遊☆戯☆王デュエルモンスターズ【Highlander・Twelve】   作:CO2

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Episode3 Change to unstoppable

 

 そこには2人の男と1人の女がいた。

 青緑色の髪を後ろで纏めた青年と、それに相対する目つきの鋭い黒髪の長身の少年。そして、その相対を見守る、青年と同じ青緑髪の髪をストレートにした女性。

 2人の男は、アンティデュエルを行っていた。

 

「聖刻神龍-エネアードで、ライフ・ストリーム・ドラゴンを攻撃!」

 

 黒髪の少年の宣言によりデュエルは動く。装甲の龍の放った閃光に金色の竜が包み込まれる。

 エネアードの攻撃力は2800、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力は今、3300。攻撃を行った側の攻撃力が負けている。

 だが攻撃を受けた青緑髪の青年の表情はむしろ、劣勢の者のそれだった。

 一方黒髪の少年の表情は、覇気に満ちており、明らかに優勢を語っていた。黒髪の少年が更に動く。

 

「エネアードが戦闘で負けた事により、罠カード、エクシーズ熱戦!!を発動!

俺は1000ライフを払い、お互いは破壊されたモンスターのランク以下のランクを持つエクシーズモンスター1体をそれぞれのエクストラデッキから選んで相手に見せなければならない。」

 

黒髪の少年LP1600⇒600

 

「そしてその攻撃力差で負けた者はその数値のダメージを受け、見せられなかった者は更に見せられたモンスターの攻撃力分のダメージを受ける!俺が見せるのは攻撃力3000、サンダーエンド・ドラゴン!お前は?」

「…分かってて言うなよ、チクショウ!」

 

 手札を地へ叩きつける青緑髪の青年。彼はエクシーズモンスターを持っていなかった。それどころかそんなカードは見たことも聞いたことも無い。本来ならライフ・ストリーム・ドラゴンの効果により、カードの効果で、カードの効果によるダメージを受けないはずだった。

 だが黒髪の少年は事前に、攻撃力を400アップさせカード効果を無効化させる、禁じられた聖杯を使用していた。ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力が3300にアップしていたのはそのせいだ。

 

 龍亜LP2200-3000=0

 

 アンティデュエルで賭けていたのは、龍亜の仲間との絆の証である唯一無二のパートナーであるライフ・ストリーム・ドラゴン。龍亜にとって、その仲間達との友情は何があっても揺るぎ無いものだ。

 だが、ライフ・ストリーム・ドラゴンを奪われる事は、その絆をヤスリで削るに等しかった。

 

「どうしてオレが……!くっそう…!」

 

 思わず|跪(ひざまず)き、右手の拳で地を叩く龍亜。

 最近、ライディングデュエルでもスタンディングデュエルでも龍亜は負けがなかった。

 その快進が、誰しも経験しうる『慢心』という落とし穴を龍亜の死角に作っていたのだ。

 

「龍亜が、負けるなんて……」

 

 彼の妹である龍可も、彼の敗北を予想できなかった。

 

「なにか勘違いをしているようだな?」

 

「「えっ……?」」

 

 思わず声が重なる兄妹。『え、勘違い?』その疑問を放つ言葉さえも声帯から出なかった。

 

「言っただろう、俺が勝てばライフ・ストリーム・ドラゴンを“借りる”と」

 

「「え」」 

 

 また声が重なる。2人の思考は完全に止まった。そしてまた動き出し、2人はようやく理解した。

 『自分たちは思わぬ大きな勘違いをしてしまっていたのだ』と。

 そして理解した途端、2人の顔は熱くなっていく。

 

「え、えっと……」

 

「ご、ごめんな。最近、ライフ・ストリームを賭けてデュエルを挑んでくる奴が多くってさ」

 

「ふん、全くだ。とんだ悪役じゃないか俺は」

 

「ご、ごめんって!今日1日貸してやるからさ!」

 

 思わず軽いテンションでそんな事を言ってしまう龍亜。

 最も、アンティデュエルで負けた以上、賭けたカードを勝者に渡さなければならないのだが、その台詞は絆はどうしたと思わず突っ込みたくなるものであろう。

 

「ああ、元々それが賭けの内容だったからな。では借りていくぞ」

 

 そう言って黒髪の少年は龍亜が差し出したライフ・ストリーム・ドラゴンを受け取る。

 その瞬間……。

 

「あれっ?」

 

 そこには、黒い髪の少年など存在しなかった様な空間があった。

 龍亜が、少年は着えてしまった事を認識する前に

 

「私達、何をしてたんだっけ?」

 

 そんな事を言う龍可。

 

「何ってアイツと……アイツ?誰だそれ?俺何言ってんだ?」

 

 龍亜が黒髪の少年、深森握徒とデュエルをしていた事、それを知っているのは最早、龍亜の足元に落ちているライフ・ストリーム・ドラゴンだけだった。

 

 

 

 

「………………」

 

