C.E.に転生した男がとにかく生きようと奮闘する話 作:QAAM_M1911
「シン、家族の墓参りは行ってるのか?」
ミネルバ着任前の話である。飯を食ってる時、唐突に俺は聞いた。
「いえ、プラントに来てからは…」
「そうか…休み取って、一回行くか?」
「良いんですか?」
「部下のメンタルケアも上官の仕事だ。特に、PTSDなんてもんはな。過去とはそう簡単に折り合いがつけられるもんじゃない。でも、家族を想う気持ちは忘れるな。」
「…はい!」
「あ、俺も着いていくからな。」
「はい!?」
「ちょいとやる事があるからな。ついでに、と言っちゃ失礼だが俺も挨拶させてくれ。」
休暇をしっかりとった俺とシンは、民間機のシャトルへと乗り込んだ。数日間のフライトにはなるが、疑似重力がある為身体が萎む事はない。
「しっかし、お前もなかなかやるようにはなったじゃないか。操縦技術だけなら一応先代の赤服に手が届くくらいだぜ。」
「そうですか?」
「シミュレーターの成績、アカデミーの中でもお前がトップだ。教え甲斐があったってもんだよ。」
シンはインパルスの専属パイロットとしての訓練が始まるところだ。その前に、一度どこかに連れ出してやった方が良いと思ったのだ。
「さて、大気圏突入、だな。」
「俺は初めてですね……オーブを出たら、それっきりだったんで。」
「俺も二回目だ。しかも、一回目は単独突入。直後に戦闘だった。あんな経験そうはない、一生の語り草だ。」
窓が断熱シャッターに覆われ、少しずつ重力を感じ始めた。機体が揺れ始め、泣き始める子どもも出て来た。地球に孤児院の皆を連れて来るのは少々難しいかもしれない。
「全く、重力には慣れねぇな。シン、お前はどうだ?10年以上もこれを感じてたんだろ?」
「…はい、懐かしいです。けど……」
シンの表情から察するに、苦い記憶が蘇ってきているらしい。だが、今回ここに来たのはその苦い記憶にほんの少しでも折り合いをつける為。でなければ軍人…その中のエリートなどやってられない。付け入る隙というのは相応に死の危険が生まれてしまう。特に、精神面はそう簡単に修正出来ないし、致命的な隙となり得る重要なファクター。
よくよく考えてみれば俺の同期には問題児が多かった気がするから、そもそもの話コーディネーターは軍人に向いていないのかもしれない。傲慢が故に慢心を生み、付け入る隙が生まれる。軍人に必要なものは一つの得意であるか?補い合える仲間がいれば別であるが、答えは否である。必要なのは全てにおいて苦手のない実力。こうだからこそ、隙が生まれずに全てを伸ばす事が出来るのだ。
かと言って、これでは単なるマシーンである。公私を使い分けられる、それが一流のエリートというものだ。俺がそうなれているかは分からないが、シンとレイにはそうあってほしい。だからこそ、2人の面倒を見ているのだ。
「まぁ、直ぐに答えを出せるわけはねぇさ。でもな、色々な人と触れ合うんだ。そうすれば、自ずと道は開ける。」
「色々な……人と?」
「あぁ。例えば民間人。皆がどう生活していて、不満を持っているか。どんな長所があって、短所があるか。それと、自分の尊敬する人。」
シンが誰を尊敬しているかは分からないが、プラントに来る際の恩人などが当てはまるだろうか?
