たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!?   作:織葉 黎旺

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連休「出かけさせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五月。大型連休。天気は快晴、絶好の行楽日和。

 

『よし、山行くぞ』

 

『急に何だ』

 

 スマホの振動で目覚めれば、そこにはトレーナーからの端的なメッセージが入っていた。

 時刻は朝五時。どこぞのゴールドシップを彷彿とする脈絡のなさだった。

 

『いいじゃん、減るもんじゃないし』

 

『体力は減るだろうが』

『たわけ』

 

『今日ヒマなんだろ? せっかくのゴールデンウィークだってのに、「女帝」が自堕落な生活していいのか?』

 

 小馬鹿にするような笑みが、目に浮かんでくる文面だった。エアグルーヴもようやく気づき始めたが、奴は自分の思い通りにことを運ぼうとする際に、とりあえず『女帝』の肩書きを持ち出してくる癖がある。その手には乗らんと文字を打つ。

 

 

『動き回るだけが休日ではないだろう。身体を休めつつ、見識を広めることも強者の義務だ』

 

『(´・ω・`)』

 

 悲しげな顔文字。本人とは似ても似つかぬかわいらしさを放っている。そんな顔をしても知らんぞ、とスマホを置いて目を瞑る。

 

 

「………………」

 

 駄目だ、奴のせいで完全に目が覚めてしまっている。ひとまず起き上がって、エアグルーヴは身支度を始めた。同室のファインモーションは公務で寮を出ているので、息を潜めて動く必要がないのはありがたかった。(少しの物音でも、敏感な子は目を覚ますので。それこそ携帯のバイブレーションとか)。

 

 

 大型連休で帰省する子も多いため、この時期のご飯はセルフサービスだ。切り置きしていた野菜と肉を炒め、備え付けの大きな炊飯器から白米をよそって食べる。食事を済ませてしまえばもう朝のタスクは完全に終わりで、ここからは自由時間であり、逆に言えば手持ち無沙汰であった。

 

 

 

「……出かけるか」

 

 先程のトレーナーの言葉が頭を過ぎらなかったといえば嘘になる。読みかけの本もなければやり残した課題もないので、何となく街に繰り出す。ゴールデンウィークだけあって、朝の街はいつもより静かだった。並木道を抜け開店の準備をするパン屋の脇を越えて、ようやく、出かけるにしても早かったことに気づく。

 

「…………」

 

 多少、遠出するか。街を出て、郊外に向かって歩き、そのうち朝の冷たい空気に当てられて、ゆっくりと駆け始めた。運動用の格好ではないので、軽いジョグ程度のペースで。

 

 

 オフの日まで走るとは、これではスズカのことも言えんな。苦笑しつつ、軽やかに坂道を上がっていく。坂の中腹、左側に現れた広場に入り、ふう、と肩を落とした。顔にかかった前髪を軽くかきあげて、芝生を見る。ブランコやすべり台などの遊具が立ち並ぶ中、広々とした草原の中央に、一個のテントが鎮座していた。

 

 

「む」

 

 もしかしなくても、この広場は宿泊禁止だろう。よく見ればアウトドア用のテーブルや椅子、調理器具なども置かれており、明らかにキャンプの様相だった。マナーの悪い人間もいるものだ──と眉を顰めた時、テントの主が顔を出した。

 

 

「ふわ~~~ぁ、ん?」

 

 大きく伸びをした猫背の男は、視線に気づいてこちらを向いた。寝癖の目立つ冴えない顔立ちは、紛うことなきトレーナーだった。

 

「は!?」

 

「貴様、何をしているんだ……?」

 

「いやいやそれはこっちの台詞だが!?」

 

 睨み合う二人。先に動いたのはエアグルーヴだった。

 

「キャンプ場でもなんでもない普通の公園だろう、ここは」

 

「朝早くだし一瞬ならいいかなって」

 

「何もよくないだろう」

 

「っていうかお前こそ何やってんだよ。身体を休めつつ見識を広めるんじゃなかったのか?」

 

「誰かのせいで早起きしてしまったからな、散歩して思慮に耽っていたのだ」

 

「あー?」

 

 そっと距離を詰めたトレーナーが、エアグルーヴの頬に触れる。彼女は慌ててその手を払う。

 

「何をする!」

 

「お前な、俺を誰だと思ってんだ? ジョギングしてたのなんて見え見えなんだよばーか」

 

 仮にも数年連れ添った相棒である。いくら軽いものであれど、上記した頬、微かな発汗、などなどの情報から、エアグルーヴが走っていたことなど筒抜けだった。

 

 

「いや別にいいんだよ? 別にジョギングしてようが本読んでようが寝てようが。会わない以上は? 何やってても同じだし? でもほら、嘘とか吐かれるとさ? 流石に傷つくというかね……? いやあ別に俺の誘いを断ったことを気にしてるわけじゃないんだけどね……?」

 

 どんよりしたオーラ、仄暗い瞳でトレーナーは言った。

 

 

 

「……たしかに、いまの嘘や、用事がないのに誘いを断ったことは悪かったと思っている」

 

「それな」

 

「だが早朝五時に誘いをかけてくるのはどうなんだ?」

 

「いや、だって死ぬほど天気良かったし」

 

 女帝の睨みもどこ吹く風で、トレーナーは空を見上げる。雲ひとつない澄んだ青空を、鳥の群れが横切っていった。

 

「誘うなら予め誘っておけと、以前も言っただろう。学ばない奴め」

 

「賢者は歴史に学び、愚者は経験で学ぶからな」

 

 何も学べてない。愚者にすらなれなかった男がそこにいた。

 

 

「……いい天気だな」

 

 つられて空を見上げたエアグルーヴが呟く。同時に、小さく嘆息した。

 

「ここまで何で来た?」

 

「普通に車だけど」

 

「そうか」

 

 涼し気な瞳がトレーナーに向く。あー、と目を泳がせたトレーナーが言う。

 

 

「エアグルーヴさ。もし暇ならアレだ、天気もいいしドライブでも行くか?」

 

「──フッ、いいだろう」

 

 

 安全運転で頼むぞ、と女帝が微笑む。青空の下、赤いアイシャドウが精彩を放っていた。

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