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明日、成幸に告白する。
成幸とりずりんと文乃っちの受験結果発表前夜。改めてそう自分に言い聞かせると、心臓がドクドクと悲鳴を上げて、緊張で手の先が冷たくなってきた。深呼吸をして気持ちを落ち着ける。告白は明日だっていうのに、今からこんなに緊張していて大丈夫かと我ながら心配になる。自分の推薦結果が発表されたときよりももしかしたら緊張しているかもしれない。まあ、掛けてる時間がこっちは6年分で受験は1年分だから、それも当然かも知れないけれど。
これが告白できる最後のチャンスだ。もうごまかすとか後にするとかそういう選択肢は存在しない。それに、どちらにしろ返事を貰う気はないのだ。これから何年も離れ離れで恋人らしいことなんて何一つ出来ないのに、成幸を縛ってしまうわけにはいかない。これまで告白していなかったのに最後の最後で告白して、恋人になったからと何年も待たせるなんていうのはなんだか情けなくて嫌だった。成幸には勉強とかでダメなところは何度も見せたけど、そういうカッコ悪いところは見せたくなかった。せめて最後はカッコいいあたしの姿を成幸に残したいと思うくらいのプライドはあたしにもある。
……まあ、そもそも。返事を聞くかどうか以前に成幸がいい返事をしてくれるなんて保証はどこにもないのだけれど。
あたしは成幸にどれだけアピールできただろうか。思い返せばだいぶ空回っていたような気がする。イメチェンをしてみてもなかなか気づかれず、お弁当を作ってもなかなか渡せず。挙句の果てに成幸からせっかく自分のことが好きなのかと聞かれたのに違うと言ってしまう始末。我ながら失敗ばかりだったなとため息が漏れる。
まあ、他はともかくあたしの好きな人が成幸だと伝えられなかったのは仕方なかったと思っている。何度同じ選択を迫られても同じように答えると思う。成幸との関係が壊れてしまうのが怖かったのも本当だけど、成幸の邪魔になりたくないのも本当だ。あんな流れで告白をして成幸を悩ませてしまうわけにはいかない。もしも成幸と恋人になれたら全力で支えたけれど、もしもフラレてしまったら。あたしが気にしないようにしたとしても、きっと成幸のほうが気にして勉強に影響が出てしまっていたと思う。告白しなかったことに後悔が全くないといえば嘘になるけれど、それは成幸に無理をさせるほどの理由にはならない。
だから成幸に一番になるからずっと見ててねと宣言して。成幸に……キ、キスをして。それで自分なりの区切りはつけたつもりだ。
受験が終わるまで告白しないというのもこのときに決めた。何が一番成幸のためになるかということを考えて、成幸の迷惑にしかならない空回りで下手くそなアプローチはもうやめて、自分は自分にできる一番になることだけを目指そうと決意した。だから自分には上手くできない恋愛は、成幸の受験が終わって迷惑をかけなくなるその時まで封印することに決めた。
それからは成幸に好かれて恋人になれることを目指す行動は控えて。成幸の友人として、親友として接するように心がけていた。成幸が夢のことをちゃんと家族に話せるように発破をかけて、成幸がちゃんと家族と一緒に先生になりたいって夢を目指せるようになったことは本当に嬉しかった。センター試験の日に階段から落ちかけていた成幸を支えられたことは、あたしの人生の中でも一二を争う喜びだ。友人として少しは成幸の夢の手助けが出来たのかななんて、そのくらいは思ってもバチは当たらないんじゃないかと思う。
……この1年間にあった成幸とのことを思い返していると、やっぱり恋人になれるようにもっと頑張っていればよかったかななんて気持ちが湧いてきてしまう。せっかく文化祭のジンクスを成幸と結べたのにもったいなかったなと思う。ジンクスに貰った勇気をあたしは結局活かせなかった。中学校から6年間まともに勇気を出せなかったのだからある意味当然かも知れないけれど、我ながら筋金入りだ。
明日ちゃんと言えるかななんて今さら心配になって来たので、バレンタインのことを思い出して自分のことを勇気づける。5年間ちゃんと渡せなかったけど最後は渡せたのだ。勢い余って告白まがいのことをしてしまいそうになるくらい浮かれてしまったけれど確かに弱気に打ち勝てた。あのときのことを思い出して、あたしは出来ると小さく呟く。
それにあたしは成幸を卒業旅行に誘う役目をりずりんと文乃っちの2人から引き受けていた。2人には言っていないけど、告白だけして返事はいらないで終わってしまうとそのあとが気まずいというのもあって手を上げたのだ。2人には告白することを言っていないから逃げようと思えば逃げられるけど、ここで本当に卒業旅行にしか誘わないなんてヘタれるわけにはいかない。
「うん。大丈夫。勇気出せ!」
小さな声で、でもはっきりと自分自身に喝を入れる。何はともあれ明日は3人の合格発表の日だ。みんな受かってますようにと願いながら、寝不足にならないようにベッドに入った。
◆◆◆◆◆◆
校舎の外で成幸を待つ。冬の冷たい空気が思考をクリアにしてくれる。余計なことは何も考えずに成幸が来るのを待っていた。合格報告は3時から。あたしもその時間から待っていた。報告しただけじゃ終わらないのも時間がかかるのもわかっていたけど、それでも同じように待っていたかった。あたしだってあの3人と一緒に勉強してきたんだから。
日が陰り始めて来て、そろそろかななんて校舎の方に目を向けると、ちょうど正門から成幸が出てきた。6年間想い続けた、誰よりも大好きな人。学校で何か泣いてしまうことがあったみたい。目をうるませて、鼻をかんで。一歩一歩こっちへ向かってくる。
不思議と今は昨日のようには緊張していなかった。大会のスタート直前のような心地の良い緊張感。告白をすればそれで終わりなのだから、そういう意味では泳げば終わりの大会によく似ている。事前の準備が全てということも含めてそっくりだ。
成幸がこっちに気づいた。顔を上げて、立ち止まって。あたしのことを見つめている。
「おっす」
普通に言えた。大丈夫。いつもの声だ。普段どおりに返事をする成幸に安堵する。それから桐須先生に3人で合格を報告したときの様子を語る成幸の声に耳を傾けた。
目を赤くしながら友達が報われたことを自分のことのように喜ぶ彼の優しい顔を見つめる。やっぱりこの人を好きになって良かったと、胸を満たす温かさが教えてくれた。
一世一代の、けれど何も変わらない告白。気持ちを伝える単なる儀式。
どうかあたしの告白が、成幸にとっていい思い出になりますように。
そんなことを祈りながら、そっと成幸の前に出て。あたしはゆっくりと口を開いた。