「尊敬する人もやっぱり人だ。完璧超人なんざ、この世には存在しない。自分に出来ること出来ないこと、色々あるさ。だから、観察する。人類の発明なんかも割と自然由来のものが多い。よく見て、学んで、真似する。それを積み重ねていけば自分の強さってものを形成できる。」
「自分の強さ……ですか?」
「あぁ。逆に、自分の弱さも同じように見えてくる。強さより、弱さを埋めた方がいい。そうすれば、全てが並以上に出来る様になるはずだぜ。」
目をぱちぱちとしながら、シンは話を聞いていた。
「……ハードル高すぎたか?」
「あ、いえ!何と言うか、その…ストイックだなって。」
「手っ取り早く強くなるなら、ストイックに練習を積むのが一番だ。でもな、一人でやったら自分の癖がそのままになるどころか、悪化して致命的な欠点にもなり得る。信じれる人間を仲間にして、仲間を信じろ。競争相手がいた方が、人間は強くなるからな。」
気付けば完全に重力を感じる様になり、窓の外には青空が広がっていた。広大な海に反射する光がキラキラと揺蕩い、目的地のオーブが遥か彼方に見えていた。
「……さて、そろそろ着くな。」
「はい。」
「オーブに寄るのは初めてだ、楽しみだな。」
「歳重ねてもそういうものなんですか?」
「おいおい、俺はまだ20だぞ?」
そんな軽口も叩けるくらいには心の余裕が出来ているみたいだ。良かった、というべきだろうな。シャトルが高度を落としながら、着陸の時を待つ事になった。
「正に平和の国だな。だが、二年前の様相とはまるで違うんだろうな。」
「……はい。」
確かに平和の国としての顔は見えている。しかし、どこかちぐはぐ。古びた建物が新築の建物の中にぽつんと建ててあり違和感がある。古今折衷と言えば聞こえはいいが、戦闘の爪痕として残っているのだ。
「んじゃ、ご家族との挨拶にでも行くとするか。慰霊碑は……あそこか。」
「…」
「白い菊でも買っていくか。流石に手ぶらでとはいかんだろうしな。」
「…はい。」
シンは躁鬱を患っている。気分の上下が激しく、高ぶっているときは何をしでかすか分からず、下がっているときは周囲に流されてしまう。そんな状態だが、例外はあれど不思議な事にコントロールできる時がある。それが、他人の為に行動しているとき。自分の感情で動いているときは中々制御が効かない、という傾向がある。そのうちの例外が、トラウマをほじくり返された時だ。この時ばかりは最早感情すら抜け落ちて、恐らく思考が自責一色に塗りつぶされてしまう。これをどうにかしたい、と言うのが今回の計画。
「いくらザフト軍が居なかったとは言え、心にくるな。連合は何を考えていやがったんだ?」
「……分かりませんよ。戦争を始める奴らの事なんか。」
「あぁ、分からねぇな。分かっちまったら、奴らの仲間入りだ。」
どうやら慰霊碑に来る人物は多い様で、白菊が近くの花屋に多く並べられていた。戦争の引き金を引く力の一端を担った者として、少しだけでも多くの献花を捧げる。
「ヘキサ・ラプトリオと申します。シン・アスカ君は私が責任を持って、面倒を見させていただきます。どうか安らかに…」
そして、次に石に刻まれる名前を少しでも減らせるように。あわよくばこんな石を作らずにいられるよう。こう質問した。
「…しかし、どうも解せんな。」
「……何がです?」
「この国、どうしてとっとと降伏しなかったんかね?中立国なんだから攻められて自衛しきれないと判断したら、こういう国の長は直ぐに降伏するのが最善手だぜ?」
シンは目をぱちぱちとさせていた。こんな思考が出来ない状態にあるからこそ、こうして頭を使わせる。少しずつでいい、進歩出来れば。うーんと唸るシンを横目に、俺は背後からコツコツという足音を聞いていた。
「あなた程に戦況が見える人物が、こんな簡単な問題を解せない道理はないと思いますが?ヘキサ・ラプトリオ殿。」
