あァそんな話はどうでもいい。
……あァ、しゃーねェ。
最終手段使うか。
まァ隠すことでもねェ。
リスクが高いってだけだ。
何って。
「──
「え、人?」
「し、おおおお人だあああああ!!!」
世界言語──をキャンセルして、思わず抱き着いた。
俺が速く動き過ぎたンだろう、目ェ白黒してる──茶髪の女の子。
人だ!
人だ!!
おおおおお! やっぱ何もない世界じゃないンだ! くっそー俺の馬鹿め、もっとちゃんと探せよ! もっと根気張れば今みてェなリスク背負わず済ンだだろ! ばかやろー、でもいいよ、ここで立ち止まってた意味はあったよ!
「ちょ、ちょっと、待って、離れて、揺らさないで!」
「あァさすまねェな人! あ、人じゃ悪いな。アンタ名はなンだ。俺は梓・ライラックってンだけどよ」
「揺らさないでくれるようになったのはいいんだけど、離れてはくれないんだ……」
「いんやさフラっとどっかいっちまったら困るからよ」
「そ、そっか」
それはもう熱烈なハグである。
おじさんとかそォいうの言ってられねェよ。いんやさ、だって人だぜ。うわァ人だ。久しぶりの人だ。さっき三日間走ったとか見栄張ったけど、実は一週間以上走り回ってたンだよねアッハッハッハ。
ふゥ。
落ち着け、俺。キモいぞ。
「あ、離れてくれるんだ」
「あァちょいと冷静になった。ここンとこ人と出会わなくてさ、すげェ久しぶりの人でさ。いんやさ、舞い上がっちまって申し訳ねェ」
「あ、うん。だろうね。私も人と出会ったの貴女が初めてだし」
……えー。
何、どっかに文化があるとか、地下帝国があるとか、そォいうのじゃねェの。
つか……あ、こいつ魔法少女だ。こいつとか言っちゃ悪いな。別に何もされてねェんだ。
「目に見えて落ち込んでるとこ悪いけど、どっかに村とか国とかない? 君の出てきた場所とか……」
「目に見えて落ち込んでるからわかってほしいンだけど俺もそれ探してたから落ち込んでンだよ」
「そっかー。……どこなんだろね、ここ」
いんやさ。
でも良い。良いよ。このつらさ共有できる奴が増えたってだけで良い。だいぶ進歩だ。
「あ、そう。名前、教えてもらったんだから、返さなきゃね。私はリゾ。信じられないかもだけど、空の向こう側から来たんだよ」
「信じられねェかもしれねェけど、俺もそォなンだよ」
「……ホントに?」
「そっちがホントなら、こっちのホントも信じられるだろ」
「……そっかぁ」
目に見えて落ち込むリゾ。
ウン。ダロウネ。
「あー、リゾはいつからここにいるんだ?」
「正確な日数を覚えてるわけじゃないけど、3か月はいるかなぁ」
「3か月。……いんやさ、そりゃやべェな。俺ァ一週間くらいだよ」
「あー。じゃ、もしかしてこれから何か見つかるとか思ってたりする?」
「その言葉で何にもないことが分かった」
「うん……。北方山脈も無いからね、ここ。ホントにどこなんだか」
……エ。
え?
「北方山脈が無い、ってな。どォいうことだ」
「言葉通りだって。私、探して探して探して回ったけど、無いよ。まだ探してないとこはあるかもだけど、少なくとも北方山脈はない。……これ、信じられないかもだけど、私魔法っていうのが使えてね?」
「信じられないかもしれねェけど俺も魔法少女だよ」
「あっ」
マジか。
マジか。
じゃあココが何かわかったよ。どこかわかったよ。
この──まるで、仮置きしたみてェな空間。これから自然を作りますよ、とでもいうよォな──平原のテクスチャだけ作りましたよ、みてェな空間。
ここ。
あっち、だ。
「……一週間前、なンかなかったか? たとえば空が弾けるよォに光った、とか」
「無かったかな……眠ってもいないから、そういうのあったらわかるよ」
「じゃァでけェ国が降ってきたとか」
「あったら私はそこに住んでるかな……」
「そりゃそォだ」
そりゃそォだけど、どォいうことだ?
