C.E.に転生した男がとにかく生きようと奮闘する話 作:QAAM_M1911
「辞令…新造戦艦ミネルバへの乗船……ねぇ。どうやら厄介ごとを引き受ける事になりそうだよ。」
「新型に乗るのですか?この前は特務隊に入隊して…私たち、鼻が高いですよ!」
「ヘキサ兄もシンもホントスゲーな!」
「そうだが…あと誰だノンアルコールワイン持ってきた奴は。これシスターのだろ。」
「良いでしょ、どうせ身内の中なんだし…」
「そうもいかねぇよアリー…一応ノンアルコールつったってちょいとはあるんだぞ?」
「社会に出て潰れない為にも…って事よ。んぐんぐ…」
「おまっ馬鹿!だからっつって一気飲みする奴が居るか!!」
「んー、やっぱパス。なんか苦いわ。」
そんな新年会。今日はC.E.73年元旦。俺も新米共の指導の役目を一旦終えて孤児院へとまた戻ってきている。シンもどうにかして連れ帰って来た訳だが。
「やっぱりお酒って怖いもんなんですか?」
「怖いよ。上官が一度泥酔して拳銃乱射した事件習わなかったか?」
「習ってません!そんな事件あったんですか!?」
「あぁ、俺がアカデミーに居た頃だなありゃ…あー空砲とは言え酷かったぜ。」
「あはは…」
「ま、とりあえず訓練修了おめでとうとは言っとこう。けど、こっからだ。実戦があった場合、そこでたたき上げられる。良いか、俺たちの役目は戦う事じゃねぇ、戦争を未然に防ぐ事だ。」
「はい。」
「…ま、今日は食え。んで、コイツらと遊んでやってくれ。」
「え、俺だけ!?」
「流石に嘘だよ、お前はこっち。大人の会談ってやつだ。」
とシンを巻き込んで孤児院の大人で話をする。もうレイは研修期間を終えている為いないが、ちょくちょく連絡はしているみたいだ。
「さて、改めてヘキサ兄とシンの特殊部隊入隊に乾杯!」
「ヘキサはデュランダル議長の直属でしたっけ。凄いですよね~、しかも新造の戦艦に乗るんですよね?シン君も強くなって…嬉しいですよ。私としてはあまり戦って欲しくはないんですけれど……」
「まぁまぁ、ヘキ兄さんも強いんだし、シンも無事に帰ってくるでしょ。戦争が差し迫ってるわけでもないんだし。」
「そうとも言いきれないのが軍人のつらいところだな。」
「そうなんですか?」
「んじゃ…シン、お前の乗るインパルスはどういう経緯で開発されたか知ってるか?」
「は、はい。戦闘機をドッキングさせるからMSの保有数に数えさせない…あ。」
「そ、条約のギリギリを攻めすぎてるんだよ。インパルスに難癖付けて戦争が起こる可能性もなくはない。マイウス市も完全に安全であるとは言えないし、一応疎開とか避難の準備はしてくれよシスター。」
「そうですね…もし危なさそうだと思ったら、連絡をしてくださいね?子どもたちを死なせる真似はしたくありませんから。」
「あぁ、そうする。アリ―、ネルセン、お前らももしもの時は頼むぜ。」
「まっかせときなさい。」
「コロニーの建設で居ねぇかもしれないけど、まぁ努力するよ。」
「シン、俺らは戦争を起こさない様に全力で身体張って民衆を守る、それが正しい軍人だ。君の身に染みているとは思うけど…分かったな。」
「はい、もう俺みたいな人間を出したくはないんです。」
「それでいい。戦う内に心境が変化する事もあるはずだ、迷ったら相談はしろよ。俺の先輩としての役目はそれだ。」
そう言うと、俺はコーラを一気に飲み干した。
軍に戻る前日。俺は買収した工場へと足を運ぶ事にした。理由は簡単、ミネルバに乗ったら俺の裏での動きが鈍る為だ。今後の細かい行動はしっかりこちらで決めて貰うのが重要なのだ。その話し合い、そして視察も兼ねてある。
「よっす、ニコル。戦艦の設計はどうだ?」
「ヘキサ!戻ってたんですね?順調に進んでます。見てみますか?」
「あぁ。」
そう言って、俺はニコルの手元にあるパネルを覗き込んだ。
艦船名、ジャンクチャ。ミネルバやアークエンジェル級の廉価版というコンセプトで作られたのがコイツである。まず過剰火力なローエングリンやタンホイザーに類する超火力の削除。一番の火力は電磁カタパルト兼用のレールガンに任せる事になる。その為カタパルトは艦船から少し飛び出す、潜水艦の様な形状の設計となる。その他の武装はCIWSとミサイルのみ。ビーム兵器が無いがかなりの運用コストダウンを実現しており、クーデターを起こすにはうってつけだろう。