「うん?アンタは……」
声掛けに反応して、俺とシンは慰霊碑から振り向いた。そこに立っていたのは同じく白菊の花束を持った、俺なんかよりも年上の、いかにもベテランであるという風貌の男だった。
「トダカさん……ですか?」
「シン君、久しぶりだ。」
「なるほど、シンから話は聞いてます。シンはこちらでも元気にやってますよ。」
「それは良かった。ですが……どうやらその様子であれば、ザフト軍に入隊したようですね?」
「はい……」
トダカ……一佐?は空を見上げてから息を吐くと、失礼と言いながら慰霊碑へと花束をささげた。どうやら目的は同じだったらしい。
「君が何故軍に入隊したかは、深いところまでは分からない。だが、君であれば正しい道を探し当てる事が出来るはずだ。願わくば、戦場で出会いたくないものだ。」
「そうは言っても、上から戦えと言われれば戦うしかないのが軍人の辛いところですな。」
「全くだ。それで……先ほどの質問の答えは分かったのかね?」
シンは少し余裕が生まれた様で、先ほどよりもしっかりと考え込んでいる様だ。
「ここでは少し相応しくない話題だ。場所を変えますか。」
「で、あれば食事でも如何ですかな?近くに良い店がありますよ。」
「それは良い提案だ。シン、大丈夫か?」
シンは直ぐに頷く。少しここでも流されてしまう癖があるか、と思うがこれを指摘するのは流石に鬼畜過ぎるか、とも思った。
そして個室に入り、適当に注文をした。少し話してみたがどうやらトダカ一佐もオーブの理念、というより首長に対してやや不信を抱いていたようだ。気も中々に合ったので勧誘してみるか……と思ったが、どうやら考えがまとまったシンが切り出した。
「……批判、になってしまうんですが、多分政治家は国の理念しか見えていなかった。国民に与える影響など、考えやしていなかった。国民の為に死んだんじゃなくて、国の為に死んだんだと……思います。けど…」
「まぁ半分正解、及第点には届かんが今はこんなものか。」
「あぁ、だが大筋は通っているし、どこか違和感を抱いてるようだ。及第点をあげてもいいと思うが。」
俺の方が厳しめではあるが、どうもトダカ一佐と同じ感覚を持っている様だ。
「恐らくだが、首長も中々に考えてはいたんだろう。ザフトに下ればナチュラルの命は保証されず、連合から総攻撃。連合に下ればコーディネーターの命は保証されず、今度はザフトから総攻撃。どうしようもなかった。その点で言えば、まぁ最善とは言えずとも好手は打ったと思う。」
「更に言えば、サハク家が色々とやりすぎたんだろ。連合にはGの建造、ザフトにはGの情報提供。守れなかった責任は確かにウズミにあるが、原因を作った責任はサハクにある。まぁ俺の知った事ではないがな。」
「初耳だぞ、そんな情報は。」
「FAITHにもなればこんな情報はいくらでも握れる。元々俺もウズミ首長が完全に悪いと思ってたさ。でも、情報握ってれば色々な面から物事が見えてくるさ。」
「えっと…つまり、どうしようもなかった状況……って事ですか?」
「まぁな。でも、一応連合は48時間待った。二日間ってのは意外と長い様で短い。元々戦争の足音は聞こえてたんだから、国民を避難させる準備くらいしといても良かった筈だ。だからこそ、最善ではなく好手と言った。だろう?」
「そういう事だ。」
トダカ一佐を勧誘したら心強そうだ。やはり誠実な存在というものは欲しい人材である。もし他方が道を踏み外したら引き戻す存在と言うものが欲しい。よって、俺は一佐とのサシの状況を作る為にシンにこう言った。
「シン、そういやお前荷物どこにやった?」
「え……あ!」
「おい!?盗まれたら一大事だぞ!?」
「はい!もし来たら先に食べててください!」
シンはバタバタとしながらも個室から出て、そのまま外へと飛び出していった。
「……で、この状況を作った理由は?」