確かにポニテスリットは国が持ってかれたって言ってた。輝きの園も持ってかれたとかなんとか。
だからここがあっちなら、それがあるはずだ。あとマッドチビや神達がいるはずだ。
でも、何もない。
……となると、アレか?
まだなんか準備できてなくて……国を、あるいは人間を
ふむ。
「リゾ、海ってなあったか?」
「ううん。ずっと草原だよ」
「魔法は、使えるンだよな」
「うん。あ、私の魔法はね」
「いやいいよ。それよか離れてくれ。ちょいと危ないことする」
「え」
まだここに国が無いってンなら好都合だ。
根付く前に──殺しちまえばいい。
精神が死ぬってな怖い話だがな。
それ以上に、これをやる意味はある。俺はそう考える。
家族を守るために──。
「ちょ、待って待って! 何やるつもりか知らないけど待って!」
「待てねェ。全力で離れな。じゃねェと──巻き込むぞ」
「ッ!」
精神体時代に培った殺気が伝わったのか、ちゃんと距離をとるリゾ。あァ。それでいい。
さて、じゃァさっきキャンセルしたものだが。
「──
まだ生まれてもいない世界なら──自我の生える前に、死ね。
「これからどォするよ」
「どうしようね……」
使えなかった。
うん。自分で言ったことなンだよな。こっちの世界ってな神さんの息がかかってねェから世界言語は発動しねェかもしれねェって。
あんだけ距離を取らせておいて不発だった。うん。精神に異常を来してるワケじゃねェんでまァ良いんだが、ちょいと恥ずかしいよな、普通に。
うーん。
「それにしても、さっきのって世界言語? だよね?」
「あン? 知ってンのか。つか聞き取れンのか?」
「ううん。聞き取れはしないけど、使ってる人が身近にいたから」
「へェ」
そんな死にたがり、俺以外にいるとは。
「さっきは焦ってて聞けなかったっつか聞かなかったけど、リゾの魔法って何なんだ?」
「あ、うん。私の魔法は【渡磁】って言ってね。磁石とか磁力ってわかる? それを操れるんだけど」
「へェ。そりゃ、使い勝手のよさそうな魔法だな」
「あはは、よく言われてた。梓のは?」
「俺のはまァ、【死漸】っつー物騒な魔法でな。相手を即死させたり、無理矢理生かされてるモンを死なせてやったりする魔法だ」
「……こわ」
「あァさ正常な反応ありがとう」
そうだよ。怖い魔法なンだよ。
いいね、真っ当だ。ちゃんとした倫理観持ってら。好感度があがったって奴。
「で、その【渡磁】を使って、どォだいね。周囲の地中には」
「わかってると思うけど、何にもない」
「だよなァ」
俺もだ。
ちゃんと感知してわかったけど、命の気配がしない。
この草原からも、だ。植物だって命の気配は発してるモンなんだけど、これからは感じ取れない。
だからこれは本当に作り物なんだろう。
「リゾは、どんなトコにいたんだ? EDENじゃねェんだろ?」
「あ、EDEN。知ってる知ってる。魔法少女がいっぱいいるとこでしょ?」
「あァさ。俺も一応所属してた」
「へー。……あ、私はね、ノモス、ってトコにいたんだ。私とおんなじ魔法少女はたったの6人で、あとは普通のヒト」
「へェ。人間と共存してたのか」
「共存って……元々私達人間じゃん」
「あァ、まァな」
いや、EDENがしてねェからさ。
ついでにいうと魔物の心持ちに慣れ過ぎて、なんぞ違和感を覚えるよォになっちまった。
「……でもそれも、全部なくなっちゃったんだけどね」
「魔物にでも襲われたのか」
「うん。あの辺りにはいるはずのない魔物にね。ウルフ種とレーヴァン種。それに、それを率いてたのが……」
