本来なら実装当初からあって然るべきと思うんだけど、まあそれはそれ。
個人的には例の被り物が一番嬉しいかもしれない。
四月を迎え、入学式当日。
早く起きた泥花は、他の皆より早く朝食を摂ると、遅刻しないように早めに施設を出た。
中学と違って雄英高校まではそれなりに距離がある。
道中、手持ち無沙汰になると考えた泥花は、雄英合格を記念に購入した最新型のスマホにイヤホンを繋げ、片耳にだけ装着する。
再生リストにはダウンロードしたアルバムやシングルが幾つもあり、彼女はその中から一つのアルバムを選択した。
「うん、やはりフラワースコアの曲は良いな、買ってよかった」
フラワースコアは中学生でプロヒーローとしてデビューしたという、異例の経歴を持つシンガーヒーローだ。
ピンクの髪と鮮やかな色彩の瞳とは裏腹に、インタビューなどでは年頃の少女らしい辿々しさのギャップも相まって根強いファンを多く持っている。
何を隠そう岩繰泥花も、そんな彼女のファンだったりする。
アルバム限定の新曲に耳を傾けながら電車を乗り継ぎ、泥花は雄英高校に辿り着いた。
入り口に用意されたクラス分け表を確認すると、自分の名前がA組にあるのを見つけた。
早速校舎にはいった泥花だったが、改めて見回すと雄英高校のスケールに驚かされる。
まだ人の少ない校内を散策したあと、A組の教室の前に立つ。
あらゆる個性に対応できるように設計されたバリアフリーのドアを開くも、まだ早い時間だったからか教室内には誰もいなかった。
「一番最初か……」
明日からはもう少しだけ遅く来ても良いかもしれないと思いながら、片耳だけだったイヤホンを両耳に填め、鞄から事前に配られた教科書を取り出す。
ヒーロー科の科目は一般的な必修科目などの教科に加えて、ヒーロー基礎学が存在する。
入学前に用意された教科書は必修科目だけだったので、泥花は他の生徒が来るまでの間、フラワースコアの新曲をBGMに、黙々と教科書を読み進めた。
……
暫く集中していると、背中に細い感触……恐らくは人差し指だろうか……が触れる感触があった。
教科書から視線を外してそちらを見ると、蛙のような特徴をした、可愛らしい少女がいた。
泥花がイヤホンを外すと、少女が口を開いた。
「ごめんなさい、ちょっといいかしら」
「構わないが……何の用だ?」
「教室に入ったらあなたしか居なかったから」
どうやら目の前の蛙のような少女が、二番目に着いたらしい。
「初めて会ったクラスメイトなのだし、まずお友だちになろうと思ったの」
そう言って、少女は握手のために右手を差し伸べた。
友だちになろうと言われて、悪い気分になる人はまずいない。それは泥花とて同じだった。
「私、蛙吹梅雨。梅雨ちゃんと呼んで、」
「私は岩繰泥花。宜しく蛙す「梅雨ちゃんと呼んで」……梅雨ちゃん」
まだ他には誰も来ていないこともあって、泥花と蛙吸は個性や趣味などについて話すことにした。
蛙吸の個性は『蛙』というらしく、彼女曰く、蛙っぽいことならなんでもできるらしい。
「私の個性は『泥岩操作』という。簡単に言えば、泥土や岩石を自由に扱える」
「素敵な個性ね。戦うだけじゃなくて、災害救助でも活躍できる個性は素晴らしいわ」
「……褒められるのは、ちょっと慣れない」
泥花がほんのりと頬を赤くしていると、教室の外が段々と騒がしくなり始める。
どうやら、普通科やサポート科を始め、登校する生徒の数が増えてきたらしい。
「一緒に他の子とも話したいわ」
蛙吹の言葉に、泥花も頷く。
ゆっくりと席を立ち、ドアを開けて入ってきた逆立った赤い髪の少年と、髪と肌がピンク色の少女に声をかけることにした。
……
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」
「「「なんかいる!!!」」」
ヂュッ、と栄養ゼリー飲料を一息で飲み干しながら教室に現れた男の第一印象は、ミノムシのように寝袋に包まれた小汚ないホームレスだった。
「──ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
言動から察するに、どうやら雄英の先生のようだ。
雄英高校はプロヒーローが教鞭と執るらしいが、泥花の記憶にの中に、こんな見てくれのヒーローはいなかった筈だ。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
