C.E.に転生した男がとにかく生きようと奮闘する話 作:QAAM_M1911
レクイエムという、前大戦のジェネシスに劣らない大量破壊兵器を破壊し、ロゴスの頭領であるロード・ジブリールを討つことに成功したミネルバ。勿論、作戦の成功を祝うのだが……それでも、どこか艦の中は暗い。
いなくなってみるとやはり辛い。皆のいい兄貴分であったヘキサとハイネ。特に、ヘキサに鍛えられた新人は多く、未だ立ち直れていない者が多かった……のだが。
一人のパイロットは疑念を持っていた。そう、レイである。ルナマリアが戦ったというアークエンジェルの新型MS。相当な腕を持ち、戦略眼も持ち得ていて……何よりロゴスが上がったシャトルを我先にと撃ち落としに向かった。状況判断能力に秀でたパイロットだと感じた。結果的にルナマリアが邪魔立てして失敗することになったが……あの状況下で臨機応変に敵味方を一瞬で切り替えろ、なんてレイにも出来ない。タリアも小言を言うのみでほぼ咎めはしなかった。
が、あのパイロットはどうだ?一瞬で排除目標の優先順位を付け、未だ撃ってくるインパルスから背を向けて逃走すると同時にシャトルを追う。これだけ聞けば簡単だが、ルナマリアだって赤服だ。それをあしらえる人物がどれだけ居るのか……
「隊ちょ……ヘキサ・ラプトリオならやれる。俺は、あのモビルスーツのパイロットはそうではないかと思っている。」
「ヘキサが……生きてる?」
「議長が疑い始めた時期がいつかは分からないが、元々入念に準備をしていたに違いない。生きていてもおかしくはない。それに……未だにレジェンドの胴体ブロックが発見されていない。」
「てことは……メイリンも生きてる?」
「整備班長だったフリッツも一緒にだ。彼らが未だ発見されていないことからも十分推測は出来る。」
「何で……そんな。戦いを無くすために、ヘキサだって頑張っていただろ!何でまた戦わなくちゃいけない!?」
「俺に聞くな!」
レイが大声でシンの言葉を遮る……と共に、大きく咳き込む。その様子はあまりにも辛そうで、思わずシンが近付いた。それを躱すかのようにベッド脇にあるピルケースを取りだし、中身のカプセルを飲み込む。
「……気にするな。持病みたいなものだ。」
「気にしないって……出来るわけないだろ!もう失いたくないんだよ!!俺は!!」
「なら俺よりルナマリアやミネルバの皆を守れ。どの道俺に残された未来は長くない。」
「……なんだって?」
「テロメアが短いんだ。生まれつき……クローンだからな。」
「なっ……クローンって、禁止されてるだろ!?何だって、そんな……」
「前大戦で大立ち回りした……ラウ・ル・クルーゼは知っているな?」
「ヘキサの隊長だったっていう……」
「そうだ。あの人と……俺の大本はそれと同じ人間だ。どうやら、金で人生を買えると思った大バカ者だったらしい。その顛末は詳しく知らないが……それはどうでもいい。俺の人生は、ラウとギルが救ってくれた。」
思い出すかのように椅子に深く腰掛け、天井を見上げるレイ。その姿はどこか、末期患者を彷彿とさせるようだ。
「そして、ギルと出会いそこで育ち……前大戦中に、ヘキサと出会った。」
「前大戦中に?」
「ザフトのカリキュラムの中に、地域奉仕活動があっただろう。ラウの推薦で、あの孤児院に行った。丁度帰還命令が出ていたヘキサと、引き合わされた形になる。」
「あの孤児院は……眩しかった。これから生きるという希望に満ち溢れた子どもたちに……嫉妬さえ憶えるほどに。だが、同時にこうも思った。『この子どもたちの希望は誰が守るのだ?』」
「そりゃあ……俺たちザフト、というかプラントじゃないのか?」
「俺もそう思っていた……今までは。」
珍しく歯切れの悪いレイの言葉に、シンはその次の言葉を聞こうとしたその時。レイの操作していた端末に一件の通知が届いた。内容は……
「アルザッヘルが……壊滅!?」
「連合はやはり、まだ戦う気か。いや……それもそうだな。」
どこか納得したかのように、レイは独り言を放つ。また、それと同時にタリア艦長からの通達が届いた。シン、レイの両名はメサイアの防衛に向かえ……議長が最も信頼を置く一対の剣なのだ。当たり前と言えばそうだ。
「……レイ、さっきの話……」
「デスティニープランを公開し、世界は変わり目に移っている。自由だが血が多く流れる世界か。それとも不自由だが不幸にはならない世界か。長くない俺にはどちらも受け取れない。」
「……レイ。」
「だから、俺は俺が信じる人のために戦いたい。俺の持てない、明日へと歩みを進められる人のためにだ。それがデスティニープランを受け入れるか、反発するかはもう関係ない……だが、どうすればいいんだ?」
