遊☆戯☆王デュエルモンスターズ【Highlander・Twelve】 作:CO2
「な、なあ、この船、さっきからずっと止まってないか?」
「ああ、お前もそう思ってたか。変だよな、もう本国に到着してもいい頃だぜ?」
他の乗客の声が聞こえる。どうやらこの船、僕の気のせいではなく、本当に動いていないようだ。だが、アナウンスや乗組員による呼びかけも行われていない。
この海域をずっと漂っているつもりだろうか?そもそも、途中までは通常通りの航行を続けていたはずなのだが……。
デュエル・アカデミアでの在校中の休み期間には、何度か帰郷の機会があったため、僕はこの船を毎年利用していたのだが、こんな事が起こるのは初めてだ。ましてやこんな事が起こるなど聞いた事も無い。明らかに異常だ。
余談だが僕は性格柄、こういうことに関しては調べられずにはいられない。早速行動を開始した僕は、まずは乗組員や操舵士がいる操舵室へ向かう。
通常、操舵室には乗組員にしか入れない。普段は乗組員が操舵室の入り口を門番のように塞いでいるからだ。……が、やはりと言うべきか、入り口を塞ぐ乗組員はいなかった。
好機とにらんだ僕は、操舵室への扉に近づき、そっとその扉を開けた。
だが……、操舵室はもぬけの空。操舵士はおろか、何故か船長さえそこにはいなかった。さすがにこれでは、船が動くわけが無かった。否、動いている方がおかしいだろう。
しかし、船員が一人もいないとは……。ここ乗客を乗せた船の上だぞ?集団ストライキか?
こんな状況では人はパニックになってしまうのが当たり前なのだが、不思議なことに僕は“慣れ”と言って良いのか冷静に頭を動かす事ができていた。
だがいくら冷静な考え方ができようとも、それだけで今のこの現状を打開する術は簡単には見つけられないわけで。ともかくまずは情報収集を……と考え、しゃがんだ状態から身体を起こした瞬間。
ガチャ……。という音と共に、僕の後頭部に鉄の様な硬いものが押し付けられた。
「……ここにまだ人がいたとはな、驚きだ…。しかもこの状況でパニックすら覚えていない……。オマエ何者だ?」
口調は男性のものだが、声質は明らかに女性特有の声。そして、後頭部に押し付けられたのは間違いなくハンドガン。銃を持つ女、いない乗組員、「ここにまだ人がいたとは」という言動。間違いなくこの人物がこの状態を引き起こしたのだろう。
だが、いくらこのような冷静な考え方ができようとも、後頭部に銃を突きつけられては抵抗はできない。まさしく絶体絶命だ。
「よし、ゆっくりとこちらを向け」
そう指示された。銃を向けられているのだ、抵抗のしようが無い。僕は言われた通り、その人物がたっている方向に身体を向けた。
そこにいたのは僕と年齢が同じくらいの、しかもデュエル・アカデミアの女子制服を着た少女だった。
「なんだ、オマエ、
彼女は僕を覚えているようだ。
実を言えば、僕も彼女には見覚えがある。名前は
そんな彼女が、まさかテロリストだとでもいうのだろうか…?
ふと彼女が銃を降ろし、表情を威圧感の漂うものから、ニヤリと不適に笑うようなものへと変えた。いわゆる『ドヤ顔』である。
それが彼女――
「ほら、そんな顔をするな」
「銃を持っている相手の前だよ?こんな表情しか出来ないよ」
冗談交じりの様な声で返答しようとした僕だが、いざ声を出すと震えたような声音が出てしまう。
当然だ、話している相手は銃を持っているのだから、怯えてしまうのも仕方が無い。格好が悪いと思うだろうが、今の僕にはそんなことを気にしている余裕は無い。
人間はやはり、自分の命が大切なんだなと率直に思った瞬間でもあった。そして、王流は再び僕に銃を向ける。そして引き金を引き…って万事休す!?