どうやら担任だったらしい。
相澤は生徒からの奇異の視線を気にすることなく、自分の入っていた寝袋からあるものを取り出す。
それは濃い藍色に白のラインが入った、雄英高校指定の体操服だった。
「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」
急かされてグラウンドに出た泥花たちは、相澤から唐突に実技テストの実施を告げられた。
「個性把握……テストォ!?」
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ」
生徒からの疑問をバッサリ切り捨てながら、相澤は言葉を続ける。
「雄英は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは“先生側”もまた然り。中学の頃からやっているだろう? 『個性』禁止の体力テスト」
そう言うと、相澤は泥花の方を見る。
「岩繰」
名前を呼ばれて、泥花は前に出た。
「中学の時、ソフトボール投げ何Mだった?」
「85Mです」
「……お前の中学は個性の使用を認めてたのか?」
「いえ、医者が言うには、私の筋肉は常人より凝縮されている……と」
「発動型と異形型のハイブリッドか……、じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なけりゃなにしてもいい」
促された泥花は、地面に手を当てて意識を向ける。イメージは投げるのに特化した形状。
すると、右腕が極端に肥大化した土でできたゴーレムが地面から生える。
他のクラスメイトが突然地面から生えてきた巨人に驚くなか、泥花からボールを受け取ったゴーレムはボールを握り、勢いよく振りかぶった。
「友人よ、遠くへ投げよ」
(((……友人???)))
放たれたボールは遠くへ飛んで行き、だだっ広いグラウンドの向こう側に落ちていった。
「まずは自分の“最大限”を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
そう言う相澤の手に握られていた測定器には、『1028M』という記録が表示されていた。
「なんだこれ、すげー面白そう!!」
「一キロ越えってマジかよ!」
「『個性』思いっきり使えるんだ!! さすがヒーロー科!!」
個性を自由に使えることにクラスメイトがはしゃぐ中、それを見ていた相澤の目が鋭くなる。
「……面白そう……か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのか?」
相澤から放たれる圧力に、騒いでいたクラスメイトは揃って押し黙る。
「よし、トータル成績が最下位の者は見込み無しと判断し、──除籍処分としよう」
突然の爆弾発言に、生徒たちは騒然となる。
「生徒の如何は先生の自由。──ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」
雄英高校に入学して早々に訪れた突然の受難。騒然となるクラスメイトに混じって、泥花は溜め息を吐いた。
サブキャラ紹介
・フラワースコア
中学生でプロデビューした異色の最年少シンガーヒーロー。
趣味でインターネット上に歌を投稿していたところ、たまたまそれを聴いたヴィランが次々と自首をしたことからプロにスカウトされた経歴を持つ。
美しい歌声と活躍とは裏腹に、インタビュー時などの年頃の少女らしい辿々しさなどのギャップも相まって現在人気急上昇中。
現在、同じ事務所のメンバーと五人でユニットを組んで活動している。
元ネタは某バーチャルなシンガー。最推し。
個性『深歌』
歌を聴いた対象の精神と共鳴することで、相手の良心などに直接影響を与える精神干渉系の個性。
凶悪なヴィランに投降を促したり、被災地の混乱を止めたりなど、汎用性と影響力に長けている。
原作キャラの心躁の『洗脳』と似た個性だが、前提として歌うことが発動条件であり、尚且つ意のままに操れる訳ではないので、『洗脳』と比べると即効力に劣る。
なお、個性発動中は青い金魚のような存在が近辺に現れるのだが、関連性は解っていない。