たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!? 作:織葉 黎旺
「エアグルーヴ、ちょっといいか?」
「見ての通り今は忙しい、簡潔に頼むぞ」
四月一日、トレーナー室にて。
来る入学式に備え、生徒会関連の様々な書類を処理していたところ、トレーナーがエアグルーヴを手招いた。眉を顰めつつも近づいた彼女に、彼は告げた。
「俺たち、別れよう」
「────────は?」
認識が追いつかなかったのか、少し遅れてからエアグルーヴは反応した。
「あ、ごめん、語弊があった。別れようっていうのは恋人的な意味合いじゃなくて、トレーナーとその愛バとして、契約を解除して袂を分かとうってことな」
「そういう話をしているのではない!」
エアグルーヴの叱責が響く。
「貴様、本気で言っているのか……?」
「ああ。やっぱり、お前と俺は合わねえよ。三年以上共に過ごしてようやく気づいた。まあお互いそれなりに成長して結果も残せたし、よき思い出としてさ、別々の道を歩き出そうや」
「………………」
苦虫を噛み潰したような表情をして、エアグルーヴは静かに顔を伏せた。そろそろかな、とトレーナーがタイミングを見計らっていると、エアグルーヴはおもむろに起き上がって言った。
「覆す気はないか?」
「ないな、残念ながら」
「そうか…………」
嘆息した女帝を見て、杖は今だと叫ぶ。
「じゃんじゃじゃーん、ドッキリ大せ」
「そうだな……貴様の言う通りだ」
小さく頷いて、エアグルーヴは踵を返した。
「今まで無理をさせたな。……世話になった」
「え、や、ごめん、マジなやつじゃなくて冗談なんだけど」
「冗談でもそんなことを言う時点で、貴様と私が合わないことは決定的だろう」
それは間違いなくそうだった。
「いや違うんです、たまにはこういうのもちょっと面白いかなーと思って──」
「何が面白いんだ?」
「えっ」
「その冗談の何が面白いんだ、と聞いている」
「あの……緊張感? というか? 激しい動揺を見せた後に、嘘だったと明かされた時の安心感? みたいな? なんだそれは、たわけ〜みたいな??」
「なんだそれは、たわけ」
北極よりも冷えきった声音で、女帝は言った。
「話にならん。貴様のような浅慮で短絡的な男に信を置いていたとは、今までの私を強く恥じる」
エアグルーヴが遠くなっていく。既に手を伸ばしても届かない距離にいる。取り返しのつかないことをしてしまった、と気づいた時には、扉は音を立てて閉まりかけていた。
「エアグルーヴ……ッ!」
駆け出した。間に合え、と扉を開け放ち、廊下を睨む。既にエアグルーヴの姿は影も形もない。追いかけようとしたところで、背後の気配に気づく。
「少しは反省したか、たわけ」
頬を少しだけ膨らませ、彼女はそこにいた。アイシャドウは普段よりも淡く煌めき、不機嫌を示すように右足が地面を掻いている。
「ああ──よかった」安心したようにトレーナーは微笑む。
「でもお前も趣味が悪ぃぜ、途中から全部分かっててやっただろ?」
「再三問うたのに嘘を貫くからだ、たわけ。いい灸になっただろう?」
「へいへい、死ぬほど身に染みましたよ」
ほっと胸を撫で下ろして、トレーナーは深く息を吐いた。
「──ついでに聞きたいんだけどさ、どこからどこまでが嘘だったの? 態度は勿論だろうけど、セリフも全部?」
「いや、嘘を吐いたつもりはないぞ。ほとんど偽りのない本心だ」
「……浅慮で短絡的な男、ってところも?」
「それはどう考えても真実だろう」
冗談でも契約解除をもちかけてくる時点で、それ以外の何物でもない。心底呆れたように、エアグルーヴは肩を竦めた。