「青毛のチビか?」
「え、なんでわかったの?」
「俺も散々苦渋舐めさせられてっからな」
ルルゥ・ガル。
……あの寂しんぼは、やっぱどこにでもいるんだな。
なンで魔法少女を狙うのか、なんざわかりきってァいるんだが……あるいは、マッドチビと結託してた時の追加依頼とかなのかね。有用そうな魔法を持つ魔法少女を捕まえてくる、みてェなさ。
そォいえば、あいつってな星のステッキもってンだよな。星の無いこの世界で、星型。まァ形状として五角形の対角線結んだ形であって星とか知りません、とか言われたらおしまいなンだけど。
「──それで、連れてこられた私達は殺し合いをさせられててね」
「あ……ン?」
「うわ、怖い。殺気怖いって。梓、見かけによらずすんごい修羅場潜ってきた感じ?」
「魔法少女に見かけに寄ることを求めンのァ稀だな」
「それはそうかも。……怒らないでよ。私だってやりたくはなかったんだから」
「別に怒ってねェよ。ムカついただけだ」
「同じじゃん」
……ふゥ。
あァ、そういうことか。
そーか。
あいつらが使ってたのァ疑似魔法だった。
魔法少女の精神体引っこ抜いた肉体に魔物を入れたソレを引き連れて、だからいろんな魔法が使える──ってな初期の推測は違ってて、もちろんそォいうことをやってるのもあるみてェだけど、本来の目的は違って。
疑似魔法を作るための観察として──殺し合いをさせて。
その土壌からは、そりゃァ豊富な魔石燃料が取れるだろう。シエナを稼働させるための。あるいは、ロケットを発射するための。
はァ。
「で、さっき言った世界言語を話せる人が、逃がしてくれたんだ。その日、初めて監視の目がなくなってね。だから、今のうちにお前だけでも逃げろ、って」
「そりゃ……良い、奴だな」
「うん。……良い人だった」
すげェよ。
だってソイツは、世界言語操れて。だってンなら──もっと早くに、自分だけ逃げることだってできたはずだ。
それを、リゾを逃がすためだけに使ったって?
すげェ。
自分が生きることより、こいつを生かすことを選んだんだ。
それは──俺に、無いものだ。
あるいは。
安藤さんの夫が持っていたもの、かもしれねェが。
「んじゃ、ソイツのためにも早く戻らねェとな。大丈夫、俺がなんとかしてやるよ」
「世界言語使えなかったのに?」
「ハハ、どんな絶望的状況でも可能性はあるってながウチの担任の教えでね。俺にとっちゃ心の支えの1つさ。あんまり口にァ出さねェが」
だからこそこれを、魔法というのだと。
先公はそォ言っていた。
良いね。素晴らしい。
「──それは夜に捧げる一節の祈り」
「え?」
「私は救いを否定する」
別に、何の意味もない。世界言語でもない祈りの一節を、けれどちゃんと言葉にする。
こっちは見えねェかもしれねェ。届かねェかもしれねェ。
けど俺はここにいるンだって、ここで神さん、アンタに祈りを捧げてンだって。
この世界に宣言する。
抜き出すのはクリス。
相変わらず生物を傷つけることだけに特化した波打つ剣は、待ってましたとばかりにどす黒い魔力を放つ。……冥界の魔力か。ちょっと残ってたのかね。
「わ、な、なにそれ。金属っぽいのに金属じゃない……」
「へェ、そォなのか」
これ、なんなんだろォね。
なんでもいーか。
俺ァもうこいつを愛剣と定めたンで、まァ。
「魔法を奪わなかったのは致命的だったなァ、どこぞの神話の神よ。──世界言語なんざ使わなくても、俺ァ世界を殺せるンだよ」
クリスを、地面にぶっ刺して。
発動する。
「【死漸】」
──……。
「えと」
