遊☆戯☆王デュエルモンスターズ【Highlander・Twelve】 作:CO2
ネオ童実野シティの市立病院。そのとある病棟の廊下で、デュエルキングだった男、ジャック・アトラスは、一人の男と対峙していた。
フォーチュン・カップでの怪我で腕を負傷した彼は、たまたまそこに居た丸眼鏡のナースを臨時の手としていた。その時ジャックの言葉は「俺の手となれ!」。
新手のプローポーズに聞こえてしまうは気のせいだろうか。
対する男はセキュリティ制服を見に纏った牛尾だか鮫尾だとか呼ばれる男。辛うじて顔は覚えていた。
彼らの周囲には青白い炎が囲み、逃げる事は出来ない。無論ジャックに、逃げる気は毛頭無かった。
「ストロング・ウィンド・ドラゴンで、ウォーム・ワームを攻撃!ストロングハリケーン!!」
ストロング・ウィンド・ドラゴンの放った3400ポイントの熱線に、ウォーム・ワームが焼き尽くされる。
海尾?LP4000-2000=2000
ここまではジャックの予測通りだったが、ここで思わぬ事態が起こる。
ドドオオオオオオオオオオオ!!!
ストロング・ウィンド・ドラゴンの熱線は、敵モンスターばかりか、廊下の床をも焼き砕いたのだ。
それはまるで、現実に彼の|僕(しもべ)の竜が、本当に熱線を放ったかのようだった。
青白い炎のリングといい、実に非現実的だ。
「なんだこれは…」
「よくわかんないけど、本当に命がけのデュエルらしいんです…!」
「実際に衝撃が……」
「なんだろ?今の振動。地震にしては妙な音がしたけど」
「さあ。でも異常であることは確かだし、これ以上デュエルは続けられないな」
デュエルは中止され、ソリッドヴィジョンは消えていった。
さっきの音、あれは確実に爆発音だ、病院で爆発音なんて異常すぎるだろ。
普通に考えて火事だろうが、非常ベルが鳴っていないのは火事じゃないにしてもおかしい。
「気になるみたいだな?」
挑発気味にこちらを見る|王流(おうる)。
「いや、そんな事…」
「顔にそう書いてあるように見えるがな」
ハハハと笑う王流。僕を煽っているつもりだろうか?今回ばかりはのん気な奴だ。
まあ、確かに気にはなってるんだけど、この前の船みたいな厄介なことに巻き込まれるのもゴメンだ。という気持ちも僕にはあった。
だから迷っている。
「まあいいか、私は気になるから言ってくる。じゃあな」
「えっ、ちょ」
僕の意見も聞かず、王流は非常階段のある方向へと走り去ってしまった。
野次馬根性ってやつだろいうか?
仕方ない、何だか王流なら大丈夫って気もするが一応あれも女性だし危険だ。心配だし付いていこう。
そうして非常階段へ向かう途中の病室。僕は、最初からそうするつもりがあったかのように、僕の足は一つの病室の前で止まってしまった。
『え、なんで?』僕の感情はそれだった。王流は非常階段へと向かった。心配して彼女を追いかけたはずだった。なのに僕はそれ以上廊下を進めない。いや、そんな気が起きない。
『王流なんてどうでも良いや、この部屋に入らないと』『何でそうなる、王流が危険になってもいいのか!?速く彼女を追いかけないと!』
僕の意識はこの時2つだった。まるで僕の頭の中で、デフォルメされた天使と悪魔が言い争うような。
自分が何を考えているのかさえ分からなくなっていく。僕の足は非常階段へは向かわず、病室へと入っていた。
もはや身体さえ一切の言う事を聞かない。意識だけが取り残され、僕の身体は個室のベッドの前で止まった。
ベッドで眠っていたのは、30代を過ぎたほどであろう女性だった。女性は僕の来訪に反応してか、スクッと上体を起こし、僕へと顔を向けまぶたを開いた。
「あら、来たのね」
女性は驚くでもなく、まるで僕が最初からここに居て、さも僕と親しい仲かのような態度をとった。
「どうしたの?」
「あ、いや……」
「なんでもない」と、「部屋を間違えた」と、そう言おうとしたのは分かっている。だが、その台詞はどちらも僕の喉から大気中に解き放たれる事は無かった。
「ああ、そうね。彼女達の……」
一方的過ぎるだろこのBB…女。彼女達?いったい何のことなんだ。何を言ってるんだこの女は。
付き合ってられない。今すぐここから出て王流を追いかけたい。だが身体は全く動かない。金縛りだ。
「いいわ、邪神から守ってあげる。たった2人の娘のためだものね」
「じゃ、邪神……?守る……?」
僕の疑問も気にせず、女性の言葉は続く。
「地縛神かあ……。もうそんな時期なのね。これで私が経験するのは5度目かしら」
「ああもう、一人で勝手に喋らないでくれ!」そんな声もまた出なかった。
「お母さん……?」
僕の背後から突如響く声。聞き覚えのある声だった。
「エクスプロード・ウィング・ドラゴン、漆黒のズムウォルトを攻撃!キングストォーム!!」
王流が衝撃音を聞いた場所へたどり着くと、その場でジャックのデュエルはクライマックスを迎えようとしていた。牛尾のライフは2000。今しがた攻撃を行ったエクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力は2400。攻撃を受けた漆黒のズムウォルトの攻撃力は2000。エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果により、牛尾には丁度2000のダメージが与えられ、牛尾は敗北する。
その通りになった。牛尾は倒れ、そして彼の腕にあった紫の蜘蛛の紋は消えた。
ソリッドビジョンが消える。
「漆黒のズムウォルト?確かさっきは黒いカードだったはずだが……」
王流が拾ったそれは、漆黒のズムウォルト。先ほど牛尾が使っていたカードだった。
彼の使用時はカードの縁取りが禍々しい黒となっていたが、今はシンクロモンスターの証である白。
レベルも今は、マイナスではなくプラスになっている。
いや、それよりもまずはセキュリティの男を助けるべきかと考えた王流は、彼に駆け寄った・
「おい、大丈夫か?」
「あ?ああ……、いってて、俺は何を……」
覚えていないのか……?正気ではなかった……?
だとすれば誰かが彼を催眠に掛けていて、デュエルが終わったと同時にその際民が解けるように細工していた。と考えるのが自然だ。そう王流は考えた。
だが、その先は私が考える事ではない。として王流はそこで思考を止め、目の前の人間を助ける事に専念した。
「ここは病院だが、こんな様子ではオマエはここで休めないな」
「な、何でだよ」
「いいか、オマエはこんな地面が陥没しかけのボロボロの場所にいたんだぞ。どうなるか分からないわけではないだろう。最良で弁償、最悪器物破損で訴えられる事になるだろうな」
「……………」
絶句する牛尾。表情は青白い。不謹慎ながらも噴き出しそうな王流だったが。
「仕方ない、私がなんとかしてやろう」
「え?」
牛尾の前には女神がいたのだった。
「お母さん……?」
聞き覚えのある声に振り返る遊香。だがそれは予想した人物の姿ではなかった。
現れたのは、髪の右側を深紅に、左側を深緑に染めた少女だった。
「あらルミエ、いらっしゃい」
「いらっしゃいじゃ無いわ。こんなところで油売ってないで戻ってきてよ」
「そうね、さっきのナスカの闘いは終わったみたいだし」
遊香を置いてけぼりにして、彼女達は去っていった。
「なんなんだいったい」
病室に残ったのは遊香のその呟きだけだった。
遊香って主人公だよね……?