 そして現代。

 ここへ戻ってきた深森の右手にもまた、ライフ・ストリーム・ドラゴンが握られていたのだった。

 彼に話しかける存在が一つ。その声は、老化して動かなくなった声帯を無理矢理機械で動かしたようなものだった。

 

『アポリアを倒した存在。シグナーの竜の1体ですか』

「ああ」

『それをあの少年、龍亜に渡すと?』

「この時代のな。なんだ、不満か?」

『………………』

 

 その彼の沈黙は、肯定を意味していた。

 過ぎた力は世界を滅ぼしかねない、それが彼の考えだった。この時代の龍亜に対して、ライフ・ストリーム・ドラゴンは間違いなく過ぎた力だ。それに、そんな事をすれば大きな歴史改変となってしまう。

 後戻りは出来なくなる。だが……。

 

『いえ、私は貴方に対して意見できる立場ではない。いくら不満を持とうと、貴方は私の命の恩人。

それに貴方の行動は、世界を救うことに起因するものだ。例えそれが間違った道へ進むきっかけになるとしても、私は本来なら死んでいる身なのだ。ならば、私は任せるしかない。

あなたと、この時代のZ-ONEに』

「わかってるじゃないか。そうだ、お前は見守ってくれていればいい。俺たちの世界をな」

『ええ……。この世界を見守る。それが私にあなたが与えた役目。

私はその為だけに、生かされる身……。ならば、私はそれを全うするまでです。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな映像が流れたらキングも貴方も終わりね」

 

 ネオ童実野シティ長官の秘書である狭霧御影は、王流(おうる)に肩を借りている牛尾に対しそう言った。

 牛尾は口を閉じている。疑問の声を上げるのは王流だ。

 

「ふむ、弁償だけではすまないと?」

「そんな金が何処にあるというの?」

 

 狭霧の言葉に、王流は心の中で密かに笑った。

 

「勿論、弁償だけではすまないわよ。最悪留置所入りね、キングも彼も」

「つまり証拠隠滅か。」

「仕方ないでしょう?」

 

 王流の言葉に刺々しく言葉を返す狭霧。苛立っている事が手に取るように分かる。

 王流は確信した。この狭霧と言う女性、接する相手によって大きく性格が変わるタイプの人間だ。このタイプの人間には大抵『意中の相手』がいる事も王流は知っていた。

 

「とにかく、この女の居場所を調べるわ、貴女もついて来なさい」

 

 モニターの中の看護士を指差してそう言う狭霧。王流は牛尾とキングのデュエルを目撃した人物でもある。キングを慕う狭霧としては、放ってはおけなかった。

 

「目的は聴取か?まあ、目撃者は私と監視カメラだけだからな。いいだろう」

 

 彼女は上手く勘違いしてくれたようだ。そう狭霧は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャックが目覚めると、そこは誰かの寝室らしき場所だった。

 思考を巡らせるジャック。

 

 「そうだ、俺は確か……」

 

 その時、戸を叩くものらしき音が聞こえた。直後に聞こえてきたその声はジャックの見知った声だった。恐らく自分を探しに来たであろうと踏んだジャックはベッドから降り、玄関へ向かう。

 

「その女に責任は無い、俺が頼んだのだ。」

「あ、アトラス様、いらしたのですね!さあ、帰りましょう?」

「ああ、ちょっと待ってくれるか」 

 

 突如、玄関先から現れる見知らぬ女。その雰囲気は、男装女優を思わせた。

 眉尻を軽く上げながら微笑んだその女は、自分とそう年齢も変わらないように思えた。

 

「やあキング」

「……俺はもうキングではない」

「ああ知っている。だが呼び名など関係ない。呼びやすいからそう呼んだだけだ。アトラス様と呼ばれるほうが好みか?」

「俺に何の用だ!」

 

 この女、何か気に食わん。それがジャックの王流に対する印象だった。

 何故かこいつの喋り方にはイライラさせられる。まるで挑発しておいてこちらの意見をまんまと受け流されているような鬱陶しさが感じられた。

 

「ああ、すまん。誰にでも余計な事を喋りすぎる癖があってな。私は月河王流。学生だ」

「何用だと聞いている!」

「いやなに、これをしたいんだが?」

 

 月河が見せ付けるように掲げたのは、デッキだった。

 

「オマエ確かカーリーだったな?」

「うぇ!?は、はい!」

 

 突然、話を振られて慌てるカーリー渚。彼女等がここに来てから、自分そっちのけで勝手に話が進んでいたのに、急に話を振られれば仕方ないが。

 

「見る限りこのマンションの屋上、いいスペースがありそうだが?」

「う、うん、そりゃデュエルくらい出来るけど……」

「では良いな?アトラス」

 

 ジャックはそこまで言われて、引き受けないデュエリストではなかった。

 

「フン、無論だ!受けて立つ!」

「あ、あなた、相手が誰かわかって…」

「デュエリストなら、売られたデュエルは買う。それがデュエリストだ!お前は俺の何を見ていた!」

 

 ジャックにデュエルを挑むと言う王流に意見する狭霧だったが、ジャックの喝破に狭霧は黙るしかなかった。

 


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