「まァ待ちなって。──【即死】」
……。
「【世涯】」
……。
ふゥ。
「リゾ」
「あ、うん」
「俺なんとかできねェかもしれねェや」
「うわ、諦めはやー」
いんやさ、だって世界言語も魔法も使えなかったら、俺マジでただの新人魔法少女だぞ。
無理だって。何にもできねェって。
女の子の手前カッコつけたけど──無理だよ無理。
クリスもしまっちゃおう。お前が傷つけるモンこの世界にゃ何にもないよ。
「まぁ、私達ってさ、お腹空かないし、喉乾かないし。……助けが来るのを、気長に待とうよ」
「気長に待てなかったから世界中なんかないか探し回ってたンだろ?」
「それはそうなんだけどね」
……しかし、俺の魔法って今なんなんだろうな。
今までの魔法全部使って、どれもが発動しねェとなると……新しく練習しなおしか? あるいはクリスが魔法だったりして。魔法って別に魔法名言わなくても発動するし。
クリスが魔法だったら……うーん、結構納得なンだよな。それっぽい時に出てきたし。
でもそれだと、マジで八方塞がりだ。
魔法はどんな状況でも活路を見出せる、ってな、結構心にクる言葉だったンだけどなァ。
……でも、確かにそォか。
助けが来るかどォかはわからねェけど、必ずマッドチビ達は来るだろ。そのために新しい世界作ったンだから。
だったら……それ待ちで待機が安牌か?
「──やなこった」
「え?」
自然と、口を突いて出た言葉。
それは拒絶。
やだね。
座して待て、だって? はは。馬鹿にしてンのか。
俺ァ行動力の塊だぜ? はン、監視塔の上でトロピカルジュース飲んでサボりまくってた時期は終わったンだよ。右腕失って肌焼かれて右目失って歩けなくなっても死地に向かったのが俺だぞ。精神弾き出されて肉体失って何もかも失っても前に進んだのが俺だぞ。
俺は。
俺は、梓だ。梓・ライラックだ。
やだやだ。
嫌だ。
死ぬのが一番嫌なのァ変わらねェがな、何もしねェってのも耐えられねェ。
ハハ、我儘ですまねェが──まァ、そうだな。
世界言語も魔法も使えねェならさ。
驚くほどやべェことしてやるよ。
「うっし。決めた」
「な、なにが? ううん、何を?」
「リゾ、お前さん亜空間ポケットは使えるか?」
「あ、うん。でもろくなもの入ってないよ?」
「構わねェ。使えることが重要だ」
「えっと」
クリスを取り出す。
地面に突き刺す。何度も何度もアレだがな、まだまだ役立ってもらうぞ。
「──この世界の地面、全部掘り返して亜空間ポケットに入れちまおう。ハハ、馬鹿め。俺がなにもできねェと思ったら大間違いだぜ、どっかの誰かさんよ」
運命だかなんだか知らねェが。
賽の河原で回向の塔の石積みみてェなもんさ。気の遠くなる作業だが──何、終わらねェことはない。
マッドチビが準備ってなを終わらせる前に、この世界を使えなくしてやる。
それがせめてもの抵抗と知れ。
「……もしかして、私も手伝う感じ?」
「ったりめェだろ」
「えー……この世界、ちゃんと広いよ? 地面全部掘り返すとか無理無理。というかそれに何の意味が」
「あ、じゃァいい。やんなくていい。俺1人でやっから、お前さんは見てな。どっか行ってくれても構わねェが」
「うわ、引き留める気が一切ない……。うう、わかったよ、やればいいんでしょ、やれば。……ま、何もしないよりはマシだし」
「わかってンじゃねェか」
俺だって本当に意味があるかなんざわかってねェがな。
何もしねェよりはマシだからやンだよ。ハハ、いいね、楽しくなってきた。
──それは夜に捧げる祈りの物語。
まだまだ俺ァ、終わらねェよ、ってな。