「って冷たっ?!」
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、額に僕は冷たい……いや、少しぬるめの水が掛かったことだけは分かった。
銃を向けられていた為か思わぬオーバーリアクションを取った僕だが、わずか数秒で平静を取り戻した。
どうやら僕は、銃の形をした金属製の水鉄砲を向けられていたらしい。そして僕はこう言った。
「だ、騙したのか!!」
「ああ」
「ああって何なの?!怖かったんだからね!?っていうかそれ作り込まれ過ぎだよ!!何なのそれ!!無駄に制作費掛かってない?!」
「とりあえず落ち付け。制作費に関しては知らんぞ。たまたま商店街を歩いていたらこれを見つけて買っただけだ。制作費どころか製作者さえ知らん。」
「ど、どこで売ってるのそれ?」
「中古玩具店で買ったからな、これ一つしかなかった。店主に聞いたら、あまり売れなくて廃品になったもの一つ貰って店に置いてみたらしい」
「そのクオリティで売れないってどんだけ贅沢なのこの世界の人……。……なら君はどうしてここに?それに乗組員は……」
僕のこの問いに王流は、困ったような笑みを作りながら応えた。
「それも知らんよ。船の様子を不審に思い、ブリッジに入ったが誰も居なかった。オマエも私と同じだろう?お互い、無駄に行動力と好奇心が旺盛だな。」
無駄かはどうかは分から……いや、もはや何も言うまい。
しかしどうしたものか?このまま
僕たちで船を動かす?いや待て、馬鹿馬鹿しい、そんなことできるはず無いだろう。
「しかし困ったものだな、どうやらここでは携帯も通じないようだし……」
ふむ、……本当だ、携帯を開いてみても、表示は圏外。普通は船自体にアンテナが設置されていて携帯は通じるようになっているのだが……。
完全に詰みのようだ。僕たち卒業生はこのままこの海域を彷徨い続けるんだろうか?そして やがて船内の食料が底を尽き……。こうなったら僕たちだけで船を動かすしかないのか?
「おい」
「な、なんだよ王流?」
「まさかオマエ、船員がいないからこの船を自分達で動かすしかないとか考えてないか?」
「……………」
図星なので何も言い返せない僕である。
「フン。馬鹿だな、こういう時は船を動かす云々より救難信号だろう」
「……あ」
正に「言われてみれば確かに」である。
人を乗せるものには大抵、救難信号を発生させる装置が取り付けてあるのが普通だ。この船にも然り、それが存在するだろう。
しかし、こういう状況で頭が働く
僕は普段、無駄な知識を溜め込んでるくせにこういう時はあまり頭が動かない。冷静にはなれるのだが。
本当は冷静さと思考能力は関係性など無いのだろうか?それとも、僕が普段からこういう無駄な事を考えているからいけないのか?………こんな話題は後回しでいいか。
既に王流は僕を放って救難信号発生装置を探している。僕も手伝わねば――――。
海がある。海は薄暗く、空には既に月が小麦色の光を纏い浮かんでおり、その光は海上に浮かぶボートを照らしていた。
ボートには、ボロボロの革のローブの様な衣服に身を包んだ男が1人、左手首にリボルバー拳銃を乗せて左腕を構えていた。また、拳銃からは
これは俗に言う
男が構えたガンマンズディスクには、カードが1枚挿さっていた。永続魔法と呼ばれる種類のカードであり、挿されたカードは名を『次元の裂け目』という。
そのカードの効果は「墓地へ送られるモンスターは墓地へは行かずゲームから除外される。」というもの。
そして男の乗るボートの正面には、そのカードの名とそれに描かれたイラストの通りの“裂け目”が存在し、男はじっとそれを見つめていた。
「定期船が行方を晦ませてから2日が経過するが、やはり異次元に……」
二日前の午後4時ごろだった。
俺たち卒業生は定期船として使用されている船へと乗り、本国――つまり日本列島へ向かう予定だった。
しかし少し事情もあって、俺だけはその船に乗り遅れてしまったのだ。仕方なく、明日戻やってくるという貨物船をアカデミアで待つことにした俺だったのだが、突如、アカデミアは騒がしさに包まれた。
何かのトラブルかと思い教諭に事情を問うてみたところ、船からの到着したとの連絡がまだ無いとのことだ。アカデミアのある島から本国まで船で行き来するには2時間ほどで済む。予定通りの航路を辿っていれば、船はとっくに本国についていてもおかしくは無いらしい。
その時の時計は午後8時を示していた。単純に計算すれば到着が2時間近く遅れている計算になる。確かにこれは異常だ。
無謀と考えるものもいるだろうが、俺は個人的に定期船を捜索することに決め、6人乗りほどのボートへと乗り込んだ。それから一日近く捜索を続けていた俺は、もしやと思い『力』を使った。
それが俺の目の前に存在する『次元の裂け目』だ。俺の『力』で生み出したそれは確かに現実に存在し、裂け目を通れば文字通り異次元へと抜けることができる。
……問題は船のある地点へたどり着けるかどうか。そしてその問題を解決する手は用意してある。
「魔法カード発動、異次元の指名者!」
「……宣言するのは俺自身、
俺の姿はボートごと、裂け目に吸い込まれた――――。