遅筆&駄文なんですが許してくれると有り難いです。
閑静な住宅街から外れた一角、広い敷地をもった施設がある。
敷地の七割は木々の生い茂る庭で、残りの三割に施設兼住居が立てられている。
施設の門扉には『環境保護団体マフティー』の文字が刻まれていた。
広々とした庭の一角で、少女──
泥花は平均的(異形型を除いた基準)で言えば長身の部類で、白い長髪と赤い瞳、そして頭から生える二本の黒ずんだ角とやや尖った耳が特徴的な外見をしている。
彼女は地面に腰を下ろし、両手を地面に当てて、目を閉じる。
そうすることで頭の中に浮かべたイメージをより具体的に、より確実なものにするのだ。
目の前に積まれた岩石の山に意識を集中させると、やがて、岩と土くれを組み合わせた歪な姿の“友人”を造り上げる。
出来上がった岩のゴーレムの姿に、泥花は溜め息を吐いた。
「かなり意識を集中させたつもりなんだが、……まだ精巧にはいかないか」
泥花は『泥岩操作』という、岩石や泥土を自由に操作できる個性を持っていた。
意識を割けばより精密な動きができる複数体のゴーレムを製作することも可能だが、しかし、その姿は歪なものばかりだ。
だからこうして、より人の姿に近い精巧なゴーレムを作り出そうと日常的に訓練をしているのだが、中々思うようにいかないのが現状だった。
「すまないな、今日も付き合ってくれて」
そう呟くと、泥花は個性を解除してゴーレムを岩石と土塊に戻した。
空を仰ぎ見れば、夕暮れに染まって朱色が徐々に黒色に染まっていくのが確認できた。
ジャージのポケットに仕舞っていたスマホを見れば、時刻は六時を半分も過ぎていた。
「そろそろ夕食の時間だな」
泥花は自分の暮らす住居でもある施設に向かい、裏口から中に入った。
直に地面に触れた手を隅々まで丁寧に洗い、ジャージから軽装の普段着に着替える。
施設部分の食堂に向かえば、広々とした大部屋の中、施設に勤める職員が集まってきており、泥花が夕飯を受け取って席についた頃には、施設の全員が集まっていた。
和気藹々とした中で黙々とカレーを口に運んでいると、泥花の前の空いた席に、素朴だが端正で落ち着いた風貌の青年が座った。
「やあ泥花、今日の訓練はどうだったんだい?」
青年は主菜のソースがかかったハンバーグを丁寧に切り分けながら、そう問いかける
「馬渕庭……、うん、昨日と一緒だ。もう少しの筈なんだけど、どうも上手くいかない」
泥花の答えに青年──
馬渕庭はこの施設を所有している環境保護団体マフティーの若き代表で、二十代後半ながら数々の社会的貢献もしてきた人物であり、また、岩繰泥花の後見人でもあった。
「まあ、まだ気にすることではないさ。君は、まだ高校受験を前にした、ただの中学生に過ぎないんだ」
「しかし、浮空さんは私と同じぐらいの頃に、既に個性を使いこなしていたと聞いたが?」
「彼女はそう言うが、実際は君と同じだったよ」
そう言うと、馬渕庭は食指の先を食べ終えたハンバーグからコールスローに変えながら、徐に問うた。
「──それで、泥花は進路は決めたのかい?」
問いかけに泥花は口に運んでいたスプーンを止めて、少しだけ視線を泳がした。
「一応は雄英を進路に選んだ。でも、少しだけ迷っている」
「どうしてだい? 君の個性なら多くの人を助けられるだろうに」
「……近場の高校に通って、此所の手伝いをした方がいいんじゃないかと思っているんだ。それに、あまりチヤホヤされたりするのは、得意じゃない」
「でも、なりたいんだろう? ヒーローにさ」
「……ああ」
「なら目指せばいいさ。此所の、マフティーの皆だって、君がヒーローになるのを応援してくれるよ」
穏やかで諭すような口調の馬渕庭の優しげな瞳が、此方を見つめてくる。
素朴な顔立ちの彼が女性にモテるのは、きっとこういうところなのだろうな、と泥花は黙々とカレーを口に運びながら、ふと心の中でそう思った。
……
風呂から上がった後、泥花は自室で遅くまで勉強をしていた。
無論、序でに空いた左手に粘土を乗せて個性の訓練もしている。
ふと視線を移すと、左の掌の上では、庭で造ったものと似た見てくれのゴーレムが楽しそうに踊っていた。
「私はヒーローになれるんだろうか?」
そう何気無く問いかけるが、掌のゴーレムは見た目とは裏腹にクネクネと軽快な踊りを見せているだけだ。
「フフ、馬渕庭がよく踊っているやつだ」
馬渕庭は昔から泣きじゃくる小さな子を笑わせる為に珍妙なダンスを踊ってくれた。
無意識的に造ったこのゴーレムが踊っているということは、恐らくはきっと、私の意識のなかには彼の優しさがそういうかたちで染み込んでいるのだろう。
彼に倣って小さい南瓜の飾りでも頭に被せてみようか、などと思いながら、泥花は休憩がてらに自室のテレビを点けた。