「…居住性が皆無だな。」
「そりゃそうですよ。お金だって、無限にある訳じゃないですからね。」
「あぁ、いくらアマルフィ家の支援でも金が足りん。ジャンクパーツからいくらか取るしかないな。」
「最低でも3隻…旗艦も含めて4隻は必要ですね。それとクーデター軍の機体…これも開発してます。お金が足りなさすぎる。本当、3隻同盟はどうやりくりしてるんだか。」
「機体も見せてもらっても良いか?」
「えーっと…あった、これですね。"PW-MK.1"、ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載したファイターですね。」
「条約違反のファイターか…武装は?」
「30mm炸裂徹甲弾、汎用ミサイル、バラエーナ改。そして特殊兵装として広域制圧用とPS装甲貫通用のプラズマミサイル、そしてフリーダムの技術を流用したマルチロック式の64連装バーストマイクロミサイル。」
「これが通常兵器か…家計が火の車だな。」
「でもジャンクパーツで十分運用出来る範囲ですよ。バラエーナだって意外と工場にありますし…ジャンクチャに5機ずつ配置する予定ですね。」
「成程な…合計15機ってところか。まぁこんだけ武装を積み込んでるなら大丈夫ではあると思うがな。で、もし戦場に核が持ち出されなかったとしたら?」
「その時はバッテリーで稼働させますよ。まぁ、フリーダムの所在が不明ですからね…」
「残念だがあいつらは出て来る。本当に残念だよ。隊長が見込んで負けたと言うのに、時代の船頭を取らないとは。」
「まぁ言っても仕方ないです。今僕たちに出来ることは、最善を尽くす事だけです。備えるしか出来ないってのが歯痒いですけどね。」
「んで…俺の機体はまだ設計段階か。取り敢えずの要望は…まず大火力のライフル、サーベルだけは必ず積む。」
「大火力のライフル…とサーベル。つまり機動力をとにかく積むと。」
「あぁそうだ。ライフル下部にはナパームグレネードを追加。こんぐらいかな?」
「それだけだと腕を喪失した時に攻撃手段が無くなりますね。腰部にもビームランチャーを追加しましょう。」
「よし、乗った。武装はその位で良い。あとは機動性だな…色々やるかも知れないけど、頼むぜ。」
そう言い、俺はここを出ようとした。
「あっ、もう一つ見て欲しい物が…」
「何だ?」
「…フリーダムに撃墜された方のデータです。」
「…まさか、戦闘に出すのか?」
「彼らも志望してます。四肢が無くなっていても、身体が動かなくとも戦えるのなら戦うと…」
「…分かった、彼らの最大パフォーマンスを出せる案を出してくれ。もし彼らが嫌だと言ったのなら、その案は破棄しろ。だが彼らが了承したのであればどんな外道な手段を使っても構わない。憎しみの連鎖を止めるには、その憎しみが何を引き起こすかを全世界に見せつけるしかないからな……」
「ザクファイター、恐ろしい程早く壊れたな…」
機体テスト中の事故もたまにあるものだ。今回その当事者が俺だったと言うだけである。幸い怪我もなく着陸出来たが、ザクファイターで一番マズい欠点が露呈した。
「やはり接合部の問題です。ファイターパックに耐えれる様に固定パッケージにしたは良かったんですが、それでも耐えられず…空中分解したみたいです。」
「もっと強化出来ないのか?」
「これ以上強化するなら新造するかグフでも使った方が強度も良いしコスパ的にも安上がりですよ。」
「ったく、グフも俺は機体特性的に無理だしな…」
俺のパイロット傾向としては言わば一撃離脱。故に近接傾倒機体では少々問題がある。また、最大加速時にも機体を構わずぶん回す為に手足を換装するという特性のグフでは強度があまり足りない。と言うか、現状のザフト軍の機体コンセプトが俺にほぼ合っていない。俺としてはライフルかガトリング、それと取り回しが良くて威力のあるサーベル、高機動であればいいのだが。
「ったく、これっからどうすっかね。セイバーの納品はまだなんだろ?」
「はい。進水式にも間に合わないかもしれないみたいで…」