「流石に芝居が露骨過ぎたか。まぁそうだな……コイツだ。」
胸から一枚の紙を出す。俺自ら手書きの、穴のない陰陽玉の様な模様と天使の羽が描かれたカード。その上にはACESと上書きした招待状だ。
「俺らは今、ザフト軍……いや、プラントの革命を考えている。コーディネーターの差別意識を撤廃する為……と言えば聞こえはいいが、まぁクーデターだ。」
「……質問は色々あるが、後にとっておこう。何がしたい?」
「さっき言った通り、コーディネーターとナチュラル双方においての差別意識の撤廃。そして地球連合軍……ブルーコスモスとの決戦。」
最後の目的を告げると、トダカ一佐はむ、と唸った。
「差別意識の撤廃は分かるが……何故ブルーコスモスと決戦をする必要がある?」
「コーディネーターの差別を促してるのが奴らだからだ。やはりな、人間はもう地球上で発展する事は非効率的。もう宇宙に出る必要がある。その上でコーディネーターの存在は必要不可欠。だが、俺もコーディネーターの出生にはかなり疑問がある。俺の居る孤児院はコーディネーターの出生の闇が詰め込まれた場所だからな。」
「……手段は?」
「まずコーディネーターの差別意識。これは手段はある……プラントにおいて、コーディネーターでもないのにトップエースになった奴が2人。」
「待て、ザフト軍にはナチュラルでも入れるのか?」
「純粋なナチュラルではないが、ほぼコーディネートされていない人物だからな。検査を通ってしまったんだよ。それが、ラウ・ル・クルーゼ。そして……」
「君、か。」
肩をすくめながら俺は次の句を続ける。俺も流石にFAITHになってトップエースを名乗らないわけにはいかない。
「まぁ分類上はコーディネーターにはなるが。だが、ほぼナチュラルと言っていい。完全に、とはいかないが少しはこちらの差別意識を廃することは出来るだろう。意外と、プラントに居る一般市民にゴリゴリに差別意識を持ってる奴らはそこまでいないからな。」
「……なるほど、カナーバ議長に戦後の条約締結を任せていただけある。」
「不満こそ出てるが、今のところテロまでは起きていない。ギリギリを攻めるのが上手かったんだ、あの議長は。」
「……革命後、彼女をまた議長に?」
そう考察される。しかし、俺の目論見は少々違う。
「アイツらが居るでしょう。戦場を荒すだけ荒して、何もしてない奴らが。」
「……アークエンジェルか。」
「はい。彼らの信念には共感出来ます。しかしね、思いがあって、力があってもダメ。言葉も発さないといけないんです。彼らは政治を動かすだけの力がある。しかし、その責任を負おうとしていない。」
「大いなる力には、大いなる責任が伴う……だったかな?」
「そういう事だ。彼らを一発ぶん殴って、政治の世界に引きずり出す。世捨て人だろうがなんだろうが知らない、万が一の時は逃げた責任を取って貰う。」
「……そうだな。」
机に置かれた招待状を引き寄せたトダカ一佐。それを見て、俺は右手を差し出す。
「私は何をすればいい?」
「あなたなら、艦長という役目が適任かと。一応、オーブにも協力はしてもらいたいですから。前大戦で連合から大きな被害を受けてたしね。」
「橋渡し……には向かんぞ?」
「なし崩しに革命に協力してもらうだけです。戦争が起こったらすぐに厳戒態勢を取って貰えれば。」
「……良いだろう。」
どうやら注文したものが来たらしい。ACESの招待状を懐に仕舞うと、扉を開けた。
「何だ、シンか。」
「すみません!財布ぶんどられました……」
「まさかビザもか?」
「……私から上層部に掛け合っておこう。だが滞在許可が恐らく下りない。プラントへの帰還のみだな。」
「しゃあない、帰国証明書降りたらすぐに帰るか。」
「ごめんなさい……」
「お前の弱いところだ。トラウマを掘り返されたら周りが見えなくなる。ま、少しずつ治していく事だな。」