どうやらよくやっている夜のニュース番組も終わったらしく、ヒーローを特集した深夜帯のバラエティ番組が始まっていた。
『本日のゲストは、世界的なチャリティーとのタイアップで話題沸騰の大人気フライトヒーロー、
観客の歓声とともにスタジオで笑顔を振り撒く、ややメカメカしい白いヒーロースーツを纏った長身の、野性的な美しい顔立ちの女性が目に映った。
「そう言えば浮空さん、番組に出るって言っていたな」
バラエティ番組を眺めていると、パンダの顔が特徴的な名物司会がゲストのΞ・G──
『次の質問は《Ξ・Gは最近、いいことがありましたか?》だそうですが、何かありましたか?』
『──んん? 良いとこ? 良いことなら、あれだ。アタシのトコで預かってる子がな、ヒーロー目指してるんだ。アイツ、性格も良い子だし、個性も優秀だから期待してんだよ』
『ほほー、そりゃいいですねぇ。有望じゃないですか』
「……これは、きっと私のことだな。浮空さんは相変わらず口が軽い」
顔を赤くしながら、テレビを消そうかと思った泥花だったが、浮空の次の言葉に思わず手を止めた。
『ああ、アイツはきっと良いヒーローになる。アタシが認めてんだ。アタシの今の夢はね、──いつかアイツと肩を並べてヒーローをやることさ!』
自信満々に歯を見せて笑う浮空の言葉に、泥花は思わず笑みを溢した。
「全くあの人は……、あんなことを言って、苦労するのは私なんだけどな」
それでも、自分を信頼してくれる人の言葉に、少しだけ迷いも晴れた気がした。
今の私では、彼女の足元にも及ばないだろうが、それでも、彼女とともにヒーローとして立つ自分の姿を想像すると、不思議と自信が湧いてくる。
「頑張らないとな、私も」
そう言って、泥花は夜遅くまで勉強と訓練に励んだ。
……
翌日、泥花は職員室にいた担任に進路希望を提出した。
「先生、進路希望です」
「進路希望ね、どれどれ……そうか岩繰も雄英か。今年は雄英希望が多いな」
先生曰く、ヒーローを目指す学生の憧れとはいえ、高い偏差値と圧倒的な倍率を誇る雄英高校を志望する学生は以外と少なく、一学年につき二人もいれば良い方だという。
「多い?」
「ああ、今年は隣のクラスの爆豪と緑谷も受けるらしくてな、片やあの態度の悪さで片や無個性の二人が受かるのか謎だが、まあ、岩繰なら大丈夫だと思うぞ」
先生に肩を叩かれた後、泥花は担当である花壇の世話をしていた。
水やりをしていると、頭上から派手な爆発音と一緒に、一冊の焼け焦げたノートが降ってきた。
「花たちが危ないな」
個性を使い、自分と同じぐらいのゴーレムに受け止めさせる。
「窓からものを投げ捨てるな」
上を見て声を少しばかり張り上げると、窓から此方を睨むイガグリのような頭が見えた。
彼はこの学校の有名人だ。まあ、成績の良さよりも態度の悪さの方の噂が目立つのだが。
暫くすると、癖ッ毛の強い少年が此方に息を切らせてやって来る。
きっと彼がノートの持ち主なのだろうと考え、ゴーレムが抱えていたノートを渡す。
「お前のだろう。返す」
「あ、有り難う……」
ゴーレムの操作を解除して土に戻すと、地面に水やりを終えて道具を片付けた泥花は帰路についた。
帰ったあとに馬渕庭そのことを話すと、彼は笑って泥花の頭を撫でた。
「やっぱりヒーローに向いてるよ。泥花は」
温かいその肯定が、泥花にはとても心地よかった。
オリキャラ・組織解説
・馬渕庭恵倫(まふていえりん)
みんな大好き連邦に反省を促す彼。
偽物の方ではないが、カボチャ頭のアレと悪魔合体した作者の被害者。
因みにモテはするのだが、片やヒステリックな緑ツインテの原谷久恵(はらやくえ)と情緒不安定気味な金髪ロングの阿樽子亜宜々(あたるしあぎぎ)という地雷二人に言い寄られて苦労している。
雄英高校普通科卒業生で相澤先生やプレゼントマイクの二年下。
・櫛井浮空(くしいうきそら)
ヒーロー名『Ξ・G』
元ネタは過ちを粛清するガンダム。
ビルボードチャート32位の女性ヒーロー。
事件解決数も多いしファンサービスも欠かさない。それでいてチャリティーなどにも積極的に参加するが本質は武闘派。
雄英高校ヒーロー科卒業生で馬渕庭より一年下。
・環境保護団体マフティー
元ネタは人類に反省を促すテロ組織。
今作では平和的かつ精力的な環境保護団体として活動している。
また、マフティーの本部施設は孤児院としても機能しており、泥花の他にも十数人の孤児(氷を操れる少女や爆弾を産み出せる少女に規格外の強さの少女など)が暮らしている。
施設を見て回っていれば「やってみせろよ、馬渕庭」が口癖のオッサンとかに出会えるかもしれない。
こらそこ、魔窟とか言ってはいけない。