「…ま、式典で爆発の臭いなんざ誰も嗅ぎたくねぇからな。しっかり整備しといた方が良い。」
「しっかし、どうしますか?その間、あなたが乗る機体がなければ…」
「この際ファイターで良い。良い機体ねぇか?」
「そうですね…に問い合わせてみます。」
「なら俺がやる。ニコルが居るしな。」
「…諸々の手続きもあるんで私も同席しますよ。」
「よぉニコル。足の調子はどうだ?」
『上々ですよ。良い義足を貰いましたから、アフターサービスも万全ですから心配ないです。今日は何の用ですか?』
「なんかいい機体ないか?ザクファイター壊れちまってよ。」
『あれもう壊れたんですか!?確か最大9Gまで耐えられるはずなのに…』
「確かに9Gは耐えられてました。でもその後連続して同等以上の旋回を繰り返したので劣化が相当早まったんですよ。ラックも結構無茶して設計してましたし、コストも馬鹿にならない。ザクファイターは今生産し終わったもので生産は終了しといた方がいいですよ。」
『うーん、分かりました。とりあえず設計局に報告書を回しておきます。それで、新しい機体が欲しいって事ですね?』
「あぁ、話が早くて助かる。この際ファイターでも良い。」
まだマイウスの設計局にアマルフィ家は食い込んでいる。話を通しやすくて本当に助かっているのだ、ザクファイターもそこで設計して貰ったものであるし。
『まだネロセイバーの改修は終わってませんし、かと言ってザクもグフも強度不足…ファイターが良さそうですね。これなんかどうです?』
送られてきたファイル。“spper”と表記されたソレを解凍しながら、ニコルの言葉に耳を傾ける。
『ファイターのコンペに負けてしまった機体、それが“SP-34R”。20mmガトリング砲を4門、30mm炸裂徹甲弾を2門、キャニスターを2門、そしてレールガンを一門搭載した可変翼機です。空も宇宙も両方いけますよ!』
「ミサイルは?」
『ありません。』
「誘導兵器は?」
『…ないですね。』
「こんなんでコンペで勝てる訳?」
『……ないですね。』
「…まぁまぁ、それでもそうそうVPS装甲持ってる機体に鉢合わせる事はないでしょうし、良いんじゃないですか?」
『あ、対PS装甲ならどうやらレールガンがその役目らしいですよ。』
「どういう事だ?」
『このレールガン、発射の際に飛翔体がビームライフルと同等に加熱される様です。その為、熱エネルギーと運動エネルギーの両方が合わさるのでVPS装甲の許容範囲を凌駕する……という感じらしいです。』
「らしいとはどういう事です?」
『飛び級したとは言えまだ僕も実習生ですから。設計も開発も携われてはいませんよ。』
「ニコルも俺と同期だぜ?そこから開発の道に入ったんじゃぁ業界に入って二年程だ。無理もねぇさ。」
「むしろ二年で実習生になってる方がおかしいんですが。」
「それもそうか。ま、とにかくだ。シュペアー、気に入った。コイツを貰おうじゃねぇか。納入は?」
『ミネルバの進水式には間に合わせます。』
「上にも補給の申請をしておきますから、お達しが来たらいつでも動けるようにお願いします。それでは。」
じゃぁな、とモニターを切って座ったまま伸びをする。
「癖の強そうな機体でしたね。しかし可変翼機ですか…整備が大変そうだな。」
「あぁ、それとこの操縦系統。コフィンシステム…ね。間接的な神経接続を行って直感的な操縦をする、か。ドラグーンシステムを一般兵にも扱えるようにする技術試験的な側面もあるのか?」
「恐らく、そうでしょうね。ドラグーンシステムの発展は結構目覚ましいものがありますから。」
「そうか…」
これは使えるかもしれない…いや、もうニコルなら研究を始めているだろう。神経接続なら四肢が失われていても操縦が出来る。これを使わない手はない。
……本当にこれで良いのだろうか。しかし、彼らがやりたい事なのだ。だがこれが公になって俺が撃墜したブースデッドマンの様な存在が多数生み出されてしまうのではないだろうか?
俺は何をすれば良いのだろう。行くところまで行くしかない、のだろうか。隊長の様に、俺がもう一度破滅の賽を投げるしかないのだろうか。どうしようもない世界に、ただひたすらに無力感を感じていた。