パイロットスーツに着替えながらレイはまだ独白する。その後ろ姿はいつもよりも小さい。
「ギル、俺はこのまま敵を撃ち続ければいいのか?ラウ、あなたは俺の憎しみを引き受けてくれて、成長の機会を与えてくれた。ヘキサ、あなたは俺に少なくても輝かしい未来を教えてくれた。一人の戦士として立派に育て上げてくれた……
……シン、教えてくれ。俺は誰のために戦えばいいんだ?俺はあまりにも多くの人に支えられて生きてきた。それが、敵と味方に分かれていて……どうすればいいんだ、俺は……?」
初めて見る、レイの弱弱しい姿にシンは驚きを隠せず……ただ沈黙するしかなかった。俺やミネルバの皆のために戦ってくれ、と言う言葉を出すことは出来なかった。シンもまた、レイと同じように苦悩していた。
昔から親しまれている幼児向けのアニメのテーマソングには、こんな歌詞がある。
なんのために生まれて なにをして生きるのか
こたえられないなんて そんなのはいやだ
なにがきみのしあわせ なにをしてよろこぶ
わからないままおわる そんなのはいやだ
幼児向けのアニメとしては、あまりにも重い歌詞である。こんな戦争の最中に苦悩する、二人の青年……いや、誰かの幸せのために苦しむ兵士たち全てを表すような歌詞だ。
自分自身のアイデンティティを見出せず、他人に見出そうとしてもその人を喜ばせる方法が何か分からない。かといって他人の行動を肯定できず、結局自分の思うように行動できず……負の連鎖だ。
何が為の人生か?少ない人生は何のために使うべきなのか?あのエクステンデッドの少女のように本当に自分は自分の意思を持っていないのか?最後の問いに対しては違う、とレイは答えられるはずだ。それを、ギルバートのマリオネットとして過ごしていていいのだろうか?
自分で自分が分からなくなる、そんな気分だ。ラウと自分は違う人間である、と彼とヘキサから教えられたが、ギルはラウの役割を果たしてほしいという。恩人たちの板挟みに遭いながら、数少ない寿命で自らの道を選択せねばならない……まだ、若いのに。
「……とりあえず、行こう。な?」
「……そうだな。」
自分の機体を見て、ヘキサとの交戦の記憶がフラッシュバックする。
『獣とは思考せぬ生物のことだ。人間とは思考する生物のことだ。』
(俺は人間……なのだろうか。ギルの言う通りに敵を討つのは……獣なのだろうか?)
そうではない。自身が考えた末にギルに従うのであれば、それは紛れもなく思考する“人間”である。ヘキサはそう言いたかった……のだろう。自分の戦いは、ギルの戦いでもあるはず。
その、“はず”という言葉がレイの胸中で引っかかって仕方がなかった。
“
この機体の名前が、呪いのように思えた。
『思慮のある人は考えてほしい
この数字は終末の獣の烙印であり、その獣を意味する数字である
その数字とは666である』
この機体を駆るのは……終末の獣だというのか。自分が、そうだと言うのか。
悩める青年は、頭を空にしようとしてもすぐに雑念が浮かび続けていた。
「……大丈夫かしらね、二人とも。」
「えっと……私は多分無理だと……」
「でしょうね……」
タリアは発進した二機を見届けながら、アーサーに愚痴る。アーサーは元から言葉をうっかり溢してしまうような人間だが、決して的を外しているようなことは言わない。彼も彼でミネルバの副艦長だ。
「特にマズいのが……レイだと思います。」
「そう?」
「シンも確かにメンタルケアがすぐ必要な状態だと思います。でも、それ以上にレイは……私にはよく分からないですけど、どこか今までと違って宙ぶらりんな状態というか……」
「……間違っている、とは思えないわね。」
「は……?」
「私は私で彼と個人的に親交がある。忘れたの?」
「そ、そうでした!」
レイの身の上は承知している。だからこそ、何がレイに迷いを与えているのか……タリアにはいまいち分からなかった。確かにデスティニープランを明かされた時には自分も驚いた。それによる弊害もちゃんと理解出来ているつもりではある。だが、それはレイにとっていい方向にも悪い方向にも恩恵を受けられないものだ。だから、議長のために戦う。
タリアはレイのことをそう思っていた。だが、実際は違った。ああまで迷いを見せているレイは初めてだ。時間がないことに焦っているのは確か……でも、それ以上のことは分からない。
所詮人は自分の知ることしか知らない。その中で、どう折り合いをつけ、話し合って。それが出来る人材が、今の艦にはアーサーしか居なかった。ヘキサやハイネが居てくれれば……と思わず浮かんだ考えに、頭を振って次の戦闘の準備を始めた。