たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!?   作:織葉 黎旺

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四月後半『わーってるよ』

 

「さて、それでは次のレースに向けてのミーティングを始める」

 

「……………………」

 

「貴様、聞いているのか?」

 

「き、聞いてるから……ちょっとまって、まだ呼吸整わなくてしんどいところだから……」

 

 真っ赤な顔のトレーナーが、()()()()のポーズでソファにもたれかかりながら言った。

 

「もうダウンを終えてから二十分は経っているぞ。いくらなんでも甘えすぎだ」

 

「お前が鬼みたいなメニュー出してるのが悪いんだろ……」

 

「成人男性の一般平均タイムから三割ほど遅くしたペースジョグの、どこが鬼だと言うんだ」

 

 桜花賞から数日。件の戒めによるトレーナートレーニングは未だ続いていた。毎日手探りでメニューを考えてエアグルーヴが学んだのは、トレーナー業の難しさと、そして彼女のトレーナーの体力のなさだった。

 

「短距離のタイムや身体能力自体は低くないのだから、本来ならそこまでバテるはずがない。やはり長年の喫煙による体力低下だな、大人しく禁煙しろ」

 

「げ、減煙なら……最近ようやく、運動後の一服の美味さを学んだとこなんだよ」

 

「たわけ、それでは本末転倒だろうが!」

 

 エアグルーヴの叱責に「退勤後のビールが上手いのと同じ理屈で楽しんでたんだけど駄目なのか……」としょんぼりした。当然である。

 

「はあ……では今度こそ、ミーティングを始める」

 

「ふん、まあいいだろう」

 

 何故か偉そうに頷いたトレーナーが、部屋の端にあった寝ていたホワイトボードを動かした。

 

「──次の目標レースは、もちろん『オークス』だ」

 

 ティアラ路線の二冠目。そして、エアグルーヴにとっては悲願のタイトル。

 

「何が何でも取るぞ、『女帝』の名に懸けて」

 

「取れるだろ、たぶん」

 

「舐めたことを抜かすな!」

 

「いでっ」

 

 エアグルーヴの拳骨がトレーナーの頭上に降った。涙目の彼は「暴力反対! トレーナー虐待!」と訴えた。

 

「心から信頼しているが故の言葉だぜ?」

 

「嘘をつけ。面倒だから適当に流しているだけだろう」

 

「何でバレたんだよ」

 

「貴様がわかりやすすぎるんだ、一年も付き合えば行動の大半は読める」

 

「だる~~~」

 

「こちらの台詞だ」

 

 エアグルーヴは深く嘆息する。我ながらよく一年付き合ってこれたな、と彼女は思ったが、実際何度も契約解消の危機に陥っているので、これから先も平穏無事である保証はまったくないのだった。

 

「んじゃ出走バの確認と各陣営の戦略・戦法の確認から──といきたいところだが、今日は何も調べてきてないから解散でいいか?」

 

「……明日までに必ず調べてくるんだぞ」

 

「うん、わかった」

 

 すっかり冷えきった紅茶を飲んで、エアグルーヴは何も考えていなさそうなトレーナーを見つめた。

 

「──貴様の能力自体は認めている」

 

「ああ」

 

「だからこそ、今回は全力を尽くしてほしい。オークスまでもう余裕はない。三冠を狙う以上一つも取り零せないとはいえ、このレースだけは負けられないのだ」

 

「──わかってる。お前は、絶対俺が勝たせてやる」

 

「口だけではなく、行動で示せ」

 

 これまでもそうしてきたように。そう言って、エアグルーヴは教科書を取り出した。文武両道を旨とする彼女は、ここで勉強していく腹積もりらしい。

 

「わーってるよ」

 

 手入れのなされていないボサボサの頭を掻いて、トレーナーはパソコンを起動した。ゆったりと、しかし確実に時間は、『オークス』に向かっていく。

 

 

 

 

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